(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る缶胴用アルミニウム合金板について説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具現化するための一例を例示するものであって、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係などは、説明を明確にするために誇張していることがある。また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本発明の一実施形態に係る缶胴用アルミニウム合金板は、例えば、Al−Mn−Mg系合金からなる。Al−Mn−Mg系合金としては、例えば、一般的なJIS合金、例えば3004、3104等が挙げられる。
【0013】
具体的には、缶胴用アルミニウム合金板は、Si:0.10質量%以上0.60質量%以下、Fe:0.30質量%以上0.80質量%以下、Cu:0.10質量%以上0.30質量%以下、Mn:0.80質量%以上1.40質量%以下、Mg:0.80質量%以上2.00質量%以下、Zn:0.25質量%以下、Ti:0.10質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる。缶胴用アルミニウム合金板は、DI成形後の缶胴の最薄肉部の缶壁内面側の板表面から缶壁厚の25%までの範囲の表層部において走査型電子顕微鏡によって得られる電子チャネリングコントラスト像の缶壁厚方向におけるコントラストが変化する平均間隔の、缶壁厚の中心から缶壁厚方向に缶壁厚の±12.5%の範囲の中央部において走査型電子顕微鏡によって得られる電子チャネリングコントラスト像の板厚方向におけるコントラストが変化する平均間隔に対する比(表層部/中央部)が1.10以下である。
【0014】
缶銅用アルミニウム合金板は、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Zn及びTiを所定範囲で含有しており、また、缶内面側の表層部と缶壁厚の中央部で電子チャネリングコントラスト像において缶壁厚方向にコントラストが変化する間隔の比が所定範囲に限定された変形組織とされることにより、缶に必要な耐圧強度を得られる適度な強度と、高い耐突刺し性及び缶壁二次加工性が両立するものとなる。
【0015】
缶胴部における突き刺し又は張出し変形等の缶壁二次加工によって生じる割れは、変形組織を適切に制御し、アルミニウム合金板の割れ抵抗を高めることによって低減することが可能である。本発明において割れ耐性の向上をもたらす変形組織は、熱間圧延後の冷間圧延において形成され、塗装を施すときの焼付け処理において或る程度の焼鈍を受けた後にも残留する組織である。耐突刺し性及び缶壁二次加工性の向上をもたらす変形組織は、冷間圧延を適正な条件で行うことで適切に形成することが可能である。ここで、変形組織は、走査型電子顕微鏡によって得られる電子チャネリングコントラスト像の缶壁厚方向においてコントラストが変化する間隔で規定される。コントラストが変化する間隔は、結晶方位が変化する境界同士の缶壁厚方向における間隔(以下、「方位変化間隔」ということがある)に対応する。
【0016】
以下、缶胴用アルミニウム合金板に含まれる各成分の含有量と、含有量の限定の理由について説明する。
【0017】
(Si:0.10質量%以上0.60質量%以下)
一般的に知られているように、Si含有量が0.10質量%未満では、DI成形時において0−180°耳が高くなり、しごき加工時に耳切れ及びこれに起因するティアオフが生じやすい。一方、Si含有量が0.60質量%を超えると、ホットコイルに未再結晶粒が残存するため、DI成形時において45°耳が高くなり、しごき加工時に耳切れ及びこれに起因するティアオフが生じやすい。Si含有量は、好ましくは0.20質量%以上であり、より好ましくは0.25質量%以上である。また、Si含有量は、好ましくは0.50質量%以下であり、より好ましくは0.40質量%以下である。
【0018】
(Fe:0.30質量%以上0.80質量%以下)
