特許第6578429号(P6578429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578429
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   A61B3/10 300
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-198528(P2018-198528)
(22)【出願日】2018年10月22日
(62)【分割の表示】特願2014-167857(P2014-167857)の分割
【原出願日】2014年8月20日
(65)【公開番号】特開2019-48088(P2019-48088A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2018年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】三輪 珠美
(72)【発明者】
【氏名】山口 達夫
【審査官】 宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−108212(JP,A)
【文献】 特開2009−294205(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/059331(WO,A1)
【文献】 特開2013−52048(JP,A)
【文献】 特開昭54−147685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 − 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の眼底に照射する測定光を発光する測定光発光部と、
前記眼底に照射される前記測定光のスキャンを行うスキャン部と、
前記スキャン部と前記被検眼との間に配置され、前記スキャン部光学面を被検眼の瞳孔と共役関係にし、その光学倍率を変更することが可能な光学系と、
前記被検眼の瞳孔径に基づいて前記光学倍率を変更する処理を行う処理部と、
前記光学系を介して、前記眼底からの前記測定光の反射光を受光し、該反射光の波面の収差を検出する波面センサと、
前記光学系と前記波面センサの間に配置され、前記波面センサが検出した前記反射光の波面の収差を抑えるために反射面の変形を行う可変形鏡と、
前記被検眼の前眼部の撮像画像に基づき、前記被検眼の瞳孔径を検出する瞳孔径検出部と、
を備え、
前記処理部は、前記瞳孔径検出部が検出した前記被検眼の瞳孔径に基づき、前記光学倍率の変更を行い、
前記光学倍率の変更は、前記可変形鏡における前記反射光の光束径を前記可変形鏡の有効径の80%〜100%となる条件で行われることを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
被検眼の眼底に照射する測定光を発光する測定光発光部と、
前記眼底に照射される前記測定光のスキャンを行うスキャン部と、
前記スキャン部と前記被検眼との間に配置され、前記スキャン部光学面を被検眼の瞳孔と共役関係にし、その光学倍率を変更することが可能な光学系と、
前記被検眼の瞳孔径に基づいて前記光学倍率を変更する処理を行う処理部と
を備え、
前記スキャン部は、スキャンミラーを備え、
前記スキャンミラーの機械角の変更を行わずに、前記光学倍率の変更により前記眼底の観察視野角の変更を行う眼科装置。
【請求項3】
被検眼の眼底に照射する測定光を発光する測定光発光部と、
前記眼底に照射される前記測定光のスキャンを行うスキャン部と、
前記スキャン部と前記被検眼との間に配置され、前記スキャン部光学面を被検眼の瞳孔と共役関係にし、その光学倍率を変更することが可能な光学系と、
前記被検眼の瞳孔径に基づいて前記光学倍率を変更する処理を行う処理部と
を備え、
前記光学系は、異なる特定の固定倍率に設定された複数の瞳リレー系を備え、
前記複数の瞳リレー系の一つを選択することで、前記光学倍率が変更される眼科装置。
【請求項4】
前記複数の瞳リレー系のそれぞれは、回転式のコンテナに保持され、
前記コンテナを回転させることで、前記複数の瞳リレー系の中の一つが選択される請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記複数の瞳リレー系が平行に配置され、
前記平行に配置された前記複数の瞳リレー系を平行移動させることで前記複数の瞳リレー系の中の一つが選択される請求項3に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記選択された瞳リレー系の隣接する光軸上の前後における瞳共役位置が固定されている請求項3〜5のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記スキャン部は、相対的に高速に行われる第1スキャナと、相対的に低速で行われる第2スキャナの組み合わせにより、前記被検眼の眼底の2次元領域のスキャンを行い、
前記複数の瞳リレー系の固定倍率のそれぞれは、複数の瞳孔径の範囲に対応して設定されており、
前記第1のスキャナの径の値は、前記複数の瞳孔径の範囲における最小の範囲に含まれる請求項3〜6のいずれか一項に記載の眼科装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補償光学走査型レーザ検眼鏡(Adaptive Optics Scanning Laser Ophthalmoscopy=AO-SLO)に関する。
【背景技術】
【0002】
眼底疾患等の臨床研究に使用される眼科装置として補償光学走査型レーザ検眼鏡(AO-SLO)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。走査型レーザ検眼鏡(SLO)は、レーザ光(SLO測定光)を走査しつつ眼底に照射し、眼底からの反射光を検出することで、正面から見た眼底(網膜)の状態を観察する装置である。SLOに眼の収差の影響を補正する機構(AO=Adaptive Optics)を追加したものがAO-SLOである。AO-SLOは、視細胞を高分解能に観察することができる。
【0003】
SLO測定光は、被検眼の瞳孔を介して眼底に照射されるが、被検眼の瞳孔径は定まった値ではなく、個体差がある。瞳孔径の違いは、各種の測定に影響を与える。例えば、被検眼底からの反射光の波面補償を行う技術に係り、瞳孔径の変化に着目した技術が特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013−517842号公報
