(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の車両の旋回制御装置において、前記制御ゲイン計算手段は、前記路面摩擦係数が閾値より小さいとき、または、前記ヨーレート偏差が閾値より大きいとき、前記目標ヨーレート計算手段にて用いられる前記ヨー応答特性を、前記車両の持つヨー応答特性に一致させる車両の旋回制御装置。
請求項1または請求項2に記載の車両の旋回制御装置において、前記制御ゲイン計算手段は、予め定められた前記ヨー応答特性から前記車両の持つヨー応答特性に変化させるときよりも、前記車両の持つヨー応答特性から予め定められた前記ヨー応答特性に変化させるときの方が、ヨー応答特性の時間あたりの変化量が緩やかに設定される車両の旋回制御装置。
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両の旋回制御装置において、前記目標ヨーレート計算手段は、実舵角に対する目標ヨーレートの二次遅れ系の計算式で表され、同計算式に含まれるヨー方向の固有振動数またはヨー方向の減衰係数の特性を変化させることで、前記ヨー応答特性を変えるものとした車両の旋回制御装置。
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両の旋回制御装置において、前記路面摩擦係数計算手段は、目標横加速度と、前記車両に設けられた横加速度検出手段で検出された実横加速度との偏差が定められた値よりも大きくなったときの実横加速度の大きさから、前記路面摩擦係数を推定する車両の旋回制御装置。
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車両の旋回制御装置において、前記車両の姿勢を安定化する制御を行う車両姿勢安定化制御装置を備え、この車両姿勢安定化制御装置は、前記目標ヨーレート計算手段で計算された前記目標ヨーレートを、前記車両の姿勢を安定化する制御の目標ヨーレートとして用いる車両の旋回制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のヨーモーメント制御では、タイヤのグリップを考慮していないため、次のような問題がある。例えば、走行する場所の路面摩擦係数が低い場合に旋回性能を向上させるようなヨーモーメント制御を行っても、タイヤのグリップは限界を超えてしまい、車両が不安定になる。
また、旋回程度が限界に近付き車両挙動安定化制御に切り替えたとしても、旋回性能を向上するヨーモーメント制御から車両挙動安定化制御に切り替えると、切り替える前後の操舵に対する車両の旋回特性が変化する。このため、運転者に違和感を与える可能性がある。
【0005】
この発明の目的は、タイヤのグリップ限界を考慮したヨーモーメント制御を行い車両を安定化させることができ、また前記ヨーモーメント制御から車両の姿勢を安定化させる制御に切り替えても、運転者に違和感を与えない車両の旋回制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の車両の旋回制御装置は、各車輪2の制動トルクまたは駆動トルクである制駆動トルクを独立に制御可能な制駆動源4を有する車両1の旋回特性を制御する車両の旋回制御装置において、
車速を検出する車速検出手段18と、
操舵角を検出する操舵角検出手段19と、
前記車速検出手段18で検出される車速および前記操舵角検出手段19で検出される操舵角を用いて、定められたヨー応答特性から前記車両における目標ヨーレートを計算する目標ヨーレート計算手段25と、
この目標ヨーレート計算手段25で計算された前記目標ヨーレートに応じて前記各車輪2の前記制駆動トルクを計算して前記車両1に発生し得るヨーモーメントを計算するヨーモーメント計算手段27と、を備え、
前記目標ヨーレートと前記車両1に設けられたヨーレート検出手段20で検出された実ヨーレートとの差からヨーレート偏差を計算するヨーレート偏差計算手段29、および路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数計算手段24のいずれか一方または両方を備え、
