(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高分子化合物に対する、式(1)で表される繰り返し単位の含有量が、20モル%以上、100モル%以下である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダー。
高分子化合物が、数平均分子量が20000以上、2000000以下の高分子化合物である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダー。
高分子化合物のイオン交換容量が0.6ミリ当量/g以上、2.6ミリ当量/g以下である、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダー。
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーと、活性金属が担体に担持されてなる触媒粒子と、溶剤を含有する固体高分子形燃料電池用触媒インク。
活性金属が、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、およびこれら金属の合金からなる群から選択される少なくとも1種の活性金属である、請求項8に記載の固体高分子形燃料電池用触媒インク。
カソード側電極またはアノード側電極の少なくとも一方は、請求項8または請求項9に記載の固体高分子形燃料電池用触媒インクを用い形成してなる電極である固体高分子形燃料電池。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明は、固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーに、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチル基を有する繰り返し単位を有する特定の高分子化合物を用いるものである。
【0052】
本電極触媒バインダーに、活性金属が担体に担持されてなる触媒粒子と溶剤を加え固体高分子形燃料電池用触媒インクとし、当該触媒インクにより形成した電極を固体高分子形燃料電池のカソード側電極に用いた場合、固体高分子形燃料電池の発電効率を高めることができる。ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチル基を有する高分子化合物を固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーとしてカソード電極に用いたところ、固体高分子形燃料電池に思いもよらない高い発電効率が得られることが確認される。
【0053】
本発明の具体的実施形態について以下に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜実施することができる。
1.メチド酸基を有する繰り返し単位を有する高分子化合物
本発明の固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーが含む高分子化合物について説明する。
【0054】
電極触媒バインダーに用いられる高分子化合物が含む強酸性基としては、本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物が有するメチド酸基(−CH(SO
2Rf)
2の他に、従来使用されているパーフルオロカーボンスルホン酸基(−CF
2SO
3H)、スルホニルイミド酸基(−SO
2NHSO
2Rf)、ハイドロカーボンスルホン酸基(−CH
2SO
3H)、ホスホン酸基、またはカルボン酸基などを例示することができる。
【0055】
メチド酸基(−CH(SO
2Rf)
2)は構造中に水酸基を含んでおらず、そのため、疎水性を示す特異的な強酸性基である。そのために、メチド酸基を有する高分子化合物を電極触媒バインダーに使用した場合においては、疎水性であるメチド酸基を有する高分子化合物によって電極の排水が確保され、フラッディングを抑制する効果が得られたと推測される。この効果は、固体高分子形燃料電池のカソード側電極にメチド酸基を有する高分子化合物を用いた場合に顕著であると推察される。
【0056】
また、強酸性基であるメチド酸基は十二分なプロトン伝導度を示す。一方で、パーフルオロカーボンスルホン酸よりも酸性度が低いために、固体高分子形燃料電池に用いた場合、燃料電池の構成部材(ステンレス鋼またはカーボン材料など)の劣化の要因となっている腐食の抑制に効果的に働くものと推察される。
【0057】
メチド酸基を有する高分子化合物は、多量に強酸性基を含む場合でも十分な膨潤抑制効果を得ることができ、電極に用いた場合、疎水性であるので電極より生成水を効率良く排出させることができる。
【0058】
このように、メチド酸基を有する高分子化合物は、固体高分子形燃料電池の電極触媒バインダーとして使用するのに有用である。
1−1.固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーが含む高分子化合物
本発明の固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーが含む高分子化合物は、式(1)で表される繰り返し単位を有する。
A−Y−CH(SO
2Rf)
2 (1)
(Aは高分子化合物の主鎖構造を表す2価の有機基であり、Yは連結構造を表す二価の有機基である。Rfはそれぞれ独立に炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。)
1−2.固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーが含む高分子化合物の好ましい形態
固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーが含む高分子化合物は、式(1)で表される繰り返し単位が式(4)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0060】
(式中、R
1〜R
4を具体的に示すと、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、i−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチルメチル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、1−フェナントリル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子などを例示することができる。
R
5を具体的に示すと、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、i−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基などを例示することができる。
また、該アルキル基の一部または全部の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子と置換されていてもよく、炭素原子の一部が酸素原子と置換されていてもよく、またはカルボニル基を含んでいてもよい。
Rfはそれぞれ独立に炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。
bは0〜2の任意の整数であり、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基または1−アントリル基構造を例示することができる。cは0〜4の任意の整数、dは0〜4の任意の整数を表し、かつc+d≦4を満たす。)
本高分子化合物が式(4)で表される繰り返し単位を有する単独重合体である場合は、重合度は5〜5,000であることが好ましい。
【0061】
式(4)で表される高分子化合物は、以下の式(11)で表される化合物と式(12)で表される1,1,3,3−テトラキス(パーフルオロフルオロメタンスルホニル)プロパンを反応させることにより製造できる。
【0063】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基、芳香族炭化水素基、またはハロゲン原子を表し、該アルキル基又は該芳香族炭化水素基の水素原子の一部にハロゲン(フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素)、酸素原子、カルボニル結合を含んでもよい。R
5は水素原子、炭素数1〜12の直鎖、炭素数3〜12の分岐鎖または環状のアルキル基を表す。bは0〜2の任意の整数、cは0〜4の任意の整数、dは0〜4の任意の整数を表し、かつc+d≦4を満たす。)
【0065】
(式中、Rfは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す)
尚、本反応において、以下の反応式に示すように、1,1,3,3−テトラキス(パーフルオロメタンスルホニル)プロパンが反応系内で、式(19)で表される1,1−ビス(パーフルオロメタンスルホニル)エチレンと、式(20)で表されるビス(パーフルオロメタンスルホニル)メタンへと可逆的に分解し、求電子的な反応受容体である1,1−ビス(パーフルオロメタンスルホニル)エチレンがフェノール系の求核種と反応することにより得られる。
【0067】
また、以下の反応式に示すように、式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物は、式(13)で表される単量体化合物を重合することで製造できる。
【0069】
R
1〜R
4を具体的に示すと、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、i−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチルメチル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、1−フェナントリル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を例示することができる。好ましくは、水素原子である。R
5を具体的に示すと、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、i−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基などを例示することができる。好ましくは水素原子である。
【0070】
また、該アルキル基又は該芳香族炭化水素基の一部または全部の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子と置換されていてもよく、炭素原子の一部が酸素原子と置換されていてもよく、またはカルボニル基を含んでいてもよい。
Rfは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。入手しやすく反応性が良好なことより、トリフルオロメチル基が特に好適に用いられる。
bは0〜2の任意の整数であり、具体的には、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基構造を例示することができる。cは0〜4の任意の整数、dは0〜4の任意の整数を表し、かつc+d≦4を満たす。
<単量体化合物>
式(13)で表される単量体化合物は、具体的には下記の単量体化合物を例示することができる。ここで、Meは−CH
3を、
tBuは−CH(CH
3)
3を表す。
【0072】
[式(4)で表される高分子化合物の製造]
式(13)で表される単量体化合物より、式(4)で表される高分子化合物を得るための重合方法としては、一般的な方法であれば特に制限されないが、ラジカル重合、または遷移金属重合反応、例えば、ビニレン重合および開環メタセシス重合が好ましく、イオン重合、配位アニオン重合、リビングアニオン重合またはカチオン重合を採用することができる。
【0073】
式(13)で表される単量体化合物より、式(4)で表される高分子化合物を得るための重合方法は、以下の反応式により得ることが好ましい。
【0075】
<ラジカル重合>
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤またはラジカル開始源の存在下で、塊状重合、溶液重合、懸濁重合または乳化重合から選ばれる公知の重合方法により、回分式、半連続式または連続式から選ばれる操作で行なうことが好ましい。
【0076】
ラジカル重合開始剤は特に限定されないが、アゾ系化合物、過酸化物系化合物、レドックス系化合物を例示することができる。Aが式(2)で表され、且つ、Yが式(3)で表される、式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を合成するためのラジカル重合開始剤には、具体的には、アゾビスイソブチロニトリル、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−t−ブチルパーオキシド、i−ブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキシド、ジシンナミルパーオキシド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、過酸化ベンゾイル、過酸化水素または過硫酸アンモニウムを例示することができる。
【0077】
