特許第6578835号(P6578835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

特許6578835樹脂組成物、並びにこれを使用したコート層を備える成形用フィルム、成形フィルム、及び樹脂成形品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578835
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、並びにこれを使用したコート層を備える成形用フィルム、成形フィルム、及び樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20190912BHJP
   C08G 75/045 20160101ALI20190912BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20190912BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20190912BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20190912BHJP
   C09J 127/06 20060101ALI20190912BHJP
   C09J 131/04 20060101ALI20190912BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20190912BHJP
   C09J 4/00 20060101ALI20190912BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20190912BHJP
【FI】
   C08L27/06
   C08G75/045
   C08K5/37
   C08J7/04 ECER
   C08J7/04CEZ
   C08K5/10
   C09J127/06
   C09J131/04
   C09J11/06
   C09J4/00
   C09J7/00
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-179408(P2015-179408)
(22)【出願日】2015年9月11日
(65)【公開番号】特開2017-52904(P2017-52904A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 宏充
(72)【発明者】
【氏名】幸田 一洋
(72)【発明者】
【氏名】藤村 俊伸
(72)【発明者】
【氏名】田代 寛
【審査官】 岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−177234(JP,A)
【文献】 特開昭59−084247(JP,A)
【文献】 特開昭62−030753(JP,A)
【文献】 特開2015−168679(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第1270114(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J7/04−7/06@Z
C08G75/00−75/32
C08G79/00−79/14
C08F2/00−2/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂100質量部に対し、
(B)多官能チオール化合物を5〜25質量部、
(C)重量平均分子量が100〜1000である多官能エン化合物を5〜35質量部含有し、
前記(B)成分が、下記(式1)、(式4)又は(式6)で示される多官能チオール化合物であり、
前記(C)成分が、(メタ)アクリレート当量が80〜400g/molである多官能(メタ)アクリレート、アリル当量が80〜200g/molである多官能アリル、又はビニル当量が60〜200g/molである多官能ビニル化合物である、樹脂組成物。
【化1】

(式中のaは2〜3の整数であり、bは0又は1であり、cは0〜2の整数であり、aとbとcの和は4である。Rは、メチレン基、エチレン基又はイソプロピレン基である。Rは、下記(式2)又は下記(式3)で表される2価の官能基である。Rは、メチル基又はエチル基である。Rは、炭素数が1〜12の炭化水素基である。)
【化2】

(Rは水素原子又はメチル基である。)
【化3】

(Rは水素原子又はメチル基である。)
【化4】

(式中のdは2〜6の整数であり、eは0〜2の整数であり、fは0〜4の整数であり、dとeとfの和は6である。Rは、メチレン基、エチレン基又はイソプロピレン基である。Rは、前記(式2)又は前記(式3)で表される2価の官能基である。Rは、メチル基又はエチル基である。Rは、炭素数が1〜12の炭化水素基である。Rは下記(式5)で表される6価の官能基である。)
【化7】

【化8】

(式中のgは0又は1であり、hは2又は3であり、gとhの和は3である。Rは下記(式7)で表される3価の基であり、Rは前記(式2)又は前記(式3)で表される2価の基である。Rは炭素数が1〜12の炭化水素基である。)
【化9】