前記ヨーレート偏差計算手段29で計算された前記ヨーレート偏差が大きくなる程、または、前記路面摩擦係数計算手段24で推定された前記路面摩擦係数が小さくなる程、前記目標ヨーレート計算手段25にて用いられる前記ヨー応答特性を、車両1の本来持つヨー応答特性とは異なる予め定められたヨー応答特性から前記車両1の本来持つヨー応答特性に近付ける制御ゲイン計算手段26を備えたことを特徴とする。
前記旋回特性とは、車両の旋回のし易さの特性だけでなく車両の旋回時における車両姿勢の安定度を含む概念である。
前記予め定められたヨー応答特性は、それぞれ試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方により定められる。
【0007】
この構成によると、目標ヨーレート計算手段25は、車速および操舵角を用いて、定められたヨー応答特性から車両における目標ヨーレートを計算する。ヨーモーメント計算手段27は、前記目標ヨーレートに応じて各車輪2の制駆動トルクを計算して車両1のヨーモーメントを計算する。制御ゲイン計算手段26は、計算されたヨーレート偏差が大きくなる程、または、推定された路面摩擦係数が小さくなる程、前記ヨー応答特性を、車両1の持つヨー応答特性とは異なる予め定められたヨー応答特性から前記車両1の持つ(車両本来の)ヨー応答特性に近付ける。このように路面摩擦係数またはヨーレート偏差に応じて、ヨー応答特性を変化させることで、ヨーモーメント制御による車両1の姿勢の変化を抑えることができる。また前記ヨーモーメント制御から車両1の姿勢を安定化させる制御に切り替えても、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【0008】
前記制御ゲイン計算手段26は、前記路面摩擦係数が閾値より小さいとき、または、前記ヨーレート偏差が閾値より大きいとき、前記目標ヨーレート計算手段25にて用いられる前記ヨー応答特性を、前記車両1の本来持つヨー応答特性に一致させるものとしても良い。
前記各閾値は、それぞれ試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方により定められる。
この構成によると、路面摩擦係数が閾値より小さいとき、または、ヨーレート偏差が閾値より大きいとき、ヨーモーメント制御による車両の姿勢変化を略無くすことが可能となる。これにより車両1の姿勢が不安定になるのを防ぐことができる。
【0009】
前記制御ゲイン計算手段26は、予め定められた前記ヨー応答特性から前記車両1の本来持つヨー応答特性に変化させるときよりも、前記車両1の本来持つヨー応答特性から予め定められた前記ヨー応答特性に変化させるときの方が、ヨー応答特性の時間あたりの変化量が緩やかに設定されるものとしても良い。
この場合、予め定められたヨー応答特性から車両1の持つヨー応答特性に変化させるときは即座に車両1の姿勢を安定させ、車両1の本来持つヨー応答特性から予め定められたヨー応答特性に変化させるときは運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【0010】
前記目標ヨーレート計算手段25は、実舵角に対する目標ヨーレートの二次遅れ系の計算式で表され、同計算式に含まれるヨー方向の固有振動数またはヨー方向の減衰係数の特性を変化させることで、前記ヨー応答特性を変えるものとしても良い。このように目標ヨーレート計算手段25を、一般的な二次遅れ系の計算式で表すことで、計算式を簡略化することができる。これと共にヨー方向の固有振動数と減衰係数を別々に調整することができる。
【0011】
前記路面摩擦係数計算手段24は、目標横加速度と、前記車両1に設けられた横加速度検出手段21で検出された実横加速度との偏差が定められた値よりも大きくなったときの実横加速度の大きさから、前記路面摩擦係数を推定するものとしても良い。
前記定められた値は、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方により定められる。