【特許文献2】特開2013−52048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
AO-SLO光学系における光学性能を決める要素の一つは、被検眼の瞳孔径である。AO-SLO光学系では、波面測定系や波面補償デバイス、走査デバイスは瞳孔と共役関係となるように設計されている。一般に、瞳孔径に対応した波面補償を行うために、波面測定系や波面補償系の有効径は、考え得る最大瞳孔径を考慮して設定される。しかしながら、被検眼の瞳孔径には個体差があり、必ずしも想定した値であるとは限らない。したがって、AO-SLO光学系の補償性能は被検眼(瞳孔径)に依って変化することになる。このため、被検眼の瞳孔径によっては、波面補償の機能が十分に発揮されない。またSLOでは、有効径Dの走査デバイスを選定した場合、想定最大瞳孔径をdとすると瞳結像光学系の倍率βはβ=d/Dと決まる。よって観察視野角θについては走査デバイスの最大機械角Θと倍率βから、自ずとθ=2Θ/βと決まる。高速走査を求めて有効径Dの小さな走査デバイスを選定すると、倍率βは大きくなり、観察視野角θにとっては不利となる。最大機械角Θも有効径Dも大きな走査デバイスは高速性にかける。つまり、ΘとDの積は、高速性とトレードオフの関係にある。したがって、観察倍率の拡大・縮小を走査デバイスのスキャン幅を変更することで実施するSLOにおいては、最大観察視野角が犠牲になるといった問題点があった。
【0006】
このような背景において、本発明は、瞳孔径の違いに対応でき、更に多様な要求事項を満足することできる補償光学走査型レーザ検眼鏡を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、被検眼の眼底に照射する測定光を発光する測定光発光部と、前記眼底に照射される前記測定光のスキャンを行うスキャン部と、前記スキャン部と前記被検眼との間に配置され、前記スキャン部光学面を被検眼の瞳孔と共役関係にし、その光学倍率を変更することが可能な光学系と、前記被検眼の瞳孔径に基づいて前記光学倍率を変更する処理を行う処理部と、前記光学系を介して、前記眼底からの前記測定光の反射光を受光し、該反射光の波面の収差を検出する波面センサと、前記光学系と前記波面センサの間に配置され、前記波面センサが検出した前記反射光の波面の収差を抑えるために反射面の変形を行う可変形鏡と、前記被検眼の前眼部の撮像画像に基づき、前記被検眼の瞳孔径を検出する瞳孔径検出部と、を備え、前記処理部は、前記瞳孔径検出部が検出した前記被検眼の瞳孔径に基づき、前記光学倍率の変更を行い、前記光学倍率の変更は、前記可変形鏡における前記反射光の光束径を前記可変形鏡の有効径の80%〜100%となる条件で行われることを特徴とする眼科装置である。
【0008】
第2の発明は、被検眼の眼底に照射する測定光を発光する測定光発光部と、前記眼底に照射される前記測定光のスキャンを行うスキャン部と、前記スキャン部と前記被検眼との間に配置され、前記スキャン部光学面を被検眼の瞳孔と共役関係にし、その光学倍率を変更することが可能な光学系と、前記被検眼の瞳孔径に基づいて前記光学倍率を変更する処理を行う処理部とを備え、前記スキャン部は、スキャンミラーを備え、前記スキャンミラーの機械角の変更を行わずに、前記光学倍率の変更により前記眼底の観察視野角の変更を行う眼科装置である。
【0009】
第3の発明は、被検眼の眼底に照射する測定光を発光する測定光発光部と、前記眼底に照射される前記測定光のスキャンを行うスキャン部と、前記スキャン部と前記被検眼との間に配置され、前記スキャン部光学面を被検眼の瞳孔と共役関係にし、その光学倍率を変更することが可能な光学系と、前記被検眼の瞳孔径に基づいて前記光学倍率を変更する処理を行う処理部とを備え、前記光学系は、異なる特定の固定倍率に設定された複数の瞳リレー系を備え、前記複数の瞳リレー系の一つを選択することで、前記光学倍率が変更される眼科装置である。
【0010】
第3の発明において、前記複数の瞳リレー系のそれぞれは、回転式のコンテナに保持され、前記コンテナを回転させることで、前記複数の瞳リレー系の中の一つが選択される構成は好ましい。
【0011】
第3の発明においいて、前記複数の瞳リレー系が平行に配置され、前記平行に配置された前記複数の瞳リレー系を平行移動させることで前記複数の瞳リレー系の中の一つが選択される構成は好ましい。
【0012】
ここで、選択された瞳リレー系の隣接する光軸上の前後における瞳共役位置が固定されている態様が挙げられる。また、前記スキャン部は、相対的に高速に行われる第1スキャナと、相対的に低速で行われる第2スキャナの組み合わせにより、前記被検眼の眼底の2次元領域のスキャンを行い、前記複数の瞳リレー系の固定倍率のそれぞれは、複数の瞳孔径の範囲に対応して設定されており、前記第1のスキャナの径の値は、前記複数の瞳孔径の範囲における最小の範囲に含まれる態様が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、瞳孔径の違いに対応でき、更に多様な要求事項を満足することできる補償光学走査型レーザ検眼鏡が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】発明の原理を説明する概念図である。
図2】実施形態の光学系の概念図である。
図3】実施形態の制御系のブロック図である。
図4】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図5】可変鏡系の光学面における眼底反射光の光束の状態を示すモデル図である。
図6】デフォーマブルミラーの有効径とデフォーマブルミラーに当たる検出光の光束径との関係を示す表である。
図7】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(構成)
図2には、実施形態の眼科装置100が示されている。眼科装置100は、補償光学走査型レーザ検眼鏡(AO-SLO)(Adaptive Optics Scanning Laser Ophthalmoscope)である。眼科装置100は、測定光を発光する光源101を備えている。光源101は、例えば、波長500nm〜1500nmの範囲から選ばれる指向性の高い光、すなわち拡がり角の小さい光を発するものが用いられる。光源101としては、固体レーザ、ガスレーザ、レーザダイオード(LD)、スーパールミネッセントダイオード(SLD)、レーザドリブンライトソース(LDLS)等が挙げられる。
【0016】