一般的に知られているように、Fe含有量が0.30質量%未満では、ホットコイルに未再結晶が残存するため、DI成形時において45°耳が高くなり、しごき加工時に耳切れ及びこれに起因するティアオフが生じやすい。一方、Fe含有量が0.80質量%を超えると、Al−Fe−Mn系金属間化合物が多くなり、しごき加工時にティアオフが生じやすい。また、缶壁の二次加工時に前記金属間化合物を起点とした割れが発生しやすくなる。Fe含有量は、好ましくは0.35質量%以上であり、より好ましくは0.40質量%以上である。また、Fe含有量は、好ましくは0.60質量%以下であり、より好ましくは0.50質量%以下である。
【0019】
(Cu:0.10質量%以上0.30質量%以下)
一般的に知られているように、Cu含有量が0.10質量%未満では強度が不足し、缶の耐圧強度が不足する。一方、Cu含有量が0.30質量%を超えると強度が過大となり、しごき加工時にティアオフが生じやすい。Cu含有量は、好ましくは0.15質量%以上であり、より好ましくは0.18質量%以上である。また、Cu含有量は、好ましくは0.28質量%以下であり、より好ましくは0.25質量%以下である。
【0020】
(Mn:0.80質量%以上1.40質量%以下)
一般的に知られているように、Mn含有量が0.80質量%未満では強度が不足し、缶の耐圧強度が不足する。一方、Mn含有量が1.40質量%を超えると、Al−Fe−Mn系金属間化合物が多くなり、しごき加工時にティアオフが生じやすい。また、缶壁の二次加工時に前記金属間化合物を起点とした割れが発生しやすくなる。Mn含有量は、好ましくは0.82質量%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは1.20質量%以下であり、より好ましくは1.00質量%以下である。
【0021】
(Mg:0.80質量%以上2.00質量%以下)
一般的に知られているように、Mg含有量が0.80質量%未満では強度が不足し、缶の耐圧強度が不足する。また、アルミニウム合金板の加工硬化能が不足し、缶壁二次加工時にくびれが生じやすい。一方、Mg含有量が2.00質量%を超えると強度が過大となり、しごき加工時にティアオフが生じやすい。Mg含有量は、好ましくは0.90質量%以上であり、より好ましくは1.10質量%以上である。また、Mg含有量は、好ましくは1.60質量%以下であり、より好ましくは1.20質量%以下である。
【0022】
(Zn:0.25質量%以下)
一般的に知られているように、Znは0.25質量%以下の含有量であれば、アルミニウム合金板の材料特性、DI成形後の缶特性に影響を及ぼさない。Znは不可避不純物であるが、コストダウンを図るため、例えば原料中へのスクラップ(熱交換器用クラッド材のスクラップ等)配合率を高くするなど、上記範囲内でZnを積極添加することもできる。Zn含有量は、好ましくは0.22質量%以下であり、より好ましくは0.20質量%以下である。また、Zn含有量の下限は、例えば、0.10質量%以上である。
【0023】
(Ti:0.10質量%以下)
一般的に知られているように、Tiは鋳塊結晶粒の微細化を目的に、必要に応じて添加される。鋳造時に鋳塊組織を微細化すると、鋳造性が向上して高速鋳造が可能となる。その効果は0.01質量%以上の添加により得られる。一方、Ti含有量が0.10質量%を超えると、フィルターの目詰まりが早く、鋳造中に次第に溶湯がフィルターを通過しにくくなり、ついには鋳造を中止せざるを得なくなる。従って、アルミニウム合金中のTi含有量は上記範囲内に制限される。なお、Tiを添加する場合には、TiとBの質量比を5:1とした鋳塊微細化剤(Al−Ti−B)を、ワッフルあるいはロッドの形態で鋳造前の溶湯に添加するため、含有割合に応じたBも必然的に添加される。Ti含有量は、好ましくは0.08質量%以下であり、より好ましくは0.06質量%以下である。
【0024】
前記したZn及びTiは、前記した上限値を超えなければ、アルミニウム合金に1種以上、つまり1種のみが含まれる場合だけでなく、2種が含まれていても、当然に本発明の効果を妨げない。
【0025】
(残部:Alおよび不可避不純物)
