特許第6578097号(P6578097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578097
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】菌床しいたけの栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/50 20180101AFI20190909BHJP
【FI】
   A01G18/50
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-232567(P2014-232567)
(22)【出願日】2014年11月17日
(65)【公開番号】特開2016-93159(P2016-93159A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242024
【氏名又は名称】株式会社北研
(74)【代理人】
【識別番号】100095739
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信
(72)【発明者】
【氏名】山内 隆弘
【審査官】 川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−271913(JP,A)
【文献】 特開2002−345333(JP,A)
【文献】 特開昭51−026282(JP,A)
【文献】 特公平04−030806(JP,B2)
【文献】 特開2003−134934(JP,A)
【文献】 特開2006−280371(JP,A)
【文献】 特開平08−023770(JP,A)
【文献】 特開2002−360064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 18/00−18/80
C12M 1/00− 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)しいたけ栽培用種菌をミキサーで細分化し、菌体の生育に支障をきたさない溶媒を加える破砕工程と、
b)前記破砕工程で得られた種菌を、菌体の生育に支障をきたさない溶媒中に5g〜100g/1lの割合に撹拌混合し、可及的に均一に分散させた懸濁液を得る懸濁工程と、
c)前記懸濁工程で得られた懸濁液を5ml〜300ml/培地容積3.5lの割合で培基材上面に接種する接種工程と、
d)種菌を接種した栽培容器を所定の温度、湿度条件下で培養する培養工程と、
e)栽培容器の上部を取り除き、残存した栽培容器と菌床の隙間に給水し、菌床上面のみを露出させた状態で、培基材への接種面から子実体を生長させる発生工程と、
を備えたことを特徴とする菌床しいたけの栽培方法。
【請求項2】
請求項1記載の懸濁工程において、種菌の混合割合を、溶媒中に5g〜20g/1lの割合としたことを特徴とする菌床しいたけの栽培方法。
【請求項3】
請求項1記載の懸濁工程において、溶媒中に0.05g〜0.1g/1lの割合で消泡剤を添加することを特徴とする菌床しいたけの栽培方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の懸濁工程において、溶媒中に0.5g〜1g/1lの割合で分散剤を添加することを特徴とする菌床しいたけの栽培方法。
【請求項5】
a)きのこ栽培用種菌を封入したきのこ栽培用種菌容器5と、菌体の生育に支障をきたさない溶媒として滅菌水を封入したボトル6と、種菌に滅菌水を加え撹拌して破砕するミキサー7と、
b)撹拌羽根11を有して前記種菌と滅菌水とを撹拌し、種菌の懸濁液を調製する攪拌機10と、
c)調製された懸濁状種菌18を液相チューブ17で圧送する液相ポンプ12と、
エアーレギュレーター14及びエアーフィルター15を介して圧縮空気を送るエアーコンプレッサー16と、
