(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明の実施形態に至った経緯について説明する。
本発明者は、特願2014−177105号において、直流磁気ヒステリシス特性を、異常渦電流による影響が反映されるように補正した補正直流磁気ヒステリシス特性を導出することを提案した。そして、特願2014−177105号では、補正直流磁気ヒステリシス特性に基づいて、磁束密度と磁界との関係が定式化されたモデルとして、例えば、非特許文献1、2等に記載されているプレイヒステリシスモデル(形状関数)を同定し、このモデルを、ニュートンラプソン法における反復計算を行う際に用いて、マックスウェルの方程式に基づき、磁束密度ベクトルと渦電流ベクトルとを導出する。
【0014】
このようにすれば、ニュートンラプソン法における反復計算を行う際に直流磁気ヒステリシス特性を用いる場合よりも、磁束密度ベクトルと渦電流ベクトルを高精度に計算することができ、その結果、鉄損を高精度に計算することができる。しかしながら、特願2014−177105号の手法では、ニュートンラプソン法における反復計算を行う際にプレイヒステリシスモデルを使用するので、計算時間が増大する。
【0015】
一方、非特許文献4には、初磁化特性を用いて、磁束密度ベクトルと渦電流ベクトルを導出し、導出した磁束密度ベクトルをプレイヒステリシスモデルに適用してヒステリシス損を導出することが開示されている。非特許文献4に記載の技術では、反復計算が早く収束し、計算時間を短くすることができる。しかしながら、非特許文献4に記載の技術でも、非特許文献1、2と同様に、異常渦電流によるヒステリシス特性を考慮していないため、数百Hzの周波数帯の交流磁界が印加された場合に、ヒステリシス曲線の計算値と実測値が一致しないことに起因して、鉄損を高精度に計算することが容易でない。
【0016】
本発明者らは、特願2014−177105号および非特許文献4に記載の技術を踏まえ、補正直流磁気ヒステリシス特性に基づいてプレイヒステリシスモデル等のモデルを同定しておくと共に、初磁化特性を用いて、磁束密度ベクトルと渦電流ベクトルを導出し、導出した磁束密度ベクトルを同定したモデルに与えて、ヒステリシス損を導出することに想到した。
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
(電磁場解析装置100の構成)
図1は、電磁場解析装置100の機能的な構成の一例を示す図である。本実施形態では、電磁鋼板を積層した鉄心(コア)を備える電気機器における電磁場を解析する場合を例に挙げて説明する。以下、電磁鋼板と称する場合には、電磁場の解析の対象となる電磁鋼板そのもの、または、電磁場の解析の対象となる電磁鋼板と同じ種類の電磁鋼板を指す。ただし、電磁場の解析対象は、磁性材料(例えば強磁性材料)であれば、電磁鋼板に限定されない。
電磁場解析装置100のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを備える情報処理装置や、専用のハードウェアを用いることにより実現することができる。
【0018】
(直流ヒステリシスデータ入力部101)
直流ヒステリシスデータ入力部101は、電磁場の解析の対象となる電磁鋼板の直流磁気ヒステリシス特性のデータを入力する。直流磁気ヒステリシス特性とは、時間的にゆっくり変化する磁束密度と磁界とに基づく磁気ヒステリシス特性をいう。本実施形態では、このような磁気ヒステリシス特性であって、メジャーループに相当する部分の磁気ヒステリシス特性を、直流磁気ヒステリシス特性とする。
【0019】
直流磁気ヒステリシス特性のデータを直接測定することができる場合には、直流ヒステリシスデータ入力部101は、直流磁気ヒステリシス特性の測定データを入力する。また、例えば、非特許文献2に記載されているように、同一の最大磁束密度についての複数の周波数におけるヒステリシス特性の測定データから直流磁気ヒステリシス特性のデータを測定してもよい。この場合、直流ヒステリシスデータ入力部101は、直流磁気ヒステリシス特性の推定データを入力する。
【0020】
直流ヒステリシスデータ入力部101は、磁束密度の複数の波高値のそれぞれについて、前述した直流磁気ヒステリシス特性のデータを入力する。磁束密度の波高値は、例えば、電磁場を解析する際の励磁条件等に応じて適宜決定することができる。
直流磁気ヒステリシス特性のデータの入力形態は、特に限定されない。例えば、電磁場解析装置100のユーザインターフェースに対するオペレータによる操作に基づく形態でも、外部装置から送信されたデータを入力する形態でも、電磁場解析装置100に電気的に接続された可搬型の記憶媒体からデータを読み出す形態でもよい。このことは、以下に説明する磁束密度条件入力部102、異常渦電流損係数導出部103、磁性材料条件入力部104、初磁化特性入力部107、および電磁場解析条件入力部108における入力形態についても同じである。
直流ヒステリシスデータ入力部101は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、およびデータの入力形態に対応するインターフェースを用いることにより実現できる。
【0021】
(磁束密度条件入力部102)