(式中のR10は−CH−、−CHCH−、又はCHCH(CH)−である。)
【請求項2】
前記(A)成分が、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキルアクリレート共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)成分100質量部に対し、さらに(D)光重合開始剤を0.01〜10質量部含有する、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
フィルム基材の一方面に、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の樹脂組成物からなる未硬化のコート層を有する、成形用フィルム。
【請求項6】
前記未硬化のコート層を光硬化した、請求項5に記載の成形用フィルム。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の成形用フィルムが、前記コート層を介してフィルム製品に貼着されている、成形フィルム。
【請求項8】
請求項5又は請求項6に記載の成形用フィルムが、前記コート層を介して樹脂製品の表面に貼着されている、樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム基材に対して高い密着性を有すると共に、耐熱性、耐溶剤性等にも優れるコート層を形成可能な樹脂組成物と、当該樹脂組成物を使用したコート層を備える成形用フィルム、並びに当該成形用フィルムを表面に貼着した成形フィルム、及び樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、塩化ビニル樹脂の強靱性と、酢酸ビニル樹脂の密着性及び可塑性を活かし、フィルム製品や樹脂製品の表面にコート層を形成するための樹脂組成物として用いられることが知られている。また、密着性や溶解性の向上を目的として、塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキルアクリレート共重合体も知られている(以下、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体と、塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキルアクリレート共重合体とを併せて「塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂」と称す)。この種の樹脂組成物としては、例えば特許文献1がある。
【0003】
ところで、この種のコート層は、フィルム製品や樹脂製品の表面へ直接塗布形成するのみならず、フィルム基材の一方面にコート層を積層した中間製品である成形用フィルムとして別途製造したうえで、当該成形用フィルムをフィルム製品や樹脂製品の表面へ貼着する(成形する)こともある。この場合、当該中間製品である成形用フィルムは、コート層を硬化させた状態で、単独で(フィルム製品等に貼着する前の状態で)保管・輸送される。しかし、成形用フィルムを単独で保管する際、管理コスト削減のため温度調節(空調)しない倉庫で長期保管されることが近年では多くなっている。これは、船便輸送におけるコンテナ内でも同様である。
【0004】
この場合、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなるコート層を備える成形用フィルムは、船便輸送時や夏季の倉庫保管時等の高温雰囲気に曝されると、コート層の表面にタック性(粘着性)が発現して、表面がベトベトしてしまう。然るに、このようなコート層を備える成形用フィルムが、例えばロール状に巻回して保管する場合や、シート状で積層保管する場合に高温に晒されると、重なり合った成形用フィルム同士において一方のフィルム基材と他方のコート層とがブロッキング(接合)する問題が発生する。したがって、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂を主成分とするコート層には、高温雰囲気においても表面にタック性が発現せず、且つブロッキングしない耐熱性が求められる。
【0005】
また、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂は、酸、アルカリ、塩水に対して優れた耐薬品性を示すが、有機溶剤に対する耐溶剤性が劣る。したがって、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂を主成分とするコート層では、有機溶剤に曝された場合でも、コート層とフィルム基材とが剥離する問題が発生する。
【0006】
さらに、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂を主成分とするコート層は、高湿雰囲気に曝されると、浸入した水により酢酸ビニルの加水分解が進行する。この場合、生成したヒドロキシル基によって組成がより親水性となるため、さらに水を浸入させ易くなるという悪循環が生じる。
【0007】
しかも、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂を主成分とするコート層は、高湿雰囲気に曝された場合、浸入する水により劣化してコート層とフィルム基材とが剥離する問題が発生しており、耐湿密着性が劣る。つまり、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂はフィルム基材に対して優れた密着性を有するが、上記のように耐熱性、耐溶剤性、耐湿密着性において劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−207088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は上記事情に鑑みて成し遂げられたものであり、その目的は、フィルム基材に対して高い密着性を有すると共に、耐熱性、耐溶剤性、耐湿密着性にも優れるコート層を形成可能な樹脂組成物と、当該樹脂組成物を使用したコート層を備える成形用フィルム、並びに当該成形用フィルムを表面に貼着した成形フィルム、及び樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための手段として、本発明は次の手段を採る。
(A)塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂100質量部に対し、(B)多官能チオール化合物を5〜25質量部、(C)重量平均分子量が100〜1000である多官能エン化合物を5〜35質量部含有し、前記(B)成分が、下記(式1)、(式4)又は(式6)で示される多官能チオール化合物であり、前記(C)成分が、(メタ)アクリレート当量が80〜400g/molである多官能(メタ)アクリレート、アリル当量が80〜200g/molである多官能アリル、又はビニル当量が60〜200g/molである多官能ビニル化合物である、樹脂組成物。
【化1】

(式中のaは2〜3の整数であり、bは0又は1であり、cは0〜2の整数であり、aとbとcの和は4である。Rは、メチレン基、エチレン基又はイソプロピレン基である。Rは、下記(式2)又は下記(式3)で表される2価の官能基である。Rは、メチル基又はエチル基である。Rは、炭素数が1〜12の炭化水素基である。)
【化2】

