(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、病院や福祉施設などにおける、ノロウイルスやインフルエンザなどの集団感染が問題となっている。特に、近年、感染力の高いウイルスによる二次感染をどのように防ぐかの対策が重要となっている。このような、二次感染の防止は、病院や福祉施設などだけでなく、学校、公共施設、駅などの多くの人が集まる場所や、一般家庭においても、重要な問題である。
【0006】
本出願人は、次亜塩素酸を含有する除菌水を生成する除菌水供給システムを開発し、感染防止や衛生環境の向上を図っている。しかしながら、据え置き型のシステムでは、システムを設置した病院などの施設においては非常に効果的であるものの、使用範囲に制限があり、設備投資に要するコストも大きい。
【0007】
そこで、簡易な構成でかつ汎用的に利用可能な小型の除菌シートの開発が望まれる。しかしながら、次亜塩素酸は、後述するように経時劣化しやすく、除菌シートの有効期間が短くなる。
【0008】
本発明の目的は、簡易な構成でかつ汎用的に利用可能な除菌シートパックを提供することにある。特に、高い除菌力を維持しつつ、作業者や対象物に対し安全に除菌を行うことができる除菌シートパックを提供することにある。また、有効期間の長い除菌シートパックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の除菌シートパックは、第1成分溶液を収容する第1内袋と、第2成分溶液を収容する第2内袋と、シートと、前記第1内袋と前記第2内袋と前記シートとを収容する外袋と、を有する。そして、前記外袋内において、前記第1内袋および前記第2内袋を破ることにより、前記第1成分溶液と前記第2成分溶液とを接触させ、前記第1成分溶液と前記第2成分溶液との反応により次亜塩素酸液を生成し、前記シートに次亜塩素酸液を含浸させる。
【0010】
前記第1内袋と前記第2内袋とは、連結していてもよい。
【0011】
前記第1内袋および前記第2内袋は、例えば、外部からの押圧力によって破られる構造である。
【0012】
前記第1成分溶液は、例えば、アルカリ性溶液である。
【0013】
前記アルカリ性溶液は、例えば、次亜塩素酸塩の水溶液である。
【0014】
前記第2成分溶液は、例えば、酸性溶液である。
【0015】
前記酸性溶液は、例えば、有機酸の水溶液である。
【0016】
前記有機酸は、例えば、クエン酸である。
【0017】
前記シートは、例えば、圧縮シートである。
【0018】
本発明の除菌シートの製造方法(使用方法)は、第1成分溶液を収容する第1内袋と、第2成分溶液を収容する第2内袋と、シートと、前記第1内袋と前記第2内袋と前記シートとを収容する外袋と、を有する除菌シートパックを用いる。そして、前記外袋内において、前記第1内袋および前記第2内袋を破ることにより、前記第1成分溶液と前記第2成分溶液とを接触させ、前記第1成分溶液と前記第2成分溶液との反応により次亜塩素酸液を生成し、前記シートに次亜塩素酸液を含浸させる。
【0019】
前記第1内袋と前記第2内袋とは、連結していてもよい。
【0020】
前記第1内袋および前記第2内袋は、例えば、外部からの押圧力によって破られる構造である。
【0021】
前記第1成分溶液は、例えば、アルカリ性溶液である。
【0022】
前記アルカリ性溶液は、例えば、次亜塩素酸塩の水溶液である。
【0023】
前記第2成分溶液は、例えば、酸性溶液である。
【0024】
前記酸性溶液は、例えば、有機酸の水溶液である。
【0025】
前記有機酸は、例えば、クエン酸である。
【0026】
前記シートは、例えば、圧縮シートである。
【発明の効果】
【0027】
この除菌シートパックにおいては、使用の直前において、第1内袋中の第1成分溶液と、第2内袋中の第2成分溶液とを接触させることにより、次亜塩素酸液を生成するため、高い除菌力を発揮することができる。また、安全性の高い次亜塩素酸液を使用することで、作業者や対象物に対し安全に除菌を行うことができる。また、第1成分溶液として経時劣化の小さいアルカリ性溶液を用いることで、除菌シートパックの有効期間を長く確保することができる。
【0028】
第1内袋と第2内袋とは、連結していてもよい。これらを連結させることで、外袋に収容する部品点数を少なくすることができる。
【0029】
また、第1内袋と第2内袋とを、外部からの押圧力によって破られる構造とすることで、作業場所において、容易に除菌シートを形成することができる。
【0030】
