特許第6578613号(P6578613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6578613無線通信における端末識別方法および端末識別装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578613
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】無線通信における端末識別方法および端末識別装置
(51)【国際特許分類】
   H04W 4/38 20180101AFI20190912BHJP
【FI】
   H04W4/38
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-164540(P2015-164540)
(22)【出願日】2015年8月24日
(65)【公開番号】特開2017-46027(P2017-46027A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年8月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進制度、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(72)【発明者】
【氏名】田久 修
(72)【発明者】
【氏名】折内 皆人
(72)【発明者】
【氏名】白井 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】笹森 文仁
(72)【発明者】
【氏名】半田 志郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 威生
【審査官】 横田 有光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−201834(JP,A)
【文献】 折内皆人 ほか,一括収集法におけるBelief Propagationによるマルチターゲットトラッキングを用いたセンシング分離の一検討,2015年電子情報通信学会総合大会講演論文集,2015年 2月24日,B-17-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
G08C 13/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれセンサ情報を含む無線信号を通知する2以上の送信機と、受信機とを有する無線通信において、任意の時刻に前記受信機で受信したセンサ情報にラベル付けした第1のノード集合と、隣接する時刻に受信したセンサ情報にラベル付けした第2のノード集合における、それぞれ同じラベル付けをされたセンサ情報群間の距離を表す第1のエネルギー式を最小化するように、前記ラベルを決定することにより前記送信機を識別する、無線通信における端末識別方法であって、
前記第1のエネルギー式と併せて、予め取得された各送信機固有の特徴量の平均値に対する前記第1のノード集合の各ラベルに係る特徴量の瞬時的な変動を表す第2のエネルギー式を最小化するステップを含むことを特徴とする無線通信における端末識別方法。
【請求項2】
前記特徴量は、送信機から通知された無線信号の電力、無線通信の到来角度、または無線信号の周波数のゆらぎ量のうち1または2以上の組み合わせからなる物理量であることを特徴とする請求項1に記載の無線通信における端末識別方法。
【請求項3】
前記センサ情報群間の距離を前記第1のノード集合におけるセンサ情報に係る物理量と前記センサ情報と同じラベルを有する前記第2のノード集合におけるセンサ情報に係る物理量との差分の二乗の総和とし、前記特徴量の瞬時的な変動を前記各特徴量の平均値に対する前記第1のノード集合の各ラベルに係る特徴量の変動の二乗の総和として、前記ステップは前記第1のエネルギー式と前記第2のエネルギー式の和を最小化するものであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の無線通信における端末識別方法。
【請求項4】
前記第1のエネルギー式と前記第2のエネルギー式の和が最小となる解を決定するため、確率伝播法、グラフカット法から選択される数理最適化手法を用いることを特徴とする請求項3に記載の無線通信における端末識別方法。
【請求項5】
