(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、1次慣性力及び2次慣性力に起因する振動を低減するための方策について、鋭意検討した。その結果、以下の知見を得るに至った。
【0015】
1次慣性力に起因する振動には、1次慣性力が並進力として作用することによる振動と、偶力として作用することによる振動とがある。同様に、2次慣性力に起因する振動には、2次慣性力が並進力として作用することによる振動と、偶力として作用することによる振動とがある。
【0016】
これらの振動を低減するには、例えば、エンジンを直列4気筒エンジンとし、且つ、クランクシャフトをクロスプレーン式とし、さらに、1次慣性力が偶力として作用することによる振動を低減するためのバランサ(1次偶力バランサ)を備えることが考えられる。ここで、クロスプレーン式のクランクシャフトでは、クランクシャフトの軸方向から見たときに、4つのクランクピンがクランクシャフトの軸心周りで等間隔に配置される。具体的には、第1のクランクピンは、第4のクランクピンに対して、クランクシャフトの軸心周りで180°ずれた位置に配置される。第2のクランクピンは、第1のクランクピンに対して、クランクシャフトの軸心周りで、クランクシャフトが回転する方向に90°ずれた位置に配置される。第2のクランクピンは、第3のクランクピンに対して、クランクシャフトの軸心周りで180°ずれた位置に配置される。第3のクランクピンは、第4のクランクピンに対して、クランクシャフトの軸心周りで90°ずれた位置に配置される。
【0017】
このようなエンジンでは、上記の4種類の振動を低減することができる。しかしながら、この場合には、以下のような問題が発生する。
【0018】
直列4気筒エンジンでは、4つのシリンダがクランクシャフトの軸方向に並んで配置され、且つ、各シリンダのシリンダ軸線が互いに平行である。そのため、クランクシャフトの軸方向で隣り合う2つのシリンダの間隔が大きくなる。その結果、エンジンのクランクシャフトの軸方向でのサイズが大きくなるという問題がある。
【0019】
加えて、直列4気筒エンジンでは、クランクシャフトの軸方向で隣り合う2つのシリンダの間隔が大きくなるために、エンジンに発生する偶力が大きくなる。その結果、振動の低減に必要なアンバランスが大きくなる。つまり、エンジンの重量が増えるという問題がある。
【0020】
エンジンのクランクシャフトの軸方向でのサイズを小さくするには、直列型エンジンではなく、V型エンジンとすればよい。そこで、本発明者は、V型4気筒エンジンとすることで、クランクシャフトの軸方向でのサイズを小さくしつつ、上記の4種類の振動を低減するための構造について、鋭意検討した。その結果、本発明を完成するに至った。
【0021】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態による鞍乗型車両について説明する。本実施形態では、鞍乗型車両として、自動二輪車を例に説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその部材についての説明は繰り返さない。なお、以下の説明で参照する図において、矢印Fは車両の前方を示し、矢印Uは車両の上方を示し、矢印Lは車両の左方を示す。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態による自動二輪車10の左側面図である。自動二輪車10は、車体フレーム12及びエンジン14を備える。
【0023】
車体フレーム12は、ステアリングシャフトが挿通されたヘッドパイプを含む。ステアリングシャフトの上端には、ハンドル16が配置されている。ステアリングシャフトの下端には、フロントフォーク18が配置されている。フロントフォーク18は、前輪20Fを回転可能に支持する。
【0024】
エンジン14は、車体フレーム12によって支持されている。エンジン14の動力が後輪20Rに伝達されることにより、後輪20Rが回転する。
【0025】
図2を参照しながら、エンジン14について説明する。
図2は、エンジン14の内部構造を示す斜視図である。
【0026】
エンジン14は、4サイクルのV型4気筒エンジンである。エンジン14は、ピストン・クランク機構141を備える。ピストン・クランク機構141は、4つのピストン221、222、223、224と、4つのコンロッド241、242、243、244と、クランクシャフト26とを含む。
【0027】
エンジン14を2つのV型2気筒エンジンがクランクシャフト26の軸方向に並んだものとして考える。つまり、ピストン・クランク機構141を、ピストン・クランク機構1411と、ピストン・クランク機構1412とを含むものとして考える。ピストン・クランク機構1411は、2つのピストン221、222と、2つのコンロッド241、242と、クランクシャフト26とを含む。ピストン・クランク機構1412は、2つのピストン223、224と、2つのコンロッド243、244と、クランクシャフト26とを含む。
【0028】
図3を参照しながら、ピストン・クランク機構1411について説明する。
図3は、ピストン・クランク機構1411の概略構成を示す模式図である。
【0029】
ピストン221は、シリンダ301内に位置する。ピストン221は、シリンダ301の中心軸線(以下、シリンダ軸線301L)上を往復移動可能に配置されている。
【0030】
ピストン222は、シリンダ302内に位置する。ピストン222は、シリンダ302の中心軸線(以下、シリンダ軸線302L)上を往復移動可能に配置されている。
【0031】
コンロッド241は、ピストン221と、クランクシャフト26とを連結する。具体的には、コンロッド241の一端は、ピストンピン231を介して、ピストン221に連結されている。コンロッド241の他端は、クランクピン251を介して、クランクシャフト26に連結されている。
【0032】
コンロッド242は、ピストン222と、クランクシャフト26とを連結する。具体的には、コンロッド242の一端は、ピストンピン232を介して、ピストン222に連結されている。コンロッド242の他端は、クランクピン252を介して、クランクシャフト26に連結されている。
【0033】
