特許第6578430号(P6578430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6578430-セルスタック 図000003
  • 特許6578430-セルスタック 図000004
  • 特許6578430-セルスタック 図000005
  • 特許6578430-セルスタック 図000006
  • 特許6578430-セルスタック 図000007
  • 特許6578430-セルスタック 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6578430
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】セルスタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20190909BHJP
   H01M 8/2485 20160101ALI20190909BHJP
   H01M 8/0282 20160101ALI20190909BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20190909BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/2485
   H01M8/0282
   H01M8/12 101
   H01M8/12 102C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-245457(P2018-245457)
(22)【出願日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年3月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕己
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 玄太
(72)【発明者】
【氏名】龍 崇
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−006962(JP,A)
【文献】 特開2011−150994(JP,A)
【文献】 特開2018−107114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00− 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、前記支持基板上に配置される発電素子部とを有する電気化学セルと、
前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドと、
前記電気化学セルと前記マニホールドとの間に配置されるガラスシール部と、
を備え、
前記電気化学セルの表面に垂直な断面において、前記ガラスシール部は、前記マニホールドの外側に露出する外表面と、前記外表面に形成される凹部を有し、
前記断面において、前記ガラスシール部の外表面の全長は、前記ガラスシール部の外表面の両端を結ぶ直線長さの1.2倍以上であ
前記ガラスシール部は、Si、Mg、Bを含有する結晶化ガラスによって構成される、
セルスタック。
【請求項2】
前記断面において、前記ガラスシール部の外表面の全長は、前記直線長さの1.5倍以上である、
請求項1に記載のセルスタック。
【請求項3】
前記マニホールドの表面を平面視した場合、前記凹部は、前記電気化学セルの表面に沿って延びている、
請求項1又は2に記載のセルスタック。
【請求項4】
前記ガラスシール部は、前記凹部を少なくとも1つ有しており、
前記マニホールドの表面を平面視した場合、前記電気化学セルの表面に沿った方向において、少なくとも1つの前記凹部の合計長さは、前記電気化学セルの表面の全周長さの0.1倍以上である、
請求項1乃至3のいずれかに記載のセルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルスタックは、電気化学セルと、Crを含有する合金材料(例えば、ステンレス鋼など)によって構成されるマニホールドと、結晶化ガラスによって構成されるガラスシール部とを備える(特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1には、電気化学セルとして燃料電池セルが用いられている。マニホールドは、燃料電池セルの基端部を支持する。ガラスシール部は、燃料電池セルの基端部とマニホールドとを接合する。ガラスシール部は、マニホールドの内部空間(例えば、燃料ガスが供給される空間)と外部空間(例えば、空気が供給される空間)とを区画することによって、燃料ガスと空気との混合を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−100687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルスタックの作動中、電気化学セルとマニホールドとの狭小な隙間には大きな電界強度が生じるため、ガラスシール部の外表面を介して、電気化学セルからマニホールドに微弱なリーク電流が流れる場合がある。
【0006】
