特許第6578650号(P6578650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578650
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】複合糸及びこれを用いた布帛
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/04 20060101AFI20190912BHJP
   D01F 6/00 20060101ALI20190912BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20190912BHJP
   D03D 15/08 20060101ALI20190912BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   D02G3/04
   D01F6/00 A
   D04B1/14
   D03D15/08
   D03D15/00 D
   D03D15/00 B
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-233416(P2014-233416)
(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公開番号】特開2016-98439(P2016-98439A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 澄男
(72)【発明者】
【氏名】村田 圭資
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−310254(JP,A)
【文献】 特開2010−203016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00−3/48
D02J 1/00−13/00
D03D 1/00−27/18
D04B 1/00−1/28,21/00−21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略C型断面糸と弾性繊維とで構成された複合糸であって、該C型断面糸の壁の平均厚みが0.2μm〜15.0μmであり、かつ略C型断面糸が弾性繊維に300μm〜5000μmのループ高さHa、HbおよびHcを満たす範囲で混繊又は合撚又はカバーリングされており、該弾性繊維が、該複合糸中に1〜70質量%含まれることを特徴とする、複合糸。
ループ高さHa=荷重せずそのままで測定したループ高さ(μm)
ループ高さHb=荷重0.5gで測定したループ高さ(μm)
ループ高さHc=荷重6gで測定したループ高さ(μm)
【請求項2】
略C型断面糸と弾性繊維とで構成された複合糸であって、該C型断面糸の壁の平均厚みが0.2μm〜15.0μmであり、かつ略C型断面糸が弾性繊維に300μm〜5000μmのループ高さHa、HbおよびHcを満たす範囲で混繊又は合撚又はカバーリングされており、該C型断面糸の中空率が55〜80%である複合糸。
ループ高さHa=荷重せずそのままで測定したループ高さ(μm)
ループ高さHb=荷重0.5gで測定したループ高さ(μm)
ループ高さHc=荷重6gで測定したループ高さ(μm)
【請求項3】
略C型断面糸と弾性繊維とで構成された複合糸であって、該C型断面糸の壁の平均厚みが0.2μm〜15.0μmであり、かつ略C型断面糸が弾性繊維に300μm〜5000μmのループ高さHa、HbおよびHcを満たす範囲で混繊又は合撚又はカバーリングされており、該弾性繊維がポリウレタン系である複合糸。
ループ高さHa=荷重せずそのままで測定したループ高さ(μm)
ループ高さHb=荷重0.5gで測定したループ高さ(μm)
ループ高さHc=荷重6gで測定したループ高さ(μm)
【請求項4】
該C型断面糸の中空率が55〜80%である、請求項1記載の複合糸。
【請求項5】
該弾性繊維がポリウレタン系である、請求項1、2および4のいずれか1項に記載の複合糸。
【請求項6】
該C型断面糸の単糸繊度が、0.1〜50デシテックスである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合糸。
【請求項7】
該C型断面糸が仮撚糸である、請求項1〜のいずれか1項に記載の複合糸。
【請求項8】
該略C型断面糸が、芯成分と鞘成分を有する複合糸の芯部分を溶出することによって中空部分が形成される、請求項1〜のいずれか1項に記載の複合糸。
【請求項9】
該弾性繊維が、該複合糸中に1〜70質量%含まれる、請求項2〜8のいずれか1項に記載の複合糸。
【請求項10】
略C型断面糸と弾性繊維とで構成された複合糸であって、該C型断面糸の壁の平均厚みが0.2μm〜15.0μmであり、かつ略C型断面糸が弾性繊維に300μm〜5000μmのループ高さHa、HbおよびHcを満たす範囲で混繊又は合撚又はカバーリングされており、かつ総繊度が10デシテックス以上500デシテックス以下である複合糸を用いて作られた布帛。
ループ高さHa=荷重せずそのままで測定したループ高さ(μm)
ループ高さHb=荷重0.5gで測定したループ高さ(μm)
ループ高さHc=荷重6gで測定したループ高さ(μm)
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の複合糸を用いて作られた布帛。
【請求項12】
であり、織物の伸長率が5%以上、伸長回復率が80%以上である、請求項10または11に記載の布帛。
【請求項13】
該布帛が編地であり、編地の伸長率が90%以上、伸長回復率が80%以上である、請求項10または11に記載の布帛。
【請求項14】
該複合糸の総繊度が10デシテックス以上500デシテックス以下である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項15】
該布帛が起毛されている、請求項10〜14のいずれか1項に記載の布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略C型断面形状を有する糸(以下「略C型断面糸」という)と弾性繊維で構成された複合糸、及びこれを用いた布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、着用時の動きやすさ等の観点で、保温性、膨らみ感等の必要な特性を保持しつつ、軽さを追求した衣服の開発が盛んである。この目的のために、さまざまな機能性繊維が開発されてきた。
【0003】
