(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の空気電池用正極は、膨張黒鉛シートから成ることを特徴とする。
膨張黒鉛シートは、導電性と、化学的安定性とを有することに加え、黒鉛結晶の層間に微細気孔が形成されているので、電解液との接触表面積が大きくなり水酸化物イオンの供給が効率的に行われる。更に、厚さ方向に連通気孔を有しないため、電解液の蒸発が抑制されているにも関わらず、シートの表面付近に存在する酸素が費消された後にも起電力が継続する。この理由は明確では無いが、膨張黒鉛シートをシート状に成形する際には、厚さ方向に鱗片状の黒鉛粒子が折り重なるように積層されるため、シート内において粒子間の面方向に微小な隙間が生じる。そして、その隙間を外気が通過することで酸素が供給され、水酸化物イオンの供給源となっていると考えられる。その結果、厚さ方向に連通気孔が設けられている場合と比べて外気の導入経路が長大となるので、電解液の蒸発が抑制されるものと推測される。更に、膨張黒鉛シートは比較的安価に作製することができるので、空気電池の製造コストが高騰するのを抑えることができる。
【0011】
膨張黒鉛シートは、膨張黒鉛のみからなるものでも良いが、触媒物質、バインダー等を添加しても良い。この場合、膨張黒鉛シート中の膨張黒鉛の割合が80質量%以上であることが望ましく、特に90質量%以上、その中でも95質量%以上であることが望ましい。
膨張黒鉛シート中の膨張黒鉛の割合が80質量%を下回ると、電解液との接触表面積が不足したり、またバインダーが上記面方向の微小な隙間を塞ぐ恐れが生じる。
【0012】
上記膨張黒鉛シートのかさ密度が0.2Mg/m
3以上2.0Mg/m
3以下であることが望ましい。
膨張黒鉛シートのかさ密度が0.2Mg/m
3未満であると、シートの形状崩壊が起こり易くなることがある。一方、膨張黒鉛シートのかさ密度が2.0Mg/m
3を超えると、膨張黒鉛粒子間の微細隙間が不足して、外気の導通量が不十分となることがあり、しかも、電解液と接触する表面積が小さくなる。この結果、電池性能が低下する。このようなことを考慮すれば、上記膨張黒鉛シートのかさ密度は0.3Mg/m
3以上1.5Mg/m
3以下であることが一層望ましく、特に、0.3Mg/m
3以上0.75Mg/m
3以下であることが望ましい。
【0013】
上記膨張黒鉛シートの厚みが0.1mm以上3.0mm以下であることが望ましい。
膨張黒鉛シートの厚みが0.1mm未満であると、含有する大気の量が不足して、酸素の供給量が不十分となることがあり、しかも、電解液と接触する表面積が小さくなる一方、膨張黒鉛シートの厚みが3.0mmを超えると、電池内における正極の割合が高くなりすぎて、電池の高容量化が阻害されることがある。また、上記膨張黒鉛シートの厚みは0.80mm
以上であることが特に望ましい。
【0014】
本発明の空気電池は、正極と、負極と、電解液とを備えた空気電池において、上記正極は膨張黒鉛シートから成ることを特徴とする。
また、膨張黒鉛シートにおいて、電解液と接触する面と反対側の面が外気と遮断されていることが望ましい。
電解液と接触する面と反対側の面が外気と遮断されていることで、厚さ方向でのガス透過が防がれて電解液の蒸発をより抑制することができる。
【0015】
ここで、膨張黒鉛シートのガス透過率を、1.0×10
−3cm
2/S以下に規制すれば電解液の蒸発を十分に抑制でき、特に、1.0×10
−4cm
2/S以下に規制すれば電解液の蒸発をより一層抑制できる。
上記膨張黒鉛シートのガス透過率とは、下記(1)式で示されるものである。
ガス透過率=Q・L/(ΔP・A)・・・(1)
尚、上記(1)式において、Qはガス流量(Pa・cm
3/s)、ΔPは2つのチャンバー間の圧力差(Pa)、Aは膨張黒鉛シートのガス透過面積、つまり、2つのチャンバーを連通する通路の面積(cm
2)、Lは膨張黒鉛シートの厚さ(cm)である。
【0016】
膨張黒鉛シートのかさ密度とガス透過率との関係を
図1に示す。尚、膨張黒鉛シートのかさ密度が、0.3Mg/m
3、0.5Mg/m