(Rは水素原子又はメチル基である。)
【化3】

(Rは水素原子又はメチル基である。)
【化4】

(式中のdは2〜6の整数であり、eは0〜2の整数であり、fは0〜4の整数であり、dとeとfの和は6である。Rは、メチレン基、エチレン基又はイソプロピレン基である。Rは、前記(式2)又は前記(式3)で表される2価の官能基である。Rは、メチル基又はエチル基である。Rは、炭素数が1〜12の炭化水素基である。Rは下記(式5)で表される6価の官能基である。)
【化7】

【化8】

(式中のgは0又は1であり、hは2又は3であり、gとhの和は3である。Rは下記(式7)で表される3価の基であり、Rは前記(式2)又は前記(式3)で表される2価の基である。Rは炭素数が1〜12の炭化水素基である。)
【化9】

(式中のR10は−CH−、−CHCH−、又はCHCH(CH)−である。)
(2)前記(A)成分が、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体である、(1)に記載の樹脂組成物。
(3)前記(A)成分が、塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキルアクリレート共重合体である、(1)に記載の樹脂組成物。
(4)前記(A)成分100質量部に対し、さらに(D)光重合開始剤を0.01〜10質量部含有する、(1)ないし(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)フィルム基材の一方面に、(1)ないし(4)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる未硬化のコート層を有する、成形用フィルム。
(6)前記未硬化のコート層を光硬化した、(5)に記載の成形用フィルム。
(7)(5)又は(6)に記載の成形用フィルムが、前記コート層を介してフィルム製品に貼着されている、成形フィルム。
(8)(5)又は(6)に記載の成形用フィルムが、前記コート層を介して樹脂製品の表面に貼着されている、樹脂成形品。
【0011】
なお、(9)に記載の発明は、換言すれば、「フィルム基材の一方面に、(1)ないし(7)のいずれかに記載の樹脂組成物を光硬化したコート層を有する、成形用フィルム」とも言える。または、「フィルム基材の一方面に、(1)ないし(7)のいずれかに記載の樹脂組成物の光硬化層からなるコート層を有する、成形用フィルム」とも言える。さらに、「前記未硬化のコート層が光硬化済みである、(8)に記載の成形用フィルム」とも言える。
【0012】
本発明において数値範囲を示す「○○〜××」とは、特に明示しない限り「○○以上××以下」を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、(A)塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂に対して、(B)多官能チオール化合物と(C)多官能エンがバランス良く配合されている。これにより、成形用フィルムとして保管・輸送する際に、フィルム基材に対して高い密着性を有すると共に、耐熱性、耐溶剤性、耐湿密着性にも優れるコート層を形成可能となる。これは、多官能チオールと多官能エンの付加反応により精密な架橋ネットワークを形成するためである。これにより、水分バリア性も向上する。したがって、仮にコート層が高湿雰囲気に曝されても、水の浸入による酢酸ビニルの加水分解を抑制することができる。また、例え一部の酢酸ビニルが加水分解されてヒドロキシル基が生成したとしても、当該生成したカルボン酸は架橋ネットワークに取り込まれているため、コート層の劣化が抑制される。また、架橋ネットワークに取り込まれたカルボン酸は密着性の向上に寄与するため、フィルム基材に対する密着性が低下しない。
【0014】
一方、チオール−エン反応により生じるチオエーテル結合は、C、O、Nといった原子での結合と比べて結合角や結合長が柔軟に変化できることから硬化収縮が少なく、基材に対する密着性も低下しない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳しく説明する。本発明の樹脂組成物は、下記(A)、(B)及び(C)成分を必須成分とし、任意に(D)成分をさらに含有する樹脂組成物である。
【0016】
<(A)塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂>
塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂としては、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体)、又は、塩化ビニルと、酢酸ビニルと、ヒドロキシルアルキルアクリレートとの共重合体(塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキルアクリレート共重合体)を挙げることができる。
【0017】
塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂のうち、塩化ビニルは当該共重合体反応物質の全重量に対して70.0〜99.0重量%、酢酸ビニルは当該共重合体反応物質の全重量に対して1.0〜30.0重量%が好ましい。酢酸ビニルが1.0重量%より小さいと、得られるコート層の密着性が劣る傾向がある。一方、酢酸ビニルが30.0重量%より大きいと、有機溶剤に対する溶解性が向上し、耐溶剤性が劣る可能性がある。
【0018】
塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキルアクリレート共重合体のうち、塩化ビニルは当該共重合体反応物質の全重量に対して60.0〜99.0重量%が好ましく、より好ましくは70.0〜85.0重量%である。酢酸ビニルは、当該共重合体反応物質の全重量に対して0.1〜25.0重量%が好ましく、より好ましくは、1.0〜20.0重量%である。ヒドロキシアルキルアクリレートは、当該共重合体反応物質の全重量に対して0.1〜25.0重量%が好ましく、より好ましくは5.0〜20.0重量%である。ヒドロキシアルキルアクリレートの重量比が25.0重量%より大きいと、ヒドロキシル基が増量し、耐湿性が劣る可能性がある。
【0019】
ヒドロキシアルキルアクリレートとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート等が挙げられる。
【0020】
塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂の平均重合度は、100〜1,000が好ましい。より好ましくは200〜800である。塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂の平均重合度が100より小さいと、高温時のタック性が発現しやすくなる傾向がある。一方、平均重合度が1,000より大きいと、他の成分に対する溶解性が低くなる可能性がある。
【0021】
<(B)多官能チオール化合物>
多官能チオール化合物は、末端に複数のチオール基を有するものである。中でも、下記(式1)、(式4)、又は(式6)で表されるチオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体が挙げられる。多官能チオール化合物は、1種のみを単独で使用することもできるし、2種以上を混合使用することもできる。なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0022】
【化12】