クランクピン251の軸心251Cとクランクピン252の軸心252Cとの中間(クランクシャフト26の軸心26C周りの周方向での中間)に位置する点P12が直線L121上に位置する場合を想定する。直線L121は、クランクシャフト26の軸心26Cを通過し、クランクシャフト26の軸方向から見たときに、2つのシリンダ軸線301L及び302Lによる挟み角β12を2等分する直線である。ピストン・クランク機構1411では、点P12が直線L121上に位置する場合、クランクシャフト26の軸方向から見て、コンロッド241は、コンロッド242と交差する。
【0034】
図4を参照しながら、角度α12及びβ12について説明する。
図4は、クランクシャフト26が
図3に示す状態から90°回転した状態を示す。つまり、
図4では、点P12が直線L122上に位置する。直線L122は、クランクシャフト26の軸心26Cを通過し、クランクシャフト26の軸方向から見たときに、直線L121と直交する直線である。
【0035】
ピストン・クランク機構1411では、2つのシリンダ軸線301L及び302Lによる挟み角β12は、60°に設定されている。挟み角β12は、厳密な意味で、60°でなくてもよい。挟み角β12は、例えば、60°±15°の範囲内であればよい。
【0036】
挟み角β12は、好ましくは、50°以上であり、より好ましくは、55°以上である。挟み角β12は、好ましくは、70°以下であり、より好ましくは、65°以下である。
【0037】
ピストン・クランク機構1411では、クランクピン251とクランクピン252とが、クランクシャフト26の周方向で異なる位置に配置されている。つまり、ピストン・クランク機構1411は、位相クランクを有する。
【0038】
ピストン・クランク機構1411では、クランクシャフト26の周方向でのクランクピン251とクランクピン252との位相差、つまり、クランクシャフト26の軸心26Cとクランクピン251の軸心251Cとを結ぶ直線L21と、クランクシャフト26の軸心26Cとクランクピン252の軸心252Cとを結ぶ直線L22とが為す角度α12は、60°に設定されている。
【0039】
位相差(角度α12)は、厳密な意味で、60°でなくてもよい。位相差(角度α12)は、例えば、60°±30°の範囲内であればよい。
【0040】
位相差(角度α12)は、好ましくは、40°以上であり、より好ましくは、50°以上である。位相差(角度α12)は、好ましくは、80°以下であり、より好ましくは、70°以下である。
【0041】
ピストン・クランク機構1411では、位相差(角度α12)と、挟み角β12とは、以下の関係を満たしていればよい。
165°−2・β12≦α12≦195°−2・β12
【0042】
位相差(角度α12)は、好ましくは、170°−2・β12以上であり、より好ましくは、175°−2・β12以上である。位相差(角度α12)は、好ましくは、190°−2・β12以下であり、より好ましくは、185°−2・β12以下である。
【0043】
再び、
図3を参照しながら、説明する。クランクシャフト26は、その軸心26C周りで回転可能に配置されている。クランクシャフト26の軸方向は、車両の左右方向と一致している。なお、クランクシャフト26の軸方向は、厳密な意味で、車両の左右方向と一致していなくてもよい。クランクシャフト26は、アンバランス26Aを含む。
【0044】
アンバランス26Aは、クランクシャフト26の回転に伴って慣性力を発生する。当該慣性力を利用して、ピストン・クランク機構1411の動作に伴って発生する1次慣性力に起因する振動を低減する。
【0045】
アンバランス26Aの大きさ(アンバランス量)は、ピストン・クランク機構1411の動作に伴って発生する1次慣性力の大きさに応じて設定される。アンバランス26Aの大きさは、例えば、ピストン・クランク機構1411の往復運動質量を基準にして設定される。
【0046】
図2に示すように、クランクシャフト26は、クランクウェブ261と、クランクウェブ262と、クランクウェブ263とを含む。クランクウェブ261、クランクウェブ262及びクランクウェブ263は、クランクシャフト26の軸方向に並んでいる。
【0047】
クランクウェブ261と、クランクウェブ262との間には、クランクピン251(
図3参照)が配置されている。クランクピン251は、クランクウェブ261とクランクウェブ262とを連結している。
【0048】
クランクウェブ262と、クランクウェブ263との間には、クランクピン252(
図3参照)が配置されている。クランクピン252は、クランクウェブ262とクランクウェブ263とを連結している。
【0049】
アンバランス26Aは、クランクウェブ261、クランクウェブ262及びクランクウェブ263に分配されている。なお、アンバランス26Aは、クランクウェブ261、クランクウェブ262及びクランクウェブ263に対して、均等に分配されていなくてもよい。また、アンバランス26Aは、クランクウェブ261及びクランクウェブ263に分配されていてもよい。
【0050】
ピストン・クランク機構1411においては、ピストン221、222の往復運動が、クランクシャフト26の回転運動に変換される。つまり、ピストン・クランク機構1411は、運動変換機構として機能する。
【0051】
図5を参照しながら、ピストン・クランク機構1412について説明する。
図5は、ピストン・クランク機構1412の概略構成を示す模式図である。
【0052】
ピストン223は、シリンダ303内に位置する。ピストン223は、シリンダ303の中心軸線(以下、シリンダ軸線303L)上を往復移動可能に配置されている。
【0053】
ピストン224は、シリンダ304内に位置する。ピストン224は、シリンダ304の中心軸線(以下、シリンダ軸線304L)上を往復移動可能に配置されている。
【0054】
コンロッド243は、ピストン223と、クランクシャフト26とを連結する。具体的には、コンロッド243の一端は、ピストンピン233を介して、ピストン223に連結されている。コンロッド243の他端は、クランクピン253を介して、クランクシャフト26に連結されている。
【0055】
コンロッド244は、ピストン224と、クランクシャフト26とを連結する。具体的には、コンロッド244の一端は、ピストンピン234を介して、ピストン224に連結されている。コンロッド244の他端は、クランクピン254を介して、クランクシャフト26に連結されている。
