特許第6578896号(P6578896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578896
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-219634(P2015-219634)
(22)【出願日】2015年11月9日
(65)【公開番号】特開2017-89477(P2017-89477A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 秀行
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐司
(72)【発明者】
【氏名】朝日 丈雄
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 弘之
(72)【発明者】
【氏名】榊原 徹
(72)【発明者】
【氏名】梶田 知宏
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0097122(US,A1)
【文献】 特表2009−515090(JP,A)
【文献】 特開2016−35291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
前記駆動側回転体の回転軸芯と同軸芯に配置され弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
前記従動側回転体を前記カムシャフトに連結するため前記回転軸芯と同軸芯に配置され、且つ、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に区画された進角室に連通する進角ポート、及び、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に区画された遅角室に連通する遅角ポートが外周面に形成された連結ボルトと、
前記連結ボルトの内部のスプール室に配置され、前記連結ボルトに形成されたポンプポートから前記進角ポート又は前記遅角ポートに対する作動流体の給排を制御するスプールとを備えると共に、
前記連結ボルトが、前記従動側回転体に連結するボルト本体と、このボルト本体に外嵌するスリーブと、を備えて構成され、
前記ポンプポートが、前記ボルト本体において前記スプール室と外周面とに亘る貫通孔として形成され、前記進角ポートと前記遅角ポートとが、前記ボルト本体と前記スリーブとに亘って形成される貫通孔として形成され、
前記カムシャフトの内部に対し流体圧ポンプからの作動流体が供給されるシャフト内空間が形成され、前記カムシャフトに連結する前記連結ボルトの前記スリーブの一方の端部が前記シャフト内空間に露出し、
前記スリーブの内周面と前記ボルト本体の外周面との何れか少なくとも一方で前記進角ポートと前記遅角ポートとを避ける領域に対し、前記シャフト内空間からの作動流体を前記ポンプポートに供給する導入流路が形成され、
前記ボルト本体に対する前記スリーブの前記回転軸芯に沿う方向で、前記従動側回転体の一部に当接する移動を許容しつつ、前記ボルト本体と前記スリーブの前記回転軸芯を中心とする回転姿勢を規制する規制機構を備えている弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記規制機構が、前記ボルト本体に形成された第1係合部と、前記スリーブに形成された第2係合部と、これらに係合する係合部材とを備えており、前記ボルト本体と前記スリーブとの前記回転軸芯に沿う方向での相対移動を許容する間隙が、前記第1係合部と前記係合部材との間、又は、前記第2係合部と前記係合部材との間に形成されている請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記第1係合部が、前記ボルト本体の外面に対して袋状の孔として形成されている請求項2に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項4】
前記スプールを突出付勢するスプリングの付勢力を受けるリテーナが前記スプール室に圧入固定されると共に、前記リテーナが圧入固定される位置から前記回転軸芯に沿う方向で外れた位置に前記第1係合部が配置されている請求項2又は3に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3には従動側回転体とカムシャフトとを連結する筒状のボルトを備え、進角室および遅角室に作動流体を供給する流路として回転軸芯の長手方向に沿う導入路が設けられた弁開閉時期制御装置が記載されている。
【0003】