一般的に知られているように、缶胴用アルミニウム合金板は、Al及び上記合金成分の他に、不可避不純物を含有していてよい。不可避不純物としては、例えば、Cr、Zr、B、V、Na、Ca、Ni、In、Sn、Gaなどが挙げられる。不可避不純物について許容される含有量は、Cr、Zrのそれぞれについては、例えば、0.30質量%以下、好ましくは0.50質量%以下である。その他の元素については、例えば、0.05質量%以下である。前記範囲内であれば、本発明の効果を妨げない。
【0026】
(変形組織)
缶胴用アルミニウム合金板は、DI成形した後、缶胴薄肉部の缶軸方向と缶壁厚方向を含む断面において、走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られる電子チャネリングコントラスト像において缶壁厚方向にコントラストが変化する間隔が所定の範囲とされる。電子チャネリングコントラスト像は、セル壁などの高密度転位壁を境界とした比較的小さな結晶方位の変化をグレイスケールの画素値の変化(灰色の濃淡)によって可視化したものである。よって、DI成形を実施した缶胴用アルミニウム合金板の変形組織をSEMによって観察して電子チャネリングコントラスト像を取得し、結晶方位に依存したコントラストを生じている各画素の画素値を計数し、隣接する画素に対して画素値が有意な差異を持つ画素について画素間の距離(間隔)を測定することにより、高密度転位壁の分布密度、すなわち変形組織の発達の程度を把握することができる。
【0027】
缶胴用アルミニウム合金板の方位変化間隔の比は、缶壁厚方向の中央に位置し、缶壁厚の25%の厚みを有する中央部において観察される間隔と、缶内面側の板表面から缶壁厚の25%までの範囲である表層部において観察される間隔とを用いて、表層部の方位変化間隔を中央部の方位変化間隔で除したものとする。
【0028】
電子チャネリングコントラスト像は、SEMを用いることによって、缶壁厚方向の中央部及び缶内面側の表層部に位置し、缶軸方向と缶壁厚方向とを含む断面について撮像される。断面試料は、クロスセクション・ポリッシャーを使用したイオンビームによる加工によって予め平滑化する。クロスセクション・ポリッシャーとしては、例えば、JEOL製IB−09010CPを用いることができる。例えば、加速電圧を6.0kV、照射時間を4時間として加工を施し、缶軸方向と缶壁厚方向を含む断面が観察出来るように断面試料を作製する。
【0029】
電子チャネリングコントラスト像は、平滑化された断面試料に対して電子線を入射させて後方散乱による反射電子を検出し、グレイスケールのSEM写真として画像化する。なお、缶胴用アルミニウム合金板の方位変化間隔の平均値は、SEMの加速電圧が5kVである場合の測定結果に基づく値とする。SEMとしては、FE−SEM、例えば、JEOL製JSM−7000F型走査型電子顕微鏡を用いることが可能である。
【0030】
方位変化間隔の平均値は、缶軸方向と缶壁厚方向とに平行な任意断面の測定結果に基づいて求めることができる。任意断面について撮像した個々の電子チャネリングコントラスト像あたりでは、缶壁厚方向に平行な任意の試験線に沿ってグレイスケールの各画素の画素値を、例えば48nm間隔で取得する。そして、試験線上において、隣接する画素に対し、結晶方位差に相当する有意な画素値差を持つ画素について、画素同士の間の最小距離を測定し、これら複数の任意断面および複数の任意の試験線による測定結果を算術平均して求めることができる。
【0031】
方位変化間隔の比が1.10を超える場合、缶内面側の表層部における変形組織が大きく、缶外面側からの突き刺し変形及び張出変形等の缶壁二次加工時に剪断帯が発生し易くなり、割れ耐性が低下する。一方、方位変化間隔の比が1.10以下の場合、缶内面側の表層部における変形組織が細かくなるため、突き刺し及び缶壁二次加工時に剪断帯が発生し難くなり、割れ耐性が向上する。したがって、方位変化間隔の比は、1.10以下とする。方位変化間隔の比は、好ましくは1.08以下、より好ましくは1.05以下、更に好ましくは1.02以下である。また、方位変化間隔の比の下限値は、例えば0.90以上、好ましくは0.92以上である。
【0032】
方位変化間隔の比は、例えば、缶胴用アルミニウム合金板の製造過程における冷間圧延の最終圧延パスとその直前のパスの圧延率を調節することによって制御することが可能である。なお、当初板厚と加工後の缶壁厚から算出される缶胴加工率により変形組織のサイズは変化しうるが、方位変化間隔の比はある程度維持される。
