(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定部は、前記プリセットフィルタ毎の前記定位位置の三次元座標と、予め設定された仮想スピーカの三次元座標とを用いて、前記仮想スピーカと前記定位位置との距離を算出し、
前記プリセットフィルタ毎の前記仮想スピーカと前記定位位置との距離に基づいて、前記最適なフィルタを判定する請求項1に記載の頭外定位処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態にかかる頭外定位処理装置、及びフィルタ選択方法の概要について説明する。
【0017】
頭外定位ヘッドホンにおいては、聴取者本人の頭部伝達特性を用いて処理を行うことにより、最も高い頭外定位性能を引き出すことができる。しかしながら、測定用スピーカが用意できない等の理由により、予め複数用意された他人の特性をもつプリセットフィルタ群の中から、最も本人に近い特性(フィルタ)を選択するプリセット方式が次善の策として考えられる。
【0018】
プリセット方式では、複数のプリセットフィルタで処理した音を順番に聴きながら聴取者本人が最適な組み合わせを選択する。しかしながら、それぞれのプリセットフィルタにおいて音像の定位位置を記憶しておくことが難しく、初心者には最適な組み合わせを選択することが困難である。
【0019】
そこで、本実施の形態では、それぞれのプリセットフィルタの音像の定位位置を、センサユニットが検出する。例えば、ユーザが指先にマーカーを装着する。そして、ユーザが知覚した音像の定位位置をマーカーで指し示す。センサユニットを用いてマーカーの位置を検出することにより、各プリセットフィルタの音像定位情報を数値化する。
【0020】
具体的には、それぞれのプリセットフィルタを用いて、音像定位が明確にわかるようなテスト音源(ホワイトノイズ等)を再生する。そして、ユーザが音像の定位位置を指もしくはマーカーなどで示す。ヘッドホンに設置したセンサを用いて、定位位置の三次元座標を測定する。
【0021】
処理装置は、複数のプリセットフィルタでの定位位置の三次元座標をそれぞれ記憶する。処理装置は、複数のプリセットフィルタに対応する三次元座標化したデータを分析する。処理装置は、分析結果に基づいて、最も頭外定位性能の高い組み合わせを決定する。こうすることにより、聴取者が自身に最適なプリセットフィルタ(以下、最適フィルタとする)を自分で選択することなく、自動的に最適な頭外定位性能が得られる。
【0022】
頭外定位性能の評価については、ユーザから音像の定位位置までの距離や、仮想スピーカから音像の定位位置までの距離を用いることができる。例えば、ユーザから最も遠くに音像定位するプリセットフィルタを、最適フィルタとして選択する。あるいは、仮想的なスピーカの最も近くに音像定位するプリセットフィルタを最適フィルタとすることができる。
【0023】
実施の形態1.