【0056】
図5を参照しながら、角度α34及びβ34について説明する。ピストン・クランク機構1412では、2つのシリンダ軸線303L及び304Lによる挟み角β34は、60°に設定されている。
【0057】
挟み角β34は、厳密な意味で、60°でなくてもよい。挟み角β34は、例えば、60°±15°の範囲内であればよい。
【0058】
挟み角β34は、好ましくは、50°以上であり、より好ましくは、55°以上である。挟み角β34は、好ましくは、70°以下であり、より好ましくは、65°以下である。
【0059】
ピストン・クランク機構1412では、クランクピン253とクランクピン254とが、クランクシャフト26の周方向で異なる位置に配置されている。つまり、ピストン・クランク機構1412は、位相クランクを有する。
【0060】
ピストン・クランク機構1412では、クランクシャフト26の周方向でのクランクピン253とクランクピン254との位相差、つまり、クランクシャフト26の軸心26Cとクランクピン253の軸心253Cとを結ぶ直線L23と、クランクシャフト26の軸心26Cとクランクピン254の軸心254Cとを結ぶ直線L24とが為す角度α34は、60°に設定されている。
【0061】
位相差(角度α34)は、厳密な位置で、60°でなくてもよい。位相差(角度α34)は、例えば、60°±30°の範囲内であればよい。
【0062】
位相差(角度α34)は、好ましくは、40°以上であり、より好ましくは、50°以上である。位相差(角度α34)は、好ましくは、80°以下であり、より好ましくは、70°以下である。
【0063】
ピストン・クランク機構1412では、位相差(角度α34)と、挟み角β34とは、以下の関係を満たしていればよい。
165°−2・β34≦α34≦195°−2・β34
【0064】
位相差(角度α34)は、好ましくは、170°−2・β34以上であり、より好ましくは、175°−2・β34以上である。位相差(角度α34)は、好ましくは、190°−2・β34以下であり、より好ましくは、185°−2・β34以下である。
【0065】
図5では、クランクピン253の軸心253Cとクランクピン254の軸心254Cとの中間(クランクシャフト26の周方向での中間)に位置する点P34が直線L342上に位置する。
【0066】
直線L342は、クランクシャフト26の軸心26Cを通過し、クランクシャフト26の軸方向から見たときに、角度α34を2等分する直線である。直線L342は、直線L122(
図3参照)が位置する平面、つまり、クランクシャフト26の軸心26Cを含み、直線L121(
図3参照)と直交する平面上に位置する。直線L342は、直線L341と直交する。
【0067】
直線L341は、クランクシャフト26の軸心26Cを通過し、クランクシャフト26の軸方向から見たときに、挟み角β34を2等分する直線である。直線L341は、直線L121(
図3参照)が位置する平面、つまり、クランクシャフト26の軸心26Cを含み、直線L122(
図3参照)と直交する平面上に位置する。
【0068】
なお、図示はしていないが、ピストン・クランク機構1412では、点P34が直線L341上に位置する場合、クランクシャフト26の軸方向から見て、コンロッド243は、コンロッド244と交差する。
【0069】
クランクシャフト26は、アンバランス26Bをさらに含む。アンバランス26Bは、クランクシャフト26の回転に伴って慣性力を発生する。当該慣性力を利用して、ピストン・クランク機構1412の動作に伴って発生する1次慣性力に起因する振動を低減する。
【0070】
アンバランス26Bの大きさ(アンバランス量)は、ピストン・クランク機構1412の動作に伴って発生する1次慣性力の大きさに応じて設定される。アンバランス26Bの大きさは、例えば、ピストン・クランク機構1412の往復運動質量を基準にして設定される。
【0071】
図2に示すように、クランクシャフト26は、クランクウェブ264と、クランクウェブ265と、クランクウェブ266とをさらに含む。クランクウェブ264、クランクウェブ265及びクランクウェブ266は、クランクシャフト26の軸方向に並んでいる。
【0072】
クランクウェブ264と、クランクウェブ265との間には、クランクピン253(
図5参照)が配置されている。クランクピン253は、クランクウェブ264とクランクウェブ265とを連結している。
【0073】
クランクウェブ265と、クランクウェブ266との間には、クランクピン254(
図5参照)が配置されている。クランクピン254は、クランクウェブ265とクランクウェブ266とを連結している。
【0074】
アンバランス26Bは、クランクウェブ264、クランクウェブ265及びクランクウェブ266に分配されている。なお、アンバランス26Bは、クランクウェブ264、クランクウェブ265及びクランクウェブ266に対して、均等に分配されていなくてもよい。また、アンバランス26Bは、クランクウェブ264及びクランクウェブ266に分配されていてもよい。
【0075】
ピストン・クランク機構1412においては、ピストン223、224の往復運動が、クランクシャフト26の回転運動に変換される。つまり、ピストン・クランク機構1412は、運動変換機構として機能する。
【0076】
図6を参照しながら、4つのクランクピン251、252、253、254の位置関係について説明する。
図6は、4つのクランクピン251、252、253、254の位置関係を示す説明図である。
【0077】
クランクピン253は、クランクピン251よりも、クランクシャフト26が回転する方向に90°進んだ位置にある。クランクピン254は、クランクピン252よりも、クランクシャフト26が回転する方向に90°進んだ位置にある。つまり、ピストン・クランク機構1412の点P34(
図5参照)は、ピストン・クランク機構1411の点P12(
図3参照)に対してクランクシャフト26が回転する方向に90°進んだ位置にある。要するに、ピストン・クランク機構1412は、ピストン・クランク機構1411に対して、クランクシャフト26が回転する方向に90°の位相差を有する関係にある。
【0078】
この位相差は、厳密な意味で、90°でなくてもよい。位相差は、例えば、90°±15°の範囲内であればよい。
