特許第6578393号(P6578393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6578393鉛フリーはんだ合金、電子回路実装基板及び電子制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578393
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】鉛フリーはんだ合金、電子回路実装基板及び電子制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20190909BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20190909BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20190909BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   B23K35/26 310A
   C22C13/02
   H05K3/34 512C
   C22C13/00
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-33958(P2018-33958)
(22)【出願日】2018年2月27日
(65)【公開番号】特開2019-147173(P2019-147173A)
(43)【公開日】2019年9月5日
【審査請求日】2019年1月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139996
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】新井 正也
(72)【発明者】
【氏名】中野 健
(72)【発明者】
【氏名】勝山 司
(72)【発明者】
【氏名】宗川 裕里加
(72)【発明者】
【氏名】丸山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 貴則
(72)【発明者】
【氏名】中村 あゆみ
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−500578(JP,A)
【文献】 特開2005−153007(JP,A)
【文献】 特開2006−198637(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/189900(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
C22C 13/00
C22C 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2.5質量%以上4質量%以下のAgと、0.6質量%以上0.75質量%以下のCuと、2質量%以上6質量%以下のBiと、0.01質量%以上0.04質量%以下のNiと、0.01質量%以上0.04質量%以下のCoとを含み、残部がSnからなり、
Ni及びCoの合計含有量が0.05質量%以下であることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
Agの含有量が2.5質量%以上3.8質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項3】
Biの含有量が3質量%以上4.5質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項4】
Niの含有量が0.02質量%以上0.04質量%以下であり、Coの含有量が0.01質量%以上0.03質量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項5】
更にP、Ga及びGeの少なくともいずれかを合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項6】
更にFe、Mn、Cr及びMoの少なくともいずれかを合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項7】
粉末状の鉛フリーはんだ合金であって請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金と、
ベース樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することを特徴とするソルダペースト。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部を有することを特徴とする電子回路実装基板。
【請求項9】
請求項8に記載の電子回路実装基板を有することを特徴とする電子制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛フリーはんだ合金、電子回路実装基板及び電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板やモジュール基板といった電子回路基板に形成される導体パターンに電子部品を接合する方法として、はんだ合金を用いたはんだ接合方法がある。以前はこのはんだ合金には鉛が使用されていた。しかし環境負荷の観点からRoHS指令等によって鉛の使用が制限されたため、近年では鉛を含有しない、所謂鉛フリーはんだ合金によるはんだ接合方法が一般的になりつつある。
【0003】
この鉛フリーはんだ合金としては、例えばSn−Cu系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Bi系及びSn−Zn系はんだ合金等がよく知られている。その中でもテレビ、携帯電話等に使用される民生用電子機器や自動車に搭載される車載用電子機器には、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金が多く使用されている。
