(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578229
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】落雷位置標定システム、落雷位置標定装置、及び落雷位置標定方法
(51)【国際特許分類】
G01W 1/16 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
G01W1/16 E
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-37958(P2016-37958)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-156158(P2017-156158A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年8月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】594086082
【氏名又は名称】株式会社フランクリン・ジャパン
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100101063
【弁理士】
【氏名又は名称】松丸 秀和
(72)【発明者】
【氏名】松井 倫弘
(72)【発明者】
【氏名】大川 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】道下 幸志
【審査官】
福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−189387(JP,A)
【文献】
特開2006−194643(JP,A)
【文献】
特表平11−510252(JP,A)
【文献】
特開2012−103209(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/077337(WO,A1)
【文献】
特開2009−109503(JP,A)
【文献】
米国特許第06064340(US,A)
【文献】
中国実用新案第204129120(CN,U)
【文献】
松井 倫弘 他,JLDNによって観測されたFlashの多重度の検討,平成23年 電気学会全国大会講演論文集(第7分冊),2011年 3月16日,218頁
【文献】
牛尾 知雄 他,雷放電に伴う電界変化の時間同期多地点観測,電気学会論文誌B,1994年,Vol.114,No.11,1160〜1167頁
【文献】
林 雅明,落雷位置標定システムの検出性能向上,電力技術研究所 技術開発ニュース,2014年 8月,No.151,23〜24頁
【文献】
松井 倫弘,落雷位置標定システム(L.L.S.),平成27年 電気学会全国大会講演論文集(第7分冊),2015年 3月24日,S9(6)〜S9(9)
【文献】
北條 準一 他,落雷に伴う電磁界変化波形の特性と評価法,電気学会論文誌B,1988年,Vol.108,No.4,165〜172頁
【文献】
吉橋 幸子 他,電波干渉計による夏季多重雷の三次元標定,電気学会論文誌B,1999年 9月,Vol.119,No.5,605〜613頁
【文献】
高田 吉治,技術連載その30 雷,日本風力エネルギー学会誌,2012年,Vol.36,No.3
【文献】
本間 規泰,電磁界観測に基づく雷パラメータ,平成25年 電気学会全国大会講演論文集(第7分冊),2013年 3月20日,S3(10)〜S3(13)
【文献】
新庄 一雄 他,落雷位置標定システムの精度と落雷頻度マップの送電線トリップ事故に基づく評価,電気学会論文誌B,日本,社団法人電気学会,1997年,Vol.117,No.11,1448〜1457
【文献】
清水 和彦 他,多重雷の電磁界による多地点同時観測,電気学会論文誌B,1998年,Vol.118,No.2,164〜169
【文献】
D.A.Smith et al.,A method for determining intracloud lightning and ionospheric heghts from VLF/LF electric field records,RADIO SCIENCE,2004年,Vol.39,RS1010(1-11)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
落雷による電磁波を検知し、観測データを送信する複数の受信局と、
前記複数の受信局のそれぞれからの前記観測データを受信し、落雷位置を標定する落雷位置標定装置と、を有し、
前記落雷位置標定装置は、
受信した前記観測データを用いて複数の雷撃の位置を標定する処理と、
1つの落雷に含まれる前記複数の雷撃の中で、最初の雷撃と極性が反対の雷撃を取り除く処理と、
前記最初の雷撃と前記極性が反対の雷撃が取り除かれた標定結果を出力する処理と、を実行し、