同時に受信したセンサ情報を一定期間記録し、前記無線信号のうち、任意の時刻におけるセンサ情報の数と実際の端末の数とを比較して、両者が異なる場合に当該センサ情報を取り除いて処理を行う、衝突除去ステップと、をさらに含むことを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項に記載の無線通信における端末識別方法。
【請求項6】
それぞれセンサ情報を含む無線信号を通知する2以上の送信機と、受信機とを有する無線通信において、任意の時刻に前記受信機で受信したセンサ情報にラベル付けした第1のノード集合と、隣接する時刻に受信したセンサ情報にラベル付けした第2のノード集合における、それぞれ同じラベル付けをされたセンサ情報群間の距離を表す第1のエネルギー式を最小化するように、前記ラベルを決定することにより前記送信機を識別する、無線通信における端末識別装置であって、
前記第1のエネルギー式と併せて、予め取得された各送信機固有の特徴量の平均値に対する前記第1のノード集合の各ラベルに係る特徴量の瞬時的な変動を表す第2のエネルギー式を最小化する手段を含むことを特徴とする無線通信における端末識別装置。
【請求項7】
前記特徴量は、送信機から通知された無線信号の電力、無線通信の到来角度、または無線信号の周波数のゆらぎ量のうち1または2以上の組み合わせからなる物理量であることを特徴とする請求項6に記載の無線通信における端末識別装置。
【請求項8】
前記センサ情報群間の距離を前記第1のノード集合におけるセンサ情報に係る物理量と前記センサ情報と同じラベルを有する前記第2のノード集合におけるセンサ情報に係る物理量との差分の二乗の総和とし、前記特徴量の瞬時的な変動を前記各特徴量の平均値に対する前記第1のノード集合の各ラベルに係る特徴量の変動の二乗の総和として、前記手段は前記第1のエネルギー式と前記第2のエネルギー式の和を最小化するものであることを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の無線通信における端末識別装置。
【請求項9】
前記第1のエネルギー式と前記第2のエネルギー式の和が最小となる解を決定するため、確率伝播法、グラフカット法から選択される数理最適化手法を用いることを特徴とする請求項8に記載の無線通信における端末識別装置。
【請求項10】
同時に受信したセンサ情報を一定期間記録し、前記無線信号のうち、任意の時刻におけるセンサ情報の数と実際の端末の数とを比較して、両者が異なる場合に当該センサ情報を取り除いて処理を行う、衝突除去手段と、をさらに含むことを特徴とする請求項6から9のうちいずれか1項に記載の無線通信における端末識別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信における端末識別方法および端末識別装置に関する。具体的には、自律分散システム等の無線通信において、端末識別信号を使用せずに、受信機が各送信機を識別する端末識別方法および端末識別装置に関する。
【0002】
物体の状態を認識するセンサに無線機能を取り付けることで、インターネット上でセンサ情報を記録し、状態モニタや機器制御、課金情報の収集などを行う技術は、近年、Machine to Machin (M2M) Communications やInternet of Things (IoT)と呼ばれ、幅広い方面への応用が検討されている。
【0003】
上記技術において、センサ情報収集用の無線通信は、無線センサネットワーク(WSN)と呼ばれている。WSNは、携帯電話などのセルラやWiFiなどの人と人との通信から、物から物へとの通信となるため、通信品質等に求められる要求条件は大きく異なる。例えば、WSNの用途が状態モニタであれば、使用するセンサの種類や数が極めて多く、莫大な数のセンサと通信を確立することが求められる。また、機器制御応用の分野においては、短い時間間隔でセンサの情報を収集するため、遅延制限に対する要求が厳しくなる。
【0004】
一方、無線通信資源である周波数は、現在深刻な枯渇状態であるため、限られた周波数資源において、多数の情報を並列に伝送する多重化や多元接続化の検討が進められている。このような多重化や多元接続化の手法はWSNにおいて適用可能であり、これにより、遅延の抑制や多数の情報を並列に伝送できる利点が得られる。
【0005】
例えば、複数アンテナを用いたMIMO伝送では、無線伝播路が情報発信源毎に異なることを利用して、伝播路の直交化を確立して信号の同時送信と分離を可能にしている(非特許文献1)。しかし、無線伝播路において直交通信路が確立できない場合、特に情報源が近接したときには、各センサが伝搬する通信路に相関があり、多重伝送が維持できなくなるという問題がある。