また、前記アルカリ性溶液として、次亜塩素酸塩の水溶液を用いることで、比較的低濃度の次亜塩素酸塩の水溶液を原料として、除菌力の高い次亜塩素酸液を生成することができる。
【0031】
また、第2成分溶液は、例えば、酸性溶液であり、この酸成分として、有機酸、特に、クエン酸を用いることで、安定かつ安全にシート内に酸成分を内包させることができる。
【0032】
また、シートとして、圧縮シートを用いることにより、シートの吸水性が大きくなり、迅速に、次亜塩素酸液を吸収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0035】
(除菌シートパックの構成)
図1は、本実施の形態の除菌シートパックの外観を示す斜視図であり、
図2は、本実施の形態の除菌シートパックの構成を示す平面図である。
図2において、(A)は、外袋、(B)は、第1内袋、(C)は、第2内袋、(D)は、圧縮シートを示す。また、
図3は、第1内袋および第2内袋の形成方法の一例を示す図である。
図3(A)は、第1内袋の形成方法を示し、(B)は、第2内袋の形成方法を示す。さらに、
図4は、外袋への2つの内袋と圧縮シートの収容方法の一例を示す図である。
【0036】
図1および
図2に示すように、本実施の形態の除菌シートパックは、外袋10と第1内袋20と第2内袋30と圧縮シート40、41、42とを有する。本実施の形態の除菌シートパックは、第1内袋20内のアルカリ性溶液20aと第2内袋30内の酸性溶液30aとを、外袋10内で接触させることにより、次亜塩素酸の水溶液を生成しつつ、次亜塩素酸の水溶液を、圧縮シート40、41、42に含浸させ、膨潤させることにより除菌シートを形成するものである。
【0037】
第1内袋20内には、第1成分溶液としてアルカリ性溶液20aが封入(収容)されている。アルカリ性溶液20aは、例えば、次亜塩素酸塩の水溶液である。次亜塩素酸塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カリウムなどを用いることができる。次亜塩素酸塩の水溶液は、長期保存による変質(分解)が少なく、後述する、酸との反応により、除菌力の高い次亜塩素酸を生成するため、除菌シートに用いて好適である。次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の濃度は、例えば、200ppmであり、封入量は、例えば、30ml程度である。なお、本明細書において、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の濃度および次亜塩素酸の水溶液の濃度は、残留塩素濃度換算により求めた濃度である。
【0038】
このように、比較的低濃度の水溶液を用いても、後述する、酸成分(例えば、クエン酸の水溶液、0.03%、30ml)と反応させることにより、除菌能力の高い次亜塩素酸量(次亜塩素酸の水溶液の濃度)を生成することができる。次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の濃度は、上記濃度に限定されるものではなく、例えば50ppm以上500ppm以下の範囲で調整可能である。但し、この濃度は、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の封入量とクエン酸の水溶液の封入量の総和(以下、総封入量)に対する次亜塩素酸ナトリウムの濃度である。かかる範囲であれば、有害な塩素(Cl
2)の生成反応を抑えつつ、有効な次亜塩素酸量(次亜塩素酸の水溶液の濃度)を確保することができる。また、50ppm以上500ppm以下の範囲は、直接触れた場合であっても、人体への影響が少ない範囲である。このため、予期せぬ衝撃などにより、外袋10および第1内袋20の破損が生じ、外部に次亜塩素酸ナトリウムの水溶液が漏れた場合であっても、人体への影響が少なく、例えば、匂いによる刺激や皮膚に対する刺激が小さく、安全性が高い。また、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の封入量は、上記量に限定されるものではなく、例えば、50ml以上200ml以下の範囲で調整可能である。より好ましくは、総封入量が50ml以上200ml以下の範囲となるよう調整する。かかる範囲であれば、重量も小さく持ち運びに便利であり、また、パッケージ自体も小さくできることから取り扱い(ハンドリング)が容易となる。なお、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液に変えて、次亜塩素酸カリウムの水溶液を用いる場合においても、その濃度を、例えば、50ppm以上500ppm以下の範囲で調整可能である。また、次亜塩素酸カリウムの水溶液の封入量も、例えば、50ml以上200ml以下の範囲、より好ましくは、総封入量が50ml以上200ml以下の範囲となるよう調整可能である。
