(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1結晶の短辺の長さに対する長辺の長さの比を示す第1アスペクト比の平均が2以上であり、前記第2結晶の短辺の長さに対する長辺の長さを示す第2アスペクト比の平均が2以上である請求項1に記載の圧電薄膜。
前記圧電薄膜の表面を、所定範囲の観察視野内で観察した場合に、前記第1結晶の数(α)と第2結晶の数(β)のうちのαの割合(α/(α+β))が、0.3以上0.7以下である請求項1〜4のいずれかに記載の圧電薄膜。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素については同一の符号を付す。また、上下左右の位置関係は図面に示す通りである。また、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0015】
(圧電薄膜素子)
図1に本実施形態に係る圧電薄膜素子の層構成の一例を示す。圧電薄膜素子100は、基板1と、下部電極層2と、下部電極層2上に形成された圧電薄膜3と、圧電薄膜3上に形成された上部電極層4とを備える。すなわち、圧電薄膜素子100は、圧電薄膜3を挟む一対の電極層を含んだ構造となっている。
【0016】
基板1に用いる材料としては、例えば、単結晶シリコン基板、Silicon on Insulator(SOI)基板、石英ガラス基板、GaAs等からなる化合物半導体基板、ステンレス等からなる金属基板、あるいはMgO基板、SrTiO
3基板等の酸化物単結晶基板が挙げられる。基板1の厚さは通常10〜1000μmである。
【0017】
基板1上に0.05μm〜1.0μmの膜厚を有する下部電極層2を形成する。下部電極層2の材料として、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Au(金)、Ru(ルテニウム)、Ir(イリジウム)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)等の金属材料、あるいはSrRuO
3、LaNiO
3等の導電性金属酸化物などが挙げられる。下部電極層2は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、ゾルゲル法などにより形成することができる。
【0018】
圧電薄膜3は(K,Na)NbO
3で表されるペロブスカイト型酸化物を主成分とし、例えば、スパッタリング法により形成することができる。膜厚は一例として、1μm〜10μm程度とする。圧電薄膜3についての詳細は別途説明する。
【0019】
最後に圧電薄膜3上に0.05μm〜1.0μmの膜厚を有する上部電極層4を形成する。上部電極層4の材料として、Pt、Pd、Rh、Au、Ru、Ir、Mo、Ti、Ta、Ni等の金属材料、あるいはSrRuO
3、LaNiO
3等の導電性金属酸化物などが挙げられる。上部電極層4は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、ゾルゲル法などにより形成することができる。
【0020】
圧電薄膜素子100を保護膜によりコーティングしてもよい。これにより、信頼性を高めることができる。
【0021】
圧電薄膜素子100では下部電極層2、および上部電極層4のいずれか一方、あるいは両方と圧電薄膜3との間に中間層を備えてもよい。
【0022】
フォトリソグラフィおよびドライエッチング法、ウェットエッチング法によりサイズは特に限定されないが、例えば25mm×5mmのサイズにパターニングした後、基板1を切断加工することで個片化した圧電薄膜素子100を得ることができる。
【0023】
ここで圧電薄膜3について説明をする。本実施形態の圧電薄膜は(K,Na)NbO
3を主成分とする。なお、主成分とは圧電薄膜3を構成する成分全体の70wt%以上を指し、構成する元素の比率は任意とするが、Na/(K+Na)≧0.5であることが望ましい。さらに、本実施形態の圧電薄膜は主成分の他にTa,Zr,Mnのうち少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。これら元素の添加効果として例えば、母組成のそれと比べて耐圧特性を向上させることができる。
【0024】
本実施形態の圧電薄膜の表面模式図を
図2Aに示す。圧電薄膜表面10は細長い形状を有した複数の結晶10a、10bが第1方向D1に配列しており、一方、同様に細長い形状を有した複数の結晶10c、10dが第2方向D2に配列している。ここで第1方向D1を向いて細長い形状を持つ結晶を第1結晶、ならびに第2方向D2を向いて細長い形状を持つ結晶を第2結晶とする。なお、第1結晶と第2結晶は共に同種の結晶である。一方、第1方向D1とは薄膜表面方向に沿った任意の方向であり、第2方向D2は第1方向D1に「交差」の関係にある任意の方向を示すものとする。
【0025】
ここで、本実施形態でいう「交差」について
図2Bを用いて説明する。本実施形態では
