(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
蒸気により駆動する蒸気タービンと、蒸気を発生させるボイラ及び蒸気を前記ボイラから前記蒸気タービンに供給する蒸気ラインを含む蒸気系統と、前記蒸気タービンの排気を水に戻す復水器及び水を前記復水器から前記ボイラに供給する給水ラインを含む給水系統とを有する蒸気タービン設備の監視装置であって、
前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値を受け付ける入力部と、
前記入力部が受け付けた前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値を比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に基づく情報を出力する出力部と、
前記水の電気伝導率の検出値が前記蒸気の電気伝導率の検出値より大きいときは前記給水系統の異常と判定し、前記蒸気の電気伝導率の検出値が前記水の電気伝導率の検出値より大きいときは前記蒸気系統の異常と判定する判定部と、を備える
ことを特徴とする蒸気タービン設備の監視装置。
蒸気により駆動する蒸気タービンと、蒸気を発生させるボイラ及び蒸気を前記ボイラから前記蒸気タービンに供給する蒸気ラインを含む蒸気系統と、前記蒸気タービンの排気を水に戻す復水器及び水を前記復水器から前記ボイラに供給する給水ラインを含む給水系統とを有する蒸気タービン設備の監視方法であって、
前記給水系統中の水の電気伝導率の値を検出する第一検出工程と、
前記蒸気系統中の蒸気の電気伝導率の値を検出する第二検出工程と、
前記第一検出工程で検出された前記水の電気伝導率の検出値と前記第二検出工程で検出された前記蒸気の電気伝導率の検出値とを受け付ける入力工程と、
前記入力工程で受け付けた前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値とを比較する比較工程と、
前記比較工程の比較結果に基づく情報を出力する出力工程と、を含み、
前記水の電気伝導率の検出値が前記蒸気の電気伝導率の検出値より大きいときは前記給水系統の異常と判定し、前記蒸気の電気伝導率の検出値が前記水の電気伝導率の検出値より大きいときは前記蒸気系統の異常と判定する判定工程をさらに含む
ことを特徴とする蒸気タービン設備の監視方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、空気中の炭酸ガスが循環する水に溶解すると、溶解した炭酸ガス成分が陽イオン交換樹脂を通過し、水質監視装置に到達することによって、検出される酸電気伝導率が上昇する。溶解した炭酸ガス成分は腐食物質と異なるため、炭酸ガス成分が存在すると監視対象となる腐食物質の酸電気伝導率を正確に測定することができない。特許文献1のように、給水ラインの途中やボイラのドラム内のような様々な場所の水を採取しても、溶解した炭酸ガス成分はあらゆる場所に存在するから、水質監視装置は、海水漏洩を誤検出する問題点がある。よって、溶解した炭酸ガス成分の影響を抑え、信頼性の高い蒸気タービン設備の監視装置が切望されている。
【0007】
本発明は、前記問題点に鑑み、信頼性の高い蒸気タービン設備の監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様は、蒸気により駆動する蒸気タービンと、蒸気を発生させるボイラ及び蒸気を前記ボイラから前記蒸気タービンに供給する蒸気ラインを含む蒸気系統と、前記蒸気タービンの排気を水に戻す復水器及び水を前記復水器から前記ボイラに供給する給水ラインを含む給水系統とを有する蒸気タービン設備の監視装置であって、前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値を受け付ける入力部と、前記入力部が受け付けた前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値を比較する比較部と、前記比較部の比較結果に基づく情報を出力する出力部と、を備える。
【0009】