光源101には、光を導く光ファイバ102が接続されている。光ファイバ102としては、単一モード光ファイバが採用されている。光ファイバ102の先には、光ファイバ102から出射したレーザ光を平行光にするためのレンズ(コリメータレンズ)103が配置されている。光源101からの光は、レンズ103によって平行光とされ、ハーフミラー104に入射する。ハーフミラー104は、投光系と波面検出系とを分岐する光量分割ミラーである。ここで、投光系とは、被検眼300へ光を照射する光学系のことであり、光源101、光ファイバ102およびレンズ103の構成で得る平行光を、リレーレンズ115,116等で中継し、対物レンズ131から被検眼300に出射する光学系全体を指している。波面検出系とは、被検眼300の眼底301からの反射光(検出光)から波面の情報を検出するための光学系のことであり、波面検出部105および光学系106により構成されている。
【0017】
ハーフミラー104は、光源101からのレーザ光(投光)の一部を後述するハーフミラー110の側に透過すると共に、ハーフミラー110の側から入射する検出光の一部を波面検出部105の側に反射する。なお、ハーフミラー104の分岐比(分割される光量の比)は、1:1に限定されず、必要に応じて任意に設定可能である。なお、ハーフミラー104の代わりに偏光ビームスプリッターを用いることも可能である。
【0018】
波面検出部105は、撮像装置であるCCD107と、その手前のレンズアレイ108を有している。レンズアレイ108は、ハルトマン板であり、瞳共役位置に配置されている。波面検出部105は、シャックハルトマンセンサーとして機能する。レンズアレイ108は、小さなレンズを格子状に配列したもので、入射光を多数の光束に分割しそれぞれ集光する。レンズアレイ108によって集光された光はCCD107により撮像され、CCD107の出力は後述する演算部203に送られる
【0019】
ハーフミラー104と波面検出部105との間には、一対のレンズと、その間のピンホール(光学絞り)を有した光学系106が配置されている。また、光学系106により、被検眼300の側の光学系および被検眼300の角膜などからの反射ノイズが軽減される。
【0020】
ハーフミラー104の被検眼300の側には、別のハーフミラー110が配置されている。ハーフミラー110は、投光系と網膜撮像系(眼底撮像系)とを分岐する光量分割ミラーである。網膜撮像系は、眼底301からの反射光(検出光)から、眼底301にある網膜の画像情報を検出する。ハーフミラー110の分岐比(分割される光量の比)は、1:1に限定されず、必要に応じて任意に設定可能である。なお、ハーフミラー110の代わりに偏光ビームスプリッターを用いることも可能である。
【0021】
網膜撮像系は、レンズ111、ピンホール(光学絞り)112および眼底反射光検出器113を備えている。眼底反射光検出器113は、眼底301からの微弱な反射光を検出する光検出素子であり、例えばAPD(アバランシュフォトダイオード)や光電子増倍管により構成されている。眼底反射光検出器113からの検出信号は、後述するADC(A/Dコンバータ)202を介して、演算部203に送られる(図3参照)。スキャンしながら眼底301に光源101からの光を照射することで、眼底反射光検出器113から眼底301からの反射光のスキャンデータが得られる。
【0022】
眼底反射光検出器113の前には、光学絞りとして機能するピンホール112が配置され、ピンホール112の前には、ピンホール112の光学絞り孔の部分に眼底共役位置がくるように光束を絞るレンズ111が配置されている。
【0023】
ハーフミラー110の被検眼300の側には、波面補正デバイスであるデフォーマブルミラー114が配置されている。デフォーマブルミラー114は、波面補正を行うための可変形鏡である。デフォーマブルミラー114は、複数のアクチュエータによって表面の形状を変形させることが可能なミラーである。デフォーマブルミラー114は、演算部203での処理に基づき制御部206(図3参照)により制御され、その反射面を変形させることで、反射する光の波面の補正を行う。
【0024】
デフォーマブルミラー114の光学面(反射面)は被検眼300の瞳孔と共役な位置に置かれている。眼球収差の高い補償性能のためにはデフォーマブルミラー114における対象となる光束が当たっている部分により多くのアクチュエータが配置されることが望まれる。よって、デフォーマブルミラー114の光学面における瞳孔像の大きさが、デフォーマブルミラー有効径と同一となるように後述するレンズ系の結像倍率を選択する。この例においてデフォーマブルミラーの有効径Ddは13.5mmであり、デフォーマブルミラー114のミラー面における瞳孔像(検出光の光束径)がDdに極力近い値になるように後述するレンズ系の結像倍率が選択される。なお、波面補正デバイスとしては、空間位相変調器やバイモルフミラー等を用いることもできる。
【0025】
デフォーマブルミラー114の被検眼300の側には、リレーレンズ115,116を介して第1スキャナ117が配置されている。この例において、リレーレンズ115、116によるリレー倍率は0.3倍である。第1スキャナ117は、瞳孔と共役な位置に配置されており、縦方向(上下方向)のスキャンを行う。このスキャンは、後述の第2スキャナ120よりも高速で行われる。第1スキャナ117は、レゾナントスキャナにより構成されている。レゾナントスキャナ(共振型スキャナ)は、ミラーを共振運動により往復回転させ、反射光の走査を行う光学素子である。レゾナントスキャナは、スキャン中心を動かすことができないが、走査を高速に行える優位性がある。この例では、第1スキャナ117として、そのミラー径DS1が4mmのものを選択している。
【0026】
第1スキャナ117の被検眼300の側には、リレーレンズ118,119を介して第2スキャナ120が配置されている。第2スキャナ120もまた、瞳孔と共役な位置に配置されており、横方向(左右方向)のスキャンを行うことに加え、第1スキャナ117のスキャン中心を横方向に移動するためにも用いることができる。第2スキャナ120は、ガルバノスキャナにより構成されている。ガルバノスキャナは、回転軸に取り付けたミラーをモータで駆動する構造を有している。ガルバノスキャナは、レゾナントスキャナに比較して高速動作は行えないが、スキャン中心を希望する位置に設定できる。この例において、第2スキャナ120のミラー径DS2は4mmである。
【0027】
