【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、パーム椰子殻を含むバイオマス燃料の物流方法であって、
出荷可能なパーム椰子殻を含むバイオマス燃料である製品燃料の、原料となる、パーム椰子殻を含むバイオマス燃料である加工前燃料を、供給元から受け入れる工程(a)と、
前記工程(a)で受け入れた前記加工前燃料に対して分離処理を施して、パーム椰子殻の繊維部を取り除く工程(b)と、
前記工程(b)で得られたバイオマス燃料が、出荷可能臭気よりも高い臭気を示す受入品燃料であるか前記出荷可能臭気以内の臭気を示す前記製品燃料であるかを判定する工程(c)と、
前記受入品燃料に対して所定の消臭処理を実行することで前記製品燃料を生成する工程(d)と、
前記製品燃料の保管先を、当該製品燃料の品質に応じて複数の製品置場の中から特定すると共に、特定された前記製品置場に前記製品燃料を保管する工程(e)と、
前記製品置場に保管されている前記製品燃料を、出荷先に出荷する工程(f)を有することを特徴とする。
【0010】
上記方法によれば、臭気の強さが様々な程度で搬入されて来るパーム椰子殻(PKS)を含むバイオマス燃料(以後、「加工前燃料」と呼ぶ。)を、一箇所で受入れると共に、臭気の強さに応じて適当な処理が施されて消臭された後、燃料としての品質に応じて異なる保管場所に保管される。なお、ここでいう「加工前燃料」とは、パーム椰子殻の繊維部を取り除く前の状態のPKSを含むバイオマス燃料を指す。
【0011】
例えば、パーム油の収量が多くなるようにパーム椰子の果実に占める内果皮(Endocarp)の割合を小さく、そして中果皮(Mesocarp)の割合が大きくなるように品種改良されたTenera種(主な産地はマレーシア)は臭気が強く、一方、Tenera種に対して相対的に果実に占める内果皮の割合が大きく、中果皮の割合が小さいDura種(主な産地はインドネシア)は臭気が弱いとされる。また、加工前燃料は、油分の酸化等による自己発熱を生じるために、海送時の船倉内の温度が90℃程度になる。90℃前後の温度環境であれば、臭気の原因となる雑菌を失活させることが可能であるが、船倉内の湿度が高い場合にはかかる雑菌の失活が不充分となる。
【0012】
工程(a)において、マレーシアやインドネシアなどのパーム椰子殻供給地や、他のバイオマス燃料の物流基地から搬入された加工前燃料は、まず工程(b)において、分離処理を受ける。この分離処理によって、加工前燃料に含まれるPKSは、臭気の強さの程度が弱い殻部と、臭気の強さの程度が強いひげ状の繊維部とに分離される。
【0013】
分離されたPKSの殻部からなるPKSを含むバイオマス燃料(以後、「PKS燃料」と呼ぶことがある。)は、そのまま需要者に向けて出荷できる程度の臭気(以下、「出荷可能臭気」という。)を示すものと、出荷可能臭気を満たさないためにそのままでは出荷することができず、消臭処理が必要なものが想定される。このような臭気の強さの違いは、PKSを副産したパーム椰子の品種や、受け入れ工程(a)までに加工前燃料が経てきた保管環境の温湿度条件などに起因する。本明細書では、工程(b)を経た後のPKS燃料のうち、前者のように出荷可能臭気以内の臭気を示す燃料を「製品燃料」と呼び、後者のように出荷可能臭気よりも高い臭気を示す燃料を「受入品燃料」と呼ぶ。
【0014】
繊維部が分離(除去)されたPKS燃料は、工程(c)において臭気の高低に応じて、受入品燃料であるか製品燃料であるかが判定される。
【0015】
工程(c)において受入品燃料と判定されたPKS燃料は、工程(d)において所定の消臭処理が施され、出荷可能臭気以内の臭気を示す製品燃料となる。このように本発明の物流方法によれば、加工前燃料を受け入れて保管する機能を有する基地(物流基地)内において、消臭処理を行うことができるため、パーム椰子殻供給地等の供給元から搬入されてきた加工前燃料に対して繊維部が分離されてなるPKS燃料が、出荷可能臭気を満足しない場合であっても、出荷可能な程度に臭気が抑制された状態の燃料(製品燃料)に変換することが可能である。
【0016】
なお、工程(d)は、工程(c)において受入品燃料として判定されたPKS燃料に限らず、工程(a)において受け入れた時点で既に繊維部が取り除かれており、且つ出荷可能臭気よりも高い臭気であること、すなわち受入品燃料であることが予め把握できているPKS燃料についても、実行されるものとして構わない。
【0017】
