特許第6578266号(P6578266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6578266軟磁性材料、軟磁性材料を用いた圧粉磁心、及び圧粉磁心の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578266
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】軟磁性材料、軟磁性材料を用いた圧粉磁心、及び圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20190909BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20190909BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20190909BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190909BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20190909BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20190909BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20190909BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20190909BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20190909BHJP
【FI】
   H01F1/26
   H01F27/255
   H01F41/02 D
   B22F1/00 Y
   B22F3/00 B
   B22F1/02 C
   B22F1/02 E
   B22F3/24 B
   !C22C38/00 303S
   !C22C19/03 E
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-212198(P2016-212198)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-73996(P2018-73996A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2017年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 渡
(72)【発明者】
【氏名】青山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】有間 洋
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【審査官】 木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−018822(JP,A)
【文献】 特開2011−190339(JP,A)
【文献】 特開2015−095598(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/077601(WO,A1)
【文献】 特開2010−183056(JP,A)
【文献】 特開2006−202956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 27/255
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 1/02
B22F 3/00
B22F 3/24
C22C 19/03
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末と、
前記軟磁性粉末の表面を覆う絶縁被膜と、
を有し、
前記絶縁被膜は、
前記軟磁性粉末の外側を被覆するシリコーンオリゴマー層と、
前記シリコーンオリゴマー層の外側に形成されたシリコーンレジン層と、
を備え、
前記シリコーンオリゴマー層は、(式1)で表されるT単位及びアルコキシシリル基を有するシリコーンオリゴマーで構成され、前記シリコーンオリゴマーに対する前記アルコキシシリル基の含有量が20wt%45wt%(但し、30wt%を除く)であること、
を特徴とする軟磁性材料。
(式1)
RSiO3/2(Rは、有機置換基である。)
【請求項2】
前記アルコキシシリル基の含有量が、前記シリコーンオリゴマーに対して28wt%40wt%(但し、30wt%を除く)であること、
を特徴とする請求項1に記載の軟磁性材料。
【請求項3】
前記シリコーンオリゴマーの添加量は、前記軟磁性粉末に対して1.0wt%〜2.0wt%であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の軟磁性材料。
【請求項4】
前記絶縁被膜は、前記軟磁性粉末と前記シリコーンオリゴマー層との間に無機絶縁粉末が介在していること、