図2B(a)のように、第1方向D1に細長い形状を持つ複数の第1結晶と、第2方向D2に細長い形状を持つ複数の第2結晶とが略垂直に交わることを「交差」とする。略垂直とは第1方向と第2方向の成す角度が75度以上105度以下の範囲を示す。結晶の交差または隣接した点において、例えば、加工プロセス時のマイクロクラックの伸展などのダメージを抑制できる。
【0026】
本実施形態では、
図2B(b)のように複数存在する第2結晶が各々異なる角度で略垂直に第1結晶と交わっている場合、
図2B(c)のように第1結晶と第2結晶が略垂直に接する場合、
図2B(d)のように第1結晶と第2結晶が接していないが一方の結晶の長辺の延長線が他方の結晶に略垂直に交わる場合も全て「交差」とみなす。
図2B(d)の場合、第1結晶と第2結晶間は第1結晶の長辺の長さY1の平均値、もしくは第2結晶の長辺の長さY2の平均値以下の距離が好ましい。
【0027】
この表面は、例えば走査型電子顕微鏡などのプローブ顕微鏡などを使って観察することができる。具体的には10μm×10μmの視野で原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)を用いて圧電薄膜表面を観察する。
【0028】
本実施形態において、圧電薄膜加工時のダメージが抑制できる理由として必ずしも明らかではないが、以下の通りに推測される。
一般に結晶と結晶の粒界においては、結晶格子のミスフィットなどで、その機械的強度が結晶粒内よりも低いため、クラックは粒界に沿って伸展しやすいことが知られている。従って、前記配列を有していることで、例えば、加工プロセスの際に圧電薄膜面内におけるマイクロクラックの伸展が制限され、潜在的なダメージが抑制できる。また、このような圧電薄膜を用いた圧電薄膜素子は前記ダメージに起因する連続駆動時の疲労劣化を抑えることができ、結果的に高い信頼性を得ることができる。ただし、メカニズムはこれに限定されるものではない。
【0029】
AFMに付随する画像ソフトを用いて、観察視野に含まれる第1結晶の短辺の長さX1と長辺の長さY1、および第2結晶の短辺の長さX2と長辺の長さY2を求め、第1結晶の短辺の長さX1を1としたときの長辺の長さY1の比率、および第2結晶の短辺の長さX2を1としたときの長辺の長さY2の比率を求める。すなわち第1結晶と第2結晶のアスペクト比Y1/X1(第1アスペクト比)及びY2/X2(第2アスペクト比)の値を各々計算し、観察視野における第1結晶のアスペクト比Y1/X1の平均値、及び第2結晶のアスペクト比Y2/X2の平均値を算出するこのときアスペクト比Y1/X1の平均値とY2/X2の平均値は共に2以上が好ましく、より好ましくは2以上15以下の範囲である。これにより、加工プロセス時のダメージが抑制でき、圧電薄膜素子においても高い信頼性を得ることができる。
【0030】
観察視野における第1結晶の短辺の長さX1、長辺の長さY1の平均値と第2結晶の短辺の長さX2、長辺の長さY2の平均値を各々算出する。なお、結晶の一部が観察視野に収まっていない結晶は平均値の計算に含まない。このとき長辺Y1、Y2の長さの平均値は共に2μm以下が好ましい。これにより、加工プロセス時のダメージが抑制でき、圧電薄膜素子においても高い信頼性を得ることができる。
【0031】
さらに、圧電薄膜表面における第1結晶と第2結晶が観察視野に占める面積の合計を求め、合計面積割合Sを算出する。合計面積割合Sとは第1結晶と第2結晶の面積の合計を観察視野に収まるすべての結晶の面積の合計で割った値を百分率で表す。このとき合計面積割合Sは70%以上が好ましい。これにより、加工プロセス時のダメージが抑制でき、圧電薄膜素子においても高い信頼性を得ることができる。
【0032】
観察視野に含まれる圧電薄膜表面の第1結晶の数αと第2結晶の数βを求め、α/(α+β)を算出する。なお、結晶の一部が観察視野に収まっていない結晶はαおよびβに含まない。このときα/(α+β)は0.3以上0.7以下であることが好ましい。これにより例えば、加工プロセス時のダメージが抑制でき、圧電薄膜素子においても高い信頼性を得ることができる。
【0033】
次に、本実施形態の圧電薄膜素子100の製造方法について説明する。
まず、基板1として単結晶シリコン基板を準備する。次に、下部電極層2を基板1上にPtをスパッタリング法にて成膜する。続いて、圧電薄膜3には(K,Na)NbO
3で表される組成のスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法によって成膜する。本実施形態の構造を形成するための方法の一例として、例えば、成膜途中での酸素濃度や基板温度を変更することによって達成することができる。。酸素濃度は0%〜25%の範囲で、一方、基板温度は最高900℃まで設定可能である。ただし、本発明は以上の実施形態の製造条件に限定されるものではない。このようにして得られた圧電薄膜3上に上部電極層4としてPtをスパッタリング法にて成膜する。以上のプロセスを経て、圧電薄膜素子100が作製される。
【0034】
(圧電薄膜の表面形状の観察)
