【実施例】
【0040】
本発明の実施例を、表1〜表6、
図1および
図2を参照して、以下に説明する。
【0041】
(1) 測定項目
測定項目は、透磁率、鉄損、及び騒音である。作製された各圧粉磁心のサンプルに対して、φ2.6mmの銅線で42ターンの巻線を施してリアクトルを作製した。騒音測定用の圧粉磁心は、外径φ77.8mm、内径49.2mm、高さ30mmとした。また、作製したリアクトルの透磁率及び鉄損を下記の条件で算出し、下記の条件でリアクトルから発生する騒音について測定した。
【0042】
<透磁率及び鉄損>
透磁率及び鉄損の測定条件は、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=50mTとした。透磁率は、鉄損Pcv測定時に最大磁束密度Bmを設定したときの振幅透磁率とした。鉄損については、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY−8232)を用いて算出した。この算出は、鉄損の周波数曲線を次の(1)〜(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数、渦電流損失係数を算出することで行った。
【0043】
Pcv=Kh×f+Ke×f
2…(1)
Ph =Kh×f…(2)
Pe =Ke×f
2…(3)
Pcv:鉄損
Kh :ヒステリシス損係数
Ke :渦電流損係数
f :周波数
Ph :ヒステリシス損失
Pe :渦電流損失
【0044】
<騒音測定>
騒音測定について、その測定装置、測定環境、測定方法等を以下に示す。
[騒音評価装置とソフトウェア]
(1) 測定装置 SOUND LEBEL METER NL-31 …リオン株式会社製
(2) 測定環境 無響箱(暗騒音は25dB) KM-1…株式会社アコー製
(3) パワーアンプ(音源) HIGH SPEED POWER AMPLIFIER/BIPOLAR POWER SUPPLY 4025…NF ELECTRONIC INSTRUMENTS社製
(4) 発振器 80MHz Function/Arbitrary Waveform Generator 33250A…アジレント・テクノロジー株式会社製
(5) 分析処理ソフト SA-01 CATSYSSA Ver3.5…リオン株式会社製
【0045】
[測定方法]
(1) 太陽光発電用パワーコンディショナに接続
(2) マイク距離:測定サンプルから10mmとした。
(3) 測定サンプルを無響箱内に設置し、騒音測定用のマイクの距離はサンプルから10mmとした。
【0046】
(2)サンプルの作製方法
圧粉磁心のサンプルは、下記のように、(a)絶縁微粉末のモース硬度、(b)絶縁微粉末の添加量、(c)結着性絶縁樹脂の種類の観点から作製した。また、(d)軟磁性粉末の粉末熱処理、(e)絶縁微粉末の粒径の観点からも作製した。これらの作製方法と、その結果について下記に順に示す。
【0047】
(a) 絶縁微粉末のモース硬度
硬度100MPaのFeSiAl合金粉末(平均粒子径40μm)の粉末に対して、絶縁微粉末(表1に示す種類と添加量)、潤滑剤0.3wt%を混合し、次にシランカップリング剤1.0wt%、メチルフェニル系シリコーンレジンを1.0wt%混合し、150℃で2時間の加熱乾燥を行い、さらに潤滑剤0.3wt%を混合した。
【0048】
これを室温にて1000MPaの圧力で加圧成型し、外径77.8mm、内径49.2mm、高さ30.0mmのリング状の成型体を作製し、大気中で700℃で保持時間2時間で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0049】
これらのサンプルに対して、上記「(1)測定項目」で示したように、リアクトルを作製し、透磁率、鉄損の算出、及び騒音測定を行った。その結果を表1及び
図1に示す。なお、表1〜表6において、μaは透磁率、Pcvは鉄損を示している。騒音Max値は搬送周波数でのピーク値である。
【表1】
【0050】
図1は、絶縁微粉末のモース硬度と騒音との関係を示すグラフである。表1及び