を特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の軟磁性材料。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の軟磁性材料を用いた圧粉磁心。
【請求項6】
軟磁性粉末にシリコーンオリゴマーを混合し、乾燥させ、シリコーンオリゴマー層を形成する工程と、
前記シリコーンオリゴマー層が形成された前記軟磁性粉末にシリコーンレジンを混合し、乾燥させ、シリコーンレジン層を形成する工程と、
前記各工程を経た前記軟磁性粉末を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程と、
前記成形工程を経た成形体を700℃〜900℃で熱処理する熱処理工程と、
を有し、
前記シリコーンオリゴマーは、(式2)で表されるT単位及びアルコキシシリル基を有し、前記シリコーンオリゴマーに対するアルコキシシリル基の含有量が20wt%wt%(但し、30wt%を除く)であること、
を特徴とする圧粉磁心の製造方法。
(式2)
RSiO3/2(Rは、有機置換基である。)
【請求項7】
前記アルコキシシリル基の含有量が、前記シリコーンオリゴマーに対して28wt%40wt%(但し、30wt%を除く)であること、
を特徴とする請求項6に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項8】
前記シリコーンオリゴマーの添加量は、前記軟磁性粉末に対して1.0wt%〜2.0wt%であること、
を特徴とする請求項6又は7に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項9】
前記シリコーンオリゴマー層を形成する工程の前に、
前記軟磁性粉末に無機絶縁粉末を混合して、前記軟磁性粉末の表面に無機絶縁粉末を付着させる工程を有すること、
を特徴とする請求項6〜8の何れかに記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性材料、軟磁性材料を用いた圧粉磁心、及び圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モーター、インバーター、コンバーターへの電力供給系統の一部として、リアクトルが利用されている。このリアクトルのコアとして、圧粉磁心が使用される。圧粉磁心は、金属粉末とこれを覆う絶縁皮膜とから構成された粉末を加圧成形することにより形成される。
【0003】
圧粉磁心は、エネルギー交換効率の向上や低発熱などの要求から、小さな印加磁界で大きな磁束密度を得ることが出来る磁気特性と、磁束密度変化におけるエネルギー損失が小さいという磁気特性が求められる。磁束密度に関する磁気特性とは、具体的には透磁率(μ)である。エネルギー損失に関する磁気特性とは、具体的には鉄損(Pcv)である。鉄損(Pcv)は、ヒステリシス損失(Phv)と、渦電流損失(Pev)の和で表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2000−504785号公報
【特許文献2】特開2006−005173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軟磁性粉末を用いた圧粉磁心は、上記の通り磁束密度の向上が求められており、そのためには、圧粉磁心を高密度にする必要がある。そのため、高い圧力で圧粉成形されるが、その際に多くの歪みが軟磁性粉末の粒子内に発生する。この歪みにより圧粉磁心の保磁力が高まり、ヒステリシス損失が増加してしまう。ヒステリシス損失が増加することにより、全体としての損失が増加し、飽和磁束密度が低下するため、直流重畳特性が悪化してしまう。故に、これを除去する熱処理を与えることが好ましく、十分な除去には、例えば700℃程度以上の高い温度での熱処理が好ましい。
【0006】
しかし、熱処理温度を上げ過ぎると、軟磁性粉末間の絶縁被膜が破壊または消失してしまい、それにより軟磁性粉末間が絶縁破壊してしまう。例えば、特許文献1では、軟磁性粉末の周囲にリン酸塩系の絶縁被覆が施された圧粉磁心において、成形後の熱処理温度が500℃として開示されているが、これよりも熱処理温度を高くすると、リン酸塩系の絶縁被膜が破壊または消失してしまい、渦電流損失が増加して十分な効果が得られない。また、特許文献2では、磁性粉末の表面にリン酸塩系の第1絶縁層を設け、更に第1絶縁層の上にシリコーン樹脂からなる第2絶縁層が形成された磁性材料を用いた圧粉磁心が開示されているが、この磁性材料の成形後の熱処理温度を650℃より高くすると、絶縁破壊が生じ、渦電流損失が増加する。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、熱処理工程における熱処理温度の向上を図り、高密度かつ低損失の圧粉磁心を得ることのできる軟磁性材料、圧粉磁心、及び圧粉磁心の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の軟磁性材料は、軟磁性粉末と、前記軟磁性粉末の表面を覆う絶縁被膜と、を有し、前記絶縁被膜は、前記軟磁性粉末の外側を被覆するシリコーンオリゴマー層と、前記シリコーンオリゴマー層の外側に形成されたシリコーンレジン層と、を備え、前記シリコーンオリゴマー層は、下記の(式1)で表されるT単位及びアルコキシシリル基を有するシリコーンオリゴマーで構成され、前記シリコーンオリゴマーに対する前記アルコキシシリル基の含有量が20wt%45wt%(但し、30wt%を除く)であること、を特徴とする。