当該監視装置では、水の電気伝導率の検出値と蒸気の電気伝導率の検出値とを比較することで、給水系統及び蒸気系統等を循環する炭酸ガスの影響を排除した監視値を得ることができるから、信頼性の高い水及び蒸気の蒸気タービン設備の監視装置が実現できる。
【0010】
また、第2の態様は、第1の態様の蒸気タービン設備の監視装置において、前記比較部の比較結果から前記給水系統又は前記蒸気系統の異常を判定する判定部を備え、前記出力部は、前記判定部における判定結果を情報として出力する。
【0011】
当該監視装置では、前記比較結果から、監視者の評価を待たずに、迅速且つ的確に異常判定を行うことができるから、迅速で的確な異常判定が可能な且つ信頼性の高い水及び蒸気の蒸気タービン設備の監視装置が実現できる。
【0012】
また、第3の態様は、第1又は第2の様態の電気伝導率監視装置において、前記比較部は、比較結果として前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値との差の二乗の平方根又は差の絶対値を求める。
【0013】
当該監視装置では、前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値との差の二乗の平方根又は差の絶対値を演算することによって、比較的簡単な演算及び判定で確実に異常を判定できるから、簡単な且つ信頼性の高い水及び蒸気の蒸気タービン設備の監視装置が実現できる。
【0014】
また、第4の態様は、第1から第3のいずれかの様態の監視装置において、前記比較部は、比較結果として前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値との大小関係を示すパラメータを求める。
【0015】
当該監視装置では、海水の漏洩と、蒸気への電解質の混入とを判別できるパラメータを求めるから、高機能な且つ信頼性の高い水及び蒸気の蒸気タービン設備の監視装置が実現できる。
【0016】
また、第5の態様は、第4の態様の監視装置において、前記パラメータは、前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値との差又は比である。
【0017】
当該監視装置では、海水の漏洩か、蒸気への電解質の混入か、を簡単な演算の結果を用いて判定できるから、簡便ながら高機能且つ信頼性の高い水及び蒸気の蒸気タービン設備の監視装置が実現できる。
【0018】
また、第6の態様は、第4又は第5の態様の蒸気タービン設備の監視装置において、前記水の電気伝導率の検出値が前記蒸気の電気伝導率の検出値より大きいときは前記給水系統の異常と判定し、前記蒸気の電気伝導率の検出値が前記水の電気伝導率の検出値より大きいときは前記蒸気系統の異常と判定する判定部を備える。
【0019】
当該監視装置では、給水系統の異常か、蒸気系統の異常かを判定できるから、より高機能且つ信頼性の高い水及び蒸気の蒸気タービン設備の監視装置が実現できる。
【0020】
また、第7の態様は、第1から第6の様態のいずれかの蒸気タービン設備の監視装置において、前記蒸気タービン設備の出力変動時の、前記比較部の比較結果をマスクする。
【0021】
当該監視装置では、前記蒸気タービン設備の出力変動時において異常を誤検出しないから、より信頼性の高い水及び蒸気の蒸気タービン設備の監視装置が実現できる。
【0022】
また、第8の態様は、第1から第7の様態のいずれかの蒸気タービン設備の監視装置であって、前記給水系統中の水の電気伝導率の値を検出する第一検出部と、前記蒸気系統中の蒸気の電気伝導率の値を検出する第二検出部と、を備え、前記入力部は、前記第一検出部で検出された前記水の電気伝導率の検出値と前記第二検出部で検出された前記蒸気の電気伝導率の検出値とを受け付ける。
【0023】
当該監視装置では、前記水の電気伝導率の検出値を検出する第一検出部と、前記蒸気の電気伝導率の検出値を検出する第二検出部とを備えることによって、検出部を別途設ける必要がないから、取り扱いが簡便で信頼性の高い水及び蒸気の蒸気タービン設備の監視装置が実現できる。
【0024】
また、第9の態様は、第8の態様の蒸気タービン設備の監視装置において、前記第一検出部及び前記第二検出部は、それぞれ炭酸ガスを脱気する脱気ユニットを含む。
【0025】