中でも、中空断面を有する繊維(以下、中空繊維と称する)が注目されている。中空繊維は、繊維質量当たりの体積が大きく、軽量性、保温性が優れており、適度な膨らみ感が得られるため、古くから、詰め綿や布団綿等の短繊維に用いられてきたが、近年では、衣料用途等でも使用可能な長繊維が各種開発されている。
【0004】
中空繊維の製造方法としては、中空用紡糸口金を用い、紡糸、延伸により中空繊維を製造する方法が知られている(特許文献1、以下、この方法を「直接中空形成法」と称する)。しかしながら、直接中空形成法では、中空率の高い(例えば、中空率約55%以上の)中空糸を得ることが困難であり、単糸繊度が小さいものを作ることもできない。また、中空繊維は、曲げ剛性が高く、風合いが硬い。また、撚りが施されると膨らみ感と軽量性が損なわれるおそれがあるため、撚り加工をした中空繊維を得ることはできない。中空率を高めるために、芯成分と鞘成分を有する芯鞘型繊維から芯成分を除去することにより中空繊維を製造する溶出法が開発された。
【0005】
しかしながら、いずれの方法を使用するにしても、中空繊維は、特に長繊維として用いる場合、仮撚や撚糸、製編織時に物理的圧力によって中空部分がつぶれてしまい、目標とする中空率が得られず、中空繊維本来の機能が十分に発揮されないという欠点があった。
【0006】
このような問題を回避するために、いくつかの工夫がなされてきた。第1に、繊維断面形状をC型に変える方法がある。一例として、芯鞘型繊維の鞘成分をポリエステルとし、芯成分の一部が繊維表面に露出しており、芯成分を溶解して得られる溶出型中空糸様繊維(例えば、C型断面等を有する繊維)が知られている(特許文献2)。C型断面を有するポリエステル繊維は、断面が完全な中空ではなく、C型であるため、中空部分が比較的つぶれにくく、単繊維それぞれが適度な柔軟性を持っており、ソフト性をより強調することができる(特許文献3)。
【0007】
さらに、中空部分の溶出を種々の加工の後に行うと、中空部分がつぶれにくくなる。ポリエステル芯鞘複合繊維において、製編織後にアルカリ等の溶剤減量を施して芯成分を除去することにより、仮撚や撚糸及び製編織時の物理的圧力に耐え、中空部が維持されやすいことが知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−270358号
【特許文献2】特開昭55―93812号
【特許文献3】特開昭64−52839号
【特許文献4】特開2007−131980号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の工夫を施した繊維は、必要な軽さは得られるものの、以下のような課題がある。
【0010】
(1)中空繊維と、この中空繊維から得られる布帛の強力が、全体的に低くなりがちであり、高強力を必要とする衣料では問題となる。特に、中空率が高い中空繊維では、さまざまな商品に適用する際に制約がある。
【0011】
(2)中空繊維は、特にストレッチ性が要求される用途(例えば、スポーツ衣料)では伸度が足りない場合があり、得られる布帛は、着用時に身体への追随性が乏しく、着心地が良くない。
【0012】
(3)繊維自体の膨らみ感は、断面をC型断面にすることで向上するが、まだ十分とはいえない。
【0013】
また、溶出法により中空部分を作成する場合には、直接中空形成法よりも高い中空率が得られるものの、以下の課題がある。
【0014】
(4)製編織後に中空繊維の芯部分を除去する場合、(i)ウール、絹、アクリル、レーヨン、キュプラ、カチオンポリエステル等のアルカリに弱い繊維や、アルカリで変色、変質しやすい繊維等と組み合わせることができない、(ii)絹、レーヨン等のセット性が良くない繊維と組み合わせた布帛は、製編織後の溶出工程によりシワが発生しやすい、(iii)コート地やパンツ地のような厚地で目付の大きな布帛は、従来の装置では製編織後の溶出を行うことが物理的に不可能であり、専用の溶出装置が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上述の課題を解決すべく、略C型断面糸と弾性繊維とで構成された複合糸を提供する。この略C型断面糸は、壁の平均厚みが0.2μm〜15.0μmであり、かつ中空糸のループ高さが300μm〜5000μmである。
【0016】
複合糸の軽量性、膨らみ感等の性質を損なわない範囲であれば、他の糸が複合糸に含まれてもよい。他の糸の例としては、通常の中実ポリエステル糸、中実ポリアミド糸などが挙げられるが、特に限定はない。他の糸は、好ましくは、複合糸に50質量%以下の量で含まれる。
【0017】
本発明の好ましい実施態様では、略C型断面糸の中空率が55〜80%であり、単糸繊度は0.1〜50デシテックスである。本発明のさらに好ましい実施態様では、略C型断面糸は、仮撚糸である。本発明の好ましい実施態様では、弾性繊維は、ポリウレタン系である。
【0018】
好ましくは、略C型断面糸は、芯成分と鞘成分を有する複合糸の芯部分を溶出することによって中空部分が形成される。さらに好ましくは、溶出は、アルカリ液を用いた溶出である。好ましくは、本発明の複合糸において、弾性繊維は、複合糸中1〜70質量%含まれる。布帛を形成した後ではなく、複合糸の状態でアルカリ溶出することにより、(i)ウール等のアルカリに弱い繊維や、アルカリで変色、変質しやすい繊維等と組み合わせることができ、(ii)絹、レーヨン等のセット性が良くない繊維と組み合わせた布帛も、製編織後の溶出工程が不要なため、シワ発生が抑えられ、(iii)コート地やパンツ地のような厚地で目付の大きな布帛であっても、複合糸の状態で溶出してから製編織するため、従来の装置を使用して非常に軽い布帛を得ることができる。
【0019】
さらに、本発明は、上述のような複合糸を用いて作られた布帛も提供する。好ましくは、得られる布帛は織物であり、織物の伸長率が5%以上、伸長回復率が80%以上である。本発明の好ましい実施態様では、得られる布帛は編地であり、編地の伸長率が90%以上、伸長回復率が80%以上である。さらに、本発明の好ましい実施態様では、複合糸の溶出後の総繊維度が10デシテックス以上500デシテックス以下である。また、さらに好ましくは、本発明の布帛は起毛加工されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、略C型断面糸に弾性繊維を組み合わせることによって、略C型断面糸の低強力を芯部にある弾性繊維が補い、複合糸全体として高い強力が得られる。そのため、本発明の複合糸は、略C型断面糸の軽量性、ソフトさ、風合い等の優れた性質を保持しつつ、さまざまな商品に使用することができる。また、芯部に使用する弾性繊維が非常に高いストレッチ性を有するため、本発明の複合糸は、高いストレッチ性を有し、得られる布帛は、着用時に身体への追随性が良く、着心地が良い。また、本発明の複合糸は、略C型断面糸自体の断面方向の膨らみに加え、弾性繊維の周囲に略C型断面糸が大きなループとなって複合されているので、複合糸全体の膨らみが極大化される構造となる。この膨らみが大きな糸を用いると、従来にはない大きな膨らみを有する布帛が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態にかかる略C型断面糸の断面を示す顕微鏡写真である(倍率2000倍)。