磁束密度条件入力部102は、磁束密度条件を入力する。磁束密度条件は、磁束密度の波高値と周波数と波形(時間の経過に伴う磁束密度ベクトルの大きさの変化の概形)を含む情報である。磁束密度の周波数は、例えば、電磁場を解析する際の励磁条件に応じて決定することができる。なお、磁束密度の波高値は、直流ヒステリシスデータ入力部101により入力される直流ヒステリシス特性のデータからも得られるので、必ずしも、磁束密度条件入力部102により入力する必要はない。
磁束密度条件入力部102は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、およびデータの入力形態に対応するインターフェースを用いることにより実現できる。
【0022】
(異常渦電流損係数導出部103)
異常渦電流損係数導出部103は、異常渦電流損係数κ[−]を導出する。異常渦電流損係数κは、例えば、以下の(1)式で表される。
【0024】
(1)式において、Dは、電磁鋼板の比重[kg/m
3]、hは、電磁鋼板の(1枚の)板厚[m]、σは、電磁鋼板の導電率[S/m]、K
eは、渦電流損スタインメッツ係数[W/kg/T
2・sec
2]であり、以下の(2)式で表されるものである。
W
e=K
e・f
2・|B|
2 ・・・(2)
(2)式において、W
eは、渦電流損[W/kg]であり、fは、周波数[Hz]であり、|B|は、磁束密度ベクトルBの大きさ[T]である。
【0025】
渦電流損スタインメッツ係数K
eは、例えば、以下のようにして得ることができる。
まず、磁性材料についてのB−Wデータを、例えば規格標準で定められたエプスタイン測定法や単板試験測定法等の公知の測定法による磁気測定の測定値を用いて導出することを、複数の周波数のそれぞれにおいて行う。B−Wデータは、磁束密度ベクトルBの大きさと鉄損Wの大きさとの関係を示す曲線のデータである。
次に、大きさが同じである磁束密度ベクトルBに対応する鉄損Wの大きさをB−Wデータから抽出し、抽出した鉄損Wの大きさを、当該B−Wデータが属する周波数fで割った値である単位周波数当たりの鉄損の大きさW/fを導出する。
【0026】
これにより、単位周波数当たりの鉄損の大きさW/fと周波数fとの関係を示すW/f−fデータが、磁束密度ベクトルBの大きさ毎に得られる。
次に、W/f−fデータから、最も低い周波数f(例えば50[Hz])と、それよりも高い基本波の周波数f(例えば100[Hz])とに対応する「単位周波数当たりの鉄損の大きさW/f」の値を通る直線の切片(周波数fの値が0(ゼロ)のときの単位周波数当たりの鉄損の大きさW/f)を、直流での単位周波数当たりの鉄損の大きさW
h0として導出する。
【0027】
次に、直流での単位周波数当たりの鉄損の大きさW
h0に、W/f−fデータにおける最も低い周波数f(例えば50[Hz])を乗じて、当該周波数fにおける板状の試料のヒステリシス損W
hfを導出する。
次に、以下の(3)式に、周波数fとして、W/f−fデータにおける最も低い周波数f(例えば50[Hz])を代入し、ヒステリシス損W
hとして、前述したようにして導出したヒステリシス損W
hfを代入し、磁束密度ベクトルの大きさBとして、ヒステリシス損W
hfを導出する際に使用した「W/f−fデータ」が属する磁束密度ベクトルBの大きさを代入する。これにより、ある磁束密度ベクトルBの大きさであるときのヒステリシス損スタインメッツ係数K
hが得られる。
W
h=K
h・f・B
1.6 ・・・(3)
【0028】
次に、以上のようにしてヒステリシス損W
hを導出することを、前述したようにして導出したW/f−fデータのそれぞれについて行う。これにより、磁束密度ベクトルBの大きさが種々の値であるときのヒステリシス損スタインメッツ係数K
hが得られる。尚、(3)式における「1.6」は、1以上2以下の範囲の値であるβに置き替えることができる。
【0029】
次に、ヒステリシス損スタインメッツ係数K
hが属する磁束密度ベクトルBの大きさに対応する鉄損Wの大きさを、前述したB−Wデータから抽出する。前述したように、B−Wデータは、周波数f毎に存在しているので、複数の周波数fについて、鉄損Wの大きさが抽出される。
次に、当該ヒステリシス損スタインメッツ係数K
hと、当該ヒステリシス損スタインメッツ係数K
hが属する磁束密度ベクトルBの大きさと、前述したようにして抽出した鉄損Wの大きさと、当該鉄損Wの大きさに対応する周波数fを、前述した(2)式および(3)式、ならびに、以下の(4)式に代入する。
W=W
e+W
h ・・・(4)
これにより、ある磁束密度ベクトルBの大きさ、ある周波数fであるときの渦電流損スタインメッツ係数K
eが得られる。
【0030】
以上のようにして渦電流損スタインメッツ係数K
eを導出することを、ヒステリシス損スタインメッツ係数K
hのそれぞれについて行う。これにより、磁束密度ベクトルBの大きさ、周波数fが種々の値であるときの渦電流損スタインメッツ係数K
eが得られる。
前述したように、直流ヒステリシスデータ入力部101は、磁束密度の複数の波高値のそれぞれについて、直流磁気ヒステリシス特性のデータを入力する。また、磁束密度条件入力部102により、磁束密度ベクトルの周波数が入力される。
