(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抵抗検出部は、前記低温側測定温度と前記高温側測定温度との間の所定の温度を補正基準温度とし、前記補正基準温度以上の高い温度において検出された前記内部抵抗を前記高温側測定温度に相当する内部抵抗に補正し、前記補正基準温度未満の低い温度において検出された前記内部抵抗を前記低温側測定温度に相当する内部抵抗に補正する抵抗補正部を有している請求項2または請求項3に記載の二次電池の性能推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本実施形態の概要)
初めに、本実施形態の二次電池の性能推定装置の概要について説明する。
二次電池の性能推定装置は、二次電池の内部抵抗のうちの電荷移動抵抗成分と、前記内部抵抗のうちのオーミック抵抗成分とを基に劣化の傾向を判定し、二次電池の将来の性能を推定する。
【0011】
二次電池の内部抵抗は、二次電池の電解質抵抗や電池を構成する部材の電気抵抗、接触抵抗で構成される合成抵抗であるオーミック抵抗成分と、活物質/電解液界面における電極反応の抵抗である電荷移動抵抗成分とによって構成される。
【0012】
ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、二次電池における充放電の繰り返しによる劣化(サイクル劣化)は、内部抵抗のうち電荷移動抵抗成分よりもオーミック抵抗成分を大きくし、時間経過による劣化(放置劣化)は、内部抵抗のうちオーミック抵抗成分よりも電荷移動抵抗成分を大きくすることを見いだした。
すなわち、このような構成の二次電池の推定装置によると、内部抵抗の電荷移動抵抗成分とオーミック抵抗成分とを比較することにより、その二次電池がサイクル劣化もしくは放置劣化のいずれの劣化の傾向が大きいかを判定することができる。これにより、実使用中の二次電池における使用履歴を常時取得しなくとも、上記の劣化の判定を基に二次電池の容量推定を行い、容量低下モデルを最適化することで、二次電池の将来の性能を高精度に推測することができる。
【0013】
また、本実施形態において開示する二次電池の性能推定装置は、以下の構成としてもよい。
推定部は、二次電池の容量を推定する容量推定部と、電荷移動抵抗成分とオーミック抵抗成分とを基に劣化の傾向を判定する劣化判定部と、劣化判定部の結果に基づいて容量推定部の補正を行う補正部とを備える構成としてもよい。
このような構成によると、補正部により二次電池の劣化の傾向に基づいて容量推定部に対して補正を行うことができるから、二次電池の容量の推定の精度を向上させることができる。
【0014】
二次電池の電圧値と電流値とに基づいて内部抵抗を検出する抵抗検出部と、二次電池の温度を測定する温度測定部を備え、電荷移動抵抗成分は、温度測定部が測定する異なる2点の温度のうちの低温側の1点である低温側測定温度において抵抗検出部が検出する内部抵抗に基づき決定し、オーミック抵抗成分は、温度測定部が測定する異なる2点の温度のうちの高温側の1点である高温側測定温度において抵抗検出部が検出する内部抵抗に基づき決定する構成としてもよい。
【0015】
また、本願発明者らは、電荷移動抵抗成分は温度依存性が大きく、高温下における内部抵抗は、オーミック抵抗成分と電荷移動抵抗成分の両抵抗成分が混在しているもののオーミック抵抗成分が支配的であり、低温下における内部抵抗は、電荷移動抵抗成分が支配的となっていることに着目した。
つまり、交流インピーダンス測定法などを用いることができない場合においても、異なる温度で二次電池の電圧値と電流値とに基づいて内部抵抗を検出するだけで、オーミック抵抗成分と電荷移動抵抗成分とを検出することができ、低温側測定温度において得られた電荷移動抵抗成分と高温側測定温度において得られたオーミック抵抗成分との比から、サイクル劣化や放置劣化の進行度を確認し、二次電池の将来の性能を高精度に推測することができる。
【0016】
推定部は、低温側測定温度における内部抵抗と高温側測定温度における内部抵抗との比と、低温側測定温度における二次電池の初期抵抗と高温側測定温度における二次電池の初期抵抗との比とから二次電池の将来の性能を判定する構成としてもよい。