【0039】
第1内袋20の材料は、封入するアルカリ性溶液20aにより変質しないものであれば、制限はないが、例えば、高分子フィルムを用いることができる。高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを用いることができる。これらの高分子フィルムによれば、アルカリ性溶液に対する安定性が高く、熱溶着(ヒートシール)により、容易に封止することができるため、アルカリ性溶液の封入材料として用いて好適である。
【0040】
また、第1内袋20の材料としては、遮光性を有するものを用いることが好ましい。例えば、上記高分子フィルムに、アルミ蒸着を施した銀色のフィルムを用いてもよい。このように、遮光性を有する第1内袋20を用いることで、封入されているアルカリ性溶液20aの劣化スピードを低減することができ、除菌シートパックの使用期限(有効期限)を長くすることができる。
【0041】
また、第1内袋20は、外部からの押圧力によって破られる構造である。例えば、
図3(A)に示すように、両側が熱溶着(ヒートシール)され、底部が折り返されている、袋状のポリエチレンフィルムの開口部より、次亜塩素酸塩の水溶液(20a)を注入し、開口部(上部)を熱溶着(ヒートシール)することにより、次亜塩素酸塩の水溶液が封入された第1内袋20を形成することができる。ここで、開口部(上部)の熱溶着(ヒートシール)の際、熱溶着部20bの幅を、両側の熱溶着部20cの幅より小さくすることが好ましい。また、開口部(上部)の熱溶着部20bを、ジグザグ形状とすることが好ましい。中でも、ジグザグ形状の、ジグザグの繰り返し単位の形状を三角形状とすることが好ましい。このように、開口部(上部)の熱溶着部20bを、三角形状のジグザグとすることで、第1内袋20に局所的な応力を加えた場合に、袋が突き破られ易くなる。一方、第1内袋20に均等に圧力を加えた場合には、袋の破断が生じにくい。このように、内袋の熱溶着部の少なくとも一部を、ジグザグ形状とすることで、除菌シートパックの使用時においては、袋が破断しやすく、除菌シートパックの搬送や保管時においては、袋の破断を生じにくくすることができる。
【0042】
第2内袋30内には、第2成分溶液として酸性溶液30aが封入(収容)されている。酸性溶液30aとしては、塩酸などの無機酸や、酢酸やクエン酸などの有機酸の水溶液を用いることができる。また、酸性溶液30aとしては、無機酸より、有機酸を用いる方が好ましい。有機酸は、無機酸と比較し、人体への影響が少なく、例えば、匂いによる刺激や皮膚に対する刺激が小さい。有機酸の中でも、クエン酸は、食品添加物としても使用が認められているものであるため、安全性が高く、好適である。また、クエン酸は、溶解度が高く、低濃度から高濃度の水溶液を製造しやすい。このため、第2内袋30への注入量の調整が容易となる。また、クエン酸は、溶解度が高く、高濃度の水溶液を製造しやすいため、第2内袋30への注入量を少なくすることができる。
【0043】
クエン酸の水溶液の濃度は、例えば、0.03%(重量%)であり、封入量は、例えば、30ml程度である。クエン酸の水溶液の濃度は、上記濃度に限定されるものではなく、例えば、0.01重量%〜40重量%の範囲で調整可能である。但し、この濃度は、総封入量に対するクエン酸の濃度である。封入量は、例えば、10ml〜200mlの範囲で調整可能である。より好ましくは、総封入量が50ml以上200ml以下の範囲となるよう調整する。かかる量であれば、前述した次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の濃度を、例えば、50ppm以上500ppm以下の範囲で調整し、封入量を、例えば、50ml以上200ml以下の範囲で調整した場合において、次亜塩素酸ナトリウムと充分反応し得る。
【0044】
第2内袋30の材料は、封入する酸性溶液30aにより変質しないものであれば、制限はないが、例えば、第1内袋20と同様に、高分子フィルムを用いることができる。高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを用いることができる。これらの高分子フィルムによれば、酸性溶液に対する安定性が高く、熱溶着により、容易に封止することができるため、酸性溶液の封入材料として用いて好適である。
【0045】