(式中のaは2〜3の整数であり、bは0又は1であり、cは1〜2の整数であり、aとbとcの和は4である。Rは、メチレン基、エチレン基又はイソプロピレン基である。Rは、下記(式2)又は(式3)で表される2価の官能基である。Rは、メチル基又はエチル基である。Rは、炭素数が1〜12の炭化水素基である。)
【0023】
【化13】

(式中のdは2〜5の整数であり、eは0〜2の整数であり、fは1〜4の整数であり、dとeとfの和は6である。Rは、メチレン基、エチレン基又はイソプロピレン基である。Rは、下記(式2)又は(式3)で表される2価の官能基である。Rは、メチル基又はエチル基である。Rは、炭素数が1〜12の炭化水素基である。Rは下記(式5)で表される6価の官能基である。)
【0024】
【化14】

(式中のgは1であり、hは2である。Rは下記(式7)で表される3価の基であり、Rは下記(式2)又は下記(式3)で表される2価の基である。Rは炭素数が1〜12の炭化水素基である。)
【0025】
【化15】

(Rは水素原子又はメチル基である。)
【化16】

(Rは水素原子又はメチル基である。)
【化17】

【化18】

(式中のR10は−CH−、−CHCH−、又はCHCH(CH)−である。)
【0026】
(式1)、(式4)、(式6)で示されるチオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体は、一部のチオール基を変性させ、チオール基よりも極性を低下させることで、極性の高い部位と極性の低い部位をバランスよく有することとなり、(A)塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂との相溶性が向上する。これにより、樹脂組成物全体に架橋ネットワークを形成しやすく、より良好な耐ブロッキング性、耐溶剤性、及び耐湿熱性を示す。また、5官能以下のチオール化合物がさらに好ましい。6官能以上のチオール化合物の場合、架橋密度が高く硬化収縮が大きくなることで、密着力が低下する可能性がある。
【0027】
多官能チオール化合物の重量平均分子量は、350〜1,500が好ましい。多官能チオール化合物の重量平均分子量が350より小さくても密着性に関しては問題ないが、揮発性が高くなり臭気が強くなる傾向がある。一方、重量平均分子量が1,500より大きいと、密着性に関しては問題ないが、他の成分に対する溶解性が低くなる可能性がある。
【0028】
<(C)多官能エン化合物>
多官能エン化合物としては、例えば多官能(メタ)アクリレート、多官能アリル、多官能ビニルエーテルが挙げられる。
【0029】
(C)成分である多官能(メタ)アクリレートは、末端に(メタ)アクリロキシ基を有しており、その好ましい例として下記(式8)で表される化合物が挙げられる。なお、(C)成分である多官能(メタ)アクリレートは、1種のみを単独で使用することもできるし、2種以上を混合使用することもできる。
【化19】