図2図2は、以下に示す「先混用後溶出法」で得られた複合糸の画像である(倍率400倍)。
図3図3は、以下に示す「先溶出後混用法」で得られた複合糸の画像である(倍率400倍)。
図4図4は、本発明の一実施形態にかかる略C型断面糸において、弾性繊維と混用せずに芯成分を除去した後の画像である(倍率400倍)。
図5図5は、従来の綿コアスパンヤーン(比較例)の画像である(倍率400倍)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の複合糸は、略C型断面糸と、弾性繊維とで構成される。
【0023】
(1.略C型断面糸)
本発明の複合糸は、略C型断面糸を含む。
【0024】
本発明において、「略C型断面糸」とは、繊維軸方向に連続して中空繊維の壁の一部が開口しており、断面形状が略C型(変形して略V型、略U型に見えるものを含む)の糸を指す。
【0025】
本明細書において、「溶出型中空糸」とは、芯成分と鞘成分とからなる芯鞘構造を有し、芯成分を除去することにより略C型断面形状を有する糸を形成し得る糸であって、繊維横断面において当該芯成分の一部が当該鞘成分の開口部から繊維表面に露出している糸をいう。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態にかかる略C型断面糸の断面を示す顕微鏡写真である。
【0027】
本発明の略C型断面糸の製造方法として、芯成分と鞘成分とを有する芯鞘糸の芯成分を溶出する方法が挙げられる。芯成分は、芯鞘糸の芯成分と鞘成分との特定の溶媒に対する溶解性の差を利用し、芯成分を溶出するという一般的な方法によって除去することができ、例えば、アルカリ溶液を用いて溶出される。溶出に用いるアルカリ溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液が好ましい。
【0028】
芯鞘糸の芯成分は、鞘成分よりもアルカリ溶液に溶解しやすいものであればよい。例えば、5−スルホイソフタル酸金属塩又は/及びポリエチレングリコールを共重合成分として用いたポリエステルが芯成分として好適に用いられる。好ましくは、5−スルホイソフタル酸金属塩とポリエチレングリコールをともに共重合成分として用いたポリエステルが芯成分として用いられる。好ましくは、5−スルホイソフタル酸金属塩は、ナトリウム塩である。ポリエステルは、好ましくは、ポリエチレンテレフタレートである。好ましくは、共重合する5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩とポリエチレングリコールの量は、芯成分全体の質量を基準として、2成分合計で10質量%〜30質量%、さらに好ましくは、12質量%〜20質量%である。10質量%より少ないと、アルカリ溶液による溶出が不十分となる場合がある。一方、30質量%より多いと、製糸安定性が悪くなる場合がある。
【0029】
また、芯成分のポリエステルには、アルカリ溶液による溶出性と製糸安定性を妨げない範囲で、アジピン酸、イソフタル酸、セバシン酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオキシ化合物、p−(β−オキシエトキシ)安息香酸等のオキシカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体等が共重合されていてもよい。
【0030】
一方、芯鞘糸の鞘成分は、芯成分よりもアルカリ溶液に溶解しにくいものであればよい。好ましくは、鞘成分は、ポリエステル又はポリアミドを主成分として含む。
【0031】
鞘成分に用いられるポリエステル又はポリアミドは、用途に応じて、アルカリ溶液への溶解性、風合い、染色性等の種々の因子に基づいて選択することができる。
【0032】
鞘成分として選択されるポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルが挙げられる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレートが用いられる。
【0033】
本発明において、芯成分よりもアルカリ溶液による溶出性が低くなる範囲であれば、鞘成分のポリエステルにも上述の5−スルホイソフタル酸金属塩やポリエチレングリコール又は上述のオキシカルボン酸等が共重合されていてもよい。
【0034】
また、鞘成分のポリエステルにも、芯成分よりもアルカリ溶液による溶出性が低くなる範囲で、アジピン酸、イソフタル酸、セバシン酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオキシ化合物、p−(β−オキシエトキシ)安息香酸等のオキシカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体等が共重合されていてもよい。
【0035】
鞘成分として使用可能なポリアミドの具体例としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン56、ナイロン11、又は芳香族ポリアミド等、さらにはこれらの共重合ポリアミドが挙げられる。ビニル成分を混合し、吸湿性、接触冷感性を発現させる改質ポリアミドも好ましく用いられる。鞘成分にポリアミドを用いる場合、上述のような芯成分に加え、ポリアミドよりもアルカリ溶液への溶解性が高いポリエステルを芯成分として用いてもよい。
【0036】
本発明の略C型断面糸は、壁の平均厚みが0.2μm〜15.0μm、好ましくは、0.3μm〜10.0μm、さらに好ましくは、0.35μm〜5.0μmである。例えば、溶出前の中空糸の単糸繊度が0.23デシテックス、中空率が80%であれば、溶出後に得られる中空糸の壁の厚みは、約0.26μmとなる。例えば、溶出前の中空糸の単糸繊度が110.0デシテックス、中空率55%であれば、溶出後に得られる中空糸の壁の厚みは、約13.7μmとなる。壁の平均厚みの具体的な算出方法は、実施例の「1−1.略C型断面糸の評価方法(1)」に記載する。壁の平均厚みが0.2μmに満たないものは、強力が不足し、また、直接中空形成法では一般的に作るのが困難であり、溶出法では作成することは可能であっても、強力が不足する、溶出減量での制御が困難である等の問題が生じる。本発明の略C型断面糸は、後述の中空率が従来のものより高いため、壁の平均厚みは、かなり小さなものが得られる。逆に、壁の平均厚みが15.0μmを超えるものは、軽量感に乏しく、風合いが硬くなる。