(式1)
RSiO3/2(Rは、有機置換基である。)
【0009】
本発明は、上記軟磁性材料を用いた圧粉磁心として捉えることもできる。
【0010】
本発明の圧粉磁心の製造方法は、軟磁性粉末にシリコーンオリゴマーを混合し、乾燥させ、シリコーンオリゴマー層を形成する工程と、前記シリコーンオリゴマー層が形成された前記軟磁性粉末にシリコーンレジンを混合し、乾燥させ、シリコーンレジン層を形成する工程と、前記各工程を経た前記軟磁性粉末を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程と、前記成形工程を経た成形体を700℃〜900℃で熱処理する熱処理工程と、を有し、前記シリコーンオリゴマーは、(式2)で表されるT単位及びアルコキシシリル基を有し、前記シリコーンオリゴマーに対するアルコキシシリル基の含有量が20wt%45wt%(但し、30wt%を除く)であること、を特徴とする。
(式2)
RSiO3/2(Rは、有機置換基である。)
【発明の効果】
【0011】
以上のような本発明によれば、700℃以上の高い温度で熱処理を行っても絶縁被膜の破壊または焼失が起こらない。高い熱処理温度を実現することにより、軟磁性粉末内の歪みを除去し、損失を低減することができる。その結果、高密度かつ低損失の圧粉磁心とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る圧粉磁心の製造方法を示すフローチャート。
図2】本発明の実施例1〜4及び比較例1、2において、アルコキシシリル基の含有量と圧粉磁心の密度との関係を示したグラフ。
図3】本発明の実施例1〜4及び比較例1、2において、アルコキシシリル基の含有量と圧粉磁心の損失との関係を示したグラフ。
図4】本発明の実施例2、5〜8及び比較例3、4において、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の密度との関係について示したグラフ。
図5】本発明の実施例2、5〜8及び比較例3、4において、リコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の損失との関係について示したグラフ。
図6】本発明の実施例4、9、10及び比較例5、6において、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の密度との関係について示したグラフ。
図7】本発明の実施例4、9、10及び比較例5、6において、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の損失との関係について示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1.圧粉磁心の製造方法]
本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、次のような各工程を有する。この工程を図1のフローチャートに示す。
(1)軟磁性粉末に対して、無機絶縁粉末を混合して無機絶縁粉末を付着させる無機絶縁粉末付着工程(ステップ1)。
(2)表面に無機絶縁粉末が付着した軟磁性粉末に対し、シリコーンオリゴマーを混合してシリコーンオリゴマー層を形成するシリコーンオリゴマー層形成工程(ステップ2)。(3)シリコーンオリゴマー層が形成された軟磁性粉末に対し、シリコーンレジンを混合してシリコーンレジン層を形成するシリコーンレジン層形成工程(ステップ3)。
(4)前記工程を経た前記軟磁性粉末を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程(ステップ4)。
(5)成形工程を経た成形体を700℃以上で熱処理する熱処理工程(ステップ5)。
以下、各工程を具体的に説明する。
【0014】
(1)無機絶縁粉末付着工程
無機絶縁粉末付着工程では、軟磁性粉末と、無機絶縁粉末とを混合する。混合は、混合機(W型、V型)、ポットミル等を使用して行い、この時、粉末に内部歪が入らないように混合する。以上により、軟磁性粉末の表面に無機絶縁粉末層を付着することができる。軟磁性粉末の表面に無機絶縁粉末を付着することにより、軟磁性粉末の間を絶縁することができ、熱処理温度を上げることが可能になる。
【0015】
無機絶縁粉末の付着の態様としては、軟磁性粉末の表面に点状に分散して付着している場合、軟磁性粉末の表面に塊状に分散して付着している場合、軟磁性粉末の全表面若しくは表面の一部を覆うように無機絶縁粉末の層を形成しながら付着している場合などが含まれる。また、軟磁性粉末の表面に付着するだけでなく、軟磁性粉末の外側に形成されたシリコーンオリゴマー層と混合し、シリコーンオリゴマー層の中に分散している場合も含まれる。なお、混合機による撹拌時間などの条件によっては、シリコーンオリゴマー層の中に分散しないこともある。