式(13)で表される単量体化合物を用い、式(14)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を得るための重合反応において、重合反応に用いる反応容器は特に限定されない。重合反応において、重合溶媒を用いてもよい。本発明の電極触媒バインダーの有効成分である高分子化合物を得るための重合反応における、重合溶媒としては、ラジカル重合を阻害しないものが好ましく、具体的には、エステル系溶媒である酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ケトン系溶媒であるアセトン、メチルイソブチルケトン、炭化水素系溶媒であるトルエン、シクロヘキサン、アルコール系溶剤溶媒であるメタノール、イソプロピルアルコールまたはエチレングリコールモノメチルエーテルを例示することができる。また、重合溶媒に、水、エーテル系、環状エーテル系、フロン系、または芳香族系を使用することもできる。これらの重合溶媒は、単独あるいは2種類以上を混合して使用してもよい。また、メルカプタンのような分子量調整剤を使用してもよい。本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物を得るための重合反応において、共重合反応の反応温度はラジカル重合開始剤あるいはラジカル重合開始源により適宜選択され、20℃以上、200℃以下が好ましく、より好ましくは、30℃以上、140℃以下である。
<遷移金属による重合>
ビニレン重合は、共触媒存在下、鉄、ニッケル、ロジウム、パラジウムまたは白金などのVIII属の遷移金属触媒、ジルコニウム、チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、またはタングステンなどのIVB乃至VIB属の金属触媒を用いることができ、重合溶媒の存在下、公知の方法を用いることができる。
【0078】
重合触媒は特に限定されないが、本発明の電極触媒バインダーが含む式(4)で表される高分子化合物を得るための重合反応においては、特に、VIII属の遷移金属類である、鉄(II)クロライド、鉄(III)クロライド、鉄(II)ブロマイド、鉄(III)ブロマイド、鉄(II)アセテート、鉄(III)アセチルアセトナート、フェロセン、ニッケロセン、ニッケル(II)アセテート、ニッケルブロマイド、ニッケルクロライド、ジクロロヘキシルニッケルアセテート、ニッケルラクテート、ニッケルオキサイド、ニッケルテトラフルオロボレート、ビス(アリル)ニッケル、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ニッケル(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナートテトラハイドレート、ニッケル(II)トリフルオロアセチルアセトナートジハイドレート、ニッケル(II)アセチルアセトナートテトラハイドレート、塩化ロジウム(III)、ロジウムトリス(トリフェニルホスフィン)トリクロライド、パラジウム(II)ビス(トリフルオロアセテート)、パラジウム(II)ビス(アセチルアセトナート)、パラジウム(II)2−エチルヘキサノエート、パラジウム(II)ブロマイド、パラジウム(II)クロライド、パラジウム(II)アイオダイド、パラジウム(II)オキサイド、モノアセトニトリルトリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)テトラフルオロボレート、テトラキス(アセトニトリル)パラジウム(II)テトラフルオロボレート、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート、パラジウムビス(アセトニトリル)ジクロライド、パラジウムビス(ジメチルスルホキサイド)ジクロライド、またはプラチニウムビス(トリエチルホスフィン)ハイドロブロマイドIVB乃至VIB属の遷移金属類である、塩化バナジウム(IV)、バナジウムトリスアセチルアセトナート、バナジウムビスアセチルアセトナートジクロリド、トリメトキシ(ペンタメチルシクロペンタジエニル)チタニウム(IV)、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド、またはビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドを用いることが好ましい。
【0079】
触媒の使用量は、単量体化合物全量に対して0.001mol%以上、10mol%以下、好ましくは、0.01mol%以上、1mol%以下である。
【0080】
共触媒としては、アルキルアルミノキサンまたはアルキルアルミニウムを例示することができる。本発明の電極触媒バインダーが含む式(4)で表される高分子化合物を得るための重合反応において、特に、トリアルキルアルアルミニウム類である、メチルアルミノキサン(MAO)、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−2−メチルブチルアルミニウム、トリ−3−メチルブチルアルミニウム、トリ−2−メチルペンチルアルミニウム、トリ−3−メチルペンチルアルミニウム、トリ−4−メチルペンチルアルミニウム、トリ−2−メチルヘキシルアルミニウム、トリ−3−メチルヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド類である、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソプロピルアルミニウムクロライド、またはジイソブチルアルミニウムクロライド、モノアルキルアルミニウムハライド類である、メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジアイオダイド、プロピルアルミニウムジクロライド、イソプロピルアルミニウムジクロライド、ブチルアルミニウムジクロライド、またはイソブチルアルミニウムジクロライド、アルキルアルミニウムセスキクロライド類である、メチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、プロピルアルミニウムセスキクロライド、イソブチルアルミニウムセスキクロライドを例示することができる。
【0081】
共触媒の使用量は、遷移金属触媒全量に対してモル比で表して、メチルアルミノキサンの場合、Al換算で50当量以上、500当量以下、その他アルキルアルミニウムの場合、100当量以下、好ましくは30当量以下である。
【0082】
重合溶媒は重合反応を阻害しなければよく、芳香族炭化水素系溶媒であるベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、またはジクロロベンゼン、炭化水素系溶媒であるヘキサン、ヘプタン、またはシクロヘキサン、ハロゲン化炭化水素系溶媒である四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、または1,2−ジクロロエタン、その他の溶剤として、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンまたはN−シクロヘキシルピロリドンを例示することができる。これらの重合溶剤は単独あるいは2種類以上を混合してもよい。
【0083】
反応温度は、通常は−70℃以上、200℃以下が好ましく、特に好ましくは、−40℃以上、80℃以下である。
1−3.固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーが含む高分子化合物の他の好ましい形態
以下の固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーにおいて、式(1)で表される繰り返し単位中の基Aが以下の式(5)〜(7)で表されるいずれか基であり、基Yが、単結合、炭素数1〜4の直鎖状、炭素数3、4の分岐鎖状または炭素数3〜20の環状のアルキレン基であり、該アルキレン基は、その一部または全部の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子と置換されていてもよく、炭素原子の一部が酸素原子と置換されていてもよく、またはカルボニル基を含んでいてもよい2価の有機基であることも好ましい形態である。
【0085】
(式中、R
6〜R
8は、R
1〜R
4と同義である。)
【0087】
(式中、R
6〜R
8は、R
1〜R
4と同義である。)
【0089】
(式中、R
12〜R
14は、R
1〜R
4と同義である。)
具体的には、発明3の固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーが含む高分子化合物が有する繰り返し単位は式(21)〜(23)で表される繰り返し単位である。
【0093】
R
6〜R
8を具体的に表すと、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、i−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチルメチル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、1−フェナントリル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子などを例示することができる。
【0094】
また、該アルキル基又は該芳香族炭化水素基の一部または全部の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子と置換されていてもよく、炭素原子の一部が酸素原子と置換されていてもよく、またはカルボニル基を含んでいてもよい。
【0095】
XはCH
2、C(CH
3)
2または酸素原子である。
【0096】
Yを具体的に示せば、それぞれ独立に、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、i−プロピレン基、n−ブチレン基、t−ブチレン基、n−ペンチレン基、i−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、i−ヘキシレン基、n−ヘプチレン基、n−オクチレン基、i−オクチレン基、n−ノニレン基、n−デシレン基、n−ドデシレン基、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、またはシクロヘキシレン基を例示することができる。これらの基は、その一部または全部の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子と置換されていてもよく、炭素原子の一部が酸素原子と置換されていてもよく、またはカルボニル基を含んでいてもよい。
【0097】
本高分子化合物が式(21)〜(23)で表される繰り返し単位のみを有する単独重合体である場合は、重合度は5〜5,000であることが好ましい。
【0098】
式(21)〜(23)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物は、式(15)で表される単量体化合物を重合することで得ることができる。
【0100】
(R6〜R8は式(21)〜(23)と同じ。)
以下、式(15)で表わされる単量体化合物の製造方法における、反応経路について説明する。なお、以下の反応経路図では、式(15)に含まれるYがエチレン基で表される式(29)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を製造するための反応経路である。
<反応経路>
以下の反応式で示すように、式(20)で表わされるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メタンと、式(25)で表わされるアルデヒド化合物または式(26)で表わされるアセタール化合物を脱水縮合反応させることで、式(27)で表される化合物を得た後、式(28)で表わされるヒドロシラン化合物を用いて還元反応を行うことで、式(29)で表わされる単量体化合物を製造することができる。
【0102】
上記反応式中のR
6〜R
8を具体的に表すと、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、i−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチルメチル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、1−フェナントリル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子などを例示することができる。中でも、入手しやすく反応性が良好なことより、メチル基が特に好適に用いられる。
【0103】
また、R
6〜R
8において、R
6〜R
8がアルキル基または芳香族炭化水素基である場合、その一部または全部の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子と置換されていてもよく、炭素原子の一部が酸素原子と置換されていてもよく、またはカルボニル基を含んでいてもよい。XはCH
2(メチレン基)、C(CH
3)
2(エチレン基)または酸素原子であるが、入手しやすく反応性が良好なことより、メチレン基が特に好適に用いられる。
【0104】
R
10を具体的に示せば、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基またはi−オクチル基を例示することができる。中でも入手しやすく反応性が良好なことより、メチル基を特に好適に用いることができる。
【0105】
R
11を具体的に示すと、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基またはフェニル基を例示することができる。中でも、入手しやすく反応性が良好なことより、水素原子とフェニル基を特に好適に用いることができる。
【0106】