本実施の形態にかかる頭外定位処理装置、及びフィルタ選択方法について、
図1〜
図2を用いて説明する。
図1は、頭外定位処理装置100の構成を示すブロック図である。
図2は、センサユニットが実装されたヘッドホンの構成を示す図である。
【0024】
図1に示すように頭外定位処理装置100は、マーカー15と、センサユニット16と、ヘッドホン6と、処理装置10と、を備えている。
【0025】
聴取者であるユーザ1は、ヘッドホン6を装着している。ヘッドホン6は、Lch信号とRch信号をユーザ1に向けて出力することができる。また、
図2に示すように、ユーザ1は、指7にマーカー15を装着している。ヘッドホン6には、センサユニット16が取り付けられている。センサユニット16は、ユーザ1の指7に装着されたマーカー15を検出する。
【0026】
ヘッドホン6は、バンドタイプのヘッドホンであり、左のハウジング6L、右のハウジング6R、及びヘッドバンド6Cを備えている。左のハウジング6Lは、ユーザ1の左耳にLch信号を出力する。右のハウジング6Rは、ユーザ1の右耳にRch信号を出力する。左右のハウジング6L、6Rは振動板等を有する出力ユニットを内蔵している。ヘッドバンド6Cは、円弧状に形成され、左のハウジング6Lと右のハウジング6Rとを連結している。ヘッドバンド6Cがユーザ1の頭部の上に乗せられる。これにより、左右のハウジング6L、6Rの間に、ユーザ1の頭部が挟まれる。左のハウジング6Lがユーザ1の左耳に装着され、右のハウジング6Rが右耳に装着される。
【0027】
ヘッドホン6には、センサユニット16が設置されている。センサユニット16には、複数のセンサ16L1、16L2、16C、16R2、16R1を備えたセンサアレイを用いることができる。センサL1は、左のハウジング6Lに取り付けられている。センサ16R1は、右のハウジング6Rに取り付けられている。センサ16L2、センサ16C、センサ16R2はヘッドバンド6Cに取り付けられている。
【0028】
センサ16Cは、ヘッドバンド6Cの中央に配置されている。センサ16L2は、センサ16L1とセンサ16Cとの間に配置されている。センサ16R2は、センサ16R1とセンサ16Cとの間に配置されている。このように、センサ16L2、センサ16C、センサ16R2は、ヘッドバンド6Cに沿って、センサ16L1とセンサ16R1の間に配置されている。
【0029】
なお、
図2では、センサユニット16が5つのセンサ16L1、16L2、16C、16R2、16R1を有する例について示しているが、センサの数、及び位置については特に限定されるものではない。複数のセンサがヘッドホン6の左右のハウジング6L、6R、またはヘッドバンド6Cに設置されていればよい。
【0030】
ここでは、センサ16L1、16L2、16C、16R2、16R1が光学式センサであり、センサユニット16は、マーカー15を検出する。例えば、発光体を有するマーカー15を用いる場合、センサ16L1、16L2、16C、16R2、16R1は、マーカー15から光を受光する受光素子を有している。そして、各センサ16L1、16L2、16C、16R2、16R1のそれぞれに、マーカー15からの光が到達する時間差によって、センサユニット16は、マーカー15の位置を検出する。
【0031】
あるいは、反射体を有するマーカー15を用いる場合、各センサ16L1、16L2、16C、16R2、16R1は、発光素子、及び受光素子を有している。そして、各センサ16L1、16L2、16C、16R2、16R1の発光素子は、異なる周波数(波長)の光を発光する。マーカー15で反射された反射光を各センサ16L1、16L2、16C、16R2、16R1の受光素子がそれぞれの周波数の光を検出する。各センサ16L1、16L2、16C、16R2、16R1の受光素子が光を検出した時間から、マーカー15との位置関係を測定することができる。
【0032】
ヘッドホン6の左右のハウジング6L、6R、及びヘッドバンド6Cに円弧状に複数のセンサ16L1、16L2、16C、16R2、16R1が設置されているため、センサユニット16は、水平方向、鉛直方向、奥行き方向(前後方向)のマーカー位置を検出することができる。