【0079】
位相差は、好ましくは、80°以上であり、より好ましくは、85°以上である。位相差は、好ましくは、100°以下であり、より好ましくは、95°以下である。
【0080】
エンジン14においては、ピストン・クランク機構141の動作に伴って発生する慣性力に起因する振動を低減することができる。具体的には、慣性力の1次成分(1次慣性力)に起因する振動と、慣性力の2次成分(2次慣性力)に起因する振動とを低減することができる。以下、その詳細について説明する。
【0081】
なお、上記のように、エンジン14は、2つのV型2気筒エンジンがクランクシャフト26の軸方向に並んだものと考えることができる。そこで、以下の説明では、一方のV型2気筒エンジンを構成するピストン・クランク機構1411について説明し、他方のV型2気筒エンジンを構成するピストン・クランク機構1412についての説明は省略する。
【0082】
1.1次慣性力に起因する振動の低減
1次慣性力に起因する振動には、1次慣性力が並進力として作用することに起因する振動と、1次慣性力が偶力として作用することに起因する振動とがある。最初に、1次慣性力が並進力として作用することに起因する振動の低減について、
図7を参照しながら説明する。
【0083】
1−1.並進力として作用する場合
ピストン・クランク機構1411の動作に伴って、1次慣性力F1が発生する。1次慣性力F1のうち、
図7中の上下方向(Y方向)の成分F1yは、以下の式(数1)で表される。
【数1】
【0084】
ここで、mは、ピストン・クランク機構1411における往復運動質量である。rは、クランク半径である。ωは、クランクシャフト26が回転するときの角速度である。kは、クランクバランス率(アンバランス量:アンバランスの大きさを示す係数)である。αは、2つのクランクピン251、252の位相差(
図4に示すα12)である。βは、2つのシリンダ軸線301L、302Lによる挟み角(
図4に示すβ12)である。γは、点P12を基準とした場合のアンバランス26Aの位置である。θは、クランクシャフト26の回転角度である。ただし、θは、点P12がY軸上(
図4に示す直線L121上)に位置する場合を基準とする。
【0085】
三角関数の公式を用いて、上記の式(数1)を整理すると、以下の式(数2)が得られる。
【数2】
【0086】
F1y=0が成立するためには、以下の条件(数3及び数4)が成立する必要がある。
【数3】
【数4】
【0087】
上記の条件より、γ=180°となる。kは、以下の式(数5)で表される。
【数5】
【0088】
1次慣性力F1のうち、
図7中の左右方向(X方向)の成分F1xは、以下の式(数6)で表される。
【数6】
【0089】
三角関数の公式を用いて、上記の式(数6)を整理すると、以下の式(数7)が得られる。
【数7】
【0090】
F1x=0が成立するためには、以下の条件(数8及び数9)が成立する必要がある。
【数8】
【数9】
【0091】
上記の条件より、γ=180°となる。kは、以下の式(数10)で表される。
【数10】
【0092】
以上より、1次慣性力F1が相殺される場合には、以下の式(数11及び数12)が成立する。
【数11】
【数12】
【0093】
クランクバランス率の条件から、以下の式(数13)が導き出される。
【数13】
【0094】
したがって、以下の式(数14)で表される条件が導き出される。
【数14】
【0095】
ここで、以下の式(数15及び数16)で表される条件を設定する。
【数15】
【数16】
【0096】
上記の式(数15及び数16)を用いて、上記のkについての式(数5及び数10)を整理すると、以下の式(数17及び数18)が得られる。
【数17】
【数18】
【0097】
以上より、ピストン・クランク機構1411に発生する1次慣性力F1を相殺するには、以下の式(数19−21)を満たせばよい。
【数19】
【数20】
【数21】
【0098】
上記の式(数19−21)は、ピストン・クランク機構1412に発生する1次慣性力についても、成立する。つまり、エンジン14では、上記の式(数19−21)を満たすのであれば、1次慣性力が並進力として作用することによる振動を相殺することができる。
【0099】
1−2.偶力として作用する場合
上記のピストン・クランク機構1411に発生する1次慣性力F1は、ピストン221の往復移動に伴って発生する1次慣性力と、ピストン222の往復移動に伴って発生する1次慣性力との合力である。これらの1次慣性力について、以下に説明する。
【0100】
先ず、
図3に示す場合、つまり、点P12が基準位置(
図3に示す位置:θ=0°)にある場合を想定する。この場合、
図8に示すように、ピストン221の往復移動に伴って発生する1次慣性力F11は、シリンダ軸線301L上でクランクシャフト26の軸心26Cとは反対側に向かって作用する。同様に、ピストン222の往復移動に伴って発生する1次慣性力F12は、シリンダ軸線302L上でクランクシャフト26の軸心26Cとは反対側に向かって作用する。そのため、車両の前方から見ると、これらの1次慣性力F11、F12は、
図9Aに示すように、並進力として作用する。ところが、車両の下方から見ると、これらの1次慣性力F11、F12は、
図9Bに示すように、偶力C12として作用する。偶力C12は、クランクシャフト26の軸方向に対して直交する方向に延びる軸線周りに発生する。
【0101】
ここで、偶力C12の法線ベクトルを規定する。法線ベクトルの大きさは、偶力C12の大きさを示す。法線ベクトルの方向は、クランクシャフト26の軸方向に対して直交する方向であって、偶力C12を右ねじに作用する力と考える場合に、右ねじが進む方向である。点P12が基準位置(
図3又は
図8に示す位置:θ=0°)にあるとき、
図9Cに示すように、偶力C12の法線ベクトルV12は、真上を向いている。
【0102】
偶力C12の法線ベクトルの大きさCは、以下の式(数22)で表される。
【数22】
【0103】
ここで、A及びBは、以下の式(数23及び数24)で表される。
【数23】
【数24】
【0104】
ただし、Lp12は、クランクシャフト26の軸方向でのシリンダ軸線301Lとシリンダ軸線302Lとの距離(2つのシリンダ301、302の中心間距離)である。φ1は、クランクピン251(