第2スキャナ120の被検眼300の側には、瞳倍率変更部121が配置されている。瞳倍率変更部121は、光学倍率の異なる複数の光学系を備え、その中の一つを光軸上に位置させる機能を有する。この例では、異なる光学倍率の複数の光学系として、瞳リレー系121a〜121dの4つの光学系が用意されている。瞳リレー系121a〜121dは、2つのレンズにより所定の光学倍率に設定されたレンズ系である。瞳倍率変更部121は、リボルバー拳銃の回転式の弾倉に似た形状の回転式のコンテナを備え、このコンテナに4つに瞳リレー系121a〜121dが保持されている。このコンテナを回転させることで、瞳リレー系121a〜121dの中のいずれか一つを光軸上に位置させることができる。また、瞳リレー系121a〜121dは、第1スキャナ117および第2スキャナ120の光学面(反射面)が被検眼300の瞳孔と共役な関係となるように、光学設計がされている。なお瞳倍率変更部121は、瞳共役位置に配置する走査デバイスや波面補償デバイス面での測定光束径を、瞳孔径によらずできる限り一定にするという目的の為に、走査デバイスである第1スキャナ117および第2スキャナ120と被検眼300の間に配置する必要がある。すなわち、瞳倍率変更部121は、スキャナより被検眼300の側に配置する必要がある。
【0028】
ここで、瞳リレー系121aは、光学倍率(結像倍率)が2.0倍(β=2.0)であり、瞳リレー系121bは、光学倍率(結像倍率)が1.6倍(β=1.6)であり、瞳リレー系121cは、光学倍率(結像倍率)が1.3倍(β=1.3)であり、瞳リレー系121dは、光学倍率(結像倍率)が1.05倍(β=1.05)である。
【0029】
瞳リレー系121aは、光源101の側から入射し、第2スキャナ120を反射してきた測定光の光束径を2.0倍し、それを被検眼300の側に出射する。逆に見ると、瞳リレー系121aは、眼底301から反射してきた検出光の光束径を(1/2)倍し、第2スキャナ120の側に出射する。この光学機能は、光学倍率の値が異なるだけで、瞳リレー系121b〜dにおいても同じである。この場合、瞳孔位置光束径φ=4mmに対応する観察視野角は20°に設定されている。よって、瞳リレー系121aを選択した場合、瞳孔位置光束径φ=8mmであり、観察視野角は10°となる。瞳リレー系121bを選択した場合、瞳孔位置光束径φ=6.4mmであり、観察視野角は12.5°となる。瞳リレー系121cを選択した場合、瞳孔位置光束径φ=5.2mmであり、観察視野角は15.4°となる。瞳リレー系121dを選択した場合、瞳孔位置光束径φ=4.2mmであり、観察視野角は19°となる。
【0030】
なお、複数の瞳リレー系を平行に配置し、それらを平行移動させることで、所望の瞳リレー系を光軸上に配置する構成も可能である。また、瞳リレー系の数を更に増やす、あるいは減らすことも可能である。また、瞳倍率変更部121としては、固定倍率の光学系を切り替える仕組みを採用する他に、瞳リレー系の複数レンズ間距離を変更することによって連続的に結像倍率を変更する仕組みを採用することもできる。
【0031】
瞳倍率変更部121の被検眼300の側には、ミラー122が配置され、ミラー122の被検眼300の側には、視度補正系125が配置されている。視度補正機構125は、眼底301の被観察点が光学系の焦点となるように調整を行う。すなわち、視度補正機構125は、光源101からのレーザ光が眼底301上に略点像として照射されるように調整を行う。視度補正機構125は、くの字形状の視度補正ミラー126,127を備えている。
【0032】
視度補正ミラー126を視度補正ミラー127に対して相対的に遠近させることで、眼底301に焦点がくるように調整が行われる。視度には、個人差や個体差があるが、この視度に違いがあっても、視度補正ミラー126の位置を動かすことで、眼底301に焦点がくるように、つまり眼底301上に照射光が略点像として集光して照射されるように調整が行われる。また、視度補正機構125は、観察対象となる特定の層への集光位置の微調整にも用いることができる。
【0033】
視度補正機構125の被検眼300の側には、レンズ系128を介して、ダイクロイックミラー129,130が配置されている。ダイクロイックミラー129は、光源101からの光を反射し、光源134から照射され前眼部から反射される近赤外光を透過する。例えば、ダイクロイックミラー129は、光源101からの波長840nmの光を反射し、光源134により照明され前眼部から反射される波長950nm光を透過する。
【0034】
ダイクロイックミラー130は、光源101からの光および光源134から前眼部に照射され前眼部で反射された近赤外光を反射し、後述する固視標132からの光を透過する。例えば、ダイクロイックミラー130は、光源101からの波長840nmの光および前眼部で反射された波長950nmの近赤外光を反射し、後述する固視標132からの波長550nmの光を透過する。
【0035】
被検眼300の前には、対物レンズ131が配置されている。対物レンズ131は、収差を抑えるために複数のレンズを組み合わせた構造を有している(勿論、1枚のレンズで構成されていてもよい)。対物レンズ131により、被検眼300の瞳孔304の位置に光学系の瞳が合致するように設定される。
【0036】
被検眼300は、ダイクロイックミラー130を介して固視標132を視認する。固視標132は、被検眼300の向き(視線)を固定させるための視認目標である。固視標132は、被検眼300が視認できる波長の光(400nm〜600nm程度)を発光するフィルムや有機EL素子により構成され、光軸に垂直な方向に移動可能とされている。固視標132を移動させることで、被検眼300の視線の方向を観察者が意図する方向に誘導することができる。
【0037】
被検眼300の前眼部は、光源134から近赤外光(例えば、波長950nm)が照射されており、被検眼300からの反射光はダイクロイックミラー130、129を介して、前眼部観察系の撮像素子133に結像される。撮像素子133によって被検眼の前眼部(瞳)の近赤外光による撮像が行われる。撮像素子133は、CCDやCMOSイメージセンサーにより構成されている。撮像素子133の出力は、演算部203に送られ、演算部203は、撮像素子133が撮像した前眼部の画像(正面から見た瞳の画像)から瞳孔径を検出する。
【0038】
(基本動作)
まず、基本的な動作について説明する。光源101からのSLO測定光は、ハーフミラー110→デフォーマブルミラー114→第1スキャナ117→第2スキャナ120→瞳倍率変更部121、視度補正系125→対物レンズ131を経て被検眼300に入射する。入射光束は瞳孔304の瞳孔径によって制限され、眼球のレンズ作用によって眼底301に集光し眼底301を略点状に照明する。眼底301に集光したSLO測定光は、眼底301の集光点で反射及び散乱される。この反射及び散乱された光は、SLO検出光として、上記と逆の経路をたどり、ハーフミラー110を透過して眼底反射光検出器113で検出される。
