特許第6578437号(P6578437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578437
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20190909BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   C08L23/10
   C08L53/02
【請求項の数】15
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2018-514584(P2018-514584)
(86)(22)【出願日】2017年4月24日
(86)【国際出願番号】JP2017016214
(87)【国際公開番号】WO2017188184
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2018年9月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-87345(P2016-87345)
(32)【優先日】2016年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】草ノ瀬 康弘
(72)【発明者】
【氏名】市野 洋之
(72)【発明者】
【氏名】山本 政嗣
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/137355(WO,A1)
【文献】 特開平10−67894(JP,A)
【文献】 特開2010−229348(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/039257(WO,A1)
【文献】 特開2001−106844(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/119592(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00−23/36
C08L 53/00−53/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂(a)と、水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)と、を含み、
前記水素化ブロック共重合体(b)が、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(S)を分子中に含む水素化ブロック共重合体であり、
前記水素化ブロック共重合体(c)が、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B2)及びビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(S)を分子中に含む水素化ブロック共重合体であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び/又は(c)が、更に共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(C)を分子中に含む水素化ブロック共重合体であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)において、前記重合体ブロック(C)の含有量が20質量%以下であり、前記重合体ブロック(B1)の含有量が73〜97質量%であり、前記重合体ブロック(S)の含有量が1〜15質量%であり、
前記水素化ブロック共重合体(c)において、前記重合体ブロック(C)の含有量が20質量%以下であり、前記重合体ブロック(B2)の含有量が73〜97質量%であり、前記重合体ブロック(S)の含有量が1〜15質量%であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の合計100質量%に対して、前記重合体ブロック(C)の合計量が1〜20質量%であり、前記重合体ブロック(C)及び(S)の合計量が3〜27質量%であり、
前記重合体ブロック(C)の水素化前のビニル結合量が1mol%以上25mol%以下であり、前記重合体ブロック(B1)の水素化前のビニル結合量が60mol%超100mol%以下であり、前記重合体ブロック(B2)の水素化前のビニル結合量が40mol%以上60mol%以下であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の水素化率が、それぞれ、80mol%以上であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量の質量比〔(b)/(c)〕が90/10〜10/90であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量との合計に対する前記ポリプロピレン系樹脂(a)の含有量の質量比〔(a)/((b)+(c))〕が10/90〜90/10である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記水素化ブロック共重合体(b)及び/又は(c)が、更に共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B3)を分子末端に含む水素化ブロック共重合体であり、
前記重合体ブロック(B3)の水素化前のビニル結合量が40mol%以上100mol%以下であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の合計100質量%に対する前記重合体ブロック(B3)の合計量が、1〜10質量%である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記水素化ブロック共重合体(c)が、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(C)を分子中に含む水素化ブロック共重合体である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の両方が、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(C)を分子中に含む水素化ブロック共重合体である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリプロピレン系樹脂(a)と、水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)と、を含み、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)が、ビニル芳香族化合物単位及び共役ジエン化合物単位を分子中に含み、
前記水素化ブロック共重合体(b)において前記ビニル芳香族化合物単位の合計量が、1〜15質量%であり、
前記水素化ブロック共重合体(c)において前記ビニル芳香族化合物単位の合計量が、1〜15質量%であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の水素化率が、それぞれ、80mol%以上であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)中、前記共役ジエン化合物単位の合計100mol%に対するブチレン量及び/又はプロピレン量が60mol%超100mol%以下であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)の動的粘弾性測定(1Hz)により得られるtanδピークが−40℃超10℃以下の範囲にあり、
前記水素化ブロック共重合体(c)中の前記共役ジエン化合物単位の合計100mol%に対して、ブチレン量及び/又はプロピレン量が40mol%以上60mol%以下であり、
前記水素化ブロック共重合体(c)の動的粘弾性測定(1Hz)により得られるtanδピークが−60℃超−40℃以下の範囲にあり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び/又は(c)が、−20〜80℃に結晶化のピークを有し、かつ、0.1〜10J/gの結晶化熱量を有し、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)が、−20〜80℃以外の位置に結晶化のピークを有しておらず、かつ、0.1J/g未満10J/g超の結晶化熱量を有しておらず、
前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量の質量比〔(b)/(c)〕が90/10〜10/90であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量との合計に対する前記ポリプロピレン系樹脂(a)の含有量の質量比〔(a)/((b)+(c))〕が10/90〜90/10である、樹脂組成物。
【請求項6】
前記水素化ブロック共重合体(c)が−20〜80℃に結晶化のピークを有し、かつ、0.1〜10J/gの結晶化熱量を有する、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の両方が−20〜80℃に結晶化のピークを有し、かつ、0.1〜10J/gの結晶化熱量を有する、請求項5又は6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量の質量比〔(b)/(c)〕が75/25〜40/60である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリプロピレン系樹脂(a)が、プロピレン含有量を98質量%以下とするプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
広角X線回折測定における、散乱角(2θ)15°の回折ピーク強度(I(15))と散乱角(2θ)の14°回折ピーク強度(I(14))との強度比(I(14)/I(15))が0.1以上1.4未満である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
クロス分別クロマトグラフィーで測定した−20℃以下の積分溶出量が全容量の0.1%以上20%未満であり、−20℃超60℃未満の範囲の積分溶出量が全容量の8%以上85%未満であり、60℃以上150℃以下の範囲の積分溶出量が全容量の8%以上85%未満である請求項1乃至10のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
クロス分別クロマトグラフィーで測定した10℃以上60℃未満の範囲の溶出成分の分子量分布(Mw/Mn)が1.50以下である請求項1乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、成形体。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、シート。
【請求項15】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、一般的に耐薬品性、機械的特性に優れているため、包装材料、機械部品、自動車部品など広範囲に使用されている。また、最近、環境問題に対する必要性から非ハロゲン系の透明高分子材料の開発が進んでおり、特にチューブ、シート、及びフィルム分野においては、ポリプロピレン系樹脂が使用され、用途に合わせてポリプロピレン系樹脂を軟質化、透明化等させる要求が出ている。
【0003】
上記の要求に対して、例えば、特許文献1〜2では、ポリプロピレン系樹脂と特定の水添ブロック共重合体2種を含む樹脂組成物が提案されている。特許文献1に記載の樹脂組成物は、透明性、低温特性及び成形加工性に優れるとされており、特許文献2に記載の樹脂組成物は、ヒートシール性、柔軟性、透明性、耐衝撃性及び低べたつき性のバランスに優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−106200号公報
【特許文献2】国際公開第2015/137355号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食品用包装分野、衣料用包装分野、並びに輸液チューブ及び輸液バック等の医療分野に用いられるポリプロピレン系樹脂組成物の成形体には、柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温における耐衝撃性(以下、「低温衝撃性」ともいう。)等の各特性のバランスが良好であることが求められる。しかしながら、特許文献1〜2に記載されているような水添ジエン系重合体及びそれを用いて得られるポリプロピレン系樹脂組成物は、低温衝撃性、柔軟性、透明性及び低べたつき性等の各特性のバランスにおいて改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、成形体とした際の柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性のバランスに優れる、樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、ポリプロピレン系樹脂と、特定の構成を有する水素化ブロック共重合体(b)及び(c)とを特定量用いることによって上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下のとおりである。
[1]
ポリプロピレン系樹脂(a)と、水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)と、を含み、
前記水素化ブロック共重合体(b)が、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(S)を分子中に含む水素化ブロック共重合体であり、