鉛フリーはんだ合金は、鉛含有はんだ合金と比較してはんだ付性が多少劣る。しかしフラックスやはんだ付装置の改良によってこのはんだ付性の問題はカバーされている。そのため、例えば車載用電子回路実装基板であっても、自動車の車室内のように寒暖差はあるものの比較的穏やかな環境下に置かれるものにおいては、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部でも大きな問題は生じていない。
【0004】
しかし近年では、例えば電子制御装置に用いられる電子回路実装基板のように、エンジンコンパートメントへの配置、エンジンへの直載、モーターとの機電一体化されたものへの配置の検討及び実用化がなされている。これらは寒暖差が激しく(例えば−30℃から115℃、−40℃から125℃といった寒暖差)、加えて振動負荷を受けるような過酷な環境下にある。このような寒暖差の非常に激しい環境下では、電子回路実装基板において、実装された電子部品と基板(本明細書において単に「基板」という場合は、導体パターン形成前の板、導体パターンが形成され電子部品と電気的接続が可能な板、及び電子部品が搭載された電子回路実装基板のうち電子部品を含まない板部分のいずれかであり、場合に応じて適宜いずれかを指し、この場合は「電子部品が搭載された電子回路実装基板のうち電子部品を含まない板部分」を指す。)との線膨張係数の差によるはんだ接合部の熱変位とこれに伴う応力が発生し易い。そしてこの寒暖差による塑性変形の繰り返しは、はんだ接合部に亀裂を引き起こし易い。
更に、時間の経過と共にはんだ接合部に繰り返し与えられる応力は、発生した亀裂の先端付近に集中するため、当該亀裂ははんだ接合部の深部まで横断的に進展し易くなる。このように著しく進展した亀裂は、電子部品と基板上に形成された導体パターンとの電気的接続の切断を引き起こしてしまう。特に激しい寒暖差に加え電子回路実装基板に振動が負荷される環境下にあっては、上記亀裂及びその進展は更に発生し易い。
【0005】
そのためこのような過酷な環境下においては、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金で形成されたはんだ接合部では亀裂発生及び亀裂進展が起こり易く、十分な信頼性を確保できないという問題があった。
【0006】
また、車載用電子回路基板に搭載されるQFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)といった電子部品のリード部分には、従来、Ni/Pd/AuめっきやNi/Auめっきのされた部品が多用されていた。しかし近年の電子部品の低コスト化や基板のダウンサイジング化に伴い、リード部分をSnめっきに替えた電子部品やSnめっきされた下面電極をもつ電子部品の検討及び実用化がなされている。
はんだ接合時において、Snめっきされた電子部品は、Snめっき及びはんだ接合部に含まれるSnとリード部分や前記下面電極に含まれるCuとの相互拡散を発生させ易い。この相互拡散により、はんだ接合部と前記リード部分や前記下面電極との界面付近の領域(以下、本明細書においては「界面付近」という。)にて、金属間化合物であるCuSn層が凸凹状に大きく成長する。前記CuSn層は元々硬くて脆い性質を有する上に、凸凹状に大きく成長したCuSn層は更に脆くなる。そのため、特に上述の過酷な環境下においては、前記界面付近ははんだ接合部と比較して亀裂が発生し易く、また発生した亀裂はこれを起点として一気に進展するため、電気的短絡が生じ易い。
従って、今後は上述の過酷な環境下でNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いた場合であっても前記界面付近における亀裂進展抑制効果を発揮し得る鉛フリーはんだ合金への要望も大きくなることが予想される。
【0007】
また近年の車載用電子回路実装基板は、コストの削減や重量の軽減及びレイアウトの自由化を目的としてそのダウンサイジング化が広く検討され始めている。そしてこれを実現する手法の1つとして、はんだ接合部のうち所謂フィレット部の体積を減らす手法が用いられるようになっている。
即ち、従来のはんだ接合部は、図1に示すようにフィレット部が電子部品の側面を覆いつつ、なだらかな裾広がりの形状となるように形成されるのが一般的であった。一方、近年においては、図2に示すようにフィレット部の電子部品の側面を覆う部分を少なくして傾きの大きい形状とすることでフィレット部の体積を削減する方法や、電子部品の側面を覆う部分のない(フィレット部がない)構造とする方法が採用されつつある。
はんだ接合部のフィレット部の体積を削減すれば、電子部品の高密度実装及びダウンサイジング化は実現し得る。しかしフィレット部の体積が小さくなればなるほど、はんだ接合部の強度も低下し得るため、特に寒暖差が非常に大きく振動が負荷されるような過酷な環境下においては、フィレット部の体積の大きいはんだ接合部よりもフィレット部の体積の小さいはんだ接合部の方が亀裂進展抑制効果は劣り易いという問題がある。
【0008】
これまでもSn−Ag−Cu系はんだ合金にAg、Bi、In及びSbといった元素を添加することによりはんだ接合部の強度とこれに伴う熱疲労特性を向上させ、これにより上記はんだ接合部の亀裂進展を抑制する方法はいくつか開示されている(特許文献1から特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5024380号公報
【特許文献2】特許第5349703号公報
【特許文献3】特開2016−26879号公報
【0010】
ここで、近年の車載用電子回路実装基板は、微小電子部品の使用や高密度実装が検討・採用されつつある。このような電子回路実装基板には耐熱性の低い電子部品と熱容量の大きい大型電子部品とが混載されるケースもあり、この場合に融点の高いはんだ合金を用いてはんだ付けを行うと、電子部品の機能劣化やはんだ合金の未溶融発生の虞があるため、はんだ付け時の加熱温度をSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金と同等以下にしたい、という要望は多い。