製品燃料は、工程(e)において品質に応じた保管先(製品置場)に保管される。このため、需要者側から、特定の品質(以下、「要求品質」という。)の製品燃料が注文された場合であっても、当該要求品質を満たす製品燃料の物流基地内の在庫量を、短時間で認識することが可能である。そして、仮に在庫量が需要量を下回っている場合であっても、受入品置場内には消臭処理前の受入品燃料が保管されており、上述したように物流基地内において消臭処理をして製品燃料を生成することができるため、これにより需要量を賄うことができる。このように、必要に応じて受入品燃料に対して消臭処理が施された上で、製品燃料が出荷先に向けて出荷される(工程(f))。
【0018】
なお、工程(e)で製品置場に保管される対象となる製品燃料は、以下の(i)〜(iii)のいずれか一つを含むものとして構わない。
(i)工程(c)において製品燃料であると判定されたPKS燃料;
(ii)工程(d)において消臭処理が施された結果、製品燃料に変換されたPKS燃料;
(iii)工程(a)において受け入れた時点で既に繊維部が取り除かれており、且つ出荷可能臭気以内の臭気であること、すなわち製品燃料であることが予め把握できているPKS燃料。
【0019】
以上説明したように、本発明の物流方法によれば、燃料を受け入れて保管する基地内において必要に応じて消臭処理が実行されるため、例えば市街地の近郊といった、臭気の問題が生じやすい場所であっても燃料の保管が可能となる。また、予め臭気の高低に応じてPKS燃料を製品燃料と受入品燃料とに分類し、受入品燃料と判定されたPKS燃料に対してのみ消臭処理を施す態様とすることができる。これにより、消臭処理を実現するための設備として、大掛かりな設備が不要となる。
【0020】
従って、本発明の物流方法によれば、PKS燃料の物流拠点(物流基地)を柔軟に構築することが可能となり、PKSの利用を推進することができる。
【0021】
なお、前記工程(b)において分離されたPKSの繊維部は、本発明の物流方法における製品燃料には含まれない。かかるPKSの繊維部は、加熱による消臭処理等を本発明の物流基地とは異なる設備で施された後に、そのままの態様か、又はペレット状バイオマス燃料のバインダー等に利用されて、別途バイオマス燃料として活用しても構わない。
【0022】
前記工程(d)における前記所定の消臭処理は、前記受入品燃料に対する、パーム椰子以外の樹種の木質チップ又は木質ペレットとの混合処理、消臭剤の散布処理、及び常温の大気の通気処理から選択される1つ以上の処理であるものとして構わない。パーム椰子以外の樹種の木質チップ又は木質ペレットとしては、例えば、スギ、ヒノキ、カラマツ、アカマツ、サクラ等の消臭効果を有する樹種の木質チップ又は木質ペレットを採用することができる。
【0023】
上記の方法によれば、別途の熱源を用いることなく、出荷可能臭気よりも高い臭気を示す受入品燃料に対して消臭処理を施して、出荷可能臭気以内の臭気を示す製品燃料を生成することができるため、消臭処理を実行するために大掛かりな設備が不要となる。
【0024】
前記工程(f)は、
前記出荷先の要求に応じた品質基準を満たす前記製品燃料が保管されている1以上の前記製品置場を特定する工程(f1)と、
前記工程(f1)で特定された前記製品置場に保管されている前記製品燃料を、前記出荷先に出荷する工程(f2)を有するものとしても構わない。
【0025】
なお、需要者からの注文に対応するため、工程(c)で判定された製品燃料や、工程(d)で消臭処理を介して生成された製品燃料、又は、工程(a)で受け入れた製品燃料を、製品置場に保管することなくそのまま出荷したい場合もある。そして、このとき、出荷される製品燃料が需要者の要求品質を満足しているかどうかを確認したい場合がある。
【0026】
このような場合のために、
前記工程(f)は、
前記製品燃料の少なくとも一部を抽出する工程(f3)と、
前記工程(f3)で抽出された前記製品燃料に対して、発熱量及び/又は所定の化学成分に関する分析を行う工程(f4)と、
前記工程(f4)の分析結果に基づき、前記製品燃料の含有アルカリ金属量、含有塩素量、含有水分量、及び発熱量からなる群から選択される1つ以上の指標が属する範囲によって、前記製品燃料の品質を特定する工程(f5)と、
前記工程(f5)において特定された前記製品燃料の品質が、前記出荷先の要求に応じた品質基準を満たすことを確認する工程(f6)を有するものとしても構わない。
【0027】
ところで、上述したように、製品燃料は、品質に応じて異なる製品置場に保管される。このため、各製品置場に保管されている製品燃料は、当該製品置場が想定している品質を満たしていることが前提となる。よって、需要者の要求品質を満たす品質に対応した製品置場に保管されている製品燃料を出荷することで、通常は需要者の要求品質を満たすことが予想される。しかしながら、製品置場から製品燃料を取り出して出荷する場合であっても、保管期間中の吸湿等による品質変化の可能性もあることから、出荷の前に、製品燃料の品質が需要者の要求品質を満たしていることを念の為に確認しておきたい場合も想定される。