また、第2内袋30の材料としては、遮光性を有するものを用いることが好ましい。例えば、上記高分子フィルムに、アルミ蒸着を施した銀色のフィルムを用いてもよい。このように、遮光性を有する第2内袋30を用いることで、封入されている酸性溶液30aの劣化スピードを低減することができ、除菌シートパックの使用期限(有効期限)を長くすることができる。
【0046】
また、第2内袋30は、第1内袋20と同様に、外部からの押圧力によって突き破られる構造である。例えば、
図3(B)に示すように、両側が熱溶着され、底部が折り返されている、袋状のポリエチレンフィルムの開口部より、クエン酸の水溶液(30a)を注入し、開口部(上部)を熱溶着することにより、クエン酸の水溶液が封入された第2内袋30を形成することができる。ここで、開口部(上部)の熱溶着の際、熱溶着部30bの幅を、両側の熱溶着部30cの幅より小さくすることが好ましい。また、開口部(上部)の熱溶着部30bを、ジグザグ形状とすることが好ましい。中でも、ジグザグ形状の、ジグザグの繰り返し単位の形状を三角形状とすることが好ましい。
【0047】
圧縮シート40、41、42は、紙や布よりなるシート状の基材が圧縮加工されたものである。例えば、シート状の基材を折り畳み、円筒状の型に挿入し、上部より加圧することにより形成する。このような、圧縮シートは、例えば、円盤状などの小さな塊に圧縮され、液体成分を含浸させると膨潤して、液体成分を含有した状態で当初のシート状にほどけるシートである。基材としては、紙や布を用いることができる。強度の点から布を用いることが好ましい。合成繊維、再生繊維、不織布などを用いることができる。一例としては、レーヨンを用いることができる。レーヨンは、肌触りがなめらかであり、吸湿性に富む。また、焼却や廃棄により有害物質を出さないなどの利点がある。例えば、300mm×450mmの大きさのレーヨンを、上記の圧縮加工することにより、例えば、直径約45mm、高さ約7mmの円盤状の塊に圧縮することができる。
【0048】
外袋10の材料は、第1内袋20に封入されたアルカリ性溶液20aや第2内袋30に封入された酸性溶液30aにより変質しないものであれば制限はないが、例えば、高分子フィルムを用いることができる。高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを用いることができる。これらの高分子フィルムによれば、アルカリ性溶液20aや酸性溶液30aに対する安定性が高く、熱溶着により、容易に封止することができるため、外袋10として用いて好適である。
【0049】
また、外袋10の材料としては、少なくともその一部に透明部(透明窓部)を有するものを用いることが好ましい。例えば、上記高分子フィルムよりなる、透明フィルムを用いてもよい。このように、透明部(透明窓部)を有する外袋10を用いることで、第1内袋20および第2内袋30の破断の状況、各内袋20、30からの各溶液(20a、30a)の流出状況、混合状態および圧縮シート40、41、42への混合溶液(20a、30a)の含浸状況を確認することができる。これにより、より除菌力が高い状態での圧縮シート40、41、42の取り出しが可能となる。外袋10には、少なくともその一部が透明であればよく、他の部分には、商品名や使用方法などが印刷されていてもよい。
【0050】
例えば、
図4の左図に示すように、筒状に熱溶着され、さらに、左右の開放部の一方(図中左側)が熱溶着された袋状のポリエチレンフィルムの他方の開口部(図中右側)より、アルカリ性溶液20aが封入された第1内袋20と、酸性溶液30aが封入された第2内袋30と、圧縮シート40、41、42と、を挿入する。次いで、開口部(右側)を熱溶着することにより、外袋10内に、アルカリ性溶液20aが封入された第1内袋20と、酸性溶液30aが封入された第2内袋30と、圧縮シート40、41、42と、を収容する。なお、ここでは、圧縮シートの収容個数を3個としたが、収容個数は、適宜変更可能である。
【0051】
ここで、外袋10が破断に至る押圧力は、第1内袋20や第2内袋30が破断に至る押圧力より大きい。例えば、第1内袋20および第2内袋30が収容された外袋10に、徐々に押圧を加えた場合、第1内袋20と第2内袋30とが先に破断する。例えば、外袋10の熱溶着部10cの幅を、第1内袋20の熱溶着部20bおよび第2内袋30の熱溶着部30bの幅より大きくする。このように、外袋10の熱溶着部10cの幅を大きくすることで、内袋(20、30)が破断しても、外袋は破断することなく、外袋の内部で、アルカリ性溶液20aと酸性溶液30aとを充分反応させ、次亜塩素酸を生成することができる。そして、次亜塩素酸の水溶液を、圧縮シートに充分膨潤させることができる。