【0016】
(軟磁性粉末)
本実施形態で使用する軟磁性粉末は、鉄を主成分とする軟磁性粉末であって、パーマロイ(Fe−Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe−Si合金)、センダスト合金(Fe−Si−Al合金)、純鉄粉、などを用いる。鉄合金は、その他にCoやAl、Cr、Mnを含んでもよい。パーマロイ(Fe−Ni合金)を用いる場合、Feに対するNiの比率は50:50や25:75が好ましいが、他の比率であってもよい。例えば、Fe−80Ni、Fe−36Niでもよい。FeとNiの他にSi、Cr、Mo、Cu、Nb、Ta等を含んでいても良い。Fe−Si合金粉末は、例えば、Fe−3.5%Si合金粉末、Fe−6.5%Si合金粉末が挙げられるが、Feに対するSiの比率は、3.5%や6.5%以外であっても良い。純鉄粉は、Feを99%以上含むものである。軟磁性粉末は1種類でなく、2種類以上の混合粉でも良い。
【0017】
軟磁性粉末の製造方法は問わない。粉砕法により作製されたものでも、アトマイズ法により作製されたものでも良い。アトマイズ法は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水ガスアトマイズ法のいずれでも良い。水アトマイズ法は、現状、もっとも入手性が良く低コストである。水アトマイズ法を使用した場合は、その粒子形状がいびつであるので、それを加圧成形した粉末成形体の機械的強度を向上させやすい。
【0018】
(無機絶縁粉末)
軟磁性粉末に混合する無機絶縁粉末としては、融点が1000℃以上の無機絶縁粉末であるアルミナ粉末、マグネシア粉末、シリカ粉末、チタニア粉末、ジルコニア粉末の少なくとも1種類以上であることが好ましい。融点が1000℃以上の無機絶縁粉末を使用するのは、後述の成形時に加わった圧力による歪みをとる目的で行う熱処理工程で加えられる熱により、無機絶縁粉末が焼結し圧粉磁心の材料として使用できなくなることを防止するためである。
【0019】
無機絶縁粉末の比表面積は65〜130m/g(粒子径にすれば7〜200nm)が好ましく、より好ましくは100〜130m/g(粒子径で7〜50nm)である。無機絶縁粉末の比表面積が大きいほうが、粒子径が小さくなる。粒子径が小さいほうが、軟磁性粉末間に無機絶縁粉末が隙間なく入り込み、密度の高い絶縁被膜が形成され、圧粉磁心成形時の歪みが緩和される。一方、無機絶縁粉末の比表面積が大きすぎると、粒子径が小さくなりすぎて製造が困難となる。
【0020】
無機絶縁粉末の添加量は、軟磁性粉末に対して0.5〜2.0wt%とする。これより少なければ絶縁性能が十分に発揮できず、高い熱処理温度では渦電流損失が著しく増加する場合がある。一方、これより多いと絶縁性能は発揮できるが、成形密度が低くなり、渦電流損失以外の磁気特性が低下するという問題点が生じる場合がある。これらの問題が生じない場合は、無機絶縁粉末付着工程は必ずしも必要ではない。
【0021】
(2)シリコーンオリゴマー層形成工程
シリコーンオリゴマー層形成工程では、無機絶縁粉末が付着された軟磁性粉末に対して、シリコーンオリゴマーを所定量添加して、大気雰囲気中、所定の温度で乾燥を行う。シリコーンオリゴマー層形成工程により、軟磁性粉末の外側にシリコーンオリゴマー層が形成される。
【0022】
(シリコーンオリゴマー)
シリコーンオリゴマーは、主骨格がシロキサン結合であり、機械的結合力が強い。また、Si原子を1個有するモノマーであるシランカップリング剤に対して、低分子で、二量体、三量体である分子量1000程度のシリコーンオリゴマーを用いたほうが、その構造上、膜厚を厚くできると考えられる。すなわち、シリコーンオリゴマー層を絶縁被膜の中間層として形成することにより、絶縁被膜全体として機械的結合力を強く、膜厚を厚くすることができる。
【0023】
具体的には、シリコーンオリゴマーは、アルコキシシリル基を有する。アルコキシシリル基は、メトキシ系、エトキシ系、メトキシ/エトキシ系のものが含まれる。アルコキシシリル基を有するシリコーンオリゴマーであれば、反応性官能基を有さないメチル系、メチルフェニル系のものや、アルコキシシリル基及び反応性官能基を有するエポキシ系、エポキシメチル系、メルカプト系、メルカプトメチル系、アクリルメチル系、メタクリルメチル系、ビニルフェニル系のもの等を用いることができる。特に、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーを用いることで厚く硬い絶縁層を形成することができる。
【0024】
シリコーンオリゴマーに対するアルコキシシリル基の含有量は、20wt%〜45wt%であることが好ましい。アルコキシシリル基の含有量が20wt%より少ないと、密度が低下し、直流重畳特性が悪化するとともにヒステリシス損失が増加する。また、アルコキシシリル基の含有量が45wt%より多いと、密度が低下して、ヒステリシス損失が増加する。より好ましくは、アルコキシシリル基の含有量は、28wt%〜40wt%である。この範囲であれば、含有量が20wt%〜45wt%の範囲の中でも、損失が少なく、かつ、密度が高いため、良好である。また、密度が高いため、透磁率が高く、直流重畳特性が良好である。