前記落雷位置標定装置は、前記取り除く処理を実行するとき、対象の雷撃の位置と前記最初の雷撃の位置との距離が10km以内か否か判断する処理と、前記対象の雷撃と直前の雷撃との第1の発生時間差が500ms以下であるか否か判断する処理とを実行し、前記対象の雷撃の位置と前記最初の雷撃の位置との距離が10km以内であった場合、かつ、前記第1の発生時間差が500ms以下であった場合に、前記対象の雷撃について極性を判定する、落雷位置標定システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記落雷位置標定装置は、前記最初の雷撃の位置を前記落雷位置として標定する、落雷位置標定システム。
【請求項3】
請求項1において、
前記落雷位置標定装置は、前記最初の雷撃の発生時間から所定時間内に発生した雷撃の数を前記落雷の多重度とし、前記標定結果に当該多重度の情報を含めて出力する、落雷位置標定システム。
【請求項4】
請求項1において、
前記落雷位置標定装置は、さらに、前記対象の雷撃と直前の雷撃との第2の発生時間差が0.1ms以上であるか否か判断する処理を実行し、前記第2の発生時間差が0.1ms以上である場合に、前記対象の雷撃について極性を判定し、前記取り除く処理を実行する、落雷位置標定システム。
【請求項5】
請求項4において、
前記落雷位置標定装置は、前記第2の発生時間差が0.1ms未満である場合、前記対象の雷撃について極性を判定することなく取り除く、落雷位置標定システム。
【請求項6】
落雷による電磁波を検知して観測データを送信する複数の受信局のそれぞれからの前記観測データを受信し、落雷位置を標定する落雷位置標定装置であって、
前記落雷位置を標定する処理を実行するプロセッサを備え、
前記プロセッサは、
受信した前記観測データを用いて複数の雷撃の位置を標定する処理と、
前記複数の雷撃の中で、最初の雷撃と極性が反対の雷撃を取り除く処理と、
前記最初の雷撃と前記極性が反対の雷撃が取り除かれた標定結果を出力する処理と、を実行し、
前記プロセッサは、前記取り除く処理を実行するとき、対象の雷撃の位置と前記最初の雷撃の位置との距離が10km以内か否か判断する処理と、前記対象の雷撃と直前の雷撃との第1の発生時間差が500ms以下であるか否か判断する処理とを実行し、前記対象の雷撃の位置と前記最初の雷撃の位置との距離が10km以内であった場合、かつ、前記第1の発生時間差が500ms以下であった場合に、前記対象の雷撃について極性を判定する、落雷位置標定装置。
【請求項7】
落雷による電磁波を検知して観測データを送信する複数の受信局のそれぞれからの前記観測データを用いて落雷位置を標定する落雷位置標定方法であって、
前記落雷位置を標定する処理を実行するプロセッサが、受信した前記観測データを用いて複数の雷撃の位置を標定することと、
前記プロセッサが、前記複数の雷撃の中で、最初の雷撃と極性が反対の雷撃を取り除くことと、
前記プロセッサが、前記最初の雷撃と前記極性が反対の雷撃が取り除かれた標定結果を出力することと、
を含み、
前記プロセッサは、前記最初の雷撃と極性が反対の雷撃を取り除く際に、対象の雷撃の位置と前記最初の雷撃の位置との距離が10km以内か否か判断する処理と、前記対象の雷撃と直前の雷撃との第1の発生時間差が500ms以下であるか否か判断する処理とを実行し、前記対象の雷撃の位置と前記最初の雷撃の位置との距離が10km以内であった場合、かつ、前記第1の発生時間差が500ms以下であった場合に、前記対象の雷撃について極性を判定する、落雷位置標定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷位置標定システム、落雷位置標定装置、及び落雷位置標定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
落雷による被害の把握や、迅速な復旧作業のための被害場所の特定などのため、落雷位置を標定するシステムがある。よく知られている方法は、落雷により放出された電磁波を検知するセンサ(観測点)を複数設置し、電磁波が発生した方向(MDF方式)や、電磁波を検知した時間差などを利用して落雷位置を標定する方法(TOA方式)である。このような方法で日本全国をカバーした落雷位置標定システムとしてJLDN(Japan Lightning Detection Network:全国雷観測ネットワーク)がある(非特許文献1参照)。
【0003】
また、近年では、MDF方式とTOA方式を組み合わせて落雷の位置標定を行う方法(IMPACT方式)も用いられている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JLDN(全国雷観測ネットワーク),株式会社フランクリン・ジャパン,<http://www.franklinjapan.jp/>