この構成によると、既存の横加速度検出手段21を用いて路面摩擦係数を推定することができるため、安価な制御装置となる。
【0012】
前記車両1の姿勢を安定化する制御を行う車両姿勢安定化制御装置15を備え、この車両姿勢安定化制御装置15は、前記目標ヨーレート計算手段25で計算された前記目標ヨーレートを、前記車両1の姿勢を安定化する制御の目標ヨーレートとして用いても良い。この場合、ヨーモーメント制御から車両1の姿勢を安定化する制御に切り替えても、ヨーモーメント制御で使用する目標ヨーレートと同じ目標ヨーレートを使用するため、操舵に対する車両1の旋回特性が変わらない。このため、運転者に違和感を与えることはない。
【0013】
前記制駆動源4は、前記各車輪2をそれぞれ駆動する電気モータ4であっても良い。この場合、電気モータ4だけで制動トルクまたは駆動トルクを制御しヨーモーメントを発生することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の車両の旋回制御装置は、各車輪の制動トルクまたは駆動トルクである制駆動トルクを独立に制御可能な制駆動源を有する車両の旋回特性を制御する車両の旋回制御装置において、車速を検出する車速検出手段と、操舵角を検出する操舵角検出手段と、前記車速検出手段で検出される車速および前記操舵角検出手段で検出される操舵角を用いて、定められたヨー応答特性から前記車両における目標ヨーレートを計算する目標ヨーレート計算手段と、この目標ヨーレート計算手段で計算された前記目標ヨーレートに応じて前記各車輪の前記制駆動トルクを計算して前記車両に発生し得るヨーモーメントを計算するヨーモーメント計算手段と、を備え、前記目標ヨーレートと前記車両に設けられたヨーレート検出手段で検出された実ヨーレートとの差からヨーレート偏差を計算するヨーレート偏差計算手段、および路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数計算手段のいずれか一方または両方を備え、前記ヨーレート偏差計算手段で計算された前記ヨーレート偏差が大きくなる程、または、前記路面摩擦係数計算手段で推定された前記路面摩擦係数が小さくなる程、前記目標ヨーレート計算手段にて用いられる前記ヨー応答特性を、車両の本来持つヨー応答特性とは異なる予め定められた前記ヨー応答特性から前記車両の本来持つヨー応答特性に近付ける制御ゲイン計算手段を備えた。このため、タイヤのグリップ限界を考慮したヨーモーメント制御を行い車両を安定化させることができ、また前記ヨーモーメント制御から車両の姿勢を安定化させる制御に切り替えても、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態に係る車両の旋回制御装置を
図1ないし
図8と共に説明する。
図1に示すように、旋回制御装置を搭載した車両1として、四輪全てにインホイールモータ駆動装置5を備えた四輪独立駆動式の車両を例に説明する。この車両1は、左右の後輪となる車輪2および左右の前輪となる車輪2が、いずれも制駆動源となる電気モータ4で独立して駆動される。
【0017】
図2に示すように、インホイールモータ駆動装置5は、電気モータ4、減速機6、および車輪用軸受7を有し、これらの一部または全体が車輪2内に配置される。電気モータ4の回転は、減速機6および車輪用軸受7を介して車輪2に伝達される。車輪用軸受7のハブ輪7aのフランジ部には摩擦ブレーキ装置8を構成するブレーキロータ8aが固定され、同ブレーキロータ8aは車輪2と一体に回転する。電気モータ4は、例えば、ロータ4aのコア部に永久磁石が内蔵された埋込磁石型同期モータである。この電気モータ4は、ハウジング4cに固定したステータ4bと、回転出力軸9に取り付けたロータ4aとの間にラジアルギャップを設けたモータである。
【0018】
図1において、制御系を説明する。