【0037】
また、本発明の略C型断面糸は、中空率が55%〜80%、好ましくは、60〜70%である。ここで、中空率は、実施例の「1−1.略C型断面糸の評価方法(2)」に記載する。
【0038】
中空率は、カサ高性、軽量性、保温性の観点から、また、芯成分を除去した後の編織物の機械強度等を考慮して設定され、略C型断面糸において中空率が55%以上であることが好ましい。従来の中空糸と比較して中空率が大きく、繊維質量に対し占める体積が大きく、優れたカサ高性、軽量性を有する。中空率が80%を超えると、中空糸の強力が低下する傾向がある。
【0039】
本発明の略C型断面糸の単糸繊度は、0.1〜50デシテックスであることが好ましい。0.1デシテックス未満のものは紡糸が困難となる場合がある。50デシテックスを超えるものは風合いが硬くなる傾向がある。
【0040】
本発明の芯鞘構造を有する溶出型中空糸は、好ましくは、仮撚加工されている。仮撚加工を行うことで、最終的に製造される布帛の膨らみ感、カサ高性が増す。仮撚温度によって、得られる糸の性質が異なり、種々の用途に適した糸が得られる。例えば、一般的な仮撚温度(例えば、ポリエステルでは180℃〜220℃、ポリアミドでは160℃〜190℃)で仮撚加工した糸は、捲縮が大きく、カサ高いため、ボリューム感のある厚地布帛が得られやすい。また、ポリエステルフィラメント糸、ポリアミドフィラメント糸をもっと低温(例えば、ポリエステルフィラメント糸では150〜160℃、ポリアミドフィラメント糸では130℃〜140℃)で仮撚加工すると、捲縮は小さくなるものの、滑らかさが増し、絹様のタッチが得られるので、中厚地用糸として特に好ましい。また、カサ高性と滑らかさを併せ持つ汎用的な糸を製造するには、ポリエステルフィラメント糸では、180℃〜220℃で仮撚加工した後、160℃〜200℃でセットするとよい。ポリアミドフィラメント糸では、160℃〜190℃で仮撚加工した後、160℃〜180℃でセットするとよい。
【0041】
(2.弾性繊維)
本発明の複合糸に使用する弾性繊維は、弾性を有する繊維であれば特に限定されないが、具体的には、ポリウレタン系弾性繊維、ポリエーテルエステル系弾性繊維、及びポリエステル系バイメタル複合繊維(ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチルテレフタレート等)や高捲縮仮撚糸等が挙げられる。好ましくは、本発明の弾性繊維は、ポリウレタン系弾性繊維である。
【0042】
弾性繊維を混用した複合糸を使用することで、滑らかさに加え、優れたストレッチ性、伸長回復性を有する布帛が得られ、着用しやすさ、着用時のフィット感等好ましい特性が得られる。
【0043】
(3.複合糸)
本発明の複合糸は、上述の略C型断面糸と弾性繊維とで構成される。略C型断面糸と弾性繊維とは、混繊加工、合撚加工又はカバーリング加工により混用され、ストレッチ性の均一性から合撚加工、エアー混繊加工、カバーリング加工等が適用されることが好ましい。また、かかる加工では、弾性繊維を2.0〜4.0倍で延伸しながらポリエステルフィラメント系、ポリアミドフィラメント糸と加工すると、加工糸の芯部に弾性繊維が配置されてストレッチ性、伸長回復性が効率よく発揮できることから、特に好ましい。
【0044】
本発明の複合糸は、ループ高さが300〜5000μmであり、好ましくは、500〜4500μmであり、非常に大きなループ高さを有する。本発明では、複合糸中の略C型断面糸のループ高さは、エアー混繊加工の場合には1000μm〜5000μm、合撚加工によって製造した場合には、300μm〜3000μm、カバーリング加工の場合には700μm〜2000μmであり、ループ高さの大きな中空繊維を製造したい場合には、エアー混繊加工が好ましい。
また、ループ高さは、中空糸と弾性繊維とを複合した後、種々の条件(例えば、温度、緊張率など)を変えた処理を施すことによって制御することができ、上に列挙したループ高さより大きなもの、小さなものを後加工により作ることもできる。ループ高さが大きいほど、弾性繊維と略C型断面糸との間に多くの空気を含み、複合糸全体としての膨らみが大きくなる。
【0045】
本発明の弾性繊維は、布帛のストレッチ性、伸長回復性の点から、好ましくは、略C型断面糸と弾性繊維の合計質量を基準として、1質量%〜70質量%含有されている。さらには2質量%〜50質量%、さらには、5質量%〜30質量%含まれていることが好ましい。1質量%未満の場合は、ストレッチ性、伸長回復性が小さくなり、また、70質量%を超える場合には、布帛の締め付け感が強くなり過ぎる場合がある。
【0046】
本発明の複合糸は、総繊度が10デシテックス以上500デシテックス以下であることが好ましい。総繊度が10デシテックス未満のものは、製造が困難な場合があり、一方、総繊度が500デシテックスを超えるものは、衣料用途として厚くなりすぎる傾向がある。用途によって、最適な総繊度がある。例えば、超薄地の羽衣のような布帛は、約10〜約50デシテックス、婦人用一般薄地の布帛、スポーツ用薄地は、約50〜約120デシテックス、中程度の厚地の布帛、ジャケット、パンツ地は、約120〜約200デシテックス、厚地織物、外衣、コート、重衣(例えば、柔道着、剣道着等)は、約200〜約500デシテックスのものが最適である。
【0047】
(4.芯鞘糸の芯成分を溶出させる方法)
本発明の芯鞘糸の芯成分は、芯鞘糸の芯成分を溶出する一般的な方法によって除去することができ、例えば、アルカリ溶液を用いて溶出される。溶出に用いるアルカリ溶液は、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液が好ましい。芯成分の方が鞘成分よりも例えばアルカリ溶液に溶解しやすいという性質を利用して、芯成分を除去する。糸の状態で芯成分を溶出させる方法としては、従来の技術である糸染設備を利用し、アルカリ溶液で溶出する方法がある。具体的には、チーズの形状で処理するチーズ染色機、又はカセ形状で処理するカセ染色機、マフ染色機、スター染色機を用い、溶出を行う。溶出の均一性、糸の解舒性から、チーズ染色機を用いることが特に好ましい。
【0048】
本発明の芯鞘糸において、鞘成分は、完全な中空構造ではなく、C型形状等を有し、繊維横断面において当該芯成分の一部が当該鞘成分の開口部から繊維表面に露出しているため、完全な中空構造を有する糸と比較して、アルカリ溶液が芯成分に浸透しやすく、比較的穏和な条件で溶出しやすく、芯成分の溶け残りが起こりにくい。溶出条件は、芯成分の組成、処理に使用する装置等によって変わるが、使用するアルカリ溶液の好ましい濃度は、例えば、0.5〜40%である。好ましい処理温度は、例えば、80℃〜120℃である。この範囲内で芯成分を除去することにより、均一で効率的に溶出させることができるので好ましい。