これらの特許文献では、ボルトに回転軸芯に交差する方向に貫通する進角連通路及び遅角連通路が設けられ、作動流体を進角流路と遅角流路とに各別に流通するよう構成されている。これら進角連通路および遅角連通路は、導入路に対して回転軸芯の周方向に沿った異なる位置で、且つ、回転軸芯の長手方向に沿って異なる位置に設けられている。ボルトの内部には回転軸芯に沿って往復移動する制御弁体が設けられ、制御弁体の位置によって導入路からの作動流体が進角連通路又は遅角連通路に切り換えて供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−515090号公報
【特許文献2】US 2012/0097122 A1号公報
【特許文献3】DE 10 2008 057 491 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される弁開閉時期制御装置では、ボルト(バルブハウジング)との間に導入路(圧媒通路)を形成する筒状部材(スリーブ)が、ボルトの内側であってボルトと制御弁体(制御ピストン)との間に設けられている。
【0006】
このような構成のため、制御弁体の往復移動に伴って筒状部材が摩耗し易く、制御弁体と筒状部材との界面のシール性が低下して、制御弁体と筒状部材との界面から作動流体が漏れ出し易くなる。また、制御弁体と筒状部材との界面から作動流体が漏れ出す場合には、進角室あるいは遅角室への作動流体の供給速度が低下し、相対回転位相の制御応答性が悪化することもある。
【0007】
特許文献2に記載される弁開閉時期制御装置では、導入路を内部に形成した筒状部材がボルトの外側でボルトと従動側回転体との間に設けられている。
【0008】
この構成では、筒状部材には制御弁体の往復移動に伴う摩耗が生じず、シール性の低下による作動流体の漏れ出しが生じ難い。しかし、筒状部材の筒壁部に円環溝とその円環溝に連通する貫通孔の供給路とその円環溝に連通する進角または遅角路を設けているため筒状部材の製作が煩雑化する。
【0009】
特許文献3に記載される弁開閉時期制御装置では、導入路を内部に形成してある筒状部材がボルトの外側でボルトと従動側回転体との間に設けてられている。
【0010】
この構成では、筒状部材には制御弁体の往復移動に伴う摩耗が生じず、シール性の低下による作動流体の漏れ出しが生じ難い。ただし、従動側回転体をカムシャフトに締結する力が筒状部材に作用する構造となるため、筒状部材に変形を招きやすい。筒状部材が変形した場合には、制御弁体と筒状部材との界面から作動流体が漏れ出し、進角室或いは遅角室への作動流体の供給速度が低下し、相対回転位相の制御応答性が悪くなる。
【0011】
このような理由から、作動流体の漏れ出しを良好に抑制する弁開閉時期制御装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記駆動側回転体の回転軸芯と同軸芯に配置され弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記従動側回転体を前記カムシャフトに連結するため前記回転軸芯と同軸芯に配置され、且つ、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に区画された進角室に連通する進角ポート、及び、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に区画された遅角室に連通する遅角ポートが外周面に形成された連結ボルトと、前記連結ボルトの内部のスプール室に配置され、前記連結ボルトに形成されたポンプポートから前記進角ポート又は前記遅角ポートに対する作動流体の給排を制御するスプールとを備えると共に、
前記連結ボルトが、前記従動側回転体に連結するボルト本体と、このボルト本体に外嵌するスリーブと、を備えて構成され、
前記ポンプポートが、前記ボルト本体において前記スプール室と外周面とに亘る貫通孔として形成され、前記進角ポートと前記遅角ポートとが、前記ボルト本体と前記スリーブとに亘って形成される貫通孔として形成され、
前記カムシャフトの内部に対し流体圧ポンプからの作動流体が供給されるシャフト内空間が形成され、前記カムシャフトに連結する前記連結ボルトの前記スリーブの一方の端部が前記シャフト内空間に露出し、
前記スリーブの内周面と前記ボルト本体の外周面との何れか少なくとも一方で前記進角ポートと前記遅角ポートとを避ける領域に対し、前記シャフト内空間からの作動流体を前記ポンプポートに供給する導入流路が形成され、
前記ボルト本体に対する前記スリーブの前記回転軸芯に沿う方向で、前記従動側回転体の一部に当接する移動を許容しつつ、前記ボルト本体と前記スリーブの前記回転軸芯を中心とする回転姿勢を規制する規制機構を備えても良い。
【0013】