異常渦電流損係数導出部103は、これらの波高値および周波数に対応する渦電流損スタインメッツ係数K
eを入力する。
尚、このように、波高値および周波数に対応する渦電流損スタインメッツ係数K
eを入力すれば、異常渦電流損係数κを導出することができるので好ましい。しかしながら、簡易的に、波高値および周波数に依存しない渦電流損スタインメッツ係数K
eを入力してもよい。
【0031】
また、異常渦電流損係数導出部103は、電磁鋼板の比重D、電磁鋼板の板厚h、および電磁鋼板の導電率σを入力する。
そして、異常渦電流損係数導出部103は、(1)式の計算を行って、異常渦電流損係数κを導出する。
異常渦電流損係数導出部103は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、およびデータの入力形態に対応するインターフェースを用いることにより実現できる。尚、ここでは、電磁場解析装置100において異常渦電流損係数κを導出するようにした。しかしながら、外部装置等で別途導出された異常渦電流損係数κを入力してもよい。
【0032】
(磁性材料条件入力部104)
磁性材料条件入力部104は、磁性材料条件を入力する。磁性材料条件は、電磁鋼板の板厚h[m]と電磁鋼板の固有抵抗率ρ[Ω・m]とを含む情報である。
磁性材料条件入力部104は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、およびデータの入力形態に対応するインターフェースを用いることにより実現できる。尚、異常渦電流損係数導出部103により、電磁鋼板の板厚hと電磁鋼板の導電率σを入力する場合には、これらを磁性材料条件とすることができる。すなわち、磁性材料条件入力部104を省略することができる。
【0033】
(補正直流磁気ヒステリシス特性導出部105)
補正直流磁気ヒステリシス特性導出部105は、磁束密度条件入力部102により入力された磁束密度条件(磁束密度ベクトルの周波数)と、異常渦電流損係数導出部103により導出された異常渦電流損係数κと、磁性材料条件入力部104により入力された磁性材料条件(電磁鋼板の板厚h・固有抵抗率ρ)とに基づいて、直流ヒステリシスデータ入力部101により入力された直流磁気ヒステリシス特性のデータにおける磁界ベクトルの大きさ[A/m]を補正したデータである補正直流磁気ヒステリシス特性のデータを導出する。補正直流磁気ヒステリシス特性のデータは、異常渦電流による影響を反映した直流ヒステリシスデータである。
本実施形態では、異常渦電流損係数κの導出に用いるB−Wデータとして、規格標準で定められた励磁条件である、磁束密度ベクトルの大きさが正弦波で変化する条件下で測定されたものを利用する。また、本実施形態では、補正直流磁気ヒステリシス特性導出部105は、以下の(5)式の計算を行うことにより、補正直流磁気ヒステリシス特性のデータを計算する。
【0035】
(5)式において、iは、時刻ステップを特定するための変数であり、0を初期値とし、正の整数Iまで、1ずつ増加する変数である(i=0、1、2、・・・、I)の値をとる。t[i]は、変数iに対応する時刻ステップを示し、t[i−1]は、変数iの1つ前の変数i−1に対応する時刻ステップを示す。Iは、磁束密度条件入力部102により入力された磁束密度条件(磁束密度ベクトルの周波数)により定まる1周期に対応する値になる。
B[i]は、磁束密度条件入力部102により入力された波高値および周波数の正弦波で時間変化する磁束密度ベクトルの大きさであって、時刻ステップt[i]における磁束密度ベクトルの大きさである。B[i−1]は、磁束密度条件入力部102により入力された波高値および周波数の正弦波で時間変化する磁束密度ベクトルの大きさであって、時刻ステップt[i−1]における磁束密度ベクトルの大きさである。H
h[i]は、直流磁気ヒステリシス特性において、磁束密度ベクトルの大きさB[i]に対応する磁界ベクトルの大きさである。κは、当該波高値および励磁条件に示される周波数における異常渦電流損係数である。
【0036】
磁束密度ベクトルの一周期における各時間ステップt[i]で(5)式の計算を行うことで、磁束密度の波高値が同一のものについて、補正後の磁界ベクトルの大きさH
ha[i]と磁束密度ベクトルの大きさB[i]との組が複数得られる。補正直流磁気ヒステリシス特性導出部105は、補正後の磁界ベクトルの大きさH
ha[i]と磁束密度ベクトルの大きさB[i]との複数の組のデータ列を、当該波高値における補正直流磁気ヒステリシス特性のデータとして導出する。
【0037】
前述したように、直流ヒステリシスデータ入力部101は、磁束密度の複数の波高値のそれぞれについて、直流磁気ヒステリシス特性のデータを入力する。補正直流磁気ヒステリシス特性導出部105は、これら複数の波高値のそれぞれについて、以上のようにして補正直流磁気ヒステリシス特性のデータを導出する。
【0038】
ここで、(5)式が、どのようにして導出されるのかについて説明する。
鉄損Wは、ヒステリシス損W
hと、渦電流損W
eとの和で表され、渦電流損W
eは、異常渦電流損W
eaと、古典的渦電流損W
e0との和で表されるので、以下の(6)式が得られる。
W=W
h+W
e=W
h+W
ea+W
e0 ・・・(6)
電磁鋼板の板厚方向において磁束密度ベクトルBが均一である場合、古典的渦電流損W