【0049】
本発明の溶出型中空糸の芯成分を溶出させる方法としては、代表的には、以下の3種類の方法がある。
【0050】
1.芯鞘糸と弾性繊維とを混繊又は合撚又はカバーリングさせて複合糸を製造した後、糸の状態で芯鞘糸の芯成分を溶出させる(以下、「先混用後溶出法」と称する)。
【0051】
2.芯鞘糸の芯成分を溶出させた後、弾性繊維と混繊又は合撚又はカバーリングし、複合糸を製造する(以下、「先溶出後混用法」と称する)。
【0052】
3.芯鞘糸と弾性繊維とを混繊又は合撚又はカバーリングして複合糸を製造した後、製編織して布帛とした後、芯成分を溶出させる(以下、「製編織後溶出法」と称する)。
【0053】
3種類の溶出方法のうち、どれを使用するかにより、得られる複合糸や布帛の性質が異なってくるが、これについては後述する。
【0054】
(5.上述の溶出法によって得られる複合糸及び布帛の性質)
本願発明者らは、同じ組成の芯鞘型繊維であっても、芯成分の除去方法を変えることにより、種々の用途に適した様々な特性を有する複合糸及び布帛が得られることを発見した。以下に詳細を示す。なお、本明細書において、「布帛」とは、織物、編物、不織布等の生地をいう。織物の例としては、平織、綾織(斜文織ともいう)、朱子織、二重織等の織物がある。編物の例としては、丸編、経編、横編等の編物がある。
【0055】
(5−1.先混用後溶出法によって得られる複合糸、布帛の性質)
図2は、先混用後溶出法で得られる複合糸の顕微鏡写真である(倍率400倍)。図2の複合糸の製造法及び先混用後溶出法の詳細を、以下の実施例1に示す。図2において、中央部に弾性繊維が存在し、弾性繊維の周囲に、本発明の略C型断面形状を有する溶出型中空糸が交絡しており、大きなループ形状が形成されている。略C型断面糸と弾性繊維とを混用した後に略C型断面糸の芯成分を除去しているため、弾性繊維によって略C型断面糸が伸びきらない状態で保持され、芯成分を除去した後も中空部分の形状が保持されやすいと考えられる。実際に、図2によれば、略C型断面糸の捲縮がきれいに残っており、略C型断面糸同士の間、弾性繊維と略C型断面糸との間に空気を多く含む。また、細かい捲縮が存在するため、略C型断面糸のループがつぶれにくいと考えられる。
【0056】
先混用後溶出法によって得られた複合糸から作られる布帛は、上述の複合糸の特徴から、非常に軽く、優れた保温性を有し、膨らみが大きいと考えられ、特に、軽くて暖かい秋冬向けの衣料として優れた特性を有する。
【0057】
(5−2.先溶出後混用法によって得られる複合糸、布帛の性質)
図3は、先溶出後混用法で得られる複合糸の顕微鏡写真である(倍率400倍)。図3の複合糸の製造法及び先混用後溶出法の詳細を、以下の実施例2に示す。図2図3の複合糸は、複合糸の組成は同じであり、溶出法のみが異なる。図2図3を比較すると明らかなように、溶出法を変えることによって、同じ組成から外観が著しく異なる複合糸が得られる。先溶出後混用法では、略C型断面糸の芯成分を溶出させた後、弾性繊維と混用する。図2の複合糸と同様に、中央部に弾性繊維が存在し、弾性繊維の周囲に、本発明の略C型断面形状を有する溶出型中空糸が交絡しており、大きなループ形状が形成されているが、略C型断面糸は、比較的滑らかな外観を有しており、捲縮はそれほど大きくない。
【0058】
そのため、先溶出後混用法によって得られた複合糸から作られる布帛は、図2の複合糸から作られる布帛と比較して、肌触りが滑らかであり、通気性がよいと考えられ、特に、軽くてさらさらした春夏向けの衣料として優れた特性を有する。
【0059】
また、図2の複合糸も図3の複合糸も、両方とも略C型断面糸を使用しているため、中実繊維を使用した場合と比較してカサ高く、得られる布帛は非常に軽く、ふわふわと柔らかく、伸長率、伸長回復性が高い。また、中空繊維ではなく略C型断面糸を使用しているため、略C型断面糸特有の軽量性、ソフトさ、風合い等の優れた性質を保持している。
【0060】
(5−3.製編織後溶出法によって得られる布帛の性質)
糸の状態で略C型断面糸の芯成分を除去する場合と比較して、製編織後溶出法によって得られる布帛では、略C型断面糸のループが比較的小さく、均一になる。そのため、得られる布帛は、非常に均一な保温性、カサ高性、ストレッチ性を有し、寸法安定性が高い。
(6.布帛)
本発明の複合糸を用いた布帛としては、織物、編物として好適に用いられる。
織物は、伸長率が5%以上、伸長回復率が80%以上であることが好ましい。伸長率が5%以上であれば、身体の動きに追随できるため好ましい。着用時の動きやすさとフィット性から、伸長率が5%〜40%であることが特に好ましい。本発明の織物の伸長回復率は80〜95%の範囲であることが好ましい。この範囲ではフィット感、着用快適性に優れる。また、型崩れが少なく形態保持性にも優れる。80%未満では回復が劣る場合がある。また、95%を超える物は一般的には製造できない。
【0061】
編物は、伸長率が90%以上、伸長回復率が80%以上であることが好ましい。着用時の動きやすさとフィット性から、伸長率は100%〜200%が特に好ましい。本発明の編物の伸長回復率は、織物の場合と同様の理由で、80〜95%の範囲であることが好ましい。
【0062】
(7.起毛処理)
本発明の布帛を起毛処理してもよい。起毛処理は、例えば、針布起毛機、バフ起毛機など一般的な起毛のための機械を用いて行うことができる。一般的に、針布起毛機を用いると、細かく密で長い毛羽が得られ、バフ起毛機を用いると、短く粗い毛羽が得られる。理論に束縛されるものではないが、起毛することによって、略C型断面糸の鞘部分が細かく切断され、割繊したり、クラックが入ったりすることで、従来にはない細かい特徴のある毛羽が得られると考えられる。布帛の裏面(人体に触れる側)を起毛すると、肌との摩擦が少なくなり、滑らかな質感が得られ、着用することで暖かく感じる。布帛の表面(外気側)を起毛すると、光沢、見栄え、手触りなどが良くなる。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0064】
(評価方法)
(1.略C型断面糸、複合糸、布帛の分析)
本発明の方法によって作成した略C型断面糸、複合糸及び布帛は、以下の方法によって分析した。
【0065】
(1−1.略C型断面糸の評価方法)
(1)厚み(μm)