Rfを具体的に示すと、それぞれ独立に、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を例示することができる。中でも、入手しやすく反応性が良好なことより、トリフルオロメチル基が特に好適に用いられる。
【0107】
式(15)で表される単量体化合物は、より具体的には下記の単量体化合物を例示する
ことができる。
【0109】
[式(21)〜(23)で表される高分子化合物の製造]
式(15)で表される単量体化合物より、式(21)〜(23)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を得るための重合方法としては、一般的な方法であれば特に制限されないが、ラジカル重合、または遷移金属重合反応、例えば、ビニレン重合および開環メタセシス重合が好ましく、イオン重合、配位アニオン重合、リビングアニオン重合またはカチオン重合を採用することが可能である。
【0110】
式(15)で表される単量体化合物より、式(21)〜(23)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を得るための重合方法は、以下の反応式により得ることが好ましい。
【0112】
<ラジカル重合>
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤またはラジカル開始源の存在下で、塊状重合、溶液重合、懸濁重合または乳化重合から選ばれる公知の重合方法により、回分式、半連続式または連続式から選ばれる操作で行なうことが好ましい。
【0113】
ラジカル重合開始剤は特に限定されないが、アゾ系化合物、過酸化物系化合物、レドックス系化合物を例示することができる。式(21)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を合成するためのラジカル重合開始材には、具体的には、アゾビスイソブチロニトリル、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−t−ブチルパーオキシド、i−ブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキシド、ジシンナミルパーオキシド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、過酸化ベンゾイル、過酸化水素または過硫酸アンモニウムを例示することができる。
【0114】
式(15)で表される単量体化合物を用い、式(21)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を得るための重合反応において、重合反応に用いる反応容器は特に限定されない。重合反応において、重合溶媒を用いてもよい。本発明の電極触媒バインダーの有効成分である高分子化合物を得るための重合反応における、重合溶媒としては、ラジカル重合を阻害しないものが好ましく、具体的には、エステル系溶媒である酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ケトン系溶媒であるアセトン、メチルイソブチルケトン、炭化水素系溶媒であるトルエン、シクロヘキサン、アルコール系溶剤溶媒であるメタノール、イソプロピルアルコールまたはエチレングリコールモノメチルエーテルを例示することができる。また、水、エーテル系、環状エーテル系、フロン系、または芳香族系を使用することも可能である。これらの重合溶媒は、単独あるいは2種類以上を混合して使用してもよい。また、メルカプタンのような分子量調整剤を使用してもよい。本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物を得るための重合反応において、共重合反応の反応温度はラジカル重合開始剤あるいはラジカル重合開始源により適宜選択され、20℃以上、200℃以下が好ましく、より好ましくは、30℃以上、140℃以下である。
<遷移金属による重合>
ビニレン重合は、共触媒存在下、鉄、ニッケル、ロジウム、パラジウムまたは白金などのVIII属の遷移金属触媒、ジルコニウム、チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、またはタングステンから選ばれるIVB乃至VIB属の金属触媒を用いることができ、重合溶媒の存在下、公知の方法を用いることができる。
【0115】
重合触媒は特に限定されないが、本発明の電極触媒バインダーが含む式(21)で表される高分子化合物を得るための重合反応において、特に、VIII属の遷移金属類である、鉄(II)クロライド、鉄(III)クロライド、鉄(II)ブロマイド、鉄(III)ブロマイド、鉄(II)アセテート、鉄(III)アセチルアセトナート、フェロセン、ニッケロセン、ニッケル(II)アセテート、ニッケルブロマイド、ニッケルクロライド、ジクロロヘキシルニッケルアセテート、ニッケルラクテート、ニッケルオキサイド、ニッケルテトラフルオロボレート、ビス(アリル)ニッケル、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ニッケル(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナートテトラハイドレート、ニッケル(II)トリフルオロアセチルアセトナートジハイドレート、ニッケル(II)アセチルアセトナートテトラハイドレート、塩化ロジウム(III)、ロジウムトリス(トリフェニルホスフィン)トリクロライド、パラジウム(II)ビス(トリフルオロアセテート)、パラジウム(II)ビス(アセチルアセトナート)、パラジウム(II)2−エチルヘキサノエート、パラジウム(II)ブロマイド、パラジウム(II)クロライド、パラジウム(II)アイオダイド、パラジウム(II)オキサイド、モノアセトニトリルトリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)テトラフルオロボレート、テトラキス(アセトニトリル)パラジウム(II)テトラフルオロボレート、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート、パラジウムビス(アセトニトリル)ジクロライド、パラジウムビス(ジメチルスルホキサイド)ジクロライド、またはプラチニウムビス(トリエチルホスフィン)ハイドロブロマイドIVB乃至VIB属の遷移金属類である、塩化バナジウム(IV)、バナジウムトリスアセチルアセトナート、バナジウムビスアセチルアセトナートジクロリド、トリメトキシ(ペンタメチルシクロペンタジエニル)チタニウム(IV)、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド、またはビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドを用いることが好ましい。
【0116】
触媒の使用量は、単量体化合物全量に対して0.001mol%以上、10mol%以下、好ましくは、0.01mol%以上、1mol%以下である。
【0117】
共触媒としては、アルキルアルミノキサン、またはアルキルアルミニウムが挙げられ、本発明の電極触媒バインダーが含む、式(21)で表される高分子化合物を得るための重合反応において、特に、トリアルキルアルアルミニウム類である、メチルアルミノキサン(MAO)、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−2−メチルブチルアルミニウム、トリ−3−メチルブチルアルミニウム、トリ−2−メチルペンチルアルミニウム、トリ−3−メチルペンチルアルミニウム、トリ−4−メチルペンチルアルミニウム、トリ−2−メチルヘキシルアルミニウム、トリ−3−メチルヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド類である、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソプロピルアルミニウムクロライド、またはジイソブチルアルミニウムクロライド、メモノアルキルアルミニウムハライド類である、ジメチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジアイオダイド、プロピルアルミニウムジクロライド、イソプロピルアルミニウムジクロライド、ブチルアルミニウムジクロライド、またはイソブチルアルミニウムジクロライド、アルキルアルミニウムセスキクロライド類である、メチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、プロピルアルミニウムセスキクロライド、イソブチルアルミニウムセスキクロライドを例示することができる。
【0118】
共触媒の使用量は、遷移金属触媒全量に対してモル比で表して、メチルアルミノキサンの場合、Al換算で50当量以上、500当量以下、その他アルキルアルミニウムの場合、100当量以下、特に好ましくは、30当量以下である。
【0119】
重合溶媒は重合反応を阻害しなければよく、芳香族炭化水素系溶媒である、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、またはジクロロベンゼン、炭化水素系溶媒である、ヘキサン、ヘプタン、またはシクロヘキサン、ハロゲン化炭化水素系炭化水素溶媒である、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレンまたは1,2−ジクロロエタン、その他の溶剤として、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンまたはN−シクロヘキシルピロリドンを例示することができる。これらの重合溶剤は単独あるいは2種類以上を混合してもよい。
【0120】
反応温度は、通常は−70℃以上、200℃以下が好ましく、より好ましくは、−40℃以上、80℃以下である。
<開環メタセシス重合>
開環メタセシス重合は、共触媒の存在下、IV、V、VI、またはVII属の遷移金属触媒を用いればよく、重合溶媒の存在下、公知の方法を用いることができる。
【0121】
遷移金属触媒は特に限定されないが、Ti系、V系、Mo系、またはW系の触媒を使用することができる。特に、本発明の電極触媒バインダーが含む、式(22)および(23)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を得るための重合反応においては、塩化チタン(IV)、塩化バナジウム(IV)、バナジウムトリスアセチルアセトナート、バナジウムビスアセチルアセトナートジクロリド、塩化モリブデン(VI)、または塩化タングステン(VI)を用いることが好ましい。触媒の使用量は、モノマー全量に対して、0.001mol%以上、10mol%以下、より好ましくは、0.01mol%以上、1mol%以下である。
【0122】
共触媒としては、アルキルアルミニウム、またはアルキルすずを使用することができる。具体的には、トリアルキルアルアルミニウム類である、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−2−メチルブチルアルミニウム、トリ−3−メチルブチルアルミニウム、トリ−2−メチルペンチルアルミニウム、トリ−3−メチルペンチルアルミニウム、トリ−4−メチルペンチルアルミニウム、トリ−2−メチルヘキシルアルミニウム、トリ−3−メチルヘキシルアルミニウム、またはトリオクチルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド類である、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソプロピルアルミニウムクロライド、またはジイソブチルアルミニウムクロライド、モノアルキルアルミニウムハライド類である、メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジアイオダイド、プロピルアルミニウムジクロライド、イソプロピルアルミニウムジクロライド、ブチルアルミニウムジクロライド、またはイソブチルアルミニウムジクロライド、アルキルアルミニウムセスキクロライド類である、メチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、プロピルアルミニウムセスキクロライド、またはイソブチルアルミニウムセスキクロライド、その他、テトラ−n−ブチルすず、テトラフェニルすず、またはトリフェニルクロロすずを例示することができる。
【0123】
共触媒の使用量は、遷移金属触媒全量に対して、モル比で表して、100当量以下、好ましくは30当量以下である。
【0124】
重合溶媒は重合反応を阻害しなければよく、芳香族炭化水素であるベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンまたはジクロロベンゼン、炭化水素系溶媒であるヘキサン、ヘプタン、またはシクロヘキサン、ハロゲン化炭化水素である四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレンまたは1,2−ジクロロエタンを例示することができる。本発明の電極触媒バインダーが含む、式(22)および(23)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を得るための重合反応において、これらの重合溶剤は単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0125】
反応温度は、通常は−70℃以上、200℃以下が好ましく、より好ましくは−30℃以上、60℃以下である。
1−4.固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーが含む高分子化合物の他の好ましい形態