【非特許文献2】Kenneth L. Cummins, Martin J. Murphy, Edward A. Bardo, William L. Hiscox, Richard B. Pyle, and Alburt E. Pifer, “A Combined TOA/MDF Technology Upgrade of the U.S. National Lightning Detection Network”, JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH, VOL. 103, NO. D8, PAGES 9035-9044, APRIL 27, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1や2による落雷位置標定方式では、落雷を構成する複数の雷撃から派生する電磁波を受信し、各雷撃を特定し、落雷位置(例えば、大地雷の場合)や雷発生位置(例えば、雲放電の場合)を標定する。
【0006】
しかしながら、上述の落雷位置標定方式を用いたシステムは、真正の雷撃からの電磁波だけでなく、その電磁界波形の反射波や変動によって生じたピーク波形(後続ピーク波形)を真正の雷撃であると誤って検知してしまうことが多々ある。落雷の多重度は、1つの落雷に含まれる雷撃の数によって決まる。従って、本来雷撃ではない後続ピーク波形を雷撃として取り扱うと、落雷の多重度を正確に求めることができない。従って、このような誤検知された雷撃は標定結果から取り除くことが望ましい。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、より正確な標定結果を出力するための技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明による落雷位置標定システムは、落雷による電磁波を検知し、観測データを送信する複数の受信局と、複数の受信局のそれぞれからの観測データを受信し、落雷位置を標定する落雷位置標定装置と、を備える。そして、当該落雷位置標定装置は、受信した観測データを用いて複数の雷撃の位置を標定する処理と、複数の雷撃の中で、最初の雷撃と極性が反対の雷撃を取り除く処理と、最初の雷撃と極性が反対の雷撃が取り除かれた標定結果を出力する処理と、を実行する。
【0009】
本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本発明の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。
【0010】
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本発明の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味に於いても限定するものではないことを理解する必要がある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、真正な雷撃のみによる標定結果を出力することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】大地雷放電の電界波形を落雷位置標定システムのセンサで受信した波形を示す図である。
【
図2】雲放電の電界波形を落雷位置標定システムのセンサで受信した波形を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態による落雷位置標定システム1の概略構成例を示す機能ブロック図である。
【
図4】2局のセンサのベースライン上に発生した落雷の位置標定を行った例を示す図である。
【
図5】パラメータとして提供される、標定された個々のデータの信頼性を示す誤差楕円を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態による落雷位置標定システム1における落雷位置標定処理を説明するためのフローチャートである
【
図7】本発明の実施形態の落雷位置標定システム1における雷撃誤検知判定処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
現存する落雷位置標定システムは、雷撃を検知した後にその雷撃とは反対の極性を持ったピーク波形を検知することがあり、これをも雷撃と判断してしまう。しかし、そのような反対極性を持ったピーク波形は、雷撃による電磁界波形の反射および変位によって生じたものであり、これを上記システムが雷撃として誤検知してしまっている。そこで、本発明の実施形態は、このような真正の雷撃直後に出現する反対極性を持ったピーク波形を取り除くための技術について開示する。
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0015】
本実施形態では、当業者が本発明を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本発明の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0016】
更に、本発明の実施形態は、後述されるように、汎用コンピュータ上で稼動するソフトウェアで実装しても良いし専用ハードウェア又はソフトウェアとハードウェアの組み合わせで実装しても良い。
