(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5644048号明細書
【特許文献2】米国特許第5386023号明細書
【特許文献3】米国特許第5637684号明細書
【特許文献4】米国特許第5602240号明細書
【特許文献5】米国特許第5216141号明細書
【特許文献6】米国特許第4469863号明細書
【特許文献7】米国特許第5235033号明細書
【特許文献8】米国特許第5034506号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2007/0164250号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2006/0269612号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2005/0118102号明細書
【特許文献12】米国特許第7212284号明細書
【特許文献13】米国特許第7204999号明細書
【特許文献14】米国特許第7147712号明細書
【特許文献15】米国特許第7128891号明細書
【特許文献16】米国特許第6972046号明細書
【特許文献17】米国特許第6688494号明細書
【特許文献18】米国特許第5665277号明細書
【特許文献19】国際公開第2007/024323号
【特許文献20】米国特許第6706248号明細書
【特許文献21】米国特許第6485858号明細書
【特許文献22】米国特許第7128891号明細書
【特許文献23】米国特許第7060121号明細書
【特許文献24】米国特許第5958348号明細書
【特許文献25】米国特許第3941567号明細書
【特許文献26】米国特許第6254928号明細書
【特許文献27】米国特許第5958348号明細書
【特許文献28】米国特許第6225007号明細書
【特許文献29】米国特許第6200674号明細書
【特許文献30】米国特許第6080337号明細書
【非特許文献】
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【非特許文献64】Yao et al.(2005)J.Biomed.Optics,10(6):064012
【非特許文献65】Marmottant and Hilgenfeldt(2003)Nature,423:153−156
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【非特許文献67】Hellman et al.(2008)Biophoton.,1:24−35
【非特許文献68】Peterbauer et al.(2006)Lab Chip,6:857−863
【非特許文献69】Watanabe et al.(2007)Nat.Biotechnol.25:681−686
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【非特許文献71】Stevens et al.(2005)J.Bacteriol.,187:7857− 7862
【非特許文献72】Benjamin and Weaver(1961)Proc.R.Soc.London,Ser.A,261:516−531)
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】細胞手術ツールの一実施形態を概略的に示す。
【
図2】炭素でコーティングされたガラスマイクロピペットのSEM画像(左図)と、合成された金ナノ粒子のTEM画像(右図)とを示す。
【
図3】レーザパルス印加前後の細胞を示す。(上)ガラスマイクロピペット (中)炭素でコーティングされたマイクロピペット (下)金ナノ粒子でコーティングされたマイクロピペット
【
図4】3.2(A:24時間)及び5.8(C:72時間)のアスペクト比のTEM画像を示す。
【
図5】プラスチック基板上に金ナノ粒子を直接衝突させるためのバイオリスティック注入器を用いたトランスフェクション基板の製造を示す(左図)。中央図は基板上の典型的な粒子を示し、右図は、基板上の粒子密度を示す。
【
図6】A〜Dは、薄膜を加熱して(例えば、レーザパルスを用いる)アニーリングされた粒子を形成することによって、表面上にナノ粒子を形成する方法を示す。この例では、2nmのチタン接着層を備えた30nmの金膜が、113.2mJ/cm
2で100回のパルスでのパルスレーザ(532nm、6ns)で加熱された。粒子サイズの範囲は0.1から0.7μmまでであった(例えば、
図Cを参照)。粒子密度は略0.65個/μm
2 = 1細胞当たり65個の粒子(細胞面積〜10μm×10μmと仮定)であった。
【
図7】金ナノ粒子でコーティングされた基板を用いて光パターン化分子送達を行うことのできるデバイスの一実施形態の概略を示す。
【
図8】光パターン化分子送達用の実験設定と、キャビテーション気泡の動力学を撮影するのに用いられた時間分解イメージングシステムとの概略を示す。
【
図9】金粒子状のパルスレーザ照射によって誘起された気泡を示す。(a)レーザパルス印加前 (b)レーザパルス印加の78ns後。バーは50μmである。
【
図10】シャドウマスクを用いたHEK293T細胞内への光パターン化蛍光色素摂取を示す。(a)明視野 (b)蛍光画像(マスクが破線の右側を覆っていた。)
【
図11】293T細胞に対する準備的な光熱ピペットの試験を示す。左側がレーザパルス印加前で、右側がレーザパルス印加後である。ピペットは異なる厚さのAu/Pd薄膜でコーティングされていた。膜厚は(a)で5nmであり、(b)で13nmであった。両実験で用いられたレーザフルーエンスは88.3mJ/cm
2であった。
【
図12】aからcは、金薄膜でコーティングされたピペットを用いた接着性293T細胞内へのGFPエンコーディングプラスミドのマイクロインジェクションを示す。a:マイクロインジェクション手順。 b:注入から24時間後の細胞の蛍光画像であり、細胞が生きていてGFPを発現していることが示されている。 c:位相コントラスト画像及び蛍光画像を重ねた画像。
【
図13】光ピンセットと組み合わせたプラズモン光熱ピペットを用いた非接着性細胞マイクロインジェクションの概略(上図)と、光熱ピペットの先端に接触しつつ光ピンセットによってトラップされたNalm‐6細胞を示す画像(下図)を示す。
【
図14】細胞内への一以上の試薬の並列的で選択的な送達用の基板を概略的に示す。
【
図15】細胞内に試薬を選択的に送達するためのマイクロチャネルを備えた“トランスフェクション基板”の一構成を概略を示す。
【
図16A】
図16Aから
図16Cは、細胞内への一以上の試薬の並列的で選択的な送達のための例示的な一基板の動作を概略的に示す。
図16Aに示されるように、アレイ中の複数のオリフィスのうち一つの上に細胞が配置されて、そのオリフィスはマイクロチャネルと流体連結している。図示されるように、オリフィスの一方の縁は薄膜(この場合チタン)でコーティングされている。エネルギー源(例えば、レーザパルス)を用いて膜を加熱する。これは、
図16Bに示されるように薄膜の加熱をもたらす。膨張する蒸気泡が形成されて、細胞の脂質二重層を介する開口が形成される。
図16Cに示されるように、受動的な拡散又は能動的なポンピングによって、送達可能な物質がマイクロチャネルからオリフィスを通って細胞内に入る。
【
図16B】
図16Aから
図16Cは、細胞内への一以上の試薬の並列的で選択的な送達のための例示的な一基板の動作を概略的に示す。
図16Aに示されるように、アレイ中の複数のオリフィスのうち一つの上に細胞が配置されて、そのオリフィスはマイクロチャネルと流体連結している。図示されるように、オリフィスの一方の縁は薄膜(この場合チタン)でコーティングされている。エネルギー源(例えば、レーザパルス)を用いて膜を加熱する。これは、
図16Bに示されるように薄膜の加熱をもたらす。膨張する蒸気泡が形成されて、細胞の脂質二重層を介する開口が形成される。
図16Cに示されるように、受動的な拡散又は能動的なポンピングによって、送達可能な物質がマイクロチャネルからオリフィスを通って細胞内に入る。
【
図16C】
図16Aから
図16Cは、細胞内への一以上の試薬の並列的で選択的な送達のための例示的な一基板の動作を概略的に示す。
図16Aに示されるように、アレイ中の複数のオリフィスのうち一つの上に細胞が配置されて、そのオリフィスはマイクロチャネルと流体連結している。図示されるように、オリフィスの一方の縁は薄膜(この場合チタン)でコーティングされている。エネルギー源(例えば、レーザパルス)を用いて膜を加熱する。これは、
図16Bに示されるように薄膜の加熱をもたらす。膨張する蒸気泡が形成されて、細胞の脂質二重層を介する開口が形成される。
図16Cに示されるように、受動的な拡散又は能動的なポンピングによって、送達可能な物質がマイクロチャネルからオリフィスを通って細胞内に入る。
【
図17】
図14に示されるもののような基板を製造する一方法を概略的に示す。
【
図18】例示的なトランスフェクション基板の写真を示す。
【
図19】試薬送達基板上の並列的な気泡励起を示す。基板にレーザパルス(パルス幅6ns、波長532nm)を照射することによって、各円形開口に気泡が同期的に発生した。新月状のTi薄膜コーティングのため、気泡の破裂は、シリンダー状の側壁の一部に沿ってのみ生じた。
【
図20】a及びbは、膜の開口(a)と、HeLa細胞への試薬の送達のための試薬送達基板の使用(b)とを示す。膜不透過性緑色蛍光FITCデキストラン(分子量=3k Da)を、200μg/mlの濃度で細胞培地に担持した。156mJ/cm
2でのレーザパルス印加後、円形オリフィス上に成長しレーザトリガー気泡破裂に晒された細胞における蛍光色素摂取を観測した。この場合、送達は受動拡散によるものである。
【
図21】生哺乳類細胞内へのカーゴ送達用の光熱ナノブレードを用いた超高速膜切断のメカニズムを示す。ナノ秒レーザパルスによる励起後、Tiは、熱伝導によって周囲の水薄層と共に急速に加熱される。<1μsで膨張及び崩壊する破裂性蒸気ナノ気泡は、マイクロキャピラリ部分の圧力駆動送達と同期して、接触している細胞膜を切断する。
【
図22A】
図22Aから
図22Dは、Tiでコーティングされたマイクロピペットの構造と、レーザ励起による強度パターンの計算結果とを示す。
図22A及び
図22Bは、引き伸ばされてTiでコーティングされたマイクロピペットの走査型電子顕微鏡画像である。内側直径=1.38±0.1μm(平均±標準偏差)。外側直径=1.88±0.1μm。Ti薄膜の厚さ=102±8nm。(矢印は、マイクロピペット内部を走るガラスフィラメントの縁を示す。)
図22Cは、レーザ励起でのマイクロピペットの先端における正規化強度プロファイルである。(n
Ti=1.86+2.56i(非特許文献41)、n
glass=1.46、n
wter=1.34、λ=532nm、θ=30°)。
図22Dは、マイクロピペットの先端におけるTiリングの時間平均光吸収プロファイル(∝|E
ave|
2)である。
【
図22B】
図22Aから
図22Dは、Tiでコーティングされたマイクロピペットの構造と、レーザ励起による強度パターンの計算結果とを示す。
図22A及び
図22Bは、引き伸ばされてTiでコーティングされたマイクロピペットの走査型電子顕微鏡画像である。内側直径=1.38±0.1μm(平均±標準偏差)。外側直径=1.88±0.1μm。Ti薄膜の厚さ=102±8nm。(矢印は、マイクロピペット内部を走るガラスフィラメントの縁を示す。)
図22Cは、レーザ励起でのマイクロピペットの先端における正規化強度プロファイルである。(n
Ti=1.86+2.56i(非特許文献41)、n
glass=1.46、n
wter=1.34、λ=532nm、θ=30°)。
図22Dは、マイクロピペットの先端におけるTiリングの時間平均光吸収プロファイル(∝|E
ave|
2)である。
【
図22C】
図22Aから
図22Dは、Tiでコーティングされたマイクロピペットの構造と、レーザ励起による強度パターンの計算結果とを示す。
図22A及び
図22Bは、引き伸ばされてTiでコーティングされたマイクロピペットの走査型電子顕微鏡画像である。内側直径=1.38±0.1μm(平均±標準偏差)。外側直径=1.88±0.1μm。Ti薄膜の厚さ=102±8nm。(矢印は、マイクロピペット内部を走るガラスフィラメントの縁を示す。)
図22Cは、レーザ励起でのマイクロピペットの先端における正規化強度プロファイルである。(n
Ti=1.86+2.56i(非特許文献41)、n
glass=1.46、n
wter=1.34、λ=532nm、θ=30°)。
図22Dは、マイクロピペットの先端におけるTiリングの時間平均光吸収プロファイル(∝|E
ave|
2)である。
【
図22D】
図22Aから
図22Dは、Tiでコーティングされたマイクロピペットの構造と、レーザ励起による強度パターンの計算結果とを示す。
図22A及び
図22Bは、引き伸ばされてTiでコーティングされたマイクロピペットの走査型電子顕微鏡画像である。内側直径=1.38±0.1μm(平均±標準偏差)。外側直径=1.88±0.1μm。Ti薄膜の厚さ=102±8nm。(矢印は、マイクロピペット内部を走るガラスフィラメントの縁を示す。)
図22Cは、レーザ励起でのマイクロピペットの先端における正規化強度プロファイルである。(n
Ti=1.86+2.56i(非特許文献41)、n
glass=1.46、n
wter=1.34、λ=532nm、θ=30°)。
図22Dは、マイクロピペットの先端におけるTiリングの時間平均光吸収プロファイル(∝|E
ave|
2)である。
【
図23A】
図23Aから
図23Cは、光熱ナノブレードによる超高速膜切断と細胞生存率の評価を示す。
図23Aは、細胞膜と接触した際のピペットの先端の縁から0.4μmまでの最大半径を有するナノ気泡を示す。
図23Bは、自由懸濁液中の270ns以内の及びHeLa細胞膜としている170ns以内の蒸気ナノ気泡の膨張及び崩壊動力学を示す。
図23Cは、光熱送達後の細胞生存率を示す。対照実験を、ガラスのみのマイクロピペットを細胞に接触させて、同一のフルーエンス(180mJ/cm
2)のレーザパルスを照射することによって行った。細胞生存率は>90%であり、細胞がレーザパルス印加及び膜開口のみを受けた場合には、98±11%(平均±標準偏差)であり、細胞がレーザパルス印加及び液体注入を受けた場合には、94±4%であった。
【
図23B】
図23Aから
図23Cは、光熱ナノブレードによる超高速膜切断と細胞生存率の評価を示す。
図23Aは、細胞膜と接触した際のピペットの先端の縁から0.4μmまでの最大半径を有するナノ気泡を示す。
図23Bは、自由懸濁液中の270ns以内の及びHeLa細胞膜としている170ns以内の蒸気ナノ気泡の膨張及び崩壊動力学を示す。
図23Cは、光熱送達後の細胞生存率を示す。対照実験を、ガラスのみのマイクロピペットを細胞に接触させて、同一のフルーエンス(180mJ/cm
2)のレーザパルスを照射することによって行った。細胞生存率は>90%であり、細胞がレーザパルス印加及び膜開口のみを受けた場合には、98±11%(平均±標準偏差)であり、細胞がレーザパルス印加及び液体注入を受けた場合には、94±4%であった。
【
図23C】
図23Aから