【0025】
シリコーンオリゴマーは、その構造内に下記の(式1)で表されるT単位(3官能性)を含むシリコーンオリゴマーである。シリコーンオリゴマー層を形成するシリコーンオリゴマーは、モノマー、すなわち、下記の(式2)で表されるM単位(1官能性)を含まないことが好ましい。シリコーンオリゴマー層を形成する際の乾燥時にM単位部分が揮発して揮発した部分が粗になり、高温高湿に曝した場合に、磁気特性が悪化するからである。すなわち、シリコーンオリゴマーにM単位が含まれる場合には、シリコーンオリゴマー層を形成した際にM単位部分が粗になり、その部分が外気に触れやすくなる。この状態で高温高湿の環境下で曝すと、粗になった隙間部分に外気が入り込み、その部分で錆などが発生し、特性悪化の原因となる。例えば、リアクトルのサンプルを、85℃、95%の高温高湿の環境下で100時間放置した場合、M単位が含まれるシリコーンオリゴマーでシリコーンオリゴマー層を形成した場合の従来例では、その放置前よりも、透磁率が10%低下し、損失が30%増加する。これに対し、同じ条件でシリコーンオリゴマー層をT単位のみで構成されM単位を含まないシリコーンオリゴマーで形成した場合では、その放置前よりも、透磁率が3%低下するに留まり、また、損失が5%増加する程度に留まる。
(式1)
RSiO3/2(Rは、有機置換基である。)
(式2)
SiO1/2(Rは、有機置換基である。)
【0026】
シリコーンオリゴマー層を形成するためのM単位を含まないシリコーンオリゴマーとしては、T単位のみからなるシリコーンオリゴマーや、T単位を含むシリコーンオリゴマーの他に、下記の(式3)で表されるD単位(2官能性)又は(式4)で表されるQ単位(4官能性)を含むシリコーンオリゴマーであっても良い。これらのシリコーンオリゴマーであっても、高温高湿下で長時間曝しても、透磁率、損失の劣化を少なくすることができる。
(式3)
SiO2/2(Rは、有機置換基である。)
(式4)
SiO4/2
【0027】
シリコーンオリゴマーの分子量は、100〜4000であることが好ましい。分子量が100より小さい場合、熱処理工程において熱分解により破壊または消失されやすく、軟磁性粉末間が絶縁破壊されやすい。一方、分子量が4000より大きい場合、膜厚が厚くなりすぎて、磁気特性が低下してしまう。
【0028】
シリコーンオリゴマーの添加量は、軟磁性粉末に対して、1.0wt%〜2.0wt%であることが好ましい。添加量が1.0wt%より少ないと直流重畳特性が悪化する。添加量が2.0wt%より多いと密度が低下することにより、初透磁率が低下するとともにヒステリシス損失が増加する。
【0029】
シリコーンオリゴマー層の乾燥温度は、25℃〜350℃が好ましく、軟磁性粉末がFe−Ni合金粉末である場合には200℃〜350℃がより好ましい。軟磁性粉末がFe−Si合金粉末又は純鉄粉である場合には、25℃〜350℃がより好ましい。乾燥温度が25℃未満であると膜の形成が不完全となり、渦電流損失が高くなる。一方、乾燥温度350℃より大きいと粉末が酸化することによりヒステリシス損失が高くなり、成形体の密度及び透磁率が低下する。乾燥時間は、数時間程度であり、例えば、1時間〜2時間程度とする。
【0030】
なお、無機絶縁粉末付着工程を設けない場合、シリコーンオリゴマー層形成工程は、軟磁性粉末に対して、シリコーンオリゴマーを所定量添加して、大気雰囲気中、所定の温度で乾燥を行う。シリコーンオリゴマー層形成工程により、軟磁性粉末の表面にシリコーンオリゴマー層を形成する。
【0031】
(3)シリコーンレジン層形成工程
シリコーンレジン層形成工程では、シリコーンオリゴマー層が形成された軟磁性粉末に対して、シリコーンレジンを所定量添加し、大気雰囲気中、所定の温度で乾燥させる。シリコーンレジン層形成工程により、シリコーンオリゴマー層の外側にシリコーンレジン層が形成される。
【0032】
(シリコーンレジン)
シリコーンレジンはシロキサン結合(Si−O―Si)を主骨格に持つ樹脂である。シリコーンレジンを用いることで可撓性に優れた被膜を形成することができる。シリコーンレジンは、メチル系、メチルフェニル系、プロピルフェニル系、エポキシ樹脂変性系、アルキッド樹脂変性系、ポリエステル樹脂変性系、ゴム系等を用いることができる。この中でも特に、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れたシリコーンレジン層を形成することができる。
【0033】
シリコーンレジンの添加量は、軟磁性粉末に対して、0.5〜1.5wt%であることが好ましい。添加量が0.5wt%より少ないと絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が1.5wt%より多いとコアが膨張することにより成形体の密度が低下し、透磁率が低下する。シリコーンオリゴマーに対するシリコーンレジンの添加量を適宜調整することで、強固で絶縁性能の高い絶縁被膜を形成することができ、特にシリコーンオリゴマーに対するシリコーンレジンの重量比が1:0.8〜1:3の場合に、強度と絶縁性能が優れている。