(式中のiは2〜8の整数であり、R11は炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数2〜40のエーテル酸素(−O−)と炭化水素基のみからなる基、又はイソシアヌレート環若しくはイソシアヌレート環と炭化水素基のみからなる基であり、R12は水素原子またはメチル基である。)
【0030】
多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリレート当量は、80〜400g/molが好ましい。(メタ)アクリレート当量が80g/molより小さいと、単位体積あたりの(メタ)アクリロキシ基が過剰になって(B)多官能チオール化合物のチオール基と未反応の(メタ)アクリロキシ基が多量に残存することで、樹脂組成物を硬化したコート層の靭性が低下し、密着性が低下するおそれがある。一方、(メタ)アクリレート当量が400g/molより大きくなると、(メタ)アクリロキシ基濃度が著しく低いことから(B)多官能チオール化合物のチオール基との反応効率が低下することで、コート層の靭性が低下し、密着性が低下する場合がある。
【0031】
(C)成分である多官能アリルは、末端にアリル基を有しており、その好ましい例として下記(式9)で表される化合物が挙げられる。なお、(C)成分である多官能アリルは、1種のみを単独で使用することもできるし、2種以上を混合使用することもできる。
【化20】

(式中のjは2〜8の整数であり、R13は炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数2〜40のエーテル酸素(−O−)と炭化水素基のみからなる基、またはイソシアヌレート環若しくはイソシアヌレート環と炭化水素基のみからなる基である。)
【0032】
多官能アリルのアリル当量は、80〜200g/molが好ましい。アリル当量が80g/molより小さいと、単位体積あたりのアリル基が過剰になって(B)多官能チオール化合物のチオール基と未反応のアリル基が多量に残存することで、樹脂組成物を硬化したコート層の靭性が低下し、密着性が低下するおそれがある。一方、アリル当量が200g/molより大きくなると、アリル基濃度が著しく低いことから(B)多官能チオール化合物のチオール基との反応効率が低下することで、コート層の靭性が低下し、密着性が低下する場合がある。
【0033】
(C)成分である多官能ビニルエーテルは、末端にビニルエーテ基を有しており、その好ましい例として下記(式10)で表される化合物が挙げられる。なお、(C)成分である多官能ビニルエーテルは、1種のみを単独で使用することもできるし、2種以上を混合使用することもできる。
【化21】