図23Cは、光熱ナノブレードによる超高速膜切断と細胞生存率の評価を示す。
図23Aは、細胞膜と接触した際のピペットの先端の縁から0.4μmまでの最大半径を有するナノ気泡を示す。
図23Bは、自由懸濁液中の270ns以内の及びHeLa細胞膜としている170ns以内の蒸気ナノ気泡の膨張及び崩壊動力学を示す。
図23Cは、光熱送達後の細胞生存率を示す。対照実験を、ガラスのみのマイクロピペットを細胞に接触させて、同一のフルーエンス(180mJ/cm
2)のレーザパルスを照射することによって行った。細胞生存率は>90%であり、細胞がレーザパルス印加及び膜開口のみを受けた場合には、98±11%(平均±標準偏差)であり、細胞がレーザパルス印加及び液体注入を受けた場合には、94±4%であった。
【
図24】光熱ナノブレードによって送達可能な多様なカーゴサイズを示す。GFP発現RNAを、リポフェクタミン耐性IMR90一次ヒト肺線維芽細胞内に送達した。100nmの緑色蛍光ビーズ上にコーティングしたDsRed含有レンチウイルスが、移植後にROCK抑制剤分散ヒト胚性幹細胞内に発現した。直径200nmの蛍光ビーズを詰まらせずにHEK293T細胞内に送達した。HeLa細胞内へのバークホルデリア・タイランデンシス細菌の移植を高効率及び高細胞生存率で達成した。
【
図25A】
図25Aから
図25Cは、光熱ナノブレードによるHeLa細胞内への高効率細菌送達を示す。
図25Aは、移植後の細菌接種の過程を示す(非特許文献42)。
図25Bは、GFP標識バークホルデリア・タイランデンシスが、赤色蛍光デキストランテトラメチルローダミンと共に、HeLa細胞内へ移植された様子を示す(平均効率=46±33%(平均(標準偏差)))。共焦点z軸走査は、赤色蛍光細胞内部の多数の細菌を示している。
図25Cは、HeLa細胞内に移植されたmCherry標識バークホルデリア・タイランデンシスの増殖及びアクチン重合を示す。
【
図25B】
図25Aから
図25Cは、光熱ナノブレードによるHeLa細胞内への高効率細菌送達を示す。
図25Aは、移植後の細菌接種の過程を示す(非特許文献42)。
図25Bは、GFP標識バークホルデリア・タイランデンシスが、赤色蛍光デキストランテトラメチルローダミンと共に、HeLa細胞内へ移植された様子を示す(平均効率=46±33%(平均(標準偏差)))。共焦点z軸走査は、赤色蛍光細胞内部の多数の細菌を示している。
図25Cは、HeLa細胞内に移植されたmCherry標識バークホルデリア・タイランデンシスの増殖及びアクチン重合を示す。
【
図25C】
図25Aから
図25Cは、光熱ナノブレードによるHeLa細胞内への高効率細菌送達を示す。
図25Aは、移植後の細菌接種の過程を示す(非特許文献42)。
図25Bは、GFP標識バークホルデリア・タイランデンシスが、赤色蛍光デキストランテトラメチルローダミンと共に、HeLa細胞内へ移植された様子を示す(平均効率=46±33%(平均(標準偏差)))。共焦点z軸走査は、赤色蛍光細胞内部の多数の細菌を示している。
図25Cは、HeLa細胞内に移植されたmCherry標識バークホルデリア・タイランデンシスの増殖及びアクチン重合を示す。
【
図26】多様なレーザ偏光及びマイクロピペットの向きにおいて光熱ナノブレードによって生成される細胞膜切断パターンを示す。レーザフルーエンス=360mJ/cm
2。ピペット先端の直径=2μm。Aは直線偏光、Bは円偏光、Cは垂直軸から30°傾斜させたマイクロピペットでの直線偏光レーザ励起を示す。バーは1μmである。
【
図27】ナノブレードの先端における熱分布に対する照射角度及び偏光の影響を示す。瞬間強度が上の行に示されていて、時間平均強度が下の行に示されている。左の列は直線偏光での垂直な向きの先端を示す。中央の列は、円偏光での垂直な向きの先端を示す。右の列は、直線偏光での傾斜させた先端(30°)を示す。
【
図28A】
図28Aから
図28Cは、細胞内に設けられた開口における照射角度及び偏光の影響を示す。
図28Aは、直線偏光を用いて加熱した垂直ピペット(ナノブレード)で設けられた開口を示す。
図28Bは、円偏光を用いた加熱した垂直ピペット(ナノブレード)で設けられた開口を示す。
図28Cは、傾斜ピペット(ナノブレード)で設けられた開口を示す。
【
図28B】
図28Aから
図28Cは、細胞内に設けられた開口における照射角度及び偏光の影響を示す。
図28Aは、直線偏光を用いて加熱した垂直ピペット(ナノブレード)で設けられた開口を示す。
図28Bは、円偏光を用いた加熱した垂直ピペット(ナノブレード)で設けられた開口を示す。
図28Cは、傾斜ピペット(ナノブレード)で設けられた開口を示す。
【
図28C】
図28Aから
図28Cは、細胞内に設けられた開口における照射角度及び偏光の影響を示す。
図28Aは、直線偏光を用いて加熱した垂直ピペット(ナノブレード)で設けられた開口を示す。
図28Bは、円偏光を用いた加熱した垂直ピペット(ナノブレード)で設けられた開口を示す。
図28Cは、傾斜ピペット(ナノブレード)で設けられた開口を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
特定の実施形態では、本発明は、単細胞に対する“手術”用の新規ツール/デバイスに関し、また、細胞操作及び/又は細胞に対する試薬の送達又は抽出用の基板に関する。
【0028】
[細胞に対する手術用の手術ツール]
多様な実施形態において、“単細胞手術ツール”は、最小の細胞損傷で、マイクロインジェクション(微量注入)、マイクロエクストラクション(微量抽出)、及び/又は細胞内操作を行うものとして提供される。これは、脂質二重層によって区切られたあらゆる細胞(例えば、真核細胞、より好ましくは脊椎動物細胞、更に好ましくは哺乳類細胞)に対して使用可能である。特定の実施形態では、本デバイスは、細胞壁を備えた細胞(例えば、植物細胞)に対して利用可能である。
【0029】
特定の例示的実施形態では、本デバイスはマイクロキャピラリチューブ(例えば、マイクロピペット)を備え、そのマイクロキャピラリチューブは、マイクロキャピラリチューブの先端又はその付近に“エネルギー吸収”ナノ粒子及び/又は“エネルギー吸収”薄膜を備える。本デバイスは、マイクロキャピラリ上にコーティングされた金属膜(例えばナノコーティング)及び/又は金属粒子/ナノ粒子の励起/加熱(例えばレーザ誘起加熱)によって、細胞の正確で制御可能なナノスケール修飾を達成する。特定の理論に縛られるものではないが、細胞の表面に近付けると又は接触させると、この極端な局所的加熱が、細胞膜(及び/又は細胞壁)に正確なサイズの孔を穿つと考えられる。このようにして、現状のマイクロインジェクション及びエクストラクション法に伴う機械的及び生物化学的損傷を誘発せずに、マイクロピペットが簡単に細胞膜を貫くことができる。従って、本ツールは、小型で機械的に脆弱な細胞に対する高い成功率での手術を促進する。
【0030】
単細胞マイクロインジェクションは、細胞内に異物を導入するための、細胞間における細胞成分の抽出及び移植のための、及び/又は細胞内に一般的に見られない成分(プローブ、検出器、遺伝子組み換え細胞小器官、遺伝子、タンパク質等)の導入のための強力な多目的技術である。従来のガラスピペット法(遺伝子組み換えマウスを産み出すために使われるもの等)は、細胞に対して大きな機械的及び生物化学的ストレスを課し、特に機械的に脆弱な細胞に対して成功率が低い。
【0031】
現状のレーザ誘起細胞アブレーション法はこの機械的ストレスを排除するが、高度に集束した光を必要として、損傷体積が回折限界となる。対照的に、本願で説明される細胞手術ツールは、ピペット先端における又はその付近での粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜の局所的加熱によって、キャピラリマイクロピペットの先端又はその付近でのナノメートルサイズのスケールでの操作(例えばアブレーション)を達成することができる。粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜は、電磁放射(例えば、電場、磁場、RF場、広帯域又は集束レーザパルス等)を用いて加熱される。
【0032】
多様な実施形態において、本願で説明される細胞手術法は、金属粒子/ナノ粒子及び/又は金属薄膜の光熱効果を利用する。例えば、粒子の幾何学的形状(例えば、アスペクト比)及び/若しくは組成、並びに/又は膜の厚さ又は組成を制御することによって、電磁放射(例えば、レーザエネルギー)が粒子及び/又は薄膜には強力に吸収されるが、その近傍の細胞又は細胞成分には強力に吸収されないようにして、従来のレーザベースの細胞操作法によって生じる細胞又は遺伝子の損傷を回避するように、物質を“微調整”することができる。現状のレーザ細胞法は、アブレーション又はキャビテーション効果を生じさせるために細胞成分によるレーザ出力の強力な吸収に因っているものである。このようなプロセスは細胞を損傷させる可能性があり、細胞成分の望ましくない破壊や、操作されている細胞の生態に影響し得る化学的効果を生じさせる可能性がある。
【0033】
対照的に、本願で説明されるマイクロサージャリーツールを利用すると、レーザ又は他の電磁エネルギー源を用いて、マイクロキャピラリピペットに結合されて細胞膜に局在化した粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜を加熱することができる。従って、エネルギー源(例えば、レーザ)が、操作されている細胞を実質的に損傷しない。
【0034】
物質の選択に応じて、ナノ粒子及び/又は薄膜は、本質的にあらゆる電磁放射の印加によって励起(加熱)可能である。従って、多様な実施形態において、ナノ粒子及び/又は薄膜の加熱は、磁場及び/又は電場及び/又はRF場及び/又は光(例えば、レーザ)の印加によって達成される。
【0035】
例えば、金属粒子、ナノ粒子、薄膜は、表面プラズモン周波数に近い周波数(一般的に可視及び近赤外線範囲内)の電磁波を強力に吸収する。粒子、ナノ粒子、薄膜は、吸収されたエネルギーによって急速に加熱され、周囲媒体の蒸発を伴う過熱現象を生じさせる。細胞手術ツールの特定の実施形態では、例えば
図1に示されるように、個々の又は多数のナノ粒子がマイクロピペットの先端(チップ)上にコーティングされる。レーザパルス励起によって、ナノメートル直径の蒸気泡がナノ粒子周辺に生成される。細胞表面に近付けるか又は接触させると、このプロセスは、細胞膜(及び/又は細胞壁)に制御された正確なサイズの孔を発生させる。このようにして、マイクロピペットは、現状のマイクロインジェクション及びエクストラクション法に付随する機械的及び生物化学的損傷を誘発せずに、細胞膜を簡単に貫くことができる。キャビテーション又は“孔開け”プロセスは数ナノ秒で完了する。結果として、膜の残りの部分には反応する時間がなく、機械的に影響を受けていないままである。ピペットが細胞内の適切な箇所に存在していると、ピペットの中空のボア(孔)を介して通された光ファイバデバイス等のデバイスの操作用に、“膜孔”を開いたままにすることができる。特定の実施形態では、マイクロキャピラリの先端に及び/又はその付近に配置された金属薄膜を用いて、同様の効果を得ることができる。
【0036】
例示的な一動作モードでは、顕微鏡(例えば、倒立顕微鏡)下で、マイクロマニピュレータ及び/又は自動(例えば、ピエゾ駆動)ステージによって、マイクロピペットを標的細胞の隣に配置することができる。マイクロピペットの先端にレーザ(又は他のエネルギー源)パルスを印加することによって、細胞の顕著な変形を生じさせずに、ピペットが簡単に膜を貫通する。ピペットが細胞内部に存在していると、後続の分子及び細胞成分の注入や抽出を実施することができ、生細胞の細胞内操作が可能となる。
【0037】
従って、細胞手術ツールを用いて、単細胞マイクロインジェクション及び/又はエクストラクション及び/又は細胞内操作を実施することができる。接着細胞膜に対する孔開けについて説明してきたが、これは、懸濁液中の細胞に対して、光学ピンセットを用いて固定した細胞に対して、及び/又は標準的な吸引ベースの保持ピペットを用いたクラスター、コロニー又はクランプ内で日々成長している細胞に対して容易に拡張される。例示的な実験結果が
図3に示されている。
【0038】
多様な実施形態において、ピペット(ナノブレード)の角度を変更することによって、及び/又はレーザ偏光を変更することによって、異なった膜切断を達成することができる。例えば、ピペットが0度(垂直)から30度に傾くと、チタンリング上のホットスポット(高温スポット)が、正反対の位置から互いに近づいて移動する(例えば、
図27を参照)。その結果としての膜の切断は、“蝙蝠の眼(バットアイ)”状になる(例えば、
図28A〜
図28Cを参照)。
【0039】
切断パターンを制御する他の要因(Optics Express誌で述べられている)は、ピペット先端のサイズである。ピペットの先端サイズが2マイクロメートルに低下すると、熱が二つのホットスポット間で拡散して、膜状に一つの“猫用ドア(キャットドア)”状の切断部を生じさせることができる。
【0040】
これは
図26に示されている。光熱ナノブレードによる切断パターンをイメージング用に保存するため、HeLa(ヒーラ)細胞をグルタルアルデヒドで20分間にわたって前処理して、タンパク質架橋を誘起して、細胞膜が再び閉じることを著しく遅くした。レーザパルス(360mJ/cm
2のレーザフルーエンス)印加(360mJ/cm
2のレーザフルーエンス)中に、2μmのサイズの先端直径のTiコーティングマイクロピペットを、細胞膜表面に垂直に軽く接触させて配置した。
【0041】
レーザパルス印加後に、細胞膜を走査型電子顕微鏡で撮像した。直線偏光レーザパルスを印加することによって、Tiナノ構造でコーティングされた先端の両側に沿って、二つの孔(各々 <1μm)が細胞膜に切り取られた一方で、円偏光レーザ励起によって、円形切断部(直径略1.5μm)が形成されて、対応する気泡のパターンと一致している(
図26(a)及び26(b))。マイクロキャピラリを傾斜させて、Tiリングの一方の側のみが細胞膜と光接触するようにすることによって、略1.5μmの“猫用ドア”の半月状開口部が膜に形成された(
図26(c))。これらの制御させた切断パターンは再現性の高いものであった。
【0042】
他の例示的であるが非限定的な構成では、ピペットが、ガラスキャピラリの先端及び外壁の両方にチタンコーティングを有する。この場合、気泡は一般的にチップの全周囲に発生する(ドーナツ状)。膜の切断部は、ピペット先端に接触している領域に制限される。この場合、気泡の形状は、ピペットの傾斜又はレーザの偏光と共に顕著には変化しないので、特定の実施形態では、マイクロインジェクション用により適したものとなる。
【0043】
細胞手術ツールは、作業者によって決定される期間にわたって開いたままであるか、必要に応じて急速に閉じる特定のサイズ膜孔によって、生細胞操作に対する細胞損傷を最少にするか又は無くして、正確な細胞内アクセスを提供することができる。本デバイスを用いて、前核DNAマイクロインジェクション、胚盤胞内への胚性幹細胞の移植、体細胞核移植、他の細胞内の細胞小器官の修復や置換を実施することに対する、プローブ等の非細胞物体等の導入に対する効率及び成功率を上げることができる。
【0044】
[試薬の送達及び細胞トランスフェクション用の基板]