【0011】
Biを添加した鉛フリーはんだ合金は、はんだ付け時の加熱温度をSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金と同等以下にでき、またその強度を向上し得る。
しかしこのような鉛フリーはんだ合金は延伸性が悪化する虞があり、その含有量によっては脆性が強まるというデメリットがある。
【0012】
またSbやInを添加した鉛フリーはんだ合金は、当該鉛フリーはんだ合金の原子配列の格子にSbやInが入り込みSnと置換するため、当該原子配列の格子にゆがみが発生し、Snマトリックスが強化され、鉛フリーはんだ合金の強度が向上し得る。そのため、このような鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部は、高い亀裂進展抑制効果を有し得る。
しかし特にSbは、その添加により鉛フリーはんだ合金の固相線温度・液相線温度を上昇させるため、はんだ付け時においてSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金と同等の加熱条件とすると、鉛フリーはんだ合金の未溶融現象が発生する虞がある。またInは単価の高い合金元素であるため、鉛フリーはんだ合金の価格を上昇させ得る。
また上述の通り、使用する電子部品の耐熱条件や熱容量によっては、はんだ付け時の加熱条件をSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金と同等以下に設定せざるを得ない場合もある。
【0013】
またNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合、前記界面付近にて金属間化合物であるCuSn層が凸凹状に大きく成長するため、この界面付近における亀裂進展の抑制は難しい。
【0014】
しかし、はんだ接合部の亀裂進展抑制効果とはんだ付け時の加熱温度の抑制の両立やフィレット部の体積の小さいはんだ接合部の亀裂進展抑制については、上記特許文献においては言及も示唆もされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記課題を解決するものであり、はんだ付け時の加熱条件をSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金と同等以下にし得ると共に、寒暖の差が激しく振動が負荷されるような過酷な環境下においてもはんだ接合部の亀裂進展を抑制でき、且つNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合においても前記界面付近における亀裂進展を抑制することのできる鉛フリーはんだ合金、電子回路実装基板及び電子制御装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明の鉛フリーはんだ合金は、2.5質量%以上4質量%以下のAgと、0.6質量%以上0.75質量%以下のCuと、2質量%以上6質量%以下のBiと、0.01質量%以上0.04質量%以下のNiと、0.01質量%以上0.04質量%以下のCoとを含み、残部がSnからなり、Ni及びCoの合計含有量が0.05質量%以下であることをその特徴とする。
【0017】
(2)上記(1)に記載の構成にあって、Agの含有量は2.5質量%以上3.8質量%以下であることをその特徴とする。
【0018】
(3)上記(1)または(2)に記載の構成にあって、Biの含有量は3質量%以上4.5質量%以下であることをその特徴とする。
【0019】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1に記載の構成にあって、Niの含有量は0.02質量%以上0.04質量%以下であり、Coの含有量は0.01質量%以上0.03質量%以下であることを特徴とする。
【0020】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1に記載の構成にあって、本発明の鉛フリーはんだ合金は、更にP、Ga及びGeの少なくともいずれかを合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含むことをその特徴とする。
【0021】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1に記載の構成にあって、本発明の鉛フリーはんだ合金は、更にFe、Mn、Cr及びMoの少なくともいずれかを合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含むことをその特徴とする。
【0022】
(7)本発明のソルダペーストは、粉末状の鉛フリーはんだ合金であって上記(1)から(6)のいずれか1に記載の鉛フリーはんだ合金と、ベース樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することをその特徴とする。
【0023】
(8)本発明の電子回路実装基板は、上記(1)から(6)のいずれか1に記載の鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部を有することをその特徴とする。
【0024】