当該監視装置では、前処理で炭酸ガスを脱気して検出することによって、監視不要な炭酸ガスを検出時に排除した上で、完全に排除できなかった炭酸ガスの影響を相殺できるから、ノイズの少ない検出が可能であり、より信頼性の高い水及び蒸気の蒸気タービン設備の監視装置が実現できる。
【0026】
また、第10の態様は、第1から第9のいずれかの態様の蒸気タービン設備の監視装置と、前記蒸気タービンと、前記給水系統と、前記蒸気系統と、を有する。
【0027】
また、第11の態様は、蒸気により駆動する蒸気タービンと、蒸気を発生させるボイラ及び蒸気を前記ボイラから前記蒸気タービンに供給する蒸気ラインを含む蒸気系統と、前記蒸気タービンの排気を水に戻す復水器及び水を前記復水器から前記ボイラに供給する給水ラインを含む給水系統とを有する蒸気タービン設備の監視方法であって、前記給水系統中の水の電気伝導率の値を検出する第一検出工程と、前記蒸気系統中の蒸気の電気伝導率の値を検出する第二検出工程と、前記第一検出工程で検出された前記水の電気伝導率の検出値と前記第二検出工程で検出された前記蒸気の電気伝導率の検出値とを受け付ける入力工程と、前記入力工程で受け付けた前記水の電気伝導率の検出値と前記電気伝導率の検出値とを比較する比較工程と、前記比較工程の比較結果に基づく情報を出力する出力工程と、を含む。
【0028】
また、第12の態様は、第11の態様の蒸気タービン設備の監視方法において、前記比較工程の比較結果から前記給水系統又は前記蒸気系統の異常を判定する判定工程を含み、前記出力工程では、前記判定工程における判定結果を情報として出力する。
【0029】
また、第13の態様は、第11又は第12の態様の電気伝導率監視方法において、前記比較工程では、比較結果として前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値との差の二乗の平方根又は差の絶対値を求める。
【0030】
また、第14の態様は、第11から第13の態様の監視方法において、前記比較工程では、比較結果として前記水の電気伝導率の検出値と前記蒸気の電気伝導率の検出値との大小関係を示すパラメータを求める。
【0031】
また、第15の態様は、第14の態様の蒸気タービン設備の監視方法において、前記水の電気伝導率の検出値が前記蒸気の電気伝導率の検出値より大きいときは前記給水系統の異常と判定し、前記蒸気の電気伝導率の検出値が前記水の電気伝導率の検出値より大きいときは前記蒸気系統の異常と判定する判定工程を含む。
【発明の効果】
【0032】
本発明の一態様では、水の電気伝導率の検出値と蒸気の電気伝導率の検出値とを比較することで、給水系統及び蒸気系統等を循環する炭酸ガスの影響を排除した出力を得ることができる。このため、本発明の一態様によれば、信頼性の高い水及び蒸気の蒸気タービン設備の監視を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る各種実施形態について、図面を用いて説明する。
【0035】
「第一実施形態」
本発明に係る監視装置及びこれを備える蒸気タービン設備の第一実施形態について、
図1〜
図3を参照して説明する。
【0036】
本実施形態の蒸気タービン設備は、
図1に示すように、蒸気により駆動する蒸気タービン2と、蒸気を発生させるボイラ3と、蒸気タービン2の排気を水(復水)に戻す復水器4と、水を復水器4から復水ポンプ5を介してボイラ3に供給する給水ライン6と、蒸気をボイラ3から蒸気タービン2に供給する蒸気ライン7と、監視装置1とを備える。
【0037】
本実施形態の給水系統Aは、復水器4と、復水ポンプ5と、給水ライン6とを備える。また、本実施形態の蒸気系統Bは、ボイラ3及び蒸気ライン7を備える。
【0038】
給水系統Aの水を監視するために、給水ライン6の途中でサンプル管を分岐させることによって、給水ライン6を流れる水の一部がサンプリングされる。監視装置1は、サンプリングされた水の酸電気伝導率を検出する。サンプリングされる水は、給水系統Aのいずれから採取してもよく、給水ライン6の水に限らず、復水器4における復水を採取してもよい。
【0039】