略C型断面糸の単糸を切断し、走査型顕微鏡を用い、倍率2000倍で糸断面を撮影した。得られた顕微鏡写真を用い、略C型断面糸の壁の厚み(単位:μm)を実測した。1本の糸についてC型断面の任意の10箇所を選んで測定した(n=10)。この測定を10本の糸について行い、測定値を平均した値を中空糸の厚み(μm)とした。厚みが小さいほど、糸は軽く、ソフトである。
【0066】
(2)中空率(%)
上記(1)で得られた顕微鏡写真を拡大し、紙にコピーした。次いで、中空部を含めてC型断面を輪郭部分で切り落とし、質量(S;単位g)を測定した。さらに、中空部を輪郭部分で切り落とし、中空部の質量(S;単位g)を測定する。10個のC型断面についてS、Sをそれぞれ測定した。以下の式で中空率を求めた。
【0067】
中空率(%)=S(g)/S(g)×100
(1−2.複合糸の評価方法)
本発明の複合糸を以下の方法によって評価した。
【0068】
(1)外観評価
それぞれの糸について、デジタルマイクロスコープVHX−1000(株式会社キーエンス製)を用い、倍率400倍で拡大した顕微鏡写真を撮影し、糸の外観を評価した。
【0069】
評価項目:糸の巻き付き方、ループの形状、捲縮の有無等
(2)ループ高さ
それぞれの糸を、精密万能試験機オートグラフAG−IS(株式会社島津製作所製)を用い、(a)荷重せずそのまま、又は(b)荷重0.5g、(c)荷重6gで引っ張り、デジタルマイクロスコープVHX−1000(株式会社キーエンス製)を用い、倍率400倍で拡大した画像を得た。中心部にある弾性繊維の位置を0とし、弾性繊維から垂直に各ループの一番大きな部分を測定し、ループ高さHa、Hb、Hcそれぞれについて20点ずつ測定し、その平均値としてループ高さHa、Hb、Hc(単位μm)を得た。
【0070】
ループ高さHa=荷重せずそのままで測定したループ高さ(μm)
ループ高さHb=荷重0.5gで測定したループ高さ(μm)
ループ高さHc=荷重6gで測定したループ高さ(μm)
(3)ループ保持率
上記(2)のループ高さから、Hb/Ha、Hc/Haを算出した(単位%)。Hb/Ha、Hc/Haの値が大きいほど、荷重を加えてもループがつぶれにくいことを示す。
【0071】
(4)糸の伸度、強度:引っ張り試験
2014年版のJIS L1013の8.5「引張強さ及び伸び率」の8.5.1「標準時試験」(JIS法)に従って測定した
それぞれの糸を初荷重0.5gで、引張試験機でつかみ、引張試験を行う。糸が切断するまでに糸に加えた力(cN)と糸のストローク(ひずみ)の関係をグラフにし、糸切断時の強力(cN)と伸度(%)を得た(n=10の平均値)。糸の強度を、1デシテックスあたりの強度(cN/dtex)として表した。
【0072】
(5)糸の強さ(タフネス、強伸度積)
上述の(4)から、強伸度積(%・cN/dtex)=伸度(%)×強度(cN/dtex)を求めた。強伸度積の値が大きいほど、糸が粘り強く、靱性が大きいことを表す。
【0073】
なお、一度布帛にした後に構成糸のループ高さ、ループ伸長率等を測定する場合には、布帛を分解し、得られた糸について上述の評価を行う。
【0074】
(1−3.布帛の評価方法)
作成した布帛を、以下の方法によって評価した。
【0075】
(1)布帛の軽さ:目付(g/m
織物の軽さは、2014年版のJIS L1096の8.3.2に記載のA法(JIS法)に従って測定した織物の目付(g/m)によって表した。値が小さいほど、軽い。
【0076】
(2)布帛の厚さ:厚さ(mm)
2014年版のJIS L1096の8.4のA法(JIS法)に従って測定した(一定時間:10秒間、一定圧力:23.5kPa)。
【0077】
(3)布帛の膨らみ感:カサ高度(cm/g)
カサ高度(cm/g)は、厚さ(mm)を目付(g/m)で除し、1000を掛けた値とした。
【0078】
(4)布帛の滑らかさ:表面粗さ SMD値
評価機器:KES−FB4表面試験機(カトーテック(株)製)を用い、織物の裏面の表面粗さSMD値(μm)を測定した。織物の場合、裏面の経糸方向(タテ)と緯糸方向(ヨコ)をそれぞれ3ヶ所測定し、その平均値を求めた。編物の場合、編物のウェール方向とコース方向をそれぞれ5ヶ所測定し、その平均値を求めた。値が小さいほど、布帛に凹凸が少なく、良好である。
【0079】
(5)布帛のソフトさ:曲げ剛性 B値
評価機器:KES−FB2純曲げ試験機(カトーテック(株)製)を用い、織物の場合には、織物裏面の経糸方向と緯糸方向に曲げた時の織物の平均の曲げ剛性B値(gf・cm/cm)を測定した(経、緯それぞれN=3)。編物の場合には、編物のウェール方向とコース方向に曲げた時の平均の曲げ剛性B値(gf・cm/cm)を測定した(それぞれN=5)。値が小さいほど、剛性は低く、ソフトな風合いである。
【0080】
(6)布帛の伸長率
2014年版のJIS L1096の8.14.1項、A法(ストリップ法)に従って評価した。織物の場合、経方向と緯方向それぞれ3回測定し、平均値を算出した。編物の場合、ウェール方向及びコース方向に5回測定し、平均値を算出した。値が大きいほど、伸びが大きく良好である。
【0081】
(7)布帛の伸長回復率
織物の場合:
2014年版のJIS L1096の8.15.1項、A法のbの「繰り返し定率伸長時伸長弾性率」(5回繰り返し)に従って、織物の緯糸方向又は緯糸方向を測定し評価した。値が高いほど、ストレッチ後の回復性が良好である。
【0082】
編物の場合:
2014年版のJIS L1096の8.16.2項、D法の「繰り返し定伸長法」に従って、編物のウェール方向及びコース方向にそれぞれ5枚測定し、荷重−伸び曲線を描いた。値が高いほど、ストレッチ後の回復性が良好である。
【0083】
(実施例1 複合糸の調製−先混用後溶出法)
(1)溶出型中空糸(未溶出)の調製
芯成分として、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩4.8モル%及びポリエチレングリコール10.6質量%を共重合成分として含むポリエチレンテレフタレートと、鞘成分としてポリエチレンテレフタレートを用い、芯成分/鞘成分の質量比率が60/40になるように、鞘成分側がC字型となる芯鞘断面用C型口金ノズル(36ホール)から紡糸温度290℃で吐出させ、紡速3000m/分で紡糸し、繊維断面形状が略C字型の部分配向複合繊維糸として、総繊度140デシテックス、36フィラメントの糸条を一旦巻き取った。続いて、得られた部分配向複合繊維糸を、延伸仮撚機を用いて、熱セット温度165℃、延伸倍率1.7倍、加工速度600m/分で仮撚加工をして、芯/鞘質量比率が60/40、総繊度84デシテックス、36フィラメントの溶出型中空糸(未溶出)を得た。
【0084】
(2)溶出型中空糸(未溶出)とポリウレタン弾性繊維の混繊糸の調製
