(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578800
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
B23K20/12 360
B23K20/12 310
B23K20/12 330
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-156616(P2015-156616)
(22)【出願日】2015年8月7日
(65)【公開番号】特開2017-35704(P2017-35704A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 久司
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 伸城
【審査官】
岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−018348(JP,A)
【文献】
特開2015−089550(JP,A)
【文献】
特開2010−082649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材同士を摩擦攪拌接合する接合方法であって、
前記金属部材同士の対向する端面を、裏面側に形成された外側端面と、表面側に形成され前記外側端面に対して対向する前記金属部材とは離間する側に形成された内側端面と、前記外側端面と前記内側端面とを繋ぐ中間面とを備えるように形成し、
前記金属部材の前記外側端面同士を突き合わせて突合せ部を形成するとともに、前記中間面同士と前記内側端面同士とで構成される凹溝を形成する突合せ工程と、
前記金属部材同士の表面側から回転ツールを挿入し前記突合せ部に対して摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌工程と、を含み、
前記回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部と前記ショルダ部から垂下する攪拌ピンとを有し、前記ショルダ部の直径を前記凹溝の幅よりも小さく設定し、
前記攪拌ピンは、先細りとなっており、
前記摩擦攪拌工程では、前記回転ツールのショルダ部を前記凹溝内に挿入し、前記ショルダ部を前記凹溝の底面から離間させた状態で、各前記金属部材から発生するバリを前記ショルダ部で押さえつつ、前記突合せ部を摩擦攪拌接合することにより、前記凹溝の底面、前記凹溝の両側壁及び前記ショルダ部の下端面で構成された空間にバリを堆積させることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
金属部材同士を摩擦攪拌接合する接合方法であって、
前記金属部材同士の端面を、板厚方向の中央に形成された外側端面と、前記外側端面に対して表面側及び裏面側の両方に形成されるとともに前記外側端面に対して対向する前記金属部材とは離間する側に形成された一対の内側端面と、前記外側端面と一対の前記内側端面とをそれぞれ繋ぐ一対の中間面とを備えるように形成し、
前記金属部材の前記外側端面同士を突き合わせて突合せ部を形成するとともに、前記金属部材同士の表面側及び裏面側にそれぞれ形成され前記中間面同士と前記内側端面同士とで構成される一対の凹溝を形成する突合せ工程と、
前記金属部材同士の表面側から回転ツールを挿入し前記突合せ部に対して摩擦攪拌接合を行う第一の摩擦攪拌工程と、
前記金属部材同士の裏面側から回転ツールを挿入し前記突合せ部に対して摩擦攪拌接合を行う第二の摩擦攪拌工程と、を含み、
前記回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部と前記ショルダ部から垂下する攪拌ピンとを有し、前記ショルダ部の直径を前記凹溝の幅よりも小さく設定し、
前記攪拌ピンは、先細りとなっており、
前記第一の摩擦攪拌工程及び前記第二の摩擦攪拌工程では、前記回転ツールのショルダ部を前記凹溝内にそれぞれ挿入し、前記ショルダ部を前記凹溝の底面から離間させた状態で、各前記金属部材から発生するバリを前記ショルダ部で押さえつつ、前記突合せ部を摩擦攪拌接合することにより、前記凹溝の底面、前記凹溝の両側壁及び前記ショルダ部の下端面で構成された空間にバリを堆積させることを特徴とする接合方法。
【請求項3】
前記第一の摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域と、前記第二の摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域とを重複させることを特徴とする請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記突合せ部の両端にそれぞれタブ材を配置するタブ材配置工程を含み、
前記摩擦攪拌工程では、摩擦攪拌の始点を一方のタブ材に設けるとともに、摩擦攪拌の終点を他方のタブ材に設けることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項5】