【0033】
(製造方法)
缶胴用アルミニウム合金板の製造方法の一例について説明する。缶胴用アルミニウム合金板の製造方法は、第1工程である鋳造工程と、第2工程である均質化熱処理工程と、第3工程である熱間圧延工程と、第4工程である冷間圧延工程と、を含み、これらの工程をこの順に行うものである。
【0034】
(第1工程から第3工程:鋳造工程、均質化熱処理工程、熱間圧延工程)
第1工程は、目的の組成を有する鋳塊を半連続鋳造法にて作製する工程である。第2工程は、第1工程で作製されたアルミニウム合金の鋳塊に均質化熱処理を施す工程である。
【0035】
第1工程では、半連続鋳造法(DC(direct chill)鋳造)によりアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を得る。次に、鋳塊表層の不均一な組織となる領域を面削にて除去する工程と均質化熱処理を施す第2工程を行う。第2工程では2段均質化熱処理又は2回均質化熱処理を採用してもよい。ここでいう2段均質化熱処理とは、鋳塊を所定の均質化処理温度に所定時間保持して1段目の均質化熱処理を実施した後、室温まで冷却せず、200℃を超える温度までで冷却を止め、その温度に所定時間保持して2段目の均質化熱処理を実施することを意味する。また、2回均質化熱処理とは、鋳塊を所定の均質化処理温度に所定時間保持して1回目の均質化熱処理を実施した後、室温を含む200℃以下の温度までいったん冷却した後、再加熱して所定の均質化処理温度に所定時間保持して2回目の均質化熱処理を実施することを意味する。また、2回均質化熱処理の場合、面削工程は1回目の均質化熱処理の前、もしくは1回目と2回目の均質化熱処理の間で実施することが出来る。2段均質化熱処理の場合は、均質化熱処理実施前に面削を実施する。
【0036】
第3工程は、第2工程で均質化熱処理を施されたアルミニウム合金の鋳塊を熱間圧延する工程である。熱間圧延により得る熱間圧延板の板厚は、通常、冷間圧延して得られる製品板の板厚から冷間圧延による総圧延率を逆算して設定する。
【0037】
熱間圧延の終了温度である巻き取り温度は、300℃以上370℃以下とすることが好ましい。巻き取り温度が300℃以上であると、加工組織の残留が抑制され、冷間圧延後のアルミニウム合金板の45°耳が低くなりティアオフ又は耳切れの発生が抑制される。一方、巻き取り温度が370℃以下であると、熱間圧延板の表面において焼付きと呼ばれる表面欠陥が発生することが抑制され、板表面の性状が良化する。
【0038】
第4工程は、第3工程で熱間圧延された熱間圧延板を冷間圧延する工程である。第4工程では、熱間圧延板を、焼鈍することなく冷間圧延して、所定の板厚のアルミニウム合金板に仕上げる。冷間圧延は、熱間圧延板が適切な荷重の範囲で製品板の板厚まで圧延されるように、所定の総圧延率となる複数回のパスを設定して行う。なお、パスとは、一対のワークロール間を板が1回通板して圧延されることをいう。
【0039】
冷間圧延の総圧延率は、82.0%以上とする。冷間圧延の総圧延率が82.0%以上であると、缶胴用アルミニウム合金板の強度が充分に得られ、缶胴の耐圧強度が充分に得られる。冷間圧延の総圧延率は、好ましくは83.0%以上である。また、冷間圧延の総圧延率が82.0%未満であると、変形組織の発達が不十分となり、張出変形等でより破断しやすくなり、缶壁二次加工性が不十分となる。
【0040】
冷間圧延の最終圧延パスとその直前の圧延パスの圧下配分比は、1.02以上とする。なお、ここでいう圧下配分比は最終圧延パスの圧延率を最終圧延パスの直前のパスの圧延率で除したものである。上記圧下配分比が1.02以上であると、方位変化間隔の比が低下し、耐突き刺し性及び缶壁二次加工性が向上する。上記圧下配分比は、好ましくは1.04以上であり、より好ましくは1.08以上であり、また、例えば、1.20以下である。
【0041】