【0033】
なお、マーカー15の位置を検出する方法については特に限定されるものではない。例えば、各センサを光学式センサではなく、電磁式センサ等としてもよい。もちろん、センサユニット16は、マーカー15ではなく、ユーザ1の指などの位置を直接検出するようにしてもよい。この場合、ユーザ1がマーカー15を装着しなくてもよい。また、センサユニット16に設けられたセンサの一部又は全部は、ヘッドホン6以外に取り付けられていてもよい。また、ユーザ1の指7にセンサユニットを装着し、ヘッドホン6にマーカー15を設置してもよい。そして、ユーザ1の指6に装着されたセンサユニットでヘッドホン6に設置されたマーカーの位置を検出する。
【0034】
処理装置10は、パーソナルコンピュータなどの演算処理装置であり、プロセッサ、及びメモリ等を備えている。処理装置10は、音源再生部11、頭外定位処理部12、ヘッドホン再生部13、フィルタ選択部14、三次元座標算出部17、入力部18、判定部19、三次元座標記憶部20を備えている。
【0035】
処理装置10は、ユーザ1に最適なフィルタを選択するための処理を行う。処理装置10の処理によって、最適フィルタを選択するための視聴テストが実行される。なお、処理装置10は、物理的に単一な装置に限られるものではなく、一部の処理が異なる装置で行われてもよい。例えば、一部の処理がパソコンなどにより行われ、残りの処理がヘッドホン6に内蔵されたDSP(Digital Signal Processor)などにより行われてもよい。あるいは、三次元座標算出部17がセンサユニット16に設けられていてもよい。
【0036】
音源再生部11は、テスト音源を再生する。テスト音源は、音像の定位位置がわかりやすい音源であることが好ましい。例えば、テスト音源としては、ホワイトノイズ等単一の音源を用いることができる。テスト音源は、Lch信号とRch信号を含むステレオ信号である。音源再生部11は再生した信号を頭外定位処理部12に出力する。
【0037】
頭外定位処理部12は、テスト音源の信号に対して頭外定位処理を行う。頭外定位処理部12は、フィルタ選択部14に記憶されているプリセットフィルタを読み出して、頭外定位処理を行う。例えば、頭外定位処理部12は、頭部伝達特性のフィルタおよび外耳道伝達特性の逆フィルタを再生信号に畳み込む畳み込み演算を実行する。
【0038】
頭部伝達特性のフィルタは、聴取者本人のものではなく、予め用意された複数のプリセットフィルタの中からフィルタ選択部14によって選択される。フィルタ選択部14で選択されたプリセットフィルタが頭外定位処理部12にセットされる。外耳道伝達特性は、ヘッドホンに内蔵したマイクで測定することもできるが、ダミーヘッド等で測定した固定値を使用することも可能である。なお、フィルタ選択部14には左耳用と右耳用のプリセットフィルタがそれぞれ用意されている。
【0039】
ヘッドホン再生部13は、頭外定位処理部12で頭外定位処理が実行された再生信号をヘッドホン6に出力する。ヘッドホン6は、再生信号をユーザに出力する。このようにすることで、あたかもスピーカから再生されているかのような頭外定位音が、テスト音として、ヘッドホン6から再生される。
【0040】
フィルタ選択部14には、n個(nは2以上の整数)のプリセットフィルタが記憶されている。フィルタ選択部14は、n個のプリセットフィルタのうちの1つを選択して、頭外定位処理部12に出力する。さらに、フィルタ選択部14は1〜nのプリセットフィルタを順番に切り替えて、頭外定位処理部12に出力する。頭外定位処理部12は、フィルタ選択部14で選択されている1〜nのプリセットフィルタを用いて、頭外定位処理を行う。フィルタ選択部14におけるプリセットフィルタの選択はユーザ1が手動で切り替えてもよく、あるいは数秒毎に順番に自動で切り替えてもよい。なお、以下の説明では、プリセット数を8として説明するが、プリセット数は特に限定されるものではない。
【0041】
