(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態を列記して説明する。
本発明の実施形態に係る気密継手は、
(1) 加熱炉における炉心管の端部の開口部を塞ぐ気密継手であって、
前記炉心管の内周面と外周面とを挟み込み前記内周面側に溝が設けられた保持部を有する気密継手本体と、前記保持部の溝に嵌まり込んで前記内周面に接する第一Oリングを有し、
前記保持部の線膨張係数が前記炉心管の線膨張係数より大きく、
加熱により前記保持部が膨張することにより前記内周面に前記第一Oリングが押し付けられてシールさ
れ、
前記気密継手本体と前記炉心管の外周面との間に、第二Oリングと、該第二Oリングに隣接するスリーブと、を有し、
さらに、前記気密継手本体の外側に配置された締付部材を有し、
前記締付部材によって前記気密継手本体を締め付けることにより、前記炉心管の外周面と前記気密継手本体との間が前記第二Oリングによりシールされる。
上記(1)の気密継手は、加熱により炉心管が昇温する際、保持部の線膨張係数が炉心管の線膨張係数より大きいので、炉心管が外側に膨張するよりも保持部が外側に膨張する度合が大きい。これにより、炉心管の内周面に第一Oリングが押し付けられてシールされるので、炉心管と気密継手との気密を確実に保つことができる。
【0011】
また、上記(
1)の気密継手は、締付部材によって気密継手本体を締め付けることにより、炉心管の外周面と気密継手本体のとの間を第二Oリングによりシールすることができる。
【0012】
(
2) 前記気密継手本体の材質がPTFEであり、前記炉心管の材質が石英
またはアルミナである。
上記(
2)の気密継手は、気密継手本体の材質がPTFE(ポリテトラフルオロエチレンの略)であるので、耐熱性、耐腐食性に優れている。また、炉心管の材質が石英
またはアルミナであれば、小型のものから大型のものまで、サイズの範囲が広い炉心管を製造することができる。
【0013】
本発明の実施形態に係る気密継手を用いた加熱処理方法は、
(
3) 炉心管内に腐食性ガスを含むガスを流して熱処理を行う加熱炉において、上記(1)
または(2)の気密継手を使用する。
上記(
3)の加熱処理方法は、炉心管内に腐食性ガスを含むガスを流して熱処理を行う加熱炉において、炉心管が高温になった際にも、気密継手との間の気密を確実に保つことができる。
【0014】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る気密継手および気密継手を用いた加熱処理方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
図1は、本実施形態に係る気密継手1を使用した加熱炉10の一例を示す概略構成図である。
図2は、
図1の加熱炉10の炉心管2に接続した状態の、本実施形態に係る気密継手1の断面図である。
図1に例示した、気密継手1を使用した加熱炉10は、炉心管2を回転させて内部の加熱対象物を攪拌しつつ加熱する外熱式回転炉(例えば、ロータリーキルン等)である。加熱炉10は、気密継手1、炉心管2、ヒーター3、ガス排気部4、ガス供給管5、ガス排出管6、回転機構部7、ロータリージョイント8a,8bなどを備えている。
【0016】
炉心管2は、加熱炉10内の水平方向に設置されており、炉心管2の外部には、炉心管2を囲むようにヒーター3が設置されている。この炉心管2は、例えば、アルミナ、石英、カーボンなどの材質で形成された筒体である。加熱炉10内のガスは、ガス排気部4より排気される。
【0017】
炉心管2の軸方向両端部には、気密継手1が設けられている。加熱炉10における気密継手1より軸方向内側には、それぞれ炉心管2の外周面に周設された回転機構部7が設けられている。回転機構部7は、モーター7aの回転を炉心管2に伝達する。
【0018】
一方の気密継手1には、ロータリージョイント8aを介して、ガス供給管5が接続されており、他方の気密継手1には、ロータリージョイント8bを介して、ガス排出管6が接続されている。ロータリージョイント8a,8bにより、ガス供給管5およびガス排出管6が回転しないようになっている。
【0019】
図2に示すように、気密継手1は、炉心管2の端部の開口部2aを塞いで気密を保つように取り付けられる継手である。この気密継手1には、炉心管2の端部の開口部2aを塞いで、炉心管2の端部の内周面と外周面とを挟み込むように、気密継手本体11が設けられている。
【0020】
気密継手本体11は、炉心管2の端部の内周面に対向する面11aに、