e0は、以下の(7)で表される。
【0040】
実測される渦電流損W
e(全渦電流損)は、異常渦電流損係数κと古典的渦電流損W
e0とを用いて以下の(8)式で表される。
W
e=κ・W
e0 ・・・(8)
したがって、(6)式〜(8)式より、異常渦電流損W
eaは、以下の(9)式で表される。
【0042】
磁気エネルギーP
mは、以下の(10)式で表されることから、磁界ベクトルの大きさHは、以下の(11)式で表される。
【0044】
(11)式の磁気エネルギーP
mに、ヒステリシス損W
hと異常渦電流損W
eaとを代入すると、以下の(12)式に示すように、所与の磁束密度ベクトルBに対して、直流ヒステリシス損と異常渦電流損の寄与からなる磁界ベクトルの大きさH
haが求められる。
【0046】
(12)式の右辺第1項は、直流磁気ヒステリシス特性の磁界ベクトルの大きさH
hに等しい。また、(12)式の右辺第2項に(9)式を代入する。これにより、以下の(13)式が得られる。
【0048】
そして、(13)式の時間tを、離散化された時間ステップt[i](t[0]、t[1]、・・・、t[I])で表すと、前述した(5)式が得られる。
補正直流磁気ヒステリシス特性導出部105は、例えば、CPU、ROM、RAM、およびHDDを用いることにより実現できる。
【0049】
(モデル同定部106)
モデル同定部106は、補正直流磁気ヒステリシス特性導出部105により計算された、磁束密度の波高値ごとの補正直流磁気ヒステリシス特性のデータに基づいて、磁束密度と磁界との関係が定式化されたモデル(磁束密度と磁界との関係を示す計算式のパラメータ)を同定する。
【0050】
本実施形態では、かかるモデルとして、非特許文献1、2等に記載されているプレイヒステリシスモデルを利用する。より具体的には、非特許文献1に記載されている等方性ベクトルプレイヒステリシスモデルを利用する。等方性ベクトルプレイヒステリシスモデルを利用して電磁場解析を行う技術については、非特許文献1等に記載されているので、ここでは、その概略のみを説明し、詳細な説明を省略する。
等方性ベクトルプレイヒステリシスモデルでは、磁界ベクトルH[A/m]は、例えば、以下の(14)式、(15)式のように表される。
【0052】
(14)式、(15)式において、→はベクトルであることを表す(このことは、その他の式でも同じである)。
(15)式において、p
ζ(|B|)は、磁束密度ベクトルB[T]に対するプレイヒステロンの値[T]である。p
ζ0は、1つ前の時刻のプレイヒステロンp
ζの値である。max(|B−p
ζ0|/ζ,1)は、|B−p
ζ0|/ζと、1とのうち、大きい方の値を採用することを示す。ζは、プレイヒステロンの幅を与えるパラメータ[T]である。p
ζ/|p
ζ|は、プレイヒステロンp
ζの単位ベクトルである。尚、非特許文献1に記載されているように、(14)式、(15)式において、方向を一方向とすれば、スカラプレイヒステリシスモデルとなるので、(14)式、(15)式は、スカラプレイヒステリシスモデルにも適用できる。
【0053】
1つ前の時刻の磁束密度ベクトルB
0が、現時刻において磁束密度ベクトルBに変化したときに、1つ前の時刻のプレイヒステロンの値p
ζ0の先端の点を中心とした半径ζの円内に、現時刻の磁束密度ベクトルBがある場合には、当該円は移動しない。一方、1つ前の時刻の磁束密度ベクトルB
0が、現時刻において磁束密度ベクトルBに変化したときに、現時刻の時刻密度ベクトルBが、1つ前の時刻のプレイヒステロンの値p
ζ0の先端の点を中心とした半径ζの円の外に位置すると、当該円の中心は、1つ前の時刻のプレイヒステロンの値p
ζ0の先端の点から、現時刻の磁束密度ベクトルBの先端の点の方向に移動する。
非特許文献1に示される等方性ベクトルプレイヒステリシスモデルでは、このような性質を有するプレイヒステロンp
ζを用いて、磁界ベクトルHを(14)式のようにして表現する。
(14)式において、f(ζ,p
ζ(B))は、形状関数[A/(m・T)]である。この形状関数は、プレイヒステロンの幅ζと、プレイヒステロンp
ζ(B)の関数で表現される。プレイヒステリシスモデルを同定することは、この形状関数を同定することと同義である。
【0054】
モデル同定部106は、例えば、磁束密度の波高値ごとの補正直流磁気ヒステリシス特性のデータ(補正後の磁界ベクトルの大きさH
ha[i]と磁束密度ベクトルの大きさB[i]との組)から、作成する磁気ヒステリシス特性(マイナーループ等)に応じて定まる複数のデータを抽出する。そして、モデル同定部106は、抽出したデータを用いて、(14)式および(15)式に基づく計算を行うことにより、プレイヒステロンp
ζ(B)の分布の導出と、導出したプレイヒステロンp
ζ(B)の分布による形状関数f(ζ,p
ζ(B))の同定とを、行う。
【0055】
以上のようにして形状関数f(ζ,p
ζ(B))を同定することにより、補正直流磁気ヒステリシス特性のデータから得られる磁気ヒステリシス特性よりも複雑な磁気ヒステリシス特性であって、後述する電磁場の解析に必要となる磁気ヒステリシス特性を導出することができる。この磁気ヒステリシス特性には、例えば、マイナーループを含む直流磁気ヒステリシス特性や、高調波が重畳したメジャーループを含む交流磁気ヒステリシス特性や、マイナーループを含む交流磁気ヒステリシス特性や、ベクトル磁気ヒステリシス特性等が含まれる。