他の実施形態では、物質(エージェント)(例えば、核酸、タンパク質、有機分子、細胞小器官、抗体、他の配位子等)を生細胞内に送達する、及び/又は、それを細胞から抽出するための方法、デバイス、及びシステムが提供される。典型的には、本デバイスは、粒子(例えば、ナノ粒子)及び/または薄膜を有する基板を備える(例えば、上述のようなもの)。細胞をこの基板上に播種することができ、また、任意で、密集培養物が形成されるまで成長させることができる。特定の実施形態では、パルスレーザ(又は他の電磁エネルギー源)を基板全体に照射するか、又は基板の一領域に選択的に照射する(例えば、シャドウマスクに照射して、対応する照射パターンを基板上にうつすことによって)ことができる。エネルギー源(例えば、パルスレーザ)に晒された領域において、吸収されたエネルギーによって、粒子及び/又は薄膜が高温に加熱される。典型的には、数ナノ秒以内で、粒子及び/又は薄膜を取り囲む液体媒体層内に熱が散逸して、蒸気泡を発生させる。蒸気泡の急速な膨張及びその後の崩壊が過渡流体の流れを引き起こして、その近傍の細胞に強力なせん断応力を誘起して、細胞膜(及び/又は細胞壁)に局所的な細孔が形成される。結果として、流体の流れ又は熱拡散によって、膜不透過性分子を細胞内に運ぶことができる。キャビテーション気泡は、粒子及び/又は薄膜がエネルギー源に晒された箇所において優先的に生じるので、細胞培養物の特定の領域において及び/又は特定の時間において、分子摂取を誘起する照射パターンを選択/設計することができる。基板上の摂取領域の位置を、粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜のパターンと、照射パターンとの組み合わせによって決めることができる。同様に、摂取のタイミングを照射のタイミングによって制御することができる。このようにして、基板上の粒子のサイズ、物質及び/若しくは密度、並びに/又は、基板上の膜の物質及び/若しくは厚さ、エネルギー源のタイミング、強度及び頻度、並びに、照射パターンを制御することによって、高スループットで空間的に標的化された及び/又は時間的に標的化された分子送達が可能になる。
【0045】
他の例示的な実施形態では、基板及び/又はマイクロ流体構造上にエネルギー吸収膜及び/又はマイクロ粒子若しくはナノ粒子を集積することによって、試薬送達プラットフォームが提供される。特定の実施形態では、ナノ粒子及び/又は薄膜を、基板上に設けられた特定の特徴部(例えば、細孔、隆起部、チャネル等)に、その上に又はその付近に局在化させることができる。特定の実施形態では、粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜を基板の“頂部側”(細胞が配置されている箇所)に配置するが、他の実施形態では、追加的に又は代替的に、粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜を基板の底部側(例えば、細胞が配置される側の反対側)に配置する。いずれの場合でも、エネルギー吸収膜又は粒子(例えば、金属粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜)は、表面プラズモン周波数に近い周波数を有する電磁波を強力に吸収して、吸収されたエネルギーによって急速に加熱され、周囲媒体を蒸発させる過熱現象を生じさせる。例えば、レーザパルス励起の際に、ナノメートル直径の蒸気泡がナノ粒子又は薄膜の周囲に形成されて、細胞の表面に接触するか又は近づくと、このプロセスが細胞膜(及び/又は細胞駅)に制御された正確なサイズの孔を生じさせて、例えば試薬の出入りを可能にする。キャビテーション又は“孔開け”プロセスは数ナノ秒で完了する。結果として、膜の残りの部分には実質的に反応する時間がなく、機械的に比較的影響を受けていないままである。
【0046】
特定の実施形態では、こうしたデバイスが、一つ以上のマイクロ流体オリフィスを備えることができ(例えば、基板の上/中/貫通して)、エネルギー吸収膜(例えば、Ti膜)又はナノ粒子がオリフィスの縁及び/又は側壁に(又はオリフィスの縁付近に)配置される(例えば、
図14及び
図18を参照)。特定の実施形態では、本デバイスは、マイクロ流体オリフィスのアレイを備え(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、10個以上、20個以上、50個以上、100個以上のオリフィス)、エネルギー吸収マイクロ粒子又は膜がオリフィスの縁、側壁、又は近くに配置される。オリフィスは、一つのチャネル、又はチャネルのネットワークに接続可能である(例えば、マイクロ流体チャネル)。細胞をオリフィスの上又は近くに配置することができる。
【0047】
特定の理論に縛られるものではないが、このようなデバイスにおいて細胞膜が開くことには二つのメカニズムが存在していると考えられる。一つは粒子又は膜と細胞膜との直接接触(又は近接近)であり、キャビテーション気泡が細胞膜のすぐ隣に発生して細胞膜を破壊する。もう一つのメカニズムは、細胞膜が粒子及び/又は薄膜と接触していない場合のものである。例えば、細胞及び粒子及び/又は膜が基板の両側に存在している場合、キャビテーション気泡がキャビティ/細孔を介して流体を押し付けて、結果としての液体ジェットが細胞膜に孔を穿つ。
【0048】
このような基板の一つ(例えば、トランスフェクション基板)が
図15に概略的に示されている。図示されているように、基板は、オリフィスの列を備え、各列はマイクロチャネルによって接続されている。この例示的であり非限定的な実施形態では、二本のマニホールドが設けられていて、その各々が試薬を二つのマイクロチャネルに送達する。オリフィス付近の表面又はオリフィスを備えた表面は、照射された際に選択的に加熱される薄膜(例えば、Tiを備えた薄膜)及び/又はナノ粒子でコーティングされる。基板の選択的領域(例えば、照射領域1及び2)に所望の通りに照射して、照射領域内に配置された細胞内部に試薬を送達することができる。
図15は二本のマニホールドを例示しているが、多様な実施形態においては、これよりも多い又は少ない数のマニホールドが想定される。追加的に又は代替的に、バルブシステムによって、オリフィスへの試薬の送達を制御することができる。特定の実施形態では、マニホールドを省略することができる。
【0049】
例示的であり非限定的な一実施形態では、マイクロ流体構造上にエネルギー吸収膜及び/又はマイクロ粒子若しくはナノ粒子を集積することによって、試薬送達プラットフォームが提供される。このようなデバイスは、一つ以上のマイクロ流体オリフィスを備えることができ(例えば、基板の上/中/貫通して)、エネルギー吸収膜(例えば、Ti膜)又はナノ粒子が、オリフィスの縁及び/又は側壁に(又はオフィリスの縁の近くに)配置される(例えば、
図14を参照)。特定の実施形態では、本デバイスは、マイクロ流体オリフィスのアレイを備え(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、10個以上、20個以上、50個以上、100個以上のオリフィス)、エネルギー吸収マイクロ粒子又は膜をオリフィスの縁、側壁、又は近くに備える。オリフィスは、一つのチャネル、又はチャネルのネットワークに接続可能である(例えば、マイクロ流体チャネル)。細胞をオリフィスの上又は近くに配置することができる。
【0050】
図16に概略的に示されるように、オリフィスが加熱/励起されると(例えば、レーザパルスによって)、開口部が細胞膜及び/又は細胞壁に形成されて、拡散によって、又は、マイクロチャネルを介する流体のポンピング(例えば、外部圧力源を用いる)によって、マイクロ流体チャネル内に試薬を細胞内に送達することができる。
【0051】
多様な実施形態において、オリフィスの直径範囲は、略1μmから略100μm若しくは略50μm、略2μm若しくは略5μmから略20μm若しくは30μm、略1μm若しくは2μm若しくは略5μmから略10μm若しくは略15μm若しくは略20μm若しくは略25μm若しくは略30μm、又は略5μmから略10μm若しくは15μm若しくは20μmである。特定の実施形態では、オリフィスの直径は略10μmである。
【0052】
多様な例示的実施形態において、マイクロ流体チャネル(マイクロチャネル)は、略1000μm以下の幅及び/又は深さ、略800μm以下の幅及び/又は深さ(又は直径や特徴的寸法)、略500μm以下の幅及び/又は深さ(又は直径や特徴的寸法)、略400μm以下の幅及び/又は深さ(又は直径や特徴的寸法)、略300μm以下の幅及び/又は深さ(又は直径や特徴的寸法)、略200μm以下の幅及び/又は深さ(又は直径や特徴的寸法)、略150μm以下の幅及び/又は深さ(又は直径や特徴的寸法)、略100μm以下の幅及び/又は深さ(又は直径や特徴的寸法)、略50μm以下の幅及び/又は深さ(又は直径や特徴的寸法)、又は、略20μm以下の幅及び/又は深さ(又は直径や特徴的寸法)を有する。
【0053】
特定のオリフィスに対して選択的に照射/加熱を行うことによって、試薬(例えば、本願で説明されるようなもの)を、照射/加熱されたオリフィスの頂部又は近傍において細胞に選択的に送達することができる。同様に、適切なマイクロチャネルに送達されるべき物質を選択的に提供することによって、同じ物質又は異なる物質を同じ基板上の異なる細胞に送達することができる。
【0054】
本願で説明される“アドレス可能”送達(デリバリー)デバイス/基板は、広範な状況において使用可能である。例えば、高スループットシステムにおいて、物質(エージェント)を媒体に投与して、細胞を含有する領域(この領域内に物質が届けられる)に(例えばレーザ放射を)照射することによって単純に、異なる複数のウェル又は単一のウェルの異なる複数の領域が、標的細胞内に選択的に送達された試薬を有することができる。そして、第一の物質を洗い出して、第二の物質を適用して、別の領域に対して照射することによって、培養物中の異なる位置に異なる物質がトランスフェクションされた細胞を生成することができる。これは、細胞の並列処理を大幅に促進して、一以上の試薬のタイミング及び空間的にアドレス可能な送達に対する顕著な制御を可能にする。
【0055】
一方、特定の実施形態では、細胞内にトランスフェクションされる物質が、基板上のオリフィスに流体連結されたマイクロチャネル内に提供されて、そのデバイスをこの方法で動作させる必要がない。例えば、細胞内にトランスフェクションされる物質を培地に提供することができる。細胞の領域又はその近くに領域を選択的に加熱すると、細胞内に細孔が形成されて、細胞内に物質がトランスフェクションされる。従って、ナノ粒子又は薄膜領域が、表面の一部に存在することができて、開口/オリフィスが関係なくなる。
【0056】
特定の実施形態では、例えば、本願で説明されるデバイスを、特定の物質を細胞に送達するためのポンプ又はバルブを備えた他のマイクロ流体デバイス(例えば、ラボオンチップ)と集積することができる。
【0057】
本願で説明される実施形態は例示的なものであり限定的なものではない。本願で与えられる教示を用いて、こうした“トランスフェクション基板”及びマイクロ流体デバイスの構成を変更して、例えば、基板上の特徴(例えば、細孔(オリフィス)サイズ、サイズ分布、空間分布)、膜及び/又はナノ粒子の種類、マイクロ流体チャネルの分布及び/又は構成等を変更することができる。
【0058】
[エネルギー源及び選択的照射]
物質の選択に応じて、本質的にはあらゆる種類の方法を適用して、本願で説明される手術デバイス及び/又は基板を備えたナノ粒子及び/又は薄膜を励起(加熱)することができる。こうした方法として、マイクロ波、レーザ、非コヒーレント光放射(例えば、赤外線放射)、電気加熱、電子スピン共鳴(ESR,electron spin resonance)加熱、磁気的加熱の印加等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の例示的実施形態では、ナノ粒子及び/又は薄膜の加熱は、磁場及び/又は電場及び/又はRF場及び/又は光(例えば、レーザ)の印加によって達成される。
【0059】
例えば、金属粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜は、表面プラズモン周波数付近の周波数(一般的に、可視及び近赤外線範囲)を有する電磁波を強力に吸収する。粒子、ナノ粒子及び薄膜は、吸収されたエネルギーによって急速に加熱され、周囲媒体を蒸発させる過熱現象を生じさせる。
【0060】
手術デバイス及び/又は基板を選択的に加熱する場合(例えば基板の一部)、デバイス又は基板を局所的/選択的に加熱するあらゆる手段を用いることができると考えられる。従って、例えば、特定の実施形態では、基板の特定の領域の局所的照射を、集束レーザ、集束非コヒーレント光(例えば、赤外線)源を用いて、達成することができる。
【0061】
特定の実施形態では、基板の一つ以上の領域の選択的照射がマスク(シャドウマスク)を用いることによって達成される。特定の実施形態では、局所的照射を、レンズ及び/又はミラーシステムを用いて照射エネルギー源(例えば、レーザ)を特定の領域に集束させることによって単純に達成することができる。特定の実施形態では、エネルギー源を固定領域に集束させ、基板を動かして(例えば、可動ステージ又は他のマニピュレータ)、特定の領域の局所的照射を達成することができる。照射領域は所望の形状をとることができる。例えば、特定の実施形態では、照射領域は、円形、正方形、楕円形、六角形、三日月形、他の規則的な又は不規則な形状である。特定の実施形態では、基板上の多数の領域に対して同時に又は逐次的に照射が行われる。
【0062】
特定の実施形態では、実施例で実証されるように、静的なシャドウマスクだけではなくて、TI社のDMDマイクロディスプレイやLCDディスプレイ等の空間光変調器を用いた動的なマスクによって、エネルギーパルス(例えば、レーザパルス)を成形することができる。これは、標的細胞内へのマイクロインジェクションの実時間でインタラクティブな制御を提供する。
【0063】
[製造]
特定の実施形態では、単細胞手術デバイスが、電磁エネルギー源(例えば、レーザ)を用いて加熱可能な粒子又はナノ粒子及び/又は薄膜をチップに又はその近くに有するマイクロピペットを備えて提供される。多様な実施形態において、細胞トランスフェクションデバイスは、電磁エネルギー源(例えば、レーザ)を用いて加熱可能なナノ粒子及び/又は薄膜を備えた基板(例えば、細胞培養ベッセル、マイクロタイタープレート等)を備えて提供される。
【0064】
本願で説明されるマイクロピペット及び“トランスフェクション基板”を、当業者に既知の方法を用いて製造することができる。例えば、多様な実施形態において、注入マイクロピペットが、例えば、市販のピペットプラー(puller)を用いて製造される一方、半導体業界において既知のマイクロ製造方法を用いて基板を製造することができる。
【0065】
[マイクロキャピラリ/マイクロピペットの製造]
マイクロキャピラリ/マイクロピペットを、加熱及び細胞貫通を許容するのに必要な強度及び耐熱性を提供しながら、引き伸ばすことのできる、エッチングすることのできる、又は他の所望の寸法にすることのできるあらゆる物質から製造することができる。また、物質、対象の細胞にとって有毒ではないことが好ましい。特定の実施形態では、マイクロキャピラリは、ガラス、鉱物(例えば、石英)、セラミック、プラスチック(例えば、デルリン(登録商標)、テフロン(登録商標)等)、金属、半導体等の物質を備える。