上記したように、センサユニット16は、マーカー15の位置を検出する。入力部18は、頭外定位処理による音像の定位位置を決定するためのユーザ入力を受け付ける。入力部18は、ユーザ入力を受け付けるボタンなどを有している。ボタンが押されたタイミングでのマーカー15の位置が音像の定位位置となる。なお、入力部18は、ボタンに限らず、キーボード、マウス、タッチパネル、レバーなどの他の入力機器であってもよい。さらには、マイクなどの音声入力によって、定位位置を決定するようにしてもよいし、マーカー15が所定時間以上静止していることを検出した場合に定位位置を決定するようにしてもよい。
【0042】
例えば、ヘッドホン6で頭外定位処理された再生信号をユーザ1が受聴しているときに、ユーザ1がマーカー15を付けた指7で音像の定位位置を指定する。すなわち、音像がどこに定位しているように聞こえているかをユーザ1がマーカー15で指す。マーカー15を音像の定位位置まで移動したら、ユーザ1が入力部18のボタンを押す。これにより、音像の定位位置を決定することができる。
【0043】
三次元座標算出部17は、センサユニット16からの出力に基づいて、音像の定位位置の三次元座標を算出する。例えば、センサユニット16は、マーカー15の位置の検出結果に応じ、マーカー15の位置情報を示す検出信号を生成し、三次元座標算出部17に出力する。また、入力部18は、ユーザ入力に応じた入力信号を三次元座標算出部17に出力する。三次元座標算出部17は、入力部18による決定がなされたタイミングでのマーカー15の3次元的な位置を、定位位置の三次元座標として算出する。このように、三次元座標算出部17は、センサユニット16からの検出信号に基づいて、マーカー15の三次元座標を算出する。
【0044】
三次元座標算出部17は、プリセットフィルタ毎に三次元座標を算出する。三次元座標算出部17は、算出した三次元座標を判定部19に出力する。判定部19は、プリセットフィルタに算出された三次元座標を三次元座標記憶部20に格納させる。三次元座標記憶部20は、メモリなどを有しており、8個の三次元座標を記憶する。
【0045】
判定部19は、三次元座標記憶部20に記憶された複数の三次元座標に基づいて、最適フィルタを判定する。すなわち、判定部19は、ユーザ1にとって最良の頭外定位性能を有するプリセットフィルタを最適フィルタとして決定する。実施の形態1では、判定部19は、ユーザ1から最も遠く、左右に拡がる定位位置が得られるプリセットフィルタを最適フィルタとして判定している。
【0046】
このように、判定部19は、複数のプリセットフィルタの中から最適フィルタを選択する。したがって、数多くのプリセット値の中から、ユーザ1本人にもっとも最適な頭部伝達特性を簡便に選択することができる。
【0047】
そして、実音源の再生では、頭外定位処理部12は最適フィルタを用いて頭外定位処理を行う。そして、ヘッドホン6が、最適フィルタを用いて頭外定位処理がなされたLch信号、Rch信号を再生する。なお、実音源の再生には、CD(Compact Disc)プレーヤなどから出力されるステレオ音楽信号が用いられる。これにより、適切なフィルタを用いて、頭外定位処理を実施することができる。ヘッドホン6を用いた場合でも、ユーザ1にとって最適な頭外定位特性を得ることができる。
【0048】
なお、実音源の再生と、テスト音源の再生は、同一の装置で行われるものに限られるものではなく、異なる装置で行われてもよい。例えば、頭外定位処理装置100が選択した最適フィルタを、無線又は有線で、他の音楽プレーヤやヘッドホン6に送信する。他の音楽プレーヤやヘッドホン6が最適フィルタを記憶する。そして、他の音楽プレーヤ、又はヘッドホン6が最適フィルタを用いて、ステレオ音楽信号に対して頭外定位処理を行う。
【0049】
図3を用いて、実施の形態1にかかるフィルタ選択方法について説明する。
図3は、頭外定位処理装置100にて実施されるフィルタ選択方法を示すフローチャートである。なお、
図3ではLchでの処理を示している。フィルタ選択部14には左耳用と右耳用のプリセットフィルタがそれぞれ用意されている。LchのフィルタとRchのフィルタとで別々に視聴テストが行われるが、LchとRchの処理は同じであるため、Rchの処理については、適宜説明を省略する。