このような構成によると、二次電池の劣化前である初期状態におけるオーミック抵抗成分と電荷移動抵抗成分との比と、劣化状態とにおけるオーミック抵抗成分と電荷移動抵抗成分との比の比較により、サイクル劣化や放置劣化の進行度を精度高く推定することができる。
【0017】
抵抗検出部は、低温側測定温度と高温側測定温度との間の所定の温度を補正基準温度とし、補正基準温度以上の高い温度において検出された内部抵抗を高温側測定温度に相当する内部抵抗に補正し、補正基準温度未満の低い温度において検出された内部抵抗を低温側測定温度に相当する内部抵抗に補正する抵抗補正部を有している構成としてもよい。
【0018】
このような構成によると、低温側測定温度や高温側測定温度において内部抵抗を検出しなくとも、高温側測定温度相当の高温側内部抵抗や低温側測定温度相当の低温側内部抵抗を容易に得ることができるから、高温側測定温度や低温側測定温度において内部抵抗を検出できない条件においても、二次電池の劣化判定を行い、二次電池の将来の性能を推測することができる。
【0019】
異なる周波数により前記二次電池の内部抵抗を検出する周波数抵抗検出部を備え、前記オーミック抵抗成分は、前記周波数抵抗検出部が高周波領域において検出された高周波内部抵抗であり、前記電荷移動抵抗成分は、前記周波数抵抗検出部が低周波領域において検出された低周波内部抵抗である構成としてもよい。
【0020】
また、本願発明者らは、低周波領域において検出された低周波内部抵抗は、電荷移動抵抗成分が支配的であり、高周波領域において検出された高周波内部抵抗は、オーミック抵抗成分が支配的となっていることに着目した。つまり、異なる周波数を用いて検出したオーミック抵抗成分と電荷移動抵抗成分との比から、サイクル劣化や放置劣化の進行度を確認し、二次電池の将来の性能を高精度に推測することができる。
【0021】
<実施形態>
実施形態について
図1から
図17を参照して説明する。
本実施形態は、車両に搭載されるバッテリ装置10を例示しており、バッテリ装置10は、
図1に示すように、組電池11と、組電池11の性能推定装置20とを備えている。
【0022】
組電池11は、例えば、リチウムイオン蓄電池などの二次電池であって、複数の電池セルが直列接続された構成であり、各電池セルは、繰り返し充放電可能となっている。組電池11などの二次電池は、一般に、時間経過による劣化(以下、「放置劣化」という)や、充放電の繰り返しによる劣化(以下、「サイクル劣化」という)により、容量の低下推移が変化することが知られている。
【0023】
そこで、性能推定装置20は、組電池11の放置劣化に基づいて検出される容量推定の結果に対して、サイクル劣化に基づく補正を行うことで、組電池11の将来の性能状態を推定する。また、性能推定装置20は、
図1に示すように、電圧測定部21、電流測定部22、温度測定部23、抵抗検出部24、計測部25および推定部30を備えて構成されている。
【0024】
電圧測定部21は、組電池11に設けられた図示しない端子間の電圧を測定するものであって、電圧測定部21は、測定した電圧値を抵抗検出部24に対して出力する。
【0025】
電流測定部22は、組電池11に流れる充電電流または放電電流である充放電電流の電流値を測定し、測定した電流値を抵抗検出部24に対して出力する。温度測定部23は、接触式あるいは非接触式で組電池11の温度を測定するものであり、所定期間毎に測定し、測定した温度データを推定部30に対して出力する。
【0026】
計測部25は、温度測定部23で測定された各温度における組電池11の実使用の経過時間を計測するものであって、計測した時間を推定部30に対して出力する。
【0027】
抵抗検出部24は、電圧測定部21、電流測定部22および温度測定部23から出力されるデータに基づいて組電池11の内部抵抗を検出するものであり、抵抗演算部27と、抵抗値補正部28とを備えて構成されている。抵抗演算部27は、電圧測定部21及び電流測定部22から電圧値および電流値を受信し、例えば、クランキング放電時の電圧変化ΔVと電流変化ΔIとを求め、ΔV/ΔI=Rにより内部抵抗Rを演算する。