【0034】
シリコーンレジン層の乾燥温度は、100℃〜400℃が好ましく、軟磁性粉末がFe−Ni合金粉末である場合には200℃〜300℃がより好ましい。軟磁性粉末がFe−Si合金粉末である場合は100℃〜400℃がより好ましい。軟磁性粉末が純鉄粉である場合には100℃〜300℃がより好ましい。乾燥温度が100℃より小さいと膜の形成が不完全となり、渦電流損失が高くなる。一方、乾燥温度400℃より大きいと粉末が酸化することによりヒステリシス損失が高くなり、成形体の密度及び透磁率が低下する。乾燥時間は、2時間程度である。
【0035】
(4)成形工程
成形工程では、表面に絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を加圧成形することにより、成形体を形成する。成形時の圧力は10〜20ton/cmであり、平均で15ton/cm程度が好ましい。
【0036】
(5)熱処理工程
熱処理工程では、成形工程を経た成形体に対して、Nガス中やN+Hガス非酸化性雰囲気中にて、700℃以上且つ軟磁性粉末に被覆した絶縁被膜が破壊される温度(例えば、950℃とする)以下で、熱処理処理を行うことで圧粉磁心が作製される。絶縁被膜が破壊される温度以下で熱処理処理を行うのは、成形工程での歪みを開放すると共に、熱処理処理時の熱により軟磁性粉末の周囲に被覆した絶縁被膜が破れることを防止するためである。一方、熱処理温度を上げ過ぎると、この軟磁性粉末に被覆した絶縁被膜が破れることにより、絶縁性能の劣化から渦電流損失が大きく増加してしまう。それにより、磁気特性が低下するという問題が発生する。熱処理工程における熱処理温度は、700℃以上900℃以下とする。
【実施例】
【0037】
本発明の実施例1〜10及び比較例1〜6を、表1〜3及び図2図7を参照して、以下に説明する。
[1.測定項目]
測定項目として、透磁率と鉄損(損失)を次のような手法により測定した。透磁率は、作製された圧粉磁心に1次巻線(20ターン)を施し、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー:4294A)を使用することで、10kHz、0.5Vにおけるインダクタンスから算出した。
【0038】
鉄損は、圧粉磁心に1次巻線(20ターン)及び2次巻線(3ターン)を施し、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY−8232)を用いて、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=0.1Tの条件下で鉄損(Pcv)を測定した。そして、鉄損からヒステリシス損失(Ph)と渦電流損失(Pe)を算出した。この算出は、鉄損の周波数曲線を次の(1)〜(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数(Kh)、渦電流損係数(Ke)を算出することで行った。
【0039】
Pcv=Kh×f+Ke×f…(1)
Ph=Kh×f…(2)
Pe=Ke×f…(3)
Pcv:鉄損
Kh:ヒステリシス損係数
Ke:渦電流損係数
f:周波数
Ph:ヒステリシス損失
Pe:渦電流損失
【0040】
本実施例において、各粉末の平均粒子径と円形度は、下記装置を用いて3000個の平均値をとったものであり、ガラス基板上に粉末を分散して、顕微鏡で粉末写真を撮り一個毎自動で画像から測定した。
会社名:Malvern
装置名:morphologi G3S
比表面積は、BET法により測定した。
【0041】
[2.第1の特性比較(シリコーンオリゴマーに含まれるアルコキシシリル基の含有量の比較)]
第1の特性比較では、シリコーンオリゴマーに含まれるアルコキシシリル基の含有量の比較を行った。
【0042】
本実施例1〜4及び比較例1、2で使用する試料は、下記のように作製した。なお、以下の記述において、「wt%」とは、軟磁性粉末に対する重量比を示す。表1に示すシリコーンオリゴマー(樹脂1〜6)は何れもT単位を含む。
(1)平均円形度0.982のFe−6.5%Si合金からなる軟磁性粉末をガスアトマイズ法で作製した。その後、250目(目開き60μm)の篩で篩通しを行い、平均粒子径を39μmとした。
(2)作製した軟磁性粉末に対して、比表面積が100m/gのアルミナ粉末を0.75wt%混合した。
(3)これらに対して表1に示すシリコーンオリゴマー(樹脂1〜6)を1wt%混合し、大気雰囲気中、150℃で1時間の加熱乾燥を行った。
(4)乾燥させた粉末に対してメチルフェニル系シリコーンレジン(品名:SILRES(登録商標)REN60)を1.5wt%混合して、大気雰囲気中、300℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(5)加熱乾燥後に生じた塊を解砕する目的で30目(目開き500μm)の篩通しを行った。その後、潤滑剤としてエチレンステアルアミドを0.5wt%を混合した。
(6)上記工程により絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を、外径17mm、内径11mm、高さ8mmのトロイダル形状の容器に充填し、成形圧力15ton/cmで成形体を作製した。