【0066】
マイクロピペットを製造する場合、ピペットの断面形状は典型的に円形である。しかしながら、これは、円形のピペットのみが細胞手術ツールに使用可能であるという意味ではない。他の断面を有するマイクロピペットも製造することができる。例えば、所望のパターン、円形、矩形、三角形のピペット先端部をまずガラス又はシリコンウェーハ上に形成して、次に、注入ピペットに移して組み立てることができる。
【0067】
また、予め引き伸ばされたマイクロピペットが市販されている(例えば、英国ハートフォードシャー州のWorld Precision Instruments社製)。
【0068】
ピペットの直径は、単細胞手術器具によって重要なパラメータである。本願で説明される単細胞手術器具の利点の一つは、細胞の巻き添え損傷を少なくして、細胞膜に略μmサイズの孔を開けることができる点である。これは、大型のDNA又は他の物質を細胞内に殺さずに送達することを可能にする。巻き添え損傷を減らすため、従来のマイクロピペット法では、典型的に、ガラスピペットの外側の先端直径が200nm未満であることが必要とされ、小さな哺乳類細胞の柔軟な細胞膜に対する貫通を容易にする。この制約は、従来のマイクロピペット法で送達可能な粒子のサイズを大きく制限する。染色体、核、細胞小器官、他の細胞外物質等の物質は、大きな研究価値及び市場価値を有するが、ピペットの開口部の物理的サイズよりも大きなサイズを有することが多く、従来の方法では細胞内に導入することができない。
【0069】
本願で説明される“レーザ”細胞手術ピペットは、この問題に対して独創的な解決策を提供し、マイクロピペット業界全体に革命を起こす可能性を有する。一般的に、本発明の方法及びデバイスは、大型のDNA断片(例えば、BACサイズのDNAやこれよりも大きなDNA)、核、細胞小器官、他の大型物質を、他の方法よりも細胞の損傷を少なくして、より効率的に細胞内に導入するのに有効である。従って、特定の実施形態では、本願で説明される単細胞手術ツールを備えたマイクロピペットは、200nmよりも大きな、略300nmよりも大きな、略400nmよりも大きな、略500nmよりも大きな、略600nmよりも大きな、略700nmよりも大きな、略800nmよりも大きな、略900nm若しくは1μmよりも大きな先端直径を有する。
【0070】
[トランスフェクション基板の製造]
同様に、好ましくは細胞に対して有毒ではなく、粒子、ナノ粒子又は薄膜コーティングを有することができて、且つ、粒子、ナノ粒子及び/又は薄膜に対する電磁エネルギーの印加によって生じる局所的加熱に耐えることができるあらゆる従来の物質から、“トランスフェクション基板”を備えた基板を製造することができる。適切な物質として、ガラス/シリコン、ゲルマニウム、鉱物(例えば、石英)、セラミック、プラスチック(例えば、デルリン(登録商標)、テフロン(登録商標)等)、金属、半導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
特定の実施形態では、基板は、細胞スクリーニング及び/又は細胞培養に用いられるベッセルの表面を備える。例えば、接着又は担持細胞培養のためのベッセルが挙げられる。また、マイクロタイタープレート(例えば、96個、384個、864個、1536個のウェル等)、マイクロ流体デバイス、高密度(マイクロアレイ)基板、顕微鏡スライド、チャンバ等も挙げられる。
【0072】
特定の実施形態では、細胞トランスフェクション基板を、半導体業界において既知の方法を用いて製造する。一つの方法が
図17に概略的に示されている。この例示的な実施形態では、マイクロ流体オリフィス及びチャネルが、ガラスカバースリップ基板上のSU‐8フォトレジストをパターニングすることによって製造される。まず、底部トレンチを、高さ100μmのSU‐8 2075フォトレジストの層にフォトリソグラフィで画定する。Su‐8 2005フォトレジストの他の薄層(厚さ4μm)を底部層上にスピンコーティングして、第二のフォトリソグラフィステップによって円形の開口部を画定する。二層Su‐8構造を現像した後、基板傾斜角60度の電子ビーム蒸着によって、厚さ100nmのTi薄膜をその構造上に堆積させて、円形のオリフィスの頂部及び側壁の両方をコーティングする。最終ステップでは、頂部層のTiをドライエッチングして、マイクロチャネルを外部の流体ポンプに接続する。例示的な一実施形態では、底部トレンチは幅200μmであり、また300μmで離隔される。円形のオリフィスは、10から20μmの範囲の直径を有する。これらのオリフィスを正方向のアレイに配置して、100μmで離隔する。新月状のTi薄膜を円形のオリフィスの側壁にコーティングする。
【0073】
図示されているオリフィスは円形であるが、これに限定されるものではない。標準的な方法(例えば、エッチング法)を用いて、本質的にはあらゆる形状のオリフィス(例えば、円形、正方形、五角形、六角形、楕円形、台形、不定形等)を形成することができる。同様に、オリフィスのパターニングも、本質的にはあらゆる所望のパターンとなり得る。
【0074】
特定の実施形態では、ナノ粒子及び/又は薄膜がオリフィスの一部にコーティングされるが(例えば、或る角度で膜を堆積させることによって)、他の特定の実施形態では、オリフィス及び/又は残りの表面が、ナノ粒子及び/又は薄膜で均一にコーティングされる。
【0075】
[粒子/ナノ粒子/薄膜の物質]
多様な実施形態において、本願で説明される多様なデバイスを構成する粒子及び/又はナノ粒子又は薄膜は、全て同一の物質で形成される。他の実施形態では、特定のデバイスの粒子及び/又はナノ粒子又は薄膜は異なる物質を含む。従って、例えば、所定のデバイス(例えば、ピペット、トランスフェクション基板)が、二種、三種、四種、五種、又はそれ以上の異なる種類の粒子(例えば、粒子サイズ、及び/又は形状及び/又は物質が異なる)を有する粒子/ナノ粒子又は薄膜を含むことができる。同様に、本デバイスを構成する薄膜は、多数の膜(例えば、多層や、マイクロピペット又は基板の異なる箇所に異なる膜)を備えることができる。例えば、金属薄膜の上に、他の金属又は誘電体(例えば、酸化シリコン、窒化シリコン等)層をコーティングすることによって、本デバイスを修正して、基板の加熱又はピペットの先端によって損傷を受ける細胞の面積の割合に影響を与えるように微小気泡の膨張パターンを制御することができる。
【0076】
多様な実施形態において、マイクロピペット及び/又は“トランスフェクション基板”上の粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜を、適切な電磁エネルギーの印加によって加熱可能な金属、金属合金、半導体、又は他の物質から製造する。多様な実施形態において、半導体、金属、金属合金、それらの酸化物及び/又は窒化物が想定される。サイズ、アスペクト比、膜厚、及び/又は物質に応じて、多様なエネルギー源(例えば、レーザ光、電場、EF場、磁場、超音波源等)を用いて、このような金属を容易に加熱することができる。
【0077】
本願で与えられる説明の多くは、半導体又は金属の粒子/ナノ粒子及び/又は膜に関係していて、実施例では、金粒子及び/又は金又はチタンの膜について説明しているが、エネルギー源によって加熱される物質はこれらに限定されるものではない。本質的には、適切なエネルギーを吸収し、その結果として加熱を生じさせるあらゆる物質を、本願で説明される方法及びデバイスの加熱物質として使用することができる。従って、特定の実施形態では、金、銀、タンタル、プラチナ、パラジウム、ロジウム、チタン、これらの酸化物、窒化物、合金が想定される。
【0078】
本願で説明されるデバイス及び方法を構成するナノ粒子及び/又は薄膜において有用な物質のうち重要な一つは、チタン(Ti)及び/又はその酸化物、窒化物、合金、ドープ酸化物、ドープ窒化物、それらの合金である。特定の実施形態では、本願で説明されるデバイス及び方法を構成するナノ粒子及び/又は薄膜は、非常に硬く物質であり、金の融点よりも三倍高い融点を有するチタン及び/又は窒化チタン(TiN)を備える。ピペット上にコーティングして、40個の細胞を、一つのピペットを用いて連続的に注入したが、ピペットに損傷は見受けられなかった。また、これは、TiNでコーティングされたピペットが、ピペットを交換する必要なく、数百個から数千個の細胞を注入する可能性を有していることを意味している。これは、金でコーティングされたピペット(強力な破裂性気泡及び高温励起によって一、二回又は数回の使用で損傷する可能性がある)と比較すると、顕著な改善である。
【0079】
TiNの他の変形例は当業者には周知である。炭窒化チタン(TiCN)や窒化チタンアルミニウム(TiAlN)が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらの物質を個別に使用したり、TiNと交互の層にして使用したり、TiN粒子と共に混合粒子群として使用したりすることができる。こうしたコーティングは、耐腐食性及び硬度における同様の又は優れた増強を提供し、また、異なる(更には微調整可能な)吸収特性を提供する。
【0080】
上述のように、本願で説明されるデバイス及び/又は方法を構成する粒子又は膜は、金属を備えた物質に限定されるものではない。例えば、本発明者は、ブラックカーボンも、ピペット近くに破裂性気泡を誘起して、単細胞を殺す又は貫通することができることを実証している。従って、特定の実施形態では、例えば、カーボンナノチューブ(これに限定されるものではない)等の炭素ナノ粒子を、本願で説明される方法及びデバイスにおいて使用することができる。
【0081】
多様な実施形態において、周期表のII族、III族、IV族、V族又はVI族からの一種以上の物質を備えた粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜も想定され、また、それらの酸化物、窒化物、合金、ドープされたもの、及び/又は、遷移金属、酸化遷移金属、窒化遷移金属、遷移金属を備えた合金又は複合材等も想定される。特定の好ましい実施形態では、ナノ粒子及び/又は膜は、II族、III族、IV族、V族の物質(例えば、炭素、シリコン、ゲルマニウム、錫、鉛)、ドープされたII族、III族、IV族、V族、VI族元素、純粋な又はドープされたII族、III族、IV族、V族、VI族元素の酸化物、遷移金属、酸化遷移金属、又は窒化遷移金属を備える。特定の好ましい実施形態では、粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜は、III族、IV族、又はV族の半導体を備える。
【0082】
本願の教示から、特定の実施形態では、粒子/ナノ粒子及び/又は薄膜が、Si、Ge、SiC、Au、Ag、Cu、Al、Ta、Ti、Ru、Ir、Pt、Pd、Os、Mn、Hf、Zr、V、Nb、La、Y、Gd、Sr、Ba、Cs、Cr、Co、Ni、Zn、Ga、In、Cd、Rh、Re、W、これらの酸化物や窒化物等の一種以上の物質を含むことを理解されたい。
【0083】
上述のように、多様な実施形態において、ナノ粒子及び/又は薄膜を構成するII族、III族、IV族、V族、VI族元素、遷移金属、酸化又は窒化遷移金属は本質的に純粋なものであるか、又は、ドープされたもの(例えば、pドープ又はnドープ)であるか、又は合金化されたものであり得る。II族からVI族元素で使用される、特にIII族、IV族及びV族元素で使用される、特にIV族元素(例えば、シリコン、ゲルマニウム等)で使用されるpドーパント及びnドーパントは、当業者には周知である。このようなドーパントとして、リン化合物、ホウ素化合物、ヒ素化合物、アルミニウム化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
特定の実施形態では、粒子/ナノ粒子及び/又は膜は、シリコン、ゲルマニウム、炭化シリコン等のIV族半導体を備える。このような半導体について最も一般的なドーパントとして、III族元素のアクセプタや、V族元素のドナーが挙げられる。このようなドーパントとして、ホウ素、ヒ素、リン、場合によってはガリウムが挙げ有れるが、これらに必ずしも限定されるものではない。
【0085】
上述のように、多様な実施形態では、粒子/ナノ粒子は半導体を備える。ドープされたII族、III族、IV族、V族、VI族元素の多くは半導体であり、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、BaTe、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InP、InAs、InSb、AlS、AlP、AlSb、PbS、PbSe、Cd
3Sb
2、Zn
3P
2、Zn
3As
2、Zn
3Sb
2、TiO
2、TiO
2、TiO
2、Cu
2O、CuO、UO
2、UO
3、Bi
2O
3、SnO
2、BaTiO
3、SrTiO
3、LiNbO
3、La
2CuO
4、PbI
2、MoS
2、GaSe、SnS、Bi
2S
3、GaMnAs、InMnAs、CdMnTe、PbMnTe、La
0.7Ca
0.3MnO
3、FeO、NiO、EuO、EuS、CrBr
3、Cu(In,Ga)Se
2、Cu
2ZnSnS
4、CuInSe
2、AgGaS
2、ZnSiP
2、As
2S
3、PtSi、BiI
3、HgI
2、TlBr、Se、Ag
2S、FeS
2、Ge、Si、これらの三元混合物、四元混合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
レーザエネルギーに加えて、磁場、電場、RF場を用いて、粒子、ナノ粒子及び/又は特定の薄膜を加熱することも容易である。従って、例えば、参照として本願に組み込まれる特許文献9には、磁場中に置かれると、サイズ、組成、又はそれら両方の関数として、磁場の特定の周波数において選択的に加熱される磁性ナノ粒子が開示されている。
【0087】
多様な実施形態において、このようなナノ粒子又は薄膜は、十分な強度の磁場に晒されるとエネルギーを変換する磁性体(Ferro V磁性顔料等)を備える。従って、例えば、交番磁場が、粒子内に交流を誘起して、熱を発生させる。多様な磁性体が使用可能である。また、こうした物質として、Fe‐O
4、Fe
2O
3等の磁性体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、特定の実施形態では、銀、銅、プラチナ、パラジウム等が、本発明のデバイスに使用される粒子、ナノ粒子及び/又は薄膜を構成する。特定の実施形態では、粒子、ナノ粒子及び/又は薄膜は、TiO
2、CeO
2、Ag、CuO、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG,Yttrium Aluminum Garnet)、InO
2、CdS、ZrO
2、またはこれらの組み合わせを備えることができる。他の実施形態では、任意の酸化金属、金属合金、炭化金属及び/又は遷移金属を本発明において使用し得る。一部実施形態では、コーティングが印加場に対する応答性を変更しないようにして、粒子をコーティングすることができる。
【0088】
特定の実施形態では、本発明のデバイスで使用される粒子、ナノ粒子、又は薄膜が磁性体製となり得るが、他の実施形態では、常磁性体又は超常磁性体製となり得る。
【0089】