図1から、絶縁微粉末のモース硬度が高くなるほど騒音Max値が低下していることが分かる。特に、モース硬度が7.0以上で騒音の抑止効果が発揮され、低騒音になっていることが確認できる。なお、低騒音がどの程度の騒音レベルを指すかは、リアクトルの使用環境によって要求されるレベルが異なる。一般的には、リアクトルの使用時において不快と感じられないレベルの騒音は42dB以下とされているが、太陽光発電システム等のユニットを室内に配置する場合には、さらに低い騒音レベルが要求される場合がある。このような場合であっても、本実施例では、絶縁微粉末のモース硬度が7.0以上である場合に低騒音効果を実現することができる。特に、モース硬度が9.0であるAl
2O
3(アルミナ)が、低騒音効果が顕著である。
【0051】
(b) 絶縁微粉末の添加量
絶縁微粉末の種類と添加量を表2に示す条件とし、上記(a)と同様の手順で圧粉磁心を作製した。
【0052】
これらのサンプルに対して、上記「(1)測定項目」で示したように、リアクトルを作製し、透磁率、鉄損の算出、及び騒音測定を行った。その結果を表2及び
図2に示す。なお、「絶縁微粉末/結着性絶縁樹脂」は、結着性絶縁樹脂の添加量に対する絶縁微粉末の添加量の比率を示している。
【表2】
【0053】
図2は、絶縁微粉末の添加量と騒音との関係を示すグラフである。表2及び
図2から、絶縁微粉末の添加量が0.05wt%〜1.0wt%で低騒音効果が確認できる。0.05wt%未満であると、添加量が少なく圧粉磁心の絶縁層の硬度が十分に上がらない。そのため、励磁磁界による粉末振動を抑制できず、十分な騒音抑止の効果が得られない。1.0wt%を超えると透磁率が低下し、これに起因して騒音が増加する傾向になるリアクタのL値が低下する。これにより、ディップル電流が大きくなり、磁束密度変化が増加するため、騒音が増加する。
【0054】
また、表2から、絶縁微粉末/結着性絶縁樹脂の比率は、0.03〜0.5が好ましい。この範囲を超えると十分な騒音抑止効果が得られないか、鉄損が低下し実用的なリアクトルを作製できない。
【0055】
(c) 結着性絶縁樹脂の種類
絶縁微粉末の種類と添加量、及び結着性絶縁樹脂(シリコーン樹脂、シランカップリング剤)の種類と添加量を、表3に示す条件とし、上記(a)と同様の手順で圧粉磁心を作製した。
【0056】
これらのサンプルに対して、上記「(1)測定項目」で示したように、リアクトルを作製し、透磁率、鉄損の算出、及び騒音測定を行った。その結果を表3に示す。
【表3】
【0057】
表3から分かるように、結着性絶縁樹脂としてメチルフェニル系のシリコーン樹脂、特にメチルフェニル系シリコーンレジンを用いた場合に騒音抑止の効果が高い。また、結着性絶縁樹脂をシリコーン樹脂とシランカップリング剤の混合物とする場合には、シリコーン樹脂をメチルフェニル系シリコーン樹脂とし、シランカップリング剤をアミノシラン系、エポキシシラン系、イソシアヌレート系のシランカップリング剤を用いると、低騒音効果が高い。その中でも特に、エポキシシラン系のシランカップリング剤を用いた場合に騒音Max値が28.1dBであり、低騒音効果が顕著である。また、透磁率も他の例と比べて良好な数値を示している。イソシアヌレート系のシランカップリング剤を用いた場合には、低騒音効果に加えて、鉄損が125kW/m
3であり、鉄損が顕著に低い特徴がある。
【0058】
(d) 軟磁性粉末の粉末熱処理
軟磁性粉末の粉末熱処理の有無による騒音抑制効果についても検証した。軟磁性粉末の粉末熱処理とは、第2混合工程を行う前段階における第1混合工程で得られた混合物に対する熱処理である。軟磁性粉末として、Fe―Si−Al合金粉末、Fe―6.5%Si合金粉末を用いた場合の圧粉磁心の作製方法と、その結果を以下にそれぞれ順に示す。
【0059】
(d−1) Fe―Si−Al合金粉末の粉末熱処理
硬度100MPaのFeSiAl合金粉末(平均粒子径40μm)の粉末に対して、絶縁微粉末0.6wt%混合した混合粉に対し、還元雰囲気水素30%の環境下において、下記表4の温度で熱処理を施した。
【0060】
その後、熱処理を施した混合粉に潤滑剤0.3wt%を混合し、次にシランカップリング剤1.0wt%、メチルフェニル系シリコーンレジンを1.0wt%混合し、150℃で2時間の加熱乾燥を行い、さらに潤滑剤0.3wt%を混合した。
【0061】
