【実施例】
【0037】
本発明の実施例1〜10及び比較例1〜6を、表1〜3及び
図2〜
図7を参照して、以下に説明する。
[1.測定項目]
測定項目として、透磁率と鉄損(損失)を次のような手法により測定した。透磁率は、作製された圧粉磁心に1次巻線(20ターン)を施し、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー:4294A)を使用することで、10kHz、0.5Vにおけるインダクタンスから算出した。
【0038】
鉄損は、圧粉磁心に1次巻線(20ターン)及び2次巻線(3ターン)を施し、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY−8232)を用いて、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=0.1Tの条件下で鉄損(Pcv)を測定した。そして、鉄損からヒステリシス損失(Ph)と渦電流損失(Pe)を算出した。この算出は、鉄損の周波数曲線を次の(1)〜(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数(Kh)、渦電流損係数(Ke)を算出することで行った。
【0039】
Pcv=Kh×f+Ke×f
2…(1)
Ph=Kh×f…(2)
Pe=Ke×f
2…(3)
Pcv:鉄損
Kh:ヒステリシス損係数
Ke:渦電流損係数
f:周波数
Ph:ヒステリシス損失
Pe:渦電流損失
【0040】
本実施例において、各粉末の平均粒子径と円形度は、下記装置を用いて3000個の平均値をとったものであり、ガラス基板上に粉末を分散して、顕微鏡で粉末写真を撮り一個毎自動で画像から測定した。
会社名:Malvern
装置名:morphologi G3S
比表面積は、BET法により測定した。
【0041】
[2.第1の特性比較(シリコーンオリゴマーに含まれるアルコキシシリル基の含有量の比較)]
第1の特性比較では、シリコーンオリゴマーに含まれるアルコキシシリル基の含有量の比較を行った。
【0042】
本実施例1〜4及び比較例1、2で使用する試料は、下記のように作製した。なお、以下の記述において、「wt%」とは、軟磁性粉末に対する重量比を示す。表1に示すシリコーンオリゴマー(樹脂1〜6)は何れもT単位を含む。
(1)平均円形度0.982のFe−6.5%Si合金からなる軟磁性粉末をガスアトマイズ法で作製した。その後、250目(目開き60μm)の篩で篩通しを行い、平均粒子径を39μmとした。
(2)作製した軟磁性粉末に対して、比表面積が100m
2/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(3)これらに対して表1に示すシリコーンオリゴマー(樹脂1〜6)を1wt%混合し、大気雰囲気中、150℃で1時間の加熱乾燥を行った。
(4)乾燥させた粉末に対してメチルフェニル系シリコーンレジン(品名:SILRES(登録商標)REN60)を1.5wt%混合して、大気雰囲気中、300℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(5)加熱乾燥後に生じた塊を解砕する目的で30目(目開き500μm)の篩通しを行った。その後、潤滑剤としてエチレンステアルアミドを0.5wt%を混合した。
(6)上記工程により絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を、外径17mm、内径11mm、高さ8mmのトロイダル形状の容器に充填し、成形圧力15ton/cm
2で成形体を作製した。
(7)最後に、成形体を850℃の熱処理温度で窒素雰囲気中にて熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1は、実施例1〜4及び比較例1、2の圧粉磁心について、シリコーンオリゴマーに含まれるアルコキシシリル基の含有量を17wt%〜50wt%としたときの圧粉磁心の磁気特性を示した表である。また、
図2は、実施例1〜4及び比較例1、2について、アルコキシシリル基の含有量と圧粉磁心の密度との関係について示したグラフである。
図3は、実施例1〜4及び比較例1、2について、アルコキシシリル基の含有量と圧粉磁心の損失との関係について示したグラフである。
【0045】
表1及び
図2に示すように、実施例1〜4で密度が6.6kg/m
3以上であり、良好な結果が得られている。実施例1〜4は、密度が高いため、透磁率も高い。これに対し、比較例1は、密度が6.50kg/m
3であり実施例1〜4と比べて低く、直流重畳特性が悪化する。一方、比較例2は、密度は6.61kg/m
3であり、高密度であるが、損失が1255kW/m