【0028】
このような場合のために、
前記工程(f)は、
前記出荷先の要求に応じた品質基準を満たす前記製品燃料が保管されている1以上の前記製品置場を特定する工程(f1)と、
前記工程(f1)で特定された前記製品置場に保管されている前記製品燃料を、前記出荷先に出荷する工程(f2)と、
上述した前記工程(f3)〜(f6)とを有し、
前記工程(f3)は、前記工程(f1)で特定された前記製品置場に保管されている前記製品燃料の少なくとも一部を抽出する工程を含むものとしても構わない。
【0029】
なお、前記工程(c)は、
前記工程(b)で得られた前記バイオマス燃料の少なくとも一部を抽出する工程(c1)と、
前記工程(c1)で抽出された前記バイオマス燃料に対して、臭気測定を行う工程(c2)と、
前記工程(c2)の測定結果が属する範囲に基づき、前記バイオマス燃料が示す臭気が前記出荷可能臭気以内であるか否かを特定する工程(c3)を有するものとしても構わない。
【0030】
工程(c2)は、例えばにおいセンサーなどの臭気測定設備を使って、抽出されたバイオマス燃料(PKS燃料)の臭気を測定する工程とすることができる。
【0031】
更に、前記工程(c)は、前記工程(c3)において前記バイオマス燃料が示す臭気が前記出荷可能臭気を超える場合には、前記バイオマス燃料が前記受入品燃料であると判定して、製品置場とは別の受入品置場に保管する工程(c4)を有するものとしても構わない。この場合、消臭処理に係る工程(d)は、受入品置場に保管されている受入品燃料に対して実行されるものとしても構わない。
【0032】
前記工程(e)は、
前記製品燃料の少なくとも一部を抽出する工程(e1)と、
前記工程(e1)で抽出された前記製品燃料に対して、発熱量及び/又は所定の化学成分に関する分析を行う工程(e2)と、
前記工程(e2)の分析結果に基づき、前記製品燃料の含有アルカリ金属量、含有塩素量、含有水分量、及び発熱量からなる群から選択される1つ以上の指標が属する範囲によって、前記製品燃料の品質を特定する工程(e3)を有するものとしても構わない。
【0033】
前記工程(a)は、前記供給元から、陸送又は海送によって運搬された前記加工前燃料を受け入れる工程を含み、
前記工程(f)は、前記製品燃料を、陸送又は海送によって前記出荷先に運搬する工程を含むものとしても構わない。
【0034】
この場合において、前記供給元は、パーム椰子殻供給地、又は工程(a)において加工前燃料を受け入れる物流基地とは異なる第一物流基地であり、前記出荷先は、バイオマス燃料需要地、又は前記物流基地とは異なる第二物流基地であるものとしても構わない。
【0035】
本発明は、パーム椰子殻を含むバイオマス燃料の物流基地であって、
出荷可能なパーム椰子殻を含むバイオマス燃料である製品燃料を、出荷先に出荷するための出荷設備と、
前記製品燃料の原料となる、パーム椰子殻を含むバイオマス燃料である加工前燃料を、供給元から受け入れる受入設備と、
前記加工前燃料からパーム椰子殻の繊維部を除去するための分離設備と、
前記分離設備によって前記加工前燃料から前記繊維部が除去されたパーム椰子殻を含むバイオマス燃料の臭気を測定する臭気測定設備と、
前記臭気測定設備によって測定された臭気が出荷可能臭気よりも高い臭気を示す前記バイオマス燃料である、受入品燃料に対して所定の消臭処理を施して、前記出荷可能臭気以内の臭気を示す前記製品燃料を生成するための消臭処理設備と、
前記臭気測定設備によって測定された臭気が前記出荷可能臭気以内の臭気である、又は、前記消臭処理が施されることで前記出荷可能臭気以内の臭気に抑制された前記製品燃料を品質別に保管する製品置場とを有することを特徴とする。
【0036】
上記構成のパーム椰子殻を含むバイオマス燃料の物流基地によれば、PKSを含むバイオマス燃料の供給を安定化させるための貯蔵基地兼出荷基地が実現される。需要者から要求される前記バイオマス燃料の品質は、臭気が充分に抑制されていることは前提の上で、当該需要者の利用状況に依存して異なることが予想される。このため、複数の需要者からの種々の要求品質を満足する製品燃料を、貯蔵し、且つ出荷可能にしておくことが望ましい。本発明のパーム椰子殻を含むバイオマス燃料の物流基地によれば、臭気が抑制された状態の燃料(製品燃料)が、品質別に保管されているため、需要者からの要求品質を満足する製品燃料を特定することが容易である。