(7)最後に、成形体を850℃の熱処理温度で窒素雰囲気中にて熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1は、実施例1〜4及び比較例1、2の圧粉磁心について、シリコーンオリゴマーに含まれるアルコキシシリル基の含有量を17wt%〜50wt%としたときの圧粉磁心の磁気特性を示した表である。また、図2は、実施例1〜4及び比較例1、2について、アルコキシシリル基の含有量と圧粉磁心の密度との関係について示したグラフである。図3は、実施例1〜4及び比較例1、2について、アルコキシシリル基の含有量と圧粉磁心の損失との関係について示したグラフである。
【0045】
表1及び図2に示すように、実施例1〜4で密度が6.6kg/m以上であり、良好な結果が得られている。実施例1〜4は、密度が高いため、透磁率も高い。これに対し、比較例1は、密度が6.50kg/mであり実施例1〜4と比べて低く、直流重畳特性が悪化する。一方、比較例2は、密度は6.61kg/mであり、高密度であるが、損失が1255kW/mであり、損失が大きくなってしまっている。
【0046】
また、表1及び図2に示すように、実施例1〜4で損失が1200kW/m以下であり、比較例2と比べて低損失であることが分かる。比較例2では、損失が1255kW/mであり、損失が大きくなっている。比較例1は、損失は低損失であるが、密度が低下しており、必要な磁気特性が得られない。
【0047】
図2から明らかなように、アルコキシシリル基の含有量は、ヒステリシス損失(Phv)の低減に寄与していることが分かる。すなわち、実施例1〜4及び比較例1、2では渦電流損失(Pev)については、アルコキシシリル基の含有量が多くなるに従い、緩やかに増加するのに対し、ヒステリシス損失については、20wt%未満および45wt%超で比較的大きく増加する。そのため、ヒステリシス損失の大きさが、損失の大きさに寄与していることが分かる。換言すれば、アルコキシシリル基の含有量が20wt%〜45wt%の範囲、特に28wt%〜40wt%の範囲で、ヒステリシス損失が低減していることが分かる。
【0048】
また、850℃の高温で熱処理を行った実施例1〜4及び比較例1、2では、損失にバラツキがあることが確認できるが、最も大きな損失となった比較例2でも1255kW/mであり、いずれも目立った絶縁破壊が生じていない。これは、シリコーンオリゴマーにT単位が含有されていることにより、シリコーンオリゴマー層の破壊または消失が防止できたことが要因であると思われる。すなわち、850℃の高温で熱処理しても絶縁被膜の破壊または消失が防止できるのは、シリコーンオリゴマー層やシリコーンレジン層の各形成時に、乾燥工程を経たとしても、軟磁性粉末の外側にシリコーンオリゴマー層とシリコーンレジン層が保持されているからであると考えられる。特に、シリコーンオリゴマーにT単位が含有されていることが、シリコーンオリゴマー層の機械的結合力を高め、シリコーンオリゴマー層の保持に寄与しているものと考えられる。
【0049】
以上のように、アルコキシシリル基の含有量が20wt%〜45wt%の範囲で、高密度、かつ、低損失の圧粉磁心が得られることが分かる。特に、当該含有量が28wt%〜40wt%において、6.7kg/m以上の高密度を実現でき、かつ、1255kW/m未満の低損失を実現できていることが分かる。
【0050】
[3.第2の特性比較(シリコーンオリゴマーの添加量による比較)]
第2の特性比較では、軟磁性粉末に添加するシリコーンオリゴマーの添加量を変えて圧粉磁心の磁気特性の比較を行った。第2の特性比較で使用したシリコーンオリゴマーは、表1の樹脂2、5の二種類のシリコーンオリゴマーとした。
【0051】
(1)表1の樹脂2のシリコーンオリゴマー(アルコキシシリル基の含有量:40wt%)
実施例2、5〜8及び比較例3、4として、表1の樹脂2のシリコーンオリゴマーの添加量が0.75wt%〜2.5wt%までの圧粉磁心を用意した。
【0052】
実施例2、5〜8及び比較例3、4で使用する試料は、シリコーンオリゴマーの添加量以外は、上記第1の特性比較における作製工程(1)〜(7)と同じ作製工程で作製した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2は、実施例2、5〜8及び比較例3、4の圧粉磁心について、シリコーンオリゴマーの添加量を0.75wt%〜2.5wt%としたときの圧粉磁心の磁気特性を示した表である。なお、透磁率は、振幅透磁率であり、前述のインピーダンスアナライザーを使用することで、20kHz、1.0Vにおける各磁界の強さのインダクタンスから算出した。表2中の「μ0」は、直流を重畳させていない状態、すなわち磁界の強さが0H(A/m)の時の初透磁率を示す。表2中の「μ(10kA/m)」は、磁界の強さが10kH(kA/m)の時の透磁率を示す。
【0055】