AFMを用いて圧電薄膜3を10μm×10μmの視野にて表面観察を行い、第1結晶と第2結晶を決定する。なお、角度の測定は画像編集ソフトで代表となる第1結晶と第2結晶のそれぞれの長辺Yに補助線を引き、その角度より求められる。
【0035】
その後、画像解析ソフトを用いて観察視野に含まれる第1結晶の短辺X1の長さと長辺Y1の長さ、および第2結晶の短辺X2の長さと長辺Y2の長さを求め、第1結晶の短辺X1を1としたときの長辺Y1の比率と第2結晶の短辺X2を1としたときの長辺Y2の比率、すなわち第1結晶と第2結晶のアスペクト比Y1/X1及びY2/X2の値を各々計算し、観察視野における結晶のアスペクト比のY1/X1平均値及びY2/X2の平均値を算出する。各々の平均値は観察視野含まれる任意の、かつ交差している第1結晶および第2結晶において5つのペアを対象とした。
【0036】
観察視野における第1結晶の長辺Y1の平均値と第2結晶の長辺Y2の平均値を各々算出する。
【0037】
さらに、圧電薄膜表面における第1結晶と第2結晶が観察視野に占める面積の合計を求め、合計面積割合を算出する。
【0038】
観察視野に含まれる圧電薄膜表面の第1結晶の数αと第2結晶の数βを求め、α/(α+β)を算出する。
【0039】
上部電極層の形成以降にKNNが最表面にでている領域を対象にしてAFMによる表面観察を行っても良い。さらに、AFM以外の装置を用いて表面観察を行っても良く、観察領域の面積は3μm×3μm以上であれば10μm×10μmでなくても良いが、少なくとも10以上の結晶が観察できる領域で行うとする。
【0040】
以上のようにして得られた圧電薄膜素子100は、加工プロセス時のダメージが少ない圧電薄膜を用いているため、特に駆動による負荷の大きい圧電アクチュエータ素子に適用しても高い信頼性のデバイスが得られる。以下、本実施形態の圧電薄膜素子を用いるのに適したデバイスについて例を挙げて説明する。
【0041】
(圧電アクチュエータ)
図3Aは、本実施形態に係わる圧電薄膜素子を用いた圧電アクチュエータの一例としてのハードディスクドライブ(以下HDDとも呼ぶ)に搭載されたヘッドアセンブリの構成図である。この図に示すように、ヘッドアセンブリ200は、その主なる構成要素として、ベースプレート9、ロードビーム11、フレクシャ17、駆動素子である第1及び第2の圧電薄膜素子100、及びヘッド素子19aを備えたヘッドスライダ19を備えている。
【0042】
ロードビーム11は、ベースプレート9に例えばビーム溶接などにより固着されている基端部11bと、この基端部11bから先細り状に延在された第1及び第2の板バネ部11c及び11dと、第1及び第2の板バネ部11c及び11dの間に形成された開口部11eと、第1及び第2の板バネ部11c及び11dに連続して直線的かつ先細り状に延在するビーム主部11fと、を備えている。
【0043】
第1及び第2の圧電薄膜素子100は、所定の間隔をもってフレクシャ17の一部である配線用フレキシブル基板15上にそれぞれ配置されている。ヘッドスライダ19はフレクシャ17の先端部に固定されており、第1及び第2の圧電薄膜素子100の伸縮に伴って回転運動する。
【0044】
第1及び第2の圧電薄膜素子100は、下部電極層と、上部電極層と、この上部および下部電極層に挟まれた圧電薄膜とから構成されており、本実施形態に係わる圧電アクチュエータにおいては、この圧電薄膜素子の加工時に特性低下が起こらないため、より高い信頼性と十分な変位量を得ることができる。
【0045】
図3Bは、圧電薄膜素子を用いた圧電アクチュエータの他の例としてのインクジェットプリンタヘッドの圧電アクチュエータの構成図であり、圧電薄膜素子100の適用例を示すものである。
【0046】
圧電アクチュエータ300は、基板20上に、絶縁膜23、下部電極層24、圧電薄膜25および上部電極層26を積層して構成されている。
【0047】
所定の吐出信号が供給されず下部電極層24と上部電極層26との間に電界が印加されていない場合、圧電薄膜25には変形を生じない。吐出信号が供給されていない圧電薄膜素子が設けられている圧力室21には、圧力変化が生じず、そのノズル27からインク滴は吐出されない。
【0048】
一方、所定の吐出信号が供給され、下部電極層24と上部電極層26との間に一定電界が印加された場合、圧電薄膜25に変形を生じる。吐出信号が供給された圧電薄膜素子が設けられている圧力室21ではその絶縁膜23が大きくたわむ。このため圧力室21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル27からインク滴が吐出される。
【0049】
本実施形態の圧電アクチュエータの圧電薄膜素子は作製時のダメージが抑制されるため、より高い信頼性と十分な変位量を得ることができる。
【0050】
(圧電センサ)
図4Aは、前記の圧電薄膜素子を用いた圧電センサの一例としてのジャイロセンサの構成図(平面図)であり、
図4Bは
図4AのA−A線矢視断面図である。
【0051】