冷間圧延の最終圧延パスとその直前の圧延パスは、圧下配分比が所定値になるように行えばよく、逐次で圧延しても、連続して圧延してもよい。例えば、タンデムミルを用いて連続して圧延することが好ましい。なお、冷間圧延における総圧延率と、最終圧延パスとその直前の圧延パスの圧延率の比とが、それぞれ所定値であることで、方位変化間隔の比を所定値にすることができる。
【0042】
なお、以上の缶胴用アルミニウム合金板の製造方法においては、第3工程より後、かつ、第4工程が終了するより前には、DI缶の塗装焼付け処理の到達温度を超える中間焼鈍を行わないものとする。
【実施例】
【0043】
以上、本発明の実施形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(供試材の作製)
表1に示す組成からなるアルミニウム合金(No.1及び2)を半連続鋳造法にて鋳造し、第1工程および第2工程として示した方法で面削、均質化熱処理を行い、冷却すること無く、熱間圧延した。熱間圧延の終了温度を巻取り温度として300℃以上370℃以下とした。そして、得られた熱間圧延板を、中間焼鈍を施すこと無く、表1に示す条件で冷間圧延して板厚0.30mmの冷間圧延板を得た。なお、表1に示す組成の残部はAlと不可避不純物である。また、冷延率は、冷間圧延における総圧延率であり、圧下配分比は、冷間圧延における最終圧延パスの圧延率のその直前の圧延パスの圧延率に対する比である。
【0045】
この冷間圧延板を用いて、DI缶を作製した。作製方法として、まずアルミニウム合金板から直径140mmのブランクを打ち抜き、このブランクを絞り成形して、直径90mmのカップを作製した。得られたカップに対し、汎用のアルミ缶胴成形機にてDI成形を施し、DI缶を作製した。
【0046】
開口部をトリミング後の作製したDI缶の外径は66.3mm、高さが124mm、缶壁の最薄肉部は缶底から60mmの高さであり、その肉厚は95μm、同部の加工率は、当初板厚が0.3mmであったから68.3%であった。このDI缶の缶底から60mm位置(
図5参照)にある缶胴最薄肉部を供試材とした。なお、表1において、No.1は実施例に該当し、No.2は比較例に該当する。
【0047】
<方位変化間隔>
作製したDI缶のアルミニウム合金板の圧延方向と缶軸方向が一致しかつ缶底からの高さが60mmの部位の供試材を、クロスセクション・ポリッシャー(JEOL製IB−09010CP)を用いて加速電圧6.0kVで4時間加工し、缶軸方向と缶壁厚方向を含む断面試料を作製した。この断面試料の缶壁厚方向の中央部と缶内面側の表層部について、FE−SEM(JEOL製JSM−7000F型走査型電子顕微鏡)を用いて、COMPOモードにて加速電圧5kVで各4視野撮影し、電子チャネリングコントラスト像を倍率3000倍、8bitのグレイスケール画像として得た。なお、各視野の面積は約1280μm
2であった。このグレイスケール画像を、写真編集ソフトウェア(Adobe Photoshopバージョン:13.0.1)を用いて画像処理した。まず、缶胴用アルミニウム合金板以外の背景部分がある場合は、これを削除した。その後、「色域指定」を使用し、金属間化合物に相当する領域を選択し、これを消去した。次に、「カラーの適用」を使用し、「輝度」チャンネルにおける平均値128で標準偏差が55.09の正規分布となるように画像処理を行った。但し、この平均値および標準偏差は、「ヒストグラム」のキャッシュレベル1における数値である。そして、「ノイズの軽減」を使用し、「強さ」を10、「ディテールを保持」を0%、「カラーノイズを軽減」を100%、「ディテールをシャープに」を0%とし、画像をpng形式で保存した。実施例であるNo.1の缶内面側の表層部の画像を
図1に、比較例であるNo.2の缶内面側の表層部の画像を
図2に示す。
図1及び
図2において、白色部分は画像から削除された金属間化合物に相当する領域であり、方位変化間隔の測定時にはその画素値を無視した。なお、中央部についてはNo.1及び2のいずれもが、No.1の表層部と同様の画像であった。
【0048】