図2の例では2つの溝11bが設けられた保持部11cを有する。また、気密継手本体11は、保持部11cの溝11bに嵌まり込んで炉心管2の内周面に接する第一Oリング12を有する。この第一Oリング12の材質としては、例えば、フッ素ゴム等が用いられる。フッ素ゴムは、耐腐食性があり、価格が比較的安価である。
【0021】
気密継手本体11の少なくとも保持部11cは、その線膨張係数が炉心管2の線膨張係数より大きい材質で形成されている。例えば、保持部11cの材質としては、フッ素樹脂(例えば、PTFE、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、ETFE(エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体)など)が挙げられる。フッ素樹脂には、耐熱性と耐腐食性が良好であるので好ましい。上記フッ素樹脂のうちPTFEは、さらに加工性も良好である。なお、
図1に示す例では、保持部11cは気密継手本体11と一体的に設けられており、気密継手本体11の全体が保持部11cと同じ材質である。ただし、保持部11cは、気密継手本体11と別体で形成されていてもよい。
【0022】
上記のように、保持部11cの線膨張係数が炉心管2の線膨張係数より大きい。したがって、ヒーター3で炉心管2を加熱する際に、保持部11cの径方向の膨張量が炉心管2の膨張量よりも大きくなり、保持部11cの溝11bに嵌まり込んだ第一Oリング12が、炉心管2の内周面に押し付けられて潰れる。これにより、炉心管2の内周面と気密継手本体11との間の隙間を塞ぐようにシールすることができる。
【0023】
また、気密継手1は、気密継手本体11と炉心管2の外周面との間に、第二Oリング13と、第二Oリング13に隣接するスリーブ14とを備えている。
図2の例では、第二Oリング13とスリーブ14が交互に隣接して複数(3個ずつ)設けられている。第二Oリング13の材質としては、第一Oリング12と同様に、例えば、フッ素ゴム等が用いられる。
【0024】
さらに、気密継手1は、気密継手本体11の外周に嵌め込んで締め付ける締付部材として継手キャップ15を備えている。
図2に示すように、継手キャップ15を気密継手本体11の外周に嵌合させて、軸方向に押し込むことにより、第二Oリング13が押圧されて潰される。これにより、炉心管2の外周面と気密継手本体11との間の隙間を塞ぐようにシールすることができる。なお、継手キャップ15の内周と気密継手本体11の外周にネジ山を設けておき、螺合させるようにしてもよい。
【0025】
以下、本実施形態に係る気密継手1を使用する加熱処理方法について説明する。
まず、どちらか一方の気密継手1を炉心管2の端部から外して、炉心管2内に加熱処理を施す物質を入れて反応部9に載置する。
次に、室温の環境下において、外した気密継手1を炉心管2の端部の開口部2aを塞ぐように取り付けて、継手キャップ15を気密継手本体11の外周に嵌合させて押し込む。
【0026】
次に、反応部9に載置した物質に所定の化学反応を生起させるための腐食性ガスを含むガスをガス供給管5から所定の流量で供給する。炉心管2内部のガス圧を所定の値に保つように、上記化学反応で使用されたガスはガス排出管6から排出する。また、炉心管2内を上記化学反応に適した温度となるようにヒーター3で加熱するとともに、モーター7aを起動して、回転機構部7により炉心管2を回転させる。これにより、反応部9において所定の化学反応が進行する。
上記化学反応が終了した後、ガス供給管5からのガス供給を停止する。
【0027】
以上の本実施形態に係る気密継手1を使用する加熱処理方法では、炉心管2内に腐食性ガスを含むガスを流して熱処理を行う加熱炉10において、炉心管2が高温になった際に、炉心管2が外側に膨張するよりも保持部11cが外側に膨張する度合が大きい。これにより、炉心管2の内周面に第一Oリング12が押し付けられてシールされるので、炉心管2と気密継手1との気密を確実に保つことができる。
【0028】
(実施例)
以下、加熱炉10において、実施例の気密継手を使用した場合と比較例の気密継手を使用した場合における、加熱処理時における炉心管2と気密継手との間の気密性を比較した。
実施例の気密継手は、本実施形態の気密継手1である。
比較例の気密継手は、本実施形態の気密継手1とは、保持部11cおよび第一Oリング(気密継手1の内側の気密保持構造)が無い点のみが異なる構造の気密継手である。
【0029】
実施例および比較例に用いる炉心管は、材質がアルミナ(Al
2O
3)であるものと、材質が石英であるものをそれぞれ用意した。さらに、各材質の炉心管は、外径が異なる3種類の炉心管(外径がφ145mm、φ40mm、φ30mm)をそれぞれ用意した。アルミナ(Al