前記液相チューブ17の先端にエアーコンプレッサー16からのエアーチューブ19を臨ませて撹拌器10から圧送された懸濁状種菌を霧状に噴出さる吐出ノズル20と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の菌床しいたけ栽培方法を実施するための装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置に、ノズルの目詰まりを抑制する消泡剤用容器8と、懸濁状種菌の均一性を保持する分散剤用容器9を加えた菌床しいたけ栽培方法を実施するための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しいたけ菌床の栽培方法に関し、更に詳細には、接種面より優位に子実体の発生を促すことで、子実体収穫量の増加および省力化に繋がる収益性、品質面での向上を図ることのできる菌床しいたけの栽培方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
きのこの人工栽培においては、オガコを主成分とする培基材に種菌を接種し、所定の培養環境下で培養した後、培基材から子実体を生長させ、収穫する。使用する種菌は、培養瓶にオガコを基材とした培養基を充填し、原菌を接種して培養管理されたオガコ種菌である。
【0003】
従来のしいたけ菌床栽培方法は、殺菌した培基材にオガコ種菌を接種し、培養が完了した菌床を栽培容器から取り出し、露出状態で管理する方法で、継続的な発生を得るためには、適時水分を供給する必要がある。水分を補給するため、散水や浸水によって菌床全体に水分を付加すると、子実体の発生部位を特定することができず、菌床全面から発生してしまう。
【0004】
菌床上面に特定して子実体を発生させる方法については、特許文献1(以下、先行技術1という)にしいたけ菌床の培養方法が提供されている。これは、「しいたけ菌床栽培の培養完了後の発生工程において、栽培容器の上部を取り除いて菌床上面のみを露出させ、その他の部分は菌床側面及び底面部分との間に若干の隙間を保持させて栽培容器として残し、その隙間に給水することで菌床側面及び底面からのきのこの発生を抑制し、菌床上面からのみ発生させることを特徴とするしいたけ菌床の発生方法」(以下これを上面栽培という)を旨としている。
しかし、菌床の成熟度合いによっては、菌床上面以外に菌床側面からも子実体が発生することがあり、芽かき作業が必要になる。この芽かき作業自体が手間になるほか、芽かきされた部位は雑菌や害虫の温床となりやすいため、菌床が傷みやすく、結果、収量が低下するなどの問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3087171号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記上面栽培の栽培方法を改良し、接種面、即ち、菌床上面からの子実体の発生をより優位にすることで、子実体収穫量の増加および省力化に繋がる収益性、品質面での向上を図ることのできる菌床しいたけ栽培方法及びその装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の菌床しいたけ栽培方法は、a)しいたけ栽培用種菌をミキサーで細分化し、菌体の生育に支障をきたさない溶媒を加える破砕する破砕工程と、b)前記破砕工程で得られた種菌を、菌体の生育に支障をきたさない溶媒中に5g〜100g/1lの割合に撹拌混合し、可及的に均一に分散させた懸濁液を得る懸濁工程と、c)前記懸濁工程で得られた懸濁液を5ml〜300ml/培地容積3.5lの割合で培基材上面に接種する接種工程と、d)種菌を接種した栽培容器を所定の温度、湿度条件下で培養する培養工程と、e)栽培容器の上部を取り除き、残存した栽培容器と菌床の隙間に給水し、菌床上面のみを露出させた状態で、培基材への接種面から子実体を生長させる発生工程と、を備えたことを特徴とする。
請求項2記載の菌床しいたけ栽培方法は、請求項1記載の懸濁工程中に、種菌の混合割合を、溶媒中に5g〜20g/1lの割合としたことを特徴とする。
