(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578250
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】タービンコンポーネントのひずみ推定方法及び装置、タービンコンポーネントの評価方法
(51)【国際特許分類】
F01D 25/00 20060101AFI20190909BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20190909BHJP
G06F 17/50 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
F01D25/00 V
F01D25/00 W
F01D25/00 X
F02C7/00 D
F02C7/00 A
G06F17/50 612H
G06F17/50 680Z
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-122021(P2016-122021)
(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公開番号】特開2017-227137(P2017-227137A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2018年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽田野 浩平
(72)【発明者】
【氏名】宮本 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】李 豪
(72)【発明者】
【氏名】橋本 幸弘
【審査官】
齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−108440(JP,A)
【文献】
特開2010−224648(JP,A)
【文献】
特開2006−315063(JP,A)
【文献】
特開2006−031594(JP,A)
【文献】
特開平08−061086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
F02C 7/00
G06F 17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形前のタービンコンポーネントを3次元計測するステップと、
前記タービンコンポーネントの解析モデルを作成するステップと、
前記変形前のタービンコンポーネントが分割された複数のメッシュを所定の大きさの単位領域に区画するステップと、
前記解析モデルを用いて前記単位領域の前記複数のメッシュに対して一様な非弾性ひずみを入力して前記タービンコンポーネントの解析モデル形状を形成するステップと、
変形後のタービンコンポーネントを3次元計測するステップと、
前記タービンコンポーネントの解析モデル形状と変形後の前記タービンコンポーネントの形状とを比較するステップと、
前記タービンコンポーネントの解析モデル形状と変形後の前記タービンコンポーネントの形状との比較結果が収束条件を満たさないときに前記解析モデルに入力する非弾性ひずみを変更して再度前記タービンコンポーネントの解析モデル形状を形成するステップと、
前記タービンコンポーネントの解析モデル形状と変形後の前記タービンコンポーネントの形状との比較結果が収束条件を満たすときに前記解析モデルに入力した非弾性ひずみを確定するステップと、
を有することを特徴とするタービンコンポーネントのひずみ推定方法。
【請求項2】
前記単位領域は、前記タービンコンポーネントに対して複数設定し、複数の前記単位領域ごとに異なる非弾性ひずみを入力することを特徴とする請求項1に記載のタービンコンポーネントのひずみ推定方法。
【請求項3】
前記解析モデルを用いて入力する一様な非弾性ひずみとは、同一の非弾性ひずみであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタービンコンポーネントのひずみ推定方法。
【請求項4】
前記解析モデルを用いて入力する一様な非弾性ひずみとは、線形に変化する非弾性ひずみであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタービンコンポーネントのひずみ推定方法。
【請求項5】
前記収束条件は、前記タービンコンポーネントの解析モデル形状と3次元計測した変形後の前記タービンコンポーネントの形状との変形差が予め設定された規定値以内にあることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のタービンコンポーネントのひずみ推定方法。