車両の旋回制御装置は、電気制御ユニットであるECU10と、各電気モータ4に対して設けられた複数(この例では4つ)のインバータ装置11と、センサ類12とを備える。ECU10は、一般的な機能のメインECU部13と、ヨーモーメント制御装置14と、車両姿勢安定化制御装置15と、インバータトルク指令装置16とを有する。ECU10は、マイクロコンピュータ等のコンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。ECU10と各インバータ装置11とは、CAN(コントロール・エリア・ネットワーク)等の車内通信網で接続されている。
【0019】
メインECU部13は、その基本的な構成として、車両全般の統括制御や協調制御を行う機能と、制駆動指令生成機能とを有する。この制駆動指令生成機能は、図示外のアクセルペダルに設けられたアクセルペダルセンサ17が検出した操作量の指令値であるアクセル指令値から各電気モータ4へ分配するトルク指令値を生成する機能である。運転者が前記アクセルペダルを操作し駆動を指示した場合、前記アクセルペダルの操作量に応じてアクセルペダルセンサ17からアクセル指令値がメインECU部13に入力される。
【0020】
メインECU部13からのアクセルトルク指令値はヨーモーメント制御装置14等を介してインバータ装置11へ送られる。各インバータ装置11は、図示外のバッテリの直流電力を電気モータ4の駆動のための交流電力に変換する手段であって、その出力を制御する制御部(図示せず)を有し、各車輪2毎に分配されたトルク指令値に従って担当の電気モータ4を制御する。各インバータ装置12は、交流電力に変換するスイッチング素子のブリッジ回路等のパワー回路部(図示せず)と、そのパワー回路部を制御する制御部(図示せず)とを有する。
【0021】
センサ類12は、前記アクセルペダルセンサ17、車速検出手段である車速センサ18、操舵角検出手段である舵角センサ19、ヨーレート検出手段であるヨーレートセンサ20、および横加速度検出手段である横加速度センサ21を含む。前記舵角センサ19は、例えば、図示外のステアリングハンドル等の操舵角を検出するセンサである。メインECU部13には、舵角センサ19から操舵角、車速センサ18から車速、横加速度センサ21から実横加速度、ヨーレートセンサ20から実ヨーレートがそれぞれ入力される。各値は、メインECU部13からヨーモーメント制御装置14と車両姿勢安定化制御装置15に出力される。
【0022】
図3に示すように、ヨーモーメント制御装置14は、目標横加速度計算手段22、横加速度偏差計算手段23、路面摩擦係数計算手段24、目標ヨーレート計算手段25、制御ゲイン計算手段26、ヨーモーメント計算手段27、および制駆動トルク計算手段28を含む。
ヨーモーメント制御装置14には、メインECU部13から車速、操舵角、実横加速度、およびアクセルペダルセンサ17からのアクセルトルク指令値が入力される。
【0023】
目標横加速度計算手段22では、車速および舵角と車両の質量およびホイールベース等の車両パラメータから目標横加速度を計算する。横加速度偏差計算手段23では、目標横加速度計算手段22で計算された目標横加速度と、メインECU部13から入力された実横加速度の差から横加速度偏差を計算する。路面摩擦係数計算手段24は、以下の式(1),(2)に従って路面摩擦係数を計算する。
図4は、この旋回制御装置における、横加速度偏差と路面摩擦係数との関係を示す図である。
【0024】
図3および
図4に示すように、路面摩擦係数計算手段24では、横加速度偏差計算手段23から出力された横加速度偏差が閾値Gy
c以下ならば路面摩擦係数μ
estを「1」とし、閾値Gy
cを超えたときは実横加速度Gy
actから路面摩擦係数μ
estを計算する。目標横加速度Gy
ref、実横加速度Gy
act、路面摩擦係数μ
estとすると、
Gy
ref−Gy
act≦Gy
cならばμ
est=1 (1)
Gy
ref−Gy
act>Gy
cならばμ
est≧|Gy
act| (2)
として路面摩擦係数を推定する。
【0025】
図3に示すように、目標ヨーレート計算手段25は、少なくとも車速および操舵角を用いて、定められたヨー応答特性から車両に発生し得るヨーモーメントを計算する。具体的に、目標ヨーレート計算手段25では、例えば、式(3)に示す実舵角δ(s)に対する目標ヨーレートr(s)の二次遅れ系の伝達関数を計算したものが出力される。