請求項3記載の菌床しいたけ栽培方法は、請求項1記載の懸濁工程中に、溶媒に0.05g〜0.1g/1lの割合で消泡剤を添加することを特徴とする。
請求項4記載の菌床しいたけ栽培方法は、請求項1又は2記載の懸濁工程中に、溶媒に0.5g〜1g/1lの割合で分散剤を添加することを特徴とする。
請求項5記載の菌床しいたけ栽培方法を実施するための装置は、a)きのこ栽培用種菌を封入したきのこ栽培用種菌容器5と、菌体の生育に支障をきたさない溶媒として滅菌水を封入したボトル6と、種菌に滅菌水を加え撹拌して破砕するミキサー7と、b)撹拌羽根11を有して前記種菌と滅菌水とを撹拌し、種菌の懸濁液を調製する攪拌機10と、c)調製された懸濁状種菌18を液相チューブ17で圧送する液相ポンプ12と、
エアーレギュレーター14及びエアーフィルター15を介して圧縮空気を送るエアーコンプレッサー16と、前記液相チューブ17の先端にエアーコンプレッサー16からのエアーチューブ19を臨ませて撹拌器10から圧送された懸濁状種菌を霧状に噴出さる吐出ノズル20と、を備えたことを特徴とする。
請求項6記載の装置は、請求項5記載の菌床しいたけ栽培方法を実施するための装置にあって、ノズルの目詰まりを抑制する消泡剤用容器8と、懸濁状種菌の均一性を保持する分散剤用容器9を加えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、きのこ菌床の栽培方法における接種工程において、きのこ栽培用種菌を破砕、懸濁した種菌を接種することで、上面を基礎とする接種面に均一な成熟が促され、上記上面栽培よりも短期間の培養で、接種面からの子実体発生量を増加させることができる。上面からの発生がより優先的に促されることによって、接種面以外の部位からの発生が抑止され、収穫に要する労力の分散と側面発生子実体の芽かきによる菌床の傷みを防止できる。したがって、子実体収穫量の増加および省力化に繋がる収益性、品質面で優れた菌床しいたけ栽培方法となる。
請求項2記載の発明にあっては、懸濁工程において、上記上面発生割合、上面発生生重等がより優れた値で得られる。
請求項3記載の発明にあっては、懸濁工程において、撹拌に伴う泡立ちが抑制でき、且つ、接種工程におけるノズルの目詰まりも防止できる。
請求項4記載の発明にあっては、懸濁工程において、撹拌から一定時間経過後に懸濁液から沈殿が生じるおそれがある場合に、これを抑制して種菌分散の均一性を保持することができ、培基材に接種される菌体量のばらつきを最小限にとどめることができる。
請求項5及び請求項6記載の発明にあっては、本装置によって種菌が菌床培地上面に均一で且つ分散状態で接種されるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の攪拌用容器の内部を表した模式図である。
図2】実験状態を示す写真図である。
図3】本発明装置を各工程順に表した模式図である。
図4】本発明装置の液相ポンプ部を拡大した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明におけるしいたけ栽培方法は、接種工程において滅菌水で懸濁したきのこ栽培用種菌を培基材に接種し、培養後、栽培容器の上部のみ取り除き、残存した栽培容器と菌床の隙間に給水して、菌床上面のみを露出させた状態で発生させる上面栽培を実施した。該上面栽培にあって、以下に詳述する、破砕工程と、懸濁工程と、接種工程と、培養工程及び発生工程とをから成る各工程を実施した。
なお、しいたけ栽培用種菌は、北研607号(菌床栽培用品種として、品種登録)を使用した。
【0011】
先ず、破砕工程にあっては、ミキサーにしいたけ栽培用種菌を削り取り、そこに滅菌水を加えて十分に撹拌し、その撹拌力で破砕する。撹拌を容易にするため、削り取る種菌のサイズは、可能な限り細かい方が良く、適当な溶媒量を必要とする。
本破砕工程は、種菌の粒が大きすぎると、次の懸濁工程で種菌撹拌効率が悪くなり、種菌の粒が残りやすく、均一な撹拌がなされない傾向にあり、又、接種工程においては、ノズルの目詰まりが起こりやすくなる等の問題を惹起し、これらを解消する為に実施するものである。つまり、懸濁工程の前に予め種菌の塊を適度な粗さに砕いて、懸濁工程をより実効あるものに導こうとするものである。