【0017】
以下では「プログラムとしての各処理部(例えば、明暗補正部等)」を主語(動作主体)として本発明の実施形態における各処理について説明を行うが、プログラムはプロセッサ(CPU等)によって実行されることで定められた処理をメモリ及び通信ポート(通信制御装置)を用いながら行うため、プロセッサを主語とした説明としてもよい。
【0018】
<誤検知される後続ピーク波形及び誤検知の理由について>
図1は、大地雷放電の電界波形を落雷位置標定システムのセンサで受信した波形を示している。
図2は、雲放電の電界波形を落雷位置標定システムのセンサで受信した波形を示す図である。両放電とも、最初のピークは真正(本物)の雷撃であるが、後続のピークは、最初のピークの反射もしくは電磁界の変動によって生じたものであり、真正の雷撃ではない。後続のピークは、最初のピークと発生場所が同じなので、落雷位置標定システムでは、最初のピークとほぼ同じ場所に標定され、同一の落雷に含まれる雷撃とされてしまう場合が多い。これは、以前のシステムでは、真正の雷撃を処理している間に後続ピーク波形が出現するため当該後続ピーク波形を検知することができなかったが、近年のシステムではCPUの性能(例えば、処理速度)が向上したため、このような後続ピーク波形も検知することができるようになったからである。
【0019】
なお、IEC62858の規格によれば、同一の落雷に含まれる雷撃は次のように定義されている。
(i)落雷は、単一の雷撃もしくは複数の雷撃からなる。
(ii)最初の雷撃が発生してから1秒以内に、10km以内で発生した雷撃のうち、雷撃どうしの間隔が500ms以下のものを同一の落雷に含まれる雷撃とする。
【0020】
この定義からしても、後続ピーク波形は、上記定義(特に定義(ii))に該当すれば、雷撃と判断されてしまう。
【0021】
本実施形態では、後述のアルゴリズムによって誤って雷撃であると検知されたピーク波形を取り除いている。つまり、当該アルゴリズムは、落雷位置標定システムの位置計算結果出力(雷撃位置標定結果出力)に対するフィルターとして用いることができる。
【0022】
<落雷位置標定システムの構成>
図3は、本発明の実施形態による落雷位置標定システム1の概略構成例を示す機能ブロック図である。落雷位置標定システム1は、落雷位置標定装置10と、複数の各地に配置され雷撃の観測データを計測する複数の受信局140−1〜140−nと、を有している。落雷位置標定装置10と複数の受信局140−1〜140−nとはネットワーク150を介して接続されている。ネットワーク150は一例としてインタネットを用いても良いし、専用線を用いても良い。
【0023】
落雷位置標定装置10は、必要な演算処理及び制御処理等を行う中央処理装置(プロセッサ)100と、データの入出力を行うための入出力装置110と、中央処理装置100での処理に必要なプログラムを格納するプログラムメモリ120と、中央処理装置100での処理対象となるデータまたは処理後のデータを格納する記憶装置130と、を備えている。
【0024】
入出力装置110は、データを表示するための表示装置111やプリンタ(図示せず)等で構成される出力デバイスと、表示されたデータに対してメニューを選択するなどの操作を行うためのキーボード112、マウスなどのポインティングデバイス113と、を有している。
【0025】
プログラムメモリ120は、各受信局から送信されてきた雷撃の観測データを用いて雷撃位置を標定する落雷位置標定プログラム121と、雷撃の観測データが誤検知されたものか判定し、誤検知の場合に対象観測データを除去する観測データ判定プログラム122と、標定結果を表示装置111の画面上に出力する標定結果提示プログラム123と、を格納している。各処理プログラムは、プログラムコードとしてプログラムメモリ120に格納されており、中央処理装置100が各プログラムコードを実行することによって各処理が実現される。なお、本実施形態では、観測データ判定プログラム122を落雷位置標定システム1内に設定しているが、当該システム1とは物理的に異なるコンピュータ内に設定しても良い。
【0026】
記憶装置130は、複数の受信局140−1〜140−nのそれぞれの位置座標(GPSデータ)を格納する受信局座標データ131と、標定範囲(日本全国地図であっても良い)の地図データ132と、を格納している。なお、記憶装置130は、ネットワークを介して遠隔的に配置されていているストレージシステムであってもよい。
【0027】
以上に述べた処理プログラム・データ・各プログラム等は、CD−ROM、DVD−ROM、MO、フロッピー(登録商標)ディスク、USBメモリ等の種々の記録媒体に格納して提供することもできる。
【0028】
<雷撃位置標定の原理概要>
現在、雷撃位置を標定する方法として、主に、MDF(Magnetic Direction Finder)方式、TOA(Time of Arrival)方式、及びMDF方式とTOA方式を組み合わせたIMPACT(Improved Accuracy from Combined Technology)方式の3つが提案されている。何れの方式を用いて雷撃位置を標定しても良い。以下、各方式の概要について簡単に説明する。