前記水素化ブロック共重合体(c)が、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B2)及びビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(S)を分子中に含む水素化ブロック共重合体であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び/又は(c)が、更に共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(C)を分子中に含む水素化ブロック共重合体であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)において、前記重合体ブロック(C)の含有量が20質量%以下であり、前記重合体ブロック(B1)の含有量が73〜97質量%であり、前記重合体ブロック(S)の含有量が1〜15質量%であり、
前記水素化ブロック共重合体(c)において、前記重合体ブロック(C)の含有量が20質量%以下であり、前記重合体ブロック(B2)の含有量が73〜97質量%であり、前記重合体ブロック(S)の含有量が1〜15質量%であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の合計100質量%に対して、前記重合体ブロック(C)の合計量が1〜20質量%であり、前記重合体ブロック(C)及び(S)の合計量が3〜27質量%であり、
前記重合体ブロック(C)の水素化前のビニル結合量が1mol%以上25mol%以下であり、前記重合体ブロック(B1)の水素化前のビニル結合量が60mol%超100mol%以下であり、前記重合体ブロック(B2)の水素化前のビニル結合量が40mol%以上60mol%以下であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の水素化率が、それぞれ、80mol%以上であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量の質量比〔(b)/(c)〕が90/10〜10/90であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量との合計に対する前記ポリプロピレン系樹脂(a)の含有量の質量比〔(a)/((b)+(c))〕が10/90〜90/10である、樹脂組成物。
[2]
前記水素化ブロック共重合体(b)及び/又は(c)が、更に共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B3)を分子末端に含む水素化ブロック共重合体であり、
前記重合体ブロック(B3)の水素化前のビニル結合量が40mol%以上100mol%以下であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の合計100質量%に対する前記重合体ブロック(B3)の合計量が、1〜10質量%である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]
前記水素化ブロック共重合体(c)が、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(C)を分子中に含む水素化ブロック共重合体である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の両方が、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(C)を分子中に含む水素化ブロック共重合体である、[1]乃至[3]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[5]
ポリプロピレン系樹脂(a)と、水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)と、を含み、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)が、ビニル芳香族化合物単位及び共役ジエン化合物単位を分子中に含み、
前記水素化ブロック共重合体(b)において前記ビニル芳香族化合物単位の合計量が、1〜15質量%であり、
前記水素化ブロック共重合体(c)において前記ビニル芳香族化合物単位の合計量が、1〜15質量%であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の水素化率が、それぞれ、80mol%以上であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)中、前記共役ジエン化合物単位の合計100mol%に対するブチレン量及び/又はプロピレン量が60mol%超100mol%以下であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)の動的粘弾性測定(1Hz)により得られるtanδピークが−40℃超10℃以下の範囲にあり、
前記水素化ブロック共重合体(c)中の前記共役ジエン化合物単位の合計100mol%に対して、ブチレン量及び/又はプロピレン量が40mol%以上60mol%以下であり、
前記水素化ブロック共重合体(c)の動的粘弾性測定(1Hz)により得られるtanδピークが−60℃超−40℃以下の範囲にあり、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び/又は(c)が、−20〜80℃に結晶化のピークを有し、かつ、0.1〜10J/gの結晶化熱量を有し、
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)が、−20〜80℃以外の位置に結晶化のピークを有しておらず、かつ、0.1J/g未満10J/g超の結晶化熱量を有しておらず、
前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量の質量比〔(b)/(c)〕が90/10〜10/90であり、
前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量との合計に対する前記ポリプロピレン系樹脂(a)の含有量の質量比〔(a)/((b)+(c))〕が10/90〜90/10である、樹脂組成物。
[6]
前記水素化ブロック共重合体(c)が−20〜80℃に結晶化のピークを有し、かつ、0.1〜10J/gの結晶化熱量を有する、[5]に記載の樹脂組成物。
[7]
前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の両方が−20〜80℃に結晶化のピークを有し、かつ、0.1〜10J/gの結晶化熱量を有する、[5]又は[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]
前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量の質量比〔(b)/(c)〕が75/25〜40/60である、[1]乃至[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9]
前記ポリプロピレン系樹脂(a)が、プロピレン含有量を98質量%以下とするプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体を含む、[1]乃至[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10]
広角X線回折測定における、散乱角(2θ)15°の回折ピーク強度(I(15))と散乱角(2θ)の14°回折ピーク強度(I(14))との強度比(I(14)/I(15))が0.1以上1.4未満である、[1]乃至[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11]
クロス分別クロマトグラフィーで測定した−20℃以下の積分溶出量が全容量の0.1%以上20%未満であり、−20℃超60℃未満の範囲の積分溶出量が全容量の8%以上85%未満であり、60℃以上150℃以下の範囲の積分溶出量が全容量の8%以上85%未満である[1]乃至[10]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[12]
クロス分別クロマトグラフィーで測定した10℃以上60℃未満の範囲の溶出成分の分子量分布(Mw/Mn)が1.50以下である[1]乃至[11]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[13]
[1]乃至[12]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、成形体。
[14]
[1]乃至[12]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、シート。
[15]
[1]乃至[12]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、チューブ。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る樹脂組成物によれば、成形体とした際の柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性のバランスを良好なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂(a)と、水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)と、を含み、前記水素化ブロック共重合体(b)が、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(S)を分子中に含む水素化ブロック共重合体であり、前記水素化ブロック共重合体(c)が、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B2)及びビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(S)を分子中に含む水素化ブロック共重合体であり、前記水素化ブロック共重合体(b)及び/又は(c)が、更に共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(C)を分子中に含む水素化ブロック共重合体であり、前記水素化ブロック共重合体(b)において、前記重合体ブロック(C)の含有量が20質量%以下であり、前記重合体ブロック(B1)の含有量が73〜97質量%であり、前記重合体ブロック(S)の含有量が1〜15質量%であり、前記水素化ブロック共重合体(c)において、前記重合体ブロック(C)の含有量が20質量%以下であり、前記重合体ブロック(B2)の含有量が73〜97質量%であり、前記重合体ブロック(S)の含有量が1〜15質量%であり、前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の合計100質量%に対して、前記重合体ブロック(C)の合計量が1〜20質量%であり、前記重合体ブロック(C)及び(S)の合計量が3〜27質量%であり、前記重合体ブロック(C)の水素化前のビニル結合量が1mol%以上25mol%以下であり、前記重合体ブロック(B1)の水素化前のビニル結合量が60mol%超100mol%以下であり、前記重合体ブロック(B2)の水素化前のビニル結合量が40mol%以上60mol%以下であり、前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の水素化率が、それぞれ、80mol%以上であり、前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量の質量比〔(b)/(c)〕が90/10〜10/90であり、前記水素化ブロック共重合体(b)と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量との合計に対する前記ポリプロピレン系樹脂(a)の含有量の質量比〔(a)/((b)+(c))〕が10/90〜90/10である。
上述のように構成されているため、本実施形態に係る樹脂組成物は、成形体とした際の柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性のバランスに優れる。
本明細書中、水素化ブロック共重合体(b)及び水素化ブロック共重合体(c)を併せて、単に「水素化ブロック共重合体」ともいう。
【0012】
なお、上述した本実施形態の樹脂組成物は、次のように特定することもできる。すなわち、本実施形態の樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂(a)と、水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)と、を含み、前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)が、ビニル芳香族化合物単位及び共役ジエン化合物単位を分子中に含み、前記水素化ブロック共重合体(b)において前記ビニル芳香族化合物単位の合計量が、1〜15質量%であり、前記水素化ブロック共重合体(c)において前記ビニル芳香族化合物単位の合計量が、1〜15質量%であり、前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の水素化率が、それぞれ、80mol%以上であり、前記水素化ブロック共重合体(b)中、前記共役ジエン化合物単位の合計100mol%に対するブチレン量及び/又はプロピレン量が60mol%超100mol%以下であり、前記水素化ブロック共重合体(b)の動的粘弾性測定(1Hz)により得られるtanδピークが−40℃超10℃以下の範囲にあり、前記水素化ブロック共重合体(c)中の前記共役ジエン化合物単位の合計100mol%に対して、ブチレン量及び/又はプロピレン量が40mol%以上60mol%以下であり、前記水素化ブロック共重合体(c)の動的粘弾性測定(1Hz)により得られるtanδピークが−60℃超−40℃以下の範囲にあり、前記水素化ブロック共重合体(b)及び/又は(c)が、−20〜80℃に結晶化のピークを有し、かつ、0.1〜10J/gの結晶化熱量を有し、前記水素化ブロック共重合体(b)及び(c)が、−20〜80℃以外の位置に結晶化のピークを有しておらず、かつ、0.1J/g未満10J/g超の結晶化熱量を有しておらず、前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量の質量比〔(b)/(c)〕が90/10〜10/90であり、前記水素化ブロック共重合体(b)の含有量と前記水素化ブロック共重合体(c)の含有量との合計に対する前記ポリプロピレン系樹脂(a)の含有量の質量比〔(a)/((b)+(c))〕が10/90〜90/10である。