前記攪拌ピンの外周面に螺旋溝が形成されており、
前記攪拌ピンの螺旋溝を前記攪拌ピンの基端から先端に向かうにつれて左回りに形成した場合は、前記回転ツールを右回転させ、前記攪拌ピンの螺旋溝を前記攪拌ピンの基端から先端に向かうにつれて右回りに形成した場合は、前記回転ツールを左回転させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項6】
前記第一金属部材及び前記第二金属部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材同士の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、板状の第一金属部材と板状の第二金属部材とを突き合わせて摩擦攪拌接合する接合方法が開示されている。当該接合方法では、第一金属部材の端面と第二金属部材の端面とを突き合わせて突合せ部を形成する突合せ工程と、第一金属部材及び第二金属部材の表面及び裏面から回転ツールをそれぞれ押し込んで突合せ部を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌工程とを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−172649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の接合方法では、回転ツールのショルダ部の下端面を第一金属部材及び第二金属部材の表面及び裏面にそれぞれ押し込んで摩擦攪拌工程を行うため、表面及び裏面にバリが発生する。そのため、バリを除去するバリ除去工程を行わなければならない。また、回転ツールのショルダ部の下端面を第一金属部材及び第二金属部材の表面及び裏面にそれぞれ押し込んで摩擦攪拌工程を行うため、摩擦攪拌装置にかかる負荷が大きくなるという問題がある。
【0005】
このような観点から、本発明は、第一金属部材及び第二金属部材の表面にバリが発生するのを防ぐことができるとともに、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる接合方法を提供することを特徴とする。また、本発明は、第一金属部材及び第二金属部材の表面及び裏面にバリが発生するのを防ぐことができるとともに、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる接合方法を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために本発明は、金属部材同士を摩擦攪拌接合する接合方法であって、前記金属部材同士の対向する端面を、裏面側に形成された外側端面と、表面側に形成され前記外側端面に対して対向する前記金属部材とは離間する側に形成された内側端面と、前記外側端面と前記内側端面とを繋ぐ中間面とを備えるように形成し、前記金属部材の前記外側端面同士を突き合わせて突合せ部を形成するとともに、前記中間面同士と前記内側端面同士とで構成される凹溝を形成する突合せ工程と、前記金属部材同士の表面側から回転ツールを挿入し前記突合せ部に対して摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌工程と、を含み、前記回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部と前記ショルダ部から垂下する攪拌ピンとを有し、前記ショルダ部の直径を前記凹溝の幅よりも小さく設定し、
前記攪拌ピンは、先細りとなっており、前記摩擦攪拌工程では、前記回転ツールのショルダ部を前記凹溝内に挿入し、前記ショルダ部を前記凹溝の底面から離間させた状態で、各前記金属部材から発生するバリを前記ショルダ部で押さえつつ、前記突合せ部を摩擦攪拌接合すること
により、前記凹溝の底面、前記凹溝の両側壁及び前記ショルダ部の下端面で構成された空間にバリを堆積させることを特徴とする。
【0007】
かかる方法によれば、凹溝の底面、凹溝の両側壁及びショルダ部の下端面で狭い空間が形成されるため、バリが散飛するのを防ぐとともに凹溝の底面にバリを堆積させることができる。これにより、第一金属部材及び第二金属部材の表面にバリが発生するのを防ぐことができる。また、凹溝の底面にショルダ部を押し込まないため、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。
【0008】