本実施形態においては、最終的に作製する懸濁状種菌の容量25lのうち滅菌水300mlを用いて、125gのしいたけ栽培用種菌をミキサーで、撹拌、破砕した。
【0012】
次に、懸濁工程では、培基材に接種してしいたけ栽培に使用する種菌を作製するため、上述の破砕工程で得た調製物を、撹拌用容器に投入し、最終容量が5g〜100g/1l、より望ましくは5g〜20g/1lの割合となるように滅菌水を加えてメスアップする。
本懸濁工程は、本発明の主要部をなすもので、可及的に種菌の溶液中への均一な分散を促し、延いては次工程の接種工程及び培養工程、発生工程において接種面からの子実体の発生をより優位にすることを狙いとするものである。
懸濁工程とは、上記破砕工程で粗めに粉砕された種菌を更に溶媒を加えて一定割合とすると共に、これに攪拌機による撹拌を加え、種菌が可及的に均一に分散された懸濁状態を保つ工程をいい、この懸濁状態とは、種菌が比較的大きな粒子群(可視部)と、小さな粒子群(不可視部)とから成り、斯かる小さな粒子が漂った状態に分散することはもちろん、大きな粒子群もこれらが沈降することなく漂った状態に分散し、この状態が維持されるよう保たれた状態をいう。
即ち、図1に示す如く、撹拌用容器1に上記粉砕工程で得た液を加えた場合、種菌は、オガコ部分から剥離した菌体が滅菌水2内を漂った状態で微粒子として存在するが目視できない小さな粒子群としてのきのこ栽培用種菌4と、比較的大きな粒子群で目視可能な粒子群としてのきのこ栽培用種菌3とに大別されることが観察され、その大きな粒子群3の一部には沈降して沈殿となるものが現れるが、後述する如き撹拌機による撹拌を促すことで、存在する粒子群が小さな粒子群及び大きな粒子群がすべて可及的に均一な状態で分散されるよう促すことを目的としたものである。
これに適した割合は、本発明しいたけ種菌にあっては、上述した通り5g〜100g/1lの割合、より望ましくは5g〜20g/1lの割合であり、斯かる割合の範囲で十分な分散状態が得られることが実験的に確認されている。
本実施形態においては、破砕工程で得られた125g/300mlの調整物24.7lの滅菌水でメスアップし、最終容量5g/1lとした。懸濁工程から接種工程が終了するまで、懸濁液は、撹拌用容器の撹拌羽根を用いて、160〜220回転/分で撹拌した。
尚、図中目視できない小さな粒子群4とは、粒状あるいは繊維状で存在すると仮定して模式化したが、実際は液体中を漂っている非常に細かい菌体であるため、肉眼で確認することはできない物体である。
【0013】
この懸濁工程では、溶媒できのこ栽培用種菌を撹拌する際、泡が立ちやすい。懸濁状種菌の表面に泡が残った状態では、接種工程においてノズル内部に気泡が入り込んで目詰まりが起こりやすくなる。
そこで、懸濁工程では、消泡剤を使用することによって、撹拌時の泡立ち抑制が可能で、接種工程においてノズルの目詰まりを抑制するうえで有効である。消泡剤S1(和光純薬工業(株)製)の場合には、0.5g〜1g/1lの割合で用いることによって十分効果を発揮した。直接添加することも可能とするが、100ml程度の滅菌水で十分撹拌してから添加する方がよい。
【0014】
又、上記懸濁工程では、溶媒できのこ栽培用種菌を撹拌した際、時間の経過に伴って粉砕された種菌が溶媒の底に沈んでしまう。不均一な懸濁状種菌を用いると、培基材に接種される菌体量にばらつきが生じ、培養工程において種菌の発菌が遅れたり、菌糸が蔓延する期間が長くなったりするので、発生工程における子実体発生量にばらつきが生じやすくなる。
そこで、懸濁工程では、分散剤を使用することによって、撹拌から一定時間、種菌の均一性を保持することが可能であり、培基材に接種される菌体量のばらつきを最小限に留めるうえで有効である。アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製、1級)の場合には、滅菌した製品を10g〜20g/1lの割合で用いることによって十分効果を発揮し、種菌の均一性を20〜60分保つことができた。