【請求項6】
前記変形差とは、前記タービンコンポーネントの解析モデルの体積形状と3次元計測した変形後の前記タービンコンポーネントの体積形状とのずれ体積量であることを特徴とする請求項5に記載のタービンコンポーネントのひずみ推定方法。
【請求項7】
変形前のタービンコンポーネントを3次元計測するステップと、
前記タービンコンポーネントの解析モデルを作成するステップと、
前記解析モデルに複数種類の変形条件を入力して前記タービンコンポーネントの複数の解析モデル形状を形成するステップと、
変形後のタービンコンポーネントを3次元計測するステップと、
前記タービンコンポーネントの複数の解析モデル形状と変形後の前記タービンコンポーネントの形状とを比較するステップと、
前記タービンコンポーネントの複数の解析モデル形状と変形後の前記タービンコンポーネントの形状との変形差が最小となる前記解析モデル形状に入力した非弾性ひずみを確定するステップと、
を有することを特徴とするタービンコンポーネントのひずみ推定方法。
【請求項8】
タービンコンポーネントを3次元計測する計測部と、
前記計測部が計測した変形前の前記タービンコンポーネントが分割された複数のメッシュを所定の大きさの単位領域に区画し、解析モデルを用いて前記単位領域の前記複数のメッシュに対して一様な非弾性ひずみを入力して前記タービンコンポーネントの解析モデル形状を求める演算部と、
前記タービンコンポーネントの解析モデル形状と前記計測部が計測した変形後の前記タービンコンポーネントの形状とを比較する比較部と、
前記比較部の比較結果が収束条件を満たさないときに前記演算部の処理を繰り返す一方、前記比較部の比較結果が収束条件を満たすときに解析モデルに入力する非弾性ひずみを確定する判定部と、
を備えることを特徴とするタービンコンポーネントのひずみ推定装置。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のタービンコンポーネントのひずみ推定方法により推定した非弾性ひずみを用いて前記タービンコンポーネントを評価することを特徴とするタービンコンポーネントの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンやガスタービンなどにタービンコンポーネントとして使用される部材における非弾性ひずみを推定するタービンコンポーネントのひずみ推定方法及び装置、タービンコンポーネントの評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガスタービンは、圧縮機と燃焼器とタービンにより構成されている。そして、空気取入口から取り込まれた空気が圧縮機によって圧縮されることで高温・高圧の圧縮空気となり、燃焼器にて、この圧縮空気に対して燃料を供給して燃焼させることで高温・高圧の燃焼ガス(作動流体)を得て、この燃焼ガスによりタービンを駆動し、このタービンに連結された発電機を駆動する。このガスタービンにて、圧縮機やタービンに使用される動翼は、回転時に作用する遠心力や熱の影響により損傷を受ける。そのため、使用された動翼に対して損傷の予測解析を実施し、損傷の予測やき裂の有無などの点検調査などを実施することで健全性の維持に努めている。
【0003】
動翼に対するクリープ変形量で損傷を評価する手法として、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載されたタービンコンポーネントのクリープ能力を決定するための方法は、複数のタービンコンポーネントに引張応力、遠心応力、熱応力を測定可能な量のクリープが得られるまで加え、タービンコンポーネントで使用される材料に対する知られているクリープ特性に対して比較し、定義済みの量より大きいクリープを示すコンポーネントを分離して運用から外すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−253599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のタービンコンポーネントのクリープ能力を決定するための方法では、試験装置で動翼に対して引張応力、遠心応力、熱応力を与えることでクリープ変形を誘発させ、このときに得られたひずみ量またはその蓄積速度を、クリープ特性を有する材料から定義された公差値と比較して動翼を評価している。ところが、試験装置により各応力が与えられた動翼と、実際のプラントでの運転中に各種の応力が作用した動翼とでは、ひずみ量に差があり、動翼のクリープ損傷を高精度に予測することは困難である。
【0006】