【0052】
また、外袋10には、ガイドライン10aが表示されていることが好ましい。このガイドラインを目安に、外袋10ごと各内袋(20、30)を折り曲げることにより、各内袋(20、30)に、局所的な応力を加えることができる。ガイドライン10aは、外袋10の長手方向と垂直な方向(図中縦方向)に設けることが好ましい。また、圧縮シート40、41、42を収容した際、圧縮シートの境界に対応する位置にガイドライン10aを設けてもよい。この場合、円盤状の塊に圧縮加工されている圧縮シート40、41、42により、外袋10が折り曲げやすくなり、ガイドライン10aを境界として圧縮シート40、41、42で各内袋(20、30)を強力に挟み込むこととなり、各内袋(20、30)に加わる応力を大きくすることができる(
図5参照)。
【0053】
また、外袋10に、切り口10bを設けてもよい。切り口10bを設けることにより、外袋10を開封しやすくなる。
【0054】
(除菌シートパックの使用方法)
次いで、除菌シートパックの使用方法の一例について説明する。
図5および
図6は、本実施の形態の除菌シートパックの使用工程を示す図である。
【0055】
図5に示すように、外袋10のガイドライン10aに添って、外袋10ごと各内袋(20、30)を折り曲げる。これにより、各内袋(20、30)に局所的な応力が加わり、各内袋(20、30)が破断する。
【0056】
具体的には、各内袋(20、30)の熱溶着部20b、30bが、圧力がかけられた内容物(ここでは、アルカリ性溶液20aや酸性溶液30a)により突き破られる(剥離する)。例えば、
図6(A)に示すように、外袋10のガイドライン10a近傍の熱溶着部20b、30bが剥離し、それぞれの剥離部からアルカリ性溶液20aと酸性溶液30aが流出する。なお、剥離部がガイドライン10aから離れた位置に生じてもよい。また、この際、外袋10は破断しない。
【0057】
第1内袋20および第2内袋30から外袋10内に流出したアルカリ性溶液(ここでは、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液)20aと、酸性溶液(ここでは、クエン酸の水溶液)30aは、混合され反応する(
図6(B))。
【0058】
上記反応により、次亜塩素酸(次亜塩素酸の水溶液)が生成する。例えば、アルカリ性溶液として、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の水溶液を用い、酸性溶液として、クエン酸(C
6H
8O
7)の水溶液を用いた場合、NaClOは1価であり、C
6H
8O
7は3価であるため、これらは理論的には、3:1の割合で反応する。この反応により、次亜塩素酸(HOCl)が生成(遊離)する。生成したHOClは、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の水に溶け込んでいる。そして、生成された次亜塩素酸の水溶液は、圧縮シート40、41、42に吸い込まれる。
【0059】
このようにして、次亜塩素酸の水溶液を含有した圧縮シート40、41、42を形成することができる。次亜塩素酸の水溶液を含有した圧縮シート40、41、42は、切り口10bを起点として外袋10を切り裂くことにより、取り出すことができる。
【0060】
次亜塩素酸ナトリウムの水溶液も除菌力を有するが、強アルカリの当該溶液は、濃度によってはその取り扱いに注意が必要であり、酸成分との反応により、塩素などの有害物質を発生させ得る。
【0061】
これに対し、本実施の形態において生成される次亜塩素酸の水溶液は、中性から微酸性であり、手にも優しく、安全である。また、細菌やウイルスなどの微生物に対しては高い除菌力を有する。例えば、次亜塩素酸(HOCl)は、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液に含まれるClO
-の約80倍以上の除菌力を有する。このような次亜塩素酸(HOCl)の高い除菌力は、次亜塩素酸(HOCl)の高い酸化作用に起因すると考えられている。細菌の細胞膜やウイルスのタンパク質の殻を強力な酸化力で破壊し、不活化させることができる。
【0062】
このように、次亜塩素酸は、高い除菌力を有するため、次亜塩素酸の水溶液を内袋に封入しておき、圧縮シートに染み込ませて、除菌シートとして使用することも可能であるが、次亜塩素酸は、次亜塩素酸ナトリウムと比較して、経時劣化しやすい。このため、内袋に封入した状態で保存していても、除菌シートとしての有効期間が、例えば1年程度と短くなる。これに対し、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の状態で内袋に封入した場合には、除菌シートとしての有効期間を、例えば2年以上とすることができる。