3、0.7Mg/m
3、1.0Mg/m
3、1.5Mg/m
3、及び1.7Mg/m
3の場合について調べた。
図1から明らかなように、膨張黒鉛シートのかさ密度が0.2Mg/m
3以上であれば膨張黒鉛シートのガス透過率は1.0×10
−3cm
2/S以下となり、また、膨張黒鉛シートのかさ密度が0.5Mg/m
3以上であれば膨張黒鉛シートのガス透過率は1.0×10
−4cm
2/S以下となることがわかる。
【0017】
上記ガス透過率は以下の方法によって測定される。
(i)互いに連通された一対の密閉されたチャンバーCA,CBにおいて、両チャンバーCA,CBを連通する通路(直径10mm)を本発明の離型用シート(直径30mm)で塞ぐように配置する。言い換えれば、本発明の離型用シートを通過しなければ一対の密閉されたチャンバーCA,CB間を空気が流れない状態とする。
【0018】
(ii)この状態から、両チャンバーCA,CB内の気圧が1.0×10
−4Paとなるまで両チャンバーCA,CBを真空引きする。そして、一方のチャンバーCA内の真空引きを継続しながら、他方のチャンバーCB内が所定の圧力(1.0×10
5Pa)となるまでN
2ガスを供給する。
【0019】
(iii)他方のチャンバーCB内が所定の圧力(1.0×10
5Pa)となると、一方のチャンバーCA内の真空引きを停止する。すると、両チャンバーCA,CB間の圧力差と離型用シートのガス透過性に応じて、徐々に他方のチャンバーCBから一方のチャンバーCAにN
2ガスが流れるので、一方のチャンバーCA内の圧力が上昇する。
【0020】
(iv)そして、一方のチャンバーCA内の真空引きを停止してから約100秒間における一方のチャンバーCA内の圧力上昇速度を測定し、以下の(2)式に基づいて、ガス透過率K(cm
2/s)を算出する。
K=Q・L/(P・A)・・・(2)
【0021】
なお、Qはガス流量(Pa・cm
2/s)、Lはシート状積層体の厚さ(cm)であり、Pは両チャンバーCA,CB間の圧力差(Pa)、Aは膨張黒鉛シートのガス透過面積、つまり、両チャンバーCA,CBを連通する通路の面積(cm
2)である。
また、ガス流量Qは、一方のチャンバーCA内の真空引きを停止してから約100秒間における一方のチャンバーCA内の圧力上昇速度と、一方のチャンバーCAの容積から算出される。
【0022】
また、後述する第2実施例、及び第3実施例におけるガス透過量の測定方法を、
図16及び
図17(a)〜(e)を用いて説明する。
図16に示す装置では、シート状複合体201と、測定タンク240と、真空ポンプ241と、マノメーター242とがチャンバー250内に配置されている。
【0023】
上記膨張黒鉛シート201はゴムパッキン261を介してアクリル板262上に配置されている。上記アクリル板262はOリング(オーリング)263を介して置台264上に配置されている。上記Oリング263によって上記アクリル板262と上記置台264とを封止している。上記ゴムパッキン261の中央には貫通気孔261aが形成されている(
図17(a)参照)。上記アクリル板262には、
図17(b)に示すように、中央周辺に複数の小さな貫通孔262a,262bが形成されている。また、
図16に示すように、置台264の中央にも貫通孔264aが形成されている。
【0024】
上記膨張黒鉛シート201の上にはゴムパッキン265を介して金属フランジ266が配置されている。この金属フランジ266はシート状複合体201に押し付けられ、ネジにより固定されている。上記ゴムパッキン265及び上記金属フランジ266は、
図17(c)及び
図17(d)に示すように、円板状に形成されている。上記金属フランジ266には外周縁部に4個のネジ穴が等間隔に形成されている。また、
図17(e)に示すように、上記シート状複合体201の中央付近にはφ32mmの貫通孔201aが形成されている。
【0025】
上記置台264の内側の空間には第1配管281が連通している。この第1配管281の他端部には測定タンク240が配置されている。上記第1配管281にはバルブV2が設けられている。