固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーにおいて、式(1)で表される繰り返し単位中の基Aが式(8)で表される基あり、且つ基Yが単結合、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基または式(9)で表される基であることもまた好ましい形態の一つである。
【0127】
(式中、R
15は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子、水酸基、アルキル基、ビニル基またはアリール基であって、架橋基を有してよい。hは、1〜3の整数である。
【0129】
(式中、jは2〜5、kは0〜5の整数を表し、Bは式(10)で表される何れかの基である。
【0131】
具体的には、発明3の固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーが含む高分子化合物が有する繰り返し単位は式(24)で表される繰り返し単位である。
【0133】
(式中、R
9は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)、水酸基、アルキル基、アルケニル基またはアリール基であって、架橋基を有してよい。hは、1、2または3の内の任意の整数を表す。Rfはそれぞれ独立に炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。Yは具体的には、単結合、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基または式(9)で表される二価の有機基などである。)
【0135】
(式中、jは2〜5、kは0〜5の整数を表し、Bは、下記式(10)で表される何れかの基を表す。)
【0137】
本高分子化合物が式(24)で表される繰り返し単位のみを有する単独重合体である場合は、重合度は5〜5,000であることが好ましい。
【0138】
式(24)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物は、式(17)で表される単量体化合物を重合することで得ることができる。
【0140】
(式中、R
9は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子、水酸基、アルキル基、アルケニル基またはアリール基であって、架橋基を有してよい。RfおよびYは、式(24)と同じ)
<反応経路>
式(17)で表わされる単量体化合物の製造方法について説明する。
原料となるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メタンおよびアルケニルビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メタンは、公知の方法(例えば、Journal of Orgnic Chemistry., Vol. 38. No.19, 1973, 3358)により合成することができ、具体的には、以下の反応式に示すように、グリニャール反応で製造することができる。
【0142】
上記反応式中、Xはハロゲン原子を示し、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が好ましく、より好ましくは臭素原子である。式(24)におけるR
fは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。入手しやすく反応性が良好なことより、トリフルオロメチル基が特に好適に用いられる。
【0143】
次いで、アルケニルビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メタンにヒドロシランを作用させることで、式(17)で表される単量体化合物を合成することができる。
【0144】
アルケニル基などの炭素−炭素不飽和結合を有する基(アリル基など)のヒドロシリル化反応は、公知の手法で進行し、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチル基を有する化合物を合成することができる。例えば、以下の反応式に示す反応で合成される。
【0146】
また、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メタンは、公知の方法により、例えば、スルホニルハライド、カルボン酸ハライドやエポキシドと以下の反応式に示す反応が進行し、式(17)で表される単量体化合物を製造することができる。
【0149】
上記反応の反応触媒は、アルケニル基とSiH基とのヒドロシリル化付加反応を促進するものが使用される。例えば、白金、パラジウム、ロジウムなどまたは塩化白金酸、アルコール変形塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサンまたはアセチレン化合物との配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、白金ジビニルシロキサン、白金環状ビニルメチルシロキサン、トリス(ジベンジリデンアセトン)二白金、ビス(エチレン)テトラクロロ二白金、シクロオクタジエンジクロロ白金、ビス(シクロオクタジエン)白金、ビス(ジメチルフェニルホスフィン)ジクロロ白金、白金カーボン、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムなどの白金族金属またはこれらの化合物を例示することができる。本反応における反応触媒は、好ましくは白金化合物であり、特にジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)が好ましい。
【0150】
また反応触媒の配合量は、アルケニル基含有化合物全量に対する触媒中の金属元素の質量比で表して、0.5ppm以上、1000ppm以下である。0.5ppm未満では、反応触媒の作用効果が少なく、1000ppmより多く投入しても、触媒効果は変わらず多く入れる必要はない。反応触媒の有効な範囲を考慮すれば、特に1ppm以上、500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは、10ppm以上、100ppm以下である。
【0151】
ヒドロシラン化合物の配合量は、アルケニル基含有化合物全量に対して、1当量以上、5当量以下である。1当量より少ないと、アルケニル基含有化合物が余剰となり反応は完結せず収率が減るので好ましくなく、5当量より多く加えてもアルケニル基含有化合物の転化率の向上はないので好ましくない。より好ましくは1当量以上、3当量以下である。
【0152】
前述の反応で得られる、式(17)で表される単量体化合物の具体例について説明する。
【0153】
式(17)で表される単量体化合物において、Yは、単結合、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基または二価の有機基を表し、スルホニル基、カルボニル基、エーテル基、水酸基またはアミノ基を有していてもよい。
【0154】
Yは、例えば、−CH
2−、−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH(CH
3)−、−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−、−CH
2−SO
2−、−CH
2−CH
2−SO
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−SO
2−、−CH
2−CH(CH
3)−SO
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−SO
2−、−CH
2−CO−、−CH
2−CH
2−CO−、−CH
2−CH
2−CH
2−CO−、−CH−CH(CH
3)−CO−、−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−CO−、−CH
2−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−、−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−、−CH
2−CH(CH
3)−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−、−CH
2−O−CH
2−CH(NH
2)−CH
2−、−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH(NH
2)−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH(NH
2)−CH
2−、−CH
2−CH(CH
3)−O−CH
2−CH(NH
2)−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH(NH
2)−CH
2−、−CH
2−O−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH(CH
3)−O−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH
2−で表され、好ましくは、−CH
2−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−SO
2−、−CH
2−CH
2−CO−、−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−、−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH(NH
2)−CH
2−、または−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH
2−である。より好ましくは−CH
2−CH
2−である。
【0155】
Yが炭素数3の直鎖状のアルキレン基からなる、式(17)で表される単量体化合物について、具体的に例示する。
【0157】
次いで、Yが炭素数4の直鎖状のアルキレン基からなる、式(17)で表される単量体化合物について、具体的に例示する。
【0159】
次いで、Yが炭素数2の直鎖状のアルキレン基からなる、式(17)で表される単量体
化合物について、具体的に例示する。
【0161】
次いで、Yが炭素数2の直鎖状のアルキレン基とカルボニル基からなる、式(17)で表される単量体化合物について、具体的に例示する。
【0163】
次いで、Yがエーテル基とヒドロキシ基を有する、式(17)で表される単量体化合物について、具体的に例示する。
【0165】
次いで、Yにエーテル基とアミノ基を有する、式(17)で表される単量体化合物について、具体的に例示する。
【0167】
次いで、Yにエーテル基を有する、式(17)で表される単量体化合物について具体的に例示する。
【0169】
上記単量体化合物中、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示す。また、CF
3がC
2F
5またはC
3F
7であってもよい。
[式(24)で表される高分子化合物の製造]
式(17)で表される単量体化合物より、式(24)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を得るための重合方法としては、一般的に使用される方法であれば特に制限されないが、加水分解反応、縮合反応、ラジカル付加反応、または白金付加反応を採用することが可能である。特に、加水分解反応と縮合反応が好ましい。
【0170】
式(17)で表される単量体化合物より、式(24)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を得る反応式は、以下の反応式により示すことができる。
【0172】
式(17)で表される単量体化合物の加水分解反応と重縮合反応は、水と酸触媒加えて加熱することで進行する。
【0173】
また、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチル基を含まない単量体化合物と共重合させることも可能である。
【0174】
ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチル基を含まない単量体化合物として、具体的には、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、(クロロメチル)ジメチルイソプロポキシシラン、(ビシクロ(2.2.1)ヘプト−5−エン−2−イル)トリエトキシシラン、トリメチル(3−(トリエトキシシリル)プロピル)アンモニウムクロリド、トリメトキシ(3−(フェニルアミノ)プロピル)シラン、トリメトキシシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリメトキシ(プロピル)シラン、トリメトキシ(p−トリル)シラン、トリメトキシ(メチル)シラン、トリエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシフルオロシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシ−1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシラン、ペンチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、N−(2−(N−ビニルベンジルアミノ)エチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、n−オクチルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アミン、ベンジルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピルクロリド、3−−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、2−シアノエチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、1−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)尿素、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、(クロロメチル)トリエトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3−ブロモプロピル)トリメトキシシラン、オルトけい酸テトラプロピル、オルトけい酸テトラメチル、オルトけい酸テトラキス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル)、オルトけい酸テトライソプロピル、オルトけい酸テトラエチル、オルトけい酸テトラブチル、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジ−p−トリルシラン、ジメトキシ(メチル)シラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ(メチル)フェニルシラン、ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、シクロヘキシル(ジメトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、1,5−ジクロロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,3−ジメトキシ−1,1,3,3−テトラフェニルジシロキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサン、1,1,3,3,5,5,5−ヘプタメチル−3−(3−グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、3−クロロプロピルジクロロメチルシラン、クロロメチル(ジクロロ)メチルシラン、ジ−tert−ブチルジクロロシラン、ジブチルジクロロシラン、ジクロロ(メチル)オクタデシルシラン、ジクロロ(メチル)フェニルシラン、ジクロロシクロヘキシルメチルシラン、ジクロロデシルメチルシラン、ジクロロジエチルシラン、ジクロロジヘキシルシラン、ジクロロジイソプロピルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジペンチルシラン、ジクロロジフェニルシラン、ジクロロドデシルメチルシラン、ジクロロエチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロメチルシラン、n−オクチルメチルジクロロシラン、テトラクロロシラン、1,2−ビス(トリクロロシリル)エタン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、ビス(トリクロロシリル)アセチレン、ブチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、ドデシルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、1,1,2,2−テトラクロロ−1,2−ジメチルジシラン、イソブチルトリクロロシラン、n−オクチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、テキシルトリクロロシラン、トリクロロ(メチル)シラン、トリクロロ(プロピル)シラン、トリクロロ−2−シアノエチルシラン、トリクロロヘキシルシラン、トリクロロオクタデシルシラン、トリクロロシラン、トリクロロテトラデシルシラン、(3−シアノプロピル)ジメチルクロロシラン、(ブロモメチル)クロロジメチルシラン、(クロロメチル)ジメチルクロロシラン、1,2−ジクロロテトラメチルジシラン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,5−ジクロロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、α−(クロロジメチルシリル)クメン、ベンジルクロロジメチルシラン、ブチルクロロジメチルシラン、クロロ(デシル)ジメチルシラン、クロロ(ドデシル)ジメチルシラン、クロロジイソプロピルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロジメチルプロピルシラン、クロロジメチルシラン、クロロトリエチルシラン、クロロトリメチルシラン、ジエチルイソプロピルシリル クロリド、ジメチル−n−オクチルクロロシラン、ジメチルエチルクロロシラン、ジメチルイソプロピルクロロシラン、ジフェニルメチルクロロシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、tert−ブチルジメチルクロロシラン、tert−ブチルジフェニルクロロシラン、トリイソプロピルシリルクロリド、またはトリフェニルクロロシランを例示することができる。
【0175】
本発明において、これら単量体化合物の中で、入手しやすく反応性が良好なことより、ジクロロジメチルシランが特に好適に用いられる。
【0176】
以下、式(17)で表される単量体化合物とジクロロジメチルシランを反応させて、式(25)で表される繰り返し基を有する高分子化合物を得る際の反応式を示す。
【0178】
式(25)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物の製造方法は、本発明において、特に限定されないが、式(17)で表される単量体化合物を加水分解した後に、縮合する反応が挙げられる。例えば、水の共存下、塊状重合、溶液重合、懸濁重合または乳化重合などの公知の重合方法により、回分式、半連続式または連続式のいずれかの操作で行えばよい。ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチル基が強酸性であるため、水の共存下で、各縮合単位を与える化合物は速やかに加水分解され、容易に縮合反応が進行する。縮合反応の際には、反応促進剤として、硫酸などの酸またはアンモニアなどの塩基、あるいは、スズ触媒またはチタン触媒などの縮合反応触媒を加えてもよい。反応に用いる反応容器は特に限定されない。
【0179】
反応温度は単量体化合物により適宜選択され、50℃以上、150℃以下が好ましく、より好ましくは、70℃以上、120℃以下である。加熱時間は加熱温度に依存するが、1時間以上、48時間以下であり、6時間以上、24時間以下がより好ましい。
また、本反応には、通常用いられる種々の溶媒を用いることができる。使用する有機溶媒としては、反応を阻害せず、単量体化合物が可溶であれば特に制限されないが、具体的には、アルコール溶媒である、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、tert−ブタノール、またはn−ブタノールを例示することができる。
【0180】
これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0181】
式(25)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物は、ラジカル反応によって架橋構造を形成することができる。
【0182】
過酸化物またはアゾ化合物を架橋剤として用いることで、ラジカル反応によって架橋することが可能であり、耐久性が増すことから架橋させることが好ましい。
【0183】
過酸化物は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などとのラジカル反応により架橋構造を形成する。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(パーオキサイドベンゾエート)ヘキシン−3,1,4−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルペルアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3,2,5−トリメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルフェニルアセテート、tert−ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペル−sec−オクトエート、tert−ブチルペルピパレート、クミルペルピパレート、またはtert−ブチルペルジエチルアセテートを例示することができる。反応性がよく、得られたシリコン樹脂から形成した膜が膜強度に優れることから、ベンゾイルパーオキサイドまたは2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3が、本反応に用いるに特に好ましい過酸化物である。
【0184】
また、式(25)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物とアゾ化合物は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などとのラジカル反応により架橋構造を形成する。この様なアゾ化合物としては、具体的には、アゾビスイソブチロニトリル、またはジメチルアゾイソブチレートを例示することができる。安価であり、取り扱いが容易なことより、アゾビスイソブチロニトリルが、本反応に用いるに、特に好ましいアゾ化合物である。
【0185】
これらの架橋剤は、単独あるいは複数を選択して使用することも可能である。
【0186】
本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物である、シリコン樹脂を硬化させるためには、100℃以上、200℃以下に加熱する。好ましくは150℃以上、180℃以下に加熱する。加熱時間は加熱温度に依存するが、1時間以上、48時間以下であり、3時間以上、24時間以下が好ましく、6時間以上。18時間以下がより好ましい。
1−5.高分子化合物の仕様
本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物において、高分子化合物全量に対する、式(1)で表される繰り返し単位の含有が、20モル%以上、100モル%以下であることが好ましい。
【0187】
具体的には、高分子化合物全量に対する、式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、20モル%以上、100モル%以下が好ましく、30モル%以上、100モル%以下がより好ましい。メチド酸基を含む繰り返し単位(1)が多くなるほど、イオン交換容量が大きくなり、プロトン伝導性は向上するが、20%モル未満であるとイオン交換容量が低下することが原因で、プロトン伝導性が低下する虞がある。
【0188】
次いで、本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物が有してもよい繰り返し単位について説明する。
【0189】
本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物において、式(1)で表される繰り返し単位に加え、電極触媒バインダーの有効成分である式(1)に記載のビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチル基の含有率を調整する、または高分子化合物の溶剤溶解性、塗布性、機械的特性を調整するために、以下の単量体化合物と共重合反応させてもよい。
【0190】
式(1)で表される繰り返し単位を含む単量体化合物と共重合反応が可能であれば特に制限なく使用でき、スチレン系化合物、ノルボルネン化合物、シラン化合物、ビニルエーテル、アリルエーテル、オレフィン類から選ばれた少なくとも一種類以上の化合物が採用される。
【0191】
スチレン化合物として公知の化合物を例示するならば、スチレン系化合物、含フッ素スチレン系化合物は、スチレン、フッ素化スチレン、またはヒドロキシスチレンの他、ヘキサフルオロカルビノール基またはその水酸基を保護した官能基が一つまたは複数個結合した化合物が挙げられる。即ち、フッ素原子またはトリフルオロメチル基で水素を置換したスチレンまたはヒドロキシスチレン、α位にハロゲン、アルキル基、含フッ素アルキル基が結合した上記スチレン、パーフルオロビニル基含有のスチレンが挙げられる。
【0192】
また、ノルボルネン化合物は、ノルボルネン、1−メチルノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5,6−ジメチルノルボルネン、7−メチルノルボルネン、5,5,6−トリメチルノルボルネン、トリシクロ[4.3.0.12.5]−3−デセン、トリシクロ[4.4.0.12.5]−3−ウンデセン、テトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]−3−ドデセン、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12.5 .17.10]−3−ドデセン、または8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12.5 .17.10]−3−ドデセンが挙げられる。