【0029】
(1)MDF方式の動作原理概要
MDF方式では、各受信局(各観測点)におけるセンサが雷放電から放射された電磁波の伝搬方位を特定し、複数のセンサが検知した方位の交点を雷放電源とする方式である。センサには、直交ループアンテナが取り付けられており、これによって南北(N−S)と東西(E−W)方向の受信磁界信号強度比から電磁波の到来方向を特定する。ただし、直交ループアンテナによる到達方位の推定には、180度の不確定性が含まれる。
【0030】
平板電界アンテナは、雷放電の極性を特定するために使われるほか、電磁波の到来方向を特定するためにも使用される。
【0031】
MDF方式では、センサの方位合わせの精度が、位置標定精度に大きく影響する。方位合わせは、いわゆるGnomon(日時計)をセンサの上部に取り付け、センサの設置位置の緯度経度から、計算によって日時計によってできる影の方位と時刻を調べ、その方位に合わせる作業を、技術員が手作業で行う。このように日時計を利用するため、晴れ以外の日に方位合わせが行えないという課題はある。現在では、この方位合わせは、一定期間データをTOA方式で位置標定を行い、その後統計学的手法を用いて、センサの方位合わせを行うようになっている。
【0032】
(2)TOA方式の動作原理
TOA方式では、異なる2地点に設置されているセンサにおいて雷放電が放出する電磁波の受信時刻差が一定な双曲線を回転楕円体上に描くという原理を応用したものである。最小で3局のセンサにおける電磁波の到達時刻が分かれば、雷放電源の位置の標定が可能である。
【0033】
しかし、受信局が3局のみの場合、電磁波の受信時刻差が作る2つの双曲線の交点が2か所現れることが起こり得る。そのため、TOA方式だけで位置標定を行う場合、最低4局のセンサが必要となる。
【0034】
(3)IMPACT方式の動作原理概要
図4は、2局のセンサのベースライン上に発生した落雷の位置標定を行った例を示している。雷撃時刻をT0とし、センサS1、S2間における雷放電が放出した電磁波の受信時刻を、それぞれT1、T2とすると、受信時刻差から、それぞれのセンサから雷撃点までの距離r1とr2を求めることができる。そして、センサS1、S2が推定した電磁波の到来方向を、それぞれθ1、θ2とする。半径r1、r2の円とθ1、θ2のベクトルが交差するようにT0を決定すると、雷撃点の位置を推定できる。
【0035】
3局以上の場合は、方位、信号強度、到達時刻データから、統計的に最も誤差が少ないと推定される位置を算出する手法がとられ、最適化標定手法と呼ばれている。最適化計算においては、式(1)に示すように、到来方向、信号強度、到達時間差のデータの誤差総和を最小とする点が求められている。また、
図5に示されるような標定された個々のデータの信頼性を示す誤差楕円もパラメータとして提供される。
【0037】
<落雷位置標定処理の詳細>
図6は、本発明の実施形態による落雷位置標定システム1における落雷位置標定処理の詳細を説明するためのフローチャートである。落雷は、前述のように、単一の雷撃若しくは複数の雷撃によって構成される。そして、1つの落雷については、最初の雷撃の位置によって落雷位置が標定され、1つの落雷に含まれる全ての雷撃によって落雷の多重度が決定される。
【0038】
(i)ステップ101
雷撃があると、各観測点に設置された各受信局140−1〜nは、雷撃によって発生した雷放電による電磁波を検知する。
【0039】
(ii)ステップ102
落雷位置標定装置10は、通信デバイス(図示せず)を用いて、各受信局(各観測点)140−1〜140−nから雷撃の観測データを受信する。観測データには、各受信局を識別するための識別情報(受信局ID)と雷放電による電磁波の検知(観測)時刻の情報や電磁波の伝搬方位の情報が含まれる。なお、各受信局140−1〜140−nは、受信局IDの代わりに、落雷位置標定装置10と該当する受信局との距離の情報を観測データとして送信しても良い。
【0040】
(iii)ステップ103
落雷位置標定プログラム121は、受信した全観測データを用いて、各雷撃の位置を標定する。標定方式は、上述の3つの方式の何れを用いても良いが、これらの方式以外のものであっても良い。なお、この段階では、観測データのうち雷撃でないピーク波形も雷撃と判断して標定を行っている。後述のステップ105において、標定に用いたピーク波形が1つの落雷に含まれる雷撃か否か判断され、雷撃でない場合には排除されることになる。
【0041】
(iv)ステップ104
落雷位置標定プログラム121は、ステップ103で標定された雷撃データ(雷撃でないものも含む)を、最初の雷撃の発生から1秒以内に発生したもので分類する。最初の雷撃から1秒を過ぎて発生した雷撃は、最初の雷撃グループには含まれず(1つの落雷を構成する雷撃ではない)、次の雷撃グループ(次の1秒間に含まれる雷撃のグループ)を構成する最初の雷撃となる。従って、例えば数秒間以上に亘って落雷があった場合、複数の雷撃グループが生成されることになる。