【0027】
式(3)は、車速と車両の質量およびホイールベース等の車両パラメータから計算される、G
δr(0):ヨー角速度ゲイン定数、ω
n:ヨー方向の固有振動数、ζ:ヨー方向の減衰係数、T
r:ヨー角速度時定数と、s:ラプラス演算子、α:固有振動数ω
nの制御ゲイン、λ:減衰係数ζの制御ゲインから構成されている。
固有振動数ω
nの制御ゲインαまたは減衰係数ζの制御ゲインλが「1」より大きい場合、目標ヨーレートの立ち上がりが早くなり、制御ゲインα,λが「1」のときは車両の持つ(車両本来の)ヨー応答特性となる。
【0028】
制御ゲイン計算手段26は、この例では、路面摩擦係数計算手段24で計算された路面摩擦係数と、後述するヨーレート偏差計算手段29で計算されたヨーレート偏差のいずれか一方または両方に応じて制御ゲインα,λを計算する。なお後述する
図5、
図6では、固有振動数ω
nの制御ゲインαを例に説明するが、減衰係数ζの制御ゲインλも制御ゲインαと略同様の特性を有するため、制御ゲインλの説明については省略する。
【0029】
図5に示すように、路面摩擦係数またはヨーレート偏差には、それぞれ二つの閾値を設けても良い。例えば、路面摩擦係数が第1の閾値μ
aより小さい、もしくはヨーレート偏差が第1の閾値r
aより大きい場合は、制御ゲインαを初期値(予め定められたヨー応答特性)α
0から「1」に近付けていき、路面摩擦係数が第2の閾値μ
bより小さい、もしくはヨーレート偏差が第2の閾値r
bより大きい場合は、制御ゲインαを「1」に設定する。
【0030】
図3に示すように、制御ゲイン計算手段26は、予め定められたヨー応答特性から車両本来のヨー応答特性に変化させるときよりも、車両本来のヨー応答特性から予め定められたヨー応答特性に変化させるときの方が、ヨー応答特性の時間あたりの変化量が緩やかに設定される。具体的には、
図6に示すように、制御ゲインαが、初期値(予め定められたヨー応答特性)α
0から車両本来のヨー応答特性となる「1」に下がるときよりも、「1」から初期値α
0に戻すときの方が時間あたりの変化量が緩やかである。
【0031】
路面摩擦係数が低い場所では、タイヤはグリップ力を失いやすいため、制御ゲイン計算手段26(
図3)は、制御ゲインαを即座に小さくしてヨーモーメント制御による制駆動トルクを小さくする。
図6に示すように、路面摩擦係数が高い場所では、タイヤのグリップ力が戻るため、制御ゲインαを緩やかに初期値α
0に戻していきヨーモーメント制御による制駆動トルクを大きくすることで、運転者に違和感を与えることがない。
【0032】
図3に示すように、ヨーモーメント計算手段27は、目標ヨーレート計算手段25で計算された目標ヨーレートに応じて各車輪2の制動トルクまたは駆動トルクである制駆動トルクを計算して車両に発生し得るヨーモーメントを計算する。
ヨーモーメント計算手段27では、例えば、式(4)に示す実舵角δ(s)に対するヨーモーメントM
z(s)の三次遅れ系の伝達関数を計算したものが出力される。
【0034】
式(4)は、式(3)と同様に、車速と車両の質量およびホイールベース等の車両パラメータから計算される、G
δr(0):ヨー角速度ゲイン定数、ω
n:ヨー方向の固有振動数、ζ:ヨー方向の減衰係数、T
r:ヨー角速度時定数、G
Mr(0):ヨーモーメントゲイン定数、T
M:ヨーモーメント時定数と、s:ラプラス演算子、α:固有振動数ω
nの制御ゲイン、λ:減衰係数ζの制御ゲインから構成されている。
【0035】
式(4)をみると、制御ゲインαおよびλが「1」であれば、実舵角δ(s)に対するヨーモーメントM
z(s)は零であることがわかる。制駆動トルク計算手段28では、メインECU部13から入力されたアクセルトルク指令値と、式(4)で計算されたヨーモーメントに応じて、四輪の制駆動トルクを決定してトルク指令値Yをインバータトルク指令装置16に指令する。車両姿勢安定化制御が無い場合は前記トルク指令値Yが最終指令トルクとなる。
【0036】