【0039】
また、SLO検出光の一部は、ハーフミラー110でハーフミラー104の側に反射され、更にハーフミラー104で反射されて波面検出部105で検出される。波面検出部105では、SLO検出光における波面の乱れが検出され、その検出信号は、演算部203に送られる。演算部203は、波面検出部105が検出した波面の乱れを抑えるようデフォーマブルミラー114を制御するための処理を行う。こうして、眼底からの反射光の検出を行いつつ検出光における波面の補正が行われる。
【0040】
また上記の過程において、相対的に高速に行われる第1スキャナ117の縦スキャンと、相対的に低速で行われる第2スキャナ120の横スキャンの組み合わせにより、眼底301の2次元領域のスキャンが行われる。
【0041】
(制御系)
以下、図1に示す眼科装置の制御系の一例を説明する。図3(A)には、図1の眼科装置の制御系のブロック図が示されている。図3(A)において、入力部220には、図示しない入力装置からの入力操作情報が入力される。入力装置は、キーボード装置、GUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェース)を用いたもの、タッチパネルディスプレイを用いたもの等が利用可能である。また近年、GUIを利用可能な各種の携帯型情報処理端末が利用されているが、これら携帯型情報処理端末を利用して各種の操作を行い、その操作内容を入力部220で受け付ける構成も可能である。
【0042】
演算部203は、CPUおよびその他のハードウェアを備え、各種の演算機能およびインターフェース機能を有したマイコンにより構成されている。図3(B)には、演算部203を機能ブロックとして把握した場合の構成が示されている。図3(B)に示す各機能部は、CPUの演算により所定の機能を発揮するようにソフトウェア的に構成されていてもよいし、少なくとも一部が専用のハードウェアにより構成されていてもよい。
【0043】
図3(B)において、スキャナ制御部311は、第1スキャナ117および第2スキャナ120を用いての眼底301への照射光(測定光)のスキャンを行うための処理を行う。スキャンの範囲を変更することで、観察視野(観察視野角)変更することができる。例えば、スキャンの範囲を狭くすると、観察視野は狭くなり、スキャンの範囲を広くすると、観察視野が広くなる。
【0044】
眼底画像作成部316は、眼底反射光検出器113が検出した反射光のスキャンデータに基づき、網膜の画像を作成する。この網膜の画像は、表示部204に送られ、そこに表示される。すなわち、眼底反射光検出器113の出力は、ADC(A/Dコンバータ)202でデジタル信号に変換され、演算部203に送られる。眼底301(図1参照)へは、光源101からの光が走査されつつ照射されるが、この際の照射点は、スキャナ制御部311において決められており、ある瞬間における照射点の位置は、演算部203の側で判明している。そこで、ADC202の出力をスキャン位置に対応させて割り当て画像の濃淡に変換することで、眼底の画像を得ることができる。この処理が眼底画像作成部316において行われる。
【0045】
瞳孔径検出部317は、撮像素子133が撮像した前眼部の画像を解析し、瞳孔304の瞳孔径を検出する。瞳孔径判定部318は、瞳孔径検出部317が検出した瞳孔径が予め定めた判定条件のいずれに当たるかを判定する。瞳リレー系選択部319は、瞳孔径判定部318における判定に基づき、4つある瞳リレー系121a〜121dのいずれか一つを選択する処理を行う。
【0046】
なお、レンズ間距離を変更し連続的に瞳倍率を変更する構成の瞳倍率変更部の場合、瞳孔径判定部318は、瞳孔径検出部317が検出した瞳孔304の瞳孔径から必要な瞳倍率を算出し、瞳リレー系選択部319はその瞳倍率に応じたレンズ間距離を選択する処理を行う。
【0047】
波面収差検出部320は、ハルトマン撮像素子107が撮像した画像の解析(ゼルニケ解析)を行い、波面の収差の状態を検出する。補償光学制御部321は、波面収差検出部320で検出された波面の収差を抑えるようにデフォーマブルミラー114を変形させる制御を行う。その他、演算部203では、光源101のON/OFF制御のための処理、視度補正に係る処理等が行われる。
【0048】
表示部204は、図2の眼科装置を操作するにあたって必要な各種の表示、および演算部203で得られた眼底画像の表示を行う。なお、表示部204として外部機器の表示機能を用いてもよい。この場合、図示しない表示制御部で表示させたい画像データに係る処理が行われ、それが当該外部機器に送信される。メモリ205は、演算部203で行う演算に必要な各種の情報および演算部203で行う演算の手順を決めるプログラムが格納されている。また、メモリ205には、各種の演算結果や得られた眼底画像の画像データが格納される。
【0049】
制御部206は、演算部203における処理の結果に基づき、スキャン動作の制御、瞳倍率変更部121の制御、光源101の制御、デフォーマブルミラー114の制御、視度補正ミラー126の制御等を行うための制御信号を生成する。
【0050】
第1スキャナ駆動部207は、第1スキャナ117を動かすためのモータとその駆動回路を備えている。第2スキャナ駆動部208は、第2スキャナ120を動かすためのモータとその駆動回路を備えている。瞳倍率変更部駆動部209は、瞳倍率変更部121を駆動するモータおよびその制御回路を備えている。瞳倍率変更部駆動部209のモータにより、瞳倍率変更部121のコンテナ部分が回転し、瞳リレー系選択部319で選択された瞳リレー系が光軸上に移動する。或いは、瞳倍率変更部駆動部209は、瞳リレー系選択部319で選択された瞳倍率に合わせ、瞳倍率変更部121の複数個所に用意されたレンズ間隔変更箇所を光軸方向に伸縮させる。視度補正ミラー駆動部210は、視度補正ミラー126の光軸上における位置を決めるモータとその駆動回路を備えている。
【0051】
(動作例1)
この例では、被検眼の瞳孔径を計測し、その結果に基づき瞳リレー系の倍率を選択する。図4には、処理の一例が記載されている。処理が開始されると、被検眼のアライメント(ステップS201)および固視標132を用いての被検眼300の視線の固定(ステップS202)が行われる。次に、撮像素子133が撮像している前眼部の画像を瞳孔径検出部317において画像解析し、瞳孔304の瞳孔径を測定する(ステップS203)。
【0052】