図3参照)の回転角度である。φ2は、クランクピン252(
図3参照)の回転角度である。なお、クランクピン251の回転角度は、ピストン221が上死点に位置するときのクランクピン251の位置を基準(φ1=0°)とする。同様に、クランクピン252の回転角度は、ピストン222が上死点に位置するときのクランクピン252の位置を基準(φ2=0°)とする。
【0105】
続いて、
図4に示す場合、つまり、点P12が基準位置(
図3に示す位置:θ=0°)から90°進んだ場合を想定する。この場合、
図10に示すように、ピストン221の往復移動に伴って発生する1次慣性力F11は、シリンダ軸線301L上でクランクシャフト26の軸心26Cに向かって作用する。これに対して、ピストン222の往復移動に伴って発生する1次慣性力F12は、シリンダ軸線302L上でクランクシャフト26の軸心26Cとは反対側に向かって作用する。そのため、車両の前方から見ると、これらの1次慣性力F11、F12は、
図11Aに示すように、偶力C12として作用する。ところが、車両の下方から見ると、これらの1次慣性力F11、F12は、
図11Bに示すように、並進力として作用する。偶力C12の法線ベクトルV12は、
図11Cに示すように、真後ろを向いている。
図8に示す状態から
図10に示す状態へとクランクシャフト26が回転するとき、偶力C12の法線ベクトルV12は、クランクシャフト26とは反対の方向に回転する。
【0106】
上記の式(数22−24)を用いて計算すれば明らかなように、偶力C12の法線ベクトルV12の大きさは、点P12が基準位置(
図3に示す位置:θ=0°)にあるとき、及び、基準位置から180°進んだときに最小となる。また、偶力C12の法線ベクトルV12の大きさは、点P12が基準位置から90°進んだとき、及び、基準位置から270°進んだときに最大となる。つまり、偶力C12の法線ベクトルV12の先端が描く軌跡は、
図9C及び
図11Cに二点鎖線で示すように、楕円となる。要するに、偶力C12の大きさは、クランクシャフト26の回転角度によって変化する。なお、このような偶力(1次慣性偶力)は、ピストン・クランク機構1412においても、同様に、発生する。
【0107】
これらの1次慣性偶力の各々の大きさを、クランクシャフト26の回転角度に関係なく、一定にすることができれば、これらの1次慣性偶力を、
図2に示す偶力バランサ32で相殺することができる。また、これらの1次慣性偶力の各々の大きさがばらつくのを抑制できれば、偶力バランサ32を用いることにより、これらの1次慣性偶力を低減することができる。
【0108】
図2を参照しながら、偶力バランサ32について説明する。偶力バランサ32は、軸32Aと、2つのアンバランス321、322とを含む。
【0109】
軸32Aは、クランクシャフト26と平行に延びる。軸32Aには、歯車32Bが設けられている。歯車32Bは、クランクシャフト26に設けられた歯車26Dと噛み合っている。これにより、クランクシャフト26の回転が偶力バランサ32に伝達される。ここで、歯車32Bの歯の数は、歯車26Dの歯の数と同じである。つまり、偶力バランサ32は、クランクシャフト26と同じ回転速度で、クランクシャフト26とは反対の方向に回転する。
【0110】
2つのアンバランス321、322は、それぞれ、軸32Aに設けられている。2つのアンバランス321、322は、軸32Aの軸方向に離れている。2つのアンバランス321、322は、軸32Aの周方向で異なる位置に形成されている。2つのアンバランス321、322の位相差は、180°である。2つのアンバランス321、322の各々は、軸32Aが回転するときに、慣性力を発生させる。当該慣性力を利用して、ピストン・クランク機構1411、1412の各々に発生する1次慣性偶力を低減する。
【0111】
ピストン・クランク機構1411、1412の各々に発生する1次慣性偶力を偶力バランサ32で低減するには、これらの1次慣性偶力の各々の大きさがクランクシャフト26の回転に伴ってばらつくのを抑制すればよい。例えば、1次慣性偶力が最小のときと最大のときとの差分が小さくなるようにすればよい。そのためには、例えば、適当な大きさのアンバランスをクランクシャフト26に配置すればよい。以下、1次慣性偶力が最小のときと最大のときとの差分が小さくなるアンバランスを配置する方法について説明する。
【0112】
ピストン・クランク機構1411では、点P12が基準位置(
図3に示す位置:θ=0°)にあるときに、1次慣性偶力が最小となる。そこで、点P12が基準位置にあるときに、1次慣性偶力が大きくなるようなアンバランスをクランクシャフト26に配置すればよい。
【0113】
具体的には、
図12に示すように、基準位置から90°遅れた位置にアンバランス28Aを配置し、基準位置から90°進んだ位置にアンバランス28Bを配置すればよい。この場合、
図13に示すように、クランクシャフト26の回転に伴ってアンバランス28Aが発生させる慣性力F1Aは、1次慣性力F11を大きくする方向に作用し、クランクシャフト26の回転に伴ってアンバランス28Bが発生させる慣性力F1Bは、1次慣性力F12を大きくする方向に作用する。そのため、1次慣性偶力が大きくなる。
【0114】
点P12が基準位置(
図3に示す位置:θ=0°)から90°進んだ位置にあるときには、
図14に示すように、アンバランス28Aは基準位置にあり、アンバランス28Bは基準位置から180°進んだ位置にある。この場合、
図15に示すように、クランクシャフト26の回転に伴ってアンバランス28Aが発生させる慣性力F1Aは、1次慣性力F11を小さくする方向に作用し、クランクシャフト26の回転に伴ってアンバランス28Bが発生させる慣性力F1Bは、1次慣性力F12を小さくする方向に作用する。そのため、1次慣性偶力が小さくなる。
【0115】
アンバランス28A、28Bの大きさ(アンバランス量)は、例えば、これらのアンバランス量の差分が1次慣性偶力の最大値と最小値との差分の1/2となるように、設定される。この場合、1次慣性偶力の法線ベクトルの大きさを、クランクシャフト26の回転角度に関わらず、一定にすることができる。
【0116】