本発明は上述した課題を解決するものであり、タービンコンポーネントに発生した非弾性ひずみを精度良く推定することができるタービンコンポーネントのひずみ推定方法及び装置、タービンコンポーネントの評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明のタービンコンポーネントのひずみ推定方法は、変形前のタービンコンポーネントを3次元計測するステップと、前記タービンコンポーネントの解析モデルを作成するステップと、前記変形前のタービンコンポーネントが分割された複数のメッシュを所定の大きさの単位領域に区画するステップと、前記解析モデルを用いて前記単位領域の前記複数のメッシュに対して一様な非弾性ひずみを入力して前記タービンコンポーネントの解析モデル形状を形成するステップと、変形後のタービンコンポーネントを3次元計測するステップと、前記タービンコンポーネントの解析モデル形状と変形後の前記タービンコンポーネントの形状とを比較するステップと、前記タービンコンポーネントの解析モデル形状と変形後の前記タービンコンポーネントの形状との比較結果が収束条件を満たさないときに前記解析モデルに入力する非弾性ひずみを変更するステップと、前記タービンコンポーネントの解析モデル形状と変形後の前記タービンコンポーネントの形状との比較結果が収束条件を満たすときに前記解析モデルに入力した非弾性ひずみを確定するステップと、を有することを特徴とするものである。
【0008】
従って、変形前のタービンコンポーネントが分割された複数のメッシュを所定の大きさの単位領域に区画し、解析モデルを用いて単位領域の各メッシュに一様な非弾性ひずみを入力してタービンコンポーネントの解析モデル形状を形成し、変形後のタービンコンポーネントと比較する。ここで、比較結果が収束条件を満たさないときは、解析モデルに入力する非弾性ひずみを繰り返し変更することで、比較結果が収束条件を満たすようにし、収束条件を満たした非弾性ひずみを確定して出力する。そのため、単位領域に一様な非弾性ひずみを入力することで、逆解析時における変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができると共に、自由に非弾性ひずみを入力して解析を行うことでタービンコンポーネントに発生した非弾性ひずみを精度良く推定することができる。
【0009】
本発明のタービンコンポーネントのひずみ推定方法では、前記単位領域は、前記タービンコンポーネントに対して複数設定し、複数の前記単位領域ごとに異なる非弾性ひずみを入力することを特徴としている。
【0010】
従って、設定された複数の単位領域に対して異なる大きさの非弾性ひずみを入力することで、タービンコンポーネントの変形に応じた適正な解析モデル形状を形成することができる。
【0011】
本発明のタービンコンポーネントのひずみ推定方法では、前記解析モデルを用いて入力する一様な非弾性ひずみとは、同一の非弾性ひずみであることを特徴としている。
【0012】
従って、1つの単位領域における複数のメッシュに同一の大きさの非弾性ひずみを入力することで、変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができる。
【0013】
本発明のタービンコンポーネントのひずみ推定方法では、前記解析モデルを用いて入力する一様な非弾性ひずみとは、線形に変化する非弾性ひずみであることを特徴としている。
【0014】
従って、1つの単位領域における複数のメッシュに線形に変化する非弾性ひずみを入力することで、変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができる。
【0015】
本発明のタービンコンポーネントのひずみ推定方法では、前記収束条件は、前記タービンコンポーネントの解析モデル形状と3次元計測した変形後の前記タービンコンポーネントの形状との変形差が予め設定された規定値以内にあることを特徴としている。
【0016】
従って、解析モデル形状と変形後のタービンコンポーネントの形状との変形差が規定値以内にあるときに、収束条件を満たして解析モデルに入力した非弾性ひずみを確定することで、タービンコンポーネントにマークを付けたり、加工を施す必要がなく、容易に変形差を比較することができる。
【0017】
本発明のタービンコンポーネントのひずみ推定方法では、前記変形差とは、前記タービンコンポーネントの解析モデルの体積形状と3次元計測した変形後の前記タービンコンポーネントの体積形状とのずれ体積量であることを特徴としている。
【0018】
従って、変形差を解析モデルの体積形状と変形後の前記タービンコンポーネントの体積形状とのずれ体積量とすることで、高精度に変形差を求めることができる。