【0006】
また、WSNに特化した手法として、無線信号の周波数および位相や継続時間などを無線物理量と定義し、センサ情報を無線物理量に比例して変化させることで、一度に多数のセンサの情報を通知する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この手法ではセンサ情報の偶発的な重複が生じた際にセンサ情報は識別できない。また、通知されたセンサ情報の発信源が特定できず、各センサ別に情報を識別できない。
【0007】
また、無線の発信源を特定する手法として、無線RF回路の不安定性から各端末の固有の信号の揺らぎを特徴量として識別する方法(非特許文献2)や、情報発信源と受信源との伝播路が異なることを利用して無線機の位置を特定する方法(特許文献2)なども検討されている。しかし、いずれの方法も、無線通信の1つの特徴量を用いて識別を実施しているため、特徴量が少なく識別できる端末の数が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−187552号公報
【特許文献2】特表2006−515727号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Gold Smith、Wireless Communications、Cambridge University Press, 2005
【非特許文献2】北川尚紀・川村正一郎・樋口利光・柿沼裕幸・石井寛之、``FM検波を用いた無線局識別装置の試作’’ 電子情報通信学会 ソフトウェア無線研究会、SR2005-39, pp.125-129, 2005年7月29日
【非特許文献3】C.M. ビショップ、パターン認識と機械学習 下巻 丸善出版 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の先行技術が有する課題の解決のためになされたものであり、信号発信源の数や位置が多様な場合であっても、正確に信号分離を行い、端末の識別を可能にする端末識別方法および端末識別装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下のとおりである。すなわち、
[1]それぞれセンサ情報を含む無線信号を通知する2以上の送信機と、受信機とを有する無線通信において、任意の時刻に前記受信機で受信したセンサ情報にラベル付けした第1のノード集合と、隣接する時刻に受信したセンサ情報にラベル付けした第2のノード集合における、それぞれ同じラベル付けをされたセンサ情報群間の距離を表す第1のエネルギー式を最小化するように、前記ラベルを決定することにより前記送信機を識別する、無線通信における端末識別方法であって、前記第1のエネルギー式と併せて、予め取得された各送信機固有の特徴量の平均値に対する前記第1のノード集合の各ラベルに係る特徴量の瞬時的な変動を表す第2のエネルギー式を最小化するステップを含むことを特徴とする無線通信における端末識別方法。
【0012】
また別の本発明は以下のとおりである。すなわち、
[2]前記特徴量は、送信機から通知された無線信号の電力、無線通信の到来角度、または無線信号の周波数のゆらぎ量のうち1または2以上の組み合わせからなる物理量であることを特徴とする[1]に記載の無線通信における端末識別方法。
【0013】
また別の本発明は以下のとおりである。すなわち、
[3]前記センサ情報群間の距離を前記第1のノード集合におけるセンサ情報に係る物理量と前記センサ情報と同じラベルを有する前記第2のノード集合におけるセンサ情報に係る物理量との差分の二乗の総和とし、前記特徴量の瞬時的な変動を前記各特徴量の平均値に対する前記第1のノード集合の各ラベルに係る特徴量の変動の二乗の総和として、前記ステップは前記第1のエネルギー式と前記第2のエネルギー式の和を最小化するものであることを特徴とする[1]または[2]のいずれかに記載の無線通信における端末識別方法。
【0014】
また別の本発明は以下のとおりである。すなわち、
[4]前記第1のエネルギー式と前記第2のエネルギー式の和が最小となる解を決定するため、確率伝播法、グラフカット法から選択される数理最適化手法を用いることを特徴とする[3]に記載の無線通信における端末識別方法。
【0015】
また別の本発明は以下のとおりである。すなわち、
[5]同時に受信したセンサ情報を一定期間記録し、前記無線信号のうち、任意の時刻におけるセンサ情報の数と実際の端末の数とを比較して、両者が異なる場合に当該センサ情報を取り除いて処理を行う、衝突除去ステップと、をさらに含むことを特徴とする[1]から[4]のうちいずれかに記載の無線通信における端末識別方法。