【0028】
具体的には、
図2および
図3に示すように、時間t1とt2の間でクランキングが行われ、そのときの電圧変化ΔVと電流変化ΔIが同図に示すように変化したとすると、その時の内部抵抗Rは、
R=(|12[V]−10[V]|)/(|50[A]−600[A]|)=3.63[mΩ]
として求めることができる。
【0029】
抵抗値補正部28には、温度測定部23において測定された温度データと抵抗演算部27によって演算された内部抵抗とが入力されるようになっており、温度データをもとに内部抵抗を補正する。詳細には、抵抗値補正部28は、まず、内部抵抗の検出時の温度が補正基準温度(本実施形態では10[℃])以上であるか否かを判断する。そして、温度データが補正基準温度(10[℃])以上の場合には、入力された内部抵抗を、所定の高温側測定温度(本実施形態では30[℃])に相当する内部抵抗に補正する。また、温度データが補正基準温度(10[℃])未満の場合には、入力された内部抵抗を、所定の低温側測定温度(本実施形態では−10[℃])に相当する内部抵抗に補正する。
【0030】
具体的には、図示しない補正用メモリには、
図4および
図5のグラフに示すように、補正基準温度以上の高温側測定温度領域と温度補正係数との関係が実験的に定められ、記録されている。また、高温領域と同様に、補正基準温度未満の低温側測定温度領域と温度補正係数との関係が実験的に定められ、図示しない補正用メモリに記録されている。
【0031】
抵抗値補正部28は、
図6に示すように、温度データおよび内部抵抗を受信すると、まず、温度データが補正基準温度以上であるか否かを判断する(S11)。温度データが補正基準温度以上である場合には、補正用メモリに記録された高温側測定温度領域と温度補正係数との関係から高温側測定温度領域での温度補正係数を取得する(S12)。
【0032】
次に取得した温度補正係数を内部抵抗に乗算することで、高温側測定温度(本実施形態では30[℃])に相当する内部抵抗に補正される(S14)。そして、補正された内部抵抗を、高温側測定温度の内部抵抗として、推定部30に対して出力する(S15)。
【0033】
具体的には、検出された温度データが25[℃]であり、内部抵抗が0.337[mΩ]の場合、
図6に示すように、補正基準温度(10℃)以上と判断され、
図5に示す高温側測定温度領域と温度補正係数との関係から高温領域での温度補正係数が0.934と求められる。そして、内部抵抗は、0.337[mΩ]×0.934=0.315[mΩ]に補正され、高温側測定温度の内部抵抗として、推定部30に対して出力される。
【0034】
一方、温度データが補正基準温度未満である場合には、補正用メモリに記録された低温領域と温度補正係数との関係から低温領域での温度補正係数を取得する(S13)。次に、高温側測定温度の場合と同様に、取得した温度補正係数を内部抵抗に乗算することで、低温側測定温度(本実施形態では−10℃)に相当する内部抵抗に補正し(S14)、補正された内部抵抗を、低温側測定温度の内部抵抗として、推定部30に対して出力する(S15)。
具体的には、温度データが0[℃]であり、内部抵抗が0.542[mΩ]の場合、
図4に示すように、補正基準温度(10℃)未満と判断され、補正用メモリに記録された手音領域と温度補正係数との関係から低温領域での温度補正係数が1.239と求められる。そして、内部抵抗は、0.542[mΩ]×1.239=0.672[mΩ]に補正され、低温側測定温度の内部抵抗として、推定部30に対して出力される。
【0035】
推定部30は、中央処理装置(以下、「CPU」という)31と、メモリ32と、通信部33とを備えている。メモリ32には、バッテリ装置10の動作を制御するための各種のプログラムが記録されていると共に、CPU31が受信するデータなどが記録可能とされている。CPU31は、メモリ32のプログラムを呼び出して、容量推定部34、劣化判定部35、補正部36などとして機能すると共に、電圧測定部21、電流測定部22、温度測定部23、抵抗検出部24および計測部25の制御を行う。通信部33は、車両に搭載された図示しない電子制御ユニットと接続されており、電子制御ユニットとの通信を行う。