(9)本発明の電子制御装置は、上記(8)に記載の電子回路実装基板を有することをその特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の鉛フリーはんだ合金は、はんだ付け時の加熱条件をSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金と同等以下にし得ると共に、寒暖の差が激しく振動が負荷されるような過酷な環境下においてもはんだ接合部の亀裂進展を抑制でき、且つNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合においても前記界面付近における亀裂進展を抑制することができ、このようなはんだ接合部を有する電子回路実装基板及び電子制御装置は、過酷な環境下においても高い信頼性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】フィレット部が電子部品の側面を覆いつつ、なだらかな裾広がりの形状となるように形成されたはんだ接合部を有する電子回路実装基板の断面模式図。
図2】フィレット部の電子部品の側面を覆う部分を少なくし、その傾きが大きくなるように形成されたはんだ接合部を有する電子回路実装基板の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の鉛フリーはんだ合金、電子回路実装基板及び電子制御装置の一実施形態を詳述する。なお、本発明が以下の実施形態に限定されるものではないことはもとよりである。
【0028】
(1)鉛フリーはんだ合金
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、Agを含有させることができる。鉛フリーはんだ合金にAgを添加することにより、そのSn粒界中にAgSn化合物を析出させ、機械的強度を付与することができる。
【0029】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Agの含有量を2.5質量%以上4質量%以下とすることで、鉛フリーはんだ合金の延伸性を良好にしつつ、機械的強度、耐熱衝撃性及びこれを用いて形成されるはんだ接合部の耐熱疲労特性を向上させることができる。
【0030】
またAgの含有量を2.5質量%以上3.8質量%以下とすると、鉛フリーはんだ合金の強度と延性のバランスをより良好にできる。特に好ましいAgの含有量は、3質量%以上3.8質量%以下である。
【0031】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、Cuを含有させることができる。鉛フリーはんだ合金にCuを添加することにより、そのSn粒界中にCuSn化合物を析出させ、鉛フリーはんだ合金の耐熱衝撃性を向上させることができる。
【0032】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Cuの含有量を0.6質量%以上0.75質量%以下とすることで、その延伸性を阻害することなく耐熱衝撃性を向上させることができる。更には、これを用いて形成されるはんだ接合部の前記界面付近におけるCuSn化合物の集中析出を抑制することができ、その接合信頼性をより向上させることができる。
またCuの含有量を0.7質量%以上0.75質量%以下とすると、鉛フリーはんだ合金の耐熱衝撃性及びはんだ接合部の接合信頼性を更に向上させることができる。
【0033】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、Biを含有させることができる。鉛フリーはんだ合金にBiを添加することにより、Snの結晶格子の一部がBiに置換されてその結晶格子に歪みが発生する。そしてこの結晶中の転位に必要なエネルギーが増大することにより、このような鉛フリーはんだ合金を用いて形成するはんだ接合部の金属組織が固溶強化されると共に、ヤング率を高め得る。そのため、当該はんだ接合部が長期間に渡り寒暖差による外部応力を受ける場合であっても、はんだ接合部の変形を抑制し、良好な耐外部応力性を発揮し得る。
【0034】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Biの含有量を2質量%以上6質量%以下とすることで、上記固溶強化の効果を向上させると共に、その延伸性を阻害することなく機械的強度、耐熱衝撃性及び接合信頼性を向上させることができる。なおBiは鉛フリーはんだ合金の延伸性を阻害し得る合金元素であるが、本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Bi及び他の合金元素の含有バランス等を図ることにより、その延伸性を阻害することなく亀裂進展抑制効果を向上し得る。
【0035】
またBiの含有量を2質量%以上4.5質量%以下とすると、鉛フリーはんだ合金の固溶強化の効果、機械的強度、耐熱衝撃性及び接合信頼性を更に向上させることができる。更に好ましいBiの含有量は3質量%以上4.5質量%以下である。
【0036】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、Ni及びCoを含有させることができる。鉛フリーはんだ合金にNi及びCoを添加することにより、はんだ付け時に溶融した鉛フリーはんだ合金中に微細な(Cu,Ni,Co)Snが形成され、溶融しているはんだ中に分散する。そしてこの(Cu,Ni,Co)Snの存在により、このような鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部は良好な亀裂進展抑制効果を発揮し、更にその耐熱疲労特性を向上させることができる。また、Ni/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品をはんだ接合する場合であっても、はんだ付け時にNi及びCoが前記界面付近に移動して微細な(Cu,Ni,Co)Snを形成するため、その界面付近におけるCuSn層の成長を抑制することができ、前記界面付近の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。