ジャイロセンサ400は、基部110と、基部110の一面に接続する二つのアーム120、130を備える音叉振動子型の角速度検出素子である。このジャイロセンサ400は、上述の圧電薄膜素子を構成する圧電薄膜30、上部電極層31、及び下部電極層32を音叉型振動子の形状に則して微細加工して得られたものであり、各部(基部110、及びアーム120、130)は、圧電薄膜素子によって一体的に形成されている。
【0052】
一方のアーム120の第一の主面には、駆動電極層31a、31b、及び検出電極層31dがそれぞれ形成されている。同様に、他方のアーム130の第一の主面には、駆動電極層31a、31b、及び検出電極層31cがそれぞれ形成されている。これらの各電極層31a、31b、31c、31dは、上部電極層31を所定の電極形状にエッチングすることにより得られる。
【0053】
なお、基部110、及びアーム120、130のそれぞれの第二の主面(第一の主面の裏側の主面)に全面に形成されている下部電極層32は、ジャイロセンサ400のグランド電極として機能する。
【0054】
ここで、それぞれのアーム120、130の長手方向をZ方向とし、二つのアーム120、130の主面を含む平面をXZ平面とした上で、XYZ直交座標系を定義する。
【0055】
駆動電極層31a、31bに駆動信号を供給すると、二つのアーム120、130は、面内振動モードで励振する。面内振動モードとは、二つのアーム120、130の主面に平行な向きに二つのアーム120、130が励振する振動モードのことを称する。例えば、一方のアーム120が−X方向に速度V1で励振しているとき、他方のアーム130は+X方向に速度V2で励振する。
【0056】
この状態でジャイロセンサ400にZ軸を回転軸として角速度ωの回転が加わると、二つのアーム120、130のそれぞれについて速度方向に直交する向きにコリオリ力が作用し、面外振動モードで励振し始める。面外振動モードとは、二つのアーム120、130の主面に直交する向きに二つのアーム120、130が励振する振動モードのことを称する。例えば、一方のアーム120に作用するコリオリ力F1が−Y方向であるとき、他方のアーム130に作用するコリオリ力F2は+Y方向である。
【0057】
コリオリ力F1、F2の大きさは、角速度ωに比例するため、コリオリ力F1、F2によるアーム120、130の機械的な歪みを圧電薄膜30によって電気信号(検出信号)に変換し、これを検出電極層31c、31dから取り出すことにより角速度ωを求めることができる。
【0058】
本実施形態の圧電センサに用いる圧電薄膜素子として、大きな変位量を持つ圧電薄膜素子を用いることで、消費電力を抑えることができ、高い信頼性と十分な検出感度を得ることができる。
【0059】
図4Cは、前記の圧電薄膜素子を用いた圧電センサの第二の例としての圧力センサの構成図である。
【0060】
圧力センサ500は、圧力を受けたときに対応するための空洞45を有するとともに、圧電薄膜素子40を支える支持体44と、電流増幅器46と、電圧測定器47とから構成されている。圧電薄膜素子40は共通電極層41と圧電薄膜42と個別電極層43とからなり、この順に支持体44に積層されている。ここで、外力がかかると圧電薄膜素子40がたわみ、電圧測定器47で電圧が検出される。
【0061】
本実施形態の圧電センサに用いる圧電薄膜素子として、大きな変位量を持つ圧電素子を用いることで、高い耐電圧性と十分な検出感度を得ることができる。
【0062】
図4Dは、前記の圧電薄膜素子を用いた圧電センサの第三の例としての脈波センサの構成図である。
【0063】
脈波センサ600は、圧力を受けたときに対応するための圧電薄膜素子50を支える支持体54と、電圧測定器55とから構成されている。圧電薄膜素子50は共通電極層51と圧電薄膜52と個別電極層53とからなり、この順に支持体54に積層されている。生体の脈を検出するには、脈波センサ600の支持体54の裏面(圧電薄膜素子が搭載されていない面)を生体の動脈上に当接させる。これにより生体の脈による圧力で支持体54と圧電薄膜素子50がたわみ、電圧測定器55で電圧が検出される。
【0064】
本実施形態の圧電センサに用いる圧電薄膜素子として、作製時のダメージが抑制されるため、より高い信頼性と十分な検出感度を得ることができる。
【0065】
(ハードディスクドライブ)
図5は、
図3Aに示したヘッドアセンブリを搭載したハードディスクドライブの構成図である。
【0066】
ハードディスクドライブ700は、筐体60内に、記録媒体としてのハードディスク61と、これに磁気情報を記録及び再生するヘッドスタックアセンブリ62とを備えている。ハードディスク61は、図示を省略したモータによって回転させられる。
【0067】
ヘッドスタックアセンブリ62は、ボイスコイルモータ63により支軸周りに回転自在に支持されたアクチュエータアーム64と、このアクチュエータアーム64に接続されたヘッドアセンブリ65とから構成される組立て体を、図の奥行き方向に複数個積層したものである。ヘッドアセンブリ65の先端部には、ハードディスク61に対向するようにヘッドスライダ19が取り付けられている(
図4A参照)。