【0036】
次に、容量推定部34として機能するCPU31について説明する。
容量推定部34は、組電池11の放置劣化に基づく組電池11の容量低下の量(以下、「減算容量」という)を推定し、放置劣化に基づく組電池11の実容量推定値CTを推定する。
【0037】
詳しくは、容量推定部34は、温度測定部23において測定された温度データと、計測部25において計測された各温度における使用および放置の時間(以下、「経過時間」という)とを随時受信し、これらのデータをメモリ32に記録する。
そして、容量推定部34は、メモリ32に記録された各温度における経過時間から組電池11が使用および放置された累計時間を求め、
図7に示すように、メモリ32に予め記録されている容量低下モデルより、放置劣化に基づく組電池11の実容量推定値CTを求める。
【0038】
そして、組電池11の初期容量から放置劣化に基づく組電池11の実容量推定値CTを減算することで、放置劣化に基づく減算容量ΔCTを求める。
【0039】
具体的には、
図7のグラフに示すように、横軸を放置劣化による経過日数[月]、縦軸を組電池11の実容量[Ah]とした、放置劣化による組電池11の容量低下推移(以下、「容量低下モデル」という)が実験的に求められ、メモリ32に記録されている。なお、組電池11の初期容量は、製造1か月後のデータを用いている。
【0040】
そして、例えば、45℃の環境下で10か月間使用された組電池11の放置劣化に基づく実容量推定値CTを求める場合には、
図7の容量低下モデルより、63.7[Ah]として求めることができる。また、
図7の容量低下モデルに示すように、初期容量は69.0[Ah]であるから、放置劣化に基づく減算容量ΔCTは、
ΔCT=69.0−63.7=5.3[Ah]
として求めることができる。
【0041】
次に、劣化判定部35および補正部36として機能するCPU31について説明する。
上述のように、容量推定部34では、放置劣化に基づく組電池11の容量推定は可能であるが、サイクル劣化による容量低下については、充放電時の温度や放電深度によって容量の低下推移が変化するため、サイクル劣化による容量低下については考慮できていない。
【0042】
そこで、劣化判定部35において、まず、サイクル劣化の傾向を判定し、補正部36において、劣化の判定結果を基にサイクル劣化を考慮した補正を行う。
【0043】
劣化判定部35は、抵抗検出部24から受信した高温側測定温度の内部抵抗、および低温側測定温度の内部抵抗をもとに、組電池11のサイクル劣化の傾向について判定する。
【0044】
ここで、まず、二次電池の内部抵抗の抵抗成分と温度の関係について説明する。
(二次電池の内部抵抗の抵抗成分と温度との関係)
一般に、二次電池の内部抵抗は、概ね二次電池の電解質抵抗や電池を構成する部材の電気抵抗、接触抵抗で構成される合成抵抗であるオーミック抵抗成分と、活物質/電解液界面における電極反応の抵抗である電荷移動抵抗成分とからなる。また、組電池11の温度と内部抵抗の各抵抗成分の関係は、
図8に示すように、オーミック抵抗成分を▲、電荷移動抵抗成分を◆とし、横軸を温度[℃]、縦軸を内部抵抗[mΩ]として表すと、オーミック抵抗成分R1は温度依存性が小さく、電荷移動抵抗成分R2は温度依存性が高くなっている。
【0045】
つまり、低温領域(0[℃]以下)における内部抵抗は、電荷移動抵抗成分R2がオーミック抵抗成分R1よりも大きくなって電荷移動抵抗成分R2が支配的となり(A部)、高温領域(0[℃]以上)における内部抵抗は、電荷移動抵抗成分R2とオーミック抵抗成分R1とが混在した状態(B部)となっている。
【0046】
また、以下に、二次電池の内部抵抗の抵抗成分と劣化要因との関係について説明する。
(二次電池の内部抵抗の抵抗成分と劣化要因との関係)
図9は、測定温度25[℃]における新品の組電池、放置劣化した組電池、サイクル劣化した組電池についての内部抵抗成分を示しており、放置劣化した組電池とサイクル劣化した組電池については、新品の状態からの内部抵抗成分の上昇率を右側に併記している。