【0042】
(v)ステップ105
観測データ判定プログラム122は、雷撃のグループ(例えば、1秒間)ごとに、当該グループに含まれる、雷撃として標定されたピーク波形に関して誤検知の有無を判定し、雷撃であると誤検知したピーク波形を標定結果から除外する。ステップ105の詳細は
図5を用いて説明する。
【0043】
(vi)ステップ106
落雷位置標定プログラム121は、ステップ103の処理結果とステップ105の処理結果とに基づいて、落雷位置と落雷の多重度を決定する。具体的には、落雷位置は、最初の雷撃が発生した位置であり、落雷の多重度は、1つの落雷に含まれる雷撃の数となる。従って、雷撃であると誤検知されると、落雷の多重度の精度に影響を与えることになる。本実施形態によれば、雷撃と誤検知されたピーク波形は標定結果から除外されるので、落雷の多重度を精度よく提示することが可能となる。
【0044】
(vii)ステップ107
標定結果提示プログラム123は、表示装置111の表示画面上に標定結果(落雷位置と多重度)を表示する。なお、図示しないプリンタによって標定結果を印刷するようにしてもよい。
【0045】
<雷撃誤検知判定処理(ステップ105)の詳細>
図7は、本発明の実施形態の落雷位置標定システム1における雷撃誤検知判定処理の詳細を説明するためのフローチャートである。当該フローチャートにおけるステップ201からステップ206までの処理は、ステップ104で分類された雷撃グループ(ピーク波形グループ)毎に、かつ各雷撃グループに含まれる検知されたピーク波形(検知ピーク波形)の全てに対して実行される。
【0046】
まず、例えば、最初のピーク波形グループ(i=1)が選択され、当該最初のピーク波形グループに含まれる検知ピーク波形(j=1)に対して処理が実行される。
【0047】
(i)ステップ201
観測データ判定プログラム122は、処理対象の雷撃である検知されたピーク波形が最初の雷撃の半径10kmの範囲内で発生したものであるか否か判断する。各雷撃(ピーク波形)の発生位置はステップ103において標定されているため、最初の雷撃の発生位置からの距離は容易に算出することができる。最初の雷撃との距離が10km以下の場合(ステップ201でYesの場合)、処理はステップ202に移行する。最初の雷撃との距離が10kmより大きい場合(ステップ201でNoの場合)、処理はステップ206に移行する。なお、処理対象のピーク波形が最初の雷撃に相当する場合、処理が直ぐにステップ206に移行し、当該雷撃データ及びその標定結果は除外されないようにしても良い。
【0048】
(ii)ステップ202
観測データ判定プログラム122は、処理対象の雷撃(ピーク波形)とその直前の雷撃(ピーク波形)との発生時間差が500ms以下であるか否か判断する。発生時間差が500ms以下である場合(ステップ202でYesの場合)、処理はステップ203に移行する。発生時間差が500msより大きい場合(ステップ202でNoの場合)、処理はステップ206に移行する。
【0049】
(iii)ステップ203
観測データ判定プログラム122は、処理対象の雷撃(ピーク波形)とその直前の雷撃(ピーク波形)との発生時間差が0.1ms以上であるか否か判断する。発生時間差が0.1ms以上である場合(ステップ203でYesの場合)、処理はステップ204に移行する。発生時間差が0.1ms未満である場合(ステップ203でNoの場合)、処理はステップ205に移行する。
【0050】
0.1ms未満の場合に極性の判断を必要としない理由は、雷撃間の時間差が0.1ms未満の電界波形について検証したところ、後続の雷撃(第2の雷撃)のすべてが先行の雷撃(第1雷撃)の波形に含まれており、極性の判断なしで排除することが可能であると判明したからである。
【0051】
(iv)ステップ204
観測データ判定プログラム122は、処理対象の雷撃(ピーク波形)の極性がその直前の雷撃(ピーク波形)の極性と反対であるか否か判断する。処理対象の雷撃(ピーク波形)の極性がその直前の雷撃(ピーク波形)の極性とは逆である場合(ステップ204でYesの場合)、処理はステップ205に移行する。処理対象の雷撃(ピーク波形)の極性がその直前の雷撃(ピーク波形)の極性と同じである場合(ステップ204でNoの場合)、処理はステップ206に移行する。
【0052】
(v)ステップ205
観測データ判定プログラム122は、処理対象のピーク波形を、誤検知したものとして標定結果から排除する。
【0053】
(vi)ステップ206
観測データ判定プログラム122は、処理対象のピーク波形を、雷撃であると適切に検知したものとして標定結果に残す。
【0054】
<まとめ>