【0068】
ヘッドアセンブリ65(200)は、ヘッド素子19a(
図3A参照)を2段階で変動させる形式を採用している。ヘッド素子19aの比較的大きな移動はボイスコイルモータ63によるヘッドアセンブリ65、及びアクチュエータアーム64の全体の駆動で制御し、微小な移動はヘッドアセンブリ65の先端部によるヘッドスライダ19の駆動により制御する。
【0069】
このヘッドアセンブリ65に用いられる圧電薄膜素子は圧電薄膜素子作製時のダメージが抑制されるため、高い信頼性と十分なアクセス性を得ることができる。
【0070】
(インクジェットプリンタ装置)
図6は、
図3Bに示したインクジェットプリンタヘッドを搭載したインクジェットプリンタ装置の構成図である。
【0071】
インクジェットプリンタ装置800は、主にインクジェットプリンタヘッド70、本体71、トレイ72、ヘッド駆動機構73を備えて構成されている。圧電アクチュエータ300はインクジェットプリンタヘッド70に備えられている。
【0072】
インクジェットプリンタ装置800は、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの計4色のインクカートリッジを備えており、フルカラー印刷が可能なように構成されている。また、このインクジェットプリンタ装置800は、内部に専用のコントローラボード等を備えており、インクジェットプリンタヘッド70のインク吐出タイミング及びヘッド駆動機構73の走査を制御する。また、本体71は背面にトレイ72を備えるとともに、その内部にオートシートフィーダ(自動連続給紙機構)76を備え、記録用紙75を自動的に送り出し、正面の排出口74から記録用紙75を排紙する。
【0073】
このインクジェットプリンタヘッド70の圧電アクチュエータに用いられる圧電薄膜素子作製時のダメージが抑制されるため、より高い信頼性と高い安全性を有するインクジェットプリンタ装置を提供することができる。
【0074】
以上、本発明の好ましい実施態様について説明したが、本発明は、前記の実施態様に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明に含まれることは言うまでもない。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
まず、単結晶Si基板上に下部電極層として、Pt電極層をスパッタリング法にて形成した。その時の成膜条件は、基板温度は400℃、かつ膜厚は0.2μmとした。
【0077】
次に(K
0.45Na
0.55)NbO
3のターゲットを用いPt電極層上にスパッタリング法にて同組成の圧電薄膜を形成した。成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度T1を720℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め、基板温度720℃のまま1時間保持し、その後基板温度T2を800℃に変更したのち膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。なお、成膜にはアルゴンと酸素の混合ガスを用い、このときの酸素濃度は10%に固定した。
【0078】
続いて、AFM(日立ハイテクサイエンス社製)を用い、圧電薄膜表面上の任意場所において10μm×10μmの観察視野で表面形状の観察を行った。
【0079】
次にAFMに付随する画像解析ソフトを用いて観察視野に含まれる第1結晶の短辺X1の長さと長辺Y1の長さ、および第2結晶の短辺X2の長さと長辺Y2の長さを求め、第1結晶の短辺X1を1としたときの長辺Y1の比率と第2結晶の短辺X2を1としたときの長辺Y2の比率、すなわち第1結晶と第2結晶のアスペクト比Y1/X1及びY2/X2の値を各々計算し、観察視野における結晶のアスペクト比のY1/X1平均値及びY2/X2の平均値を算出する。各々の平均値は観察視野含まれる任意の、かつ交差している第1結晶および第2結晶において5つのペアを対象とした。
【0080】
観察視野における第1結晶の長辺Y1の平均値と第2結晶の長辺Y2の平均値を各々算出する。
【0081】
さらに、圧電薄膜表面における第1結晶と第2結晶が観察視野に占める面積の合計を求め、合計面積割合を算出する。
【0082】
観察視野に含まれる圧電薄膜表面の第1結晶の数αと第2結晶の数βを求め、α/(α+β)を算出する。
【0083】
その後、圧電薄膜(K
0.45Na
0.55)NbO
3上に上部電極層としてPt電極層をスパッタリング法にて成膜した。その時の成膜条件は基板温度が500℃、かつ膜厚は0.2μmとした。
【0084】
さらに、フォトリソグラフィにより基板上の積層構造をパターニングし、ダイシングにより切断し、可動部分寸法が20mm×1.0mmである圧電薄膜素子を作製した。
【0085】
素子作製後、連続駆動試験として、製品となった場合に想定される駆動電圧の最大値5Vの正弦波を圧電薄膜素子の電極層に6kHzで10億回印加した。電圧の印加にはファンクションジェネレータ(エヌエフ回路設計ブロック社製)を用いた。なお、連続駆動試験前にはLCRメータ(GWInstek社製)を用いてキャパシタンスを測定した。