【0019】
また、本発明のタービンコンポーネントのひずみ推定方法は、変形前のタービンコンポーネントを3次元計測するステップと、前記タービンコンポーネントの解析モデルを作成するステップと、前記解析モデルに複数種類の変形条件を入力して前記タービンコンポーネントの複数の解析モデル形状を形成するステップと、変形後のタービンコンポーネントを3次元計測するステップと、前記タービンコンポーネントの複数の解析モデル形状と変形後の前記タービンコンポーネントの形状とを比較するステップと、前記タービンコンポーネントの複数の解析モデル形状と変形後の前記タービンコンポーネントの形状との変形差が最小となる前記解析モデル形状に入力した非弾性ひずみを確定するステップと、を有することを特徴とするものである。
【0020】
従って、解析モデルに複数種類の変形条件を入力してタービンコンポーネントの複数の解析モデル形状を形成し、変形後のタービンコンポーネントの形状と比較する。ここで、タービンコンポーネントの複数の解析モデル形状と変形後のタービンコンポーネントの形状との変形差が最小となる非弾性ひずみを確定して出力する。そのため、逆解析時における変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができると共に、自由に非弾性ひずみを入力して解析を行うことでタービンコンポーネントに発生した非弾性ひずみを精度良く推定することができる。
【0021】
また、本発明のタービンコンポーネントのひずみ推定装置は、タービンコンポーネントを3次元計測する計測部と、前記計測部が計測した変形前の前記タービンコンポーネントが分割された複数のメッシュを所定の大きさの単位領域に区画し、解析モデルを用いて前記単位領域の前記複数のメッシュに対して一様な非弾性ひずみを入力して前記タービンコンポーネントの解析モデル形状を求める演算部と、前記タービンコンポーネントの解析モデル形状と前記計測部が計測した変形後の前記タービンコンポーネントの形状とを比較する比較部と、前記比較部の比較結果が収束条件を満たさないときに前記演算部の処理を繰り返す一方、前記比較部の比較結果が収束条件を満たすときに解析モデルに入力する非弾性ひずみを確定する判定部と、を備えることを特徴とするものである。
【0022】
従って、変形前のタービンコンポーネントが分割された複数のメッシュを所定の大きさの単位領域に区画し、解析モデルを用いて単位領域の各メッシュに一様な非弾性ひずみを入力してタービンコンポーネントの解析モデル形状を形成し、変形後のタービンコンポーネントと比較する。ここで、比較結果が収束条件を満たさないときは、解析モデルに入力する非弾性ひずみを繰り返し変更することで、比較結果が収束条件を満たすようにし、収束条件を満たした非弾性ひずみを確定して出力する。そのため、単位領域に一様な非弾性ひずみを入力することで、逆解析時における変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができると共に、自由に非弾性ひずみを入力して解析を行うことでタービンコンポーネントに発生した非弾性ひずみを精度良く推定することができる。
【0023】
また、本発明のタービンコンポーネントの評価方法は、前記タービンコンポーネントのひずみ推定方法により推定した非弾性ひずみを用いて前記タービンコンポーネントを評価することを特徴とするものである。
【0024】
従って、逆解析時における変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができると共に、自由に非弾性ひずみを入力して解析を行うことでタービンコンポーネントに発生した非弾性ひずみを精度良く推定することができ、その結果、タービンコンポーネントの評価を精度良く実施することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のタービンコンポーネントのひずみ推定方法及び装置、タービンコンポーネントの評価方法によれば、逆解析時における変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができると共に、自由に非弾性ひずみを入力して解析を行うことでタービンコンポーネントに発生した非弾性ひずみを精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、第1実施形態のタービン動翼のひずみ推定装置を表すブロック構成図である。
【
図2】
図2は、使用後のタービン動翼の評価方法を表すフローチャートである。
【
図3】
図3は、変形処理後のタービン動翼の評価方法を表すフローチャートである。