上記のように特定される樹脂組成物も、成形体とした際の柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性のバランスに優れる。
【0013】
<ポリプロピレン系樹脂(a)>
ポリプロピレン系樹脂(a)としては、特に限定されないが、例えば、ランダムポリプロピレン樹脂、ホモポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン樹脂が挙げられる。
【0014】
ここで、ランダムポリプロピレンにおける「ランダム」とは、プロピレンとプロピレン以外のモノマーを共重合したもので、プロピレン以外のモノマーがプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれ、実質的にプロピレン以外のモノマーが連鎖しないものをいう。
【0015】
ランダムポリプロピレンとしては、プロピレン単位の含有量が99質量%未満であれば特に限定されない。ランダムポリプロピレンの好適な例としては、プロピレンとエチレンのランダム共重合体又はプロピレンとα−オレフィンのランダム共重合体などが挙げられ、ポリプロピレン系樹脂(a)が、プロピレン含有量を98質量%以下とするプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体を含むことがより好ましい。このようなポリプロピレン系樹脂(a)を用いる場合、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性、低温衝撃性がより良好となる傾向にある。
【0016】
α−オレフィンとしては、以下に限定されないが、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。好ましくは、炭素数2〜8のα−オレフィンであり、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンが挙げられる。これらのα−オレフィンは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ランダムポリプロピレンも1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
樹脂組成物を成形体とした際の柔軟性、透明性、異方性、低温衝撃性の観点から、ランダムポリプロピレンの中でも、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体及びプロピレン−エチレン−1−ブテン三元ランダム共重合体からなる群より選択される少なくとも1つを用いることがより好ましい。
【0018】
得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性、低温衝撃性の観点から、ランダムポリプロピレンがプロピレンとエチレンのランダム共重合体又はプロピレンと炭素数4〜12のα−オレフィンのランダム共重合体であり、ランダムポリプロピレン中の、エチレン又はα−オレフィン単位の含有量は1質量%超40質量%未満が好ましく、プロピレン単位の含有量が60質量%以上99質量%未満であることが好ましい。上記同様の観点から、エチレン又はα−オレフィン単位の含有量は2質量%超30質量%未満がより好ましく、2.5質量%以上25質量%未満が更に好ましく、3質量%以上20質量%未満がより更に好ましい。また、プロピレン単位の含有量は70質量%以上98質量%未満がより好ましく、75質量%以上97.5質量%未満が更に好ましく、80質量%以上97質量%未満がより更に好ましい。
【0019】
ランダムポリプロピレンのメルトフローレート(MFR;230℃、ISO 1133に準拠)は、得られる樹脂組成物の加工性と低べたつき性の観点から、1〜30g/10分が好ましく、1〜25g/10分がより好ましく、2〜20g/10分が更に好ましく、3〜15g/10分がより更に好ましい。
【0020】
ランダムポリプロピレンを製造するに際して使用される触媒については特に限定されないが、例えば、立体規則性触媒を使用する重合法が好ましい。立体規則性触媒としては、以下に限定されないが、例えば、チーグラー触媒やメタロセン触媒などが挙げられる。これら触媒の中でも、樹脂組成物を成形体とした際の柔軟性、透明性、低べたつき性、低温衝撃性の観点から、メタロセン触媒が好ましい。
【0021】
樹脂組成物を成形体とした際の低べたつき性、引裂強、低温衝撃性、耐キンク性の観点から、ランダムポリプロピレンの分子量分布(Mw/Mn)は3.5以下であることが好ましい。Mw/Mnは3.0以下であることがより好ましく、2.8以下であることが更に好ましい。下限値は特に限定されないが1.5以上が好ましい。とりわけ、ランダムポリプロピレンが、メタロセン系触媒により重合されたものであり、かつ、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以上3.5以下であることが好ましい。なお、ランダムポリプロピレンの分子量分布は、GPCによる測定で得られる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比率から求められる。
【0022】
<水素化ブロック共重合体>
本実施形態の樹脂組成物は、構成が異なる2種類の水素化ブロック共重合体(水素化ブロック共重合体(b)及び水素化ブロック共重合体(c))を含むことにより、優れた柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性を発現することに寄与する。本実施形態における水素化ブロック共重合体(b)及び水素化ブロック共重合体(c)は、いずれも、共役ジエン化合物に由来する単位及び芳香族ビニル化合物に由来する単位を含む重合体ブロックを分子中に含むものである。
【0023】
本実施形態において、水素化ブロック共重合体の各重合体ブロックに使用しうる共役ジエン化合物は、1対の共役二重結合を有するジオレフィンである。ジオレフィンとしては、以下に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル―1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル―1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル―1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、及びファルネセンが挙げられる。特に一般的なジオレフィンとしては、1,3−ブタジエン、及びイソプレンが挙げられる。これらは一種のみならず二種以上を使用してもよい。
【0024】
本実施形態において、水素化ブロック共重合体の各重合体ブロックに使用しうる芳香族ビニル化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレンが好ましく用いられる。特に好ましくはスチレンである。重合体ブロック(S)は、1種の芳香族ビニル化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上から構成されていてもよい。
【0025】
(水素化ブロック共重合体(b))
本実施形態における水素化ブロック共重合体(b)は、分子中に、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B1)(以下、単に「重合体ブロック(B1)」とも表記する。)と、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(S)(以下、単に「重合体ブロック(S)」とも表記する。)と、を含む。すなわち、水素化ブロック共重合体(b)は、ビニル芳香族化合物単位及び共役ジエン化合物単位を分子中に含むものである。
本明細書において、「主体とする」とは、対象の単量体単位を、対象の重合体ブロック中に、60質量%以上含むことをいう。
得られる成形体の柔軟性、透明性、低温衝撃性の観点から、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B1)における共役ジエン化合物の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。また、得られる成形体の低べたつき性、低温衝撃性の観点から、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(S)におけるビニル芳香族化合物の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
共役ジエン化合物の含有量及びビニル芳香族化合物の含有量は、核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)によって測定できる。
本明細書において、「共役ジエン化合物単位」とは、水素化ブロック共重合体を構成する単位であって、共役ジエン化合物の単量体に由来する構成単位を意味し、「芳香族ビニル化合物単位」とは、水素化ブロック共重合体を構成する単位であって、芳香族ビニル化合物の単量体に由来する構成単位を意味する。
【0026】
本実施形態における水素化ブロック共重合体に含まれる各重合体ブロックの「水素化前のビニル結合量」とは、水素添加前の共役ジエンの1,2−結合、3,4−結合及び1,4−結合の結合様式で組み込まれているうちの、1,2−結合及び3,4−結合で組み込まれているものの割合(mol%)を意味する。水素化前のビニル結合量(以下、単に「ビニル結合量」ともいう。)は核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)によって測定でき、具体的には、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0027】
重合体ブロック(B1)の水素化前のビニル結合量は、得られる成形体の柔軟性及び透明性の観点から、60mol%超100mоl%以下である。同様の観点から、重合体ブロック(B1)の水素化前のビニル結合量は、好ましくは65〜95mol%であり、より好ましくは70〜90mol%である。
また、上記ビニル結合量は、極性化合物等、ルイス塩基、エーテル、アミン等のビニル化剤の使用により制御することができる。
【0028】
本実施形態において、水素化ブロック共重合体(c)が後述する重合体ブロック(C)を分子中に含まない場合、水素化ブロック共重合体(b)は、更に重合体ブロック(C)を分子中に含むものである。なお、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性の観点から、重合体ブロック(C)は水素化ブロック共重合体(c)に含むことが好ましく、重合体ブロック(C)は水素化ブロック共重合体(b)及び水素化ブロック共重合体(c)の両方に含むことが更に好ましい。
【0029】
重合体ブロック(C)は、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックであり、そのビニル結合量は、ポリプロピレン樹脂への分散性の観点並びに得られる樹脂組成物の成形体の柔軟性、透明性及び低べたつき性の観点から、1〜25mоl%である。同様の観点から、重合体ブロック(C)のビニル結合量は、好ましくは3〜22mol%であり、より好ましくは5〜20mol%である。
上記ビニル結合量は、極性化合物等、ルイス塩基、エーテル、アミン等のビニル化剤の使用により制御することができる。
【0030】
水素化ブロック共重合体(b)の水素化率、すなわち、水素化ブロック共重合体(b)中に含まれる全共役ジエン化合物単位の水素化率は、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性の観点から、80mol%以上であり、好ましくは85mol%以上であり、より好ましくは90mol%以上、更に好ましくは95mol%以上である。
水素化ブロック共重合体(b)の共役ジエン単量体単位中に含まれる全不飽和基単位の水素化率は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
水素添加率は、例えば、水素添加時の触媒量によって制御することができ、水素添加速度は、例えば、水素添加時の触媒量、水素フィード量、圧力及び温度等によって制御することができる。
【0031】
水素化ブロック共重合体(b)において、共役ジエン化合物単位の合計100mol%に対して、ブチレン量及び/又はプロピレン量は、得られる成形体の柔軟性及び透明性の観点の観点から、60mol%超100mol%以下であり、好ましくは65〜95mol%であり、より好ましくは70〜90mol%である。上記のブチレン量及び/又はプロピレン量は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
なお、上記のブチレン量及び/又はプロピレン量は、極性化合物等、ルイス塩基、エーテル、アミン等のビニル化剤の使用、及び、水素化率により制御することができる。
【0032】
本実施形態において、水素化ブロック共重合体(b)を動的粘弾性測定(1Hz)に供することにより得られるtanδピークは、−40℃超10℃以下の範囲にある。上記tanδピークは、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性の観点から、−37〜0℃の範囲にあることが好ましく、−35〜−10℃の範囲にあることがより好ましい。上記tanδピークは、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
なお、上記tanδピークは、極性化合物等、ルイス塩基、エーテル、アミン等のビニル化剤の使用、及び、水素化率により制御することができる。
【0033】