【0193】
また、ビニルエーテル、アリルエーテル、は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシブチル基から選ばれたヒドロキシル基を含有するアルキルビニルエーテルあるいはアルキルアリルエーテルが上げられる。また、シクロヘキシル基、ノルボルネル基、芳香環またはその環状構造内に水素またはカルボニル結合を有した環状型ビニル、アリルエーテル、上記官能基の水素の一部または全部がフッ素原子で置換された含フッ素ビニルエーテル、または含フッ素アリルエーテルが挙げられる。
また、オレフィンは、エチレン、プロピレン、イソブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、フッ化炭化水素系のオレフィンは、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、またはヘキサフルオロイソブテンが挙げられる。
【0194】
特に、スチレン、4−tertブトキシスチレン、2−ノルボルネンなどが好適に用いられる。尚、以上の単量体化合物は単独でも2種以上の併用で使用してもよい。
【0195】
また、本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物において、EW(Equivalent Weight : メチド酸基1モル当たりの乾燥膜重量を表し、小さい程メチド酸基の比率が大)は、385g/当量以上、1670g/当量以下が好ましく、385g/当量以上、1100g/当量以下がより好ましい。
【0196】
また、本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物において、数平均分子量は20000以上、2000000以下であることが好ましい。
【0197】
具体的には、数平均分子量は、20000以上、2000000以下が好ましく、50000以上、1000000以下がより好ましい。数平均分子量が20000より小さいと、電極触媒バインダーとして用いた場合に、機械的強度が低下する虞があり、2000000より大きいと、溶媒に溶解させた際に粘性が高くなり、電極触媒バインダーとして用いることが困難になる虞がある。
【0198】
また、本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物において、イオン交換容量が0.6ミリ当量/g以上、2.6ミリ当量/g以下であることが好ましい。
【0199】
具体的には、高分子化合物を電極触媒バインダーとして電極に用いた際に、プロトン伝導性を維持するためには、高分子化合物のイオン交換容量は0.6ミリ当量/g以上、2.6ミリ当量/g以下が好ましく、高い発電特性を得るためには、0.9ミリ当量/g以上、2.6ミリ当量/g以下がより好ましい。
2.固体高分子形燃料電池用触媒インク
電極触媒バインダーに、活性金属が担体に担持されてなる触媒粒子と溶剤を加え固体高分子形燃料電池用触媒インクとする。
【0200】
触媒粒子の割合は、固体高分子形燃料電池とした際の触媒層の導電性を保つために、電極としての触媒層中の高分子化合物全質量の50質量%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。なお、ここでいう触媒の質量は、カーボンなどの担体に担持された担持触媒の場合は該担体の質量も含む。
[溶媒]
本発明の電極触媒バインダーが含む高分子化合物は、有機溶媒に溶解または分散させることができる。この様な有機溶剤として、具体的には、極性溶剤である、1,4−ジオキサン、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、γ―ブチロラクトン、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(PGMEA)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(PGME)または乳酸エチルジメチルホルムアミド(DMF)、アルコール系溶剤であるメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、tert−ブタノールまたはn−ブタノールを例示することができる。これら有機溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよく、特に、水との混合溶媒として用いることがより好ましい。
【0201】
水を混合溶媒として用いるには、溶媒全量に対し、水の割合は90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、特に、50質量%以下が好ましい。水を混合する割合が90質量%より高くなると、高分子の溶媒への溶解性または分散性が低下しやすくなる虞がある。
[触媒粒子]
本発明の電極触媒バインダーが結着させる触媒粒子は、カーボン担体、または、金属酸化物および金属窒化物担体に触媒金属を担持した金属担持触媒であることが好ましい。
<担体>
カーボン担体としては、具体的には、カーボンブラック粉末が好ましく、耐久性から、熱処理などでグラファイト化したカーボンブラック粉末を例示することができる。金属酸化物担体としては、具体的には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、タンタルまたはタングステンの酸化物を例示することができる。金属窒化物担体としては、具体的には、鉄、バナジウム、チタン、クロム、ジルコニウムまたはタンタルの窒化物を例示することができる。
製造の簡便さから、グラファイト化したカーボンブラック粉末が好ましく、比表面積は、50m
2/g以上、2000m
2/g以下が好ましく、100m
2/g以上、1500m
2/g以下がより好ましい。カーボン担体の比表面積が本範囲内であれば、カーボンブラック粉末が分散性よくカーボン担体に担持され、触媒の耐久性が向上する。
<活性金属>
触媒活性を示す活性金属としては、白金または白金合金が好ましい。白金は、固体高分子形燃料電池のアノード電極側における水素酸化反応およびカソード電極側における酸素還元反応に対して高活性であり、白金合金とすることで、触媒としての安定性または活性をさらに付与できる場合もある。
【0202】
また、触媒としては、非白金系の活性炭素触媒を用いることも可能であるが、触媒の耐久性から、白金触媒が好ましい。
[触媒インクの調製]
本発明の高分子化合物の溶液あるいは分散液に、上記触媒粒子を分散させることで、触媒インクを調製する。
【0203】
触媒層を形成する高分子化合物は、本発明の電極触媒バインダーが含むメチド酸基を有する高分子化合物を単独で用いてもよいが、従来公知のパーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物を加えてもよい。電極とした際にフラッディングを抑制する効果を得るためには、高分子全量に対し、メチド酸基を有する高分子化合物が50質量%以上、100質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、70質量%以上、100質量%以下である。
3.電極
触媒インクをポリテトラフルオロエチレンなどの離型フィルム上にスプレー、または、スリットコーターなどで塗布して、分散溶液である触媒インク中の溶媒を乾燥除去し、離型フィルム上に所定の厚さの触媒層を形成させる。この離型フィルム上に形成した触媒層を電解質膜の両側に配置し、所定の加熱加圧条件下で圧着し、触媒層で電解質膜を挟み込むように接合し、離型フィルムをはがすことによって、電解質膜の両面に触媒層、即ち電極が形成された膜電極接合体(以下、MEAと略すことがある)が作製できる。
【0204】
触媒インクは、ガス拡散層基材上にスプレー、または、スリットコーターなどで塗布して、分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、触媒層が形成された電極触媒層付きガス拡散層を作製することができる。ガス拡散層基材は、燃料である水素または空気の電極触媒への供給、電極での化学反応により生じた電子の集電、電解質膜の保湿および生成水の排出の役割を担う部材であり、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの多孔質の電子導電性材料を用いられる。取り扱いの簡便さから、カーボンペーパーが好ましい。当該電極触媒層付きカーボンペーパーを電解質膜の両側にその電極触媒を担持した側を配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスすることによって、電解質膜の両面に触媒層とカーボンペーパーとが形成されたMEAを製造できる。
【0205】
カーボンペーパーは、燃料または酸化剤の拡散性、あるいは反応副生物および未反応物質の排出性を促進するため、テトラフルオロエチレンなどで被覆して撥水性を付与したものを用いるのが好ましい。
【0206】
なお、電解質膜と触媒層との間に必要に応じて高分子電解質、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物からなる接着層を設けてもよい。
電解質膜としては、従来から用いられているパーフルオロカーボンスルホン酸としての高分子化合物を含む膜が使用できるが、その限りではない。その代表的な例としてNafion、Aciplex<登録商標>(旭化成株式会社製)(以下、Aciplexと呼ぶことがある)などが使用できる。
【0207】
電解質膜と触媒層を加熱・加圧条件下で圧着する条件は、使用する電解質膜またはや触媒層が含む高分子化合物の種類に応じて適宜設定する必要がある。上記条件としては、一般的に電解質膜または触媒層が含む高分子化合物の熱劣化および熱分解温度以下であって、電解質膜あるいは触媒層が含む高分子化合物のガラス転移点および軟化点以上の温度条件下であることが好ましい。
【0208】
加圧条件としては、概ね0.1MPa以上20MPa以下であることが、電解質膜と触媒層が十二分に接触するとともに、用いる材料の著しい変形にともなう特性低下がなく好ましい。
【0209】
なお、電解質膜と触媒層付きカーボンペーパーを接合することでMEAが形成される場合は、圧着することなく接触させるのみで使用しても構わない。
【0210】
上記MEAは、燃料ガス又は液体として、水素を主たる成分とするガスや、メタノールを主たる成分とするガス又は液体を、また、酸化剤として、酸素を含むガス(酸素あるいは空気)の通路となる溝が形成され導電性カーボン板などからなるセパレータの間に挟まれ、セルに組み込まれることにより本発明の固体高分子形燃料電池が得られる。本発明の高分子化合物が使用できる固体高分子形燃料電池は、水素/酸素形燃料電池に限定されない。直接メタノール形燃料電池(DMFC)などへの適用も可能である。
【0211】
本発明の触媒インクから作製された触媒層は、カソード側およびアノード側のどちらか一方か、または、これらの両方の電極に用いてもよい。電極内に水が生成するカソード側電極として有効であり、固体高分子形燃料電池に高い発電効率を与える。
【0212】
本発明の触媒インクから作製された触媒層を含む電極を使用してなる固体高分子形燃料電池を単独で、あるいは複数積層して、スタックを形成して用いたり、それらを組み込んだ燃料電池システムとすることもできる。
【0213】
従来の電極では、カソード側の相対湿度が高い状態においては、生成した水がガス拡散層の細孔内部で凝縮し、反応に必要な酸素の供給を阻害するフラッディングが引き起こされ、発電量が低下する懸念がある。
【0214】
評価のために、通常、カソード側の相対湿度が高い状態で、セルの発電量を測定することが行われる。尚、固体高分子形燃料電池はセルと言われる単位を積層させたものである。本発明のメチド酸基を有する高分子化合物をカソード側の電極触媒バインダーに用いたセルは、実施例に示すように、相対湿度100%RHの環境下で高い発電量を示した。相対湿度の高い環境下で運転した場合にも、フラッディングの発生が抑制され発電量が高いことが望まれる。固体高分子電解質は、水をプロトンキャリアとしているため、相対湿度が100%RHの雰囲気下において、高いプロトン伝導性を示し、高い発電量が得られる。
しかしながら、相対湿度が100%RHの雰囲気下において発電により生成した水は、その排出が滞り易く、液水が溜まり、発電に必要な酸素の供給経路が閉塞することで発電量の低下を引き起こしてしまう。
【0215】
表1に示されるように、発電に伴い水が生成するカソード側に本発明のメチド酸基を有する高分子化合物を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、相対湿度が100%RHの雰囲気下においても、特に相対湿度100%RHの環境下で高い発電量を示した。
【0216】
カソード側にNafionを用いた固体高分子電解質型燃料電池は、相対湿度が100%RHの雰囲気下において、フラッディングが引き起こされ、発電量が低下したものと推察される。特に相対湿度100%RHの環境下で高い発電量を示した。
【実施例】
【0217】
樹脂の合成例1〜4で得られた本発明の固体高分子形燃料電池用電極触媒バインダーとしての高分子化合物と、活性金属が担持されてなる触媒粒子および溶剤を含有する触媒インクを用いてカソード電極を作製し得られた固体高分子形燃料電池について、実施例1〜5の発電試験を行なった。
【0218】
次いで、比較例1〜4に、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子化合物と、活性金属が担持されてなる触媒粒子および溶剤を含有する触媒インクを用いてカソード電極を作製し得られた固体高分子形燃料電池について発電試験を行ない、本発明の実施例1〜5との性能を比較した。
【0219】