【0063】
特に、インフルエンザやノロウイルスなどのウイルス性の病気は、冬季に流行することが多い。このため、除菌シートパックを予め準備していても、有効期間が短い場合には、有効期間が過ぎ、除菌力が低下している場合が生じ得る。これに対し、2年以上の使用期間を保証できる除菌シートパックであれば、インフルエンザやノロウイルスなどのウイルス性の流行時期に有効に対応でき、その効果を発揮することができる。
【0064】
さらに、ノロウイルスは、その感染力が高く、二次感染が生じやすい。また、集団感染にいたる例も少なくない。このため、高い除菌力を有し、取り扱いの簡易な除菌シートパックの使用は効果的である。本実施の形態の除菌シートパックにより形成された除菌シートの使用対象および使用方法に制限はないが、例えば、次のように使用することができる。例えば、おう吐物の処理については、おう吐物を1枚目の圧縮シートで覆い、おう吐物の飛散を防止する。さらに、使い捨て可能な紙や布で覆い、拭き取る。拭き取ったものは、ビニール袋などに入れ密閉状態にして廃棄する。さらに、拭き取った箇所を、2枚目の圧縮シートで拭う。さらに、3枚目の圧縮シートで、作業者のビニール手袋などを拭う。
【0065】
前述したように、次亜塩素酸の水溶液は、手にも優しい溶液であるため、拭う対象物、例えば、テーブル、床、廊下などの材質にも優しく、テーブル、床、廊下などの変質を防止することができる。
【0066】
このように、本実施の形態の除菌シートパックによれば、高い除菌力を有する次亜塩素酸を、除菌シートの使用時に生成することができ、迅速かつ効果的に、対象物の除菌を行うことができる。
【0067】
また、本実施の形態の除菌シートパックによれば、次亜塩素酸により、作業者や対象物に悪影響を与えることなく、安全に除菌を行うことができる。
【0068】
また、本実施の形態の除菌シートパックによれば、経時劣化の小さいアルカリ性溶液を用いることで、除菌シートパックの有効期間を長く確保することができる。
【0069】
(具体例)
例えば、第1内袋20に、200ppmの次亜塩素酸ナトリウムの水溶液を30ml封入し、第2内袋30に、0.03%のクエン酸の水溶液を30ml封入した、除菌シートパックを準備する。
【0070】
このような場合、第1内袋20と第2内袋30の溶液(20a、30a)の混合により、100ppmの除菌液、即ち、100ppmの次亜塩素酸の水溶液が60ml生成する。
【0071】
この除菌液が、圧縮シート40、41、42に染み込むことにより除菌シートを形成することができる。
【0072】
(実施例)
上記100ppmの除菌液を圧縮シート(圧縮ドライワイパー)に注入した除菌シートを用いて大腸菌および黄色ブドウ球菌に対する除菌性能を評価した。ここでは、日本清浄紙綿類工業会基準のウエットワイパー類の除菌性能試験に準じて除菌性能試験を実施した。
【0073】
<<試験方法>>
[被験物質]
除菌シートパック(圧縮ドライワイパー除菌液注入品)、室温保存
[使用培地、試薬、および器材]
1)使用培地:標準寒天培地(栄研化学)、普通寒天培地(栄研化学)、普通ブイヨン培地(栄研化学)
2)使用試薬:
リン酸緩衝溶液(対照試薬):0.25Mリン酸緩衝液(pH6.8〜7.2)1.25mlを1Lに希釈したもの
精製水(日本薬局方):小堺製薬株式会社
モデル汚れ物質:0.3w/v%牛血清アルブミン(Cohn Fraction V)
洗浄液:ポリソルベート80を5gと炭酸ナトリウムを5gとを水に溶解して1Lとしたものを2.5gと、炭酸ナトリウム2.5gを水に加えて5Lとした。
【0074】
不活性化剤:SCDLPブイヨン培地(栄研化学)
3)器材他
試験布:約1×3m
2の布を洗浄液にいれて1時間煮沸し、水を替えて更に約5分間煮沸したのち、4〜5Lの冷水で約5分間攪拌し、乾燥後15×10cm
2に裁断してオートクレイブ減菌し乾燥させた。
【0075】
拭取り装置:おもり(150g)、ガイド、レールの3つのパーツから成る。
【0076】
試験担体:ステンレス鋼製平板、26mm×152mm×1.0mm、表面グレード2B
試験担体は、アルカリ性洗剤で洗浄し、精製水で十分すすいだ後、アルコール洗浄して乾燥させたものを乾熱減菌して使用した。
【0077】
[試験使用菌液]
普通寒天培地を用いて下記の試験菌を所定の条件で前培養した後、普通ブイヨン培地で1.0〜5.0×10