【0050】
Lch選択動作を開始すると、n=1とする(ステップS11)。nはプリセットフィルタの番号である。したがって、まず、1番目のプリセットフィルタに対する処理を行う。フィルタ選択部14は、nがプリセット数より大きいか否かを判定する(ステップS12)。ここでは、プリセット数が8であるため、nがプリセット数よりも小さくなっている(ステップS12のNO)。
【0051】
そして、音源再生部11は、1番目のプリセットフィルタを用いて、テスト音を再生する(ステップS13)。ここでは、頭外定位処理部12が、1番目のプリセットフィルタを用いて、頭外定位処理を実行している。具体的には、頭外定位処理部12は、テスト音源のステレオ信号に対して、Lch用のプリセットフィルタを用いて、頭外定位処理を実行する。そして、ヘッドホン再生部13は、ヘッドホン6のハウジング6LからLch信号をユーザ1に出力する。
【0052】
次に、ユーザ1がマーカー15を付けた指を、音像が定位して聞こえる場所に移動させる(ステップS14)。すなわち、ヘッドホン6により形成された音像の定位位置に、ユーザ1が指7を移動させる。そして、ユーザ1が音像とマーカー15の位置が重なっているか否かを判定する(ステップS15)。音像の定位位置とマーカー15の位置があっていない場合(ステップS15のNO)、ステップS14に戻って、ユーザ1がマーカー15を付けた指7を音像定位している場所まで移動させる。
【0053】
ユーザ1によって指定された音像の定位位置とマーカー15の位置が一致している場合(ステップS15のYES)、ユーザ1が決定ボタンを押下する(ステップS16)。すなわち、ユーザ1が入力部18を操作して、定位位置を決定する。これにより、入力部18は、音像の定位位置を決定するための入力を受け付ける。
【0054】
入力部18がボタン押下のユーザ入力を受け付けると、センサユニット16がマーカー15の位置情報を取得する(ステップS17)。そして、三次元座標算出部17が、センサユニット16からの位置情報に基づいて、定位位置の三次元座標を算出する(ステップS18)。すなわち、三次元座標算出部17は、マーカー15の三次元座標を定位位置の三次元座標として算出する。
【0055】
ここで、三次元座標算出部17が算出する三次元座標について、
図4を用いて説明する。
図4では、ユーザ1から見て、左右方向をX軸、前後方向をY軸、上下方向をZ軸とする三次元直交座標系を示している。具体的には、ユーザ1の右方向が+X方向、左方向が−X方向、前方向が+Y方向、後ろ方向が−Y方向、上方向が+Z方向、下方向が−Z方向となっている。なお、三次元座標系の原点は、左右のハウジング6L、6Rの中間、すなわち、ユーザ1の頭部中心としている。
【0056】
ここで、三次元座標算出部17は、Lchの音像の3次元座標(XLn,YLn,ZLn)を求める。なお、XLn,YLn,ZLnは、原点からの相対的なXYZ座標であり、以下の通りとなる。
XLn:ユーザ1からn番目のフィルタによるLch音像へのX軸方向の相対座標
YLn:ユーザ1からn番目のフィルタによるLch音像へのY軸方向の相対座標
ZLn:ユーザ1からn番目のフィルタによるLch音像へのZ軸方向の相対座標
【0057】
本実施の形態では、三次元座標算出部17が三次元座標(XLn,YLn,ZLn)を算出する。三次元座標算出部17は、三次元座標(XLn,YLn,ZLn)を判定部19に出力する。本実施の形態では、判定部19が、ユーザ1から音像の定位位置までの距離DLnに基づいて、最適フィルタを判定している。具体的には、判定部19は、得られる音像の定位位置がユーザ1から、より遠くにあり、かつより左右に拡がるものを最適フィルタとして判定している。さらに、音像の高さが耳の近傍にあるものを最適フィルタとしている。
【0058】