以下に、本発明の固体高分子形燃料電池用触媒インクに用いた樹脂の合成方法について説明する。
[樹脂の合成例1]
<ビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル化剤の合成>
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル化剤である1,1,3,3−テトラキス(トリフルオロメタンスルホニル)プロパン(式(33)で表される化合物)を公知文献(米国特許第4053519号)記載の方法により、以下の反応式に従い合成した。
【0220】
【化49】
【0221】
<式(35)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物の合成>
次いで、以下の反応式に従い、式(35)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を合成した。
【0222】
【化50】
【0223】
以下、詳細に示す。
【0224】
還流冷却器を備えた容量100mlの三口フラスコ内に、メチルエチルケトン17.62質量部、式(34)で表される単量体化合物であるパラ−tert−ブトキシスチレン(和光純薬工業株式会社製)17.62質量部および重合開始剤としての過ピバル酸−tert−ブチル(日本油脂株式会社製、製品名:パーブチルPV)0.05質量部を量り入れ、十分に攪拌しつつ脱気し、窒素ガスを導入して、6時間加熱還流した。
【0225】
溶媒を留去した後、得られた残渣を多量のn−ヘプタン中に注ぎ込み、高分子化合物を再沈殿させた。沈殿物をろ過により溶液より分離して、重合物を回収した。得られた高分子化合物を、減圧下60℃で4時間乾燥することにより残留溶媒を除去し、式(35)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を12.54質量部、収率71%で得た。また、得られた式(35)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物のゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)を行い、ポリスチレンを標準物質とし分子量を測定した。数平均分子量は(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、61000および151900であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は2.49であった。
<ビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル基を化学構造中に有する式(36)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物の合成>
本合成の反応式を以下に示す。
【0226】
【化51】
【0227】
還流冷却器を備えた容量100ml三口フラスコ内で、式(33)で表される化合物である1,1,3,3−テトラキス(パーフルオロアルキルスルホニル)プロパン5.72質量部をアセトニトリル8質量部に溶かした溶液に、高分子化合物1.68質量部を加え、室温で12時間撹拌した。溶媒を留去した後、得られた残渣を多量のn−ヘプタン中に注ぎ込み、重合物を再沈殿させた。沈殿物をろ過により溶液より分離して、高分子化合物を回収した。得られた高分子化合物を、減圧下60℃で4時間乾燥することにより残留溶媒を除去し、式(36)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を4.54質量部、収率97%で得た。
【0228】
得られた式(36)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物のゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)を行い、ポリスチレンを標準物質とし分子量を測定した。数平均分子量は(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、156,200および434,200であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は2.78であった。
<ビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル基を化学構造中に有し、tert−ブチル基が脱離した式(37)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物の合成>
本反応の反応式を以下に示す。
【0229】
【化52】
【0230】
還流冷却器を備えた容量100ml三口フラスコ内で、式(36)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物2.5質量部をテトラヒドロフラン10.0質量部に溶かした溶液に、35質量%濃度の塩酸水溶液10.0質量部を加え、50℃で24時間加熱撹拌した。溶媒を留去した後、得られた残渣を多量のn−ヘプタン中に注ぎ込み、高分子化合物を再沈殿させた。沈殿物をろ過により溶液より分離して、高分子化合物を回収した。得られた高分子化合物を、減圧下60℃で4時間乾燥することにより残留溶媒を除去し、式(37)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を2.25質量部、収率99%で得た。
【0231】
得られた式(37)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物のゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)を行い、ポリスチレンを標準物質とし分子量を測定した。数平均分子量は(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、140,400および373,900であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は2.66であった。
[樹脂の合成例2]
本合成の反応式を以下に示す。
【0232】
【化53】
【0233】
還流冷却器を備えた容量100ml三口フラスコ内に、式(31)で表されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン1.5質量部をトルエン5.0質量部に溶かした溶液に、式(38)で表される2−ノルボルネンカルボキシアルデヒドを0.95質量部、式(39)で表されるフェニルシラン0.43質量部を室温で加えた後、18時間攪拌させた。反応溶液を減圧下で濃縮後、蒸留精製を経て、式(40)で表される単量体化合物である2−(2',2'−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)エチル)ノルボルネン1.3質量部をNMR収率66%で得た。
【0234】
次いで、以下の式(41)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を合成した。
【0235】
【化54】
【0236】
還流冷却器を備えた容量100ml三口フラスコ内に、式(40)で表される単量体化合物である2−(2',2'−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)エチル)ノルボルネン0.50質量部をトルエン12質量部に溶かした溶液と(1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)ジクロロ(フェニルメチレン)(トリクロロヘキシルホスフィン)ルテニウム0.0007質量部を加え、1時間加熱還流した。溶媒を留去した後、得られた残渣を多量のn−ヘプタン中に注ぎ込み、高分子化合物を再沈殿させた。沈殿物をろ過により溶液より分離して、高分子化合物を回収した。得られた高分子化合物を、減圧下60℃で4時間乾燥することにより残留溶媒を除去し、目的の式(41)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を0.44質量部、収率88%で得た。また、得られた式(41)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物のゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)を行い、ポリスチレンを標準物質とした分子量を測定した。数平均分子量は(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、274000および957000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.49であった。
【0237】
次いで、以下の反応により、式(42)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を合成した。
【0238】
【化55】
【0239】
得られた式(41)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物1.21質量部をテトラヒドロフラン20質量部で溶かした溶液にビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.11質量部およびエチルビニルエーテル0.43質量部をテトラヒドロフラン3.7質量部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧3.0 MPa、100℃で4時間水素化反応を行った。水素化反応液を多量のn−ペンタンに注いで高分子化合物を完全に析出させ、濾別洗浄後、80℃で5時間減圧乾燥し、目的の式(42)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を1.11質量部、収率91%で得た。
【0240】
得られた式(42)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物のゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)を行い、ポリスチレンを標準物質とし分子量を測定した。数平均分子量は(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、879,000および2,540,000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は2.88であった。
[樹脂の合成例3]
以下の反応により、式(43)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を合成した。
【0241】
【化56】
【0242】
還流冷却器を備えた容量100ml三口フラスコ内に、式(40)で表される単量体化合物である2−(2',2'−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)エチル)ノルボルネン0.49質量部を1,2−ジクロロエタン1.1質量部に溶かした溶液とトリフェニルホスフィン0.0021質量部をトルエン0.2質量部に溶かした溶液、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体8.3質量部をトルエン0.2質量部に溶かした溶液、ジベンジリデンアセトンパラジウム0.003質量部をトルエン0.1質量部に溶かした溶液を加え、30℃で2時間加温した。得られた反応溶液をn−ヘプタン中に注ぎ込み、高分子化合物を再沈殿させた。沈殿物をろ過により溶液より分離して、高分子化合物を回収した。得られた高分子化合物を、減圧下60℃で4時間乾燥することにより残留溶媒を除去し、目的の式(43)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を0.15質量部、収率30%で得た。
【0243】
得られた式(43)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物のゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)を行い、ポリスチレンを標準物質として分子量を測定した。数平均分子量は(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、60000および113000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は1.88であった。
[樹脂の合成例4]
次いで、以下の反応により、式(46)で表される単量体化合物を合成した。
【0244】
【化57】
【0245】
還流冷却器を備えた容量100ml三口フラスコ内に、トルエン68.7質量部、式(44)で表される化合物126.7質量部(0.393モル)、反応触媒であるジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)(東京化成工業株式会社製)0.0152質量部(式(44)で表される化合物に対して0.0002質量部)、式(45)で表される化合物であるジクロロメチルシラン(東京化成工業株式会社製)50.0質量部(式(44)で表される化合物に対して0.4質量部)を窒素雰囲気下で各々仕込んだ。引き続き、窒素雰囲気下で、3分攪拌混合させた後、このフラスコを50℃に調整したオイルバスに浸けて加熱しつつ、30分間付加反応させた。付加反応終了後、トルエンを減圧下に留去回収した。次いで、減圧蒸留を行い、533Pa(4mmHg)に減圧下、105〜115℃に加熱し留出させて、式(46)で表される単量体化合物である4,4−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチルジクロロメチルシラン(以下、BTSB−DCMSと呼ぶことがある)163.0質量部を得た。