図7は、この車両1が左旋回したときの旋回性能を向上させる向きにヨーモーメントを発生させる例を示す図である。同図において、実線で示す細い矢印は駆動源による駆動トルクを表す。破線で示す細い矢印は駆動源による制動トルクを表す(
図11においても同じ)。太い矢印は制動トルクと駆動トルクの合計値を表し、実線で示す太い矢印は駆動トルク、破線で示す太い矢印は制動トルクの合計値となる(
図11においても同じ)。
【0037】
図7に示す車両では、旋回外輪は駆動トルク、旋回内輪は制動トルクを出力することでヨーモーメントが発生する。もし車両1の旋回中に運転者がアクセル操作もしくはブレーキ操作をした場合、駆動トルクもしくは制動トルクが負荷されるため、車両1は加速もしくは減速する。
【0038】
図3に示すように、車両姿勢安定化制御装置15は、車両の姿勢を安定化する制御を行う。この車両姿勢安定化制御装置15には、メインECU部13から実ヨーレートが入力される。車両姿勢安定化制御装置15は、ヨーレート偏差計算手段29と、車両姿勢状態計算手段30と、制駆動トルク計算手段31とを有する。ヨーレート偏差計算手段29では、前記実ヨーレートと、目標ヨーレート計算手段25で計算された目標ヨーレートとの差からヨーレート偏差を計算する。換言すれば、ヨーレート偏差計算手段29は、目標ヨーレート計算手段25で計算された目標ヨーレートを、車両姿勢安定化制御の目標ヨーレートとして用いる。
【0039】
車両姿勢状態計算手段30では、ヨーレート偏差計算手段29で計算されたヨーレート偏差の大きさから車両の姿勢状態を計算する。
図8は、この車両1の姿勢を三つの状態に分けて示す図である。目標ヨーレートと実ヨーレートの値が略同等である場合は、前述のヨーモーメント制御装置14(
図3)によるヨーモーメント制御によって、
図8に示すように、片側の前後輪が同じ方向に制動トルクもしくは駆動トルクを指令してヨーモーメントを発生させる。
【0040】
それに対し、路面摩擦係数が低い場所等では車両が曲り切れないもしくはスピン状態になりやすくなる。目標ヨーレートをr
ref、実ヨーレートをr
act、閾値をr
bとすれば、車両姿勢状態計算手段30(
図3)は式(5)を充足するときアンダーステア(US)状態と判断する。車両姿勢状態計算手段30(
図3)は式(6)を充足するときオーバーステア(OS)状態と判断する。
【0041】
r
ref>r
actかつ|r
ref−r
act|>r
bならばアンダーステア状態 (5)
r
ref<r
actかつ|r
ref−r
act|>r
bならばオーバーステア状態 (6)
アンダーステア状態の場合は後輪が制御輪、オーバーステア状態の場合は前輪が制御輪として、ヨーモーメントを発生させて車両1の姿勢を安定化させる。
【0042】
図3に示すように、車両姿勢安定化制御装置15の制駆動トルク計算手段31は、路面摩擦係数計算手段24で計算された路面摩擦係数、車両姿勢状態計算手段30で計算された車両姿勢状態、および目標ヨーレート計算手段25で計算された目標ヨーレートから、指令する制動トルクおよび駆動トルクを計算してトルク指令値Eとして指令する。
【0043】
トルク指令値Yとトルク指令値Eは、最終トルク指令値を計算するインバータトルク指令装置16に入力される。このインバータトルク指令装置16は、トルク指令値Yとトルク指令値Eから計算した最終トルク指令値をインバータ装置11へ指令する。インバータ装置11は、最終トルク指令値となるよう電流を制御してインホイールモータ駆動装置5を駆動する。
【0044】
以上説明した車両の旋回制御装置によると、目標ヨーレート計算手段25は、車速および操舵角を用いて、定められたヨー応答特性から車両1における目標ヨーレートを計算する。ヨーモーメント計算手段27は、目標ヨーレートに応じて各車輪2の制駆動トルクを計算して車両1のヨーモーメントを計算する。制御ゲイン計算手段26は、推定された路面摩擦係数が小さくなる程、または、計算されたヨーレート偏差が大きくなる程、ヨー応答特性を、車両本来のヨー応答特性とは異なる予め定められたヨー応答特性から車両本来のヨー応答特性に近付ける。このように路面摩擦係数またはヨーレート偏差に応じて、ヨー応答特性を変化させることで、ヨーモーメント制御による車両1の姿勢の変化を抑えることができる。またヨーモーメント制御から車両1の姿勢を安定化させる制御に切り替えても、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【0045】