次いで、上述の溶出型中空糸(未溶出)を6本引き揃え(総繊度504デシテックス)、44デシテックスのポリウレタン弾性繊維「ライクラ」(東レオペロンテックス(株)製)を3.3倍延伸しながら、エアーで交絡させ、混繊した。得られたポリエステル/ポリウレタン弾性繊維の混繊糸は、総繊度が548デシテックスであった。
【0085】
(3)中空糸の芯成分の除去
その後、この複合糸を一旦、ソフトなチーズ形状に巻き返した。その後、糸染設備であるチーズ染色機に入れ、2.5%水酸化ナトリウム水溶液を用い、上述のようにして得た溶出型中空糸を100℃で40分間処理し、芯成分を完全に除去し、中空率が60%の溶出型中空糸(溶出済)を含む実施例1の複合糸を得た。総繊度は246デシテックス、単糸繊度が0.93デシテックスであり、中空糸の壁の厚みは1.73μmであった。得られた複合糸は、きわめて軽く、ソフトで布帛に広汎に用いられる好適な複合糸であった。評価結果は、以下の表1に示す。
【0086】
(実施例2 複合糸の調製−先溶出後混用法)
実施例1の(1)で調製した溶出型中空糸(未溶出)の芯成分を実施例1の(3)と同じ方法で溶出させた後、実施例1の(2)に記載するように、溶出型中空糸(溶出後)を6本引き揃え、44デシテックスのポリウレタン弾性繊維「ライクラ」(東レオペロンテックス(株)製)を3.3倍延伸しながら、エアーで交絡させ、混繊し、実施例2の複合糸を得た。得られた中空糸は、きわめて軽く、ソフトで布帛に広汎に用いられる好適な複合糸であった。評価結果は、以下の表1に示す。
【0087】
(比較例1 中空糸の調製)
実施例1の(1)で調製した溶出型中空糸(未溶出)をウレタン弾性繊維と混用することなく、実施例1の(3)と同じ方法で芯成分を溶出させ、比較例1とした。
【0088】
(比較例2 綿コアスパンヤーン)
比較例として、従来の綿コアスパンヤーン(芯44デシテックスのポリウレタン弾性糸を、綿11.8番手でカバリング加工)を用いた。
【0089】
(複合糸の評価)
実施例1及び2で得られた複合糸と、比較例1及び2の糸を用い、上述の「1−2.複合糸の評価方法」に基づき評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
*1 それぞれn=20の平均値
*2 ウレタン弾性繊維と混用していないため、測定せず
表1の結果から、実施例1及び実施例2の複合糸は、比較例の綿コアスパンヤーンと比較して、ループ高さが非常に大きい。また、荷重を加えたときの値(Hb、Hc)及びループ保持率の値から、0.5gまで荷重を加えてもループが保持されており(例えば、荷重0.5gで、実施例1ではループ保持率76.3%、実施例2では87.5%であるのに対し、比較例2では55.8%)、荷重を加えてもループがつぶれにくいことがわかった。また、本発明の複合糸は、糸の強力が比較例よりもかなり大きく、非常に強い糸であった。
【0092】
(実施例3 中空糸の壁の厚みの測定)
実施例1に記載の方法に従って、さまざまな太さの中空糸を用いて複合糸を作成し、溶出後の壁の厚みを測定した。結果を以下の表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
それぞれ特徴のある糸が得られた。例えば、実施例1の糸は、きわめて軽く、ソフトで布帛に広汎に用いられる好適な糸であった。また、実施例3−A、3−Bの糸は、羽根のようにきわめて軽く、薄地布帛として好適な糸であった。実施例3−Fの糸は、従来のモノフィラメントに対し、きわめて軽く、ソフトであり、張り、腰に富む糸であった。
【0095】
(実施例4 デニム地の作成)
(1)製織
経糸にネービー色にインディゴ染色した綿の9番単糸を用い、これを糊付け、整経し、これに実施例1で得られた複合糸を緯糸として打ち込み、生機織物にした。織物の組織は3/1の綾組織であり、また、生機幅175cm、経糸密度:68本/2.54cm、緯糸密度:45本/2.54cmであった。
【0096】
(2)仕上げ加工
次いでこの織物を拡布状に連続で糊抜き精練加工を行い、サンフォライズ加工し、180℃でセットした。更にこの織物を40℃で10分ワッシャーで洗いを行い(ワンウォッシャー加工)、最終仕上げした。
【0097】
(実施例5 デニム地の作成)
緯糸に実施例2で得られた複合糸を用いた以外は、実施例4と同じ手順でデニム生地を作成した。
【0098】
(比較例3 デニム地の作成)
緯糸に比較例1で得られた中空糸を用いた以外は、実施例4と同じ手順でデニム生地を作成した。得られたデニム地の伸長率は2%であり、伸長回復率は15%であり、身体への追随性はほとんどなかった。
【0099】
(比較例4 デニム生地の作成)
緯糸に比較例2の綿コアスパンヤーンを用いた以外は、実施例4と同じ手順でデニム生地を作成した。
【0100】
以下の表は、本発明の複合糸を用いたデニム地(実施例4)と、綿コアスパンヤーンを用いたデニム地(比較例4)の特性をまとめたものである(評価方法は「1−2.布帛の評価方法」を参照)。
【0101】
【表3】
【0102】
実施例4、比較例4で得た最終仕上げした織物について製品評価を行い、結果を表3に記載した。仕上げ幅:130cm、経糸密度:89本/2.54cm、緯糸密度:51本/2.54cmで、目付は328g/mであった。また織物の全体の混率は綿81重量%、ポリエステル17重量%、ポリウレタン弾性繊維2重量%であった。
【0103】
以上のように、本発明の複合糸を用いると、従来技術では得られなかった、きわめて軽く、膨らみがあり、ソフトでドライな風合いで履き心地が良く、また、ストレッチ性、伸長回復性に優れたデニム地が得られた。
【0104】
(実施例6 製編織後溶出法を用いたパンツ地の作成)
(1)芯鞘糸(未溶出)の調製
芯成分として、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩5.2モル%及びポリエチレングリコール10.4質量%を共重合成分として用いたポリエチレンテレフタレートと、鞘成分としてポリエチレンテレフタレートを用い、芯成分/鞘成分の質量比率が60/40になるように、鞘成分側がC字型となる芯鞘断面用C型口金ノズル(36ホール)から紡糸温度290℃で吐出させ、紡速3000m/分で紡糸し、繊維断面形状が略C字型の部分配向複合繊維糸として、総繊度140デシテックス、36フィラメントの糸条を一旦巻き取った。続いて、得られた部分配向複合繊維糸を、延伸仮撚機を用いて、熱セット温度165℃、延伸倍率1.7倍、加工速度600m/分で仮撚加工をして、芯/鞘質量比率が60/40、総繊度84デシテックス、36フィラメントの芯鞘糸(未溶出)を得た。
【0105】
(2)芯鞘糸(未溶出)とポリウレタン弾性繊維の混繊糸の調製