【0015】
上記破砕工程および懸濁工程で使用する溶媒は、目的とするきのこ栽培用種菌が生育可能なものであり、外菌による影響を受けない、pHや成分による影響を受けないことが前提である。滅菌水を基本とするが、微酸性電解水やミネラル添加水なども利用可能である。いずれの場合においても、以後の工程において支障をきたさないことが確認されている。
【0016】
次に接種工程に移り、一般に接種工程はプラスチック瓶に充填されたきのこ栽培用種菌を10mm角程度に削り取り、培基材に落とす操作であるが、本発明の接種工程では、上記懸濁工程で作製した種菌を培基材に滴下、吐出する。
栽培袋に充填した培基材に懸濁工程で作製した種菌を接種する場合、撹拌用容器を液相ポンプと接続し、懸濁状の種菌が培基材上面(縦12.5cm×横20cm、面積約250cm)に吐出されるように接種した。このとき、吐出されるノズル部分からフィルターを通した空気を噴出し、菌床上面に液体が均等に分散されるよう調整した。
その適正な接種量は、5ml〜300ml/培地容積3.5lである。5ml/培地容積3.5l以下の場合は、接種量が少なく懸濁状種菌の量が不足し、培養工程で均一に熟成することができず、一方、300ml/培地容積3.5l以上では、接種量が多く、容器下部に水が溜まって、菌体が十分な呼吸量を確保できず、生育不良を起こすからである。本実施形態の場合は、1菌床当たり10ml、あるいは20mlの懸濁状種菌を接種した。
培基材に接種されたきのこ栽培用種菌は、後述する如く培養工程にて発菌し、培基材全体に蔓延した後、熟成して子実体の元となる原基を形成するもので、したがって、本工程はきのこ栽培を実施するにあたって、必要不可欠な工程である。
【0017】
次に、培養工程では、接種されたきのこ栽培用種菌を培基材全体に行き渡らせ、熟成させることによって、子実体の元となる原基を形成する工程である。
懸濁状種菌を接種した培基材は、温度19±2℃、湿度60〜70%の管理下で94日間、あるいは115日間培養した。
この培養工程にあって、本発明では、後述する如く、短期間で上面の斉一な熟成が促される。
【0018】
更に、発生工程に移り、この発生工程では、培養が完了した培基材から子実体を発生させるために、培基材を覆っている栽培容器を除去する工程である。この工程では、栽培容器の上部のみ取り除き、残存した栽培容器と菌床の隙間に給水して、菌床上面のみを露出させた状態で発生させる上面栽培を実施し、この上面栽培では、栽培容器の上部を取り除いた後、発生芽数を抑制するために、菌床を反転し、25〜28℃程度の高温に晒す高温抑制散水管理を実施してから芽出し管理を行って発生に移行する方法が一般的であるが、本形態の発生工程では、一般的な上面栽培方法に則り、以下の一般的な条件で高温抑制散水管理および芽出し管理を実施した。28℃で1週間、高温抑制散水管理した後、22℃で1週間芽出し管理し、朝晩13℃、日中23℃の変温下で発生管理した。
【0019】
上記方法に基づく栽培を実施した結果を調査すべく、a)上面栽培における従来通りきのこ栽培用種菌を使用した場合と、b)きのこ栽培用種菌を懸濁状種菌にして使用した場合の1番発生の1菌床当たりの子実体発生個数と子実体発生重量について、部位ごとの子実体を集計した。その結果を示すと、表1(全子実体)、表2(規格品のみ)の通りとなった。ここで、1番発生とは、上記上面栽培の発生工程において、栽培容器の上部を取り除いて菌床側面及び底面部分との間に給水した後、菌床上面から最初(1番)に発生してくることを指す。又、表で示す肩口とは、菌床上面と側面の境目となる角の部分から側面にかけての部位を指す。
【0020】
【表1】
オガコ種菌の接種量は、5g、懸濁状種菌の接種量は、10mlである。なお、平均値に関しては、混合希釈倍率に関わらず、懸濁状種菌を用いた場合の全ての結果を平均した値である。
【0021】