本実施形態において、水素化ブロック共重合体(c)が後述する特定の結晶化のピーク及び結晶化熱量を有さない場合、水素化ブロック共重合体(b)は、特定の結晶化のピーク及び結晶化熱量を有するものである。さらに、水素化ブロック共重合体(b)及び(c)が、−20〜80℃以外の位置に結晶化のピークを有しておらず、かつ、0.1J/g未満10J/g超の結晶化熱量を有していないことが必要である。
なお、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性の観点から、水素化ブロック共重合体(c)が特定の結晶化のピーク及び結晶化熱量を有することが好ましく、水素化ブロック共重合体(b)及び水素化ブロック共重合体(c)の両方が、特定の結晶化のピーク及び結晶化熱量を有することが更に好ましい。
【0034】
上述した特定の結晶化のピーク及び結晶化熱量は、得られる成形体の柔軟性、透明性、低べたつき性の観点から、−20〜80℃に結晶化のピークを有し、かつ、0.1〜10J/gの結晶化熱量を有するものとする。同様の観点から、上記結晶化ピークがある温度範囲は、−10〜70℃であることが好ましく、0〜60℃であることがより好ましい。また、上記結晶化熱量は、1.0〜7.5J/gであることが好ましく、1.5〜5J/gであることがより好ましい。
結晶化のピークがある温度範囲、及び結晶化熱量は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
上記結晶化ピーク温度範囲、結晶化熱量は、重合体ブロック(C)の含有量、及び、極性化合物等、ルイス塩基、エーテル、アミン等のビニル化剤の使用、水素化率により制御することができる。
【0035】
本実施形態において、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性の観点から、水素化ブロック共重合体(b)は、次の重合体ブロック(B3)を分子末端に含むものであることが好ましい。ここで、重合体ブロック(B3)は、共役ジエン化合物を主体とし、ビニル結合量が40mol%以上100mol%以下であるものとする。
【0036】
本実施形態の水素化ブロック共重合体(b)の構造は、特に限定されないが、例えば、下記式により表されるような構造を有するものが挙げられる。
【0037】
(C−B1)−S
(C−B1−S)
(C−B1−S)−(B3)
(C−B1−S−(B3))
(C−B1−S)−X
(C−B1−S−(B3))−X
(上式において、C、B1、S、B3はそれぞれ、重合体ブロック(C)、(B1)、(S)及び後述する(B3)を表す。複数存在する場合は異なっていても同じでもよい。nは1以上で、好ましくは1〜3の整数である。mは2以上を示し、好ましくは2〜6の整数である。Xはカップリング剤残基又は多官能開始剤残基を示す。)
特にC−B1−S、C−B1−S−(B3)の構造式で表される重合体であることが好ましい。
【0038】
(水素化ブロック共重合体(c))
本実施形態における水素化ブロック共重合体(c)は、分子中に、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B2)(以下、単に「重合体ブロック(B2)」とも表記する。)と、重合体ブロック(S)と、を含む。すなわち、水素化ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族化合物単位及び共役ジエン化合物単位を分子中に含むものである。なお、水素化ブロック共重合体(c)における重合体ブロック(S)として、水素化ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(S)を適用できる。
得られる成形体の柔軟性、透明性及び低温衝撃性の観点から、重合体ブロック(B2)における共役ジエン化合物の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。また、得られる成形体の低べたつき性及び低温衝撃性の観点から、重合体ブロック(S)におけるビニル芳香族化合物の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
共役ジエン化合物の含有量及びビニル芳香族化合物の含有量は、核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)によって測定できる。
【0039】
重合体ブロック(B2)のビニル結合量は、得られる成形体の低温衝撃性の観点から、40mol%以上60mоl%以下である。同様の観点から、重合体ブロック(B2)のビニル結合量は、好ましくは42〜58mol%であり、より好ましくは45〜55mol%である。
また、上記ビニル結合量は、極性化合物等、ルイス塩基、エーテル、アミン等のビニル化剤の使用により制御することができる。
【0040】
本実施形態において、水素化ブロック共重合体(b)が重合体ブロック(C)を分子中に含まない場合、水素化ブロック共重合体(c)は、更に重合体ブロック(C)を分子中に含むものである。なお、前述した観点から、重合体ブロック(C)は水素化ブロック共重合体(c)に含むことが好ましく、重合体ブロック(C)は水素化ブロック共重合体(b)及び水素化ブロック共重合体(c)の両方に含むことが更に好ましい。
【0041】
水素化ブロック共重合体(c)の水素化率、すなわち、水素化ブロック共重合体(c)中に含まれる全共役ジエン化合物単位の水素化率は、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性の観点から、80mol%以上であり、好ましくは85mol%以上であり、より好ましくは90mol%以上、更に好ましくは95mol%以上である。
水素化ブロック共重合体(c)の水素化率の測定及び制御については、水素化ブロック共重合体(b)について説明したとおりに行うことができる。
【0042】
水素化ブロック共重合体(c)において、共役ジエン化合物単位の合計100mol%に対して、ブチレン量及び/又はプロピレン量は、得られる成形体の低べたつき性及び低温衝撃性の観点から、40mol%以上60mol%以下であり、好ましくは42〜58mol%であり、より好ましくは45〜55mol%である。
水素化ブロック共重合体(c)のブチレン量及び/又はプロピレン量の測定及び制御については、水素化ブロック共重合体(b)について説明したとおりに行うことができる。
【0043】
本実施形態において、水素化ブロック共重合体(c)を動的粘弾性測定(1Hz)に供することにより得られるtanδピークは、−60℃超−40℃以下の範囲にある。上記tanδピークは、得られる成形体の低べたつき性及び低温衝撃性の観点から、−58〜−42℃の範囲にあることが好ましく、−55〜−45℃の範囲にあることがより好ましい。
水素化ブロック共重合体(c)のtanδピークの測定及び制御については、水素化ブロック共重合体(b)について説明したとおりに行うことができる。
【0044】
本実施形態において、水素化ブロック共重合体(b)が前述した特定の結晶化のピーク及び結晶化熱量を有さない場合、水素化ブロック共重合体(c)は、特定の結晶化のピーク及び結晶化熱量を有するものである。さらに、水素化ブロック共重合体(b)及び(c)が、−20〜80℃以外の位置に結晶化のピークを有しておらず、かつ、0.1J/g未満10J/g超の結晶化熱量を有していないことが必要である。
なお、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性の観点から、水素化ブロック共重合体(c)が特定の結晶化のピーク及び結晶化熱量を有することが好ましく、水素化ブロック共重合体(b)及び水素化ブロック共重合体(c)の両方が、特定の結晶化のピーク及び結晶化熱量を有することが更に好ましい。
【0045】
本実施形態において、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性の観点から、水素化ブロック共重合体(c)は、重合体ブロック(B3)を分子末端に含むものであることが好ましい。ここで、重合体ブロック(B3)は、共役ジエン化合物を主体とし、ビニル結合量が40mol%以上100mol%以下であるものとする。すなわち、水素化ブロック共重合体(c)における重合体ブロック(B3)としては、水素化ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(B3)を適用できる。
【0046】
本実施形態の水素化ブロック共重合体(c)の構造は、特に限定されないが、例えば、下記式により表されるような構造を有するものが挙げられる。
【0047】
(C−B2)−S
(C−B2−S)
(C−B2−S)−(B3)
(C−B2−S−(B3))
(C−B2−S)−X
(C−B2−S−(B3))−X
(上式において、C、B2、S、B3はそれぞれ、重合体ブロック(C)、(B2)、(S)及び後述する(B3)を表す。複数存在する場合は異なっていても同じでもよい。nは1以上で、好ましくは1〜3の整数である。mは2以上を示し、好ましくは2〜6の整数である。Xはカップリング剤残基又は多官能開始剤残基を示す。)
特にC−B2−S、C−B2−S−(B3)の構造式で表される重合体であることが好ましい。
【0048】
水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の重量平均分子量(Mw)(以下、「Mw」ともいう。)は、水素化ブロック共重合体の耐ブロッキング性の観点、及び得られるポリプロピレン樹脂組成物の成形体の加工性、柔軟性、透明性、低べたつき性の観点から、10万〜30万であることが好ましく、13万〜28万であることがより好ましく、15万〜26万であることが更に好ましい。
【0049】
水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう。)による測定で得られるクロマトグラムのピークの分子量を、市販の標準ポリスチレンの測定から求めた検量線(標準ポリスチレンのピーク分子量を使用して作成)に基づいて求めた重量平均分子量(Mw)である。水素化ブロック共重合体の分子量分布も、同様にGPCによる測定から求めることができ、分子量分布は重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比率である。
【0050】
水素化ブロック共重合体(b)及び(c)のGPCで測定される分子量分布(Mw/Mn)は1.30以下であることが好ましく、より好ましくは1.20以下、さらに好ましくは1.15以下であり、よりさらに好ましくは1.10以下である。
【0051】
水素化ブロック共重合体(b)及び(c)のメルトフローレート(MFR;ISO 1133に準拠)は、得られるポリプロピレン樹脂組成物成形体の加工性、柔軟性、透明性及び低べたつき性等の観点から、0.1〜12g/10分の範囲が好ましく、0.5〜10g/10分以下であることがより好ましく、1.0〜8g/10分以下であることがさらに好ましく、1.5〜5.0g/10以下であることがよりさらに好ましい。
【0052】
(水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の製造方法)
本実施形態における水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、有機溶媒中で、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として重合を行いブロック共重合体を得た後、水素化反応を行うことにより製造することができる。重合の態様としては、バッチ重合であっても連続重合であっても、或いはそれらの組み合わせであってもよい。分子量分布が狭く、高い強度を有するブロック共重合体を得る観点からは、バッチ重合方法が好ましい。
【0053】
重合温度は一般に0〜150℃であり、20〜120℃であることが好ましく、40〜100℃であることがより好ましく、55〜65℃であることがさらに好ましい。重合時間は目的とする重合体によって異なるが、通常は24時間以内であり、0.1〜10時間であることが好ましい。分子量分布が狭く、高い強度を有するブロック共重合体を得る観点からは、0.5〜3時間であることがより好ましい。重合系の雰囲気は、窒素及び溶媒を液相に維持するのに十分な圧力の範囲であればよく、特に限定されるものではない。重合系内に、開始剤及びリビングポリマーを不活性化させるような不純物、例えば水、酸素、炭酸ガスなどが存在しないことが好ましい。
【0054】
有機溶媒の例としては、特に限定されないが、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、シクロへプタン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0055】
重合開始剤である有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物が好ましい。有機リチウム化合物としては、有機モノリチウム化合物、有機ジリチウム化合物、有機ポリリチウム化合物が用いられる。有機リチウム化合物の具体例としては、以下に限定されないが、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、ブタジエニルリチウム、及びイソプロペニルジリチウムなどが挙げられる。この中でも、重合活性の点でn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムが好ましい。
【0056】
重合開始剤である有機アルカリ金属化合物の使用量は、目的とするブロック共重合体の分子量によるが、一般的には0.01〜0.5phm(単量体100質量部当たりに対する質量部)の範囲であることが好ましく、0.03〜0.3phmの範囲であることがより好ましく、0.05〜0.15phmの範囲であることが更により好ましい。
【0057】
水素化ブロック共重合体のビニル結合量は、ルイス塩基、例えばエーテル、アミンなどの化合物をビニル化剤として使用することで調節できる。ビニル化剤の使用量は、目的とするビニル結合量によって調整することができる。また、ビニル化剤及び後述する金属アルコキシドを2以上の条件に分けて添加することにより、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック中に、ビニル結合量の異なる重合体ブロックを製造することができる。