【0047】
ここで、サイクル劣化の傾向が強い組電池は、電荷移動抵抗成分よりもオーミック抵抗成分の上昇率が大きく、放置劣化の傾向が強い組電池は、オーミック抵抗成分よりも電荷移動抵抗成分の上昇率が大きくなっている。つまり、サイクル劣化は、オーミック抵抗成分の上昇に大きく影響し、放置劣化は、電荷移動抵抗成分の上昇に大きく影響していることが分かる。
【0048】
したがって、二次電池の内部抵抗の抵抗成分と温度の関係と、二次電池の内部抵抗の抵抗成分と劣化要因との関係とによると、放置劣化した組電池は、低温領域において支配的な電荷移動抵抗成分の上昇が大きいため、低温領域における内部抵抗RiLと高温領域における内部抵抗RiHとの比(RiL/RiH)が、新品の組電池に比べて大きくなる。
【0049】
また、これとは逆に、サイクル劣化した組電池は、低温領域に比べて高温領域で影響のあるオーミック抵抗成分の上昇が大きいため、低温領域における内部抵抗RiLと高温領域における内部抵抗RiHとの比(RiL/RiH)が、新品時に比べて小さくなる。
【0050】
図10には、新品の組電池、40℃の環境下において5か月間放置した組電池、1Cの電流で複数回にわたって充放電させた組電池、60℃の環境下において5か月間放置した組電池をそれぞれ2つずつ示しており、各組電池における低温側測定温度(−10℃相当)の内部抵抗[mΩ]と高温側測定温度(30[℃]相当)の内部抵抗[mΩ]、および内部抵抗比(Ri(−10℃)/Ri(30℃))との関係を例示している。
【0051】
また、
図11には、縦軸を内部抵抗比(Ri(−10℃)/Ri(30℃))として、
図10における1から8の各組電池の内部抵抗比を例示している。
【0052】
ここで、新品の組電池1および2から求められた内部抵抗比の範囲Sを劣化判定の基準とした場合、サイクル劣化した組電池の内部抵抗比は新品の組電池の内部抵抗比よりも低く、放置劣化した組電池の内部抵抗比は新品の組電池の内部抵抗比よりも高くなっている。
【0053】
つまり、予め新品電池の内部抵抗比を取得しておくことで、実使用の組電池が、放置劣化もしくはサイクル劣化のいずれの傾向が高いかを判定することができる。
また、
図11に示すように、40[℃]の放置劣化と60[℃]の放置劣化では、60[℃]放置劣化の方が放置による劣化が進んでおり、放置劣化の割合が大きくなっていることから、
図12に示すように、判定基準Sを境に、放置劣化が進むと内部抵抗比D1が徐々に大きくなり、サイクル劣化が進むと内部抵抗比D2が徐々に小さくなる傾向があることがわかる。
【0054】
ところで、一般に、二次電池の内部抵抗は、汎用の交流インピーダンス測定器などによって検出可能である。そして、高周波数域の抵抗(以下、「ACR」ともいう)は、オーミック抵抗成分が支配的であり、低周波数域の抵抗(以下、「DCR」ともいう)では、高周波数域に比べると電荷移動抵抗成分が大きくなる。
【0055】
したがって、抵抗検出部24において、交流インピーダンス測定法を用いて、高周波数(例えば1kHz)の抵抗(ACR)を検出することで、主にオーミック抵抗成分を検出することができ、低周波数(例えば0.1Hz)の抵抗(DCR)を検出することで、主に電荷移動抵抗成分を検出することができる。
すなわち、DCRとACRの比を求めることで、低温側測定温度と高温側測定温度の内部抵抗の比と同様に、電荷移動抵抗とオーミック抵抗の比を求めることができる。
【0056】
そこで、劣化判定部35は、組電池11の低温領域における内部抵抗RiLと高温領域における内部抵抗RiHとを受信し、実使用中の組電池11における内部抵抗比(RiL/RiH)を求め、放置劣化に対するサイクル劣化の割合を判定する。あるいは、抵抗検出部24において、交流インピーダンス測定法を用いてDCRとACRとに基づく内部抵抗比(DCR/ACR)を求め、放置劣化に対するサイクル劣化の割合を判定する。なお、以下の説明においては、DCRとACRを基に求められた内部抵抗比(DCR/ACR)を用いて説明する。
【0057】