【0016】
また別の本発明は以下のとおりである。すなわち、
[6]それぞれセンサ情報を含む無線信号を通知する2以上の送信機と、受信機とを有する無線通信において、任意の時刻に前記受信機で受信したセンサ情報にラベル付けした第1のノード集合と、隣接する時刻に受信したセンサ情報にラベル付けした第2のノード集合における、それぞれ同じラベル付けをされたセンサ情報群間の距離を表す第1のエネルギー式を最小化するように、前記ラベルを決定することにより前記送信機を識別する、無線通信における端末識別装置であって、前記第1のエネルギー式と併せて、予め取得された各送信機固有の特徴量の平均値に対する前記第1のノード集合の各ラベルに係る特徴量の瞬時的な変動を表す第2のエネルギー式を最小化する手段含むことを特徴とする無線通信における端末識別装置。
【0017】
また別の本発明は以下のとおりである。すなわち、
[7]前記特徴量は、送信機から通知された無線信号の電力、無線通信の到来角度、または無線信号の周波数のゆらぎ量のうち1または2以上の組み合わせからなる物理量であることを特徴とする[6]に記載の無線通信における端末識別装置。
【0018】
また別の本発明は以下のとおりである。すなわち、
[8]前記センサ情報群間の距離を前記第1のノード集合におけるセンサ情報に係る物理量と前記センサ情報と同じラベルを有する前記第2のノード集合におけるセンサ情報に係る物理量との差分の二乗の総和とし、前記特徴量の瞬時的な変動を前記各特徴量の平均値に対する前記第1のノード集合の各ラベルに係る特徴量の変動の二乗の総和として、前記手段は前記第1のエネルギー式と前記第2のエネルギー式の和を最小化するものであることを特徴とする[6]または[7]のいずれかに記載の無線通信における端末識別装置。
【0019】
また別の本発明は以下のとおりである。すなわち、
[9]前記第1のエネルギー式と前記第2のエネルギー式の和が最小となる解を決定するため、確率伝播法、グラフカット法から選択される数理最適化手法を用いることを特徴とする[8]に記載の無線通信における端末識別装置。
【0020】
また別の本発明は以下のとおりである。すなわち、
[10]同時に受信したセンサ情報を一定期間記録し、前記無線信号のうち、任意の時刻におけるセンサ情報の数と実際の端末の数とを比較して、両者が異なる場合に当該センサ情報を取り除いて処理を行う、衝突除去手段と、をさらに含むことを特徴とする[6]から[9]のうちいずれかに記載の無線通信における端末識別装置。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る処理のフローチャートである。
図2】本実施例で想定する無線センサシステムの全体図である。
図3】物理量変換により、通知された受信信号のグラフである。
図4】物理量変換により、通知された信号の電力のグラフである。
図5】5つのセンサが通知した温度情報の実測値のグラフである。
図6】温度及び信号電力を併用して端末識別を実施した結果のグラフである。
図7】温度の連続性を特徴量として端末識別を行った結果のグラフである。
図8】信号電力を用いて端末識別を行った結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明における端末識別方法および識別装置は、無線通信の端末を識別する際に、特徴量として信号の揺らぎや伝播路の変動に加えて、センサ情報の傾向も併用して、特徴量を大幅に増加させることで、信号発信源の数や位置が多様な場合でも、正確な信号分離と端末識別を可能とする。
【0023】
図1に、本発明に係る端末識別方法の処理の流れを示す。本発明における処理は大きく3つのステップに分けられる。本発明における端末識別方法は、適用する無線通信の種類は特に限定されず、各センサ情報の特徴量がそれぞれ検出できる無線通信であれば好適に適用できる。最初のステップでは、2以上のセンサが同時に通知したセンサ情報を、一定期間記録する。その結果、情報発信源が不明な2以上のセンサ情報が時間と、例えば周波数等の特徴量(センサ情報)の二次元に分布した情報が得られる。このとき、センサと隣接時刻との関係をグラフ化してモデル化する。ここで、各センサ情報をノードと呼び、ある時刻のノードに番号i (∈V) を割り当てる。ここで、Vは同一時刻のノード集合を示す。
【0024】