【0058】
ビニル化剤の例としては、以下に限定されないが、エーテル化合物、酸素原子を2個以上有するエーテル系化合物、及び第3級アミン系化合物等が挙げられる。
【0059】
第3級アミン系化合物としては、例えば、ピリジン、N,N,N´,N´−テトラメチルエチレンジアミン、トリブチルアミン、テトラメチルプロパンジアミン、1,2−ジピペリジノエタン、ビス[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]エーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。第3級アミン化合物としては、アミンを2個有する化合物が好ましい。さらに、それらの中でも、分子内で対称性を示す構造を有するものがより好ましく、N,N,N´,N´−テトラメチルエチレンジアミンやビス[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]エーテルや1,2−ジピペリジノエタンがさらに好ましい。
【0060】
本実施形態においては、上述したビニル化剤、有機リチウム化合物、及びアルカリ金属アルコキシドの共存下、水素化ブロック共重合体の共重合を行ってもよい。ここで、アルカリ金属アルコキシドとは、一般式MOR(式中、Mはアルカリ金属、Rはアルキル基である)で表される化合物である。
【0061】
アルカリ金属アルコキシドのアルカリ金属としては、高いビニル結合量、狭い分子量分布、高い重合速度、及び高いブロック率の観点から、ナトリウム又はカリウムであることが好ましい。アルカリ金属アルコキシドとしては、以下に限定されるものではないが、好ましくは、炭素数2〜12のアルキル基を有するナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシドであり、より好ましくは、炭素数3〜6のアルキル基を有するナトリウムアルコキシドやカリウムアルコキシドであり、さらに好ましくは、ナトリウム−t−ブトキシド、ナトリウム−t−ペントキシド、カリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−ペントキシドである。この中でも、ナトリウムアルコキシドであるナトリウム−t−ブトキシド、ナトリウム−t−ペントキシドがよりさらに好ましい。
【0062】
本実施形態における水素化ブロック共重合体の重合工程において、ビニル化剤、有機リチウム化合物、及びアルカリ金属アルコキシドの共存下、重合を行う場合、ビニル化剤と有機リチウム化合物とのモル比(ビニル化剤/有機リチウム化合物)、及びアルカリ金属アルコキシドと有機リチウム化合物とのモル比(アルカリ金属アルコキシド/有機リチウム化合物)を、下記モル比で共存させることが好ましい。
ビニル化剤/有機リチウム化合物が0.2〜3.0
アルカリ金属アルコキシド/有機リチウム化合物が0.01〜0.3
【0063】
ビニル化剤/有機リチウム化合物のモル比は、高いビニル結合量、高い重合速度の観点から0.2以上とし、狭い分子量分布、かつ高い水素化活性を得る観点から3.0未満とすることが好ましい。また、アルカリ金属アルコキシド/有機リチウム化合物のモル比は、高いビニル結合量、高い重合速度、及び高いブロック率の観点から0.01以上とし、狭い分子量分布、かつ高い水素化活性を得る観点から0.3以下とすることが好ましい。これにより、重合速度の向上が図られ、目的とする水素化ブロック共重合体のビニル結合量を高くできるとともに分子量分布を狭くでき、さらにはブロック率が向上する傾向にある。その結果、ポリプロピレン系樹脂組成物に付与する性能、すなわち、柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性がより良好となる傾向にある。
【0064】
重合工程における、ビニル化剤/有機リチウム化合物のモル比は、高いビニル結合量及び高い重合速度の観点から、0.8以上が好ましく、狭い分子量分布及び高い水素化活性の観点から、2.5以下が好ましく、1.0以上2.0以下の範囲がより好ましい。
【0065】
また、アルカリ金属アルコキシド/有機リチウム化合物のモル比は、高いビニル結合量、高い重合速度及び高いブロック率の観点から0.02以上が好ましく、狭い分子量分布や高い水素化活性の観点から0.2以下が好ましく、0.03以上0.1以下がより好ましく、0.03以上0.08以下がさらに好ましい。
【0066】
さらに、アルカリ金属アルコキシド/ビニル化剤のモル比は、高いビニル結合量、高い重合速度及び高いブロック率の観点から、0.010以上であることが好ましく、狭い分子量分布を実現し、かつ高い水素化活性を得る観点から0.100以下が好ましく、0.012以上0.080以下がより好ましく、0.015以上0.06以下がさらに好ましく、0.015以上0.05以下がよりさらに好ましい。
【0067】
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック中のビニル結合量の異なるブロックを製造する手法として、ビニル化剤に対する失活剤を用いることもできる。失活剤としては、アルキル金属化合物が挙げられ、一つのアルキル置換基あたり1から20個の炭素原子をもつアルキルアルミニウム、亜鉛及びマグネシウム、ならびにこれらの混合物から選択される。
【0068】
本実施形態においては、水素化の方法は特に限定されないが、例えば、上記で得られたブロック共重合体を、水素化触媒の存在下に、水素を供給し、水素添加することにより、共役ジエン化合物単位の二重結合残基が水素添加された水素化ブロック共重合体を得ることができる。
【0069】
水素化ブロック共重合体をペレット化することにより、水素化ブロック共重合体のペレットを製造することができる。ペレット化の方法としては、例えば、一軸又は二軸押出機から水素化ブロック共重合体をストランド状に押出して、ダイ部前面に設置された回転刃により、水中で切断する方法;一軸又は二軸押出機から水素化ブロック共重合体をストランド状に押出して、水冷又は空冷した後、ストランドカッターにより切断する方法;オープンロール、バンバリーミキサーにより溶融混合した後、ロールによりシート状に成型し、更に該シートを短冊状にカットした後に、ペレタイザーにより立方状ペレットに切断する方法などが挙げられる。なお、水素化ブロック共重合体のペレット成形体の大きさ、形状は特に限定されない。
【0070】
水素化ブロック共重合体は必要に応じて好ましくはそのペレットに、ペレットブロッキングの防止を目的としてペレットブロッキング防止剤を配合することができる。ペレットブロッキング防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビスステアリルアミド、タルク、アモルファスシリカ等が挙げられる。得られるランダムポリプロピレン組成物及びそれを含むチューブ状成形体、シート状成形体の透明性の観点から、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレン、及びポリプロピレンが好ましい。好ましい量としては、水素化ブロック共重合体に対して500〜6000ppmである。より好ましい量としては、水素化ブロック共重合体に対して1000〜5000ppmである。ペレットブロッキング防止剤は、ペレット表面に付着した状態で配合されていることが好ましいが、ペレット内部にある程度含むこともできる。
【0071】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、上述したポリプロピレン系樹脂(a)と、水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)と、を特定の割合で含むものである。すなわち、本実施形態の樹脂組成物において、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性のバランス観点から、水素化ブロック共重合体(b)の含有量と水素化ブロック共重合体(c)の含有量の質量比〔(b)/(c)〕は90/10〜10/90である。同様の観点から、質量比〔(b)/(c)〕は90/10〜40/60が好ましく、より好ましくは80/20〜50/50であり、特に好ましくは75/25〜50/50である。さらに、本実施形態の樹脂組成物において、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性のバランス観点から、水素化ブロック共重合体(b)と水素化ブロック共重合体(c)の含有量との合計に対する前記ポリプロピレン系樹脂(a)の含有量の質量比〔(a)/((b)+(c))〕は10/90〜90/10である。同様の観点から、質量比〔(a)/((b)+(c))〕は15/85〜85/15が好ましく、より好ましくは20/80〜80/20である。
【0072】
本実施形態の樹脂組成物に含まれる水素化ブロック共重合体(b)及び(c)は、それぞれ、以下の構成を有するものである。
水素化ブロック共重合体(b)において、重合体ブロック(C)の含有量が20質量%以下であり、重合体ブロック(B1)の含有量が73〜97質量%であり、前記重合体ブロック(S)の含有量が1〜15質量%である。
また、水素化ブロック共重合体(c)において、重合体ブロック(C)の含有量が20質量%以下であり、重合体ブロック(B2)の含有量が73〜97質量%であり、重合体ブロック(S)の含有量が1〜15質量%である。
さらに、水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の合計100質量%に対して、前記重合体ブロック(C)の合計量が1〜20質量%であり、前記重合体ブロック(C)及び(S)の合計量が3〜27質量%である。
このような含有量となるように水素化ブロック共重合体(b)及び(c)が含まれていることにより、本実施形態の樹脂組成物は、ビニル結合量が異なる重合体ブロックを少なくとも3つ含むものであるといえる。すなわち、1〜25mol%とビニル量が低く低べたつき性に寄与する重合体ブロック(C);40mol%以上60mol%以下とビニル量が中程度であり低温衝撃性に寄与する重合体ブロック(B2);並びに60mol%超100mol%以下とビニル量が高く柔軟性、透明性、異方性に寄与する重合体ブロック(B1)を有することにより、各重合体ブロックの特性が相俟って低温衝撃性、柔軟性及び透明性のバランスに特に優れるものとなる。上記のとおり、本実施形態の樹脂組成物によれば、従来トレードオフの関係にあると考えられていた低温衝撃性及び柔軟性のバランスを、とりわけ良好なものとすることができる。
上記と同様の観点から、水素化ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(C)の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、さらに好ましくは3〜17質量%であり、よりさらに好ましくは5〜15質量%である。また、水素化ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(B1)の含有量は、78〜93質量%であることが好ましく、より好ましくは82〜90質量%である。また、水素化ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(S)の含有量は、2〜12質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜9質量%である。
上記と同様の観点から、水素化ブロック共重合体(c)における重合体ブロック(C)の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、さらに好ましくは3〜17質量%であり、よりさらに好ましくは5〜15質量%である。また、水素化ブロック共重合体(c)における重合体ブロック(B1)の含有量は、78〜93質量%であることが好ましく、より好ましくは82〜90質量%である。また、水素化ブロック共重合体(c)における重合体ブロック(S)の含有量は、2〜12質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜9質量%である。
水素化ブロック共重合体(b)及び(c)における各重合体ブロックの含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0073】
本実施形態の樹脂組成物において、得られる成形体の柔軟性、透明性、低べたつき性の観点から、水素化ブロック共重合体(b)におけるビニル芳香族化合物単位の合計量は、1〜15質量%であり、好ましくは2〜12質量%であり、より好ましくは3〜9質量%である。上記と同様の観点から、水素化ブロック共重合体(c)におけるビニル芳香族化合物単位の合計量は、1〜15質量%であり、好ましくは2〜12質量%であり、より好ましくは3〜9質量%である。
水素化ブロック共重合体(b)及び(c)における各ビニル芳香族化合物単位の合計量は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0074】
本実施形態の樹脂組成物において、得られる成形体の柔軟性、透明性、低温衝撃性の観点から、水素化ブロック共重合体(b)の動的粘弾性測定(1Hz)により得られるtanδピークが−40℃超10℃以下の範囲にあり、かつ、水素化ブロック共重合体(c)の動的粘弾性測定(1Hz)により得られるtanδピークが−60℃超−40℃以下の範囲にあることが好ましい。
【0075】
本実施形態の樹脂組成物において、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性の観点から、水素化ブロック共重合体(b)及び(c)の合計100質量%に対する重合体ブロック(B3)の合計量が、1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは1.5〜7質量%であり、さらに好ましくは2〜5質量%である。
【0076】
本実施形態の樹脂組成物は、得られる成形体の柔軟性、透明性、異方性の観点から、広角X線回折測定における、散乱角(2θ)15°の回折ピーク強度(I(15))と散乱角(2θ)の14°回折ピーク強度(I(14))との強度比(I(14)/I(15))が0.1以上1.4未満であることが好ましい。同様の観点から、強度比(I(14)/I(15))は、0.2〜1.35がより好ましく、さらに好ましくは0.3〜1.3である。