モデル同定部106は、例えば、CPU、ROM、RAM、およびHDDを用いることにより実現できる。
【0056】
(初磁化特性入力部107)
初磁化特性入力部107は、電磁場の解析の対象となる電磁鋼板の初磁化特性のデータを入力する。
図2は、B−H曲線の一例を示す図である。尚、
図2において、Bは磁束密度であり、Hは磁界である。
初磁化特性は、初磁化曲線とも称されるものであり、
図2において、点0と点aとを始点・終点とする曲線をいう。すなわち、磁性材料が磁化されていない状態から磁束密度の飽和が(最初に)生じるまでの、磁束密度と磁界との関係が初磁化特性となる。
初磁化特性は、例えば、電磁場の解析の対象となる電磁鋼板と同種の試験片を用いて、規格標準で定められたエプスタイン測定法や単板試験測定法等の公知の測定法による磁気測定を行うことにより得ることができる。
【0057】
初磁化特性入力部107は、磁束密度条件入力部102により入力された波高値および周波数のそれぞれについて、磁束密度条件入力部102により入力された波形についての初磁化特性のデータを入力する。
初磁化特性入力部107は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、およびデータの入力形態に対応するインターフェースを用いることにより実現できる。
【0058】
(電磁場解析条件入力部108)
電磁場解析条件入力部108は、電磁場解析条件を入力する。電磁場解析条件は、後述する電磁場解析部109による計算に必要な情報である。本実施形態では、有限要素法を用いて電磁場を解析する。したがって、電磁場解析条件は、例えば、微小領域(メッシュ)の分割条件(分割位置の座標情報)、鉄心(コア)の形状、鉄心(コア)を励磁するときの条件(励磁条件)、及び各種の初期値等である。励磁条件は、磁束密度条件と同様に、磁束密度の波高値と周波数と波形を含む情報である。
電磁場解析条件入力部108は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、およびデータの入力形態に対応するインターフェースを用いることにより実現できる。
【0059】
(電磁場解析部109)
電磁場解析部109は、電磁場解析条件入力部108により入力された電磁場解析条件に基づいて、各微小領域(メッシュ)における磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJ
eを計算する。本実施形態では、マックスウェルの方程式に基づき、有限要素法を用いて、各微小領域における磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJ
eを計算する。有限要素法により電磁場の解析を行う手法は、非特許文献4等に詳細に記載されているように、一般的な手法である。尚、各微小領域における磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJ
eを計算することができれば、有限要素法以外の方法(差分法等)を用いてもよい。
【0060】
磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJ
eを計算するための基礎方程式は、一般に、以下の(16)式〜(19)式で与えられる。
【0062】
(16)式〜(19)式において、μは、透磁率[H/m]であり、Aは、ベクトルポテンシャル[T・m]であり、σは、導電率[S/m]であり、J
0は、励磁電流密度[A/m
2]であり、φは、スカラーポテンシャル[V]である。
(16)式および(17)式を連立して解いて、ベクトルポテンシャルAとスカラーポテンシャルφを求めた後、(18)式、(19)式から、磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJ
eが計算される。
【0063】
透磁率μが非線形である磁性材料(本実施形態では電磁鋼板)における電磁場を解析する場合のベクトルポテンシャルAおよびスカラーポテンシャルφを未知変数とした解法として、ニュートンラプソン法(Newton-Raphson method)がある。本実施形態においても、ニュートンラプソン法を使用する。ニュートンラプソン法を使用する場合、反復途中で、磁界ベクトルHと、微分磁気抵抗率∂H/∂Bが必要になる。これらは、初磁化特性入力部107により入力された初磁化特性から導出される。
電磁場解析部109は、例えば、CPU、ROM、RAM、およびHDDを用いることにより実現できる。
【0064】
(微小領域内ヒステリシス損計算部110)
微小領域内ヒステリシス損計算部110は、ある微小領域について電磁場解析部109により解析された磁束密度ベクトルBと当該磁束密度ベクトルBに対応する磁界ベクトルHの一周期における波形から、当該微小領域における磁気ヒステリシス特性を導出する。そして、微小領域内ヒステリシス損計算部110は、以下の(20)式の計算を行って、当該導出した磁気ヒステリシス特性の面積を、当該微小領域におけるヒステリシス損w
haとして計算する。