そのため、判定部19は、ZLnが所定の範囲内にあるか否かを判定する(ステップS19)。すなわち、判定部19は、音像の高さが耳の高さと同程度になっているか否かを判定する。耳からの音像の相対的な高さはZLnで表される。一般的に、ステレオ音源の音像は耳と同じ高さにあることが望ましい。音像の高さZLnが耳よりも高すぎる場合、あるいは低すぎる場合、2chの音像定位としては不自然な印象となる。
【0059】
したがって、ZLnが所定の範囲内にない場合(ステップS19のNO)、ステップS22に移行する。これにより、定位位置が高すぎるプリセットフィルタ、及び定位位置が低すぎるプリセットフィルタが選択対象から外れる。なお、高さのずれの範囲については、任意に設定することができるが、耳の高さからプラスマイナス20cm程度の範囲とすることが望ましい。また、ステップS19ではZLnの値が所定の範囲内にあるか否かを判定したが、音像の上下方向の角度、すなわち、水平面からの角度(仰俯角)が、所定の範囲内にあるか否かを判定してもよい。
【0060】
ZLnが所定の範囲内にある場合(ステップS19のYES)、判定部19は、θLnが所定の範囲内か否かを判定する(ステップS20)。すなわち、判定部19は、音像の開き角が所定の範囲内であるか否かを判定する。ユーザ1の正面を0°としたときの音像定位の水平面内の角度θLnは以下の式(1)で表すことができる。
θLn=tan
―1(YLn/XLn)・・・(1)
【0061】
θLnは水平面(XY平面)内におけるY軸からの角度になる。θLnが大きいと、ステレオ感を強く感じることができる。ただし、θLnがあまり大きくなり過ぎると、いわゆる中抜け状態となり、不自然な印象を招く。従って、−45°≦θLn≦20°であることが望ましい。もちろん、開き角の範囲は、上記の値に限られるものではない。
【0062】
θLnが所定の範囲内にない場合(ステップS20のNO)、ステップS22に移行する。これにより、Lchの音像の開き角が大きすぎるプリセットフィルタ、及び小さすぎるプリセットフィルタが選択対象から外れる。
【0063】
θLnが所定の範囲内にある場合(ステップS20のYES)、音像までの距離DLnを三次元座標記憶部20が記憶する(ステップS21)。なお、距離DLnはユーザ1から音像までの距離であるため、以下の式(2)で表される。
DLn=(XLn
2+YLn
2+ZLn
2)
1/2 ・・・(2)
【0064】
判定部19によって算出された距離DLnを三次元座標記憶部20が記憶する。そして、n=n+1とインクリメントする(ステップS22)。nをインクリメントしたら、ステップS12に戻る。そして、nがプリセット数に到達するまで、ステップS12〜ステップS22までの処理を繰り返し行う。すなわち、2番目〜8番目のプリセットフィルタに対して、ステップS12からステップS22までの処理を行う。
【0065】
ステップS12において、nがプリセット数よりも大きくなったら(ステップS12のYES)、ステップS23に移行する。プリセットされている全てのプリセットフィルタに対して、同様の処理を行い、距離DLnを算出する。ここで、n=8となっている。したがって、ステップS19、S20で選択対象外となるプリセットフィルタがないとすると、判定部19は、8個の距離DL1〜距離DL8を算出する。
【0066】
nがプリセット数を越えた場合(ステップS12のYES)、8個の距離DL1〜距離DL8の中で値が最大のものを最適フィルタとして選択する(ステップS23)。すなわち、判定部19は、距離DLnが最大となるプリセットフィルタを最適フィルタとして選択する。このようにすることで、最も遠くに音像が定位しているプリセットフィルタを最適フィルタとして選択することができる。このように、判定部19は、三次元座標記憶部20に記憶されている距離DL1〜距離DL8を比較して、最適フィルタを選択する。
【0067】
Lch用の最適フィルタの選択が終了したら、Rchについても同様の処理を行う。Rchの処理もLchの処理と同様である。Rchの処理では、Rch用のプリセットフィルタを用いて、テスト音源のステレオ信号に対して、頭外定位処理が行われる。そして、ヘッドホン6のハウジング6RからRch信号がユーザ1の右耳に出力される。
【0068】