上記強度比(I(14)/I(15))は、例えば、前記ポリプロピレン系樹脂(a)と、水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)の比率及び、ポリプロピレン系樹脂(a)の種類等により上記範囲に制御することができ、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0077】
本実施形態の樹脂組成物又は成形体をクロス分別クロマトグラフィー(以下、「CFC」という。)で測定した場合、−20℃以下の積分溶出量が全容量の0.1%以上20%未満であり、−20℃超60℃未満の範囲の積分溶出量が全容量の5%以上90%未満であり、60℃以上150℃以下の範囲の積分溶出量が全容量の5%以上90%未満であることが好ましく、−20℃超60℃未満の範囲の積分溶出量が全容量の8%以上85%未満であり、60℃以上150℃以下の範囲の積分溶出量が全容量の8%以上85%未満であることがより好ましい。なお、上記「全容量」は、CFC測定に供した樹脂組成物又は成形体の全容量を意味する。
上記の挙動が観測される場合、得られる樹脂組成物の成形体の低温衝撃性、柔軟性、透明性及び低べたつき性のバランスがより良好となる傾向にある。
同様の観点から、上記−20℃以下の積分溶出量が全容量の0.1%以上15%未満であることがより好ましく、さらに好ましくは0.1%以上10%未満である。また、上記−20℃超60℃未満の範囲の積分溶出量が全容量の10%以上80%未満であることがより好ましく、さらに好ましくは20%以上70%未満である。また、上記60℃以上150℃以下の範囲の積分溶出量が全容量の10%以上80%未満であることがより好ましく、さらに好ましくは20%以上70質量%である。
また、上記CFC溶出量は、例えば、前記ポリプロピレン系樹脂(a)と、水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)の比率及び、水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)中の重合体ブロック(C)の含有量により制御することができ、上記CFC溶出量は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0078】
本実施形態の樹脂組成物は、前記クロス分別クロマトグラフィー(CFC)で測定した10℃以上60℃未満の範囲の溶出成分の分子量分布(Mw/Mn)が1.50以下であるであることが好ましく、1.05以上1.50以下であることがより好ましい。
上記の挙動が観測される場合、得られる樹脂組成物の成形体の柔軟性、透明性及び低温衝撃性がより良好となる傾向にある。
また、水素化ブロック共重合体の加工性の観点から、上記10℃以上60℃未満の範囲の溶出成分の分子量分布(Mw/Mn)が1.10以上であることがより好ましく、さらに好ましくは1.15以上である。
また、柔軟性、透明性及び低温衝撃性のバランス観点から、上記10℃以上60℃未満の範囲の溶出成分の分子量分布(Mw/Mn)が1.45以下であることがより好ましく、さらに好ましくは1.40以下である。
また、上記分子量分布は、例えば、前記水素化ブロック共重合体(b)と、水素化ブロック共重合体(c)により制御することができ、上記CFC溶出成分の分子量分布は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0079】
[成形体]
本実施形態の成形体は、本実施形態の樹脂組成物を含む。成形体としては、チューブ、シート、フィルム、バック、医療用成形体、例えば医療用チューブ、医療用フィルム、医療用輸液バック、並びに包装材、例えば食品包装材、及び衣料包装材等を挙げることができるが、上記に限定されるものではない。
【0080】
本実施形態の成形体は、以下に述べる方法により成形することができる。例えばチューブの成形方法としては、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を押出機に投入して溶融し、これをダイに通して管状にし、水冷又は空冷してチューブとすることができる。押出機としては単軸又は多軸の押出機を使用することができ、また複数台の押出機を使用して多層押出した多層チューブを成形することもできる。また、樹脂組成物を製造する際の押出機から直接チューブとして成形することもできる。
【0081】
チューブの形状は、特に限定されないが、通常円形、楕円形等のチューブが使用される。チューブの太さは特に限定されないが、例えば、外径で1〜50mmのものが好ましく、2〜30mmのものがより好ましく、3〜20mmのものがさらに好ましい。また、チューブの厚みは0.3〜30mmのものが好ましく、0.4〜20mmのものがより好ましく、0.5〜10mmのものがさらに好ましい。
【0082】
本実施形態のチューブは、本実施形態の目的を阻害しない範囲で他のポリマーを積層して多層チューブとしてもよい。上記のポリマーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて、単層又は層毎に種類が異なっていてもよい多層で積層して用いることができる。上記多層構造であるチューブの上記したポリマーからなる層は、付与する所望の性能により、最内層、中間層、最外層のいずれにあってもよい。本実施形態では、さらに、肉厚の増加を抑えて柔軟性を維持した上で耐圧性等を向上するために、編組補強糸や螺旋補強体を巻き付けて耐圧チューブ(ホース)とすることができる。編組補強糸は、厚み方向での内部又は層間に設けられ、ビニロン、ポリアミド、ポリエステル、アラミド繊維、炭素繊維、金属ワイヤー等を用いることができ、螺旋補強体は外周に設けられ、金属、プラスチック等を用いることができる。
【0083】
本実施形態のシートの製造方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を押出機に投入して押出す成型法として、Tダイ法、インフレーション法等を採用することができる。インフレーション成型としては、通常の空冷インフレーション成型、空冷2段インフレーション成型、高速インフレーション成型、水冷インフレーション成型などを採用できる。また、ダイレクトブロー、インジェクションブローなどのブロー成型法、プレス成型法を採用することもできる。用いる押出機としては、単軸又は多軸の押出機を使用することができ、また複数台の押出機を使用して多層押出した多層シートを成形することもできる。また、ポリプロピレン樹脂組成物を製造する際の押出機から直接シートとして成形することもできる。
【0084】
一般的に、厚みが0.005mm以上0.2mm未満であるシート状成形体をフィルムといい、厚みが0.2mm以上50mm以下であるシート状成形体をシートという。本願明細書において、「シート」は、上記フィルム、及びシートを包含する。本実施形態のシートの厚みは、特に限定されないが、成型加工性、柔軟性等の観点から、0.005mm〜0.5mmの範囲内であることが好ましく、0.01mm〜0.3mmであることがより好ましい。
【0085】
バックは、本実施形態のシートから成形することができる袋状の成形体をいう。バックとしては、食品包装用バック、衣類包装用バック、医療用バック、例えば医療用輸液バック、薬品包装用バック等が挙げられる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例によって本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例においては、以下に説明する方法によって水素化ブロック共重合体の調製を行い、樹脂組成物及びシート状成形体を製造し、物性の比較を行った。その際、水素化ブロック共重合体の特性や樹脂組成物及びシート状成形体の物性は次のように測定した。
【0087】
<測定方法>
1)水素化ブロック共重合体における各重合体ブロックの含有量
水素化前のブロック共重合体の重合過程のステップ毎にサンプリングしたポリマー溶液を、内部標準としてn−プロビルベンゼン0.50mLと、約20mLのトルエンとを密封した100mLのボトルに、約20mL注入して、サンプルを作製した。
アピエゾングリースを担持させたバックドカラムを装着したガスクロマトグラフィー(島津製作所製:GC−14B)でこのサンプルを測定し、事前に得ていたブタジエンモノマーとスチレンモノマーの検量線からポリマー溶液中の残留モノマー量を求め、ブタジエンモノマー及びスチレンモノマーの重合率が100%であることを確認し、下記式より、各重合体ブロックの含有量を計算した。
尚、ブタジエンの重合率は90℃一定で測定、スチレンの重合率は90℃(10分ホールド)〜150℃昇温(10℃/分)の条件にて行った。
各ブロックの含有量=(各ステップでフィードしたモノマー合計量)/(全モノマー量)×100質量%
【0088】
2)水素化ブロック共重合体の水素化前のビニル結合量
水素添化加前のブロック共重合体の重合過程のステップ毎にサンプリングしたポリマーを、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)法により測定した。測定機器はJNM−LA400(JEOL製)、溶媒に重水素化クロロホルムを用い、サンプル濃度は50mg/mL、観測周波数は400MHz、化学シフト基準にテトラメチルシランを用い、パルスディレイ2.904秒、スキャン回数64回、パルス幅45°、及び測定温度26℃で行った。ビニル結合量は、1,4−結合及び1,2−結合に帰属されるシグナルの積分値から各結合様式の1Hあたりの積分値を算出した後、1,4−結合と1,2−結合との比率から算出した。
また、水素化前のブロック共重合体の重合過程のステップ毎にサンプリングしたポリマー毎にビニル結合量を算出することで、(C)ブロックと(B1)又は(B2)ブロック其々のビニル結合量を算出した。
【0089】
3)水素化ブロック共重合体の共役ジエン化合物単位に基づく不飽和結合の水素添加率
水素添加後の水素化ブロック重合体を用いて、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)により測定した。測定条件及び測定データの処理方法は上記3)と同様とした。水素添加率は、4.5〜5.5ppmの残存二重結合に由来するシグナル及び水素添加された共役ジエンに由来するシグナルの積分値を算出し、その比率を算出した。
【0090】
4)共役ジエン化合物単位の合計100mol%に対する、ブチレン量及び/又はプロピレン量
水素添加後の重合体を用いて、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)により、水素化ブロック共重合体中の共役ジエン化合物単位の合計量と、ブチレン量及び/又はプロピレン量とを測定した。測定条件及び測定データの処理方法は上記3)及び4)と同様とした。ブチレン含有量は、スペクトルの0〜2.0ppmにおけるブチレン(水素化された1,2−結合)に帰属されるシグナルの積分値を算出し、その比率から算出した。
【0091】
5)水素化ブロック共重合体の芳香族ビニル化合物単位の含有量(以下、「スチレン含有量」とも表記する。)
水素添加後の重合体を用いて、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)法により測定した。測定機器はJNM−LA400(JEOL製)、溶媒に重水素化クロロホルムを用い、サンプル濃度は50mg/mL、観測周波数は400MHz、化学シフト基準にテトラメチルシランを用い、パルスディレイ2.904秒、スキャン回数64回、パルス幅45°、及び測定温度26℃で行った。スチレン含有量は、スペクトルの6.2〜7.5ppmにおける総スチレン芳香族シグナルの積算値を用いて算出した。
また、水素化前のブロック共重合体の重合過程のステップ毎にサンプリングしたポリマー毎に芳香族ビニル化合物単位の含有量を算出することでも、全芳香族ビニル化合物の含有量、及び、(S)ブロックのスチレン含有量を確認した。
【0092】
6)DSC測定
アルミニウム製パンに水素化ブロック共重合体10mgをそれぞれ精秤し、示差走査熱量計(DSC)(ティー・エイ・インスツルメント製、Q2000)を用いて、窒素雰囲気(流量は50mL/分)にて、初期温度−50℃、昇温速度10℃/分で150℃まで昇温し、5分間150℃保持し、その後10℃/分で−50℃まで降温させ測定を行った。
描かれるDSC曲線の降温過程であらわれる結晶化ピークを結晶化温度(℃)とし、結晶化ピーク面積が示す熱量を結晶化熱量(J/g)とした。
【0093】
7)水素化ブロック共重合体の動的粘弾性測定
固体粘弾性(1Hz)により得られる温度−損失正接(tanδ)スペクトルを下記の方法により測定し、tanδのピーク温度を得た。
装置ARES(ティー・エイ・インスツルメント株式会社製、商品名)の捻りタイプのジオメトリーに測定用試料をセットし、実効測定長さは25mm、ひずみ0.5%、周波数1Hz、測定範囲:−100℃から100℃まで、昇温速度3℃/分の条件により次の資料を測定した。
資料:水素化ブロック共重合体(b−1)〜(b−3)と、水素化ブロック共重合体(c−1)〜(c−2)とを200℃×5分でプレス成型した厚さ2mmのシートに成形した後に幅10mm、長さ35mmのサイズにカットし、測定用試料とし、tanδピーク温度を求めた。
【0094】
8)広角X線回折測定
実施例及び比較例で得られた200μm厚みのシート状成形体を試験片として、リガク製ナノスケールX線構造評価装置NANO−Viewerを用い、光学系はポイントコリメーション(第1スリット:0.4mmφ、第2スリット:0.2mmφ、ガードスリット:0.8mmφ)を用いて平行化した波長0.154nmのX線を用い、成型体の側面から、成型体面に平行にX線を入射(エッジ入射)した。
その際、X線入射方向の試料厚みはシート厚み以下とした。
検出器として、イメージングプレートを用い、カメラ長は74.5mm、露光時間は15分間とした。
空気由来の散乱を防ぐために、第2スリット以降から検出器までの間を真空とした。
散乱に対しては空セル散乱補正と装置のバックグラウンド補正を行った。