【0037】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Niの含有量を0.01質量%以上0.04質量%以下、Coの含有量を0.01質量%以上0.04質量%以下とし、これらの合計含有量を0.05質量%以下とすることで、はんだ付け時に(Cu,Ni,Co)Snが十分に形成され、また溶融しているはんだ中及び前記界面付近にバランスよく分散し得るため、形成されるはんだ接合部における亀裂進展抑制効果及び耐熱疲労特性、並びに前記界面付近の亀裂進展抑制効果をより一層向上させることができる。
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Ni及びCoの含有量を上記範囲とすることで、はんだインゴット中におけるSn、Cu、Ni及びCoから構成される針状物質の生成を抑制し得る。そのため、これを粉末化した際の針状物質の析出を抑制し、当該粉末化された鉛フリーはんだ合金を含むソルダペーストの印刷抜け性の低下を抑制することができる。
【0038】
またNiの含有量を0.02質量%以上0.04質量%以下、Coの含有量を0.01質量%以上0.03質量%以下とすると、鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部における亀裂進展抑制効果及び耐熱疲労特性、並びに前記界面付近の亀裂進展抑制効果を更に向上させることができる。
即ち、本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、NiとCoとを併用し、Niの含有量、Coの含有量及びこれらの合計量を調整することで、上記効果の向上を実現し得るものである。
なお、本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、他の合金元素の含有量のバランスを図ることにより、Ni及びCoの含有量を0.04質量%以下とした場合において上記効果を更に向上し得る。
【0039】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、P、Ga及びGeの少なくとも1種を含有させることができる。P、Ga及びGeの少なくとも1種を添加することで、鉛フリーはんだ合金の酸化を防止することができる。
本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、P、Ga及びGeの少なくとも1種の合計含有量を0.001質量%以上0.05質量%以下とすることで、鉛フリーはんだ合金の溶融温度(液相線温度)の上昇及びこれを用いて形成されるはんだ接合部のボイド発生を抑制しつつ、鉛フリーはんだ合金の酸化防止効果を向上させることができる。
【0040】
更に本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、Fe、Mn、Cr及びMoの少なくとも1種を含有させることができる。Fe、Mn、Cr及びMoの少なくとも1種を添加することで、鉛フリーはんだ合金を用いて形成される亀裂進展抑制効果を向上させることができる。
本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Fe、Mn、Cr及びMoの少なくとも1種の合計含有量を0.001質量%以上0.05質量%以下とすることで、鉛フリーはんだ合金の溶融温度(液相線温度)の上昇及びこれを用いて形成されるはんだ接合部のボイド発生を抑制しつつ、はんだ接合部の亀裂進展抑制効果をより向上させることができる。
【0041】
なお、本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、その効果を阻害しない範囲において、他の成分(元素)、例えばCd、Tl、Se、Au、Ti、Si、Al、Mg、Zn等を含有させることができる。また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、当然ながら不可避不純物も含まれるものである。
【0042】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、その残部はSnからなることが好ましい。
【0043】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、その液相線温度が220℃以下であることが好ましい。当該液相線温度を220℃以下とすることにより、はんだ付け時の加熱温度をSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金と同等以下にし得る。
【0044】
本実施形態のはんだ接合部の形成は、例えばフロー方法、はんだボールによる実装、ソルダペーストを用いたリフロー方法等、はんだ接合部を形成できるものであればどのような方法を用いても良い。なおその中でも特にソルダペーストを用いたリフロー方法が好ましく用いられる。
【0045】
(2)ソルダペースト
このようなソルダペーストとしては、例えば粉末状にした前記鉛フリーはんだ合金とフラックスとを混練しペースト状にすることにより作製される。
【0046】
このようなフラックスとしては、例えばベース樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスが用いられる。
【0047】
前記ベース樹脂としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン、水添ロジン、重合ロジン、不均一化ロジン、アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン等のロジン誘導体を含むロジン系樹脂;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の各種エステル、メタクリル酸の各種エステル、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のエステル、無水マレイン酸のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル等の少なくとも1種のモノマーを重合してなるアクリル樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて用いることができる。