次いで、上述の芯鞘糸(未溶出)を2本引き揃え(総繊度504デシテックス)、22デシテックスのポリウレタン弾性繊維「ライクラ」(東レオペロンテックス(株)製)を3.3倍延伸しながら、エアーで交絡させ、混繊した。
【0106】
(3)製織
経糸に上述の(1)の84デシテックス、36フィラメントの芯鞘糸(未溶出)を用い、緯糸に上述の(2)の混繊複合糸を用い、エアー織機を用いて生機織物にした。織物の組織は2/1の綾組織であり、また、生機幅159cm、経糸密度:178本/2.54cm、緯糸密度:100本/2.54cm、目付が148g/mであった。
【0107】
(4)仕上げ加工
次いでこの織物を拡布状に連続で糊抜き精練加工を行い、180℃でセットした。その後、液流染色機中、2.0%水酸化ナトリウム水溶液を用い、105℃で35分間処理し、中空糸の芯成分を完全に除去した。次いで、この織物を、0.5%owfの青色分散染料を用い、130℃で染色した。次いで、160℃でセットし、最終仕上げした。
【0108】
得られた織物は、幅が153cm、経密度185本/2.54cm、緯密度105本/2.54cm、中空糸部分の減量率は60.2%であった。また、得られた織物は、目付が59.2g/m、厚さ0.32mm、カサ高度が5.41cm/g、ストレッチ率(ヨコ)が38%、伸長回復率が90.2%であった。風合いはソフトできわめて軽く、また滑らかな高級感溢れる青色のツイル織物であった。
【0109】
(比較例5 パンツ地の作成)
経糸に通常の丸断面のポリエチレンテレフタレートフィラメント(84デシテックス、36フィラメント)を用い、緯糸に通常の丸断面のポリエチレンテレフタレートフィラメント(84デシテックス、36フィラメント)とポリウレタン弾性繊維(44デシテックス)を複合した以外は、実施例6と同様の方法で生機織物にした。生機織物を作成した後に溶出減量加工をせずに、実施例6に従って染色し、最終仕上げした。
【0110】
得られた織物は、幅が153cm、経密度185本/2.54cm、緯密度105本/2.54cmであった。また、得られた織物は、目付が153.9g/m、厚さ0.29mm、カサ高度が1.88cm/g、ストレッチ率(ヨコ)が26.2%、伸長回復率が81.3%であった。ストレッチ率及び伸長回復率は優れているが、風合いは硬く、軽さや滑らかさ、カサ高度に特徴がなく、平凡な織物であった。
【0111】
(実施例7 ウール混織物)
実施例1に従って、中空率が60%の溶出型中空糸(溶出済)を含む複合糸を得た。溶出後の繊度は、202デシテックス−216フィラメント+ウレタン44デシテックスであった。この中空糸の溶出減量率は60.3%であった。
【0112】
経糸に52番のウールを用い、緯糸に上述の複合糸を用い、平組織の生機織物を得た。次いでこの織物を拡布状に連続で糊抜き精練加工を行い、180℃でセットした。その後、この織物を、グレーの酸性染料とグレーの分散染料を用い、105℃で染色した。次いで、セミデカ加工(表面の糸を蒸気でプレスする加工)し、仕上げた。
【0113】
得られた織物の風合いはソフトで、膨らみ感があり、滑らかできわめて軽かった。また、ストレッチ(ヨコ)率は28.3%、伸長回復率は88.3%であり、機能性と高級感が溢れるグレーの平織物が得られた。
【0114】
(比較例6 ウール混織物)
実施例7の複合糸の代わりに、実施例1の芯/鞘質量比率が60/40、総繊度85デシテックス、36フィラメントの芯鞘糸(未溶出)を緯糸に用いた以外は実施例7と同じ手順を行い、平組織を有する生機織物を得た。
【0115】
その後、液流染色機を用いて溶出工程を行おうとしたが、アルカリ液によってウールサイドが糸切れを起こし、加工することができなかった。
【0116】
(実施例8 ニット生地の作成)
実施例1の(1)の溶出型中空糸(未溶出)を1本(総繊度84デシテックス、36フィラメント)と、22デシテックスのポリウレタン弾性繊維「ライクラ」(東レオペロンテックス(株)製)を3.3倍延伸しながら、合撚した。その後、この原糸を一旦、ソフトなチーズ形状に巻き返した。その後、糸染設備であるチーズ染色機に入れ、2.0%水酸化ナトリウム水溶液を用い、上述のようにして得た溶出型中空糸を100℃で45分間処理し、芯成分を完全に除去し、中空率が60%の略C型断面糸(溶出済)を含む複合糸を得た。
【0117】
この複合糸を用い、釜径34吋(2.54cm)、ゲージ数32ゲージで編成し、天竺組織を得た。編成時には、複合糸に対し、編み張力2.2gをかけて編物を作成した。得られた生成は、幅が154cm、目付は78g/mmであった。この生成を常法に従って精練し、180℃でセットし、次いで、青色分散染料を用い、130℃で染色し、仕上げ処理した。仕上げ処理後の編物は、幅が150cm、目付は65g/mm、厚さ0.25mmであった。
【0118】
得られた編物は、カサ高度が3.85cm/g、ストレッチ率(ヨコ方向)125.4%、伸長回復率(ヨコ方向)が89.3%であった。得られた編物は、軽く(目付は65g/mm)、風合いはソフトであり、かつ滑らかな高級感溢れる青色の天竺編物であった。
【0119】
(比較例7 ニット生地の作成)
実施例8の中空率が60%の略C型断面糸(溶出済)を含む複合糸の代わりに、通常の丸断面のポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(84デシテックス、36フィラメント)を、22デシテックスのポリウレタン弾性繊維「ライクラ」(東レオペロンテックス(株)製)を3.3倍延伸しながら合撚した。この複合糸を用い、実施例8と同じ手順で青色の天竺編物を得た。得られた生成は、幅が154cm、目付は195g/mmであった。この生成を常法に従って精練し、180℃でセットし、次いで、青色分散染料を用い、130℃で染色し、仕上げ処理した。仕上げ処理後の編物は、幅が150cm、目付は162g/mm、厚さ0.35mmであった。
【0120】
得られた編物は、カサ高度が2.16cm/g、ストレッチ率(ヨコ方向)83.2%、伸長回復率(ヨコ方向)が62.3%であった。得られた編物は、軽量感がなく、風合いは硬く、ザラザラした風合いで平凡な天竺編物であった。
【0121】
(実施例9 起毛加工したデニム地)
実施例4(1)で得られたデニム地の生機織物を、実施例4(2)に従って精練、サンフォライズ、セットした。次いで、この生機織物を起毛加工した。針布起毛機を用い、織物の裏面を3回起毛した。起毛加工後、実施例4(2)に従ってワンウォッシャー加工し、仕上げた。ストレッチ率(ヨコ)31.4%、伸長回復率:89.2%であった。仕上製品は軽く、ソフトな色合いであり、裏面の毛羽は細かく、高密度であり、暖かいものであった。秋冬用途として好適なデニムが得られた。
図1
図2
図3
図4
図5