【0026】
上記第1配管281に交差して連通した第2配管282には、一端部にマノメーター242が配置され、他端部が2つに分岐している。分岐した一方の先には真空ポンプ241が配置され、他方には電磁弁V5が配置されている。また、上記第2配管282においてマノメーター242と分岐点Bとの間にはバルブV1、バルブV3及び電磁弁V4が順に並んで配置されている。
【0027】
図16に示すように、上記膨張黒鉛シート201は上記ゴムパッキン261及び上記ゴムパッキン265によって上下方向に挟まれているため、膨張黒鉛シート201の端面(外周面)だけからガスが内部に侵入する。ガスは上記膨張黒鉛シート201の内部を通って膨張黒鉛シート201の内周面から内側へ放出される。これにより、上記ゴムパッキン261、上記アクリル板262、上記置台264及び上記膨張黒鉛シート201の内側の空間の圧力が変化する。圧力変化量が大きい場合は膨張黒鉛シート201の端面からのガス侵入量及び面方向でのガス透過量が多く(膨張黒鉛シート201の面方向のガス不透過性が低く)、圧力変化量が小さい場合は膨張黒鉛シート201の端面からのガス侵入量及び面方向でのガス透過量が少ない(膨張黒鉛シート201の面方向のガス不透過性が良好である)。上記ゴムパッキン261、上記アクリル板262及び上記置台264の内側の空間の圧力は、上記測定タンク240によって測定される。以下に圧力の測定方法を説明する。
【0028】
チャンバーの初期圧力を190Paに設定する。チャンバーの容積及び膨張黒鉛シート201の寸法を下記に示す。
・チャンバーの容積は11,050cm
3
・膨張黒鉛シート201の外界に露出する端面(膨張黒鉛シート201の外周面):φ76mmの外周面である。
・膨張黒鉛シート201のチャンバー内に露出する端面(シート状複合体201の内周面):φ32mmの内周面である。
【0029】
1)測定タンク240及び真空ポンプ241系の電源をONにする。
2)バルブV1が開であり、バルブV2,V3が閉であることを確認する。
3)Oリング263をクリーンアップし、Oリング263上にアクリル板262を置く。
4)アクリル板262上にゴムパッキン261を載置し、その上にシート状複合体201をセットする。
5)膨張黒鉛シート201にゴムパッキン265を載置する。
6)金属フランジ266をアクリル板262にボルトで締め付ける。
7)電磁弁V4を開とし、真空ポンプを起動させる。
8)バルブV1,V2,V3を開にする。
9)到達圧を190Paとして真空引きを行う。
10)バルブV3を閉じる。
11)マノメーターから圧力P1を測定する。
12)電磁弁V5を開にする。
13)電磁弁V4を閉にする。
14)約1分後に真空ポンプ241をOFFにし、電磁弁V5を閉にする。
15)バルブV3を閉じ、30分後にマノメーター242の圧力P2を測定する。
16)バルブV2を閉じて膨張黒鉛シート201を取り外す。
【0030】
上記から、圧力変化量は下記(3)式により算出できる。
圧力変化量ΔP=P
2―P
1・・・(3)
ここで、
P
1:到達圧(190Pa)
P
2:測定後圧
また、(3)式から算出した圧力変化量を用いて膨張黒鉛シート201の端面から侵入し面方向に透過した、面方向のガス透過量は下記(4)式から算出される。
面方向のガス透過量(Pa・m
3)=圧力変化量(ΔP)×測定タンク容量(V)・・・(4)
V:測定タンク容量11,050cm
3(0.01105m
3)(φ190mm×390mm高さ)
【0031】
尚、膨張黒鉛シートは、下記の条件下において測定され下記式(5)により算出されるガス透過量が、0.03Pa・m
3以上のものを用いることが望ましい。
ガス透過量=(P
2−P
1)×0.01105・・・(5)
ここで、
・外界に露出する端面:φ76mmの外周面
・チャンバー内に露出する端面:φ32mmの内周面
・チャンバーの容積:11,050cm
3
・チャンバー内の初期圧力(Pa):P1(190Pa)
・チャンバー内の30分後の圧力(Pa):P2
【0032】