3であり、損失が大きくなってしまっている。
【0046】
また、表1及び
図2に示すように、実施例1〜4で損失が1200kW/m
3以下であり、比較例2と比べて低損失であることが分かる。比較例2では、損失が1255kW/m
3であり、損失が大きくなっている。比較例1は、損失は低損失であるが、密度が低下しており、必要な磁気特性が得られない。
【0047】
図2から明らかなように、アルコキシシリル基の含有量は、ヒステリシス損失(Phv)の低減に寄与していることが分かる。すなわち、実施例1〜4及び比較例1、2では渦電流損失(Pev)については、アルコキシシリル基の含有量が多くなるに従い、緩やかに増加するのに対し、ヒステリシス損失については、20wt%未満および45wt%超で比較的大きく増加する。そのため、ヒステリシス損失の大きさが、損失の大きさに寄与していることが分かる。換言すれば、アルコキシシリル基の含有量が20wt%〜45wt%の範囲、特に28wt%〜40wt%の範囲で、ヒステリシス損失が低減していることが分かる。
【0048】
また、850℃の高温で熱処理を行った実施例1〜4及び比較例1、2では、損失にバラツキがあることが確認できるが、最も大きな損失となった比較例2でも1255kW/m
3であり、いずれも目立った絶縁破壊が生じていない。これは、シリコーンオリゴマーにT単位が含有されていることにより、シリコーンオリゴマー層の破壊または消失が防止できたことが要因であると思われる。すなわち、850℃の高温で熱処理しても絶縁被膜の破壊または消失が防止できるのは、シリコーンオリゴマー層やシリコーンレジン層の各形成時に、乾燥工程を経たとしても、軟磁性粉末の外側にシリコーンオリゴマー層とシリコーンレジン層が保持されているからであると考えられる。特に、シリコーンオリゴマーにT単位が含有されていることが、シリコーンオリゴマー層の機械的結合力を高め、シリコーンオリゴマー層の保持に寄与しているものと考えられる。
【0049】
以上のように、アルコキシシリル基の含有量が20wt%〜45wt%の範囲で、高密度、かつ、低損失の圧粉磁心が得られることが分かる。特に、当該含有量が28wt%〜40wt%において、6.7kg/m
3以上の高密度を実現でき、かつ、1255kW/m
3未満の低損失を実現できていることが分かる。
【0050】
[3.第2の特性比較(シリコーンオリゴマーの添加量による比較)]
第2の特性比較では、軟磁性粉末に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。第2の特性比較で使用したシリコーンオリゴマーは、表1の樹脂2、5の二種類のシリコーンオリゴマーとした。
【0051】
(1)表1の樹脂2のシリコーンオリゴマー(アルコキシシリル基の含有量:40wt%)
実施例2、5〜8及び比較例3、4として、表1の樹脂2のシリコーンオリゴマーの添加量が0.75wt%〜2.5wt%までの圧粉磁心を用意した。
【0052】
実施例2、5〜8及び比較例3、4で使用する試料は、シリコーンオリゴマーの添加量以外は、上記第1の特性比較における作製工程(1)〜(7)と同じ作製工程で作製した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2は、実施例2、5〜8及び比較例3、4の圧粉磁心について、シリコーンオリゴマーの添加量を0.75wt%〜2.5wt%としたときの圧粉磁心の磁気特性を示した表である。なお、透磁率は、振幅透磁率であり、前述のインピーダンスアナライザーを使用することで、20kHz、1.0Vにおける各磁界の強さのインダクタンスから算出した。表2中の「μ0」は、直流を重畳させていない状態、すなわち磁界の強さが0H(A/m)の時の初透磁率を示す。表2中の「μ(10kA/m)」は、磁界の強さが10kH(kA/m)の時の透磁率を示す。
【0055】
図4は、実施例2、5〜8及び比較例3、4について、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の密度との関係について示したグラフである。
図5は、実施例2、5〜8及び比較例3、4について、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の損失との関係について示したグラフである。
【0056】
表2及び
図4に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が多くなるに従い、密度は低下していくことが分かる。シリコーンオリゴマーの添加量を2.5wt%とすると、密度が低下しすぎて初透磁率が低下し、ヒステリシス損失が増加する。一方、シリコーンオリゴマーの添加量を0.75wt%とすると、密度及び初透磁率は高いが、直流重畳時の透磁率(μ(10kA/m))が低下し、直流重畳特性が悪化することが分かった。