さらに、監視装置1は、蒸気系統Bの蒸気を監視するために、蒸気ライン7の途中でサンプル管を分岐させることによって、蒸気ライン7を流れる蒸気の一部がサンプリングされる。監視装置1は、サンプリングされた蒸気を水に戻して、サンプリングされた蒸気の酸電気伝導率を検出する。サンプリングする蒸気は、蒸気系統Bのいずれから採取してもよく、蒸気ライン7の蒸気に限らず、ボイラ3内で発生した蒸気を採取してもよい。
【0040】
監視装置1は、第一検出部8と、第二検出部9と、処理部10とを有する。監視装置1は、水質の監視だけではなく、後で説明するように、蒸気タービン側へ電解質が混入してしまう、いわゆるキャリーオーバー(飛沫同伴)が生じる場合があるので、蒸気の監視も必要となる。
【0041】
第一検出部8は、少なくともサンプリングされた水の酸電気伝導率を検出する検出器8aで構成されている。第二検出部9は、少なくともサンプリングされた蒸気の酸電気伝導率を検出する検出器9aで構成されている。さらに、第一検出部8及び第二検出部9には、陽イオン交換樹脂を設けられている。陽イオン交換樹脂を設け、酸電気伝導率を検出することによって、第一検出部8及び第二検出部9は、陽イオンを高感度で検出している。薬剤(例えば、アンモニアやヒドラジン)や漏洩した海水を含む水やキャリーオーバー物質を含む蒸気から得た水を、水素イオン形の強酸性陽イオン交換樹脂等の陽イオン交換樹脂を通過させると、水に含まれるNa
+、Ca
2+、NH
4+、N
2H
5+等の陽イオンはH
+に交換される。H
+は、Na
+、Ca
2+、NH
4+、N
2H
5+等と比較して極限モル伝導率が大きいため、漏洩した海水の検出やキャリーオーバー物質の検出には、水素イオン形の強酸性陽イオン樹脂を通過させることによって、検出感度が増幅され、感度良く検出することができる。
【0042】
しかし、酸電気伝導率を検出しなくても、高感度にイオンを検出できる場合は、第一検出部8及び第二検出部9に陽イオン交換樹脂を設けなくてもよい。
【0043】
第一検出部8は検出値D1を処理部10へ出力し、第二検出部9は検出値D2を処理部10へ出力する。第一検出部8は、検出値D1を検出値D1に相関した信号で送信し、第二検出部9は、検出値D2を検出値D2に相関した信号で送信する。これらの信号は、電気信号、光信号、電波信号等どのような通信形態の信号でもよく、検出値D1及び検出値D2に相関した信号を送信するものであれば、アナログ方式でも、デジタル方式でも、どのような方式でもよい。
【0044】
処理部10は、
図2に示すように、水の酸電気伝導率の検出値と蒸気の酸電気伝導率の検出値とを受け付ける入力部101と、入力部101が受け付けた検出値D1及び検出値D2を比較する比較部102と、比較部102の比較結果を判定する判定部103と、比較部102の比較結果や判定部103の判定結果を出力する出力部104で構成されている。また、処理部10は、
図3に示すような処理を行う。
【0045】
なお、処理部10は、CPU、記憶部、I/O部等を有するコンピュータシステムからなり、入力部101、比較部102、判定部103及び出力部104を構成している。そして、各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0046】
また、処理部10は、入力部101、比較部102、判定部103及び出力部104を、それぞれ個別に電気回路や電子回路で構成してもよい。
【0047】
本実施形態の蒸気タービン設備では、
図1に示すように、ボイラ3で発生させた蒸気は、蒸気ライン7を経由して蒸気タービン2に供給される。蒸気は、蒸気タービン2の駆動に用いられた後、復水器4において冷却管を流れる海水等により冷却されて水(復水)に戻される。復水器4の水は、復水ポンプ5により給水ライン6を経由してボイラ3に送られる。ボイラ3に送られた水は再び蒸気に変換され、蒸気タービン2に供給される。このように、蒸気及び水の流れによって、全体として循環系統が形成される。
【0048】
ここで、蒸気タービン側へのキャリーオーバーについて説明する。
ボイラ3は、給水ライン6から送られる水を加熱することによって、蒸気を得ている。そして、蒸気タービン設備は、蒸気を蒸気ライン7によって蒸気タービン2へ供給している。ここで、給水ライン6から送られる水に漏洩した海水や薬剤が含まれる、すなわち電解質が含まれていたとしても、この水を沸騰させることにより得た蒸気には、通常、水分(H