Lchと同様に、Rchの音像に対して、三次元座標算出部17が算出した三次元座標を(XRn,YRn,ZRn)とする。
XRn:ユーザ1からn番目のフィルタによるRch音像へのX軸方向の相対座標
YRn:ユーザ1からn番目のフィルタによるRch音像へのY軸方向の相対座標
ZRn:ユーザ1からn番目のフィルタによるRch音像へのZ軸方向の相対座標
【0069】
Rchの場合、ステップS19ではZRnが所定の範囲内にあるか否かを判定する。また、ステップS20では、θRnが所定の範囲内にあるか否かを判定する。ユーザ1の正面を0°としたときの音像定位の水平面内の角度θRnは以下の式(3)で表すことができる。
θRn=tan
―1(YRn/XRn)・・・(3)
【0070】
なお、θRnは水平面(XY平面)内におけるY軸からの角度になる。Lchと同様に、θRnが大きいと、ステレオ感を強く感じることができる。ただし、θRnがあまり大きくなり過ぎると、いわゆる中抜け状態となり、不自然な印象を招く。従って、20°≦θRn≦45°であることが望ましい。もちろん、開き角の範囲は、上記の値に限られるものではない。なお、LchとRchとで開き角の範囲は左右対称であってもよく、左右非対称であってもよい。
【0071】
Rchの場合、ステップS21では、距離DRnを記憶し、ステップS23では距離DRnを比較することで最適フィルタを選択する。ユーザ1からRchの音像までの距離DRnは、以下の(4)式で表すことができる。
DRn=(XRn
2+YRn
2+ZRn
2)
1/2 ・・・(4)
【0072】
上記したように、判定部19は、プリセットフィルタ毎に算出された三次元座標を比較することで、最適フィルタを判定している。これにより、ユーザ1にとって最も頭外定位性能を高いプリセットフィルタを最適フィルタとして選択することができる。もちろん、LchとRchの処理順番を逆にしてもよい。さらには、LchのプリセットフィルタとRchのプリセットフィルタを交互に用いてもよい。
【0073】
本実施の形態では、ヘッドホン6に設置されたマーカー15により音像の定位位置を検出している。そして、音像の定位位置の三次元座標に基づいて、最適フィルタを選択している。これにより、予め用意された複数のプリセットフィルタの中から、ユーザに最適なフィルタを簡便に選択することができる。判定部19がプリセットフィルタ毎に算出された定位位置の三次元座標を比較して、最適フィルタを選択している。したがって、ユーザがプリセットフィルタ毎の音像の定位位置を比較することなく、最適フィルタを選択することができるようになる。よって、簡便に最適フィルタを選択することができる。
【0074】
実施の形態2.
本実施の形態では、判定部19での処理が実施の形態1と異なっている。具体的には、本実施の形態では、プリセットフィルタ毎に算出された三次元座標を、予め設定された仮想スピーカの三次元座標と比較することで、最適フィルタを判定している。なお、判定部19における処理以外の処理については、実施の形態1と同様であるため、適宜説明を省略する。例えば、実施の形態2における装置構成については、
図1、
図2で示した構成と同様の構成となっている。
【0075】
図5は、本実施の形態にかかる頭外定位処理装置100で実施されるフィルタ選択方法を示すフローチャートである。なお、頭外定位処理装置100での基本的処理は実施の形態1と同様であるため、適宜説明を省略する。例えば、ステップS31〜ステップS38、S40は、実施の形態1のステップS11〜S18、S22にそれぞれ対応しているため、説明を省略する。
【0076】
本実施の形態では、判定部19が音像から仮想スピーカまでの距離DLspnを算出している(ステップS39)。仮想スピーカの三次元座標は、予め設定されている。Lchの仮想スピーカの相対位置の三次元座標を(XLsp,YLsp,ZLsp)とする。音像の相対位置の三次元座標は、実施の形態1で示したように、(XLn、YLn、ZLn)である。n番目にプリセットフィルタによる音像と仮想スピーカとの距離DLspnは以下の式(5)で表すことができる。
DLspn
={(XLn−XLsp)