(式中のkは2〜8の整数であり、R14は炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数2〜40のエーテル酸素(−O−)と炭化水素基のみからなる基、またはイソシアヌレート環若しくはイソシアヌレート環と炭化水素基のみからなる基である。)
【0034】
多官能ビニルエーテルのビニルエーテル当量は、60〜200g/molが好ましい。ビニルエーテル当量が60g/molより小さいと、単位体積あたりのビニルエーテル基が過剰になって(B)多官能チオール化合物のチオール基と未反応のビニルエーテル基が多量に残存することで、樹脂組成物を硬化したコート層の靭性が低下し、密着性が低下するおそれがある。一方、ビニルエーテル当量が200g/molより大きくなると、ビニルエーテル基濃度が著しく低いことから(B)多官能チオール化合物のチオール基との反応効率が低下することで、コート層の靭性が低下し、密着性が低下する場合がある。
【0035】
多官能エンの重量平均分子量は、100〜1,000が好ましい。多官能エンの重量平均分子量が100より小さくても密着性に関しては問題ないが、揮発性が高くなり臭気が強くなる傾向がある。一方、重量平均分子量が1,000より大きいと、密着性に関しては問題ないが、他の成分に対する溶解性が低くなる可能性がある。
【0036】
<(D)光重合開始剤>
光重合開始剤は、チオール基とビニル基との反応を促進するために任意に添加され、樹脂組成物の硬化に必要な光照射を少なくすることが可能であり、光照射時間のタクトタイムを短縮することができる。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、光アニオン重合開始剤等があげられる。光ラジカル重合開始剤は、反応時間を短縮する際に用いることが好ましく、光カチオン重合開始剤は、硬化収縮を小さくする際に用いることが好ましく、光アニオン重合開始剤は、電子回路等の分野での接着性を付与する際に用いることが好ましい。なお、熱重合開始剤においても加熱することで、樹脂組成物の硬化を促進することができるが、保存安定性が低下する可能性があるため好ましくない。
【0037】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0038】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、シクロプロピルジフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスファート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセナート、2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート、トリフェニルスルホニウムブロミド、トリ−p−トリルスルホニウムヘキサフルオロホスファート、トリ−p−トリルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート等が挙げられる。
【0039】
光アニオン重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン o−ベンゾイルオキシム、ニフェジピン、2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4,4,0]デカ−5−エン、2−ニトロフェニルメチル4−メタクリロイルオキシピペリジン−1−カルボキシラート、1,2−ジイソプロピル−3−〔ビス(ジメチルアミノ)メチレン〕グアニジウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナート、1,2−ジシクロヘキシル−4,4,5,5−テトラメチルビグアニジウム n-ブチルトリフェニルボラート等が挙げられる。
【0040】
<樹脂組成物の組成比(配合バランス)>
樹脂組成物は、(A)塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂100質量部に対し、(B)多官能チオール化合物が5〜25質量部、(C)多官能エン化合物が5〜35質量部となるように配合する。(B)多官能チオール化合物の配合量が5質量部未満又は25質量部を超えると、得られるコート層の耐熱性、耐溶剤性、及び耐湿性が劣る傾向にある。また、(C)多官能エン化合物の配合量が5質量部未満又は35質量部を超えると、耐熱性、耐溶剤性、及び耐湿性が劣る傾向にある。
【0041】
(D)光重合開始剤を任意成分として配合する場合は、(A)塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂100質量部に対し、(D)光重合開始剤が0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部となるように配合する。(A)成分100質量部に対して(D)成分の配合量が0.01質量部未満では、チオール基とビニル基の反応が進行するのに多くの積算光量が必要となる。一方、10質量部を超えると架橋密度が低くなり、得られるコート層の耐熱性、耐溶剤性が低下する場合がある。