2O)しか基本的に含まれない。しかし、ボイラ3内のドラムの水面レベルの上昇、デミスターの劣化、ドラム内の電解質の過剰濃縮によって、ボイラ3内の電解質が含まれる水滴やミストが蒸気ライン7へ流れる蒸気に随伴し、蒸気タービン2側へ電解質が混入してしまい、電解質のキャリーオーバーが生じることがある。
【0049】
給水系統Aから蒸気系統Bへキャリーオーバーされる物質は、蒸気タービンの腐食やスケールの原因となる物質を含んでいる。したがって、給水系統Aの水の水質監視だけではなく、蒸気系統Bの蒸気に含まれ得るキャリーオーバー物質の監視も必要となる。
【0050】
以下、本実施例の処理部10の処理について、
図3のフローチャートに従って説明する。
【0051】
処理部10が処理を開始(S1)すると、入力部101は、第一検出部8及び第二検出部9から信号として、検出値D1及びD2を受け付ける(S2:入力工程)。ここで、第一検出部8は水の酸電気導電率を検出値D1として検出し(第一検出工程)、第二検出部9は検出値D2として蒸気の酸電気導電率を検出する(第二検出工程)。入力部101は、検出値D1及びD2を比較部102に出力する。
図2において、入力部101は、受け付けた検出値D1に関する信号及び検出値D2に関する信号を個別に比較部102へ送信するが、送信後に比較部102において分離可能であるなら、検出値D1及びD2を一括した信号で送信してもよい。
【0052】
比較部102は、入力部101から検出値D1及びD2を受け付け、検出値D1と検出値D2とを比較する演算を行い、比較結果を求める。比較部102は、検出値D1と検出値D2の比較結果を求めるものであれば、どのような演算を行うものであってもよい。
【0053】
ここで、比較部102についての作用・効果を説明する。
蒸気タービン設備の運転中においては、復水器4内は真空に保たれているが、蒸気タービン設備の検査による運転停止時は、復水器4内は真空破壊により真空が保たれない状態となる。このため、復水器4の復水の中や給水ライン6の水の中に、空気中に含まれる炭酸ガスが混入する。酸電気伝導率を検出する上で、循環系統の蒸気や水に空気中の炭酸ガスが混入すると、炭酸イオンの影響によって、蒸気や水の酸電気伝導率が上昇することとなる。たとえ、陽イオン交換樹脂を通過させて酸電気伝導率を検出したとしても、水や蒸気に空気中の炭酸ガスが含まれていると、背景技術の欄で説明したように、炭酸ガス成分は、当該陽イオン交換樹脂を通過してしまい、酸電気伝導率の検出に影響を与える。
【0054】
炭酸ガス成分は、酸電気伝導率の監視対象である電解質とは異なり、蒸気タービン2において、スケールや腐食物質の原因とはならず、海水の漏洩でもないから監視不要である。しかし、炭酸ガス成分は、酸電気伝導率の検出に影響を及ぼすから、炭酸ガスが混入すると、スケールや腐食物質の原因となる物質の電解質の酸電気伝導率や漏洩した海水の酸電気伝導率を正確に検出できない。
【0055】
そこで、比較部102は、水の酸電気伝導率の検出値D1と蒸気の酸電気伝導率の検出値D2とを比較する(S3:比較工程)。
蒸気や水に混入した炭酸ガスは、スケールや腐食物質のように蒸気タービン2、循環系統の配管や機器等に付着したり、海水や薬剤のようにボイラ内に蓄積したりしない。言い換えると、蒸気や水に混入した炭酸ガスは、水や蒸気への混入量が維持されたまま蒸気タービン設備を水や蒸気と共に循環する。よって、循環する炭酸ガスは、第一検出部8及び第二検出部9にいずれにおいても同程度に検出されることになる。
【0056】
逆に、給水系統Aの水に混入した海水に溶解する電解質は、ボイラ3内へ混入するものの、ボイラ3では蒸発しないから、蒸気系統Bでは検出されない。また、蒸気系統Bへキャリーオーバーした電解質のうち、蒸気タービン2にスケールや腐食を形成する物質は、蒸気タービン2に付着してスケールや腐食物質を形成するから、給水系統Aに戻るときには少なからず減少する。そして、蒸気タービン2にスケールや腐食を形成する物質は、蒸気系統Bに比べて、給水系統Aにおいて低レベルで検出される。
【0057】
よって、給水系統Aに海水が混入した場合や、蒸気系統Bに当該スケールや腐食物質を形成する物質が混入した場合は、第一検出部8と第二検出部9とでは、異なる値が検出されることになる。