各ノードはいずれかの情報発信源に属しており、情報源をラベル xで示す。各時刻においてはすべての情報源から情報が発せられているため、各時刻のすべてのノードがいずれかのラベルに属している。そこで、エネルギー式を作成するステップでは、i番目のノードが所属するラベルをxiで表現し、ある時刻と隣接のラベルが与えられたとき、数1のエネルギー式を用いて、各特徴量と隣接時刻の特徴量との差を評価する。
【0025】
【数1】
【0026】
ここで、Ε はある時刻のノード集合Vから選ばれたiに対して、隣接時刻のノード集合から要素1つ選ばれたときの組合せ要素からなる集合を示す。このエネルギー式が最小になるようにラベルを決定することで、各センサ情報の属性を決定する。数1のうち、第1項は、無線物理量変換を用いて送信源から通知された送信端末の特徴量の、瞬間値、平均値でモデル化したものである。
【0027】
本発明において、特徴量として使用するパラメータの例としては、電力や、到来角度、無線機の固有の周波数の揺らぎ量など、各情報発信源に固有な無線通信の現象が平均的傾向と瞬時的な結果の二つでモデル化できるものであれば、任意のパラメータを選択できる。また、2以上の特徴量の組み合わせを使用しても、上記エネルギー式の項を増やすことで適用できる。本発明においては、特に電力は特徴量として好適に使用可能である。電力を特徴量として使用した場合のモデル化の例を数2に示す。
【0028】
【数2】
【0029】
ここで、piは物理量変換で得られた瞬時電力、μxiは各センサ情報源が情報集約局に通知した際の平均電力を示し、これらは、通信前の事前学習や送受信機間距離から算出する。
【0030】
第2項には、ノードと隣接ノードとの周波数差を示している。ここでいう周波数は、具体的には送信機から通知されたセンサ情報を物理量変換した結果の周波数差を示している。ここで任意のノードと、近接するノードが異なるラベルを保つ場合に次式の通り考慮する。
【0031】
【数3】
【0032】
ここで、fi及びfjはある時刻のi番目のノードにおける周波数及び隣接のj番目のノードにおける周波数を示している。また、δ(x,y) = {1 if x = y, 0 otherwise}である。
【0033】
以上のように記述されたエネルギー式は、例えば、任意の時刻で得られたノード集合を点群としてグラフ化した際の、隣接時刻のノード集合の点群との距離を示している。本発明においては、このエネルギー式を最小化するように、xi,xjを決定する最適化問題として設定する。最適化問題の解法としては非特許文献3に示すような確率伝播法やグラフカット法が例示できる。
【0034】
なお、特許文献1の手法では、偶発的に複数の情報源が同じセンサ情報を通知した場合には、信号が相互に干渉するため、電力の検出が困難になる。本発明における端末識別方法では、必要に応じて、各時刻における検出したセンサ情報の数を数え、センサ数より少なくなった場合には衝突と判断し、そのセンサ情報を取り除いて、この問題を回避する。
【0035】
本発明に係る端末識別方法および測定装置において、使用するセンサの種類は特に限定されず、電圧センサ、温度・湿度センサ、ガスセンサ、照度センサなど、センサネットワークに適用される任意のセンサを使用できる。また、データを測定した結果を、無線ネットワークを用いた送信が予定されるものであれば、地震計、カメラ、GPSなど任意の測定対象について適用できる。
【0036】
本発明に係る端末識別方法および測定装置において、端末の識別には、1つまたは2以上の特徴量の組み合わせを使用することが好ましい。使用する特徴量の種類は特に限定されず、温度や湿度などのセンサ情報に加えて、電力、無線信号の到来角度や、無線機固有の周波数の揺らぎなど、各情報発信源に固有な無線通信の現象が、平均的傾向と、瞬時的な結果の2つでモデル化できるものであれば、任意のパラメータを使用できる。
【0037】
本発明に係る端末識別方法は、受信した無線信号を、周波数等の物理量変換を行う無線センサネットワークに好適に適用できる。無線通信において、物理量変換を行う例としては、非特許文献2に開示されるように、無線信号を時刻群、周波数の情報群の組み合わせとして処理する方法が挙げられる。
【0038】
また、本発明に係る端末識別方法を使用すれば、各送信機が端末識別コードを付加する必要がなくなるため、コードの重複を回避することができ、かつ、信号のデータ量を削減でき、効率的な通信が可能となる。
【0039】