【0042】
樹脂組成物は、光を照射することにより硬化させることができる。照射する光としては、UV(紫外線)やEB(電子線)などの活性エネルギー線等が挙げられる。また、樹脂組成物が(D)成分を含む場合は、通常2500mJ/cm程度必要となる光照射量を、100mJ/cm程度まで少なくすることが可能となる。
【0043】
樹脂組成物は、反応系を均一にし、塗工を容易にするために有機溶媒で希釈して使用してもよい。そのような有機溶媒としては、アルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、エーテルエステル系溶剤、ケトン系溶剤、及びリン酸エステル系溶剤が挙げられる。これらの有機溶媒は、樹脂組成物100質量部に対して、10,000質量部未満の配合量に抑えることが好ましいが、基本的に溶剤は硬化膜になる時点では揮発しているため、得られるコート層の物性に大きな影響は与えない。
【0044】
<成形用フィルム>
樹脂組成物は、フィルム基材の一方面に塗布し、そのまま未硬化のコート層、若しくは光硬化したコート層とすることで、フィルム製品や樹脂製品等の貼着対象物へ貼着する中間製品である成形用フィルムとすることができる。但し、未硬化のコート層を備える成形用フィルムは、未硬化のコート層を塗布形成した直後に貼着対象物へ貼着するものであり、コート層を光硬化させなければ単独で保管や輸送はできない。一方、光硬化させたコート層を備える成形用フィルムは、ロール巻きしたり展開状態で多数枚積層して、単独で保管・輸送できる。
【0045】
フィルム基材としては、特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやポリカーボネート(PC)フィルムなどの極性基材だけでなく、ポリオレフィンフィルム等の非極性基材も使用できる。
【0046】
<成形フィルム及び樹脂成形品>
成形用フィルムをフィルム製品や樹脂製品等の貼着対象物へ貼着(成形)するには、コート層を貼着対象物の表面に宛がった状態で、90℃前後の温度で数分間熱プレスすればよい。未硬化のコート層を備える成形用フィルムでも、コート層が未硬化のまま熱プレスにより貼着(成形)できる。これにより、成形用フィルムがコート層を介してフィルム製品に貼着されている、成形フィルムや樹脂成形品を得ることができる。すなわち、表面にコート層を備える成形フィルムや樹脂成形品を得ることができる。なお、フィルム製品としては、例えば液晶表示装置に適用される光学フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0047】
(実施例1−1〜1−23)
表1に示す各成分を表1に示す配合割合にて配合し、加圧ニーダーにて溶融、混練し、樹脂組成物を得た。
【0048】
(実施例2−1〜2−23)
表2に示す各成分を表2に示す配合割合にて配合し、加圧ニーダーにて溶融、混練し、樹脂組成物を得た。
【0049】
(比較例1−1〜1−18)
表3に示す各成分を表3に示す配合割合にて配合し、加圧ニーダーにて溶融、混練し、樹脂組成物を得た。
【0050】
(比較例2−1〜2−18)
表4に示す各成分を表4に示す配合割合にて配合し、加圧ニーダーにて溶融、混練し、樹脂組成物を得た。
【0051】
なお、表1〜4に示す各成分は、次の通りである。
A−1:塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 株式会社カネカ製「カネビニールM1008」(塩化ビニル/酢酸ビニル=95/5重量%、平均重合780)
A−2:塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体 (塩化ビニル/酢酸ビニル/ヒドロキシエチルアクリレート=79/1/20重量%、平均重合200)
A−3:塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 (塩化ビニル/酢酸ビニル/ヒドロキシプロピルアクリレート=70/20/10重量%、平均重合350)
A−4:塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 (塩化ビニル/酢酸ビニル/ヒドロキシプロピルアクリレート=85/10/5重量%、平均重合370)
B−1:トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート);TMMP
B−2:ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート);DPMP
B−3:トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート;TEMPIC
B−4:チオエーテル含有アクリレート誘導体;下記(式11)
【化22】