瞳孔径を検出したら、ステップS203で測定した瞳孔径が予め定めた条件のどれに当たるかの判定が行われる(ステップS204)。この処理は、瞳孔径判定部318において行われる。この処理では、(1)瞳孔径が6.4mm以上、(2)瞳孔径が5.2mm以上6.4mm未満、(3)瞳孔径が4.2mm以上5.2mm未満、(4)瞳孔径が3.4mm以上4.2mm未満のいずれに当たるかを判定する。
【0053】
ステップS204の後、ステップS206に進む。ステップS206では、ステップS204の判定の結果に基づいて、4つある瞳リレー系121a〜121dの中の一つを選択する。この処理は、瞳リレー系選択部319において行われる。この処理では、上記の判定条件における(1)の場合に瞳リレー系121a(β=2.0)が選択され、(2)の場合に瞳リレー系121b(β=1.6)が選択され、(3)の場合に瞳リレー系121c(β=1.3)が選択され、(4)の場合に瞳リレー径121d(β=1.05)が選択される。
【0054】
ステップS206では、瞳孔径で制限された眼底からの反射光束が、デフォーマブルミラー114の反射面を有効に満たすことができる倍率が選択される。言い換えると、ステップS206の処理では、瞳孔径で制限された眼底からの反射光束が、デフォーマブルミラー114の反射面のできるだけ広い部分で反射され、変形可変鏡としての機能ができるだけ有効に利用できる状態となるように、瞳倍率変更部121における光学倍率の選択が行われる。なお、瞳孔径が3.4mmよりももっと小さくなる場合には、瞳リレー径倍率を小さくすることで対応が可能であるので、適宜固定倍率の瞳リレー系を用意してもよい。
【0055】
瞳リレー系を選択したら、眼底画像の撮影を行う(ステップS207)。またこの際、デフォーマブルミラー114を用いた波面補償も同時に行われる。ステップS207の後、拡大撮影の指示があるか否かの判定が行われ(ステップS208)、拡大撮影が指示された場合は、スキャナの振り角の変更を行い、再度の撮影が行われる(ステップS209)。
【0056】
この際、選択されている瞳リレー系の倍率によってスキャナの機械角Θと観察視野角θの関係が変わる。例えば瞳リレー系が2倍の倍率である時、観察視野角θは、スキャナの機械角Θの1倍となる。瞳リレー系が1.05倍の倍率である時、スキャナの機械角Θは、観察視野角θの0.525倍となる。瞳リレー系の選択倍率をβとすると、θ=2/β×Θの関係になるので、この関係に従ってスキャナの振り角変更を行い再度の眼底撮影が行われる(ステップS209)。ステップS208またはS209の後、撮影した画像のデータを保存し(ステップS210)、処理を終了する。
【0057】
図4の処理では、デフォーマブルミラー114の位置での眼底からの反射光束径が、デフォーマブルミラー有効径の8割以上となるように瞳リレー系の倍率βを切り替えている。この例において、被検眼300とデフォーマブルミラーとの間にある瞳倍率変更部121の倍率βと瞳孔孔位置における光束径φとは、デフォーマブルミラー114の反射面での光束径をφdとして、φ=0.3×β×φdの関係がある。ここで、デフォーマブルミラー114での反射面の径は、13.5mmである。よって、φ=7.0mm、つまり瞳孔径が7.0mmの場合、β=2.0を選択することでデフォーマブルミラー位置の眼底からの反射光の光束径φdは11.7mmとなる。この場合、φd(=11.7mm)は、デフォーマブルミラー114の有効径(=13.5mm)の86%となる。
【0058】
また、φが小さな値の場合は、つまり瞳孔径の値が小さい場合は、βの値として小さな値を選択し、φdが小さな値とならないようにする。すなわちこの場合でいうと、φdが13.5mm以下で、極力13.5mmに近い値となるようにする。
【0059】
図5にデフォーマブルミラーにおけるアクチュエータ配置の例を示す。デフォーマブルミラー面位置に戻ってくる眼底反射光の光束径が、デフォーマブルミラー有効径に近いほど、眼底反射光の光束内に存在するアクチュエータ数が増えるため、波面補償性能が高まる。また、デフォーマブルミラーと同様、瞳共役面位置に置かれている波面センサにおいても、前記瞳孔径に基づいた瞳倍率変更によって、波面センサの有効径を効果的に利用でき、安定した高精度の波面解析を行うことが可能となる。
【0060】
図6には、図4の処理を行った場合における瞳孔径D、デフォーマブルミラー114の有効径(D=13.5mm)、デフォーマブルミラー114に当たる検出光の光束径(φd)の関係を示す表が示されている。図6の表における(φd/D)は、上記D=0.3×β×φdの関係式を用いて、瞳孔径Dの違いに対応するデフォーマブルミラー114の有効径Dに対するデフォーマブルミラー114の反射面での光束径φdの割合を計算したものである。
【0061】
図6に示されるように、図4の処理を行った場合、瞳孔径がいかなるサイズであっても、瞳リレー系の光学倍率の変更によって、デフォーマブルミラー114の反射面に当たる検出光の光束径をデフォーマブルミラー114の有効径の80%〜100%の範囲にできる。こうすることで、デフォーマブルミラー114を有効に使用することができ、眼底からの反射光の波面に対する波面補償を効果的に行うことができる。
【0062】
(動作例2)
図7は、図3の制御系で行われる動作の一例を示すフローチャートである。図7には、観察視野角に応じて、瞳リレー系の光学倍率を選択する処理の一例が示されている。処理が開始されると、まず眼のアライメントが行われる(ステップS101)。この処理では、被検眼300(図2参照)と装置の光軸の位置合わせが行われる。次に、固視標132を用いて被検眼300の視線が固定される(ステップS102)。
【0063】
次に、観察視野角が7.5°未満か、あるいは7.5°以上か、の判定が行われる(ステップS103)。なお、この例では、観察視野角の上限は20°であり、また観察視野角は、ユーザによって予め指定されているものとする。観察視野角が7.5°未満(狭観察視野角)の場合、ステップS104に進み、瞳リレー系121a(β=2)の選択、つまり相対的に高倍率な光学系の選択が行われる。この処理は、瞳リレー系選択部319において行われる。瞳リレー系121aが選択されることで、瞳リレー系121aが光軸上に挿入される。
【0064】
瞳リレー系121aを光軸上に位置させたら、所定の条件で測定光のスキャンを行い眼底301の撮影が行われ、その画像が表示部204に表示される(ステップS105)。この処理では、光源101からのレーザ光の照射を眼底にスキャンしつつ行い、その反射光を眼底反射光検出器113で検出する。この際、スキャン光の眼底からの反射光に基づき、眼底の画像化が行われ、眼底の画像を得る。また、上記のスキャンと同時に検出光の波面補正が行われる。この処理では、波面検出系で検出光の波面の状態が検出され、波面の収差が抑えられるようにデフォーマブルミラー114の表面形状の変形が行われる。