従って、特定の実施形態では、粒子、ナノ粒子及び/又は薄膜は、電子スピン共鳴吸収(SPM)及び/又は強磁性共鳴を用いて加熱可能な常磁性体又は超常磁性体を備えることができる。電子スピン共鳴(ESR)及び強磁性共鳴(FMR,ferromagnetic resonance)については、参照として本願に組み込まれる特許文献10及び特許文献11に記載されている。イットリウム鉄ガーネットY
3Fe
5O
12及びγ‐Fe
2O
3は、ESR及び/又はFMR加熱に適した周知の二物質である。多様な応用において、多様なドーパントを追加して、これらの物質のスピン共鳴周波数を低下させることができる。磁性ガーネット及びスピネルも、一般的な環境条件下においては化学的に不活性であり壊れにくい。
【0090】
また、周期表のII族、III族、IV族、V族の物質を備えた多様な物質及び/又は半導体も想定される。
【0091】
一般的な{c}
3(a)
2[d]
3O
12及びスピネルA[B]
2O
4フェライト化合物として考えられるものの例示的な一欄が表1に与えられている。
【0093】
粒子又はナノ粒子は、考えられる複数の形態のうち任意のものをとることができ、それでも本発明における使用に適してものとなる。従って、例えば、本発明は、以下の種類のナノチューブを用いることを想定している: ジグザグ型のカイラリティを有する、複数のカイラリティが混じった、ねじれた、真っ直ぐな、曲がった、よじれた、巻かれた、扁平な、丸い、単層、二層、多層ナノチューブ; ナノチューブのロープ、ねじれたナノチューブのロープ、編まれたナノチューブのロープ; ナノチューブの小型バンドル(束)(例えば、特定の実施形態ではチューブの数は略10本未満である)、ナノチューブの中型バンドル(例えば、特定の実施形態では、チューブの数は数百本である)、ナノチューブの大型バンドル(例えば、特定の実施形態では、チューブの数は数千本である); ナノトリイ(ナノ鳥居)、ナノコイル、ナノロッド、ナノワイヤ、ナノホーン; 中空のナノケージ、中実のナノケージ、多面ナノケージ、中空のナノコクーン(ナノ繭)、中実のナノコクーン、多面ナノコクーン; 薄いナノプレートレット、厚いナノプレートレット、インターカレート型ナノプレートレット、ナノコーン等。多様なナノ粒子(ナノ構造)は不均一型となり得る。このような不均一型として、構造の一部分が特定の化学組成を有する一方で構造の他の部分が異なる化学組成を有する構造が挙げられるが、これに限定されるものではない。一例は、各層の化学組成が互いに異なり得る多層ナノチューブである。また、不均一型として、多様な型のナノ構造物質も挙げられ、上記のもののうち一つがより大きな不規則構造に結合されている。また、特定の実施形態では、上記物質のうちいずれかが、ひび、転位、分岐、他の不純物及び/又は不完全性を有し得る。
【0094】
特定の実施形態では、本発明において使用される粒子又はナノ粒子のサイズ、並びに/又は薄膜の面積及び/若しくは厚さを調節又は最適化して、ナノ粒子又は膜の物質の選択、励起エネルギーの性質、励起エネルギーの周波数及び/又は強度を反映するようにすることができる。特定の実施形態では、ナノ粒子のサイズの範囲(例えば、長さ及び/又は幅及び/又は直径)は略10から略500nmまで、好ましくは略20nmから略200nmまで、より好ましくは、略20nm、30nm、40nm又は50nmから100nm、150nm又は200nmまでである。本発明で使用されるナノ粒子のサイズの範囲は、特定の実施形態では略4nmから略25nmまでであり、他の実施形態では8nmから5nmまでであり、他の実施形態では5nmから100nmまでであり、他の実施形態では10nmから800nmまでであり、他の実施形態では10nmから50nmまでであり、他の実施形態では50nmから200nmまでであり、他の実施形態では150nmから500nmまでである。
【0095】
多様な実施形態において、存在する場合には、金属膜の厚さの範囲は、略1、2、5、10、50、100、150、200、300、400又は500nmから、略800nm、1μm、5μm、10μm、50μm又は100μmまでである。特定の実施形態では、金属膜の厚さの範囲は、略2nm、5nm、10nm、20nm又は30nmから、略100nm、300nm、500nm、800nm又は1μmまでである。特定の実施形態では、金属膜の厚さの範囲は、1nmから150nmまでであり、好ましくは5nmから100nmまでであり、より好ましくは略5nm、10nm又は20nmから、略50nm、75nm又は100nmまでである。特定の実施形態では、金属膜の厚さは略30nmである。
【0096】
多様な実施形態において、本願で説明されるデバイスを構成するコーティングされた層は、連続的な薄膜、若しくは複数の小型領域(例えば、5nm、10nm、20nm、50nm、100nm、200nm、500nmの領域)に分割された薄膜であり得て、又は、本願で説明される離散的な粒子又はナノ粒子を備え得る。粒子の形状及び薄膜の厚さ並びに粒子又は膜の組成は、物質の吸収スペクトル、所望の局所的加熱を生じさせるのに必要なエネルギー源及び強度に影響を与える。
【0097】
一般的に、膜厚及び/又は粒子サイズは、局所的加熱によって生成される気泡のサイズと、気泡付近のマイクロ流体の流れの性質に影響する。これは、細胞内に生じるせん断応力と開口のサイズを決定する。一般的に、粒子が大きいほど、生成される気泡が大きくなり、細胞に与えられる衝撃が大きくなる。薄膜の厚さは、粒子サイズと同様の影響を有する。膜が厚くなるほど、生成される気泡が大きくなり、細胞に生じる孔が大きくなる。
【0098】
[粒子/ナノ粒子の製造と、マイクロキャピラリ及び/又は“トランスフェクション基板”への粒子及び/又は膜の適用]
粒子又はナノ粒子を製造して表面上に堆積させる又はこのような粒子を表面上にin situで合成する方法と、表面上に薄膜を堆積させる方法とは当業者には周知である。
【0099】
例えば、スパッタリング堆積、化学気相堆積(CVD,chemical vapor deposition)、分子ビームエピタキシ(MBE,molecular beam epitaxy)、プラズマ支援気相堆積、陰極アーク堆積、アークPVD、電子ビーム蒸着等の適切な方法によって、薄膜を堆積させることができるが、これらの方法に限定されるものではない。単細胞手術デバイスの多様な実施形態においては、膜は、先端から最大100μm、50μm、25μm、10μm、又は5μmまでの距離で、先端から最大1μmまでの距離で、より好ましくは先端から最大800nm、好ましくは最大500nm、より好ましくは最大300、200、150、100、50又は25nmまでの距離で、マイクロキャピラリの先端を部分的に又は完全に覆う。
【0100】
粒子及びナノ粒子を製造する方法も当業者には周知である。こうした方法として、燃焼合成(例えば、酸化還元反応において酸化剤(例えば、金属塩)及び燃料(例えば、有機化合物)を用いる)、蒸発/凝縮(EC,evaporation/condensation)発生器、噴霧熱分解(例えば、プラズマ処理及び粉末噴霧)、超臨界流体等の溶液化学を用いた液相法、化学的還元、機械的合金化、テンプレート法(例えば、小さな空隙又は領域内にナノ粒子を形成する。ゼオライト、柱状粘土、ナノ多孔質膜、逆ミセル)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない(例えば、参照として本願に組み込まれる特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17、特許文献18、特許文献19を参照)。ナノホーンの製造は、例えば、非特許文献43に記載されていて、一方、ナノファイバの製造は、例えば、参照として本願に組み込まれる特許文献20、特許文献21に記載されている。また、非特許文献44、非特許文献45、非特許文献46等も参照されたい。
【0101】
特定の実施形態では、界面活性剤系においてナノ粒子が合成される。このような表面活性剤ベースの方法は当業者には周知である。このような方法の一つは実施例1において例示される。
【0102】
より一般的には、特定の実施形態において、有機溶媒(例えば、エタノール)によって金属塩を還元して金属コロイドを形成することで、ナノ粒子を形成することができる(例えば、非特許文献47、非特許文献48、非特許文献49、非特許文献50等を参照)。例示的な一方法は非特許文献51に記載されている。こうした方法では、Ag
+イオンが、安定剤が存在するまたは存在しない状況において、N,N‐ジメチルホルムアミド(DMF,dimethylformamide)によって還元される。この反応は、表面上に静電的に付着した銀ナノ粒子の薄膜、又は銀ナノ粒子の安定分散体のいずれかの形成をもたらす。
【0103】
他の例示的方法では、鉄塩を、アルコール、カルボン酸及びアミンと有機溶媒中で混合して、その混合物を200〜360℃に加熱することによって、磁鉄鉱ナノ粒子物質を作製することができる。粒子のサイズは、鉄塩対酸/アミンの比を変更することによって、又は、多数の金属酸化物で小さなナノ粒子をコーティングすることによって、制御可能である。サイズ分布が狭くて、2nmから2nmまでの範囲のサイズの磁鉄鉱ナノ粒子を簡単に得ることができる。この方法は、他の酸化鉄系ナノ粒子物質にも簡単に拡張可能であり、MFe
2O
4(ここで、Mは、例えば、Co、Ni、Cu、Zn、Cr、Ti、Ba、Mg等である)ナノ物質や、酸化鉄でコーティングされたナノ粒子物質が挙げられる。また、この方法は、反応混合物においてアルコールをチオールに置換することによって、硫化鉄の合成することができる。磁鉄鉱ナノ粒子は、γ‐Fe
2O
3又はα‐Fe
2O
3に参加可能であり、又は、bcc‐Feナノ粒子に還元可能であり、一方で、酸化鉄系物質を用いて、二元鉄系金属ナノ粒子(CoFe、NiFe、FeCoSm
X等)を作製することができる(例えば、参照として本願に組み込まれる特許文献22を参照)。
【0104】
金ナノ粒子を生成する一方法は、金塩溶液を吸着剤と混合することを含む。錯体状の金が吸着剤の表面に吸着される。金担持吸着剤を、スクリーニング、濾過、沈殿又は他の方法で溶液から分離した後に、灰にする。その灰は、金ナノ粒子と、ナトリウムやカリウムやカルシウムの酸化物等の不純物とを含有する。不純物は、希釈酸を用いた溶解によって、除去可能である。不純物が除去された後に、比較的純粋な金ナノ粒子が得られる。活性炭や金吸着樹脂を吸着剤として用いることもできる。この方法で、銀又は白金族金属ナノ粒子も簡単に生成することができる(例えば、参照として本願に組み込まれる特許文献23を参照)。
【0105】
更に他の方法では、レーザ熱分解を用いてナノ粒子を形成することができる。従来のレーザ熱分解プロセス(光熱プロセスとも称される)は、当業者には周知である(例えば、参照として本願に組み込まれる特許文献24、特許文献25、特許文献26等を参照)。このプロセスでは、放射吸収体又は他の前駆体ガス状種がエネルギー(例えば、レーザ光)を吸収して、反応領域における物質の加熱をもたらし、反応領域内における化学成分間の熱による化学反応を生じさせる。典型的には、レーザ熱分解プロセスは、化学蒸気領域を通過するレーザ光によって発生させる明確に確定された高温領域(ホットゾーン)(典型的には1000〜1500℃)を用い、ガスが熱的に反応して、所望のナノスケール微粒子物質が形成される。高温領域に接触する壁が存在しないことによって、汚染が回避される。
【0106】
熱分解反応によって形成される物質は、典型的には重力又は気流による高温領域を残す。物質は、急速に冷却/急冷されて、サイズ及び形状の分布が極めて均一なナノ粒子が形成される。典型的な実施形態では、二酸化炭素(CO
2)レーザを用いて、光吸収によりガス分子を直接加熱する。レーザを用いることの他の利点は、そのスペクトル幅が狭いことであり、これは、正確な吸収波長(消費されるレーザ出力の15%以上)を有する分子前駆体と光との間の効率的な結合を可能にする。この技術を用いて、金属、炭化金属、窒化金属、酸化金属から多様なナノサイズ物質が生成されている(例えば、非特許文献52、非特許文献53、非特許文献54、非特許文献55、非特許文献56、非特許文献57、特許文献27、特許文献28、特許文献29、特許文献30等を参照)。
【0107】
同様に、TiN薄膜を生成する最も一般的な方法は、物理気相堆積(PVD,physical vapor deposition、一般的にはスパッタ堆積、陰極アーク堆積、電子ビーム加熱)及び化学気相堆積(CVD)である。両方の方法において、純チタンを昇華して、高エネルギー真空環境において窒素と反応させる。
【0108】
粉末金属チタンを所望の形状にパッキングして、適切な密度に圧縮し、純窒素雰囲気において燃やすことによって、バルクのセラミック体を製造することができる。金属とガスとの間の化学反応によって放出される熱は、窒化反応生成物を硬い完成品に焼結するのに十分なものである。
【0109】
当業者には既知の複数の方法のいずれかによって、粒子又はナノ粒子を、マイクロキャピラリ又は細胞トランスフェクション基板に付着させることができる。粒子を単純に適所にスパッタすること、金属コロイドの形成中に表面上に形成すること、核形成粒子上の適所に成長させること、表面にイオン的に付着させること、又は、表面に共有結合させること等ができる(例えば、直接的に、又はリンカー/官能化剤(例えば、‐SH、シラン(例えば、3‐アミノプロピルトリメトキシシラン等))を用いて)。
【0110】
実施例で説明されるように、一実施形態では、バイオリスティック細胞注入器(BioRad社製)を用いて金粒子を直接プラスチック基板上に衝突させることによって細胞トランスフェクション基板を製造することができる(例えば、実施例4、
図5を参照)。
【0111】
他の方法では、例えばパルスレーザを用いて、基板又はマイクロピペット上の薄膜を加熱することによって、薄膜を離散的なナノ粒子にアニーリングすることができることが発見された。従って、
図6に示されるように、製造方法は、接着金属(例えば、チタン、クロム)の層、次に金(又は他の金属)膜の層をガラスやプラスチックや石英等の基板上に堆積させることを含み得る。そして、そのサンプルを加熱する(例えば、レーザパルスを照射する)。十分に高いレーザエネルギーにおいて、金属フィルムが溶融して、その溶融金属が凝固して、ビーズ状の粒子が基板又はマイクロピペット上に形成される(
図6のSEM画像に見て取れるように)。
【0112】
任意の接着金属(例えば、チタン)層を基板と金層との間に挟むことによって、基板に対する金膜並びにアニーリング後の金ビーズのより強力な接着が得られる。接着層が無くても、レーザパルス又は他の加熱方法によって、金を表面上のナノ粒子ビーズにアニーリングすることができる。
【0113】
他の方法では、薄膜を有する基板又はマイクロピペットが提供される。そして、薄膜をエッチングして、レーザ又は他のエネルギー源の印加によって加熱可能なナノスケールサイズ領域を残す。
【0114】
粒子アレイ製造方法を、ナノインプリント、電子ビームリソグラフィ等の他のマイクロ又はナノ製造法に拡張することができる。現状のプラスチック基板を、PDMS等の他のポリマー物質や、ガラス基板、シリコン基板等と置換することができる。
【0115】
上述の表面上に粒子及びナノ粒子を生成及び付着させる方法及び表面上に薄膜を形成する方法は例示的なものであり限定的なものではない。本願で開示される方法を用いれば、せいぜい通常通りの実験によって、他の粒子、ナノ粒子及び薄膜でコーティングされた表面を形成することができる。