メモリ32には、所定の経過時間に対する放置劣化の減算容量およびサイクル劣化時の減算容量と、所定の経過時間に対する放置劣化の内部抵抗比およびサイクル劣化時の内部抵抗比の関係とが、予め、実験的に求められて記録されている(
図13を参照)。また、メモリ32には、
図14に示すように、それぞれの劣化における内部抵抗比の比と、放置劣化の減算容量に対するサイクル劣化の減算容量の増加割合との関係から求められた関係式が記録されている。
【0058】
関係式は、以下の手順によって求めることができる。
例えば、2か月の時点での45℃の環境下における放置劣化の減算容量が1.24[Ah]、内部抵抗比が1.94であり、サイクル劣化の減算容量が2.41[Ah]、内部抵抗比が1.81であったとする。この場合、2か月の時点における内部抵抗比の比は、1.81/1.94=0.93であり、放置劣化に対するサイクル劣化の減算容量の増加割合は、2.41/1.24=1.94として求められる。
【0059】
このようにして、各経過時間における内部抵抗比の比と、サイクル劣化の減算容量の増加割合との関係から、Xを内部抵抗比の比、Yをサイクル劣化の減算容量の増加割合とする関係式
y=−7.092X+8.669
を求めることができる。
【0060】
そして、例えば、10か月間に亘って使用された組電池11の実容量推定値を求める場合、抵抗検出部24から出力されたDCRとACRとをもとに、組電池11の内部抵抗比(DCR/ACR)を求め、予め取得されていた放置劣化の内部抵抗比(DCR/ACR)に対する実使用の組電池11の内部抵抗比(DCR/ACR)の比を求める。そして、得られた内部抵抗比の比を関係式に当てはめることで、サイクル劣化の減算容量の増加割合を算出することができる。
【0061】
具体的には、予め取得されていた10か月放置の組電池における内部抵抗(DCR/ACR)が2.14であり、10か月間実使用された組電池11の実測の内部抵抗(DCR/ACR)が1.61だった場合、内部抵抗比の比は、1.61/2.14=0.75として求めることができる。そして、得られた内部抵抗比の比を、関係式に当てはめると、放置劣化の減算容量に対するサイクル劣化の減算容量の増加割合Yは、
Y=−7.092×0.75+8.669=3.38
として求めることができる。
【0062】
次に、補正部36として機能するCPU31は、劣化判定部35において求められたサイクル劣化の減算容量の増加割合を基に、容量推定部34によって求められた放置劣化に基づく実容量推定値CTを補正する。
つまり、放置劣化に基づく減算容量5.3[Ah]に、サイクル劣化に基づく減算容量の増加割合3.38[Ah]を乗算することで、サイクル劣化を考慮した組電池11の減算容量が16.9[Ah]であると求めることができる。そして、組電池11の実容量推定値は、69[Ah]−16.9[Ah]=52.1[Ah]と補正される。
【0063】
図15は、横軸を経過時間[月]、縦軸を組電池の実容量[Ah]とした、組電池の容量低下推移を示したものであって、補正前の実容量推定値を◆、補正後の実容量推定値を▲、容量の実測値(真値)を□として示している。
すなわち、補正前の実容量推定値に対して補正部36によって補正を加えることで、補正後の実容量推定値の推定精度を向上させることができ、組電池11の将来の性能を高精度に推測することができるようになっている。
【0064】
次に、性能推定装置の全体の処理について説明する。
性能推定装置は、
図16に示すように、S20からS26によって構成されており、処理が開始されると、推定部30は、温度測定部23および計測部25から出力される組電池11の各温度およびその実使用時間を随時受信し、メモリ32に記録する(S20)。
【0065】
次に、推定部30は、所定の条件を満たしているか判定する(S21)。条件を満たしていない場合(Noの場合)は、処理がS20に戻り、所定の条件を満たしている場合(Yesの場合)は、CPU31が容量推定部34として、容量低下モデルをもとに、放置劣化に基づく実容量推定値CTを推定する(S22)。
【0066】