得られた2次元散乱パターンを−15°<χ<15°(χ:成形体の厚み方向を0°として定義した方位角)の範囲で扇状平均して1次元散乱プロファイルを得た。
得られた散乱プロファイルにおける、2θ=5°の散乱強度と2θ=30°の散乱強度を結ぶ直線をベースラインとして、ベースラインからの2θ=14°にある散乱ピークトップ(ポリプロピレン樹脂のα結晶の(110)面により散乱)の強度をI(14)、ベースラインからの2θ=15°の散乱強度をI(15)とし、その強度比(I(14)/I(15))を算出した。
【0095】
9)シート状成形体の柔軟性
実施例及び比較例で得られた200μm厚みのシート状成形体を用いて、引取り方向(MD)について、JIS 5号ダンベルに打抜いたサンプルを用い、JIS K6251に準拠して、引張試験機(ミネベア、Tg−5kN)により引張速度200mm/minで引張弾性率(MPa)を測定し、柔軟性の指標とした。得られた引張弾性率から、次の基準で評価した。
◎:引張弾性率が260MPa未満
○:引張弾性率が260MPa以上360MPa未満
△:引張弾性率が360MPa以上460MPa未満
×:引張弾性率が460MPa以上
【0096】
10)シート状成形体の透明性
実施例及び比較例で得られた200μm厚みのシート状成形体を用いて、ヘイズメーター(日本電色工業製、NDH−1001DP)を用いてヘイズ値(%)を測定し、透明性の指標とした。得られたヘイズ値から、次の基準で評価した。
◎:ヘイズ値が2%未満
○:ヘイズ値が2%以上5%未満
△:ヘイズ値が5%以上7%未満
×:ヘイズ値が7%以上
【0097】
11)シート状成形体の異方性
実施例及び比較例で得られた200μm厚みのシート状成型体を用いて、引取り方向(MD)とそれに垂直な方向(TD)について、JIS 5号ダンベルに打抜いたサンプルを用い、JIS K6251に準拠して、引張試験機(ミネベア、Tg−5kN)により引張速度200mm/minで引張弾性率(MPa)を測定した。得られた引張弾性率の比(MD/TD)から、次の基準で異方性を評価した。
◎:MD/TDの値が0.92〜1.08の範囲
○:MD/TDの値が0.89〜1.11の範囲(但し上記◎の範囲以外)
△:MD/TDの値が0.85〜1.15の範囲(但し上記○と◎の範囲以外)
×:MD/TDの値が0.85未満又は、1.15を超える
【0098】
12)シート状成形体の低べたつき性
実施例及び比較例で得られた200μm厚みのシート状成型体を作製し、シート状成形体を、5cm×8cm及び4cm×6cmの試験片に切り出した。得られた試験片を2枚重ね合わせた(上面:5cm×8cm、下面:4cm×5cm)後、その上面に500gの荷重(大きさ:6cm×10cm×1cm)を載せて、60秒間静止した後に、引張試験機(ミネベア、Tg−5kN)により100mm/分の速度で180°剥離させたときのタック強度(J)を測定し、低べたつき性の指標とした。得られたタック強度から、次の基準で評価した。
◎:タック強度が3N未満
○:タック強度が3N以上5N未満
△:タック強度が5N以上10N未満
×:タック強度が10N以上
【0099】
13)シート状成形体の低温衝撃性
実施例及び比較例で得られた200μm厚みのシート状成形体を用いて、20cm×13cmの試験片に切り出し、試験片を2枚重ね合わせた後、3辺を145℃で2秒間ヒートシールし、袋を作製した。
その袋に500mLの水を入れ、さらに残りの1辺を同様の条件でヒートシールして、水入りバックを作製した。
さらに、前記水入りバックを蒸気滅菌し、その後、4℃の冷蔵室に24時間放置した後、1.8mの高さから、各々10袋を落下させたときのバックの破袋率を測定し、低温衝撃性の指標とした。
得られた破袋率から、次の基準で評価した。
◎:非破袋率が100%
○:非破袋率が70%以上100%未満
△:非破袋率が50%以上70%未満
×:非破袋率が50%未満
【0100】
14)樹脂組成物の成形体のCFC測定
実施例及び比較例で得られた成形体を試験試料として、昇温溶離分別による溶出温度−溶出量曲線を以下のように測定し、各温度での溶出量、溶出積分量及び、溶出成分の分子量分布を求めた。
まず、充填剤を含有したカラムを145℃に昇温し、水素化ブロック共重合体をオルトジクロロベンゼンに溶かした試料溶液を導入して、140℃で30分間保持した。次に、カラムの温度を、降温速度1℃/分で−20℃まで降温した後、60分間保持し、試料を充填剤表面に析出させた。
その後、カラムの温度を、昇温速度40℃/分で5℃間隔で順次昇温し、各温度で溶出した試料の濃度を検出した。そして、試料の溶出量(質量%)とその時のカラム内温度(℃)との値より、溶出温度−溶出量曲線を測定し、各温度での溶出量と分子量分布を求めた。
・装置:CFC型クロス分別クロマトグラフ(Polymer Char社製)
・検出器:IR型赤外分光光度計(Polymer Char社製)
・検出波長:3.42μm
・カラム:Shodex HT−806M×3本(昭和電工社製)
・カラム校正:単分散ポリスチレン(東ソー社製)
・分子量校正法:標品較正法(ポリスチレン換算)
・溶離液:オルトジクロロベンゼン
・流量:1.0mL/分
・試料濃度:120mg/30mL
・注入量:0.5mL
得られた溶出温度−溶出量曲線より、−20℃以下の全容量中の積分溶出量(%)、−20℃超60℃未満の範囲の全容量中の積分溶出量(%)、60℃以上150℃以下の範囲の全容量中の積分溶出量(%)及び、10〜60℃の溶出成分の分子量分布を求めた。
【0101】
15)水素化ブロック共重合体の重量平均分子量及び分子量分布
水素化ブロック共重合体の重量平均分子量及び分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定(島津製作所製、LC−10)、カラム:TSKgelGMHXL(4.6mmID×30cm、2本)、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)により、市販の標準ポリスチレンによるポリスチレン換算分子量として求めた。
【0102】
16)水素化ブロック共重合体のメルトフローレート(以下、「MFR」ともいう。)
水素化ブロック共重合体とプロピレン系樹脂のMFRは、ISO 1133に準拠して、230℃、2.16kg荷重で測定した。
【0103】
[製造例1]
(水添触媒の調整)
水素化ブロック共重合体の水添反応に用いた水添触媒を、下記の方法で調整した。窒素置換した反応容器に、乾燥及び精製したシクロヘキサン1Lを入れ、ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド100ミリモルを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミニウム200ミリモルを含むn−ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させた。
【0104】
(水素化ブロック共重合体(b−1)の作製)
内容積10Lの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応器を使用して、バッチ重合を行った。反応器内に1Lのシクロヘキサンを入れ、その後n−ブチルリチウム(以下「Bu−Li」ともいう。)を全モノマー100質量部に対して0.046質量部と、ビニル化剤としてのN,N,N´,N´−テトラメチルエチレンジアミン(以下、「TMEDA」ともいう。)をBu−Li1モルに対して0.05モル添加した。
【0105】
第1ステップとして、ブタジエン10質量部を含むシクロヘキサン溶液(ブタジエン濃度20質量%)を10分間かけて投入し、その後更に10分間重合した。第1ステップの重合中、温度は65℃にコントロールした。
【0106】
第2ステップにおいて、TMEDAをBu−Li1モルに対して1.55モルと、ナトリウムt−ペントキシド(以下、「NaOAm」ともいう。)をBu−Li1モルに対して0.05モル添加し、添加し、ブタジエン85質量部を含むシクロヘキサン溶液(ブタジエン濃度20質量%)を60分間かけて投入し、その後更に10分間重合した。第2ステップの重合中、温度は60℃にコントロールした。
【0107】
第3ステップとして、スチレン5質量部を含むシクロヘキサン溶液(スチレン濃度20質量%)を10分間かけて投入し、その後更に10分間重合した。第3ステップの重合中、温度は65℃にコントロールした。
ブロック共重合体の重合過程におけるステップ毎にポリマーをサンプリングした。
【0108】
得られたブロック共重合体に、上記水添触媒を、ブロック共重合体100質量部当たりにチタン換算濃度100ppmとなるように添加し、水素圧0.7MPa、温度70℃で水添化反応を行った。その後メタノールを添加し、次に安定剤としてのオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、ブロック共重合体に対して0.25質量部添加した。
得られた水素化ブロック共重合体(b−1)の水添率は99%、MFRは2.9g/10分、重量均分子量(Mw)250,000、分子量分布(Mw/Mn)1.07であった。得られた水添ブロック共重合体(b−1)の解析結果を表1に示す。
【0109】
[製造例2]
(水素化ブロック共重合体(b−2)の作製)
第1ステップ前に、Bu−Liを0.063質量部とし、最初のステップとして、スチレン6質量部とし、第1ステップは行わず、次いで、第2ステップとして、ブタジエン88質量部とし、第3ステップとして、スチレン6質量部としブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−2)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−2)は、スチレン含有量12質量%、重量平均分子量178,000、分子量分布1.12、水添率99%、MFR4.2g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−2)の解析結果を表1に示す。
【0110】
[製造例3]
(水素化ブロック共重合体(b−3)の作製)
第2ステップとして、ブタジエン82質量部とし、第4ステップを追加して、ブタジエン3質量部を10分間かけて投入し、その後更に10分間重合しブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−3)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−3)は、スチレン含有量5質量%、重量平均分子量253,000、分子量分布1.09、水添率99%、MFR3.9g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−3)の解析結果を表1に示す。
【0111】
[製造例4]
(水素化ブロック共重合体(c−1)の作製)
第1ステップ前に、Bu−Liを0.050質量部とし、第2ステップ前のTMEDAを0.65モルとし、NaOAmは添加せず、ブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(c−1)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(c−1)は、スチレン含有量5質量%、重量平均分子量239,000、分子量分布1.08、水添率99%、MFR3.3g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(c−1)の解析結果を表1に示す。
【0112】
[製造例5]
(水素化ブロック共重合体(c−2)の作製)
第1ステップ前に、Bu−Liを0.095質量部とし、最初のステップとして、スチレン9質量部とし、第1ステップは行わず、第2ステップ前のTMEDAを0.65モルとし、NaOAmは添加せず、第2ステップとして、ブタジエン82質量部とし、第3ステップとして、スチレン9質量部としブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(c−2)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(c−2)は、スチレン含有量18質量%、重量平均分子量113,000、分子量分布1.07、水添率99%、MFR4.5g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(c−2)の解析結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
[製造例6]
(水素化ブロック共重合体(b−4)の作製)
第1ステップ前のTMEDAを0.01モルとし、第2ステップ前のTMEDAを1.4モルとし、ブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−4)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−4)は、スチレン含有量5質量%、重量平均分子量251,000、分子量分布1.07、水添率99%、MFR2.2g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−4)の解析結果を表2に示す。
【0115】
[製造例7]
(水素化ブロック共重合体(b−5)の作製)
第2ステップ前のTMEDAを2.00モルとし、NaOAmを0.09モルとし、ブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−5)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−5)は、スチレン含有量5質量%、重量平均分子量259,000、分子量分布1.30、水添率99%、MFR4.5g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−5)の解析結果を表2に示す。
【0116】
[製造例8]
(水素化ブロック共重合体(b−6)の作製)
表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−6)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−6)は、スチレン含有量8質量%、重量平均分子量252,000、分子量分布1.09、水添率99%、MFR5.2g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−6)の解析結果を表2に示す。