方位変化間隔は、画像解析ソフト(Image J ver.1.49)を用いて、画像処理したグレイスケール画像から求めた。具体的には、png形式で保存した画像上で、缶壁厚方向の中央に位置し、缶壁厚の25%の厚みを有する中央部、及び缶内面側表層に位置し、表面から缶壁厚の25%の厚みを有する缶内面側表層部について、各部位の画素値を、缶壁厚方向について48nm毎に算出し、隣接する二つの測定点の画素値の差が15を超える画素数を計数し、測定領域の長さ(缶壁厚の25%)で除した値を1測定箇所における方位変化間隔の測定値とした。測定値を1視野当たり10ヶ所で取得して算術平均値を算出し、その算術平均値を更に4視野について算術平均して、各部位における方位変化間隔とした。但し、測定結果によっては、計算上、数値が出ない場合や、画像の目視観察による組織サイズと極端にかけ離れた数値が出る場合があり、これら場合については算術平均の算出から除外した。中央部及び表層部における方位変化間隔から方位変化間隔の比を算出した。なお、当初板厚と加工後の缶壁厚から算出される缶胴加工率により変形組織のサイズは変化しうるが、方位変化間隔の比はある程度維持される。
図3及び4に缶壁表面からの距離に対する画素値の変化の一例を示す。
図3はNo.1の缶内面側の表層部における画素値の変化を示し、
図4はNo.2の缶内面側の表層部における画素値の変化を示す。
【0049】
<突き刺し強度の評価>
作製したDI缶の開口部をトリミングして高さ100mmとし、200℃×20分のベーキングを実施して試験缶を得た。
図6に示すように、試験缶11の開口部をホルダー12に固定し、密封した。続いて通気管路13から缶内にエアーを供給して、内圧2kgf/cm
2を負荷し、先端が半径0.5mmの半球面である鋼製の突き刺し針14を、缶壁に対して垂直に、速度50mm/min.で突き刺した。突き刺し針14を突き刺した部位は、缶胴用アルミニウム合金板の圧延方向と缶軸方向が一致し、かつ缶底からの高さLが60mmの部位とした。突き刺し針14が缶壁を貫通するまでの荷重を継続して測定し、得られた最大荷重を突き刺し強度とした。圧延平行方向、圧延45°方向、及び圧延直角方向の各方向について4個から6個、合計16個から18個の試験缶について突き刺し強度を測定し、その算術平均を平均突き刺し強度とした。平均突き刺し強度が38.5N以上のものを合格とした。結果を表1に示す。
【0050】
<缶壁二次加工性の評価>
作製したDI缶のアルミニウム合金板の圧延方向と缶軸方向が一致しかつ缶底からの高さLが60mmの部位を挟んだ50mm×50mmの試験片を作製し、缶壁二次加工を模擬した張出試験を実施し、限界張出高さを求めた。張出試験は、
図7に示すように、試験片1を上下のダイス2及び3の間に挟み、一定のしわ押さえ力で固定し、ポンチ4を試験片1の中央部に対し垂直に押し込んで張出加工を行うことで実施した。ダイス2及び3は穴の内径が6.60mm、肩部半径が0.40mmであり、ポンチ4は外径が6.00mm、頭部の中央平坦部の直径が1mm、頭部の肩部半径が2.50mmである。この張出試験により、試験片1に割れが発生した時の張出高さを限界張出高さとして測定した。限界張出高さの適正範囲は1.08mm以上とした。限界張出高さが1.08mm以上であれば、実成形時に十分な高さの缶壁二次加工性を有すると考えられる。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、組成及び方位変化間隔の比が本発明の範囲内であるNo.1の缶胴用アルミニウム合金板からDI成形したDI缶では、耐突き刺し性及び缶壁二次加工性に優れていた。一方、圧下配分比が小さく、方位変化間隔の比が大きいNo.2では、変形組織が発達しないため、耐突き刺し性及び缶壁二次加工性が低下した。
【解決手段】Si:0.10から0.60質量%、Fe:0.30から0.80質量%、Cu:0.10から0.30質量%、Mn:0.80から1.40質量%、Mg:0.80から2.00質量%、Zn:0.25質量%以下、Ti:0.10質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、DI成形後の缶胴の最薄肉部において、走査型電子顕微鏡によって得られる電子チャネリングコントラスト像において缶壁厚方向にコントラストが変化する間隔について、缶壁内面側の板表面から缶壁厚の25%までの範囲における平均間隔の、缶壁厚の中心から缶壁厚方向に缶壁厚の±12.5%の範囲における平均間隔に対する比が1.10以下である缶胴用アルミニウム合金板である。