【0057】
また、表2及び
図5に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量を変えても、損失に大きな違いは見られないが、シリコーンオリゴマーの添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲で比較的損失が小さく良好であることが分かる。より詳細には、添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲で比較的損失が小さく、添加量が1.0wt%未満、2.0wt%超であると、損失が増加する。添加量が1.0wt%未満で損失が高いのは、渦電流損失の増大が影響し、添加量が2.0wt%超で損失が高いのは、ヒステリシス損失が増大することが要因と考えられる。すなわち、渦電流損失は、添加量が1.0wt%未満で最も高く、添加量が多くなるに従い低下する。一方、ヒステリシス損失は、添加量が2.0wt%超で最も高く、添加量が少なくなるに従い低下する。
【0058】
以上より、シリコーンオリゴマーの添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲である場合に、高密度かつ低損失の圧粉磁心を得ることができることが分かる。特に、シリコーンオリゴマーの添加量は、1.0wt%〜1.5wt%の範囲が好ましく、更に1.0wt%〜1.25wt%の範囲がより好ましい。
【0059】
(2)表1の樹脂5のシリコーンオリゴマー(アルコキシシリル基の含有量:28wt%)
実施例4、9、10及び比較例5、6として、表1の樹脂5のシリコーンオリゴマーの添加量が0.75wt%〜2.5wt%までの圧粉磁心を用意した。
【0060】
実施例4、9、10及び比較例5、6で使用する試料は、シリコーンオリゴマーの添加量以外は、上記第1の特性比較における作製工程(1)〜(7)と同じ作製工程で作製した。
【0061】
【表3】
【0062】
表3は、実施例4、9、10及び比較例5、6の圧粉磁心について、シリコーンオリゴマーの添加量を0.75wt%〜2.5wt%としたときの圧粉磁心の磁気特性を示した表である。
図6は、実施例4、9、10及び比較例5、6について、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の密度との関係について示したグラフである。
図7は、実施例4、9、10及び比較例5、6について、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の損失との関係について示したグラフである。
【0063】
表2及び
図6に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が多くなるに従い、密度は低下していくことが分かる。シリコーンオリゴマーの添加量を2.5wt%とすると、密度が低下しすぎて初透磁率が低下し、かつ、損失が増加する。一方、シリコーンオリゴマーの添加量を0.75wt%とすると、密度は高いが、渦電流損失が増加することが分かった。
【0064】
表3及び
図7に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量を変えても、損失に大きな違いは見られないが、シリコーンオリゴマーの添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲で比較的損失が小さく良好であることが分かる。より詳細には、添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲で比較的損失が小さく、添加量が1.0wt%未満、2.0wt%超であると、損失が増加する。添加量が1.0wt%未満で損失が高いのは、渦電流損失の増大が影響し、添加量が2.0wt%超で損失が高いのは、ヒステリシス損失が増大することが要因と考えられる。すなわち、渦電流損失は、添加量が1.0wt%未満で最も高く、添加量が多くなるに従い低下する。一方、ヒステリシス損失は、添加量が2.0wt%超で最も高く、添加量が少なくなるに従い低下する。
【0065】
以上より、シリコーンオリゴマーの添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲である場合に、高密度かつ低損失の圧粉磁心を得ることができることが分かる。特に、シリコーンオリゴマーの添加量は、1.0wt%〜1.5wt%の範囲が好ましい。
【0066】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。