【0116】
[光ピンセットとの集積]
非接着性細胞への従来のマイクロインジェクションは、吸引力を印加して細胞を安定化させるために他の保持ピペットを用いる必要があるので、面倒なプロセスである。この方法では、ピペットが細胞膜を貫通する際に注入ピペットによって与えられる力に対抗する支えを細胞が有する。吸気圧力は、注入ピペット及び保持ピペットを相対的に位置決めするものであるが、致命的な細胞の損傷及び脆弱な細胞の死に関与する可能性がある。非接着性細胞のマイクロインジェクション効率を上昇させるための現状の一方法は、注入の前及び基板からの細胞の取り外しの際に表面処理された基板上に細胞を結合させることである。この方法は、細胞に対する追加の化学処理をもたらすだけではなく、時間のかかるものである。光ピンセットについては、ミクロン更にはサブミクロンサイズの物体及び生体学的成分をトラップして操作することができると示されている。光ピンセットのトラッピング力は、典型的にピコニュートンのオーダである。結果として、一般的には、光ピンセットを用いて、従来のガラスマイクロキャピラリ注入中に非接着性細胞を固定することは不可能である。
【0117】
これに対して、プラズモン光熱ピペット(本発明の手術ツール)は、容易に光ピンセットと組み合わせる可能である。この場合、操作される細胞は、光学力によって注入位置に自己整列される。注入プロセス中において、細胞は最小のせん断力及び機械的歪み(注入された細胞を生きたままにするための二つの重要なパラメータ)を受ける。光ピンセットと集積させたレーザ手術方法は、非接着性細胞に対する高速高効率マイクロインジェクションの可能性を有する。
【0118】
[細胞の種類]
一般的に、本願で説明される方法及びデバイスは、細胞膜を有する本質的にはあらゆる細胞に対して使用可能である。また、本方法及びデバイスは、細胞壁を有する細胞に対しても使用可能である。
【0119】
従って、例えば、NIH3T3マウス線維芽細胞、HEK293T胚腎臓線維芽細胞、HeLa子宮頸がん細胞を含む接着性細胞が、本願で説明されるデバイス及び方法を用いて、GEP発現プラスミドに注入されている。一般的に、接着性哺乳類細胞型を、本願で説明されるデバイス及び方法を用いて、以下の理由により簡単に注入することができると考えられる:(1)効果的な孔開け及び細胞の生存率の維持に関して最適に決定されるレーザフルーエンスが、試験された全ての種類の細胞に対して比較的狭い範囲内に存在しているから; (2)適切な注入箇所(例えば、核周囲や核自体)を決定するのに用いられる接着性細胞の特徴部が視覚的に容易に識別されるから。
【0120】
リンパ球、多様な種類の幹細胞、胚細胞等は非接着性であるが、このような細胞に対して注入又は他の“手術”を行うことが望まれることは多い。本願で説明される細胞手術ツールを光ピンセットと集積すると、これが可能になる。
【0121】
また、本願で説明される方法及びデバイスを用いると、細胞クラスター内に個々の細胞を注入すること(ヒト胚性幹細胞の成長及び多能性の維持に必要とされる)が、特に幹細胞クラスターの表面に対して可能となる。また、クラスター内に特定の細胞を定位的に注入すること(例えば、発育の追跡、勾配の評価等の多様な理由により望まれる)も可能になると考えられる。
【0122】
[送達可能な物質]
本願で説明される方法及びデバイスを用いて、本質的にはあらゆる所望の物質を細胞内に送達することができると考えられる。このような物質として、核酸、タンパク質、細胞小器官、ドラッグデリバリーナノ粒子、プローブ、標識等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本願で説明される方法を用いて細胞内にプラスミドDNAを送達することは、既に少なくとも三種類の接着性細胞において実証されている。従って、本願で説明される方法及びデバイスを用いて、あらゆるプラスミドサイズの遺伝物質を簡単にトランスフェクションすることができる。
【0123】
BAC(細菌人工染色体,bacterial artificial chromosome)は、細胞を形質導入するのが難しく、大きな遺伝子異常を導入するのにサイズ制限(プラスミド、レトロウイルス、レンチウイルス)を有する送達媒体であり、発育中に特定の遺伝子の制限された発現を追跡するのが望まれている目標である。
【0124】
従って、本願で説明されるデバイス及び方法を用いて、自然の染色体又は合成染色体の全体又は一部を送達することができると考えられる。BACと同様に、従来の方法では多くの細胞型内に導入することが不可能な大型の染色体や染色体断片を、本方法によって細胞内に移植することができ、例えば、ヒトトリソミー症のモデル(例えば、ダウン症候群、クラインフェルター症候群)を求めることができる。
【0125】
同様に、本方法を、核の移植(例えば、体細胞核移植)に用いることができ、他の細胞小器官(例えば、ミトコンドリア、ナノ加工構造)を細胞内に容易に導入することができる。
【0126】
多様な実施形態において、試薬を構成する送達可能物質として、核酸(例えば、ベクター及び/又は発現カセット)、抑制RNA(例えば、SiRNA、ShRNA、miRNA等)、リボザイム、タンパク質/ペプチド、酵素、抗体、イメージング試薬、細胞小器官(例えば、核、ミトコンドリア、核小体、リソソーム、リボソーム等)、染色体、細胞内病原体、無生物粒子(量子ドット、表面増強ラマン散乱(SERS)粒子、マイクロビーズ等)等から成る群から選択された試薬が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0127】
[モジュールシステム]
特定の実施形態では、基板(トランスフェクション基板)が、既存の設備と容易に集積可能な“モジュール”として提供される。例えば、特定の実施形態では、トランスフェクション基板が、既存の顕微鏡のステージに対して追加可能な又は置換可能な形態で提供される。特定の実施形態では、基板は、倒立顕微鏡(例えば、Zeis倒立顕微鏡)上のx/y/zステージを置換するような形態とされる。
【0128】
特定の実施形態では、トランスフェクション基板は、マイクロ流体システム(例えば、ラボオンチップシステム)として及び/又はマイクロ流体システムと集積可能なモジュールとして提供される。
【0129】
[細胞手術システム及びパターン化トランスフェクションシステム]
多様な実施形態において、本発明は、細胞手術又は細胞のパターン化トランスフェクションのためのシステムを想定している。特定の実施形態では、細胞手術システムは、本願で説明されるマイクロサージャリーツールと、例えば細胞に対してツールを正確に配置するためのマイクロマニピュレータ/ポジショナとを備える。本システムは、任意で、細胞を保持するための手段(例えば、ピペットや他のマニピュレータ)、手術ツールを介して細胞内に流体及び/又はガス又はデバイスを送達するための手段、例えばツールを介して細胞から流体、細胞小器官等を取り除くための手段等を更に備える。特定の実施形態では、本システムは、視覚化システム(例えば、顕微鏡)、データ/イメージ取得システム、視覚化システム、マイクロマニピュレータ、データ/イメージ取得システムを制御するためのコンピュータ制御システム等を備えることができる。
【0130】
同様に、多様な実施形態では、パターン化トランスフェクションシステムは、細胞トランスフェクション基板(例えば、本願で説明される粒子、ナノ粒子及び/又は薄膜を有する一以上の表面を備えた培養ベッセル)を備える。基板は、典型的に、細胞、及び/又は細胞培養物を有する。本システムは、任意で、試薬を送達するための手段、細胞内にトランスフェクションされる物質(エージェント)、電磁エネルギー源から基板の一部をマスキングするための手段等を備えることができる。
【0131】
特定の実施形態では、本システムは、任意で、手術ツール又はトランスフェクション基板上の粒子、ナノ粒子及び/又は薄膜を加熱する電磁エネルギー源を更に含む。適切なエネルギー源として、レーザ、磁場発生器、RF場発生器等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0132】
多様な実施形態において、本システムは、制御装置(例えば、レーザ制御装置)を含み得る。制御装置は、照射源の強度及び/若しくは持続期間及び/若しくは波長、並びに/又はマイクロサージャリーツール及び/若しくはトランスフェクション基板の照射パターンを制御するように構成可能である。特定の実施形態では、制御装置は、トランスフェクション基板及び/又はマイクロ流体システム(その中にトランスフェクション基板が配置される)を構成するマイクロチャネルを介する試薬の流れを検出及び/又は制御する。トランスフェクション基板が顕微鏡(例えば、倒立顕微鏡)上に設けられる場合、制御装置は、任意で、顕微鏡ステージ、顕微鏡焦点及び/又は顕微鏡からのイメージ取得を制御することができる。特定の実施形態では、制御装置は、任意で、マイクロキャピラリ(マイクロサージャリーツールを構成する)の充填、細胞表面及び/若しくは照射に対するマイクロサージャリーツールの角度、並びに/又は細胞内に試薬を注入するマイクロキャピラリの操作を制御する。特定の実施形態では、制御装置は、エネルギー源による先端部の照射に対するマイクロサージャリーツールの動作を調整する。
【0133】
[キット]
他の実施形態では、本発明は、単細胞手術、又は細胞内への物質(エージェント)のパターン化送達(パターン化トランスフェクション)を実施するためのキットを提供する。特定の実施形態では、本キットは、本願で説明される単細胞手術ツール及び/又はトランスフェクション基板を含む容器を備える。多様な実施形態において、本キットは、任意で、本願で説明される手術及び/又は細胞のパターン化トランスフェクションを実施するための試薬やデバイス(例えば、試薬、緩衝剤、チューブ、インジケータ、マニピュレータ等)のいずれかを追加的に含むことができる。
【0134】
また、本キットは、任意で、本発明の手術ツール及び/又はパターン化トランスフェクション基板を使用するための(例えば、本方法を実施するための)説明(つまり、プロトコル)を提供するラベル及び/又は説明書を含む。特定の実施形態では、その説明書には、物質を注入又は取り除くための及び/若しくは細胞の成分を操作するための本願で説明される細胞手術ツールの使用方法、並びに/又は細胞内に一以上の物質(エージェント)を送達するためのトランスフェクション基板の使用方法が記載されている。
【0135】
説明書は典型的には文書又は印刷物を備えるが、これに限定されるものではない。このような説明を記憶してそれをエンドユーザに伝えることができるあらゆる媒体が本発明において想定される。このような媒体として、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えば、CD‐ROM)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような媒体は、こうした説明書を提供するインターネットサイトのアドレスを含み得る。
【0136】
[実施例]
以下の実施例は例示的なものであり、本願発明を限定するものではない。
[0161]
[実施例1]
[細胞手術ツールの製造及び使用]
本実施例は、ナノ粒子光熱効果をマイクロキャピラリ法と集積した新規細胞手術デバイスに関する。ここでは、概念実証のための実験結果を与える。従来のマイクロキャピラリ法は、単細胞の記録及び操作を行うための多目的ツールであるが、マイクロキャピラリが細胞膜に孔を穿つ際に、細胞に対して過度の応力を課す。結果として、この方法は、特に、小型の又は機械的に脆弱な細胞に対して、細胞の死をもたらすことが多い。
【0137】
レーザアブレーションを用いた現状の細胞手術方法(非特許文献7)は、機械的応力をなくすが、しっかり集束した光と、レーザの集束スポットに注入マイクロピペットを正確に位置決めすることとを必要とする。本実施例で説明される細胞手術デバイスは、マイクロキャピラリピペットの先端上のナノ粒子の光熱効果を利用する。ピペットが細胞に当たると、ナノ粒子のレーザ誘起加熱は細胞膜に一時的な孔を生じさせる。加熱は、ナノ粒子と接触している膜領域においてのみ生じるので、本デバイスは、非集束レーザ又は軽く集束したレーザを用いて動作することできる。このようにして、望ましくない応力が最少化される。強力なレーザ強度によって考えられる化学的影響が避けられて、研究されている操作細胞の生態が影響を受けないことが保証される。
【0138】
図1は、細胞手術ツールの概略を示す。金ナノ粒子がマイクロピペットの先端上にコーティングされている。貴金属ナノ粒子は、その表面プラズモン周波数に近い周波数を有する電磁波(通常は可視範囲及び近赤外線範囲)を強力に吸収する(非特許文献58)。例えば、直径30nmの金ナノ球は、その消光スペクトルの532nm付近の波長にピークを示す。レーザパルス励起により、ナノ粒子は、吸収されたエネルギーによって急速に加熱され、周囲媒体の過熱及び蒸発を生じさせる。この直接加熱又は崩壊する蒸気泡からのキャビテーション力が、細胞膜の透過性の上昇又は膜の“孔開け”をもたらす。損傷体積は、レーザパルスのフルーエンス及びナノ粒子のサイズによって制御可能である。加熱される体積は、30nmの金ナノ球の表面から数十ナノメートル広がり、ナノ粒子は、レーザパルスの印加後数ナノ秒以内に平衡温度まで冷えることが示されている(非特許文献59、非特許文献60)。結果として、膜又は細胞の残りの部分には反応するのに十分な時間がなく、機械的に影響を受けていないままである。このようにして、マイクロピペットが、簡単に細胞膜を貫通することができて、細胞の損傷が最少化される。
【0139】
[実験及び結果]
[金ナノロッドの合成]
多様な実施形態において、ナノロッドの合成は、リジッドテンプレート又は表面活性剤の使用のいずれかによって達成可能である。本応用では、比較的容易な合成方法である表面活性剤の方を採用した。概説すると、合成されたナノロッドは、Jana等(非特許文献61)によって開発されたシード媒介成長法によって生成され、この方法では、表面活性剤の存在下において、3〜4nmのシードが成長溶液に加えられて熟成されて、特異なアスペクト比を有するナノロッドが得られる。表面活性剤の濃度に加えて、特定の量の銀イオンを加えることによって、アスペクト比が制御されることが示されている(非特許文献62)。結果物のナノロッド溶液を、炭素でコーティングされた銅グリッド上でTEMにより特性評価した。
図4は、アスペクト比が3.2及び5.8の合成されたナノロッドを示す。
【0140】
[合成プロセス]
ベンジルジメチルアンモニウムクロライドハイドレート(BDAC,Benzyldimehtylammoniumchloride hydrate)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムボロミド(CTAB,hexadecyltrimethylammonium bromide)、L‐アスコルビン酸、硝酸銀(AgNO
3)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)、テトラクロロ金酸(HAuCl
4‐3H
2O)を、シグマアルドリッチ社から入手した。脱イオン水(18M)を実験全体を通して使用した。
【0141】
[シード溶液]
5.0mlの0.20M CTABを、5.0mlの0.0005M HAuCl