【0246】
次いで、式(46)で表される単量体化合物であるBTSB−DCMSを用いて、以下の反応式に従い、式(48)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を合成した。
【0247】
【化58】
【0248】
(尚、lおよびmは、それぞれ独立に、正の整数で重合度を表す。)
還流冷却器を備えた容量100ml三口フラスコ内に、イソプロピルアルコール100.0質量部とイオン交換水15質量部を加えた後、式(46)で表される単量体化合物であるBTSB−DCMS28.1質量部と式(47)で表されるフェニルジクロロシラン5.9質量部を計り入れ、35質量%濃度の塩酸溶液0.1質量部を加え、80℃で加熱撹拌した。24時間後、溶媒を留去し、その後、イソプロピルエーテルで希釈し、有機層を水で3回洗浄し、エバポレーターにて溶媒留去した。得られた粘稠液体を、150℃加熱しつつ真空乾燥し、式(48)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物である水酸基末端ポリシロキサン化合物23.3質量部を得た。
【0249】
次に、高分子化合物の末端部のトリメチルシロキサンによる封鎖を以下の反応式に従い実施した。
【0250】
【化59】
【0251】
(尚、i及びjは、それぞれ独立に正の整数で重合度を表す。)
還流冷却器を備えた容量100ml三口フラスコ内に、テトラヒドロフラン300.0質量部を加えた後、上記で得られた式(48)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物である水酸基末端ポリシロキサン10.0質量部と式(49)のトリメチルクロロシランを加え入れ、35質量%濃度の塩酸溶液0.01質量部を加え、80℃で加熱撹拌した。24時間後、溶媒を留去し、その後、イソプロピルエーテルで希釈し、有機層を水で3回洗浄し、エバポレーターにて溶媒留去した。得られた粘稠液体を、150℃加熱しつつ真空乾燥し、式(50)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物であるトリメチルシロキサン末端ポリシロキサン化合物10.2質量部を得た。
[固体高分子形燃料電池の発電効率の測定(実施例1〜5、比較例1〜4)]
<電極触媒層付きカーボンペーパーの作製>
樹脂の合成例1で得た式(37)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を電極触媒バインダーに使用し電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。
【0252】
具体的には、式(37)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物1.1質量部をエタノール20.0質量部に溶かした溶液にイオン交換水30.0質量部を加え、51.0質量%の白金を担持したカーボン粒子(エヌ・イー・ケムキャット株式会社製、品番:SA50BK)3.0質量部を加えて、攪拌することで触媒インクを得た。アセトン浸漬後、自然乾燥したカーボンペーパー(東レ株式会社製、厚み:0.19mm、品番:TGP−H−060)を50mm×50mmに切断したものの片面に対して、当該触媒インクを白金量が0.5mg/cm
2となるようにスプレーにより塗布し、オーブンで70℃に加熱し、乾燥させて電極触媒層付きカーボンペーパーを得た。
【0253】
次いで、同様の手順で、樹脂の合成例1で得た式(37)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物に替えて、物脂の合成例2で得た式(42)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、樹脂の合成例3で得た式(43)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、樹脂の合成例4で得た式(50)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を夫々電極触媒バインダーに用い、各々電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。
【0254】
また、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子を含有する分散液(米国デュポン社製、Nafion(登録商標)5重量%溶液)22.0質量部に、イオン交換水30.0質量部を加え、白金微粒子を担持したカーボン粒子(エヌ・イー ケムキャット株式会社製、品番:SA50BK)3.0質量部を加えて、攪拌することで触媒インクを得た。アセトン浸漬後、自然乾燥したカーボンペーパー(東レ株式会社製、品番:TGP−H−060)を40mm×40mmに切断したものの片面に対して、当該ペーストを白金量が0.5mg/cm
2となるようにスプレーにより塗布し、オーブンで70℃に加熱し、乾燥させて電極触媒層付きカーボンペーパーを得た。
<燃料電池セルの作製>
次いで、以下の方法によって燃料電池を作製し、発電効率を測定した。
【0255】
図1に固体高分子形燃料電池の断面の概略図を示す。
【0256】
触媒層1とカーボンペーパー2とからなる電極触媒層付きカーボンペーパー3の触媒層面に挟み込む様に、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子膜4(米国デュポン社製、商品名:ナフィオン112膜)を積層させ、膜電極接合体(MEA)5を作製した。次いで、ガス供給溝付きセパレータ6の溝部分をカーボンペーパーに挟み込むように積層させ、固体高分子形燃料電池しての電極セパレータを作製した。
<発電量の測定方法>
JARI標準セル準じて作製した燃料電池セルを用い、以下の操作を行い、ガス供給溝付きセパレータ6間の電流および電圧により、最大発電量を測定した。尚、JARI標準セルとは、(財)日本自動車研究所が開発した燃料電池評価用の標準セルである。
発 電量の測定は、作製した燃料電池セルに80℃の温度雰囲気下で、アノード側には湿度コントロールされた水素を200ml/minの流量で供給し、カソード側には湿度コントロールされた空気を800ml/minの流量で供給し最大発電量を測定した。
【0257】
具体的には80℃の温度雰囲気下で、アノード側に水素を200ml/minの流量で供給し、環境湿度が相対湿度で66%RH、81%RH、100%RHとなるように、カソード側には湿度調整した空気を800ml/minの流量で供給し測定した。また、30秒毎に電流密度を20mA/cm
2ずつ上げながら発電を行い、電圧の経時変化を測定した。
実施例1
アノード側およびカソード側ともに樹脂の合成例1で得た式(37)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用し固体高分子形燃料電池しての電極セパレータを作製し、発電量の測定を実施した。
実施例2
アノード側にNafionを電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用し、カソード側に樹脂の合成例1で得た式(37)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を電極触媒バインダーとして使用した電極触媒層付きカーボンペーパーを用い固体高分子形燃料電池しての電極セパレータを作製し、発電量の測定を実施した。
実施例3
アノード側に、Nafionを電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用し、カソード側に樹脂の合成例2で得た式(42)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用した固体高分子形燃料電池しての電極セパレータを作製し、発電量の測定を実施した。
実施例4
アノード側に、Nafionを電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用し、カソード側に樹脂の合成例3で得た式(43)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用した固体高分子形燃料電池しての電極セパレータを作製し、発電量の測定を実施した。
実施例5
アノード側に、Nafionを電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用し、カソード側に樹脂の合成例4で得た式(50)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用した固体高分子形燃料電池しての電極セパレータを作製し、発電量の測定を実施した。
比較例1
アノード側に樹脂の合成例2で得た式(42)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用し、カソード側にNafionを電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用した固体高分子形燃料電池しての電極セパレータを作製し、発電量の測定を実施した。
比較例2
アノード側に樹脂の合成例3で得た式(43)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用し、カソード側にNafionを電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用し、固体高分子形燃料電池しての電極セパレータを作製し、発電量の測定を実施した。
比較例3
アノード側に樹脂の合成例4で得た式(50)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用し、カソード側にNafionを電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用した固体高分子形燃料電池しての電極セパレータを作製し、発電量の測定を実施した。
比較例4
アノード側およびカソード側ともにNafionを電極触媒バインダーとして用いた電極触媒層付きカーボンペーパーを使用し固体高分子形燃料電池しての電極セパレータを作製し、発電量の測定を実施した。
[発電量の測定]
表1に各々の発電における最大発電量を示す。
【0258】
なお、最大発電量とは、電流(A)と電圧(V)の積を電極面積で割った値であり、単位面積当たりの仕事量(W)を表す。
【0259】
【表1】
【0260】
実施例1〜5に示すように、本発明のメチド酸基を有する高分子化合物をカソード側の電極触層バインダーとして用いた固体高分子形燃料電池しての電極セパレータは、比較例1〜4のNafionをカソード側の電極触層バインダーとして用いた固体高分子形燃料電池しての電極セパレータと比較して、相対湿度の上昇と相関して、最大発電量が大きくなり発電効率が高くなっており、特に相対湿度100%RHにおいて、最大発電量が最も大きくなることが確認された。
【0261】
このことは、フラッディングはカソード側において発生しやすく、カソード側に樹脂の合成例1〜4で得られた高分子化合物を用いた実施例1〜5においては、とりわけ、フラッディングを抑制する効果が得られたものと推測される。このように、樹脂の合成例1〜4で得られた高分子は、カソード側の電極触媒バインダーとして用いることが特に有効であり、発電効率が向上することがわかった。
【0262】
特に、アノード側とカソード側の電極触媒バインダーの両方に樹脂の合成例1で得られた高分子化合物を用いた実施例1に示すセル(固体高分子形燃料電池の部材、通常はセルを積層させて燃料電池とする)では、相対湿度66%RH、81%RH、100%RH全てにおいて、最大発電量が、アノード側とカソード側の電極触媒バインダーの両方にNafionを用いた比較例4のセルよりも大きくなった。
【0263】
実施例1に示すセルは相対湿度の増加とともに発電量が大きくなり、100%RHで最大になるのに対し、Nafionを用いた比較例4のセルは81%RHの最大発電量が100%RHの最大発電量より高い。このように、実施例1のセルと比較例4のセルは発電特性が異なることがわかった。
【0264】
この結果から、樹脂の合成例1で得られた高分子化合物は、アノード側およびカソード側のいずれの電極触媒バインダーとしても有効な材料であることがわかった。
【0265】
I−V特性とは、燃料電池から得られた電圧と電流を、各々縦軸と横軸にしてグラフに示す事で電流と電圧の関係を表すものである。通常、電流値(電流密度)が増加するに従って、内部抵抗が増加し、電圧値は低下することが知られている。
【0266】
実施例1および比較例4のセルをと相対湿度が100%RHにおける条件で運転し、セルのI−V特性(I−V characteristic、印加した電圧(V)とそれに伴って流れる電流(I)の関係)を測定し発電性能を比較した。I−V特性の評価結果を
図2に示す。
【0267】
実施例1では、セル電圧が緩やかに低下しており、フラッディング抑制により発電効率が向上していると思われた。比較例4では、カソード側の相対湿度が100%RHの状態において、生成した水がガス拡散層の細孔内部で凝縮し,反応に必要な酸素の供給を阻害するフラッディングが起こり、著しいセル電圧の低下を引き起こしたものと推察される。
【0268】
従って、本発明の固体高分子形燃料電池は、従来よりもフラッディングを抑制することができると推測され、固体高分子形燃料電池の初期の発電効率を保持できることがわかった。