これらの中でもロジン系樹脂、その中でも特に酸変性されたロジンに水素添加をした水添酸変性ロジンが好ましく用いられる。また水添酸変性ロジンとアクリル樹脂の併用も好ましい。
【0048】
前記ベース樹脂の酸価は10mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。また前記ベース樹脂の配合量はフラックス全量に対して10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0049】
前記チキソ剤としては、例えば水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記チキソ剤の配合量は、フラックス全量に対して3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0050】
前記活性剤としては、例えば有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸、有機酸塩、有機アミン塩等を配合することができる。更に具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩、酸塩、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記活性剤の配合量は、フラックス全量に対して5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0051】
前記溶剤としては、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、グリコールエーテル等を使用することができる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記溶剤の配合量は、フラックス全量に対して20質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0052】
前記フラックスには、鉛フリーはんだ合金の酸化を抑える目的で酸化防止剤を配合することができる。この酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。その中でも特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記酸化防止剤の配合量は特に限定されないが、一般的にはフラックス全量に対して0.5質量%以上5質量%程度以下であることが好ましい。
【0053】
前記フラックスには、ハロゲン、つや消し剤、消泡剤及び無機フィラー等の添加剤を加えてもよい。
前記添加剤の配合量は、フラックス全量に対して10質量%以下であることが好ましい。またこれらの更に好ましい配合量はフラックス全量に対して5質量%以下である。
【0054】
前記鉛フリーはんだ合金の合金粉末とフラックスとの配合比率は、はんだ合金:フラックスの比率で65:35から95:5であることが好ましい。より好ましい配合比率は85:15から93:7であり、特に好ましい配合比率は87:13から92:8である。
【0055】
なお前記合金粉末の粒子径は1μm以上40μm以下であることが好ましく、5μm以上35μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0056】
(3)はんだ接合部
本実施形態のはんだ接合部は、例えば前記ソルダペーストを基板上の所定位置に印刷し、これを例えば220℃から250℃の温度でリフローを行うことにより形成される。なお、このリフローにより基板上にははんだ接合部とフラックスを由来としたフラックス残さが形成される。
【0057】
またこのようなはんだ接合部を有する電子回路実装基板は、例えば基板上の所定の位置に電極及び絶縁層を形成し、所定のパターンを有するマスクを用いて本実施形態のソルダペーストを印刷し、当該パターンに適合する電子部品を所定の位置に搭載し、これをリフローすることにより作製される。
【0058】
このようにして作製された電子回路実装基板は、前記電極上にはんだ接合部が形成され、当該はんだ接合部は当該電極と電子部品とを電気的に接合する。そして前記基板上には、少なくともはんだ接合部に接着するようにフラックス残さが付着している。
【0059】
なお本実施形態のはんだ接合部は、図1に示すようなはんだ接合部30、即ち、フィレット部が電子部品の側面を覆いつつ、なだらかな裾広がりの形状となるように形成されたものでも良く、また図2に示すようなはんだ接合部40、即ち、フィレット部の電子部品の側面を覆う部分(フィレット部の体積)が少なく傾きの大きい形状となるように形成されたものでも良い。更には、本実施形態のはんだ接合部は、フィレット部のないもの、即ち電子部品の側面を覆うはんだ接合部がないような構成のものであっても良い。
【0060】
即ち、本実施形態の鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部は、フィレット部が電子部品の側面を覆いつつなだらかな裾広がりの形状となるように形成されたはんだ接合部であっても、フィレット部の電子部品の側面を覆う部分(フィレット部の体積)が少なくその傾きの大きい形状となるように形成されたはんだ接合部であっても、そのいずれにおいても良好な亀裂進展抑制効果を発揮し得る。従って、本実施形態のはんだ接合部は、フィレット部の体積が小さい、若しくはフィレット部がないような形状であっても寒暖差が非常に大きく振動が負荷されるような過酷な環境下において使用することができる。
【0061】