4と混合して、25℃で撹拌した。0.60mlの良く冷えた0.01M NaBH
4をその混合物に加えた。結果物の溶液は、金の還元により、茶色がかった黄色に変わった。結果物の溶液を二分間激しく撹拌して、全てのAuがAu
0に還元されていることを保証した。
【0142】
[成長溶液]
20.0mlの0.15M BDAC及び0.40gのCTABを組み合わせて、40℃で20分間超音波処理して、CTABを完全に溶解させた。四つの別々の小瓶に、200μl0.004M AgNO
3を分配して、続いて、5mlのBDAC/CTAB表面活性剤溶液を分配した。これによって、異なるように熟成される四つの異なる成長溶液が得られた。成長溶液はオレンジ色を帯びていた。各小瓶に対して、5.0mlの0.0010M HAuCl
4を加えて穏やかに混合し、続いて、70μlの0.9778M L‐アスコルビン酸を加えた。Au
3+からAu
0への還元中にオレンジ色は消えた。12μmのシード溶液を各小瓶に加えた。これによって、赤みがかった色が生じ、これは、少なくとも60%のAuが還元したことを示す。結果物の溶液を、1時間、24時間、48時間、72時間熟成した。
【0143】
シードAuがガラス上に直接成長して、続いて、成長溶液中にピペットを浸漬して、Au粒子を大きくした。
【0144】
[細胞手術ツールの使用]
ここで説明される実験では、波長532nmで持続時間5ナノ秒のパルスレーザを用いた。レーザは、5×3mm
2の非集束スポット上に883J/m
2のフルーエンスを伝えた。非特許文献63で報告された方法を用いて、金ナノ粒子をガラスマイクロピペット上に直接合成した(
図2)。RPMI中で培養したNALM‐6細胞を使用した。ガラスマイクロピペット上のナノ粒子の光熱効果によって、細胞膜に高度に局在化させた一時的な開口を生じさせ、典型的な開口の寸法は、マイクロピペットの先端サイズに近く、2μm程度であった(
図3C)。このプロセスの後において、細胞は生きたままであった。金ナノ粒子を有さない同じサイズのガラスマイクロピペットを用いた対照実験も行った。細胞膜はその形状を瞬間的に復元して、レーザパルスの印加後において孔が開いた兆候を示さなかった。また、導電性及び熱伝導性アモルファスカーボンコーティングのレーザ誘起光熱効果についても調べた。アモルファスカーボンの薄膜をガラスマイクロピペット上にスパッタリングした。実験結果は、同一のレーザ影響下において、細胞を瞬間的に溶解して殺す破裂性効果が大きな体積にわたって広がっているというものであった(
図3B)。
【0145】
[結論]
この実験は、金属ナノ粒子の光熱効果を利用した新規細胞手術ツールを例示し、概念を立証する実験を与えるものである。アモルファスカーボンでコーティングされたマイクロピペットが瞬間的に細胞を溶解して殺すことと比べると、金ナノ粒子でコーティングされたマイクロピペットを用いると、細胞膜に対して局在化された一時的な孔開けが得られる。
【0146】
[実施例2]
[プラスミドDNAのトランスフェクション及び発現]
本プラズモン光熱ピペットを用いて、細胞膜に対する孔開けを実証した。ここで説明される実験では、Qスイッチ周波数二倍Nd:YAGパルスレーザを532nmの波長及び6nsのパルス持続期間で用いた(Continuum社のMililite I)。レーザは、11.8mm
2の非集束スポット上に88.3mJ/cm
2のフルーエンスを伝えた。スパッタリングによって、金/パラジウム薄膜をガラスマイクロピペット上に堆積させた。DMEM内で培養したヒト胚腎臓HEK293T細胞を用いた。ガラスマイクロペット上のAu/Pd薄膜の光熱効果によって、細胞膜の崩壊を生じさせた。5nmの膜厚に対して、膜の開口の寸法は、マイクロピペットの先端サイズに近く、2μm程度であった(例えば、
図11のaを参照)。厚さ13nmの膜に対しては、大きな体積にわたって広がっている破裂性効果が、同一のレーザ影響下において、細胞を瞬間的に溶解して殺した(
図11のb)。コーティングを有さない同じサイズのガラスマイクロピペットを用いた対照実験も行った。細胞膜は、レーザパルス印加後において孔開け又は損傷の兆候を示さなかった。
【0147】
また、HEK293T細胞内にプラスミドをエンコードする緑色蛍光タンパク質(GFP,green fluorescence protein)のマイクロインジェクションも実証した。プラスミドは、DNAの環状鎖であり、細胞内へ注入されると、細胞にGFPを生じさせて緑色蛍光発光する。
図12のaは、マイクロインジェクションプロセスを示す。光熱ピペットが細胞膜に優しく接触すると、プラスミド含有緩衝剤の連続流がピペットの先端から放出された。レーザパルスの印加後、細胞全体にわたって緩衝剤を挿入して、ピペットを細胞から直ちに外した。注入後24時間にわたって注入された細胞は生きていて、GFPを発現した。別途対照実験を行い、レーザパルスを印加せずに細胞膜に接触させつつプラスミドを含有する緩衝剤の流れをピペットが放出した。24時間後に、GFPを発現している細胞は発見されなかった。これは、プラズモン光熱ピペットが細胞膜に孔を開けて、その中にプラスミドを流し込むことに成功したことの直接的な証拠である。また、細胞はこのプロセスから生き延び、24時間後において生きたままであった。
【0148】
[実施例3]
[光ピンセットとの集積]
図13には、開口数(N.A.)1.3 100×の油浸レンズの焦点(集束点)における50mWで1064nmのレーザビームによってトラップされ、光熱ピペットの先端に接触しているNalm‐6細胞が示されている。この光ピンセットは、光熱細胞手術プロセスの時間分解イメージを撮るために用いられるZeiss社の倒立顕微鏡の上に構築されている。これは、光学トラッピング、細胞手術、時間分解イメージングを同時に行うことができる集積光学システムを提供する。光熱ピペットは、細胞膜に孔を開けるのにナノ気泡の破裂を用いるものであるので、ピペットの先端が細胞に優しく接触するだけでよい。この場合、光ピンセットは、そのプロセス中に細胞を適所に保持するのに十分なトラッピング力を有する。保持ピペット及び注入ピペットの両方から細胞に印加される接触力を最少化することに加えて、光ピンセットを組み込むことの他の利点は、操作中の細胞の選択、トラッピング、放出のし易さという点である。
【0149】
[実施例4]
[金粒子でコーティングされた基板を用いた生細胞への光イメージパターン化分子送達]
オプトポレーションは、細胞内に分子及び遺伝子を送達する方法であり、強く集束したパルスレーザビームを利用して、細胞膜に細孔を生成する(非特許文献7)。この方法は、無接触送達を可能にし、フェムト秒レーザを用いて、単細胞を標的にした100%のトランスフェクション効率が実証されている(非特許文献6)。この方法の欠点の一つは、サイト特定又はパターン化細胞トランスフェクションを得るために、レーザビームが全細胞を走査しなければならない点であり、これは、大型のパターン化細胞トランスフェクションが望まれる場合には、複雑さの問題等により時間がかかる。
【0150】
細胞膜の透過性を増大させる他の無接触法は、光吸収マイクロ粒子又はナノ粒子を使うことである(非特許文献59)。短パルスレーザの照射によって、粒子は、過渡性で局在化された破裂性気泡を生成し、粒子に隣接する細胞膜の一部を崩壊させて、残りの細胞構造を無傷のままにする。粒子のサイズ、密度、レーザフルーエンスを制御することによって、細胞の透過性上昇及びトランスフェクションが高効率で達成可能である(非特許文献64)。
【0151】
ここでは、光イメージパターニングによって分子送達に対して細胞を空間的に選択及び標的化することができる単純なデバイスについて説明する。本方法は、複雑な単層混合物内における特定の細胞への明確なパターンのイメージベース分子及び遺伝子の大規模送達を達成する可能性を有する。
【0152】
[原理及びデバイス構造]
特定の実施形態では、本デバイスは、表面上に固定した粒子(例えば、金粒子)を備えたプラスチック基板で構成される(例えば、
図7を参照)。例えば、密集培養物が形成されるまで、細胞をこの基板上に播種する。パルスレーザをシャドウマスクに照射して、対応する照射パターンを基板上に写す。パルスレーザに晒された領域において、吸収された光エネルギーによって、金粒子が高温に加熱される。数ナノ秒以内に、熱は金粒子を取り囲む液体媒体薄層に散逸して、破裂性の蒸気泡を発生させる(非特許文献60)。蒸気泡の急速な膨張及びその後の崩壊が、過渡流体流れを生じさせて、接着性細胞に強力なせん断応力を誘起して、細胞膜に局在化した細孔が形成される。結果として、流体流れ又は熱拡散によって、膜不透過性分子を細胞内に運ぶことができる。キャビテーション気泡が、金粒子がレーザに晒された箇所においてのみ生じるので、細胞培養物の特定の領域における分子摂取を対象とするように、光学パターンを設計することができる。このようにして、基板上の金粒子のサイズ、密度、励起レーザフルーエンスを制御することによって、高スループットで空間的に標的化された分子送達が可能になる。
【0153】
[実験及び結果]
一実験では、2200psiの衝突圧力でバイオリスティック注入器(Bio‐Rad社のPDS‐1000)を用いて、0.6μmの金ナノ球(Bio‐Rad社製)をプラスチックペトリ皿に衝突させた。そして、DMEM内で培養した不死化ヒト胚肝臓細胞(HEK293T)を皿の上に置いて、略70〜80%の細胞密集度が得られるまで一晩培養した。Qスイッチ周波数二倍の波長532nmのNd:YAGレーザ(Continuum社のMinilite I)を用いて、デバイスに照射を行った。レーザは、6ナノ秒のパルス幅及び9.4mm
2のスポットサイズを有する。シャドウマスクをビーム経路に配置して、所望の光学パターンを投射して、0.83×の縮写で、デバイス上に写した。金粒子から誘起されたキャビテーション気泡を、
図8に示される時間分解イメージングシステムを用いて撮影した。高速増感CCDカメラ(Princeton Instrument社のPI‐MAXII)によって、500psの短さの露光時間が得られた。撮影された気泡のイメージと励起レーザパルスとの間のナノ秒の時間遅延を、光ファイバ遅延ラインの長さによって制御した。レーザパルス印加中、1mg/mlの膜不透過性蛍光色素カルセイン(Invitrogen社製で、分子量622.5)を含有する媒体中に細胞を浸漬した。キャビテーション導入後、細胞培養物をリン酸緩衝食塩水で洗浄し、蛍光染色を調べる前に、新品の媒体中に再び浸漬した。
【0154】
図9は、シャドウマスクを用いずにレーザパルスを印加した78ナノ秒後に加熱金粒子によって誘起されたキャビテーション気泡を示す。粒子の密度は略0.004個/μm
2である。これは、一細胞当たり0.9個の気泡に対応する(HEK293T細胞の面積を略15μm×15μmと仮定する)。
図10では、シャドウマスクを用いて、デバイスの左半分のみにレーザパルスを照射した(破線がシャドウマスクの境界に対応する)。レーザのインフルーエンスは128.2mJ/cm
2であり、7回のパルスを印加した。蛍光イメージは、色素摂取パターンが照らされた領域と一致していることを明確に示している。
【0155】
[結論]
光パターン化分子送達を可能にするデバイスがここで説明された。蛍光分子の送達の成功が、接着性細胞培養物において実証された。標的とされる送達領域をシャドウマスクによって制御した。このデバイスは、生細胞における大規模な、光パターン化分子及び遺伝子送達を達成する可能性を有する。
【0156】
[実施例5]
[標的細胞への試薬の並列送達]
マイクロ流体構造上に光吸収金属ナノ構造を集積させることによって他の並列送達プラットフォームを開発した(例えば、
図14を参照)。図示されるデバイスは、側壁にチタンコーティングを有するマイクロ流体オリフィスのアレイで構成される。オリフィスは、その可能のマイクロ流体チャネルのネットワークに接続される。レーザパルスを印加して細胞膜を開口すると、マイクロ流体チャネル中に担持されたカーゴを、外部圧力源によって流体をポンピングすることによって、オリフィスの上の細胞内に積極的に送達することができる。
【0157】
このデバイスで、並列気泡励起を試験した。レーザパルス(パルス幅6ns、波長532nm)を構造に照射することによって、核円形の開口に気泡を同時に発生させた。新月型のTi薄膜コーティングによって、シリンダー状の側壁の一部に沿ってのみ気泡の破裂が生じる(例えば、
図19を参照)。
【0158】
細胞膜の開口及びカーゴの送達を試験するため、HeLa細胞をこのデバイス上に播種した。例によって、細胞はSU‐8基板及びオリフィスの上に成長して分裂した。膜不透過性緑色蛍光FITC‐デキストラン(分子量=3k Da)を、200μg/mlの濃度で細胞培地に担持させた。156mJ/cm
2のレーザパルス印加後、円形のオリフィスの上に成長してレーザ誘起気泡破裂に晒された細胞において、蛍光色素の摂取が観測された(例えば、
図20を参照)。この場合、送達は、受動拡散によるものであった。
【0159】
[実施例6]
[哺乳類細胞内への大型カーゴ送達のための光熱ナノブレード]
弾力的で機械的に脆弱で直ぐに再び閉じてしまう哺乳類細胞膜の制御された切断を達成することは難しい。本実施例では、短レーザパルスエネルギーを取り込んでそれを高度に局在化した破裂性蒸気泡(この気泡は、高速流体流れ及び誘起される一時的なせん断応力によって軽く接触している細胞膜に急速に孔を穿つ)に変換する金属ナノ構造を利用した光熱ナノブレードについて説明する。キャビテーション気泡パターンは、金属構造の構成並びにレーザパルスの持続期間及びエネルギーによって制御される。マイクロピペットと金属ナノ構造を集積させると、ナノブレードが、高濃度カーゴ(5×10
8個の生細菌/mL)を高効率(46%)且つ高い細胞生存率(>90%)で哺乳類細胞内に送達するためのマイクロメートルサイズの膜アクセルポートを発生させる。三桁のサイズ範囲にわたる追加的な生物学的カーゴ及び無生物カーゴ(DNA、RNA、200nmのポリスチレンビーズから2μmの細菌等)が、多種の哺乳類細胞内に送達されている。全体として、光熱ナノブレードは、哺乳類細胞内に多様なカーゴを送達するための効果的方法である。
【0160】
本実施例は、マイクロキャピラリピペットと集積させた金属ナノ構造である光熱ナノブレードに関する(
図21)。光熱ナノブレードは、光パルスエネルギーを取り込んで空間的にパターン化され時間的に同期されたキャビテーション気泡を生じさせて、それが高速で局在化した流体流れを生じさせる。細胞膜等の柔らかい物質又は脆弱な構造は、光熱ブレードと接触すると、超高速で局在化した流れが、構造の残りの部分にはほとんど影響を与えずに、接触領域付近で膜に孔を穿つことができる。膜の切断は、レーザ誘起キャビテーション気泡からの強力で渡過性の機械的せん断応力によって生じる(非特許文献65、非特許文献66、非特許文献67)。従って、細胞内にマイクロピペットを進ませずに細胞内への送達ポータルが生じる。切断中においてブレードは細胞に優しく接触するので、膜の下方における強力な機械的支持体の必要性がなくなる。この新規デバイスは、高効率且つ高い細胞生存率で、哺乳類体細胞内への多様なサイズの物体(生体分子から細菌まで)の細胞内送達を可能にする。
【0161】
光熱ナノブレードを実演するため、厚さ100nmのチタン(Ti)薄膜を、先端直径2μmのガラスマイクロキャピラリピペットの先端に堆積させた(
図22A及び