本発明は、ガラスシール部の外表面を介して電気化学セルからマニホールドへリーク電流が流れることを抑制可能なセルスタックの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセルスタックは、電気化学セルと、マニホールドと、ガラスシール部とを備える。電気化学セルは、支持基板と、前記支持基板上に配置される発電素子部とを有する。マニホールドは、電気化学セルの基端部を支持する。ガラスシール部は、電気化学セルとマニホールドとの間に配置される。電気化学セルの表面に垂直な断面において、ガラスシール部は、マニホールドの外側に露出する外表面と、外表面に形成される凹部とを有する。断面において、ガラスシール部の外表面の全長は、ガラスシール部の外表面の両端を結ぶ直線長さの1.2倍以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガラスシール部の外表面を介して電気化学セルからマニホールドへリーク電流が流れることを抑制可能なセルスタックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るセルスタックの全体斜視図である。
図2】燃料電池の全体斜視図である。
図3】マニホールドの全体斜視図である。
図4】燃料電池及びマニホールドの断面図である。
図5図4の部分拡大図である。
図6】マニホールドの表面の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<セルスタックの構成>
本実施形態に係るセルスタック1の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、セルスタック1の全体斜視図である。図2は、燃料電池セル100の全体斜視図である。図3は、マニホールド200の全体斜視図である。図4は、燃料電池セル100及びマニホールド200の部分拡大断面図である。
【0011】
セルスタック1は、固体酸化物形燃料電池(SOFC;Solid Oxide Fuel Cell)に用いられる構造体である。なお、本実施形態では、図1に示すように、x,y,z座標系が設定されている。
【0012】
セルスタック1は、複数の燃料電池セル100と、マニホールド200と、ガラスシール部300とを備える。
【0013】
<燃料電池セル>
図1に示すように、各燃料電池セル100は、マニホールド200に設けられる。燃料電池セル100は、互いに間隔を隔てて並べられる。図2及び図4に示すように、燃料電池セル100のx軸方向(長手方向)において燃料ガスが流入する側の基端部10aは、ガラスシール部300によってマニホールド200に接合される。燃料電池セル100のx軸方向において燃料ガスが排出される側の先端部10bは、自由端となっている。
【0014】
図2に示すように、燃料電池セル100は、実質的に平板状に形成される。燃料電池セル100の長手方向、短手方向及び厚み方向は、それぞれx軸方向、y軸方向及びz軸方向に対応する。
【0015】
燃料電池セル100のx軸方向の長さL1は特に制限されないが、50mm以上500mm以下の範囲内に設定することができる。燃料電池セル100のy軸方向の長さL2は特に制限されないが、10mm以上100mm以下の範囲内に設定することができる。燃料電池セル100のz軸方向の長さL3は特に制限されないが、1mm以上5mm以下の範囲内に設定することができる。
【0016】
各燃料電池セル100は、複数の発電素子部Aと、支持基板10と、シール膜20とを有する。
【0017】
各発電素子部Aは、燃料極、固体電解質膜及び空気極を有する。各発電素子部Aは、燃料極、固体電解質膜及び空気極の順に積層された積層焼成体である。ここでは、燃料極は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ;イットリア安定化ジルコニア)とから構成される。固体電解質膜は、例えば、YSZ(8YSZ;イットリア安定化ジルコニア)から構成される。空気極は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成される。
【0018】
複数の発電素子部Aは、支持基板10上に設けられる。複数の発電素子部Aは、電気的に直列に接続される。発電素子部Aの個数は特に制限されない。
【0019】
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料から構成された焼成体である。支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)で構成される。
【0020】
支持基板10は、発電素子部Aを支持する。具体的には、支持基板10の両主面には、複数の発電素子部Aが、x軸方向に所定の間隔を隔てて設けられている。
【0021】
支持基板10の内部には、複数の燃料ガス流路11が形成されている。各燃料ガス流路11は、x軸方向に延びている。各燃料ガス流路11は、支持基板10を貫通する。各燃料ガス流路11は、y軸方向(幅方向)に所定の間隔を隔てて形成される。
【0022】
シール膜20は、支持基板10の外表面を覆う。シール膜20は、緻密質材料によって構成することができる。緻密質材料としては、例えば、YSZ、ScSZ、ガラス、スピネル酸化物などが挙げられる。シール膜20は、各発電素子部Aの固体電解質膜と同じ材料によって構成されていてもよい。この場合、シール膜20は、各発電素子部Aの固体電解質膜と一体的に形成されていてもよい。
【0023】
<マニホールド>