このように、本実施形態のはんだ接合部は、その形状(フィレット部の体積)を問わず良好なはんだ亀裂進展抑制効果を発揮でき、寒暖差の激しい環境下で使用する電子回路実装基板における電子部品の高密度実装及びダウンサイジング化を実現し得る。
また上述の通り、本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、はんだ付け時の加熱条件をSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金と同等以下に設定し得るため、はんだ接合部を形成する基板や搭載する電子部品の選択肢を広げることができる。
【0062】
そしてこのようなはんだ接合部を有する電子回路実装基板は、車載用電子回路実装基板といった高い信頼性の求められる電子回路実装基板にも好適に用いることができる。
【0063】
またこのような電子回路実装基板を組み込むことにより、信頼性の高い電子制御装置が作製される。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
フラックスの作製
以下の各成分を混練し、実施例及び比較例に係るフラックスを得た。
水添酸変性ロジン(製品名:KE−604、荒川化学工業(株)製) 51質量%
硬化ひまし油 6質量%
ドデカン二酸 10質量%
マロン酸 1質量%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2質量%
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(製品名:イルガノックス245、BASFジャパン(株)製) 1質量%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 29質量%
【0066】
ソルダペーストの作製
前記フラックス11質量%と、表1から表2に記載の各鉛フリーはんだ合金の粉末(粉末粒径20μmから38μm)89質量%とを混合し、実施例1から実施例21及び比較例1から18に係る各ソルダペーストを作製した。
なお、実施例及び比較例の各鉛フリーはんだ合金の液相線温度を表1及び表2に併記する。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
(1)シェア強度試験
以下の用具を用意した。
・3.2mm×1.6mmのサイズのチップ部品(Ni/Snめっき)
・上記当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジスト及び前記チップ部品を接続する電極(1.6mm×0.55mm)とを備えたプリント配線板(各ソルダペーストにつき2枚ずつ)
・上記パターンを有する厚さ150μmのメタルマスク
1種のソルダペーストにつき2枚の前記プリント配線板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペーストを印刷し、それぞれ前記チップ部品を搭載した。
その後、リフロー炉(製品名:TNP−538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて前記各プリント配線板を加熱して、図2に示すようなフィレット部の体積が少なくその傾きが大きい形状のはんだ接合部を有する各電子回路実装基板を作製した。この際のリフロー条件は、プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度を240℃とし、200℃以上の時間が65秒間、220℃以上の時間が45秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度を3℃から8℃/秒とし、酸素濃度は1500±500ppmに設定した。
次に、使用したソルダペースト毎に1枚の前記各電子回路実装基板を−40℃(30分間)から125℃(30分間)の条件に設定した冷熱衝撃試験装置(製品名:ES−76LMS、日立アプライアンス(株)製)を用い、冷熱衝撃サイクルを1,000サイクル繰り返す環境下に曝した後これを取り出した。
そして、使用したソルダペースト毎に、前述の冷熱衝撃サイクルを与えた各電子回路実装基板とこれを与えなかった各電子回路実装基板それぞれのチップ部品のシェア強度をオートグラフ(製品名:EZ−L−500N、(株)島津製作所製)を用いて測定した。
なお、当該シェア強度の測定条件はJIS規定C60068−2−21に準拠した。また当該シェア強度の測定に際しては、ジグは端面が平坦で部品寸法と同等以上の幅を持つせん断ジグとし、せん断ジグをチップ部品側面に突き当てて所定のせん断速度で各電子回路実装基板に平行な力を加え、最大試験力を求めてこの値をシェア強度とした。また当該測定におけるせん断高さは部品高さの1/4以下とし、せん断速度は5mm/分とした。なお、各電子回路実装基板における評価チップ数は5個とした。
冷熱衝撃サイクルを与えなかった各電子回路実装基板のシェア強度の平均値をS0、冷熱衝撃サイクルを与えた電子回路実装基板のシェア強度の平均値をS1とし、以下の計算式に基づいてシェア強度低下率を算出した。各実施例及び各比較例におけるS0、S1及びシェア強度低下率の値を表3及び4に示す。
シェア強度低下率=(S0−S1)/S0×100
【0070】
(2)シェア強度試験
3.2mm×1.6mmのサイズのチップ部品(Ni/Snめっき)を実装できるパターンを有するソルダレジスト及び前記チップ部品を接続する電極(1.6mm×1.2mm)とを備えたプリント配線板(各ソルダペーストにつき2枚ずつ)を用い、図1に示すような形状のはんだ接合部を形成する以外は上記(1)シェア強度試験と同じ条件にて各電子回路実装基板を作製してシェア強度を測定し、シェア強度低下率を算出した。各実施例及び各比較例におけるS0、S1及びシェア強度低下率の値を表3及び4に示す。
【0071】
(3)SnめっきSONはんだ亀裂試験
以下の用具を用意した。