図22B)。Tiでコーティングされたマイクロピペットを、倒立顕微鏡ステージ上の電動マイクロマニピュレータアームに取り付けた。マイクロピペットの先端を細胞膜に軽く接触させて配置し、波長532nmのNd:YAGレーザの6nsのパルスで、対物レンズを介して幅260nmのフィールドに対して照射を行った。パルスレーザへの露出は、Ti及び隣接する水薄層を急速に加熱して、リング状のTi薄膜に沿って局在化した蒸気泡破裂を誘起して、接触している細胞膜を切断する。レーザパルス、Ti加熱、キャビテーション気泡膨張そしてその崩壊というこのプロセスには、数百ナノ秒しかかからない。マイクロピペット内部の流体及びカーゴの圧力制御された送達は、レーザパルスの印加及び膜の切断と同期される。
【0162】
[物質及び方法]
[デバイスの製造及び実験設定]
チタン(Ti)でコーティングされたマイクロピペットを、直径1mmのボロシリケートガラスキャピラリチューブ(SutterInstruments社のP‐97)を加熱して引き伸ばし、マグネトロンスパッタ堆積システムを用いて、テーパ状の端部にTi薄膜を堆積させることによって製造した。Tiコーティングの厚さ及びマイクロピペットの先端直径を、走査型電子顕微鏡を用いて定量化した。レーザパルスシステムとして、Qスイッチ周波数二倍Nd:YAGレーザ(Continuum社のMinilite I)を波長532nmでパルス幅6nsで作動させた。
【0163】
レーザビームを偏光ビームスプリッタで分裂させて、一方のアームを倒立顕微鏡(Zeiss社のAxioObserver)の蛍光ポートに送り、対物レンズ(40×、0.6NA)幅260μmのレーザスポットをサンプル平面上に発生させた。カーゴ送達用に最適化されたレーザフルーエンスは180mJ/cm
2であった。電気スイッチを設けて、励起レーザパルスを液体注入システム(Eppendorf社のFemtoJet)と同期させた。キャビテーション気泡の動力学を特性評価するための時間分解イメージングシステムを、500psという短い露光時間を有する増感CCDカメラ(Princeton Instruments社のPI‐MAX2)を用いて構築した。レーザトリガー信号の受信とカメラのシャッター開放との間のプログラム可能な遅延を、カメラ制御ユニットによって設定した。偏光ビームスプリッタの後方において、レーザビームの他方のアームを蛍光色素細胞に送った。励起蛍光パルス(略698nmに波長の中心がある)をマルチモードファイバに結合して、顕微鏡の集光レンズに送り、カメラのシャッターと同期させてサンプルに照射した。撮影された気泡イメージとサンプル励起レーザパルスとの間のナノ秒の時間遅延を、光ファイバ遅延ラインの長さによって制御した。
【0164】
[Tiコーティングされたマイクロピペット上の強度パターンの数値計算]
3次元有限差分時間領域(FDTD,finite difference time domain)法を用いて、電磁強度パターンをシミュレーションした(RSoft Desing GroupのFullWAVE)。シミュレーション領域を、水媒体領域(n
water=1.34)及び、先端及び外側の側壁がTi(n
Ti=1.86+2.56i)薄膜でコーティングされたガラスマイクロピペット(n
glass=1.46)で構築した。全領域を、完全整合境界層で取り囲んで、無限に広がる空間を再現した。ピペットの先端に対して30度の角度を成す波数ベクトルk及びyに沿って偏光した電場での平面波励起(λ=532nm)を用いた。Tiの時間平均強度プロファイル|E
ave|
2を、電磁波振動に対して正規化した電気エネルギー密度によって得た。
【0165】
[膜切断用の光熱ナノブレードの最適なレーザフルーエンスの決定]
最適なレーザフルーエンス、膜開口、高い細胞生存率の維持についての基準について検討した。レーザパルス印加前に、ヨウ化プロピジウム(PI,propidium iodide)色素を細胞培地に加えた。マイクロピペットを細胞膜に接触させて、特定のフルーエンスレベルのレーザパルスを照射した。レーザパルス印加後、加熱された細胞を直ちに調べてPIの摂取を評価した。別途、細胞生存率を、レーザパルス印加の90分後にPIを加えて同様に決定し、また経時的に視覚的成長検出を行った。
【0166】
[細胞生存率の評価]
細胞生存率を、光熱ナノブレードでの切断の90分後にAnnexin V(アネキシンV)及びヨウ化プロピジウム(PI)細胞染色によって決定した。注入された細胞を正確に追跡するため、化学的にパターン化されたガラスカバースリップ基板上に細胞を播種した(非特許文献68)。円形領域(直径略200μm)を画定して、その領域内に細胞の接着及び成長を制限した。各実験に対して、同一の円形パターン(一つのパターン内に略60個の細胞)内の全ての細胞について、同一のレーザパルス及びカーゴ送達条件とした。パターン化基板上に培養されている細胞の生存率の影響を排除するため、処理パターン内で生きている細胞のパーセンテージを、同一のガラス基板上の隣接する未処理パターン内で生きている細胞のパーセンテージで正規化した。送達後の生存率を、三つの別々の実験の平均によって決定した。
【0167】
[免疫イメージングを用いた生体分子、カルボン酸ビーズ、細菌の送達]
GFP発現RNAを、1×の(1倍の)PBS(pH7.4)中に希釈して、IMR90一次ヒト肺線維芽細胞内に注入した。カチオン性の100nmの緑色ポリスチレンビーズで、DsRedエンコーディングレンチウイルスDNAを培養して、球表面にDNAを吸着させた。ビーズを1×のPBS(pH7.4)中に懸濁させて、ヒト胚性幹(hES,human embryonic stem)細胞内に注入した。マトリゲル(BD Biosciences社製)の薄層の上でROCK抑制剤(非特許文献69)を用いて、hES細胞を解離させて培養した。DsRedの発現を注入の24時間後に評価した。緑色カルボン酸修飾ポリスチレンビーズ(200nm)を1×のPBS(pH7.4)(0.1体積%の固体)に懸濁させて、HEK293T細胞内に注入した。蛍光バークホルデリア・タイランデンシス(Burkholderia thailandensis)細菌を、1×のPBS(pH7.4)(10
8〜10
9/mLの濃度)に懸濁させて、HeLa細胞に注入した。ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM,Dulbecco’s modified Eagle’s medium)を用いて、ペニシリン及びストレプトマイシンを用いずに、チャンバ顕微鏡スライド(Nunc LabTek)中で細胞を培養した。注入後直ちに、PBSで3回、細胞を洗浄して、1000mg/mLのカナマイシンを含有する新品の培地内で2時間にわたって培養して、細胞外細菌を殺した。そして、成長培地を、5mg/mLのセフタジジムを含有するDMEMに交換して、細胞外細菌の成長を抑制し、5%のCO
2中で37℃において更に16〜24時間にわたって培養した。注入後15〜24時間後において、細胞を4%のパラホルムアルデヒドで固定して、Aluxa Fluor標識化ファロイジンで染色して、アクチン細胞骨格を視覚化した(Invitrogen)。そして、細胞を、LeicaのSP2 AOBSレーザ走査共焦点顕微鏡設備を用いて視覚化した。
【0168】
[細菌の染色及び成長条件]
バークホルデリア・タイランデンシス及び変異派生物をL培地で培養した。必要に応じて、クロラムフェニコール(25μg/mL)又はテトラサイクリン(20μg/mL)を加えた。
【0169】
Lブロス中で、バークホルデリア・タイランデンシスE264を、1.0の光学密度(OD
600)(4×10
8 CFU/mL)に成長させた。全体として、37℃で2時間にわたって、10:1の感染多重度(MOI,multiplicity of infection)で、12ウェルのプレート中に成長させた1×10
5個のHeLa細胞を細菌に感染させた。感染細胞を、PBSで洗浄して、400μg/mLのカナマイシンを含有する新品の培地で15分間にわたって培養して、細胞外細菌を殺し、PBS中の1%のTriton X‐100で溶解した。感染HeLa細胞溶解物の複数の希釈物を、L寒天上に分布させて、細胞内細菌の数を、CFUアッセイによって決定した。
【0170】
[結果及び検討]
[光熱ナノブレード上の光強度パターンのシミュレーション]
キャビテーション気泡パターンは、薄膜の組成及び構成、並びにレーザ励起パラメータ(波長、パルス持続期間、エネルギー等)によって制御される。
図22Cは、レーザ励起されたTiでコーティングされたマクロピペットの3次元有限差分時間領域(FDTD)シミュレーションを用いた計算結果を示す。Tiでコーティングされたマイクロピペットに対して、先端に対して30°の角度で照射を行った。直線偏光では、プラズモン増強光吸収(∝|E
ave|
2)は、幅2μmのTiリングに対して不均一である(
図22D)。高強度領域は、波の偏光方向に沿ってリングの縁に集中している。Tiリングの温度分布は、高強度領域に発生した熱だけではなくて、レーザパルス印加中に低温の金属領域及び周囲媒体に向かう熱拡散によっても支配される。マイクロピペット上のTi膜において、熱拡散帳(〜(D
τ)
1/2)の見積もりは、6nsにおいて230nmである。これは、リング状のピペットの先端全体に沿って滑らかな温度プロファイルをもたらす。従って、Ti膜からの熱エネルギー伝導が、隣接する水薄層を臨界温度以上に加熱して(非特許文献60)、リング状のマイクロピペットの先端に蒸気ナノ気泡を発生させる(
図23A)。
【0171】
[キャビテーション気泡誘起膜切断及びそれに対応する細胞生存率]
生哺乳類細胞内へのマイクロメートルサイズのカーゴの送達については、過渡性の膜ポータルがカーゴのサイズに適合していることが望まれる。更に、細胞の修復を可能にして生存率を維持するように損傷領域が制限されることが好ましい。
図23Aは、レーザパルスの照射の70ns後における傾斜させたTiでコーティングされたマイクロピペットの先端におけるキャビテーション気泡を示す。先端が細胞膜に接触すると、その相互作用が気泡の膨張を抑制するので、気泡サイズの劇的な減少が観測された。この場合、70nsで、気泡が、先端の縁から最大400nmの半径にまで成長し、レーザパルスの印加後200nm以内に完全に崩壊する(
図23A及び
図23B)。染色細胞の生存率(
図23C)によって証明されているように、ブレードの先端は、セル内には決して入っていかず、細胞内構造の完全性が保たれて、迅速で修復可能なように細孔が再び閉じるのに有用となる。細胞生存率を、レーザパルス印加の90分後におけるAnnexin V及びヨウ化プロピジウム(PI)排他的染色によって決定した。こうした条件下において、レーザパルス及び破裂のみの場合(180mJ/cm
2の最適フルーエンス)、また、HeLa細胞又はHEK293T細胞内への緩衝剤注入と組み合わせた場合において、>90%の細胞生存率が得られた。光熱ブレードで処理された細胞を24時間にわたってモニタリングしたが、細胞は生きたままで、通常通りに成長及び分裂を続けた。
【0172】
[光熱ナノブレードによる生体分子及び細菌の送達]
多様な種類の細胞に対して光熱ナノブレードを用いて送達されるカーゴのサイズを調べた。GFP発現RNAが、リポフェクタミン耐性IMR90一次ヒト肺線維芽細胞内に効率的に送達され、また、注入後に、ROCK38抑止剤を分散させたヒト胚性幹細胞内における緑色蛍光ポリスチレンビーズ上にコーティングされたDsRed含有レンチウイルスの発現にも成功した。直径200nmの蛍光ビーズが詰まらずに送達され、マイクロメートルサイズのバクテリアについても同様であった。更に、最も大きくて脆弱なカーゴとして細胞内細菌の送達についてこの方法で試した(
図25)。バークホルデリア・タイランデンシスは、略0.7μm×2μmのロッド状の細菌である。注入効率を決定するため、GFP標識細菌を、略5×108/mLの濃度(従来のマイクロインジェクション(非特許文献)よりも2桁高い濃度)で緩衝剤中に懸濁させた。細胞内に送達される液体体積は略1pLに制限されるので、高いカーゴ濃度は、高い送達効率を達成するのに非常に重要である。高濃度にしないと、1回の注入で1個の細菌が放出される確率が低くなる。本実験では、レーザパルス照射及び細胞開口において、1〜5pLの細菌溶液がピペットから放出されて、略1個の細菌/1回の注入の平均に対応している。ピペットの先端は細胞膜に軽く接触して、切断後においてピペットのボアが細胞で完全には密封されていなかったので、放出された溶液の全てが細胞内に送達された訳ではない。この条件下における複数回の別個の実験から、46%の平均送達効率が得られた。
【0173】
更に、バークホルデリア・タイランデンシスを有する細胞を2時間培養することによって、HeLa細胞内への自然細胞感染効率を調べた。光熱注入による送達効率は、0.8%のバークホルデリア・タイランデンシスの自然HeLa細胞感染率よりも2桁高い。重要なのは、細菌増殖及びアクチン重合(非特許文献71)によって確かめられるように、移植から24時間後の注入細胞において、細菌が生き残って、ガラスピペット内部での気泡サイクル中の破壊及び大型ボアの先端開口による注入中のせん断から保護されたことである(
図25C)。
【0174】
[光熱ナノブレードの信頼性評価]
ロバストな動作のためには、金属薄膜が、高温、衝撃波からの過度な圧力、キャビテーション気泡によって生じる高速流に耐えられることが望ましい。Tiが、金等の他の不活性金属と比較して、その高い融点及びガラス基板に対する強い接着性のため、コーティング物質として選択された(非特許文献72)。本発明者の実験では、金でコーティングされたマイクロピペットが、数回のレーザパルス印加後に、薄膜の損傷のために壊れた。Tiでコーティングされたマイクロピペットは、少なくとも50回のレーザパルス及び気泡破裂サイクルに対して機能を保ったままであることが確かめられた。
【0175】
[結論]
本実施例で説明される光熱ナノブレードは、現状では送達不能な大型カーゴ(現状の送達方法のサイズ制限を超えている染色体、細胞小器官、細胞内病原体等)を哺乳類細胞内に送達する可能性を有する。光熱ナノブレードの追加的な利点はその使い易さである。膜切断がレーザパルスのエネルギー及びTiコーティングの構成によって制御させるので、ユーザは、送達を行うためにマイクロピペットの先端を細胞膜に優しく接触させて配置するだけでよい。対照的に、従来のガラスマイクロキャピラリマイクロインジェクションでは、送達効率及び細胞生存率が、ガラスニードルを細胞内に挿入する仕方(例えば、速度、力、角度)に大きく左右される。結果として、従来の方法は、ユーザが熟練するのにかなりの訓練及び経験を要する。また、光熱ナノブレードを用いると、マイクロピペットを細胞に貫通させてまた細胞から抜くための高速“ジグザグ”運動が必要でなくなるので、脆弱なマイクロピペットの先端が壊れる確率が減る。光熱ナノブレードは、今回の実演では、特定の表面プラズモン共鳴モードで動作しているものではない。励起レーザ波長に整合するための金属ナノ構造の更なる最適化は、キャビテーション気泡を励起するための閾値レーザエネルギーを低下させ得る。
【0176】
本願で説明される実施例及び実施形態は例示的なものであり、そこから多様な修正や変更が当業者には想定されるものであり、それらは本願の精神及び範囲並びに添付の特許請求の範囲内に含まれるものである。本願で引用される全ての文献は、あらゆる目的のためその全体が参照として本願に組み込まれるものである。