上記膨張黒鉛シートとは、膨張黒鉛を主体として形成されたシートであり、膨張黒鉛とは例えば天然黒鉛やキッシュ黒鉛等の黒鉛結晶を硫酸や硝酸等の酸に浸漬してその層間に酸を挿入し、洗浄・中和処理を行うことにより得られる層状の材料を急速に加熱することにより元の黒鉛結晶の100〜300倍に膨張させたものである。これにより、綿状の黒鉛(膨張後の膨張黒鉛)の原料が得られる。本発明に用いられる膨張黒鉛シートは、膨張後の膨張黒鉛を加圧圧縮してシート状に成形することで形成されたものである。膨張黒鉛の膨張の際の加熱温度は、400℃以上であることが好ましく、500℃以上であることがより好ましい。加熱温度の上限は特に限定されないが、例えば1200℃である。
【0033】
膨張黒鉛シートの断面を観察した写真を
図2及び
図3に示す。
図2の膨張黒鉛シートは、かさ密度0.4Mg/m
3のものであるが、厚さ方向に明確な連通気孔を有さないものの、面方向には粒子間の微小隙間が多く存在している。この微小隙間を外気が通過することで、水酸化物イオンの由来となる外気の供給が行われると推測される。また表面には凹凸が多く存在し、この凹凸により電解液との接触面積が拡大されると推測される。
図3の膨張黒鉛シートは、かさ密度2.0Mg/m
3のものであるが、かさ密度が高くなっても微細隙間が存在していることが確認できる。
【実施例】
【0034】
<第1実施例>
(実施例1)
図4に示すように、本発明の空気電池は、負極としてのアルミニウム箔(厚さ:0.1mm)1と、電解液としての食塩水(0.1mol/L)が含浸された紙製のウエス(日本製紙クレシア株式会社製 商品名:キムワイプ)2と、正極としての膨張黒鉛シート(膨張黒鉛の割合が100%であり、厚み:1.0mm、かさ密度:0.4Mg/m
3)3とが順に積層された積層体を備え、この積層体が、2枚の1mm厚のアクリル樹脂製板4の間に挟まれた構造となっている。尚、正極としての膨張黒鉛シート3の端面周囲は外気に解放された状態としている。
【0035】
ここで、上記正極としての膨張黒鉛シートは、以下のようにして作製した。
先ず、濃度98%の濃硫酸100重量部に、酸化剤としての過酸化水素を5重量部添加した酸処理液に、灰分が0.01重量%以下の天然黒鉛を30分浸漬し攪拌して反応させることにより、酸処理黒鉛を得た。次に、この酸処理黒鉛を上記酸処理液から取り出した後、十分水洗することにより、pHを7に近付け、更に乾燥を行った。
【0036】
次いで、上記水洗後の酸処理黒鉛を温度800℃の電気炉に投入して過熱膨張化処理を行って膨張黒鉛を作製した。この後、ローラ間に上記膨張黒鉛を通すことによって膨張黒鉛を加圧して、かさ密度0.4Mg/m
3で、厚みが1.00mmの膨張黒鉛シートを作製した。
このようにして作製した空気電池を、以下、電池A1と称する。
【0037】
(実施例2)
上記正極としての膨張黒鉛シートのかさ密度を0.7Mg/m
3、厚みを0.55mmとした以外は、上記実施例1と同様にして空気電池を作製した。
このようにして作製した空気電池を、以下、電池A2と称する。
【0038】
(実施例3)
上記正極としての膨張黒鉛シートのかさ密度を1.0Mg/m
3、厚みを0.40mmとした以外は、上記実施例1と同様にして空気電池を作製した。
このようにして作製した空気電池を、以下、電池A3と称する。
【0039】
(実施例4)
上記正極としての膨張黒鉛シートのかさ密度を1.6Mg/m
3、厚みを0.24mmとした以外は、上記実施例1と同様にして空気電池を作製した。
このようにして作製した空気電池を、以下、電池A4と称する。
【0040】
(実施例5)
上記正極としての膨張黒鉛シートのかさ密度を2.0Mg/m
3、厚みを0.20mmとした以外は、上記実施例1と同様にして空気電池を作製した。
このようにして作製した空気電池を、以下、電池A5と称する。
【0041】
(実験)
上記電池A1〜A5において、2枚のアクリル樹脂製板の間に挟んで、30〜60秒経過時点の平均の上記電池A1〜A5の電流値と電圧とを測定したので、それらの結果を
図5及び