9cfu/mLとなるよう調整した。この調整菌液にモデル汚れ物質を等量加えて十分懸濁させたものを各々試験菌液とした。
【0078】
大腸菌:Escherichia coli NBRC3972
黄色ブドウ球菌:Staphylococcus aureus NBRC12732
[不活性化剤の有効性確認試験]
試験に先立って、試験菌2菌種に対する不活性化剤の有効性確認試験を実施し、下記の判定基準にしたがってその有効性を確認した。
【0079】
−不活性化剤の有効判定基準−
不活性化剤の有効性は試験菌種及び試験試料毎に次のことを確認した。
【0080】
1)試験菌液の生菌数は、0.5〜2.5×10
9cfu/mLである。
【0081】
2)不活性化剤の効果の確認において、試験試料を加えた系の生菌数が試験試料の代わりに適当な希釈液を加えた系の生菌数の50%以上であること。
【0082】
[除菌性能試験法]
1)試験操作
調整菌液とモデル汚れ物質を等量ずつ加え、十分懸濁させて氷冷下で保持したものを試験菌液とした。
【0083】
試験菌液をよく攪拌してその0.01mLをピペッターで試験担体中央部に線を引くように接種し白金耳等を用いて塗り広げ、送風を切ったクリーンベンチ内で5〜15分間放置後、目視で乾燥状態を確認した。これを拭取り装置にセットし、被験物質(圧縮ドライワイパー1個に対し除菌液20mlを注入)を2枚重ねでおもりに装着し、ガイドに設置して拭き取り操作を行った。拭き取り操作は、おもりを上から軽く押さえ試料表面を試験担体表面に密着させ、ガイド部分横を持って上から圧がかからないようにレールに沿っておもりを約1秒間隔で5往復させた。
【0084】
拭取り操作終了後ただちにおもりを取除いて、担体を5分間放置したのち、不活性化処理剤20mLを加えたストマッカー袋に移して所定の条件にて表面に塗布した菌を洗い出した。この洗い出し原液1mLを、リン酸緩衝液9mLを入れた試験管に移して撹拌し、さらに、10倍希釈を適宜行ったのち、洗い出し原液および各系列希釈液を減菌シャーレ2枚に各々1.0mL分注し、シャーレ1枚当たり、46〜48℃に保温した標準寒天培地15〜20mLを加え、35±1℃で48±4時間培養したのち生育したコロニー数を測定した。
【0085】
対照試料として試験布に試験布重量の1.5倍量のリン酸緩衝液を接種したものについて、被験物質と同様の操作を行って対照群とした。
【0086】
試験は、処理群、対照群ともに同一条件で3回(n=3)実施した。
【0087】
2)試験成立の要件
以下の試験成立条件をすべて満たしたとき、試験が成立したものと見なした。
【0088】
a.試験菌液の生菌数(N)は0.5〜2.5×10
9cfu/mLであること。
【0089】
b.対照群の生菌数(Nc)が、(Log(N×0.01)−LogNc<3)であること。
【0090】
c.乾燥直後の生菌数(Ne)が、試験菌液の生菌数の10%以上であること。
【0091】
Ne/(N×0.01)×100>10%
d.対照試料及び試験試料で3回の拭き取り後、残存菌数の最大値と最小値の差が対数値で1以下であること。
【0092】
3)除菌活性値の計算
次式により除菌活性値(R)を求め、小数点以下2けた目を四捨五入し、小数点以下1けたで表示した。
【0093】
R=A−B
ここで、A:対照試料で3回試行した結果の生菌数(Nc)の常用対数の平均値、
B:試験試料で3回試行した結果の生菌数(Nd)の常用対数の平均値、
である。
【0094】
<<試験結果>>
以下に、除菌性能試験結果(表1)、試験成立条件の判定(表2)および各希釈系列の回収菌数結果(表3)を示す。
【0097】
【表3】
試験に用いる不活性化剤すなわちSCDLPブイヨン培地について、大腸菌および黄色ブドウ球菌に対する被験物質の抗菌活性を停止し得るかどうか、その有効性確認試験を行った。
【0098】
その結果、SCDLPブイヨン培地は被験物質で処理した回収菌数と無処理群の回収菌数との比が大腸菌は1.0、黄色ブドウ球菌は0.8であり、成立要件の「不活性化剤の効果の確認において、試験試料を加えた系の生菌数が試験試料の代わりに適当な希釈液を加えた系の生菌数の50%以上である」を満たしたことから、被験物質である除菌シート(圧縮ドライワイパー除菌液注入品)の除菌成分の不活性化作用を有するものと判定した。
【0099】
大腸菌と黄色ブドウ球菌を用いた除菌活性試験では、大腸菌に対しては1.2、黄色ブドウ球菌に対しては0.3の除菌活性値が得られた。
【0100】
(まとめ)
このように、濃度100ppmの次亜塩素酸の水溶液20mlを1個の圧縮シートに含浸させた被験物質(圧縮ドライワイパー除菌液注入品)の除菌成分が、大腸菌および黄色ブドウ球菌に対し、不活性化作用を有することが確認された。