また、本発明は、金属部材同士を摩擦攪拌接合する接合方法であって、前記金属部材同士の端面を、板厚方向の中央に形成された外側端面と、前記外側端面に対して表面側及び裏面側の両方に形成されるとともに前記外側端面に対して対向する前記金属部材とは離間する側に形成された一対の内側端面と、前記外側端面と一対の前記内側端面とをそれぞれ繋ぐ一対の中間面とを備えるように形成し、前記金属部材の前記外側端面同士を突き合わせて突合せ部を形成するとともに、前記金属部材同士の表面側及び裏面側にそれぞれ形成され前記中間面同士と前記内側端面同士とで構成される一対の凹溝を形成する突合せ工程と、前記金属部材同士の表面側から回転ツールを挿入し前記突合せ部に対して摩擦攪拌接合を行う第一の摩擦攪拌工程と、前記金属部材同士の裏面側から回転ツールを挿入し前記突合せ部に対して摩擦攪拌接合を行う第二の摩擦攪拌工程と、を含み、前記回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部と前記ショルダ部から垂下する攪拌ピンとを有し、前記ショルダ部の直径を前記凹溝の幅よりも小さく設定し、
前記攪拌ピンは、先細りとなっており、前記第一の摩擦攪拌工程及び前記第二の摩擦攪拌工程では、前記回転ツールのショルダ部を前記凹溝内にそれぞれ挿入し、前記ショルダ部を前記凹溝の底面から離間させた状態で、各前記金属部材から発生するバリを前記ショルダ部で押さえつつ、前記突合せ部を摩擦攪拌接合すること
により、前記凹溝の底面、前記凹溝の両側壁及び前記ショルダ部の下端面で構成された空間にバリを堆積させることを特徴とする。
【0009】
かかる方法によれば、各凹溝の底面、両側壁及びショルダ部の下端面で狭い空間が形成されるため、バリが散飛するのを防ぐとともに各凹溝の底面にバリを堆積させることができる。これにより、第一金属部材及び第二金属部材の表面及び裏面にバリが発生するのを防ぐことができる。また、凹溝の底面にショルダ部を押し込まないため、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。
【0010】
また、前記第一の摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域と、前記第二の摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域とを重複させることが好ましい。
【0011】
かかる方法によれば、突合せ部の深さ方向の全長が摩擦攪拌されるため、接合強度が向上するとともに、水密性及び気密性を高めることができる。
【0012】
また、前記突合せ部の両端にそれぞれタブ材を配置するタブ材配置工程を含み、前記摩擦攪拌工程では、摩擦攪拌の始点を一方のタブ材に設けるとともに、摩擦攪拌の終点を他方のタブ材に設けることが好ましい。
また、前記攪拌ピンの外周面に螺旋溝が形成されており、前記攪拌ピンの螺旋溝を前記攪拌ピンの基端から先端に向かうにつれて左回りに形成した場合は、前記回転ツールを右回転させ、前記攪拌ピンの螺旋溝を前記攪拌ピンの基端から先端に向かうにつれて右回りに形成した場合は、前記回転ツールを左回転させることが好ましい。
また、前記第一金属部材及び前記第二金属部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成されていることが好ましい。
【0013】
かかる方法によれば、摩擦攪拌の開始位置及び終了位置を容易に設定することができるとともに、金属部材の側面をきれいに形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る接合方法によれば、第一金属部材及び第二金属部材の表面にバリが発生するのを防ぐことができるとともに、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。また、本発明に係る接合方法によれば、第一金属部材及び第二金属部材の表面及び裏面にバリが発生するのを防ぐことができるとともに、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る接合方法を示す図であって、(a)は準備工程を示す斜視図であり、(b)は突合せ工程を示す断面図である。
【
図2】第一実施形態に係る接合方法を示す図であって、(a)はタブ材配置工程を示す斜視図であり、(b)は摩擦攪拌工程を示す斜視図である。
【
図3】第一実施形態に係る接合方法の摩擦攪拌工程を示す模式断面図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係る接合方法を示す図であって、(a)は準備工程を示す断面図であり、(b)は突合せ工程を示す断面図である。
【
図5】第二実施形態に係る第一の摩擦攪拌工程を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は模式断面図である。
【
図6】第二実施形態に係る第二の摩擦攪拌工程を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る接合方法について図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、第一実施形態に係る接合方法では、第一金属部材1と第二金属部材2とを突き合わせて接合する。第一実施形態に係る接合方法は、準備工程と、突合せ工程と、タブ材配置工程と、摩擦攪拌工程とを行う。なお、説明における「表面」とは、「裏面」に対する反対側の面という意味である。