【
図4】
図4は、第1実施形態のタービン動翼のひずみ推定方法を表すフローチャートである。
【
図5】
図5は、タービン動翼のひずみ推定方法を説明するための概略図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態のタービン動翼のひずみ推定方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るタービンコンポーネントのひずみ推定方法の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0028】
[第1実施形態]
第1実施形態では、タービンコンポーネントとしてタービン動翼を用いて説明する。タービン動翼のひずみ推定方法を用いたタービン動翼の評価方法は、変形後のタービン動翼に対して3次元(3D)計測を実施し、3次元計測結果を用いた逆解析(FEM解析)を行うことで、タービン動翼における非弾性ひずみの発生量を予測し、タービン動翼を評価するものである。
【0029】
タービン動翼が変形する要因としては、以下の3つの要因がある。第1の要因は、タービン動翼を実際のガスタービンに装着し、このガスタービンの運転中にタービン動翼に対して作用する各種の応力であり、この応力によりタービン動翼が変形して非弾性ひずみが発生する。第2の要因は、タービン動翼の製造過程で、形状修正のために行う曲げ加工(ひずみ修正)であり、このときにタービン動翼に塑性変形を与えるため残留応力が発生する。第3の要因は、タービン動翼の製造過程で、塑性変形による残留応力の付与を図るために行うショットピーニングであり、タービン動翼の全面に均一な残留応力を与えても翼が撓むが、このときのタービン動翼極表面に塑性変形を与えるため残留応力が発生する。
【0030】
第1実施形態のタービン動翼のひずみ推定方法を用いたタービン動翼の評価方法は、上述した要因で変形したタービン動翼における非弾性ひずみの発生量を推定し、この推定結果からタービン動翼を評価するものである。
【0031】
図1は、第1実施形態のタービン動翼のひずみ推定装置を表すブロック構成図である。
【0032】
図1に示すように、第1実施形態のタービン動翼のひずみ推定装置10は、解析装置11を備えており、この解析装置11は、計測部12と、表示部13と、記憶部14とが接続されている。また、解析装置11は、演算部21と、比較部22と、判定部23とを備えている。
【0033】
計測部12は、製造されてガスタービンに装着される前(変形前)や変形処理前のタービン動翼(以下、動翼)31(
図5参照)、使用後や変形処理後の動翼33を3次元(3D)計測するものである。解析装置11は、所定の非弾性ひずみを設定して順解析(FEM解析)を行うことで動翼31の解析モデルを形成し、動翼31の解析モデルと変形後の動翼31とを比較し、逆解析を行うことで動翼31における非弾性ひずみの発生量を予測するものである。表示部13は、解析装置11が推定した動翼31における非弾性ひずみの発生量を表示し、記憶部14は、解析装置11が逐次演算して求めたデータを記憶する。
【0034】
また、演算部21は、計測部12が計測した変形前の動翼31の表面及び内部が分割された複数のメッシュを所定の大きさの単位領域に区画し、解析モデルを用いて単位領域の各メッシュに対して一様な非弾性ひずみを入力して動翼31の解析モデル形状を求めるものである。比較部22は、動翼31の解析モデル形状と変形後の動翼31の形状とを比較するものである。判定部23は、比較部22の比較結果が収束条件を満たさないときに演算部21の処理を繰り返す一方、比較部22の比較結果が収束条件を満たすきに解析モデルに入力する非弾性ひずみを確定するものである。
【0035】
まず、変形後のタービン動翼の評価方法を説明する。
図2は、使用後のタービン動翼の評価方法を表すフローチャート、
図3は、変形処理後のタービン動翼の評価方法を表すフローチャートである。
【0036】
図2に示すように、ステップS11にて、動翼31を製造し、ステップS12にて、計測部12により変形前の動翼31の3次元形状を計測する。ステップS13にて、動翼31をガスタービンに装着し、このガスタービンを運転することで使用する。ステップS14にて、ガスタービンの運転を停止し、動翼31をガスタービンから取外し、計測部12により変形後の動翼31の3次元形状を計測する。ステップS15にて、動翼31における非弾性ひずみのFEM解析(有限要素解析)を実施し、ステップS16にて、動翼31のクリープひずみ量(ひずみの発生量)を推定する。そして、ステップS17にて、推定したクリープひずみ量に基づいて動翼31を評価する。この動翼31の評価とは、推定したクリープひずみ量と予め設定された規定値とを比較することで、動翼31の継続した使用を判定するものである。