【0101】
ここでは、大腸菌および黄色ブドウ球菌に対し検討したが、ノロウイルスやインフルエンザウイルスについても不活性化作用を有すると考えられる。例えば、本出願人らの開発した次亜塩素酸を含有する除菌水を生成する除菌水供給システムの効果の検討に際し、濃度15ppm程度の次亜塩素酸の不活性化作用を検証している。この検証に際し、濃度15ppm程度の次亜塩素酸により、2.6×10
4の大腸菌のほぼ100%不活性化を確認している。また、1.6×10
6のA型インフルエンザウイルス、6.3×10
5のネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)に対する不活化効果を確認している。ウイルスに対する作用時間は、7秒、15秒、30秒である。処理後においてそれぞれのウイルスは検出限界以下であった。
【0102】
このような、15ppm程度の次亜塩素酸において、大腸菌、インフルエンザウイルス、ノロウイルスの不活性化が確認できていること、上記被験物質(除菌シートパック)においては、次亜塩素酸の濃度が100ppm程度となること、から、ノロウイルスやインフルエンザウイルスについても不活性化効果を奏するものと考えられる。
【0103】
また、本上記具体例においては、濃度200ppmの次亜塩素酸ナトリウムの水溶液を30ml、濃度0.03%のクエン酸の水溶液を30ml用いたが、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液とクエン酸の水溶液の混合比や濃度を変えてもよい。例えば、前述したとおり、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の濃度は、例えば、50ppm以上500ppm以下の範囲で調整可能であり、クエン酸の水溶液の濃度は、例えば、0.01重量%〜40重量%の範囲で調整可能である。また、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の封入量は、例えば、50ml以上200mlの範囲で調整可能であり、クエン酸の水溶液の封入量は、例えば、10ml〜200mlの範囲で調整可能である。
【0104】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0105】
例えば、上記実施の形態においては、圧縮シートを用いたが、紙や布などの単なるシートを用いてもよい。紙や布も吸水性を有するため、本実施の形態のシートとして用いて好適である。但し、圧縮シートを用いることにより、シートの吸水性がより大きくなり、迅速に、次亜塩素酸液を吸収することができる。
【0106】
また、上記実施の形態においては、第1内袋20と第2内袋30を個別の袋としたが、これらの内袋が連結していてもよい。別の言い方をすれば、内袋に複数の液体室(120、130)を設けてもよい。
図7および
図8は、本実施の形態の内袋の他の構成を示す図である。
【0107】
図7においては、内袋が上下2つの液体室(120、130)を有する。例えば、筒状熱溶着したポリエチレンフィルムの中央部を横方向に熱溶着し、境界熱溶着部23cを形成し、さらに、両側を熱溶着し、熱溶着部(20c、30c)を形成する。これにより、内袋が第1の液体室(第1の内袋部)120と第2の液体室(第2の内袋部)130に分割される。そして、各液体室(120、130)に、それぞれ溶液(20a、30a)を注入し、注入口を熱溶着する。ここで、注入口の熱溶着の際、熱溶着部20b、30bの幅を、両側の熱溶着部20c、30cの幅より小さくすることが好ましい。また、注入口の熱溶着部20b、30bを、三角形状のジグザグ形状とすることが好ましい。このように、内袋を複数の液体室(120、130)に分割し、各溶液を注入してもよい。このような内袋を用いた場合でも、外袋10ごと内袋を折り曲げることにより、内袋の各液体室(120、130)の一部が破断し、各溶液(20a、30a)を混合することができる。また、このような内袋を用いることで、外袋に収容する部品点数を少なくすることができ、除菌シートパックの製造が容易となる。
【0108】
また、
図8に示すように、各溶液(20a、30a)の注入量に応じて、各液体室(120、130)の大きさを調整してもよい。
【0109】
また、上記実施の形態において、アルカリ性溶液20aおよび酸性溶液30aには、各種添加剤(例えば、防腐剤やpH調整剤など)が含まれていてもよい。また、圧縮シートに、防腐処理などを施してもよい。