【0117】
[製造例9]
(水素化ブロック共重合体(b−7)の作製)
第1ステップ前のTMEDAを0.07モルとし、表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−7)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−7)は、スチレン含有量4質量%、重量平均分子量249,000、分子量分布1.07、水添率99%、MFR1.2g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−7)の解析結果を表2に示す。
【0118】
[製造例10]
(水素化ブロック共重合体(b−8)の作製)
表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−8)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−8)は、スチレン含有量2質量%、重量平均分子量248,000、分子量分布1.07、水添率99%、MFR5.7g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−8)の解析結果を表2に示す。
【0119】
[製造例11]
(水素化ブロック共重合体(b−9)の作製)
表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−9)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−9)は、スチレン含有量13質量%、重量平均分子量253,000、分子量分布1.10、水添率99%、MFR0.9g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−9)の解析結果を表2に示す。
【0120】
[製造例12]
(水素化ブロック共重合体(b−10)の作製)
第1ステップ前のTMEDAを0.01モルとし、表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−10)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−10)は、スチレン含有量4質量%、重量平均分子量249,000、分子量分布1.07、水添率99%、MFR5.6g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−10)の解析結果を表2に示す。
【0121】
[製造例13]
(水素化ブロック共重合体(b−11)の作製)
第1ステップ前に、Bu−Liを0.068質量部とし、表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造し、水素添加反応を途中で停止したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−11)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−11)は、スチレン含有量12質量%、重量平均分子量241,000、分子量分布1.11、水添率84%、MFR2.7g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−11)の解析結果を表2に示す。
【0122】
[製造例14]
(水素化ブロック共重合体(b−12)の作製)
第1ステップ前に、Bu−Liを0.070質量部とし、表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−12)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−12)は、スチレン含有量5質量%、重量平均分子量236,000、分子量分布1.08、水添率99%、MFR2.1g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−12)の解析結果を表2に示す。
【0123】
[製造例15]
(水素化ブロック共重合体(b−13)の作製)
第1ステップ前に、Bu−Liを0.070質量部とし、表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(b−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(b−13)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−13)は、スチレン含有量18質量%、重量平均分子量239,000、分子量分布1.12、水添率99%、MFR1.6g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(b−13)の解析結果を表2に示す。
【0124】
[製造例16]
(水素化ブロック共重合体(c−3)の作製)
第2ステップ前のTMEこと以外は、(c−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(c−3)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(c−3)は、スチレン含有量4質量%、重量平均分子量238,000、分子量分布1.07、水添率99%、MFR1.9g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(c−3)の解析結果を表2に示す。
【0125】
[製造例17]
(水素化ブロック共重合体(c−4)の作製)
第1ステップ前のTMEDAを0.01質量部とし、表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(c−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(c−4)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(c−4)は、スチレン含有量3質量%、重量平均分子量240,000、分子量分布1.09、水添率99%、MFR6.9g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(c−4)の解析結果を表2に示す。
【0126】
[製造例18]
(水素化ブロック共重合体(c−5)の作製)
表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(c−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(c−5)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(c−5)は、スチレン含有量6質量%、重量平均分子量239,000、分子量分布1.08、水添率99%、MFR6.2g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(c−5)の解析結果を表2に示す。
【0127】
[製造例19]
(水素化ブロック共重合体(c−6)の作製)
第2ステップ前のTMEDAを0.67質量部とし、表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(c−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(c−6)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(c−6)は、スチレン含有量13質量%、重量平均分子量242,000、分子量分布1.10、水添率99%、MFR3.9g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(c−6)の解析結果を表2に示す。
【0128】
[製造例20]
(水素化ブロック共重合体(c−7)の作製)
表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造し、水素添加反応を途中で停止したこと以外は、(c−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(c−7)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(c−7)は、スチレン含有量11質量%、重量平均分子量241,000、分子量分布1.10、水添率82%、MFR3.5g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(c−7)の解析結果を表2に示す。
【0129】
[製造例21]
(水素化ブロック共重合体(c−8)の作製)
第1ステップ前に、Bu−Liを0.060質量部とし、表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(c−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(c−8)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(c−8)は、スチレン含有量4質量%、重量平均分子量230,000、分子量分布1.07、水添率99%、MFR1.3g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(c−8)の解析結果を表2に示す。
【0130】
[製造例22]
(水素化ブロック共重合体(c−9)の作製)
第1ステップ前に、Bu−Liを0.060質量部とし、第1ステップ前のTMEDAを0.12質量部とし、表2に示すブロック構造組成でブロック共重合体を製造したこと以外は、(c−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(c−9)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(c−9)は、スチレン含有量19質量%、重量平均分子量234,000、分子量分布1.12、水添率99%、MFR0.8g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(c−9)の解析結果を表2に示す。
【0131】
[製造例23]
(水素化ブロック共重合体(c−10)の作製)
第2ステップ前のTMEDAを0.30質量部とし、ブロック共重合体を製造したこと以外は、(c−1)と同様の操作を行い、水添ブロック共重合体(c−10)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(c−10)は、スチレン含有量5質量%、重量平均分子量237,000、分子量分布1.07、水添率99%、MFR1.4g/10分であった。
得られた水添ブロック共重合体(c−10)の解析結果を表2に示す。
【0132】
【表2】
【0133】
<ポリプロピレン系樹脂(a)>
実施例及び比較例で用いたポリプロピレン系樹脂(a−1)〜(a−3)は、以下のとおりとした。
(a−1):プロピレン−エチレンランダム共重合体(「PC630A」(商品名)、サンアロマー製、MFR=6.8/10分)
(a−2):プロピレン−エチレンランダム共重合体(「PM931M」(商品名)、サンアロマー製、MFR=25.1/10分)
(a−3):プロピレン単独重合体(「PL500A」(商品名)、サンアロマー製、MFR=3.0/10分)
【0134】
<樹脂組成物及びシート状成形体の製造>
[実施例1〜22及び比較例1〜14]
上述したポリプロピレン系樹脂(a−1)〜(a−3)と、水素化ブロック共重合体(b−1)〜(b−13)と、水素化ブロック共重合体(c−1)〜(c−10)とを、表3〜4に示す割合(質量部表示)でドライブレンドし、二軸押出機(L/D=42、30mmφ)で、200℃、150rpm、押出量5Kg/hの条件で溶融混練して、樹脂組成物のペレットを製造した。
また、次のとおり、実施例1〜22及び比較例1〜14のシート状成形体を作成し、各物性の測定を行った。具体的には、樹脂組成物ペレットを単軸シート押出機(40mmφ)、Tダイを用いて、樹脂温度200℃、スクリュー回転数30rpm、Tダイリップ開度0.5mm、Tダイのスリット巾400mm、圧延ローラ表面温度45℃、引取り速度3m/minで、厚さ約200μmのシート状成形体を作成した。なお、厚みはスクリュー回転数や吐出量、引取り速度等を変えることにより調整した。得られた評価結果を表3〜4に示す。具体的には、各物性ごとに◎〜×の4段階評価を行い、その物性バランスを評価した。
【0135】
【表3】
【0136】
【表4】
【0137】
表3及び表4から、本実施形態の要件を満たす樹脂組成物を成形して得られるシートは、いずれの項目においても×がなく、柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性のバランに優れると評価された。一方、質量比〔(b)/(c)〕及び/又は質量比〔(a)/((b)+(c))〕が本実施形態の要件を満たさない比較例1〜4,6,7,13,14については、少なくともいずれか1つの項目において×があり、柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性のバランスに劣ると評価された。また、質量比〔(b)/(c)〕及び質量比〔(a)/((b)+(c))〕が本実施形態の要件を満たすものの、比較的ビニル結合量が低い重合体ブロック(C)を含まない比較例5の組成物は、柔軟性、透明性及び異方性において劣る結果となり、柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性のバランスに劣ると評価された。更に、水素化ブロック共重合体(b)又は水素化ブロック共重合体(c)の構造が本実施形態の要件を満たさない比較例8〜11については、少なくともいずれか1つの項目において×があり、柔軟性、透明性、異方性、低べたつき性及び低温衝撃性のバランスに劣ると評価された。