表1は、きのこ栽培用種菌として北研607号(菌床栽培用品種として、品種登録)を使用した。培基材の組成および栽培袋に培基材を充填して、殺菌、冷却するまでの菌床製造工程は同様で、接種工程におけるきのこ栽培用種菌の懸濁工程の有無が相違点である。接種後の培養および発生管理工程は、同様である。
【0022】
表1に示すように、全発生個数に占める、接種面、即ち、上面からの子実体発生個数の割合を比較すると、オガコ種菌を接種した場合は7.1%であるが、懸濁状種菌を接種した場合は、最大で56.0%、最低でも34.1%と大きく向上した。さらに、上面からの発生生重もオガコ種菌の約10倍〜23倍に増加した。この結果から、5g/l〜100g/lの範囲で有効なことが確認された。
一方、5g/lより少ない場合には、懸濁液中に占める菌体の割合が低くなってしまうため、従来の栽培法より短期間の培養で、接種面からの子実体発生量を増加させるという本発明の効果が十分に得られない。逆に、100g/lより多い場合には、懸濁液中に占める菌体の割合が多くなってしまい、破砕工程において破砕がしづらくなり、その後の撹拌工程において均一な撹拌が難しくなるため、少ない場合と同様本発明の効果が十分に得られないものとなる。
更に表1の結果から、5g/l〜20g/lの範囲では、上面からの子実体発生個数の割合が50.0〜56.0%で、上面発生生重(g)が107.3〜108.3と優れた値を示し、より望ましい範囲であることが確認された。
【0023】
上記結果が得られた理由について考察する。
先ず、従来のオガコ種菌と本発明に基づく懸濁状種菌では、菌糸が菌床全体に蔓延する期間に差があり、熟成過程が異なると推測し、図2に示す如き実験を試みた。
左から、各容器に、オガコ種菌5g/l、100g/l懸濁状種菌・10ml接種、50g/l懸濁状種菌・10ml接種、20g/l懸濁状種菌・10ml接種、10g/l懸濁状種菌・10ml接種、5g/l懸濁状種菌・10mlの各割合に分けて接種し、それを培養後41日目に菌床(容器)の底部を観察する手法で行い、その容器の底部を撮影したのが図2である。
左端のオガコ種菌では、底部には白色部が多く観察される。又、懸濁状種菌でも懸濁状種菌中の種菌(菌体)の割合が高いもの(図2の写真左から2番目、3番目)にも白色部が比較的多く観察されるが、右端に向かって懸濁状種菌中の種菌(菌体)の割合が低くなるにつれ黒色部が多くなる。黒色部は培地の当初の色であり、蔓延が進むにつれて白色へと変化するものであることから、白色部は菌糸蔓延が早く、黒色部は蔓延が遅いと解される。従って、図2の写真から、オガコ種菌では、接種された塊状のオガコ種菌と接触した培地表面から局所的に菌糸が蔓延していくと考えられ、菌体ひとつひとつが濃いため、蔓延も早くなる。一方、懸濁状種菌中の種菌(菌体)の割合が低くなるものでは、黒色の部分が多く、菌糸蔓延がゆっくりとなっている。この懸濁状種菌では、懸濁液中に分散したきのこ種菌が、オガコ種菌よりも薄い菌体であるため、全体への蔓延はゆっくりとなり、底部が黒色に残される。但し、このとき上面は黒色でなく白色で、これは懸濁液が直接接触する培地表面のほか、培地内部にも浸み込んで、薄い菌体が上面全体に行き渡り、これを均一に菌糸が蔓延していくと考えられる。
そして、上記の如く、上面からの子実体発生個数の割合及び上面発生生重等において、前者ではオガコ種菌が7.1%であったものが懸濁状種菌では34.1%〜56.0%と大きく向上し、後者ではオガコ種菌の約10倍〜15倍に増加した。
これは、オガコ種菌の場合は、培養期間が短いと、蔓延後、熟成に進む期間が十分に確保されず、熟成が不十分であったり、熟成部位が偏在していたりして、発生量が減少し、未熟子実体を発生してしまい、又、培養期間が長くなると熟成が進んだ部位から順次原基が形成され、様々な部位から子実体が発生するようになる。