図4は、実施例2、5〜8及び比較例3、4について、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の密度との関係について示したグラフである。図5は、実施例2、5〜8及び比較例3、4について、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の損失との関係について示したグラフである。
【0056】
表2及び図4に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が多くなるに従い、密度は低下していくことが分かる。シリコーンオリゴマーの添加量を2.5wt%とすると、密度が低下しすぎて初透磁率が低下し、ヒステリシス損失が増加する。一方、シリコーンオリゴマーの添加量を0.75wt%とすると、密度及び初透磁率は高いが、直流重畳時の透磁率(μ(10kA/m))が低下し、直流重畳特性が悪化することが分かった。
【0057】
また、表2及び図5に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量を変えても、損失に大きな違いは見られないが、シリコーンオリゴマーの添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲で比較的損失が小さく良好であることが分かる。より詳細には、添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲で比較的損失が小さく、添加量が1.0wt%未満、2.0wt%超であると、損失が増加する。添加量が1.0wt%未満で損失が高いのは、渦電流損失の増大が影響し、添加量が2.0wt%超で損失が高いのは、ヒステリシス損失が増大することが要因と考えられる。すなわち、渦電流損失は、添加量が1.0wt%未満で最も高く、添加量が多くなるに従い低下する。一方、ヒステリシス損失は、添加量が2.0wt%超で最も高く、添加量が少なくなるに従い低下する。
【0058】
以上より、シリコーンオリゴマーの添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲である場合に、高密度かつ低損失の圧粉磁心を得ることができることが分かる。特に、シリコーンオリゴマーの添加量は、1.0wt%〜1.5wt%の範囲が好ましく、更に1.0wt%〜1.25wt%の範囲がより好ましい。
【0059】
(2)表1の樹脂5のシリコーンオリゴマー(アルコキシシリル基の含有量:28wt%)
実施例4、9、10及び比較例5、6として、表1の樹脂5のシリコーンオリゴマーの添加量が0.75wt%〜2.5wt%までの圧粉磁心を用意した。
【0060】
実施例4、9、10及び比較例5、6で使用する試料は、シリコーンオリゴマーの添加量以外は、上記第1の特性比較における作製工程(1)〜(7)と同じ作製工程で作製した。
【0061】
【表3】
【0062】
表3は、実施例4、9、10及び比較例5、6の圧粉磁心について、シリコーンオリゴマーの添加量を0.75wt%〜2.5wt%としたときの圧粉磁心の磁気特性を示した表である。図6は、実施例4、9、10及び比較例5、6について、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の密度との関係について示したグラフである。図7は、実施例4、9、10及び比較例5、6について、シリコーンオリゴマーの添加量と圧粉磁心の損失との関係について示したグラフである。
【0063】
表2及び図6に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量が多くなるに従い、密度は低下していくことが分かる。シリコーンオリゴマーの添加量を2.5wt%とすると、密度が低下しすぎて初透磁率が低下し、かつ、損失が増加する。一方、シリコーンオリゴマーの添加量を0.75wt%とすると、密度は高いが、渦電流損失が増加することが分かった。
【0064】
表3及び図7に示すように、シリコーンオリゴマーの添加量を変えても、損失に大きな違いは見られないが、シリコーンオリゴマーの添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲で比較的損失が小さく良好であることが分かる。より詳細には、添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲で比較的損失が小さく、添加量が1.0wt%未満、2.0wt%超であると、損失が増加する。添加量が1.0wt%未満で損失が高いのは、渦電流損失の増大が影響し、添加量が2.0wt%超で損失が高いのは、ヒステリシス損失が増大することが要因と考えられる。すなわち、渦電流損失は、添加量が1.0wt%未満で最も高く、添加量が多くなるに従い低下する。一方、ヒステリシス損失は、添加量が2.0wt%超で最も高く、添加量が少なくなるに従い低下する。
【0065】
以上より、シリコーンオリゴマーの添加量が1.0wt%〜2.0wt%の範囲である場合に、高密度かつ低損失の圧粉磁心を得ることができることが分かる。特に、シリコーンオリゴマーの添加量は、1.0wt%〜1.5wt%の範囲が好ましい。
【0066】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7