2+(YLn−YLsp)
2+(ZLn−ZLsp)
2}
1/2
・・・(5)
【0077】
判定部19が算出した距離DLspnは、三次元座標記憶部20に記憶される。そして、n=n+1とインクリメントして(ステップS40)、次のプリセットフィルタについても同様の処理を実施する(ステップS31〜S39)。nがプリセット数を越えるまで(ステップS32のYES)、ステップS31〜S39を繰り返す。判定部19は、プリセットフィルタ毎に距離DLspnを算出する。n=8の場合、三次元座標記憶部20は、8個の距離DLsp1〜DLsp8を記憶する。
【0078】
そして、判定部19は、距離DLsp1〜距離DLsp8の中で値が最小となるプリセットフィルタを最適フィルタとして選択する。このように、本実施の形態では、判定部19が仮想スピーカと最も近い位置に音像が定位するプリセットフィルタを最適フィルタとして選択している。
【0079】
Lchの処理が終了したら、Rchについても同じ処理を行う。Rchの仮想スピーカの相対位置の三次元座標を(XRsp,YRsp,ZRsp)とする。Rchの音像の相対位置の三次元座標は、実施の形態1で示したように、(XRn,YRn,RLn)である。n番目にプリセットフィルタによる音像と仮想スピーカとの距離DRspnは以下の式(6)で表すことができる。
DRspn
={(XRn−XRsp)
2+(YRn−YRsp)
2+(ZRn−ZRsp)
2}
1/2
・・・(6)
【0080】
判定部19は、プリセットフィルタ毎に距離DRspnを算出する。したがって、三次元座標記憶部20は、n個の距離DRspnを記憶する。そして、判定部19は、n個の距離DRspnの中で値が最小となるプリセットフィルタを最適フィルタとして選択する。本実施の形態では、判定部19が仮想スピーカと最も近い位置に音像が定位するプリセットフィルタを最適フィルタとして選択している。このようにすることで、高い頭外定位性能で、音楽再生信号を再生することができる。仮想スピーカに近い位置に音像を定位することが可能になる。
【0081】
実施の形態3
実施の形態2では、予め設定された仮想スピーカの位置に近い音像を選択する方法を示したが、実施の形態3では、ユーザ1が任意に仮想スピーカの位置を設定している。そして、ユーザ1が設定した仮想スピーカの位置に最も近い音像となるプリセットフィルタを最適フィルタとして選択する。
【0082】
例えば、ユーザ1の好みによって、仮想スピーカの位置を変えることができる。例えば、仮想スピーカの左右の開き角をより大きくしたり、あるいはユーザ自身の頭からあまり遠くに音像が定位しないように設定したりすることも可能となる。したがって、ユーザ1が望む方向に音像を定位させることができる。
【0083】
プリセットフィルタの選択動作を行う前に、マーカー15を装着した指を左右それぞれの定位させたい位置に置いた状態で位置決定ボタンを押す。こうすることで、ユーザ1が仮想スピーカの位置を設定することができる。すなわち、センサユニット16からのマーカー15の位置情報に基づいて、三次元座標算出部17が仮想スピーカの三次元座標(XLsp,YLsp,ZLsp)を算出する。そして、判定部19が仮想スピーカの三次元座標を記憶する。
【0084】
その後、実施の形態2と同様に各プリセットのフィルタで処理されたテスト音源を聴きながら、その音像定位の位置をマーカーで示して記憶させ、仮想スピーカとの相対距離のもっとも近いものを、頭外定位性能のもっとも高いフィルタとして選択する。このようにすることで、ユーザ1の好みに応じた仮想スピーカの位置に音像を近づけることができる。
【0085】
上記信号処理のうちの一部又は全部は、コンピュータプログラムによって実行されてもよい。上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non−transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0086】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。