2O
3)の線膨張係数は7.2×10
−6であり、石英の線膨張係数は5.5×10
−7である。なお、今回の測定では、カーボン製の炉心管は使用しなかったが、カーボンの線膨張係数は2×10
−6である。
【0030】
また、実施例および比較例の気密継手はPTFEを材質とするものを用い、実施例では、保持部11cと気密継手本体11とが一体的に設けられているものを用いた(すなわち、保持部11cの材質はPTFEである)。なお、PTFEの線膨張係数は10×10
−5である。
【0031】
つまり、上記のように6種類の炉心管を用意し、各炉心管に実施例或いは比較例の気密継手を取り付けて、前述の本実施形態の加熱処理方法に基づいて、加熱炉10を所定の加熱条件で加熱して、炉心管と気密継手の膨張量を測定し、気密性の測定として、炉心管と気密継手の間でガスのリークが発生したか否かを調べた。上記加熱条件は、加熱条件1:室温(20℃)から100℃に加熱した場合、
加熱条件2:室温(20℃)から200℃に加熱した場合の2種類とした。
以下、表1に炉心管の材質がアルミナ(Al
2O
3)の場合の測定結果を示し、表2に炉心管の材質が石英の場合の測定結果を示す。表1,表2における気密性の結果の表記は、リークが発生したと認められた場合は×、リークが発生したと認められなかった場合は○としている。
【0034】
表1および表2に示すように、炉心管の材質がアルミナ(Al
2O
3)の場合と炉心管の材質が石英の場合とでは、気密性の結果に違いはなかった。なお、今回の測定では、カーボン製の炉心管は使用しなかったが、カーボンの線膨張係数はアルミナ(Al
2O
3)と石英の間の値であるので、気密性の結果も同様であると考えられる。
実施例の気密継手1を使用した場合は、全ての場合において○となっており、リークが認められず気密が保たれた。
これに対して、比較例の気密継手を外径がφ145mmの炉心管に使用し、加熱条件1および加熱条件2においてリークの発生が認められた。また、比較例の気密継手を外径がφ40mmの炉心管に使用した場合、加熱条件2においてリークの発生が認められた。なお、比較例の気密継手を外径がφ30mmの炉心管に使用した場合は、加熱条件1および加熱条件2においてリークの発生は認められなかった。
【0035】
気密継手の線膨張係数が炉心管の線膨張係数よりも大きいため、加熱時に、炉心管の外径の膨張量よりも気密継手の内径の膨張量の方が大きくなり、この結果、炉心管の外周面と気密継手の内周面との間の隙間が大きくなる。
比較例では、炉心管の外周面と気密継手の内周面との隙間を塞ぐOリング(第二Oリング13)が、室温(20℃)の場合に、表3に示すつぶし量となっていれば、高温になって隙間が広がってもこのつぶし量の範囲内であれば隙間を塞ぐことができる。ところが、この隙間が上記つぶし量を超えると隙間を塞ぐことができなくなり、リークが生じてしまう。
【0037】
上記表3は、フッ素ゴム製の標準Oリングのつぶし量(JIS B2401)を示す表である。
比較例は、表1および表2の結果でリークが認められたケースにおいて、気密継手の内径の膨張量と炉心管の外径の膨張量の差が、Oリング(第二Oリング13)のつぶし量(表3の片側つぶし量)を超えており、炉心管の外周面と気密継手の内周面との間の隙間からリークが生じたと考えられる。
【0038】
これに対して、実施例は、保持部11cおよび第一Oリング12(気密継手1の内側の気密保持構造)を有するので、高温時の保持部11cの外径の膨張量が炉心管2の内径の膨張量よりも大きく、炉心管2の内周面に第一Oリング12が押し付けられてシールされる。これにより、炉心管2の外周面と気密継手1の内周面との間に例え隙間が生じたとしても、気密を保つことができる。
【0039】
なお、本発明の気密継手および気密継手を用いた加熱処理方法は、具体的には、例えば特開2014−80325号公報に記載されている、炭化ケイ素と塩素とを反応させる反応炉に対して適用することができる。
上記公報に記載されている反応炉では、炉内の温度を例えば1000℃以上1300℃以下となるように加熱して、塩素ガス(腐食性ガス)を含むガスを供給し、炉内の反応部に載置した炭化ケイ素と反応させている。上記反応部において、炭化ケイ素と塩素とが反応して、四塩化ケイ素(SiCl
4)及び多孔質炭素材料(C)が生成される。この反応は下記化学式(1)により示される。
SiC+2Cl
2→SiCl
4+C (1)
すなわち、上記公報に記載されている反応炉では、高温の反応部に腐食性ガス(塩素ガス)を含むガスを流すことから、継手部分の気密を確実に保つ必要があり、本発明の適用が好ましい。