【0037】
また、
図3に示すように、ステップS21にて、動翼31を製造(製造中)し、ステップS22にて、計測部12により変形前の動翼31の3次元形状を計測する。なお、ここで、計測部12による変形前の動翼31の3次元形状の計測が実施できなかったとき、設計モデルを代わりに使用してもよい。ステップS23にて、動翼31に対して変形処理を実施する。この変形処理とは、上述した形状修正のために行う曲げ加工や塑性変形による加工硬化や残留応力の付与を図るために行うショットピーニングなどである。ステップS24にて、変形処理を行った変形後の動翼31を計測部12により3次元形状を計測する。ステップS25にて、動翼31における非弾性ひずみのFEM解析(有限要素解析)を実施し、ステップS26にて、動翼31の塑性ひずみ量(塑性ひずみの発生量)を推定する。そして、ステップS27にて、推定した塑性ひずみ量に基づいて動翼31を評価する。
【0038】
次に、タービン動翼のひずみ推定方法を説明する。具体的には、
図2及び
図3にて、ステップS12,S22〜ステップS16,S26の処理の説明である。
図4は、第1実施形態のタービン動翼のひずみ推定方法を表すフローチャート、
図5は、タービン動翼のひずみ推定方法を説明するための概略図である。
【0039】
図4及び
図5に示すように、ステップS31にて、計測部12は、変形前の動翼31の3次元形状を計測し、ステップS32にて、演算部21は、動翼31の解析モデルを作成する。そして、演算部21は、ステップS33にて、変形前の動翼31の表面及び内部が分割された複数のメッシュを所定の大きさの単位領域に区画し、ステップS34にて、解析モデルを用いて単位領域の複数のメッシュに対して一様な非弾性ひずみを入力する。
【0040】
即ち、変形前の動翼31の表面及び内部を複数のメッシュで分割することで空間を離散化し、複数のメッシュで形成される空間を所定の大きさの単位領域として区画する。例えば、領域Sを拡大したもので説明すると、複数のメッシュを所定の個数で区画し、単位領域A1,A2,A3・・・を設定する。この場合、予め実験や順解析などにより求めた非弾性ひずみの発生量が大きい領域では、1つの単位領域の面積を小さくして単位領域を細かく分割することが望ましい。また、予め実験や順解析などにより求めた亀裂などが発生しやすい領域では、1つの単位領域の面積を小さくして単位領域を細かく分割することが望ましい。更に、予め実験や順解析などにより求めた非弾性ひずみの発生量の差(勾配)が大きい領域では、1つの単位領域の面積を小さくして単位領域を細かく分割することが望ましい。
【0041】
動翼31の運転中のクリープひずみの逆解析を行う場合は、翼面表面及び内部の全体に単位領域を設ける必要があるが、一方、歪修正の塑性ひずみの逆解析を行う場合は、通常プレス冶具の接する周辺のみ細かく分割すればよい、また、ショットピーニングは極表面にのみ塑性変形が発生するので、単位領域も極表面にのみ設定すればよい。
【0042】
そして、複数の単位領域の各メッシュに対して一様な非弾性ひずみを入力する。ここで、一様な非弾性ひずみとは、所定の条件に対応して設定された大きさが同一の非弾性ひずみである。また、一様な非弾性ひずみとは、単位領域の一方の角部から他方の角部(コントロールポイント)に向けて線形(直性状)に変化(増加または減少)する非弾性ひずみである。この場合、非弾性ひずみの大きさは、逆解析により求める。
【0043】
また、複数のメッシュで形成される空間を所定の大きさの単位領域として区画することで、動翼31の表面及び内部に対して複数の単位領域が設定され、この複数の単位領域ごとに異なる大きさの非弾性ひずみを入力することとなる。そして、ステップS34にて、解析モデルを用いて複数の単位領域における各メッシュに所定の大きさの非弾性ひずみが入力されると、演算部21は、動翼31の解析モデル形状32を求める。
【0044】
ステップS35にて、計測部12は、変形後の動翼33の3次元形状を計測し、ステップS36にて、比較部22は、動翼31の解析モデル形状32と変形後の動翼33の形状とを比較する。そして、ステップS37にて、判定部23は、動翼31の解析モデル形状32と変形後の動翼33の形状との比較結果が収束条件を満たすかどうかを判定する。
【0045】
ここで、収束条件とは、動翼31の解析モデル形状32と変形後の動翼33の形状との変形差が予め設定された規定値以内にあることである。具体的に、この変形差とは、動翼31の解析モデル形状32の体積形状と、3次元計測した変形後の動翼33の体積形状とのずれ体積量である。なお、ずれ体積量は、ずれ長さの自乗和でもよい。動翼31の解析モデル形状32の3次元形状と変形後の動翼33の3次元形状とを重ね合わせたとき、両者が重ならない体積である。