【0086】
連続駆動試験を行った後、再び圧電薄膜素子のキャパシタンス値を測定しキャパシタンスの変化率ΔCを算出した。なお、キャパシタンスの変化率ΔCは連続駆動試験前のキャパシタンス値をC1、連続駆動試験後のキャパシタンス値をC2としたときにΔC={1−(C2/C1)}×100%より求めた。
【0087】
比較例1、2及び実施例1〜15の圧電薄膜素子の構成、作製プロセス及び評価方法は実施例1と同様とした。しかし、実施例2〜11と比較例1,2は圧電薄膜の成膜時の基板加熱条件、実施例12〜15では更に成膜に用いたターゲットの組成が異なっている。よって以下、圧電薄膜の成膜条件の変更点のみ記載する。
【0088】
(比較例1)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を800℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め基板温度800℃のまま1時間保持し、成膜温度を700℃に変更したのち再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0089】
(比較例2)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を480℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め基板温度480℃のまま1時間保持し、成膜温度を700℃に変更した後再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0090】
(実施例2)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を700℃にて成膜を行った後、成膜を一度止めそのまま1時間保持し、その後成膜温度を700℃に変更したのち再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0091】
(実施例3)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を520℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め、基板温度520℃のまま1時間保持し、その後成膜温度を700℃に変更したのち再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0092】
(実施例4)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を560℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め、基板温度560℃のまま1時間保持し、その後成膜温度を700℃にしたのち再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0093】
(実施例5)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を560℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め、基板温度560℃のまま1時間保持し、成膜温度を650℃に変更したのち再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0094】
(実施例6)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を560℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め、基板温度560℃のまま1時間保持し、成膜温度を600℃に変更したのち再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0095】
(実施例7)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を720℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め、基板温度720℃のまま1時間保持し、成膜温度を580℃に変更したのち再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0096】
(実施例8)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を660℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め、基板温度660℃のまま1時間保持し、成膜温度を620℃に変更したのち再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0097】