【0017】
準備工程は、
図1の(a)に示すように、第一金属部材1及び第二金属部材2を用意する工程である。第一金属部材1は、板状の金属部材である。第一金属部材1の材料は、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、 マグネシウム、マグネシウム合金等の摩擦攪拌可能な金属から適宜選択される。準備工程では、第一金属部材1の端面が、外側端面1dと、内側端面1eと、中間面1fとで構成されるように形成する。内側端面1eは、外側端面1dに対して対向する第二金属部材2から離間する側に形成されている。中間面1fは、外側端面1dと内側端面1eとを繋ぐとともに、外側端面1d及び内側端面1eに対して直角になっている。第一金属部材1の内側端面1e及び中間面1fは、端面を切り欠いて形成してもよいし、ダイキャストで予め成形してもよい。
【0018】
第二金属部材2は、板状の金属部材である。第二金属部材2の材料は、前記した摩擦攪拌可能な金属から適宜選択すればよいが、第一金属部材1と同等の材料であることが好ましい。第二金属部材2は、第一金属部材1と同等の形状で形成されている。つまり、準備工程では、第二金属部材2の端面が、外側端面2dと、内側端面2eと、中間面2fとで構成されるように形成する。内側端面2eは、外側端面2dに対して対向する第一金属部材1から離間する側に形成されている。中間面2fは、外側端面2dと内側端面2eとを繋ぐとともに、外側端面2d及び内側端面2eに対して直角になっている。
【0019】
突合せ工程は、
図1の(b)に示すように、第一金属部材1の端面と第二金属部材2の端面とを突き合わせて突合せ部Jを形成する工程である。突合せ工程では、第一金属部材1の外側端面1dと第二金属部材2の外側端面2dとを突き合わせる。これにより、突合せ部Jが形成される。また、対向する内側端面1e,2eと、連続する中間面1f,2fとで凹溝10が形成される。凹溝10は、断面矩形を呈する。凹溝10は、底面10a(中間面1f,2f)と、側壁10b,10b(内側端面1e,2e)とで構成されている。
【0020】
タブ材配置工程は、
図2の(a)に示すように、突合せ部Jの両端に、一対のタブ材Tを配置する工程である。タブ材Tは、直方体を呈し、第一金属部材1及び第二金属部材2と同等の材料で形成されている。タブ材Tの板厚寸法は、外側端面1d,2dの高さ寸法と同等に形成されている。タブ材配置工程では、タブ材Tの側面を第一金属部材1及び第二金属部材2の側面に当接させて、第一金属部材1とタブ材Tとの内隅及び第二金属部材2とタブ材Tとの内隅を溶接により仮接合する。タブ材Tの表面Tbと凹溝10の底面10aとを面一にするとともに、タブ材Tの裏面Tcと第一金属部材1の裏面1c及び第二金属部材2の裏面2cとを面一にする。
【0021】
摩擦攪拌工程は、
図2の(a)及び(b)に示すように、回転ツールGのショルダ部G1を凹溝10内に挿入して突合せ部Jを摩擦攪拌接合する工程である。回転ツールGは、円柱状のショルダ部G1と、ショルダ部G1の下端面G1aから垂下する攪拌ピンG2とで構成されている。ショルダ部G1の直径は、凹溝10の幅よりも若干小さく形成されている。ショルダ部G1の直径は、ショルダ部G1の外周面と凹溝10の側壁10b,10bとが接触するように設定してもよいが、摩擦攪拌工程を行う際に、ショルダ部G1の外周面と凹溝10の側壁10b,10bとがわずかな隙間をあけて相対移動可能な寸法であることが好ましい。
【0022】
攪拌ピンG2は、先細りになっている。攪拌ピンG2の外周面には螺旋溝が形成されている。本実施形態では、回転ツールGを右回転させるため、攪拌ピンG2の螺旋溝は、基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。言い換えると、螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て左回りに形成されている。
【0023】
なお、回転ツールGを左回転させる場合は、螺旋溝を基端から先端に向かうにつれて右回りに形成することが好ましい。言い換えると、この場合の螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て右回りに形成されている。螺旋溝をこのように設定することで、摩擦攪拌工程の際に塑性流動化した金属が螺旋溝によって攪拌ピンG2の先端側に導かれる。これにより、凹溝10の底面10aから溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0024】
摩擦攪拌工程では、
図2の(b)に示すように、まず、一方のタブ材Tの表面Tbに設定された開始位置Spに回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入し、下端面G1aを表面Tbに押し込みつつ突合せ部Jに向けて相対移動させる。回転ツールGが突合せ部Jに突入したら、