これを室温にて1000MPaの圧力で加圧成型し、外径77.8mm、内径49.2mm、高さ30.0mmのリング状の成型体を作製し、大気中で700℃で保持時間2時間で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0062】
これらのサンプルに対して、上記「(1)測定項目」で示したように、リアクトルを作製し、透磁率、鉄損の算出、及び騒音測定を行った。その結果を表4に示す。
【表4】
【0063】
表4の騒音Max値から明らかなように、FeSiAl合金粉末の場合、粉末熱処理を1050℃で実施すると、実施しない場合と比べて騒音が増加した。これは、FeSiAl合金粉末(センダスト粉末)は水素雰囲気中で熱処理することで脆くなり(脆化)、加圧成形時に粉末に亀裂が生じて騒音が増加したからであると考えられる。熱処理により脆化が生じ、加圧成形時に粉末に亀裂が生じたであろうことは、粉末熱処理した場合に密度が低下していることからも理解できる。
【0064】
以上のことから、FeSiAl合金粉末の場合、加圧成型工程よりも前に、第1混合工程で得られた混合物に対し熱処理を行わないことが、FeSiAl合金粉末の硬度を保つことに繋がる結果、騒音抑制効果を実現できることが分かる。
【0065】
(d−2) Fe―6.5%Si合金粉末の粉末熱処理
硬度390MPaのFe―6.5%Si合金粉末(平均粒子径20μm)の粉末に対して、絶縁微粉末0.2wt%混合した混合粉に対し、還元雰囲気水素100%の環境下において、下記表5の温度で熱処理を施した。
【0066】
その後、熱処理を施した混合粉にシランカップリング剤0.5wt%、メチルフェニル系シリコーンレジンを0.9wt%混合し、150℃で2時間の加熱乾燥を行い、さらに潤滑剤0.6wt%を混合した。
【0067】
これを室温にて1000MPaの圧力で加圧成型し、外径77.8mm、内径49.2mm、高さ30.0mmのリング状の成型体を作製し、窒素中で700℃で保持時間2時間で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0068】
これらのサンプルに対して、上記「(1)測定項目」で示したように、リアクトルを作製し、透磁率、鉄損の算出、及び騒音測定を行った。その結果を表5に示す。
【表5】
【0069】
Fe―6.5%Si合金粉末の場合、粉末熱処理を実施することで、騒音抑止効果を得ることができる。これは、不純物が除去され(酸素濃度低下)、結晶内の粒子径を成長させることができるため、磁壁移動がスムーズになり、励磁磁界の追従性が増して騒音が低減できるからと考えられる。
【0070】
(e) 絶縁微粉末の粒径
絶縁微粉末の粒径を下記表6のようにして、上記(a)と同様の手順で圧粉磁心を作製した。
【0071】
これらのサンプルに対して、上記「(1)測定項目」で示したように、リアクトルを作製し、透磁率及び鉄損を算出した。その結果を表6に示す。
【表6】
【0072】
表6から分かるように、絶縁微粉末の平均粒径が大きくなると密度が低下する傾向にある。これに伴い透磁率も低下する。このため、絶縁微粉末の平均粒径の上限は、0.50μmであることが好ましい。これを超えると、低透磁率であるため、この圧粉磁心で作製したリアクトルは実用的でない。なお、絶縁微粉末の平均粒径の下限は、特に限定されないが、例えば、表2のSiO
2(シリカ)から0.02μmとすることができる。
【0073】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0074】
(1)表2では、結着性絶縁樹脂をシリコーン樹脂とシランカップリング剤の混合物とし、結着性絶縁樹脂の添加量に対する絶縁微粉末の添加量の比率を示したが、シランカップリング剤は添加せず、シリコーン樹脂の添加量に対する絶縁微粉末の添加量の比率を0.05〜0.5としても、シランカップリング剤を添加した場合と同様の効果を奏する。
(2)前記(a)の絶縁微粉末の混合(第1混合工程)と、(b)の結着性絶縁樹脂の混合(第2混合工程)を同時に行うことも可能である。軟磁性粉末(Fe―Si合金粉末)に対する粉末熱処理は、第1混合工程と第2混合工程の間だけでなく、第2混合工程と加圧成型工程との間に行っても上記と同様の効果を奏する。