このようなアンバランスは、例えば、クランクアンバランス26A、26Bの他に別途配置することで実現してもよいが、クランクアンバランス26A、26Bの大きさ(アンバランス量)を調整することで実現してもよい。クランクアンバランス26A、26Bの大きさ(アンバランス量)を調整するのであれば、例えば、クランクウェブ261、263、264、266に分配されているクランクアンバランス26A、26Bの大きさ(アンバランス量)を調整すればよい。以下、その方法について説明する。
【0117】
エンジン14では、ピストン・クランク機構1411の点P12が基準位置(
図3に示す位置:θ=0°)にあるときには、ピストン・クランク機構1412の点P34は、基準位置から90°進んだ位置にある。このとき、クランクアンバランス26Bは、基準位置から90°遅れた位置にある。そのため、エンジン14では、クランクウェブ264、266に分配されているクランクアンバランス26Bの大きさ(アンバランス量)を調整すれば、基準位置から90°遅れた位置に配置されるアンバランス28Aと、基準位置から90°進んだ位置に配置されるアンバランス28Bとを実現することができる。アンバランス量の調整は、例えば、一方のアンバランス量を増やし、他方のアンバランス量を減らすことで実現できる。なお、一方のアンバランス量を増やし、他方のアンバランス量を減らす前後で、これら一方及び他方のアンバランス量の総量が変化しなければ、並進力として作用する1次慣性力の低減に影響はない。
【0118】
上記のように、クランクウェブ264、266に分配されているクランクアンバランス26Bの大きさ(アンバランス量)を調整すれば、ピストン・クランク機構1411に発生する1次慣性偶力の大きさが、クランクシャフト26の回転に伴ってばらつくのを抑制することができる。
【0119】
同様に、ピストン・クランク機構1412に発生する1次慣性偶力の大きさがクランクシャフト26の回転に伴ってばらつくのを抑制するには、クランクウェブ261、263に分配されているクランクアンバランス26Aの大きさ(アンバランス量)を調整すればよい。その方法は、クランクウェブ264、266に分配されているクランクアンバランス26Bの大きさ(アンバランス量)を調整する場合と同様であるから、その詳細な説明は省略する。
【0120】
エンジン14では、1次慣性偶力の大きさがクランクシャフト26の回転に伴ってばらつくのを抑制することができる。そのため、ピストン・クランク機構1411、1412の各々に発生する1次慣性偶力を、偶力バランサ32(
図2参照)で低減することができる。
【0121】
特に、1次慣性偶力の大きさを、クランクシャフト26の回転角度に関わらず、一定にすることができる場合には、ピストン・クランク機構1411、1412の各々に発生する1次慣性偶力を、偶力バランサ32(
図2参照)で相殺することができる。
【0122】
また、エンジン14では、クランクアンバランス26A、26Bの大きさ(アンバランス量)を調整すれば、1次慣性偶力の大きさがクランクシャフト26の回転に伴ってばらつくのを抑制することができる。そのため、クランクアンバランス26A、26Bの他に、別途アンバランスを配置しなくてもよい。その結果、重量の増加を回避することができる。
【0123】
図16Aは、ピストン・クランク機構1411、1412の各々に発生する1次慣性偶力であって、
図7に示すx軸周りに発生する1次慣性偶力の大きさとクランクシャフト26の回転角度との関係を示すグラフである。
図16Bは、ピストン・クランク機構1411、1412の各々に発生する1次慣性偶力であって、
図7に示すy軸周りに発生する1次慣性偶力の大きさとクランクシャフト26の回転角度との関係を示すグラフである。これらのグラフは、以下の条件でシミュレーションされた結果を示す。
【0124】
挟み角β12及びβ34の各々を、60°に設定した。角度α12及びα34の各々を、60°に設定した。点12と点34との位相差を、90°に設定した。
【0125】
クランクウェブ261、263に分配されているクランクアンバランス26Aの大きさを、ピストン・クランク機構1411の1気筒分の往復運動質量の86.6%に設定した。具体的には、クランクウェブ261に分配されているクランクアンバランス26Aの大きさをピストン・クランク機構1411の1気筒分の往復運動質量の30.8%に設定した。クランクウェブ263に分配されているクランクアンバランス26Aの大きさをピストン・クランク機構1411の1気筒分の往復運動質量の55.8%に設定した。
【0126】
クランクウェブ264、266に分配されているクランクアンバランス26Bの大きさを、ピストン・クランク機構1412の1気筒分の往復運動質量の86.6%に設定した。具体的には、クランクウェブ264に分配されているクランクアンバランス26Aの大きさをピストン・クランク機構1411の1気筒分の往復運動質量の55.8%に設定した。クランクウェブ266に分配されているクランクアンバランス26Aの大きさをピストン・クランク機構1411の1気筒分の往復運動質量の30.8%に設定した。
【0127】
図16A及び
図16Bに示すグラフでは、ピストン・クランク機構1411の往復運動質量に起因する1次慣性偶力をG11とし、クランクウェブ261、263に起因する1次慣性偶力をG12とし、ピストン・クランク機構1412の往復運動質量に起因する1次慣性偶力をG21とし、クランクウェブ264、266に起因する1次慣性偶力をG22とし、ピストン・クランク機構1411及びピストン・クランク機構1412の各々に発生する1次慣性力(並進力)の組み合わせによる偶力をG31とし、偶力バランサ32に起因する1次慣性偶力をG32とし、エンジン14に発生する1次慣性偶力と偶力バランサ32に起因する1次慣性偶力との合力をG33としている。
【0128】
図16A及び
図16Bに示すグラフから明らかなように、エンジン14では、ピストン・クランク機構1411、1412の各々に発生する1次慣性偶力を偶力バランサ32で相殺することができる。
【0129】
2.2次慣性力に起因する振動の低減
続いて、2次慣性力に起因する振動の低減について説明する。2次慣性力に起因する振動には、2次慣性力が並進力として作用することに起因する振動と、2次慣性力が偶力として作用することに起因する振動とがある。最初に、2次慣性力が並進力として作用することに起因する振動の低減について、
図7を参照しながら説明する。
【0130】
2−1.並進力として作用する場合