【0066】
この際、微小領域内ヒステリシス損計算部110は、ある微小領域について電磁場解析部109により解析された磁束密度ベクトルBを、モデル同定部106で同定されたモデルである(14)式および(15)式に代入することにより、当該磁束密度ベクトルBに対応する磁界ベクトルHを導出する。
微小領域内ヒステリシス損計算部110は、以上のような計算を、全ての微小領域について行う。
【0067】
本実施形態では、補正直流磁気ヒステリシス特性のデータを使用して、形状関数f(ζ,p
ζ(B))を同定する。前述したように、補正直流磁気ヒステリシス特性は、異常渦電流による影響を反映した直流磁気ヒステリシス特性である。よって、微小領域内ヒステリシス損計算部110により計算される、各微小領域におけるヒステリシス損w
haは、異常渦電流による影響を反映したヒステリシス損となる。
微小領域内ヒステリシス損計算部110は、例えば、CPU、ROM、RAM、およびHDDを用いることにより実現できる。
【0068】
(微小領域内渦電流損計算部111)
微小領域内渦電流損計算部111は、ある微小領域について電磁場解析部109により解析された渦電流ベクトルJ
eと、当該微小領域の体積と、電磁鋼板の導電率σに基づいて、以下の(21)式の計算を行って、当該微小領域における古典的渦電流損w
e0を導出する。
【0070】
(21)式において、Tは、渦電流ベクトルJ
eの周期である。
微小領域内渦電流損計算部111は、以上のような計算を、全ての微小領域について行う。
微小領域内渦電流損計算部111は、例えば、CPU、ROM、RAM、およびHDDを用いることにより実現できる。
【0071】
(鉄損総和部112)
鉄損総和部112は、以下の(22)式に示す計算を行って、同一の微小領域におけるヒステリシス損w
haおよび古典的渦電流損w
e0の和を当該微小領域の鉄損wとして導出し、以下の(23)式の計算を行って、全ての微小領域の鉄損wの総和を、電磁場の解析対象である鉄心(コア)全体の鉄損Wとして導出する。
w=w
ha+w
e0 ・・・(22)
W=Σw ・・・(23)
鉄損総和部112は、例えば、CPU、ROM、RAM、およびHDDを用いることにより実現できる。
【0072】
(鉄損出力部113)
鉄損出力部113は、鉄損総和部112で計算された、鉄心(コア)全体の鉄損Wを出力する。鉄心(コア)全体の鉄損Wの出力形態は、特に限定されない。例えば、電磁場解析装置100の内部の記憶媒体や電磁場解析装置100に接続された可搬型の記憶媒体へ記憶する形態でも、コンピュータディスプレイへ表示する形態でも、外部装置へ送信する形態でもよい。
鉄損出力部113は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、およびデータの出力形態に対応するインターフェースを用いることにより実現できる。
【0073】
(動作フローチャート)
次に、
図3のフローチャートを参照しながら、電磁場解析装置100の処理の一例を説明する。
図3のフローチャートは、例えば、CPUが、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
まず、ステップS301において、直流ヒステリシスデータ入力部101は、電磁場の解析の対象となる電磁鋼板の直流磁気ヒステリシス特性のデータを入力する。
次に、ステップS302において、磁束密度条件入力部102は、磁束密度条件(磁束密度の波高値、周波数および波形)を入力する。
【0074】
次に、ステップS303において、異常渦電流損係数導出部103は、渦電流損スタインメッツ係数K
e、電磁鋼板の比重D、電磁鋼板の板厚h、および電磁鋼板の導電率σを入力し、(1)式の計算を行って、異常渦電流損係数κを導出する。
次に、ステップS304において、磁性材料条件入力部104は、磁性材料条件(電磁鋼板の板厚hと電磁鋼板の固有抵抗率ρ)を入力する。
【0075】
次に、ステップS305において、補正直流磁気ヒステリシス特性導出部105は、(5)式の計算を行って、補正直流磁気ヒステリシス特性のデータを計算する。
次に、ステップS306において、モデル同定部106は、補正直流磁気ヒステリシス特性のデータを用いて、形状関数f(ζ,p
ζ(B))を同定することにより、プレイヒステリシスモデルを同定する。
【0076】
次に、ステップS307において、初磁化特性入力部107は、電磁場の解析の対象となる電磁鋼板の初磁化特性のデータを入力する。
次に、ステップS308において、電磁場解析条件入力部108は、電磁場解析条件(微小領域(メッシュ)の設定方法、鉄心(コア)の形状、鉄心(コア)を励磁するときの条件(励磁条件)、及び各種の初期値等)を入力する。
【0077】
次に、ステップS309において、電磁場解析部109は、有限要素法およびニュートンラプソン法を用いて、鉄心(コア)の各微小領域における磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJ
eを計算する。前述したように、ニュートンラプソン法による反復計算の際に、ステップS307で入力された初磁化特性のデータが用いられる。
【0078】
次に、ステップS310において、微小領域内ヒステリシス損計算部110は、(20)式の計算を行って、各微小領域におけるヒステリシス損w