これに対し、本発明懸濁状種菌の場合は、懸濁された薄い菌体が菌床上面から底面に向かって斉一的に蔓延する際に、ゆっくりと蔓延するため上面に留まる時間が長く、短い培養期間であっても上面だけは熟成し、上面を中心に原基が形成される。菌床全体への蔓延は遅いため、側面および底面は、熟成過程への移行が遅れ、未成熟な状態となり、原基が形成されにくくなるので、発生部位は上面のみに集中する。この上面への集中によって、上面からの子実体発生個数の高い割合と、多くの上面発生生重等が促されるものと推察される。そして、この傾向は、混合割合が5g/l懸濁状種菌・10ml接種〜20g/l懸濁状種菌・10mlの範囲でさらに強くなる。
【0024】
培養41日目の菌床底部の状態である。左から、オガコ種菌5g接種、100g/l懸濁状種菌・10ml接種、50g/l懸濁状種菌・10ml接種、20g/l懸濁状種菌・10ml接種、10g/l懸濁状種菌・10ml接種、5g/l懸濁状種菌・10ml接種。
【0025】
次に、上記菌床しいたけ栽培方法を実施するための装置を説明する。
破砕工程から接種工程までを図3に、接種工程で懸濁状の種菌が吐出される様態を図4に示した。
本発明装置は、a)きのこ栽培用種菌を封入したきのこ栽培用種菌容器5と、菌体の生育に支障をきたさない溶媒として滅菌水を封入したボトル6と、種菌に滅菌水を加え撹拌して破砕するミキサー7と、b)撹拌羽根11を有して前記種菌と滅菌水とを撹拌し、種菌の懸濁液を調製する攪拌機10と、c)調製された懸濁状種菌18を液相チューブ17で圧送
する液相ポンプ12と、エアーレギュレーター14及びエアーフィルター15を介して圧縮空気を送るエアーコンプレッサー16と、前記液相チューブ17の先端にエアーコンプレッサー16からのエアーチューブ19を臨ませて撹拌器10から圧送された懸濁状種菌を霧状に噴出さる吐出ノズル20と、を備えたことを特徴とする。
又、上記装置に、ノズルの目詰まりを抑制する消泡剤用容器8と、懸濁状種菌の均一性を保持する分散剤用容器9を加えても良い。
尚、攪拌機10は上記撹拌用容器1と実質的に同一内容のものであるが、攪拌機10は装置の発明を説明するものであり、方法の発明としての撹拌用容器1とは異なる表現としたものである。
【0026】
上記装置の操作は、きのこ栽培用種菌をミキサー7に投入する一方で、菌体の生育に支障をきたさない溶媒として滅菌水を封入したボトル6から投入し、両者をミキサー7で撹拌して、種菌を破砕する。
次いで、攪拌機10で前記種菌と滅菌水とを撹拌羽根11で撹拌し、種菌の懸濁状種菌を調製する。必要に応じて、消泡剤用容器8と分散剤用容器9を用いて、ノズルの目詰まりを抑制すると共に懸濁状種菌の均一性を保持する。
液相チューブ17を備えた液相ポンプ12で、調製された懸濁状種菌18を圧送する。一方、エアーコンプレッサー16からの圧縮空気を、エアーレギュレーター14及びエアーフィルター15を介して送り込み、該液相チューブ17にエアーコンプレッサー16からのエアーチューブ19を臨ませて吐出ノズル20から菌床培地13に向けて、懸濁状種菌を霧状に噴出させる。
上記装置によって種菌が菌床培地上面に均一で且つ分散状態で接種される。
【0027】
以上、本発明は、きのこ菌床の栽培方法における接種工程において、きのこ栽培用種菌を破砕、懸濁した種菌を接種することで、上面を基礎とする接種面に均一な成熟が促され、従来の上面栽培よりも短期間の培養で、接種面からの子実体発生量を増加させることができる。上面からの発生がより優先的に促されることによって、接種面以外の部位からの発生が抑止され、又、収穫に要する労力の分散と側面発生子実体の芽かきによる菌床の傷みを防止できるので、菌床の耐久性を維持できる。したがって、子実体収穫量の増加および省力化に繋がる収益性、品質面で優れた菌床しいたけ栽培方法となる。
【符号の説明】
【0028】
1 撹拌用容器
2 滅菌水
3 きのこ栽培用種菌(可視部)
4 きのこ栽培用種菌(不可視部)
5 きのこ栽培用種菌容器
6 滅菌水ボトル
7 ミキサー
8 消泡剤用容器
9 分散剤用容器
10 攪拌機
11 撹拌羽根
12 液相ポンプ
13 菌床培地
14 エアーレギュレーター
15 エアーフィルター
16 エアーコンプレッサー
17 液相チューブ
18 懸濁状種菌
19 エアーチューブ
20 吐出ノズル
21 霧状に噴出された懸濁状種菌
図1
図2
図3
図4