【0037】
また、仮に需要者からの要求品質を満足する製品燃料の在庫量が、需要量に対して不足していた場合、例えば受入品燃料に対して消臭処理を施すことで製品燃料を生成したり、複数の近郊の物流基地と連携することによって、要求品質を満足する製品燃料の所定量を確保することができ、これによって、需要量を賄うことが可能である。
【0038】
前記物流基地は、前記製品置場とは別に、前記受入品燃料を保管する受入品置場を有するものとしても構わない。この場合、前記製品置場に保管可能な前記製品燃料の量と、前記受入品置場に保管可能な前記受入品燃料の量との合計は、5千t以上であるのが好ましく、1万t以上であるのがより好ましく、2万t以上であるのが特に好ましい。このパーム椰子殻を含むバイオマス燃料の貯蔵能力によって、例えば、75MW級バイオマス発電ボイラにおける数日分の必要燃料を在庫することができる。
【0039】
前記臭気測定設備は、連続測定が可能な設備であっても構わない。
【0040】
本発明のパーム椰子殻を含むバイオマス燃料の物流基地は、臭気測定設備を有するため、PKS燃料が発する臭気の強さを、加工前燃料からPKSの繊維部を除去した後にリアルタイムに特定できる。これにより、パーム椰子殻の繊維部を除去した後のPKS燃料の保管先を、製品置場と受入品置場との間で適切に指定できる。特に、多量の入荷ロットを受入れた場合、前記の通り、船倉内の保管箇所によってPKS燃料の臭気の強さは異なることから、同一受入ロットのPKS燃料であっても臭気の強さはばらつきを有するため、搬入されたPKS燃料の臭気の強さを連続的に測定できることが望ましい。
【0041】
前記消臭処理設備が、前記受入品燃料に対してパーム椰子以外の樹種からなる木質チップ又は木質ペレットを混合する混合設備、前記受入品燃料に対して消臭剤を散布する散布設備、前記受入品燃料に対して常温大気を通気させる通気設備のいずれか一つ以上を備えるものとしても構わない。
【0042】
これらの消臭処理設備によれば、出荷可能臭気を満足しない受入品燃料を、別途の熱源を有することなく、出荷可能臭気を満足する製品燃料に変換することができる。
【0043】
前記パーム椰子殻を含むバイオマス燃料の物流基地は、前記製品燃料に対して、発熱量及び/又は所定の化学成分に関する分析を行う分析設備を有するものとしても構わない。
【0044】
かかる構成によれば、物流基地内で製品燃料に対して分析が行え、各製品燃料が有する品質を特定することができる。これにより、製品燃料の保管先となる製品置場を適切に指定することができる。更に、本発明のパーム椰子殻を含むバイオマス燃料の物流基地が、分析設備を備えることで、船舶やトラック等の輸送手段への荷積み品、すなわち前記製品置場に保管されている製品燃料の品質を確認しながら、又は荷積み品の品質を確認後に出荷することが可能となり、需要者の要求品質を満足しない製品燃料の出荷を防止することができる。
【0045】
なお、前記製品置場に搬送される製品燃料に対して分析を行う分析設備、及び前記製品置場に保管されている製品燃料に対して分析を行う分析設備は、共通の設備としても構わないし、それぞれ別々の設備としても構わない。
【0046】
前記受入設備は、パーム椰子以外の樹種の木質チップ又は木質ペレットを受け入れる機能を有するものとしても構わないし、また、前記受入品置場は、パーム椰子以外の樹種の木質チップ又は木質ペレットを保管する機能を有するものとしても構わない。
【0047】
これによって、物流基地において、受入品燃料にパーム椰子以外の樹種の木質チップ又は木質ペレットを混合することが可能になり、仮にPKS燃料が出荷可能臭気よりも高い臭気を示していた場合であっても、出荷可能臭気まで抑制することができる。
【0048】
前記パーム椰子殻を含むバイオマス燃料の物流基地は、海岸部に設置された港湾荷役設備を有し、かかる港湾荷役設備が前記出荷設備及び前記受入設備を構成するものとしても構わない。
【0049】
前記受入設備は、船舶又は運搬車両によって、前記供給元としてのパーム椰子殻供給地又は第一物流基地から搬送された、前記加工前燃料、前記受入品燃料、又は前記製品燃料を受け入れる機能を有し、
前記出荷設備は、船舶又は運搬車両によって、前記出荷先としてのバイオマス燃料需要地又は第二物流基地に対して、前記加工前燃料、前記受入品燃料、又は前記製品燃料を出荷する機能を有するものとしても構わない。
【0050】
これによって、一箇所の物流基地において需要者からの注文量に対応できない場合に、隣接した他の物流基地が保管する製品燃料を混載することが可能になり、需要者への効率的な製品燃料の供給が可能になる。