マニホールド200は、本発明に係る「金属部材」の一例である。マニホールド200は、複数の燃料電池セル100それぞれに燃料ガスを供給するための中空体である。図3及び図4に示すように、マニホールド200は、実質的に直方体状である。マニホールド200では、高さ方向、短手方向及び長手方向が、x軸方向、y軸方向及びz軸方向に対応する。
【0024】
図3及び図4に示すように、マニホールド200は、基部210と、支持板220とを有する。
【0025】
基部210は、底部と、底部を取り囲む側壁とを有する。底部と側壁とによって、上方に向けて開口する開口部が形成される。基部210は、Crを含有する合金材料によって構成される。このような合金材料としては、Fe−Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi−Cr系合金鋼などを用いることができる。
【0026】
基部210の表面には、Cr(酸化クロム)によって構成されるCr膜が形成されていてもよい。Cr膜は、基部210の表面の少なくとも一部を覆っていてもよいし、基部210の表面の略全面を覆っていてもよい。Cr膜の表面には、基部210からCrが揮発することを抑制するための被覆膜が形成されていてもよい。被覆膜は、Mn,Co,Ni,Fe,Cu等の遷移金属などを含むスピネル型複合酸化物、LaおよびSrを含有するペロブスカイト形複合酸化物、結晶化ガラス、アルミナ、シリカ及びジルコニアなどのセラミックス材料によって構成することができる。被覆膜は、Cr膜の表面の少なくとも一部を覆っていてもよいし、Cr膜の表面の略全面を覆っていてもよい。特に、被覆膜は、Cr膜のうち空気と接触する領域を覆っていることが好ましい。
【0027】
支持板220は、Crを含有する合金材料(例えば、ステンレス鋼など)によって構成される。支持板220は、基部210上に配置される。具体的には、支持板220は、基部210の側壁の先端部に配置され、基部210の開口部を塞ぐ。このように、支持板220が基部210の開口部を塞ぐことによって、マニホールド200には、内部空間S1が形成される(図4を参照)。この内部空間S1には、燃料ガスが導入される。
【0028】
燃料ガスは、導入管230を介して、外部から内部空間S1に導入される。導入管230は、Crを含有する合金材料(例えば、ステンレス鋼など)によって構成される。導入管230は、マニホールド200の支持板220に接合される。
【0029】
支持板220の表面には、Crによって構成されるCr膜が形成されていてもよい。Cr膜は、支持板220の表面の少なくとも一部を覆っていてもよいし、支持板220の表面の略全面を覆っていてもよい。Cr膜の表面には、支持板220からCrが揮発することを抑制するための被覆膜が形成されていてもよい。被覆膜は、Mn,Co,Ni,Fe,Cu等の遷移金属などを含むスピネル型複合酸化物、LaおよびSrを含有するペロブスカイト形複合酸化物、結晶化ガラス、アルミナ、シリカ及びジルコニアなどのセラミックス材料によって構成することができる。被覆膜は、Cr膜の表面の少なくとも一部を覆っていてもよいし、Cr膜の表面の略全面を覆っていてもよい。特に、被覆膜は、Cr膜のうち空気と接触する領域を覆っていることが好ましい。
【0030】
マニホールド200は、図3及び図4に示すように、各燃料電池セル100を支持する。具体的には、マニホールド200は、支持板220に形成された複数の貫通孔221を有している。貫通孔221は、マニホールド200の外側(外部空間)と内部空間S1とを連通するように、支持板220の表面200Sに形成されている。図4に示すように、貫通孔221は、支持板220をx軸方向(高さ方向)に貫通している。図3に示すように、貫通孔221は、z軸方向(長手方向)に所定の間隔を隔てて形成されるとともに、y軸方向(短手方向)にも所定の間隔を隔てて形成される。
【0031】
貫通孔221には、各燃料電池セル100が配置される。詳細には、各燃料電池セル100の燃料ガス流路11が内部空間S1に連通するように、貫通孔221には、各燃料電池セル100の基端部10aが挿入される。
【0032】
<ガラスシール部>
【0033】
ガラスシール部300は、マニホールド200の貫通孔221と各燃料電池セル100との隙間Gに充填される。ガラスシール部300は、マニホールド200の内部空間S1の燃料ガスと、マニホールド200の外部空間の空気との混合を防止するシール材として機能する。具体的には、図4に示すように、ガラスシール部300は、マニホールド200と各燃料電池セル100との間に配置され、マニホールド200と各燃料電池セル100とを接合する。これにより、ガラスシール部300は、内部空間S1と外部空間とを区画する。
【0034】
ガラスシール部300は、結晶化ガラスによって構成される。結晶化ガラスとしては、例えば、SiO−B系、SiO−CaO系、MgO−B系、又はSiO−MgO系のものが用いられる。なお、結晶化ガラスとしては、SiO−MgO系のものが最も好ましい。
【0035】
ガラスシール部300を構成する結晶化ガラスは、全体積に対する「結晶相が占める体積」の割合(結晶化度)が60%以上であり、かつ、全体積に対する「非晶質相及び不純物が占める体積」の割合が40%未満のガラスである。
【0036】
<ガラスシール部の断面構造>
図5は、図4の部分拡大図である。図5では、燃料電池セル100の表面100Sとマニホールド200の表面200Sとの両方に垂直な断面が図示されている。
【0037】