【0058】
したがって、水の酸電気伝導率の検出値D1と蒸気の酸電気伝導率の検出値D2とを比較すれば、第一検出部8及び第二検出部9の両方で検出された酸電気伝導率のうち、炭酸ガスに対応する酸電気伝導率を相殺して評価することができ、監視装置1は、監視不要な炭酸ガスの影響を低減した監視を行うことができる。
【0059】
なお、海水に溶解する電解質としては、Na
+、Cl
−、Ca
2+等があり、スケールや腐食物質を形成する電解質としては、Na
+、Cl
−、Ca
2+に加え、PO
43−がある。
【0060】
さらに、炭酸ガスの影響が大きい場合には、変形例として、第一検出部8を検出器8a及び脱気ユニット8bで構成し、第二検出部9を検出器9a及び脱気ユニット9bで構成してもよい。具体的には、
図4に示すように、検出器8aの上流に脱気ユニット8b、検出器9aの上流に脱気ユニット9bを設けることによって、第一検出部8及び第二検出部9は、炭酸ガスを脱気するという前処理を行う。監視装置1は、この前処理を行って得た検出値D1と検出値D2とを比較することによって、監視不要な炭酸ガスを検出時に排除した上で、完全に排除できなかった炭酸ガスの影響を相殺する。そして、脱気ユニット8b,9bを設けることによって、ノイズの少ない環境での監視が可能となり、脱気ユニット8b,9bを設けた監視装置1は、脱気ユニット8b,9bを設けない場合に比べてより微妙な量の電解質を検出することができる。
【0061】
検出値D1と検出値D2との差又は比を評価できる演算の例としては、検出値D1と検出値D2の差又は比だけではなく、検出値D1と検出値D2との差の二乗の平方根、検出値D1と検出値D2の差の絶対値、検出値D1と検出値D2との比の二乗、検出値D1と検出値D2との比の平方根などが考えられる。すなわち、検出値D1とD2との差又は比を評価できる比較結果を求めるものであれば、どのような演算であってもよい。
【0062】
一例として、検出値D1と検出値D2の差の二乗の平方根を算出する演算を、以下の式(1)に示す。
【0063】
M=√((D1−D2)
2) ・・・(1)
【0064】
比較部102は、当該演算を行い、演算結果を監視値M(比較結果)として、判定部103又は出力部104に出力する(
図2)。
【0065】
判定部103は、比較結果が異常かどうかを判定する(S4:判定工程)。異常かどうかの判定は、例えば監視値Mをしきい値M1と比較し、上記判定を行う。異常かどうかの判定は、上記演算のうち、どのような演算結果を用いてもよいが、式(1)の演算結果を用いれば、比較的簡単な演算及び判定で確実に異常を判定できる。この判定を行うことによって、監視者の評価を待たずに、迅速且つ的確に異常判定を行うことができる。
【0066】
判定部103は、異常かどうかの判定の結果、異常でない(NO)と判定されたなら、次の検出値D1と検出値D2とを受け付ける。判定部103が、異常かどうかの判定の結果、異常(YES)と判定したら、出力部104は異常出力を行い(S
5)、処理部10は処理を終了する(S
6)。異常出力は、表示装置や記録紙等の表示媒体への出力、記憶装置への出力、警報灯や警報音等の警報器への出力等、監視者がリアルタイムに又は後に異常を確認できるものであればどのようなものであってもよい。
【0067】
「第二実施形態」
本発明に係る蒸気タービン設備の監視装置の第二実施形態について、
図5のフローチャートに従って説明する。
【0068】
本実施形態の監視装置1は、第一実施形態の判定部103の処理が異なるだけで、基本的な装置構成は第一実施形態の装置構成と同一である。
【0069】
本実施形態では、処理部10が処理を開始(S1)すると、比較工程(S3)まで、第一実施形態と同様な処理が行われる。
ただし、本実施形態の場合、比較部102は、監視値Mとして、検出値D1と検出値D2との大小関係を評価できるパラメータを算出する。大小関係を評価できるパラメータとして、検出値D1と検出値D2の差(M=(D1−D2))や、検出値D1と検出値D2の比(M=D1/D2)や、検出値D1と検出値D2との比の二乗や、検出値D1と検出値D2との比の平方根などがある。
【0070】