【0046】
ステップS37にて、動翼31の解析モデル形状32と変形後の動翼33の形状との変形差が規定値以内にないと判定(No)されると、ステップS34に戻り、解析モデルに入力する非弾性ひずみの大きさを変更(増加または減少)し、ステップS5,S36,S37の処理を繰り返す。一方、ステップS37にて、動翼31の解析モデル形状32と変形後の動翼33の形状との変形差が規定値以内であると判定(Yes)されると、ステップS38にて、解析モデルに入力した非弾性ひずみの大きさを確定し、推定値として出力する。
【0047】
このように第1実施形態のタービンコンポーネントのひずみ推定方法にあっては、変形前の動翼31を3次元計測するステップと、動翼31の解析モデルを作成するステップと、変形前の動翼31の表面及び内部が分割された複数のメッシュを所定の大きさの単位領域に区画するステップと、解析モデルを用いて単位領域の複数のメッシュに対して一様な非弾性ひずみを入力して動翼31の解析モデル形状32を形成するステップと、変形後の動翼31を3次元計測するステップと、動翼31の解析モデル形状32と変形後の動翼33の形状とを比較するステップと、動翼31の解析モデル形状32と変形後の動翼33の形状との比較結果が収束条件を満たさないときに解析モデルに入力する非弾性ひずみを変更するステップと、動翼31の解析モデル形状32と変形後の動翼33の形状との比較結果が収束条件を満たすときに解析モデルに入力した非弾性ひずみを確定するステップとを有する。
【0048】
従って、単位領域に一様な非弾性ひずみを入力することで、逆解析時における変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができると共に、自由に非弾性ひずみを入力して解析を行うことで動翼31に発生した非弾性ひずみを精度良く推定することができる。
【0049】
第1実施形態のタービンコンポーネントのひずみ推定方法では、単位領域を動翼31の表面及び内部に対して複数設定し、複数の単位領域ごとに異なる非弾性ひずみを入力する。従って、動翼31の変形に応じた適正な解析モデル形状32を形成することができる。
【0050】
第1実施形態のタービンコンポーネントのひずみ推定方法では、解析モデルを用いて入力する一様な非弾性ひずみとして、同一の非弾性ひずみを設定している。従って、変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができる。
【0051】
第1実施形態のタービンコンポーネントのひずみ推定方法では、解析モデルを用いて入力する一様な非弾性ひずみとして、線形に変化する非弾性ひずみを設定している。従って、変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができる。
【0052】
第1実施形態のタービンコンポーネントのひずみ推定方法では、収束条件として、動翼31の解析モデル形状32と変形後の動翼33の形状との変形差が予め設定された規定値以内にあることを設定している。従って、解析モデル形状32と変形後の動翼33の形状との変形差が規定値以内にあるときに、収束条件を満たして解析モデルに入力した非弾性ひずみを確定することで、動翼31にマークを付けたり、加工を施す必要がなく、容易に変形差を比較することができる。
【0053】
第1実施形態のタービンコンポーネントのひずみ推定方法では、変形差として、動翼31の解析モデルの体積形状と変形後の動翼33の体積形状とのずれ体積量を設定している。従って、高精度に変形差を求めることができる。
【0054】
また、第1実施形態のタービンコンポーネントのひずみ推定装置にあっては、動翼31を3次元計測する計測部12と、計測部12が計測した変形前の動翼31の表面及び内部が分割された複数のメッシュを所定の大きさの単位領域に区画し、解析モデルを用いて単位領域の複数のメッシュに対して一様な非弾性ひずみを入力して動翼31の解析モデル形状32を求める演算部21と、動翼31の解析モデル形状32と計測部12が計測した変形後の動翼33の形状とを比較する比較部22と、比較部22の比較結果が収束条件を満たさないときに演算部21の処理を繰り返す一方、比較部22の比較結果が収束条件を満たすときに解析モデルに入力する非弾性ひずみを確定する判定部23とを備える。
【0055】
従って、単位領域に一様な非弾性ひずみを入力することで、逆解析時における変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができると共に、自由に非弾性ひずみを入力して解析を行うことで動翼31に発生した非弾性ひずみを精度良く推定することができる。