【0065】
そして、更に拡大観察がユーザから指示された場合、それが入力部220で受け付けられ、ステップS106からステップS107に進む。ステップS107では、スキャナの振り角を変え、より狭い領域における眼底撮影を再度行う。そして、ステップS105およびステップS107で撮影した画像のデータを保存し(ステップS111)、処理を終了する。また、ステップS106の拡大観察の指示がない場合、ステップS105で撮影した眼底画像のデータを保存し(ステップS111)、処理を終了する。
【0066】
ステップS103に戻り、観察視野角が7.5°以上である場合、ステップS108に進み、瞳リレー系121d(β=1.05)が選択される。この処理は、瞳リレー系選択部319で行われる。瞳リレー系121dが選択されることで、瞳リレー系121dが光軸上に配置される。瞳リレー系121dを光軸上に位置させたら、所定の条件で測定光のスキャンを行い眼底301の撮影が行われ、その画像が表示部204に表示される(ステップS109)。またこの際、ステップS105の場合と同様に検出光の波面補正が行われる。
【0067】
次いで、拡大観察がユーザから指示された場合、それが入力部220で受け付けられ、ステップS110からステップS104に進み、ステップS104以下の処理が実行される。また、拡大観察の指示がない場合、ステップS109で撮影した眼底画像のデータを保存し(ステップS111)、処理を終了する。
【0068】
図7の処理によれば、広角観察の場合は、瞳リレー系の光学倍率を低倍率とする。瞳リレー系の光学倍率を低倍率とした場合、瞳孔位置での光束径φは相対的に小さくなる。例えば瞳リレー系121d(β=1.05)を選択した場合、瞳孔位置の光束径φはφ4.2mmとなる。本例の動作においては、瞳リレー系の倍率変更は観察視野角の変更を目的とするため、被検眼の瞳孔径がこれよりも小さい場合には、動作例1で記した波面補償の有効性は犠牲になる。また被検眼の瞳孔径がこれよりも大きい場合には、測定光は瞳孔径ではなく瞳共役位置に置かれた光学系の有効径で決まることになり、観察像の分解能が犠牲になる。本例においては、それらの犠牲の上に、高速走査での広角観察が実現することになる。
【0069】
(優位性)
上記の例では、瞳孔径に応じて瞳リレー系121の光学倍率を変えることで、瞳孔径が多様であっても瞳(瞳孔)と共役な位置にあるデフォーマブルミラー114における検出光の光束径をデフォーマブルミラー114のミラー径の特定割合以上になるようにしている。これにより、瞳孔径が多様であってもデフォーマブルミラー114の収差を補正する機能が有効に利用でき、得られる眼底画像の画質の低下が抑えられる。
【0070】
また、高速スキャン性能を得つつ、高解像度の眼底画像を得る性能も得られる。一般に、スキャナのミラー径が小さいもの程、小型軽量であるので高速走査に適している。他方において、解像度を追及する上では、想定する瞳孔径をできるだけ大きくした方が好ましい。これは、瞳孔径が大きい程、眼底での照射光のスポット径を小さくできるからである。しかしながら、瞳孔径が大きいと、瞳共役位置にあるスキャナの反射面に入射する検出光の光束径が大きくなるので、スキャナのミラー径を大きくする必要がある。或いは光学系の瞳結像倍率を大きくする必要がある。これが、広観察視野角と高解像とを1台の眼科装置で両立させることが困難となる理由である。
【0071】
本実施形態では、第1スキャナ117として、ミラー径DS1が4mmという比較的小径のものを選択することで、高速スキャン性能を追求している。他方で、第1スキャナ117と被検眼300との間の光学系の光学倍率を変更可能とすることで、スキャナのミラー径が小さくても、高解像度を追及しつつ、且つ、広角視野での高フレームレートでの観察にも対応できようにしている。
【0072】
上記の例では、挟角視野の観察の場合に、瞳リレー系の倍率を高倍率とする。瞳リレー系の倍率を高倍率とすると、瞳孔位置での光束径φH は相対的に大きくなり、被検眼の瞳孔径で光学性能を決めることができる。よって、測定環境を暗くしたり、散瞳剤を用いることで被検眼の瞳孔径を拡大することにより、眼底の照射点での光束径(スポット径)は相対的に小さくなる。このため、光学系の分解能は相対的に高まり、視細胞レベルの観察が可能となる。つまり、高分解能な拡大画像の撮影が可能となる。具体的には、第1スキャナ117のミラー径が4mmである場合、瞳リレー系の光学倍率を2倍に設定すれば、最大瞳孔径として8mmを想定することが可能となる。瞳リレー系の光学倍率を1.6倍に設定すれば、最大瞳孔径は6.4mmまでしか想定できないが、観察視野角は光学倍率2倍時よりも大きくとることが可能となる。
【0073】
前述したように、スキャナの機械角Θ、観察視野角θ、瞳リレー系の選択倍率βには、θ=2/β×Θの関係があるので、広角観察を行う場合は、瞳リレー系の光学倍率を下げることで、スキャナの機械角を変更することなく、観察視野角を拡大することができる。この時瞳孔位置での光束径φは相対的に小さくなり、被検眼の瞳孔径Dよりも小さくなるような場合においては、分解能はφで決まることになる。具体的には、スキャナ117の機械角が10°である場合に瞳リレー系の光学倍率を1.05倍に設定すれば、観察視野角は19°となる。しかし、その場合、瞳孔位置での光束径φは4.2mmであり、被検眼の瞳孔径が4.2mm以上あっても、眼底からの反射光束として光学系が受け入れるのは4.2mm内の光束に制限される。つまり、広角観察時には解像度は犠牲となる。しかしながら、スキャナ機械角を変更せずに光学的に観察視野角を変更しているため、スキャナの高速性を犠牲にすることなく観察視野角の広角化を実現できる。
【0074】
こうして、高速走査と最大瞳孔径を追求して選定した走査デバイス(スキャナ)を用いながらも、大きな観察視野角の観察時における高速スキャンが行える眼科装置が得られる。
【0075】
(明細書に開示された内容)
本明細書には、被検眼の眼底に照射する測定光を発光する測定光発光部と、前記眼底に照射される前記測定光のスキャンを行うスキャン部と、前記スキャン部と前記被検眼との間に配置され、前記スキャン部光学面を被検眼の瞳孔と共役関係にし、その光学倍率を変更することが可能な光学系と、前記被検眼の瞳孔径または前記被検眼の眼底の観察視野に基づいて前記光学倍率を変更する処理を行う処理部とを備えることを特徴とする眼科装置が開示されている。
【0076】