(i)本発明の実施形態による落雷位置標定システムでは、受信した観測データを用いて1つの落雷に含まれる複数の雷撃の位置を標定する。また、標定された複数の雷撃の中で、最初の雷撃と極性が反対の雷撃が取り除かれ、最初の雷撃と極性が反対の雷撃が取り除かれた標定結果が出力される。落雷の位置としては、標定された複数の雷撃の位置のうちで最初の雷撃の位置が出力されるようにしても良い。なお、複数の雷撃の位置の平均であっても良い。このようにすることにより、落雷の多重度を正確に求めることができ、落雷の標定結果をより正確に提示することができるようになる。
【0055】
本実施形態による落雷位置標定装置では、最初の雷撃の発生時間から所定時間内(例えば、1秒以内)に発生した雷撃の数が落雷の多重度とされる。この多重度の情報は標定結果に含められ、出力される。さらに、落雷位置標定装置では、対象の雷撃の位置と前記最初の雷撃の位置との距離が10km以内か否か判断される。当該距離が10km以内であった場合にのみ、対象の雷撃について極性が判定され、極性が最初の雷撃と反対である場合に、当該対象の雷撃が取り除かれる。またさらに、落雷位置標定装置では、対象の雷撃と直前の雷撃との第1の発生時間差が500ms以下であるか否か判断される。第1の発生時間差が500ms以下であった場合には、対象の雷撃について極性が判定され、極性が最初の雷撃と反対である場合に、当該対象の雷撃が取り除かれる。このようにすることにより、IEC62858の規格に沿った雷撃情報を提供することができるようになる。
【0056】
本実施形態による落雷位置標定装置では、さらに、対象の雷撃と直前の雷撃との第2の発生時間差が0.1ms以上であるか否か判断される。当該第2の発生時間差が0.1ms以上である場合に、対象の雷撃について極性が判定され、極性が最初の雷撃と反対である場合に、当該対象の雷撃が取り除かれる。一方、第2の発生時間差が0.1ms未満である場合、対象の雷撃について極性が判定されることなく取り除かれる。0.1ms未満の場合に極性の判断を必要としない理由は、雷撃間の時間差が0.1ms未満の電界波形について検証したところ、後続の雷撃(第2の雷撃)のすべてが先行の雷撃(第1雷撃)の波形に含まれており、極性の判断なしで排除することが可能であると判明したからである。従って、余分な処理を実行する必要がなくなり、プロセッサへの負荷を軽減することが可能となる。
【0057】
(ii)本発明は、実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0058】
また、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書きこまれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【0059】
さらに、実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを、ネットワークを介して配信することにより、それをシステム又は装置のハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD−RW、CD−R等の記憶媒体に格納し、使用時にそのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行するようにしても良い。
【0060】
最後に、ここで述べたプロセス及び技術は本質的に如何なる特定の装置に関連することはなく、コンポーネントの如何なる相応しい組み合わせによってでも実装できる。更に、汎用目的の多様なタイプのデバイスがここで記述した方法に従って使用可能である。ここで述べた方法のステップを実行するのに、専用の装置を構築するのが有益である場合もある。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。本発明は、具体例に関連して記述したが、これらは、すべての観点に於いて限定の為ではなく説明の為である。本分野にスキルのある者には、本発明を実施するのに相応しいハードウェア、ソフトウェア、及びファームウエアの多数の組み合わせがあることが解るであろう。例えば、記述したソフトウェアは、アセンブラ、C/C++、perl、Shell、PHP、Java(登録商標)等の広範囲のプログラム又はスクリプト言語で実装できる。
【0061】
さらに、上述の実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていても良い。
【0062】
加えて、本技術分野の通常の知識を有する者には、本発明のその他の実装がここに開示された本発明の明細書及び実施形態の考察から明らかになる。記述された実施形態の多様な態様及び/又はコンポーネントは、単独又は如何なる組み合わせでも使用することが出来る。
【符号の説明】
【0063】
1 落雷位置標定システム
10 落雷位置標定装置
110 入出力装置
111 表示装置
112 キーボード
113 ポインティングデバイス
100 中央処理装置
120 プログラムメモリ
121 落雷位置標定プログラム
122 観測データ判定プログラム
123 標定結果提示プログラム
130 記憶装置
131 受信局座標データ
132 地図データ
140−1乃至140−n 受信局
150 ネットワーク