【0056】
また、第1実施形態のタービンコンポーネントの評価方法にあっては、タービンコンポーネントのひずみ推定方法により推定した非弾性ひずみを用いて動翼31を評価する。従って、逆解析時における変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができると共に、自由に非弾性ひずみを入力して解析を行うことで動翼31に発生した非弾性ひずみを精度良く推定することができ、その結果、動翼31の評価を精度良く実施することができる。
【0057】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態のタービン動翼のひずみ推定方法を表すフローチャートである。なお、本実施形態の基本的な構成は、上述した第1実施形態とほぼ同様の構成であり、
図1を用いて説明すると共に、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0058】
第2実施形態において、
図1に示すように、第2実施形態のタービン動翼の非弾性ひずみ推定装置10は、解析装置11に計測部12と表示部13と記憶部14が接続されて構成され、解析装置11は、演算部21と、比較部22と、判定部23とを備えている。
【0059】
計測部12は、使用前(変形前)の動翼31や使用後(変形後)の動翼33を3次元計測するものである。解析装置11は、所定の非弾性ひずみを設定して順解析(FEM解析)を行うことで動翼31の複数の解析モデル形状を形成し、動翼31の解析モデルと変形後の動翼31とを比較することで動翼31における非弾性ひずみの発生量を予測するものである。表示部13は、解析装置11が推定した動翼31における非弾性ひずみの発生量を表示し、記憶部14は、解析装置11が演算して求めた複数の解析モデル形状を記憶する。
【0060】
ここで、タービン動翼のひずみ推定方法を説明する。
図6に示すように、ステップS41にて、計測部12は、変形前の動翼31の3次元形状を計測し、ステップS42にて、演算部21は、動翼31の解析モデルを作成する。そして、ステップS43にて、演算部21は、解析モデルに複数種類の変形条件(変形モード)を入力して解析することで、動翼31の複数の解析モデル形状を形成し、記憶部14に記憶してデータベースを作成する。ここで、複数種類の変形条件(変形モード)とは、例えば、動翼31に作用する応力、温度などである。
【0061】
ステップS44にて、計測部12は、変形後の動翼33の3次元形状を計測し、ステップS45にて、比較部22は、記憶部14のデータベースに記憶された動翼31の複数の解析モデル形状と変形後の動翼31の形状とを比較する。そして、ステップS46にて、判定部23は、複数の解析モデル形状と変形後の動翼31の形状との変形差が最小となる解析モデル形状に入力した非弾性ひずみの大きさを確定し、推定値として出力する。
【0062】
このように第2実施形態のタービンコンポーネントのひずみ推定方法にあっては、変形前の動翼31を3次元計測するステップと、動翼31の解析モデルを作成するステップと、解析モデルに複数種類の変形条件を入力して動翼31の複数の解析モデル形状を形成するステップと、変形後の動翼31を3次元計測するステップと、動翼31の複数の解析モデル形状と変形後の動翼31の形状とを比較するステップと、動翼31の複数の解析モデル形状と変形後の動翼31の形状との変形差が最小となる解析モデル形状に入力した非弾性ひずみを確定するステップとを有する。
【0063】
従って、解析モデルに複数種類の変形条件を入力して動翼31の複数の解析モデル形状を形成し、変形後の動翼31の形状と比較する。ここで、動翼31の複数の解析モデル形状と変形後の動翼31の形状との変形差が最小となる非弾性ひずみを確定して出力する。そのため、逆解析時における変数(パラメータ)の数が減少して発散を防止することができると共に、自由に非弾性ひずみを入力して解析を行うことで動翼31に発生した非弾性ひずみを精度良く推定することができる。
【0064】
なお、上述した実施形態では、タービンコンポーネントとしてタービン動翼31を用いて説明したが、タービン動翼31に限らず、圧縮機の動翼や他の回転体、その他の部材でもよく、特に、3次元形状をなす部材に有効的である。
【符号の説明】
【0065】
10 タービン動翼のひずみ推定装置
11 解析装置
12 計測部
13 表示部
14 記憶部
21 演算部
22 比較部
23 判定部
31,33 タービン動翼(タービンコンポーネント)
32 解析モデル形状