判定部は、S4:判定工程において、まずは第一実施例と同様に、比較結果が異常かどうかを判定する(S4−1:第一判定工程)。続いて、検出値D1と検出値D2との大小関係の判定を行う(S4−2:第二判定工程)。
【0071】
なお、以下大小関係の判定において、検出値D1と検出値D2とが大小関係にない場合、すなわち検出値D1と検出値D2とが実質的に等しい場合は、給水系統A、蒸気系統Bどちらの異常としてもよいし、異常なしと判定してもよい。以下は、説明を簡単にするために検出値D1と検出値D2とが等しくない場合について説明する。
【0072】
検出値D1と検出値D2とが同じ酸電気伝導率に対して同じ値を示すように調整されているなら、検出値D1が検出値D2より大きい場合は、酸電気伝導率の上昇の原因が給水系統Aにあることとを意味するし、検出値D2が検出値D1より大きい場合は、酸電気伝導率の上昇の原因が蒸気系統Bにあることを意味する。
【0073】
そこで、上記大小関係の判定を行い、検出値D1が検出値D2より大きい(YES)と判定した場合は、給水系統Aの異常と判定し、検出値D1が検出値D2より大きくない(NO)と判定した場合は、蒸気系統Bの異常と判定し、出力部104は判定結果を出力し(S5:出力工程)、処理を終了する(S6)。
【0074】
判定部103における前記大小関係の判定は、様々な形態がある。例えば、比較部102が、M=D1−D2を演算するものであるなら、判定部103は、監視値Mの正負を判定する。もし、検出値D1と検出値D2とが同じ酸電気伝導率に対して同じ値を示すように調整されているなら、監視値Mが正の場合、給水系統Aの水の酸電気伝導率が蒸気系統Bの酸電気伝導率より高いことになる。したがって、判定部103は、監視値Mが正の場合、海水の漏洩が起きていると判定する。逆に、監視値Mが負の場合、判定部103は、キャリーオーバーした物質が蒸気に混入していると判定する。
【0075】
変形例として、比較部102が、M=D1/D2を演算するものであるなら、判定部103は、監視値Mの1より大きいか小さいかを判定する。もし、検出値D1と検出値D2とが同じ酸電気伝導率に対して同じ値を示すように調整されているなら、監視値Mが1より大きい場合(D1>D2の場合)、給水系統Aの水の酸電気伝導率が蒸気系統Bの酸電気伝導率より高いことになる。したがって、判定部103は、監視値Mが1より大きい場合、海水の漏洩が起きていると判定する。逆に、監視値Mが1より小さい場合、判定部103は、キャリーオーバーした物質が、蒸気に混入していると判定する。
【0076】
当該実施形態では、判定部103は、上記異常かどうかを判定の後に大小関係を判定しているが、変形例として、上記異常かどうかを判定の前に大小関係を判定してもよい。上記異常かどうかを判定の前に大小関係を判定する場合は、判定部103は、
図6のフローチャートに従って処理する。
図6のフローチャートでは、検出値D1と検出値D2との大小関係の判定(S4−1´:第一判定工程)を行った後で、比較結果が異常かどうかの判定(S4−2´:第
二判定工程)を行っている。
【0077】
当該実施形態では、上記異常かどうかを判定の前又は後に大小関係を判定(上記異常かどうかの判定に対して直列に大小関係を判定)しているが、変形例として、上記異常かどうかを判定する判定部103と別に、大小関係を判定する判定部103´とを処理部10に設けて、上記異常かどうかの判定に対して並列に大小関係を判定してもよい。
【0078】
また、監視者が海水の漏洩、蒸気の混入を判定する場合、処理部10に判定部103を設けず、又は判定部103を設けると共に、比較部102が、監視値Mを出力部104に直接送信(
図2)するように構成する。そして、出力部104は、監視値Mに基づく情報を直接出力する。出力部104の出力は、監視値Mの直接出力はもちろん、監視値Mを並べたテーブルや監視値Mの時間変化のグラフといった、監視値Mを監視者が評価できる出力であれば、どのようなものであってもよい。
【0079】
例えば、出力部104が、表示部や記録紙といった表示媒体に当該出力を表示すれば、監視者は海水の漏洩、蒸気の混入の判定が可能となるから、出力部104は、熟練者による総合的判定や微妙な判定を支援できる。また、出力部104とすることによって、判定部103をなくして処理部10を簡素化することができる。または、出力部104が、判定部103の判定結果と共に監視値Mに基づく情報とを出力することによって、監視者は二重の監視を行うことが可能となる。