図3に示すように、下端面G1aを凹溝10の底面10aから離間させつつ、突合せ部J(凹溝10)に沿って回転ツールGを相対移動させる。回転ツールGの移動軌跡には塑性化領域Wが形成される。
【0025】
摩擦攪拌工程では、ショルダ部G1の下端面G1aを、凹溝10の底面10aから離間させ、かつ、第一金属部材1の表面1bよりも低い位置に設定している。つまり、摩擦攪拌工程では、摩擦攪拌によって発生するバリVをショルダ部G1の下端面G1aで押さえ込みつつ摩擦攪拌接合を行う。特許請求の範囲の「前記ショルダ部を前記凹溝の底面から離間させた状態」とは、バリVが発生する前の凹溝10の底面10aからショルダ部G1の下端面G1aを離間させるという意味である。また、特許請求の範囲の「各前記金属部材から発生するバリを前記ショルダ部で押さえつつ」とは、堆積するバリVとショルダ部G1の下端面G1aとが接触しており、バリVの表面(上面)をショルダ部G1の下端面G1aによって押さえるという意味である。
【0026】
また、ショルダ部G1の外周面と凹溝10の側壁10b,10bとはわずかな隙間をあけて離間している。凹溝10の底面10a、凹溝10の側壁10b,10b及びショルダ部G1の下端面G1aで狭い空間が形成されている。
【0027】
摩擦攪拌工程によって凹溝10の底面10aにバリVが発生するが、凹溝10の底面10a、凹溝10の側壁10b,10b及びショルダ部G1の下端面G1aで構成された狭い空間(断面矩形の閉空間)に当該バリVが閉じ込められ、底面10aにバリVが堆積する。
図3に示すように、バリVは、凹溝10内に収容されるとともに、バリVの表面(上面)は、ショルダ部G1の下端面G1aによって押さえられて略平坦になる。回転ツールGが、他方のタブ材Tの表面Tbに設定された終了位置Epに達したら、タブ材Tから回転ツールGを離脱させる。また、第一金属部材1及び第二金属部材2からタブ材Tを切除する。
【0028】
以上説明した本実施形態に係る接合方法によれば、摩擦攪拌工程を行う際に、凹溝10の底面10a、凹溝10の側壁10b,10b及びショルダ部G1の下端面G1aで狭い空間が形成されるため、バリVが散飛するのを防ぐとともに凹溝10の底面10aにバリVを堆積させることができる。これにより、第一金属部材1の表面1b及び第二金属部材2の表面2bにバリVが発生するのを防ぐことができる。よって、第一金属部材1の表面1b及び第二金属部材2の表面2bのバリ除去工程等の表面処理を省略化することができる。
【0029】
また、本実施形態に係る接合方法によれば、凹溝10の底面10aにショルダ部G1を押し込まないため、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。また、一対のタブ材Tを用いて摩擦攪拌工程を行うため、摩擦攪拌工程の開始位置Sp及び終了位置Epを容易に設定することができるとともに、第一金属部材1及び第二金属部材2の側面をきれいに仕上げることができる。
【0030】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る接合方法について説明する。第二実施形態に係る接合方法では、第一金属部材1A及び第二金属部材2Aの表裏から摩擦攪拌接合を行う点で第一実施形態と相違する。第二実施形態に係る説明では、第一実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0031】
第二実施形態に係る接合方法では、準備工程と、突合せ工程と、タブ材配置工程と、第一の摩擦攪拌工程と、第二の摩擦攪拌工程とを行う。準備工程では、第一金属部材1Aの端面が、外側端面1dと、内側端面1eと、中間面1fと、内側端面1gと、中間面1hとで構成されるように形成する。内側端面1gは、外側端面1dの裏側に形成されており、対向する第二金属部材2Aから離間する側に形成されている。中間面1hは、外側端面1dと内側端面1gとを繋ぐとともに、外側端面1d及び内側端面1gに対して直角になっている。つまり、内側端面1e及び中間面1fは、第一金属部材1Aの表面1b側に形成されており、内側端面1g及び中間面1hは、第一金属部材1Aの裏面1c側に形成されている。
【0032】
第二金属部材2Aは、第一金属部材1Aと同等の形状で形成されている。つまり、準備工程では、第二金属部材2Aの端面が、外側端面2dと、内側端面2eと、中間面2fと、内側端面2gと、中間面2hとで構成されるように形成する。内側端面2gは、外側端面2dに対して対向する第一金属部材1Aから離間する側に形成されている。中間面2hは、外側端面2dと内側端面2gとを繋ぐとともに、外側端面2d及び内側端面2gに対して直角になっている。つまり、内側端面2e及び中間面2fは、第二金属部材2Aの表面2b側に形成されており、内側端面2g及び中間面2hは、第二金属部材2Aの裏面2c側に形成されている。
【0033】
突合せ工程は、