ガラスシール部300は、外表面300Sと、凹部300Tとを有する。
【0038】
外表面300Sは、ガラスシール部300のうちマニホールド200の外側に露出する表面である。図5において、外表面300Sを示す線分は、全体として外側に向かって凸状の曲線であるが、これに限られない。外表面300Sを示す線分は、全体として内側に向かって凸状の曲線であってもよいし、外側に向かって凸状の曲線と内側に向かって凸状の曲線とが少なくとも1つずつ連なった線分であってもよい。また、外表面300Sを示す線分は、部分的あるいは全体的に直線であってもよい。なお、外表面300Sを示す線分は、観察する断面ごとに異なっていてもよい。
【0039】
凹部300Tは、外表面300Sに形成される。凹部300Tは、マニホールド200の内部空間S1に連通していない。すなわち、凹部300Tは、貫通孔ではない有底孔である。凹部300Tの全体形状は特に制限されない。凹部300Tの幅W1は特に制限されないが、例えば1μm以上1000μm以下とすることができる。凹部300Tの深さD1は特に制限されないが、例えば10μm以上4000μm以下とすることができる。幅W1は、凹部300Tの開口を形成する上向きの角部と表面200Sに水平な直線との交点Q1と、凹部300Tの開口を形成する横向き(図5では、左向き)の角部と表面200Sに垂直な直線との交点Q2との直線距離である。深さD1は、交点Q1と交点Q2とを結ぶ直線に垂直な方向において、当該直線から凹部300Tの最深部までの長さである。また、図5では、外表面300Sに凹部300Tが1つだけ形成されているが、外表面300Sには2以上の凹部300Tが形成されていてもよい。
【0040】
このような凹部300Tが外表面300Sに形成されることによって、外表面300Sの全長WLは、凹部300Tが存在しない場合よりも延長される。具体的には、外表面300Sの全長WLは、外表面300Sの両端P1,P2を結ぶ直線400の直線長さSLの1.2倍以上である。これにより、燃料電池セル100からマニホールド200までの実質的な距離を十分長くすることができるため、セルスタック1の作動中、燃料電池セル100とマニホールド200との隙間Gに電界が発生したとしても、外表面300Sを介して燃料電池セル100からマニホールド200に微弱なリーク電流が流れることを抑制できる。
【0041】
外表面300Sの全長WLは、直線400の直線長さSLの1.3倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、2.0倍以上が特に好ましい。これによって、外表面300Sを介して燃料電池セル100からマニホールド200に微弱なリーク電流が流れることをより抑制できる。
【0042】
外表面300Sの全長WLが長いほどリーク電流は流れにくくなるため、外表面300Sの全長WLの上限値は特に制限されないが、ガラスシール部300に含まれる特定元素の揮発を抑制する観点から、直線400の直線長さSLの3倍以下であることが好ましい。
【0043】
<ガラスシール部の平面構造>
図6は、マニホールド200の表面200Sを平面視した平面図である。
【0044】
マニホールド200の表面200Sを平面視した場合、セルスタック1の周囲はガラスシール部300によって取り囲まれ、ガラスシール部300の周囲はマニホールド200(具体的には、支持板220)によって取り囲まれている。
【0045】
ガラスシール部300に形成された各凹部300Tは、燃料電池セル100の表面100Sに沿って延びていることが好ましい。これにより、凹部300Tが燃料電池セル100の表面100Sに垂直な方向に沿って延びる場合に比べて、燃料電池セル100からマニホールド200にリーク電流が流れることを抑制しやすい。
【0046】
燃料電池セル100の表面100Sに沿った方向において、各凹部300Tの長さの合計は、燃料電池セル100の表面100Sの全周長さの0.1倍以上であることがより好ましい。これにより、燃料電池セル100からマニホールド200へリーク電流が流れにくい領域を十分広い範囲に設定することができるため、燃料電池セル100からマニホールド200へのリーク電流をより抑制できる。
【0047】
なお、図6では、ガラスシール部300に2つの凹部300Tが形成されているが、凹部300Tの数及び位置は適宜変更可能である。
【0048】
<セルスタックの組立て>
まず、複数の燃料電池セル100をスタック状に整列した状態で所定の治具に固定し、各燃料電池セル100の基端部10aを貫通孔221に挿入する。
【0049】
次に、ガラス成分の供給源となる化合物を含むペーストを、燃料電池セル100とマニホールド200との隙間Gに充填することによって、ガラスシール部300の成形体を形成する。この際、ガラスシール部300の成形体表面に、焼成により焼失する樹脂シートを埋め込む。
【0050】
次に、ガラスシール部300の成形体に熱処理(750〜850℃、1〜10時間)を施す。この熱処理によって成形体の内部で結晶化が進み、ガラスシール部300が形成されるとともに、樹脂シートが消失することで、ガラスシール部300の外表面300Sに凹部300Tが形成される。この際、図5に示すように、凹部300Tの幅W1及び深さD1を調整することによって、外表面300Sの全長WLを直線400の直線長さSLの1.2倍以上とする。ただし、凹部300Tの形成方法は、樹脂シートを用いる方法に限られない。凹部300Tは、例えば、ガラスシール部300の結晶化後に、ダイヤモンドカッター等を用いて外表面300Sに切削加工を施したり、或いは、外表面300Sをレーザー加工したりすることによっても形成できる。