上記の眼科装置において、前記処理部は、前記被検眼の瞳孔径が相対的に小さい場合に相対的に小さな光学倍率を選択することを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、被検眼の瞳孔径が相対的に小さい場合に、スキャン部光学面の瞳孔への結像倍率を小さい倍率に変更が行われ、瞳孔での入射光の蹴られ(瞳孔を通過できない入射光の成分)を少なくする。また、この構成によれば、瞳孔径で制限された眼底からの反射光つまり検出光が、補償光学デバイス(デフォーマブルミラー)の光学面、更に波面センサ面のより広い面積に当たるので、補償光学デバイスをより有効に使うことができる。
【0077】
図1には、補償光学走査型レーザ検眼鏡(AO‐SLO=Adaptive Optics Scanning Laser Ophthalmoscope)の原理が示されている。なお、図1は、原理を説明するための例示であり、本願発明が図1の光学系の構成に限定されるものではない。図1に示すように、AO-SLOでは、被検眼300の眼底301にレーザ光を集光して照射し、その集光位置をスキャンすることで、その反射光から画像を得る。眼底301からの反射光は、ビームスプリッター302、303によって光路分割され、被検眼の瞳孔304と共役位置に置かれた波面センサ305と、眼底301と共役位置に置かれた検出器306にそれぞれ導光される。波面センサ305は、被検眼300の収差を測定する。そして、波面センサ305で測定した被検眼300の収差を打ち消すように、被検眼300の瞳孔304の他の共役位置に置かれた可変形鏡であるデフォーマブルミラー307の形状を変更することで、測定光波長と瞳孔径で決まる回折限界サイズの眼底部構造を解像することが可能となる。
【0078】
AO-SLOでは、眼底の視細胞観察を目的とすることが多いが、視細胞サイズは概ね2〜6μmと言われている。これを観察するためには、瞳孔径はφ8mm程度まで開く必要がある。しかしながら、最大瞳孔径には個人差があるため視細胞の観察状況は被検眼に大きく依存することになる。
【0079】
被検眼によって瞳孔径が異なることは、解像限界サイズだけではなく、AO-SLOの波面補償性能にも関わる。前記の波面センサ305とデフォーマブルミラー307は、被検眼の瞳孔と共役位置に置かれているが、その結像倍率が固定である場合、瞳孔径の変化は波面センサ305およびデフォーマブルミラー307に入射する眼底反射光束径の変化につながる。例えば、波面センサ305およびデフォーマブルミラー307に入射する光束径が小さくなると、波面センサで設定した収差解析径の外周部の情報が不足することになり、波面収差解析の正確さを欠く。また波面補正に寄与するデフォーマブルミラー307の設定した補正能力を余すことになってしまう。
【0080】
そこで、処理部では、被検眼の瞳孔径が相対的に小さい場合に相対的に小さな光学倍率を選択する。この構成では、被検眼の瞳孔径が変化しても、波面センサおよび可変形鏡に入射する検査光(眼底からの反射光)の光束径が極力小さくならないように、瞳の結像倍率の変更が行われる。
【0081】
上記の構成において、前記眼底からの前記測定光の反射光の波面の収差を検出する波面センサと、前記波面センサが検出した前記反射光の波面の収差を抑えるために反射面の変形を行う可変形鏡とを備え、前記光学倍率の変更は、前記可変形鏡における前記反射光の光束径と前記可変形鏡の有効径との関係が特定の関係となる条件で行われる。
【0082】
上記の構成によれば、可変形鏡の有効径φに対する可変形鏡に入射する検出光(眼底からの反射光)の光束径φの割合(φ/φ)が特定の関係、例えば(φ/φ)≧0.8となるように光学倍率の選択が行われる。(φ/φ)が小さくなると、可変形鏡と共役関係にある波面センサ、及び可変形鏡の利用されない部分が増加するので、波面補償の精度が低下する。
【0083】
また、(φ/φ)が特定の条件を満たすように光学系の光学倍率が選択されるので、可変形鏡の利用効率の低下が抑えられ、波面補正の精度の低下が抑えられる。
【0084】
また、前記処理部は、前記眼底の観察像に高解像度が要求される場合に相対的に大きな光学倍率を選択し、相対的に大きな観察視野が要求される場合に相対的に小さい光学倍率を選択する。
【0085】
AO-SLO光学系における観察視野角の変更は、SLO光学系と同様、走査デバイスのスキャン幅を変更することで行うことが一般的である。これによるメリットは、観察視野角を変更しても光学系の結像倍率は何も変わっていないため、被検眼の瞳孔径が一定である限り、分解能が観察視野角に依らない点にある。
【0086】
しかしながら、広視野角時にこのメリットを生かすためには、スキャンピッチを小さくする、つまりフレームレートを下げる必要がある。ところが、AO―SLOの場合、観察対象は生体の眼底であり、眼球は絶えず眼球運動により動いていることから、フレームレートを下げることは画質の低下に繋がる。つまり、広視野観察時には前記メリットをAO―SLOで生かすことは難しい。
【0087】
そこで、狭観察視野から広観察視野への変更時に光学倍率を相対的に小さな値に変更することで、フレームレートの低下を抑えつつ、広観察視野角での観察が行えるようにする。
【0088】
この構成によれば、広視野観察時に狭視野観察時の分解能は維持されないが、フレームレートは維持もしくは、さらに上げることが可能である。また、走査デバイスの選定は、狭視野観察の光学条件を元に行えばよく、つまり、有効径とスキャン幅の積の小さいものを選定することが可能となり、走査の高速性を追求したデバイス選定に有利となる。
【符号の説明】
【0089】
100…眼科装置、101…光源、102…光ファイバ、103…レンズ(コリメータレンズ)、104…ハーフミラー、105…波面検出部、106…光学系、107…CCD、108…レンズアレイ、110…ハーフミラー、111…レンズ、112…ピンホール、113…眼底反射光検出器、114…デフォーマブルミラー、115…リレーレンズ、116…リレーレンズ、117…第1スキャナ、118…リレーレンズ、119…リレーレンズ、120…第2スキャナ、121…瞳倍率変更部、121a…瞳リレー系(レンズ系)、121b…瞳リレー系(レンズ系)、121c…瞳リレー系(レンズ系)、121d…瞳リレー系(レンズ系)、122…ミラー、125…視度補正機構、126…視度補正ミラー、127…視度補正ミラー、128…レンズ系、129…ダイクロイックミラー、130…ダイクロイックミラー、132…固視標、133…撮像素子、134…光源、300…被検眼、301…眼底、302…ビームスプリッター、303…ビームスプリッター、304…瞳孔、305…波面センサ、306…検出器、307…デフォーマブルミラー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7