ピストン・クランク機構1411の動作に伴って、2次慣性力F2が発生する。2次慣性力F2のうち、
図7中の上下方向(Y方向)の成分F2yは、以下の式(数25)で表される。
【数25】
【0131】
ここで、mは、ピストン・クランク機構1411における往復運動質量である。rは、クランク半径である。ωは、クランクシャフト26が回転するときの角速度である。αは、2つのクランクピン251、252の位相差(
図4に示すα12)である。βは、2つのシリンダ軸線301L、302Lによる挟み角(
図4に示すβ12)である。λは、連桿比(l/r)である。なお、lは、コンロッド長である。θは、クランクシャフト26の回転角度である。ただし、θは、点P12がY軸上(
図4に示す直線L121上)に位置する場合を基準とする。
【0132】
三角関数の公式を用いて、上記の式(数25)を整理すると、以下の式(数26)が得られる。
【数26】
【0133】
2次慣性力F2のうち、
図4中の左右方向(X方向)の成分F2xは、以下の式(数27)で表される。
【数27】
【0134】
三角関数の公式を用いて、上記の式(数27)を整理すると、以下の式(数28)が得られる。
【数28】
【0135】
ピストン・クランク機構1411に発生する1次慣性力F1を相殺するには、上記の式(数16)で示す条件が成立する。この式(数16)を変形すると、以下の式(数29)が得られる。
【数29】
【0136】
この式(数29)を上記の式(数26及び数28)に代入すると、以下の式(数30及び数31)が得られる。
【数30】
【数31】
【0137】
ピストン・クランク機構1411に発生する2次慣性力F2のベクトルの先端が描く軌跡を真円にするには、
図7中の上下方向及び左右方向の振幅が一致している必要がある。つまり、以下の式(数32)を満たす必要がある。
【数32】
【0138】
上記の式(数32)を整理すると、以下の式(数33)が得られる。
【数33】
【0139】
三角関数の公式を用いて、上記の式(数33)を整理すると、以下の式(数34)が得られる。
【数34】
【0140】
上記の式(数34)を計算すると、β=60°となる。
【0141】
上記の式(数32)を整理すると、以下の式(数35)が得られる。
【数35】
【0142】
三角関数の公式を用いて、上記の式(数35)を整理すると、以下の式(数36)が得られる。
【数36】
【0143】
上記の式(数36)を計算すると、β=180°となる。このβ=180°の場合というのは、水平対向エンジンを意味する。したがって、V型エンジンでピストン・クランク機構1411に発生する2次慣性力F2のベクトルの先端の描く軌跡が真円になるのは、β=60°の場合である。β=60°の場合、上記の式(数16)より、α=60°となる。
【0144】
上記の関係は、ピストン・クランク機構1412についても成り立つ。つまり、エンジン14では、ピストン・クランク機構1411、1412の各々に発生する2次慣性力F2のベクトルの先端が描く軌跡を真円にすることができる。
【0145】
ピストン・クランク機構1411の点P12と、ピストン・クランク機構1412の点34とには、90°の位相差がある。そのため、ピストン・クランク機構1411、1412の各々に発生する2次慣性力F2には、180°の位相差がある。つまり、これらの2次慣性力F2は偶力として作用する。以下、当該偶力を2次慣性偶力と称する。2次慣性偶力は、
図2に示す偶力バランサ34を用いて相殺することができる。
【0146】
図2を参照しながら、偶力バランサ34について説明する。偶力バランサ34は、軸34Aと、2つのアンバランス341、342とを含む。
【0147】
軸34Aは、クランクシャフト26と平行に延びる。軸34Aには、歯車34Bが設けられている。歯車34Bは、軸34と平行に延びる軸35Aに設けられた歯車35Bを介して、偶力バランサ32の軸32Aに設けられた歯車32Bと噛み合っている。これにより、クランクシャフト26の回転が、偶力バランサ32及び歯車35Bを介して、偶力バランサ34に伝達される。ここで、歯車34Bの歯の数は、歯車35Bの歯の数と同じである。歯車35Bの歯の数は、歯車32Bの歯の数の1/2である。つまり、偶力バランサ34は、クランクシャフト26の2倍の回転速度で、クランクシャフト26と逆方向に回転する。
【0148】
2つのアンバランス341、342は、それぞれ、軸34Aに設けられている。2つのアンバランス341、342は、軸34Aの軸方向に離れている。2つのアンバランス341、342は、軸34Aの周方向で異なる位置に形成されている。2つのアンバランス341、342の位相差は、180°である。2つのアンバランス341、342の各々は、軸34Aが回転するときに、慣性力を発生させる。当該慣性力を利用して、ピストン・クランク機構141に発生する2次慣性偶力を低減する。
【0149】
なお、ピストン・クランク機構1411、1412の各々に発生する2次慣性力F2のベクトルの先端が描く軌跡が真円でない場合、偶力バランサ34を用いても、2次慣性偶力を相殺することはできないが、2次慣性偶力を低減することはできる。
【0150】
図17Aは、ピストン・クランク機構141に発生する2次慣性偶力であって、
図7に示すx軸周りに発生する2次慣性偶力の大きさとクランクシャフト26の回転角度との関係を示すグラフである。
図17Bは、ピストン・クランク機構141に発生する2次慣性偶力であって、
図7に示すy軸周りに発生する2次慣性偶力の大きさとクランクシャフト26の回転角度との関係を示すグラフである。これらのグラフは、
図13A及び
図13Bに示すグラフを得たときと同じ条件でシミュレーションされた結果を示す。
【0151】
図17A及び
図17Bに示すグラフでは、ピストン・クランク機構1411の往復運動質量に起因する2次慣性偶力をG41とし、ピストン・クランク機構1412の往復運動質量に起因する2次慣性偶力をG42とし、ピストン・クランク機構1411及びピストン・クランク機構1412の各々に発生する2次慣性力(並進力)の組み合わせによる偶力をG43とし、偶力バランサ34に起因する2次慣性偶力をG44とし、エンジン14に発生する2次慣性偶力と偶力バランサ34に起因する2次慣性偶力との合力をG45としている。
【0152】
図17A及び