【0051】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0052】
(A)上記実施形態では、燃料電池セルを備えるセルスタックにおいて、本発明に係るガラスシール部を適用したが、本発明に係るガラスシール部は、水蒸気から水素と酸素を生成する電解セルなどの電気化学セルを備えるセルスタックに適用することができる。
【0053】
(B)上記実施形態において、燃料電池セル100は、複数の発電素子部Aが支持基板10の長さ方向に配列された、いわゆる横縞型の燃料電池セルであることとしたが、燃料電池セル100の構成はこれに限定されない。燃料電池セル100は、例えば、縦縞型、平板型、円筒型など種々の形態を取りうる。
【0054】
(C)上記実施形態では、各燃料電池セル100の基端部10aは、マニホールド200の各貫通孔221に挿入されることとしたが、各貫通孔221の外側に配置されていてもよい。この場合、各燃料電池セル100の基端部10aは、各貫通孔221から離れた位置において、ガラスシール部300を介してマニホールド200に固定される。
【実施例】
【0055】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例には限定されない。
【0056】
<実施例1〜9及び比較例1,2の接合体>
まず、燃料電池セルと、貫通孔が形成されたマニホールドとを準備した。
【0057】
次に、燃料電池セルを治具に固定し、燃料電池セルの基端部をマニホールドの貫通孔に挿入した。
【0058】
次に、Si、Mg、Bを含有するガラスペーストを、燃料電池セルの基端部とマニホールドの貫通孔との隙間にガラスペーストを充填することによって、ガラスシール部の成形体を形成した。
【0059】
次に、ガラスシール部の成形体表面に、焼成により焼失する樹脂シートを埋め込んだ。この際、水準ごとに樹脂シートのサイズを変更することによって、次工程においてガラスシール部の表面に形成される凹部のサイズを調整した。
【0060】
次に、ガラスシール部の成形体に熱処理(850℃、5時間)を施すことによってガラスシール部を形成した。この際、樹脂シートが消失して、ガラスシール部の外表面に凹部が形成された。燃料電池セルの表面とマニホールドの表面とに垂直な断面において、ガラスシール部の外表面両端の直線長さSLに対する外表面の全長WLの倍率(WL/SL)は、表1に示す通りであった。また、ガラスシール部の平面視において、燃料電池セル表面の全周長さに対する凹部の長さの倍率は、表1に示す通りであった。
【0061】
<リーク電流測定>
燃料電池セルの発電素子部とマニホールドの間に白金リード線を用いてシャント抵抗を接続しリーク電流検出回路を構成した。次に、燃料電池セルを750℃で運転させながら、電圧計を用いてシャント抵抗に発生する電位差を計測し、得られた電位差からオームの法則によって燃料電池セルからマニホールドへのリーク電流値を算出した。表1では、比較例2におけるリーク電流値を基準として規格化された値が記載されている。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、ガラスシール部の外表面の全長WLを直線長さSLの1.2倍以上とした実施例1〜9では、ガラスシール部の外表面の全長WLを直線長さSLの1.1倍とした比較例1,2に比べて、リーク電流を抑制することができた。
【0064】
特に、ガラスシール部の外表面の全長WLを直線長さSLの1.3倍以上とすることによって、また1.5倍以上とすることによって、さらに2.0倍以上とすることによって、リーク電流をより抑制できることが確認できた。
【0065】
また、実施例6〜9を比較すると分かるように、ガラスシール部の平面視において、燃料電池セル表面の全周長さに対する凹部の長さの倍率を0.1倍以上とすることによって、また0.2倍以上とすることによって、さらに0.5倍以上とすることによって、リーク電流を更に抑制できることが確認できた。
【符号の説明】
【0066】
1 セルスタック
10 支持基板
11 燃料ガス流路
100 燃料電池セル
200 マニホールド
221 貫通孔貫通孔
300 ガラスシール部
A 発電素子部
【要約】
【課題】ガラスシール部の外表面を介して電気化学セルからマニホールドへリーク電流が流れることを抑制可能なセルスタックを提供する。
【解決手段】セルスタック1は、燃料電池セル100と、マニホールド200と、ガラスシール部300とを備える。燃料電池セル100は、支持基板10と、支持基板10上に配置される発電素子部Aとを有する。マニホールド200は、燃料電池セル100の基端部10aを支持する。ガラスシール部300は、燃料電池セル100とマニホールド200との間に配置される。燃料電池セル100の表面100Sに垂直な断面において、ガラスシール部300は、マニホールド200の外側に露出する外表面300Sと、外表面300Sに形成される凹部300Tとを有する。断面において、ガラスシール部300の外表面300Sの全長WLは、ガラスシール部300の外表面300Sの両端P1,P2を結ぶ直線長さSLの1.2倍以上である。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6