本発明における端末識別方法においては、適用する無線通信の規格は特に限定されず、通常の無線通信、無線センサネットワークで適用される方式であり、当業者であれば、任意に選択可能である。適用される無線通信の規格の例としては、IEEE802.15.4が挙げられる。また本発明に係る端末識別法方法において、適用する無線ネットワークの形態は特に限定されず、通常無線通信で適用される形態であれば、スター型、ツリー型、メッシュ型、リニア型、いずれも適用が可能である。また、使用する端末の数については特に限定されず、ネットワークの処理能力の範囲内で、任意に増加できる。
【実施例1】
【0040】
本発明に係る端末識別方法の有効性を評価するため、実測評価と計算機シミュレーションで評価する。図2に、本実施例で想定する無線センサシステムと端末識別処理の全体像を示す。本実施例では室内に5つの温度センサを配置したが、説明を簡略化するため、図2では2つの温度センサで代表している。室内に配置された5つの温度センサにより、室内の5箇所の温度を30分の間、10秒間隔で測定した。本実施例では、物理量変換として周波数を利用し、0.1℃から51.2℃の0.1℃間隔で、512のレベルで通知されることを想定する。すなわち、温度センサが0.1℃と測定した場合には0.1Hzの正弦波でFC(情報収集局)に応答し、温度センサが15.0℃と測定した場合には15.0Hzの正弦波でFCに応答する。5つの温度センサは、各測定温度に応じた周波数でFCに応答し、FCでは複数の信号を一括して受信する。
【0041】
本実施例では、特徴量として電力を使用する。本実施例に係る端末識別方法においては、前記エネルギー式の第1項を無線物理量変換で通知された信号の瞬時電力、平均電力を用いて前記数2でモデル化する。伝搬路のモデルは1つのセンサと集約局間の受信電力を基準として、センサの発信源の番号が増加するごとに−7dBずつ減衰すると仮定した。また、瞬時的な電力の変動を示すフェージングとして、ライス係数10dBのライスフェージング環境を仮定した。
【0042】
なお、本実施例においては、受信信号のデータが重複した場合においても各センサの電力は検出できると仮定して評価した。仮に、データの重複により各センサの電力が正しく検出できない場合には、本発明に係る端末識別方法により、実際のセンサ数と受信データ数とが異なるセンサ情報を除外する処理をすることで、高い分離精度が得られる。
【0043】
図3は、物理量変換により通知された受信信号を示す。この信号では、同時に通知された温度情報がどの発信源によるものであるかは不明な状態である。
【0044】
図4は、物理量変換により各センサが通知した信号の電力を観測した結果である。
【0045】
図5は、実際に5つのセンサが通知した温度情報を示す。この結果は実測値であるため、本実施例に係る端末識別方法の評価を行う際の基準となる。
【0046】
図6は、本実施例に係る端末識別方法を用いて、温度及び信号の電力を併用してデータ分離を実施した結果を示す。図から、実測結果である図5と同じ結果が得られていることが認められる。これは、温度及び電力の特徴量を併用して検出することで、一方では判断できないとき、もう一方の特徴量では差異が明確にあらわれる。その差異の情報をエネルギー式で考慮することで、高精度な分離が実現できた結果といえる。
【実施例2】
【0047】
図7は、比較例1として温度の連続性を特徴量としてセンサ情報を分離した結果である。図中、Node#1及びNode#2に注目すると、データの部分的な欠落が認められる。この欠落したデータはNode#3に含まれている。これは、複数の温度が近接する時刻においては、他ノードに誤ってラベルを付けた(情報源の割り当て)結果となった。
【実施例3】
【0048】
図8は、比較例1として図3に与えられる信号電力を用いて、データ分離を実施した場合の結果を示す。図中、Node#2では一部のデータの欠落が生じそれが、Node#3に重複して検出されていることがわかる。また、Node #4の情報の欠落がNode#5に現れていることがわかる。同様に図4の信号電力の結果より、複数のノードが一時的に同じ電力をとるため、識別が困難になったといえる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように本発明に係る端末識別方法によれば、各センサから送信される無線信号が近接する場合、あるいは交差する場合であっても、正確に端末の識別を行うことが可能である。本発明は、例えば、屋外の温度、湿度等を観測する環境モニタリングや、店舗の空調制御、監視、POS、ビル制御、工場の監視、制御、物流監視等、幅広い分野において適用可能である。また、HEMS、BEMS等のエネルギー管理システムにおいても好適に適用できる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8