(実施例9)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を660℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め、基板温度660℃のまま1時間保持し、成膜温度を600℃に変更したのち再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0098】
(実施例10)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を660℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め、基板温度660℃のまま1時間保持し、再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0099】
(実施例11)
成膜開始から膜厚0.3μmまで基板温度を660℃にて成膜を行った後、成膜を一度止め、基板温度660℃のまま1時間保持し、成膜温度を680℃に変更したのち再び膜厚が2μmに達するまで成膜を行った。
【0100】
(実施例12)
(K
0.45Na
0.55)(Nb
0.9Ta
0.1)O
3のターゲットを用いて、実施例1と同様の成膜を行った。
【0101】
(実施例13)
(K
0.45Na
0.55)(Nb
0.95Zr
0.05)O
3のターゲットを用いて、実施例1と同様の成膜を行った。
【0102】
(実施例14)
主成分(K
0.45Na
0.55)NbO
3に対して、MnをMnO換算で0.31質量%含有したターゲットを用いて、実施例1と同様の成膜を行った。
【0103】
(実施例15)
(主成分(K
0.45Na
0.55)(Nb
0.85Ta
0.1Zr
0.05)O
3に対して、MnをMnO換算で0.31質量%含有したターゲットを用いてに仕込み時にMnCO
3を0.5重量%添加したターゲットを用いて、実施例1と同様の成膜を行った。
【0104】
実施例1〜14及び比較例1、2の各々の連続駆動試験前後のキャパシタンスの変化率ΔCと表面観察によって算出した第1結晶のアスペクト比Y1/X1の平均値、および第2結晶のアスペクト比Y2/X2の平均値を表1〜5に示す。
【0105】
表1より、第1結晶と第2結晶が交差している圧電薄膜を圧電薄膜素子としたものは、キャパシタンスの変化率ΔCの絶対値が20%よりも小さい。また、この時、平均アスペクト比が2以上でキャパシタンスの変化率ΔCが減少傾向に転じ、平均アスペクト比15程度まで同程度に推移することを確認したが、平均アスペクト比が共に16となった実施例3ではキャパシタンスの変化率ΔCが増加したため、平均アスペクト比15以下がより望ましいと考えられる。比較例1においては圧電薄膜表面が第1結晶と第2結晶が互いに略平行となっており、比較例2においても、微小なナノオーダーのグレインで構成されており、第1結晶と第2結晶を確認することはできなかった。比較例1,2において共に変化率ΔCが大きかったことから、第1結晶と第2結晶が交差している圧電薄膜を用いた圧電薄膜素子において疲労劣化抑制、つまり高い信頼性につながる効果があったものと推測される。
【0106】
表2より、第1結晶と第2結晶が交差している圧電薄膜において平均アスペクト比が同程度でも、第1結晶と第2結晶の長辺の長さの平均値が短いほど、変化率ΔCが減少する傾向を確認し、最大5%台まで抑えることができた。長辺の長さの短いほうがより潜在的なクラックなどの伸展を抑える効果がより高く、結果、高い信頼性につながったものと推測される。
【0107】
表3より、第1結晶と第2結晶が交差している圧電薄膜において平均アスペクト比が同等のものでも、観察視野内に第1結晶と第2結晶の合計面積割合Sが大きいほど、変化率ΔCが減少した。この原因として本発明に該当しない異形状結晶の割合の増加は、異相の共存状態を示唆しており、これら異相により薄膜の機械的強度が落ちることが示唆される。従って、圧電薄膜素子としての疲労劣化がより進みやすかったと推測される。
【0108】
表4より、第1結晶と第2結晶が交差している圧電薄膜において平均アスペクト比が近いものでも、第1結晶の数αと第2結晶の数βが1:1に近い程、キャパシタンスの変化率ΔCが減少する傾向を示した。薄膜表面内において交差する第1結晶と第2結晶が均一にあるほどダメージの低減に寄与するものと推測される。
【0109】
ターゲットの組成を変更した実施例12〜15では実施例1よりも、連続駆動試験によるキャパシタンスの変化率ΔCが小さいことが確認された。これらの結果から成膜に使用したターゲットの組成をKNN主成分の範囲内で変更しても同様の効果が得られたことを確認した。
【0110】
以上のように、圧電薄膜の表面状態を適正な状態に制御することにより圧電薄膜素子の高い信頼性に寄与できる。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】