【0080】
図7及び
図8には、実際の監視結果を示す。
図7及び
図8の上のグラフは、蒸気タービン2の出力(電力)を示す波形であって、運転途中でタービン設備を停止させ、その後再起動させた時の出力状態を示している。
図7及び
図8の中央のグラフは、検出値D1(点線)及び検出値D2(実線)の波形であって、蒸気タービン2の出力波形と同期させて示してある。
図7及び
図8の下のグラフは、検出値D1と検出値D2とから演算された監視値Mの波形であって、蒸気タービン2の出力波形と同期させて示してある。M1は、監視値Mの異常を判定するためのしきい値を示す。
【0081】
図7において、タービン設備の再起動(蒸気タービン2の出力上昇)直後までは給水系統A及び蒸気系統Bに異常がないため、蒸気タービン2の出力下降時X1及び出力上昇時X2以外は、監視値Mに変化が見られない。
【0082】
ここで、蒸気タービン2の出力上昇時及び出力下降時の監視値Mの変化は、タービン設備の停止時、起動時を含む出力変動時における復水器4内の空気の脱気や給水ライン6や蒸気ライン7の切り替えに伴う、炭酸ガスや残留物の時間変化のタイムラグといった、蒸気タービン設備の特性によるものであって、海水の漏洩、蒸気の混入に由来するものではない。したがって、蒸気タービン設備の起動時又は遮断時を含む出力変動時の一定の期間(X1、X2)は、監視値Mをマスクすることによって、蒸気タービン2の出力上昇時及び出力下降時といった出力変動時の監視値Mの変化を異常と検出されないようにすることができる。
【0083】
当該マスクは、蒸気タービン設備の仕様や運転プログラムで予め決まる時刻を用いてマスクするものであってもよいし、蒸気タービン設備のポンプ起動やボイラ起動等の制御信号や応答信号(完了信号)に同期してマスクするものであってもよい。さらには、上記マスクは、蒸気タービン2の出力の変化や各種系統の弁の開閉信号等を検出し、当該検出から算出したマスク時刻を用いてマスクするものであってもよい。
【0084】
一方、
図7のグラフには、蒸気タービン2の出力上昇後から少し経過した段階(
図7のグラフの最終時刻段階)で、海水の漏洩が起こった時の波形が示される。
図7の下のグラフの監視値Mは、検出値D1と検出値D2との差の二乗の平方根(式(1))によって演算された波形である。海水の漏洩によって、蒸気系統Bの蒸気の酸電気伝導率はほとんど変化しないのに対して、給水系統Aの水の酸電気伝導率が変化して高くなる。そして、検出値D2はほとんど変化しないのに対して、検出値D1は変化して高くなる。その結果、検出値D1の変化によって、監視値Mの値は変化して高くなる。監視値Mの変化は、しきい値M1によって判定され、異常として検出される。
【0085】
変形例を
図8のグラフに示す。
図8のグラフには、タービン設備の出力上昇後から少し経過した段階(
図8のグラフの最終時刻段階)で、キャリーオーバーが起こった時の波形が示される。
図8の下のグラフの監視値Mは、検出値D1から検出値D2を引いた値(監視値M=D1−D2)の波形である。水の酸電気伝導率はほとんど変化しないのに対して、キャリーオーバーした物質が蒸気に混入することによって、蒸気の酸電気伝導率が変化して高くなる。そして、検出値D1はほとんど変化しないのに対して、検出値D2は変化して高くなり、検出値D2の変化によって、監視値Mの値も変化して逆に低くなる。監視値Mの変化は、しきい値M1及びM2によって判定され、異常として検出される。
【0086】
さらに、
図8の例では、監視値Mの正負を判定する。
図8の波形の場合、監視値Mは、異常と検出された時刻において、負の値を示しているから、この異常は、蒸気系統Bの異常と判定される。
【0087】
以上説明した蒸気タービン設備の水及び蒸気の酸電気伝導率の監視装置は、火力発電プラントに適用できることはもちろん、原子力発電プラントや地熱発電プラント等にも適用できる。さらには、発電プラントに限らず、ポンプや船舶等といった蒸気タービン設備を利用するものであれば、どのような適用できる。