図4の(a)及び(b)に示すように、第一金属部材1Aの端面と第二金属部材2Aの端面とを突き合わせて突合せ部Jを形成する工程である。突合せ工程では、第一金属部材1Aの外側端面1dと第二金属部材2Aの外側端面2dとを突き合わせる。これにより、突合せ部Jが形成される。また、対向する内側端面1e,2eと、連続する中間面1f,2fとで凹溝10が形成される。また、対向する内側端面1g,2gと、連続する中間面1h,2hとで凹溝11が形成される。凹溝11は、断面矩形を呈する。凹溝11は、底面11a(中間面1h,2h)と、側壁11b,11b(内側端面1g,2g)とで構成されている。
【0034】
タブ材配置工程は、
図5の(a)に示すように、突合せ部Jの両端に、一対のタブ材Tを配置する工程である。タブ材Tは、直方体を呈し、第一金属部材1A及び第二金属部材2Aと同等の材料で形成されている。タブ材Tの板厚寸法は、外側端面1d,2dの高さ寸法と同等に形成されている。タブ材配置工程では、タブ材Tの側面を第一金属部材1A及び第二金属部材2Aの側面に当接させて、第一金属部材1とタブ材Tとの内隅及び第二金属部材2とタブ材Tとの内隅を溶接により仮接合する。タブ材Tの表面Tbと凹溝10の底面10aとを面一にするとともに、タブ材Tの裏面Tcと凹溝11の底面11aとを面一にする。
【0035】
第一の摩擦攪拌工程は、
図5の(a)及び(b)に示すように、第一実施形態の摩擦攪拌工程と同じ要領で回転ツールGを凹溝10に挿入して突合せ部Jを摩擦攪拌接合する。回転ツールGの移動軌跡には塑性化領域W1が形成される。第二の摩擦攪拌工程は、
図6に示すように、第一金属部材1A及び第二金属部材2Aをひっくり返し、凹溝11に回転ツールGを挿入して突合せ部Jに対して摩擦攪拌接合を行う。
【0036】
第二の摩擦攪拌工程では、一方のタブ材Tの裏面Tcに設定された開始位置に回転ツールGを挿入し、第一金属部材1A及び第二金属部材2Aに向けて回転ツールGを相対移動させる。そして、回転ツールGが突合せ部Jに突入したら、
図6に示すように、下端面G1aを凹溝11の底面11aから離間させつつ、突合せ部J(凹溝11)に沿って回転ツールGを相対移動させる。回転ツールGの移動軌跡には、塑性化領域W2が形成される。
【0037】
第二の摩擦攪拌工程では、ショルダ部G1の下端面G1aを、凹溝11の底面11aから離間させ、かつ、第一金属部材1Aの裏面1cよりも低い位置に設定している。つまり、第二の摩擦攪拌工程では、摩擦攪拌によって発生するバリVをショルダ部G1の下端面G1aで押さえ込みつつ摩擦攪拌接合を行う。また、第二の摩擦攪拌工程では、回転ツールGの攪拌ピンG2が、塑性化領域W1に達するように挿入深さを調整することを除いては、第一の摩擦攪拌工程と同等である。
【0038】
以上説明した本実施形態に係る接合方法によれば、第一の摩擦攪拌工程を行う際に、凹溝10の底面10a、凹溝10の側壁10b,10b及びショルダ部G1の下端面G1aで狭い空間が形成されるため、バリVが散飛するのを防ぐとともに凹溝10の底面10aにバリVを堆積させることができる。これにより、第一金属部材1Aの表面1b及び第二金属部材2Aの表面2bにバリVが発生するのを防ぐことができる。
【0039】
また、第二の摩擦攪拌工程を行う際に、凹溝11の底面11a、凹溝11の側壁11b,11b及びショルダ部G1の下端面G1aで狭い空間が形成されるため、バリVが散飛するのを防ぐとともに凹溝11の底面11aにバリVを堆積させることができる。これにより、第一金属部材1Aの裏面1c及び第二金属部材2Aの裏面2cにバリVが発生するのを防ぐことができる。よって、第一金属部材1A及び第二金属部材2Aのバリ除去工程等の表面処理を省略化することができる。
【0040】
また、本実施形態に係る接合方法によれば、凹溝10の底面10a及び凹溝11の底面11aにショルダ部G1を押し込まないため、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。また、第一の摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域W1と第二の摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域W2とを重複させることで、突合せ部Jの深さ方向の全長が摩擦攪拌されるため、接合強度を高めることができるとともに、水密性及び気密性を高めることができる。また、タブ材Tの高さ寸法を、外側端面1d,2dの板厚寸法と同等にしているため、タブ材Tで第一の摩擦攪拌工程及び第二の摩擦攪拌工程の両方に対応することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 第一金属部材
1b 表面
1c 裏面
1d 外側端面
1e 内側端面
1f 中間面
1g 内側端面
1h 中間面
2 第二金属部材
2b 表面
2c 裏面
2d 外側端面
2e 内側端面
2f 中間面
2g 内側端面
2h 中間面
10 凹溝
11 凹溝
J 突合せ部
G 回転ツール
G1 ショルダ部
G2 攪拌ピン
W 塑性化領域
W1 塑性化領域
W2 塑性化領域