・6mm×5mm×0.8tmmサイズの1.3mmピッチSON(Small Outline Non−leaded package)部品(端子数8ピン、製品名:STL60N3LLH5、STMicroelectronics社製)
・上記SON部品を実装できるパターンを有するソルダレジスト及び前記SON部品を接続する電極(メーカー推奨設計に準拠)とを備えたプリント配線板
・上記パターンを有する厚さ150μmのメタルマスク
前記プリント配線板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペーストを印刷し、それぞれに前記SON部品を搭載した。
その後、リフロー炉(製品名:TNP−538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて前記各プリント配線板を加熱して、図1に示すようなはんだ接合部を有する各電子回路実装基板を作製した。この際のリフロー条件は、プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度を240℃とし、200℃以上の時間が65秒間、220℃以上の時間が45秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度を3℃から8℃/秒とし、酸素濃度は1,500±500ppmに設定した。
次に、−40℃(30分間)から125℃(30分間)の条件に設定した冷熱衝撃試験装置(製品名:ES−76LMS、日立アプライアンス(株)製)を用い、冷熱衝撃サイクルを2,000、3,000サイクル繰り返す環境下に前記各電子回路実装基板をそれぞれ曝した後これを取り出し、各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤及び硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol−25、丸本ストルアス(株)製)を用いて各試験基板に実装された前記SON部品の中央断面が分かるような状態とし、はんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かについて走査電子顕微鏡(製品名:TM−1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察した。
この観察に基づき、はんだ接合部とSON部品の電極の界面(の金属間化合物)に発生した亀裂に分けて以下のように評価した。その結果を表3及び表4に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価SON数は20個とし、SON1個あたりゲート電極の1端子を観察し、合計20端子の断面を確認した。
【0072】
◎:3,000サイクルまで前記界面を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
×2,000サイクルまでの間で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
【0073】
(3)針状物質の確認
2Lのステンレスビーカーに実施例及び比較例に係るはんだ合金のインゴット50g、硬化ひまし油890g及び水添酸変性ロジン(製品名:KE−604、荒川化学工業(株)製)10gを入れ、マントルヒーターを用いてこれを加熱した。
前記ステンレスビーカーの内容物の温度を計測し、これが160℃に達した時点でホモジナイザー((株)エスエムテー製)を使用して2000rpmの回転条件にて前記内容物の攪拌を開始した。そして前記内容物の温度が270℃に到達した時点でその加熱を停止し、前記ホモジナイザーの回転条件を10,000rpmに変更して前記内容物を5分間撹拌した。
その後、前記ホモジナイザーの回転を停止させ、前記内容物を室温まで冷却した。次いで、前記内容物のうち、硬化ひまし油中に沈降した各はんだ合金の粉末を取り出して酢酸エチルで硬化ひまし油が除去されるまで洗浄した。そして洗浄後の各はんだ合金の粉末を実体顕微鏡にて観察し、その状態を以下の基準にて評価した。
○:針状物質の発生なし
×:針状物質の発生あり
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
以上に示す通り、実施例に係る鉛フリーはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部は、フィレット部が電子部品の側面を覆いつつなだらかな裾広がりの形状となるように形成されたものであっても、フィレット部の電子部品の側面を覆う部分が少なくその傾きが大きい形状となるように形成されたものであっても、いずれにおいても寒暖の差が激しく振動が負荷されるような過酷な環境下での良好な亀裂抑制効果及びシェア強度の低下抑制効果を発揮し得ることが分かる。また実施例に係る鉛フリーはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部は、プリント配線板の電極にNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされておらずとも、前記界面付近における亀裂進展抑制効果を発揮し得る。
更に言えば、実施例に係る鉛フリーはんだ合金は、良好な亀裂抑制効果を奏しシェア強度の低下を抑制しつつ、針状物質の生成をも抑制できることが分かる。
【0077】
従って、このようなはんだ接合部を有する電子回路実装基板は、そのはんだ接合部の形状、即ちフィレット部の体積の大小を問わず車載用電子回路実装基板といった寒暖差が激しく且つ高い信頼性の求められる電子回路実装基板にも好適に用いることができる。更にこのような電子回路実装基板は、より一層高い信頼性が要求される電子制御装置に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0078】
100,200 電子回路実装基板
10 基板
11 電極
12 絶縁層
20 電子部品
30,40 はんだ接合部
31,41 フラックス残さ
図1
図2