図6に示す。電流値と電圧とは、電流・電圧テスターを各々の電池の正極及び負極に接続し、1秒間に4回、30〜60秒経過するまでに計240個のデータを測定したものである。
【0042】
図6から明らかなように、閉気孔を有する膨張黒鉛シートを用いた電池A1〜A5でも起電力が確認され、その値は
図6に示す通り、黒鉛シートのかさ密度に関係なく略一定で、0.5Vであった。このことから、従来は正極材料として厚さ方向に連通気孔を有する材料が最適とされていたが、厚さ方向の連通気孔を有さない膨張黒鉛シートであっても正極材料として用いることができることが分かった。
【0043】
また、
図5から明らかなように、かさ密度が低いほど電流値が高くなっていることが認められ、最もかさ密度が低い電池A1で最大の起電力を得ることができた。これは、かさ密度が低い程、黒鉛シート表面が粗く、マクロ的に電解液との接触表面積が拡大されて電解液に対する水酸化物イオンの供給効率が向上するため、電解液へのO
2供給量が増大するためと推測される。尚、黒鉛シートのかさ密度が低い程、電極としての電気抵抗は高くなると考えられるが、起電力の大きさが抵抗値の影響を上回った結果、黒鉛シートのかさ密度が低くても電流値が向上したものと推測される。
これらの結果より、膨張黒鉛シートが金属空気電池の正極材料として機能することを確認できた。
【0044】
更に、電池A1については、電流値及び電圧をアルミニウム箔の消耗が限界に達した2500秒(約42分)まで測定した。その結果を
図7及び
図8に示す。
図7に示す電流値では、正極と電解液との間に残存する酸素が消費された後も電流が生じており、
図8に示す電圧でも顕著な低下は見られない。このことから、膨張黒鉛シート内の粒子間の微小隙間を外気が通過して酸素が供給され、水酸化物イオンの供給が継続していることが推測される。
【0045】
<第2実施例>
(実施例1)
上記正極としての膨張黒鉛シートのかさ密度を1.0Mg/m
3、厚みを0.20mmのものを用い、且つ、負極としてアルミニウム板(厚さ0.3mm)を用いた以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして空気電池を作製した。
このようにして作製した空気電池を、以下、電池B1と称する。
【0046】
(実施例2〜6)
上記正極としての膨張黒鉛シートの厚みが、それぞれ、0.40mm、0.60mm、0.80mm、1.00mm、1.50mmのものを用いた以外は、上記第2実施例の実施例1と同様にして空気電池を作製した。
このようにして作製した空気電池を、以下それぞれ、電池B2〜B6と称する。
【0047】
(実施例7〜9)
上記正極としての膨張黒鉛シートの密度と厚みとが、表2に示すものを用いた以外は、上記第2実施例の実施例6と同様にして空気電池を作製した。
このようにして作製した空気電池を、以下それぞれ、電池B7〜B9と称する。
【0048】
(実験)
上記電池B1〜B9におけるガス透過量、2000秒までの平均電流値及び平均電流密度を調べたので、その結果を表1及び表2に示す。尚、上記電池B1〜B6における膨張黒鉛シートの厚みと平均電流密度との関係を
図9に示す。また、上記電池B6〜B9における膨張黒鉛シートの密度と平均電流密度との関係を
図10に示す。更に、電池B5については、時間と電流値との関係を
図11及び
図12に示す。
尚、実験は上記電池B1〜B9において、2枚のアクリル樹脂製板の間に挟んで、電流値を測定した。電流値は、電流・電圧テスターを各々の電池の正極及び負極に接続し、1秒間に4回測定した。電流密度は、電流値の値を、正極より面積が小さい負極の面積で除して算出した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1から明らかなように、膨張黒鉛シートの厚みが大きくなるにしたがって(電池B1から電池B6にいくにしたがって)、ガス透過量が多くなり、2000秒までの平均電流値と平均電流密度とが高くなっていることがわかる。特に、
図9から明らかなように、膨張黒鉛シートの厚みが0.80mm以上になると、平均電流密度が飛躍的に高くなっていることがわかる。
【0052】