haを導出する。前述したように、ステップS306で同定されたプレイヒステリシスモデルに、ステップS309で得られた磁束密度ベクトルBを与えることにより、当該磁束密度ベクトルBに対応する磁界ベクトルHを導出し、当該磁束密度ベクトルBおよび磁界ベクトルHを用いて(20)式の計算を行う。
【0079】
次に、ステップS311において、微小領域内渦電流損計算部111は、(21)式の計算を行って、各微小領域における古典的渦電流損w
e0を導出する。
次に、ステップS312において、鉄損総和部112は、(22)式および(23)式の計算を行って、鉄心全体の鉄損Wを導出する。
次に、ステップS313において、鉄損出力部113は、鉄心(コア)全体の鉄損Wを出力する。
【0080】
(実施例)
次に、実施例を説明する。
図4は、本実施例で解析を行うIPM(Interior Permanent Magnet Motor)モータのモデルの一例を示す図である。具体的に、
図4は、IPMモータの回転軸の中心を原点0とし、原点0から径方向に伸びる2つの線であって、相互になす角度が90[°]となる2つの線でIPMモータを切ったときの、IPMモータの回転軸に垂直な方向の面を示す図である。
【0081】
図4において、IPMモータは、ロータ401とステータ402とを有する。本実施例では、ステータ402に含まれるステータコアにおける電磁場を解析する。尚、ステータコアは、例えば、複数の電磁鋼板を積層することにより形成される。
図4に示す0は、原点であり、IPMモータの回転軸の中心と一致する。x、yは、それぞれ、x軸、y軸を示す。また、Rは、IPMモータの径方向を示し、θは、IPMモータの周方向を示す。ロータ401の半径を110[mm]、ステータ402の外径を224.4[mm]、IPMモータの回転数を実施例1では1500[rpm](=周波数:50[Hz])、実施例2では12000[rpm](=周波数:400[Hz])として解析を行った。
【0082】
<実施例1>
本実施例では、励磁条件として、励磁電圧の周波数を50[Hz]、波高値を18[V]、波形を正弦波とする条件を採用した。
これらの励磁条件に従ってIPMモータのモデルを励磁した場合の、位置412における周方向θの磁束密度ベクトルBおよび磁界ベクトルHを、本実施形態の手法と、特願2014−177105号に記載の手法とのそれぞれで計算した結果を、それぞれ、
図5、
図6に示す。
【0083】
具体的に
図5は、本実施形態の手法による計算結果の一例として、磁束密度Bと時間との関係(
図5(a))と、磁界Hと時間との関係(
図5(b))と、磁束密度Bと磁界Hとの関係を示すヒステリシスカーブ(
図5(c))を示す図である。
図6は、特願2014−177105号に記載の手法による計算結果の一例として、
図5と同様に、磁束密度Bと時間との関係(
図6(a))と、磁界Hと時間との関係(
図6(b))と、磁束密度Bと磁界Hとの関係を示すヒステリシスカーブ(
図6(c))を示す図である。
【0084】
図5および
図6に示すように、本実施形態の手法によって、特願2014−177105号に記載の手法と略同一のヒステリシスループが得られており、本実施形態の手法でも、実用上、十分な計算精度を得ることができることが分かる。
【0085】
<実施例2>
本実施例では、励磁条件として、励磁電圧の周波数を400[Hz]、波高値を135V、波形を正弦波とする条件と、337[V]の直流電圧を、変調率を0.4としてパルス幅変調(PWM;Pulse Width Modulation)した電圧を励磁電圧とする条件とのそれぞれにおいて、位置411、412における周方向θおよび径方向Rの磁束密度ベクトルBおよび磁界ベクトルHを、本実施形態の手法と、特願2014−177105号に記載の手法とのそれぞれで計算した。尚、ここでは、励磁電圧の波高値として、IPMモータのトルクが2.8[Nm]になるような波高値を設定した。
以上の2つの励磁条件に従ってIPMモータのモデルを励磁した場合の、本実施形態の手法における計算の結果を
図7〜
図10に示す。尚、以下の説明では、前述した2つの励磁条件のうち、励磁電圧を正弦波とする条件を必要に応じて正弦波電圧駆動と称し、励磁電圧をパルス幅変調した電圧とする条件を必要に応じてPWMインバータ駆動と称する。
【0086】
具体的に
図7は、PWMインバータ駆動の場合の位置411における周方向θおよび径方向Rのそれぞれにおける、磁束密度Bと時間との関係(
図7(a))および磁界Hと時間(
図7(b))との関係の一例を示す図である。
図8は、正弦波電圧駆動の場合の位置411における周方向θおよび径方向Rのそれぞれにおける、磁束密度Bと時間との関係(
図8(a))および磁界Hと時間との関係(
図8(b))の一例を示す図である。
図9は、PWMインバータ駆動の場合の位置412における周方向θおよび径方向Rのそれぞれにおける、磁束密度Bと時間との関係(
図9(a))および磁界Hと時間との関係(
図9(b))の一例を示す図である。
図10は、正弦波電圧駆動の場合の位置412における周方向θおよび径方向Rのそれぞれにおける、磁束密度Bと時間との関係(
図10(a))および磁界Hと時間との関係(