制御ゲイン計算手段26は、路面摩擦係数が閾値より小さいとき、または、ヨーレート偏差が閾値より大きいとき、目標ヨーレート計算手段25にて用いられるヨー応答特性を、車両本来のヨー応答特性に一致させる。したがって、路面摩擦係数が閾値より小さいとき、または、ヨーレート偏差が閾値より大きいとき、ヨーモーメント制御による車両1の姿勢変化を略無くすことが可能となる。これにより車両1の姿勢が不安定になるのを防ぐことができる。
【0046】
制御ゲイン計算手段26は、予め定められたヨー応答特性から車両本来のー応答特性に変化させるときよりも、車両本来のヨー応答特性から予め定められたヨー応答特性に変化させるときの方が、ヨー応答特性の時間あたりの変化量が緩やかに設定される。このため、予め定められたヨー応答特性から車両本来のヨー応答特性に変化させるときは即座に車両1の姿勢を安定させ、車両本来のヨー応答特性から予め定められたヨー応答特性に変化させるときは運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【0047】
目標ヨーレート計算手段25は、実舵角に対する目標ヨーレートの二次遅れ系の計算式で表され、同計算式に含まれるヨー方向の固有振動数またはヨー方向の減衰係数の特性を変化させることで、前記ヨー応答特性を変える。このように目標ヨーレート計算手段25を、一般的な二次遅れ系の計算式で表すことで、計算式を簡略化することができる。これと共にヨー方向の固有振動数と減衰係数を別々に調整することができる。
【0048】
車両姿勢安定化制御装置15は、目標ヨーレート計算手段25で計算された目標ヨーレートを、車両1の姿勢を安定化する制御の目標ヨーレートとして用いている。このため、ヨーモーメント制御から車両1の姿勢を安定化する制御に切り替えても、ヨーモーメント制御で使用する目標ヨーレートと同じ目標ヨーレートを使用するため、操舵に対する車両1の旋回特性が変わらない。このため、運転者に違和感を与えることはない。
【0049】
他の実施形態について説明する。
図9に示すように、制御ゲイン計算手段26は、ヨーレート偏差を用いず、路面摩擦係数計算手段24で計算された路面摩擦係数のみに応じて制御ゲインを計算しても良い。
図10に示すように、制御ゲイン計算手段26は、路面摩擦係数を用いず、ヨーレート偏差計算手段29で計算されたヨーレート偏差のみに応じて制御ゲインを計算しても良い。
これら
図9または
図10の構成によれば、
図3の構成よりも旋回制御装置の演算処理負荷の低減を図ることができる。
【0050】
車両として、前述の四輪全てにインホイールモータ駆動装置を備えた車両以外に、制動トルクに摩擦ブレーキを使用した車両を適用しても良い。
図11(a)では、内燃機関を駆動源とする四輪駆動車、
図11(b)では、同駆動源を持つ前輪駆動車、
図11(c)では、同駆動源を持つ後輪駆動車において、それぞれ摩擦ブレーキを用いてヨーモーメント制御を行うことができる。
図11の各車両1によれば、旋回外輪はエンジン出力による駆動トルク、旋回内輪は駆動トルクよりも大きな摩擦ブレーキによる制動トルクを出力することでヨーモーメントが発生する。
【0051】
インホイールモータ駆動装置においては、サイクロイド式の減速機、遊星減速機、2軸並行減速機、その他の減速機を適用可能であり、また、減速機を採用しない、所謂ダイレクトモータタイプであっても良い。
車両として、左右輪それぞれに対応させて車体に設置された二つのモータの出力をドライブシャフト等を介して各車輪にそれぞれ伝達し、各車輪の制駆動トルクを独立に制御する車両にも適用し得る。
【0052】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。