また、表2及び
図10から明らかなように、膨張黒鉛シートの密度が低下し、且つ厚みが大きくなるにしたがって(電池B6から電池B9にいくにしたがって)、ガス透過量が多くなり、2000秒までの平均電流値と平均電流密度とが高くなっていることがわかる。更に、
図11及び
図12から明らかなように、電池B5では、4000秒を超えても起電力の低下は見られなかった。但し、電解液の乾燥により測定不能となった。(尚、アルミニウム板の消耗に関する問題は生じなかった)。
【0053】
<第3実施例>
(実施例1〜4)
電解液としてKOHを用いた以外は、上記第2実施例の実施例6〜実施例9と同様にして空気電池を作製した。
このようにして作製した空気電池を、以下それぞれ、電池C1〜C4と称する。
【0054】
(実験)
上記電池C1〜C4におけるガス透過量、100秒までの平均電流密度、最大電流密度を調べたので、その結果を表3に示す。尚、電池C1における時間と電流値との関係を
図13に示す。更に、上記電池C1〜C4における膨張黒鉛シートの密度と電流密度(100秒までの平均電流密度及び最大電流密度)との関係を
図14に示す。加えて、上記電池C1〜C4におけるガス透過量と電流値(100秒までの平均電流値及び最大電流値)との関係を
図15に示す。
尚、実験は上記電池C1〜C4において、2枚のアクリル樹脂製板の間に挟んで、電流値を測定した。電流値は、電流・電圧テスターを各々の電池の正極及び負極に接続し、1秒間に4回測定した。電流密度は、電流値の値を、正極より面積が小さい負極の面積で除して算出した。
【0055】
【表3】
【0056】
表3から明らかなように、膨張黒鉛シートの厚みと密度とを共に変化させた場合には、密度が低く且つ厚みが大きくなるにしたがって(電池C1から電池C4にいくにしたがって)、ガス透過量、及び最大電流密度が大きくなっていることがわかる(100秒までの平均電流密度については、若干異なっている)。また、
図14から明らかなように、電池C1〜電池C4では、膨張黒鉛シートの密度が小さくなると、平均電流密度と最大電流密度とが高くなっていることがわかる。更に、
図15から明らかなように、電池C1〜電池C4では、ガス透過量が多くなると、平均電流値と最大電流値とが高くなっていることがわかる。
【0057】
また、
図13から明らかなように、電池C1では、放電当初は電流値が高くなっているが、時間の経過と共に電流値が0に近づくことがわかる。これは、電解液(KOH)が強アルカリなので、時間の経過と共にアルミニウム表面に不導体膜が形成されることによると考えられる。
【0058】
(その他の事項)
(1)原料である黒鉛としては、上記天然黒鉛に限定するものではなく、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛などであっても良いが、工業的に入手が容易な天然鱗片状黒鉛を使用するのが好ましい。また、黒鉛の粒度は30〜100メッシュのものを使用することが望ましい。
【0059】
(2)上記酸処理時に用いる硫酸としては、濃硫酸に限定するものではなく、無水硫酸、発煙硫酸等、硫黄成分を含んでいれば良いが、工業的には、濃度90%以上、好ましくは濃度95〜98%の濃硫酸を使用するのが望ましい。また、黒鉛の浸漬、撹拌時間は30分に限定するものではないが、一般的には、15〜60分程度であることが望ましい。
【0060】
(3)酸化剤としては、上記過酸化水素に限定するものではなく、過酸化アンモニウム、過酸化カリウム等であっても良く、またその添加量は硫酸100重量部に対して、1〜10重量部であれば良い。
【0061】
(4)酸処理黒鉛を中和する方法としては十分な水洗を行うことに限定するものではなく、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩等から選択される固体中和剤を用いて行っても良い。
【0062】
(5)本発明は上記アルミニウム空気電池に限定するものではなく、亜鉛空気電池、鉄空気電池、マグネシウム空気電池、ナトリウム空気電池、カルシウム空気電池等にも適用することができる。