図17Bに示すグラフから明らかなように、エンジン14では、ピストン・クランク機構141に発生する2次慣性偶力を偶力バランサ34で相殺することができる。
【0153】
2−2.偶力として作用する場合
上記のピストン・クランク機構1411に発生する2次慣性力F2は、ピストン221の往復移動に伴って発生する2次慣性力と、ピストン222の往復移動に伴って発生する2次慣性力との合力である。これらの2次慣性力について、以下に説明する。
【0154】
ピストン・クランク機構1411において、クランクピン251とクランクピン252とには、60°の位相差がある。つまり、ピストン221の往復移動に伴って発生する2次慣性力と、ピストン222の往復移動に伴って発生する2次慣性力とには、120°の位相差がある。また、ピストン・クランク機構1411では、バンク角β12は60°である。そのため、ピストン221の往復移動に伴って発生する2次慣性力と、ピストン222の往復移動に伴って発生する2次慣性力とにより、ピストン・クランク機構1411には、クランクシャフト26の軸心周りに回転する偶力(2次慣性偶力)が発生する。
【0155】
ピストン・クランク機構1412に発生する2次慣性力F2は、ピストン223の往復移動に伴って発生する2次慣性力と、ピストン224の往復移動に伴って発生する2次慣性力との合力である。これらの2次慣性力について、以下に説明する。
【0156】
ピストン・クランク機構1412において、クランクピン253とクランクピン254とには、60°の位相差がある。つまり、ピストン223の往復移動に伴って発生する2次慣性力と、ピストン224の往復移動に伴って発生する2次慣性力とには、120°の位相差がある。また、ピストン・クランク機構1412では、バンク角β34は60°である。そのため、ピストン223の往復移動に伴って発生する2次慣性力と、ピストン224の往復移動に伴って発生する2次慣性力とにより、ピストン・クランク機構1412には、クランクシャフト26の軸心周りに回転する偶力(2次慣性偶力)が発生する。
【0157】
ピストン・クランク機構1411の点P12と、ピストン・クランク機構1412の点34とには、90°の位相差がある。そのため、ピストン・クランク機構1411に発生する2次慣性偶力の法線ベクトルと、ピストン・クランク機構1412に発生する2次慣性偶力の法線ベクトルとは、互いに逆向きである。そのため、エンジン14では、これらの2次慣性偶力は互いに打ち消しあう。
【0158】
3.2次慣性トルクの低減
ピストン・クランク機構1411の点P12と、ピストン・クランク機構1412の点34とには、90°の位相差がある。そのため、クランクシャフト26の出力トルクに表れる慣性トルクのうち、最大となる2次成分(2次慣性トルク)も、相殺することができる。なお、慣性トルクは、慣性偶力の反力としてクランクシャフト26の出力トルクに表れるトルク変動成分であり、燃焼トルクとは区別される。
【0159】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0160】
上記実施の形態では、挟み角β12及びβ34は、それぞれ、60°であったが、60°±15°の範囲内にあればよい。このような場合であっても、例えば、クランクアンバランス26A、26Bの大きさを適当に設定することで、並進力として作用する1次及び2次の慣性力の大きさと、偶力として作用する1次及び2次の慣性力の大きさとを、それぞれ、1/2以下に低減することができる。
【0161】
上記実施の形態では、角度α12及びα34は、それぞれ、60°であったが、60°±30°の範囲内にあればよい。このような場合であっても、並進力として作用する1次及び2次の慣性力の大きさと、偶力として作用する1次及び2次の慣性力の大きさとを、それぞれ、1/2以下に低減することができる。
【0162】
上記実施の形態では、ピストン・クランク機構1411の点P12と、ピストン・クランク機構1412の点P34との位相差は、90°であったが、90°±15°の範囲内にあればよい。このような場合であっても、並進力として作用する1次及び2次の慣性力の大きさと、偶力として作用する1次及び2次の慣性力の大きさとを、それぞれ、1/2以下に低減することができる。
【0163】
上記実施の形態では、V型4気筒エンジンを例に説明したが、例えば、V型8気筒エンジンであっても、同様な効果を得ることができる。
【0164】
上記実施の形態において、偶力バランサ32を備えていなくてもよい。この場合、1次慣性偶力を低減することはできないが、例えば、1次慣性偶力の法線ベクトルの先端が描く軌跡を適当に調整することで、乗員が振動を感じ難くなるようにしてもよい。
【0165】
上記実施の形態において、偶力バランサ32の軸32Aは、軸方向で複数の部分に分割されていてもよい。例えば、軸32Aは、アンバランス321を有する部分と、アンバランス322を有する部分とに分割されていてもよい。ただし、これらの部分は、同一直線上に配置される。この場合、偶力バランサ32の配置の自由度が向上する。
【0166】
上記実施の形態において、偶力バランサ34を備えていなくてもよい。この場合、2次慣性偶力を低減することはできないが、例えば、2次慣性偶力の法線ベクトルの先端が描く軌跡を適当に調整することで、乗員が振動を感じ難くなるようにしてもよい。
【0167】
上記実施の形態において、偶力バランサ34の軸34Aは、軸方向で複数の部分に分割されていてもよい。例えば、軸34Aは、アンバランス341を有する部分と、アンバランス342を有する部分とに分割されていてもよい。ただし、これらの部分は、同一直線上に配置される。この場合、偶力バランサ34の配置の自由度が向上する。
【0168】
上記実施の形態において、ピストン・クランク機構1411に発生する1次慣性偶力を低減するためのアンバランスをクランクウェブ261、262に配置し、ピストン・クランク機構1412に発生する1次慣性偶力を低減するためのアンバランスをクランクウェブ263、264に配置してもよい。
【0169】
クランクシャフト26の軸方向でのクランクピン251−254の配置は、上記実施の形態で説明した態様に限定されない。例えば、ピストン・クランク機構1411においてクランクピン251、252の位置を入れ替えるとともに、ピストン・クランク機構1412においてクランクピン253、254の位置を入れ替えてもよい。