図10(b))の一例を示す図である。
【0087】
図7と
図8、
図9と
図10をそれぞれ比較すると明らかなように、本実施形態の手法を用いると、PWMインバータ駆動の場合には、磁束密度Bと磁界Hに、PWMインバータに起因する高調波が発生することを再現することができることが分かる。
【0088】
また、本実施形態の手法を用いて、正弦波駆動の場合とPWMインバータ駆動の場合のそれぞれ場合における、前述したIPMモータのステータコアの鉄損を計算した。その結果を表1に示す。尚、表1では、本実施形態の手法を発明例と表記する。
【0090】
さらに、本実施形態の手法と特願2014−177105号に記載の手法のそれぞれを用いて、PWMインバータ駆動の場合における、前述したIPMモータのステータコアの鉄損を計算した。また、前述したIPMモータと同じ条件で実際に作製したIPMモータを前述した条件で実際に動作させた場合のステータコアの鉄損を実測した。これらの結果を表2に示す。尚、表2では、本実施形態の手法を発明例と表記し、特願2014−177105号に記載の手法を参考例と表記する。
【0092】
表1に示すように、本実施形態の手法(発明例)では、正弦波駆動の場合に比べPWMインバータ駆動の場合には、前述した高調波に起因して、鉄損の計算値が58[%]増大するという結果が得られ、実際に使用される条件下でのIPMモータの鉄損を推定することができることが分かる。そして、表2に示すように、本実施形態の手法を用いた場合の鉄損の計算値の実測値に対する誤差率は5[%]程度、特願2014−177105号に記載の手法を用いた場合の鉄損の計算値に対する誤差率は4[%]程度であり、本実施形態の手法では、実用上、十分な精度でIPMモータの鉄損を推定することができることが分かる。そして、表2に示すように、本実施形態の手法を用いた場合には、特願2014−177105号に記載の手法を用いた場合の1/3以下の時間で、IPMモータの鉄損を計算することができる。すなわち、本実施形態の手法を用いれば、実用上十分な精度の鉄損を、特願2014−177105号に記載の手法を用いた場合の1/3以下の時間で計算することができる。尚、特願2014−177105号の明細書に示した通り、補正直流磁気ヒステリシス特性を用いずに、直流磁気ヒステリシス特性を用いた場合(非特許文献1、2に記載の手法)では、励磁周波数が高周波になると、鉄損の計算精度が大きく劣化する。
【0093】
以上のように本実施形態では、異常渦電流損係数κを古典的渦電流損W
e0に乗じた値で渦電流損W
eを表現すると共に、渦電流損W
eから古典的渦電流損W
e0を減じた値で異常渦電流損W
eaを表現する。この異常渦電流損W
eaに基づく磁界ベクトルの大きさを、直流磁気ヒステリシス特性における磁界ベクトルの大きさH
hに加算した値を、補正後の磁界ベクトルの大きさH
haとする。波高値、周波数、および波形が指定された磁束密度ベクトルに対応する補正後の磁界ベクトルの大きさH
haを、各時間ステップにおいて導出し、それらの関係を補正直流磁気ヒステリシス特性として作成する。そして、この補正直流磁気ヒステリシス特性を使って、プレイヒステリシスモデルを同定(構築)し、電磁場の解析の結果として得られる磁束密度ベクトルをプレイヒステリシスモデルに与えてヒステリシス損を計算する。したがって、直流磁気ヒステリシス特性を使って、プレイヒステリシスモデルを同定(構築)する場合に比べて、交流磁界が印加される場合の電磁場(磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJ
e)を高精度に計算することができる。これにより、例えば、交流磁界(特に、数百Hz程度以上の高周波の交流磁界)が印加される場合の電磁場の解析を高精度に行うことができる。よって、例えば、ハイブリッド電気自動車(HEV)や電気自動車(EV)の駆動用モータ等、回転数の高いモータの周波数帯である数百Hzの基本周波数を有する電圧で駆動される(インバータ駆動される場合も含む)モータの電磁界を精度良く解析し、これによって鉄損(特にヒステリシス損)やトルク、銅損を精度良く推定することができる。加えて、損失をヒステリシス損失と渦電流損失とに分解して、精度良く推定できるため、鉄損の発生要因の明確化と改善策の検討に活用することができる。
【0094】
本実施形態では、磁気ヒステリシス特性のデータから、磁束密度と磁界との関係が定式化されたモデルとしてプレイヒステリシスモデル(等方性ベクトルプレイヒステリシスモデル)を同定する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、かかるモデルは、プレイヒステリシスモデルに限定されない。例えば、非特許文献1、2に記載されているように、プライザッハモデル等を用いてもよい。
【0095】
また、本実施形態では、相互に積み重なって構成された複数枚の電磁鋼板を解析の対象とする場合を例に挙げて説明した。しかしながら、解析の対象は、このようなものに限定されない。例えば、1枚の電磁鋼板を解析の対象としてもよい。例えば、磁気シールドにおいては、1枚の電磁鋼板が解析の対象となることがある。
【0096】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。