B−5:チオエーテル含有アクリレート誘導体;下記(式12)
【化23】


B−6:チオエーテル含有アクリレート誘導体;下記(式13)
【化24】

C−1:ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート
C−2:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
C−3:エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート
C−4:ビスフェノールAのEO付加物ジメタクリレート
C−5:トリメチロールプロパントリメタクリレート
C−6:1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート
C−7:1,3−ジアリル−5−メチル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン
C−8:トリアリルイソシアヌレート
C−9:ペンタエリスリトールトリアリルエーテル
C−10:1,4−ブタンジオールジビニルエーテル
C−11:シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル
D−1:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン
A’−1:フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイト社製「PKHC」、平均分子量45,000)
A’−2:ポリウレタン樹脂(東ソー株式会社製「エラクトランE390PNAT」)
B’−1:1−オクタンチオール
C’−1:イソボルニルアクリレート
C’−2:2−エチルヘキシルメタクリレート
C’−3:アリルエチルエーテル
C’−4:シクロヘキシルビニルエーテル
【0052】
[保存安定性の評価]
得られた各実施例及び比較例の樹脂組成物について、その保存安定性を次のようにして評価した。メチルシクロヘキサンに溶解して20%溶液を作製し、初期粘度を測定した。別途、密閉容器中に、樹脂組成物を50℃で60日間放置し後、60日後、メチルシクロヘキサンに溶解して20%溶液を作製し、粘度を測定した。60日後の粘度/初期粘度の値を算出し、評価を行なった。この評価結果も表1,2に示す。
◎:(60日後の粘度/初期粘度)の値が1.02未満のもの
○:(60日後の粘度/初期粘度)の値が1.02以上1.50未満のもの
×:(60日後の粘度/初期粘度)の値が1.50以上のもの
【0053】
<フィルムの作製>
タンク式ホットメルトアプリケーターで溶融した各実施例及び比較例の樹脂組成物を、フィルム基材上にダイコーターで50μmの厚みに塗布し、UV照射することで、コート層を備えるフィルムを得た。なお、フィルム基材としては、東レ(株)製、「ルミラーU46−100」のPETフィルムを用いた。また、UV照射には、ヘレウス・ノーブルライト・フュージョン・ユーブイ(株)製のUVランプシステム「ライトハンマー6」を用い、ランプバルブは、Hバルブを使用した。得られた各フィルムのコート層について、密着性、耐熱性、耐溶剤性、耐湿熱性を下記方法で測定評価した。その結果も表1,2に示す。
【0054】
[密着性の評価1(高照射量)]
2500mJ/cmUV照射後のサンプルでJIS K 5600−5−6:1999「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」に準拠し密着性の評価を行った。本発明の目的に供するには、評価は100/100が必要である。
◎:100/100
○:100/100であるが、縁欠けしていたもの
×:100/100未満
【0055】
[密着性の評価2(低照射量)]
100mJ/cmUV照射後のサンプルでJIS K 5600−5−6:1999「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」に準拠し密着性の評価を行った。本発明の目的に供するには、評価は100/100が必要である。
◎:100/100
○:100/100であるが、縁欠けしていたもの
×:100/100未満
【0056】
[耐熱性の評価]
2500mJ/cmUV照射後のサンプルに対向基材としてPETフィルムを重ね合わせて、熱プレス機を用いて50℃、15Kg/cm、200時間で熱プレスした。熱プレス後、サンプルを室温まで空冷し、90°剥離試験(剥離速度100mm/min、23度・50%環境下)を行い、密着力を測定し、以下の通り評価した。本発明の目的に供するには、評価は○以上が必要である。
◎:全く密着していないもの(ひっくり返して対向基材のPETが落ちる)
○:ひっくり返して対向基材が落ちないが、密着力が5mN/25mm未満
△:密着力が5mN/25mm以上50mN/25mm未満
×:密着力が50mN/25mm以上
【0057】
[耐溶剤性の評価]
2500mJ/cmUV照射後のサンプルを以下の溶剤に30分間浸漬した。その後、サンプルを取り出し、乾燥させた後にJISK 5600−5−6:1999「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」に準拠し密着性の評価、及び取り出した後の外観を観察した。本発明の目的に供するには、評価は○以上が必要である。
溶剤:トルエン、キシレン、テトラクロロエチレン、ガソリン、アセトン、イソプロピルアルコール、ヘキサン
◎:全ての溶剤において浸漬前と同等の密着性を示したもの
○:全ての溶剤において浸漬前と同等の密着性を示したが、一部の溶剤でサンプルを溶剤から取り出した直後に、白化が確認されたもの
△:一部の溶剤で、密着性が浸漬前よりも低下したもの
×:一部の溶剤で浸漬中に剥離したもの
【0058】
[耐湿密着性の評価]
2500mJ/cmUV照射後のサンプルを85℃、85%の恒温恒湿槽に100時間静置した。その後にJIS K 5600−5−6:1999「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」に準拠し密着性の評価を行った。本発明の目的に供するには、評価は○が必要である。
◎:100/100
○:100/100であるが、縁欠けしていたもの
△:100/100未満90/100以上
×:90/100未満
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
表1の結果から、実施例1−1〜1−5の硬化性樹脂組成物は、高い密着性、耐熱性、耐溶剤性、耐湿熱性を示した。さらに、実施例1−6〜1−23の硬化性樹脂組成物は、より好ましい(B)成分を用いることで、実施例1−1〜1−5よりも優れた耐熱性、良好な耐溶剤性が確認された。また、表2の結果から、実施例2−1〜2−4、2−6〜2−23は光開始剤を配合しているため、密着性の評価2(低照射量)が良好であった。
【0064】
一方、表3、4の結果から、比較例1−1、2−1は必須の(B)成分及び(C)成分を含まないため、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。
【0065】
比較例1−2、2−2は必須の(C)成分を含まないため、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。
【0066】
比較例1−3、1−4、2−3、2−4は必須の(B)成分を含まないため、密着性、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。
【0067】
比較例1−5〜1−8、2−5〜2−8は(C)成分が多官能エン化合物ではないため、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。
【0068】
比較例1−9、2−9は(B)成分が多官能チオール化合物ではないため、密着性、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。
【0069】
比較例1−10、2−10は(B)成分の配合量が少ないため、密着性、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。
【0070】
比較例1−11、2−11は(B)成分の配合量が多いため、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。
【0071】
比較例1−12、2−12は(C)成分の配合量が少ないため、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。
【0072】
比較例1−13、2−13は(C)成分の配合量が多いため、密着性、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。
【0073】
比較例1−14、2−14は必須の(A)成分及び(B)成分を含まないため、密着性、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。
【0074】
比較例1−15、2−15は必須の(A)成分を含まないため、密着性及び耐湿熱性が劣った。
【0075】
比較例1−16〜1−18、2−16〜2−18は(A)成分が塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂でないため、耐熱性、耐溶剤性及び耐湿熱性が劣った。