ここで、所定の条件とは、例えば、初期もしくは前回の内部抵抗の検出から所定の時間が経過しているか判定してもよく、所定の温度を閾値として閾値を超えているか否かを判定してもよい。つまり、例えば、夏場の高温環境下において内部抵抗を測定することで高温側測定温度の内部抵抗を求め、冬場の低温環境下において内部抵抗を測定することで、低温側測定温度の内部抵抗を求めることができる。
【0067】
次に、抵抗検出部24は、受信した電圧値および電流値をもとに内部抵抗を検出、内部抵抗比を求めた後、推定部30に出力する(S23)。
そして、CPU31は、劣化判定部35として、抵抗検出部24から受信した内部抵抗比を関係式に当てはめ、サイクル劣化の減算容量の増加割合を算出する(S24)。
【0068】
サイクル劣化の減算容量の増加割合が得られたところで、サイクル劣化の減算容量の増加割合を基に、容量推定部34によって求められた放置劣化に基づく実容量推定値CTを補正部36によって補正し、組電池11の実容量Cを求める(S25)。そして、処理はS20に戻り、S20からS26の処理が繰り返される。
【0069】
以上のように本実施形態によれば、組電池11の放置劣化に基づく実容量推定値に、放置劣化の減算容量に対するサイクル劣化の減算容量の増加割合に基づく補正を行うことで、組電池11の実容量推定値の推定精度を向上させることができる。これにより、組電池11の使用履歴を常時取得しなくとも、組電池11の将来の性能を高精度に推測することができる。
【0070】
また、
図17のグラフは、横軸を経過時間[月]、縦軸を実測値との誤差[%]とした、補正前後における実容量推定値の誤差の推移を示したものであって、補正前の実容量推定値を◆、補正後の実容量推定値を▲として示している。
図17のグラフによると、経過時間10か月における補正前の実容量推定値は、誤差が20%を超えているのに対し、補正後の実容量推定値は、誤差がほぼない状態に抑制されていることがわかる。
【0071】
<他の実施形態>
本明細書で開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も含まれる。
(1)上記実施形態では、組電池11の内部抵抗比を検出した後、劣化判定部35によってサイクル劣化の容量低下量の増加割合を算出し、補正部36によって補正を行うことで組電池11の実容量Cを求める構成にした。しかしながら、これに限らず、組電池11の内部抵抗比を検出したところで、予め取得された放置劣化に基づく内部抵抗比と、組電池11の内部抵抗比とを比較し、組電池11の内部抵抗比が、予め取得された放置劣化に基づく内部抵抗比よりも大きい場合は、サイクル劣化の影響が少ないと劣化判定部によって判定し、補正部において補正を行わない構成にしてもよい。
(2)上記実施形態では、内部抵抗Rは、車両のクランキングによる放電時の電流変化と、その際の電圧降下より求める構成とした。しかしながら、これに限らず、例えば、車両減速に伴う回生充電時の電流・電圧変化によって求めてもよい。
【0072】
(3)上記実施形態では、組電池11を、リチウムイオン蓄電池として構成した。しかしながら、これに限らず、組電池を、例えば、鉛蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池によって構成してもよい。
(4)上記実施形態では、推定部30のCPU31が、容量推定部34、劣化判定部35、補正部36として機能する構成とした。しかしながら、これに限らず、複数のCPUによって各部が構成されてもよい。
(5)上記実施形態では、性能推定装置20がバッテリ装置10内に組み込まれた構成とした。しかしながら、これに限らず、車両に搭載されたバッテリ装置とは別体の性能推定装置をバッテリ装置に接続して二次電池の性能推定を行う構成にしてもよい。
(6)上記実施形態では、容量推定部34において放置劣化に基づく組電池11の容量推定を行った後、劣化判定部35においてサイクル劣化の傾向を判定し、その判定の結果に基づいて補正を行う構成とした。しかしながら、これに限らず、容量推定部においてサイクル劣化に基づく組電池11の容量推定を行った後、劣化判定部において放置劣化の傾向を判定し、その判定の結果に基づいて補正を行う構成してもよい。