これによると、規制機構を備えたためボルト本体に対して回転軸芯を中心とする回転方向で導入流路の位置が決まり、ボルト本体に対するスリーブの回転軸芯に沿う方向での移動が許容される。この構成では、スリーブの一方の端部がシャフト内空間に露出しているため、シャフト内空間の流体圧をスリーブの一方の端部に作用させ、この流体圧によりスリーブを他方の端部側に移動させる。このようにスリーブを移動させるため、例えば、従動側回転体の一部としての連結ボルトのボルト頭部の裏面等に対してスリーブが当接するまで、流体圧の圧力によりスリーブを移動させて密着させ、シール材を用いずともスリーブの端面から作動流体が漏出する現象を抑制できる。特に、スリーブの内面に対し、スリーブの他方の端部側に達する溝状の導入流路が形成されたものでも、良好なシール性を実現する。
従って、作動流体のリークを良好に抑制する弁開閉時期制御装置が構成された。
【0014】
本発明は、前記規制機構が、前記ボルト本体に形成された第1係合部と、前記スリーブに形成された第2係合部と、これらに係合する係合部材とを備えており、前記ボルト本体と前記スリーブとの前記回転軸芯に沿う方向での相対移動を許容する間隙が、前記第1係合部と前記係合部材との間、又は、前記第2係合部と前記係合部材との間に形成されても良い。
【0015】
これによると、ボルト本体に形成された第1係合部と、スリーブに形成された第2係合部とに亘って、例えば、ピン状等の係合部材を係合させる構成により、ボルト本体とスリーブとの相対移動が許容され、ボルト本体とスリーブとの回転軸芯を中心とした回転姿勢を決めることも可能となる。
【0016】
本発明は、前記第1係合部が、前記ボルト本体の外面に対して袋状の孔として形成されても良い。
【0017】
例えば、第1係合部が貫通孔と形成されたものと比較すると、第1係合部が凹状に形成されることで、第1係合孔に対して係合部材を圧入した場合に、第1係合孔の内部の削り粉などが、ボルト本体に形成されるスプール室等の内部空間に漏れ出すことがない。
【0018】
本発明は、前記スプールを突出付勢するスプリングの付勢力を受けるリテーナが前記スプール室に圧入固定されると共に、前記リテーナが圧入固定される位置から前記回転軸芯に沿う方向で外れた位置に前記第1係合部が配置されても良い。
【0019】
これによると、リテーナが内部空間に圧入された際の圧力によりボルト本体の一部が変形することがあっても、第1係合部の変形を抑制でき、係合部材の係合位置を変化させることや、第1係合部に対して係合部材が係合不能となる不都合を招くこともない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】弁開閉時期制御装置に全体構成を示す断面図である。
図2図1におけるII−II線断面図である。
図3】中立ポジションにあるスプールを示す断面図である。
図4】進角ポジションにあるスプールを示す断面図である。
図5】遅角ポジションにあるスプールを示す断面図である。
図6】ボルト本体とスリーブを示す分解斜視図である。
図7】別実施形態(b)のボルト本体とスリーブを示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1図3に示すように、駆動側回転体としての外部ロータ20と、従動側回転体としての内部ロータ30と、作動流体としての作動油を制御する電磁制御弁40とを備えて弁開閉時期制御装置Aが構成されている。
【0022】
内部ロータ30(従動側回転体の一例)は、吸気カムシャフト5の回転軸芯Xと同軸芯に配置され、一体回転するように連結ボルト50により吸気カムシャフト5に螺合連結している。外部ロータ20(駆動側回転体の一例)は、回転軸芯Xと同軸芯上に配置され、内部ロータ30を内包することにより、内部ロータ30に対し相対回転自在に支持されている。この外部ロータ20は、内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト1と同期回転する。
【0023】
電磁制御弁40は、エンジンEに支持される電磁ソレノイド44を備えると共に、連結ボルト50のスプール室51Sに収容されたスプール41と、スプールスプリング42とを備えている。
【0024】
電磁ソレノイド44は、スプール41の外端部に当接するように回転軸芯Xと同軸芯に配置されるプランジャ44aを備えており、内部のソレノイドに供給する電力の制御により、プランジャ44aの突出量を設定してスプール41の操作位置を設定する。これにより作動油(作動流体の一例)を制御することにより外部ロータ20と内部ロータ30との相対回転位相を設定し、吸気バルブ5Vの開閉時期の制御を実現する。
【0025】
〔エンジンと弁開閉時期制御装置〕
図1のエンジンE(内燃機関の一例)は、乗用車などの車両に備えられるものを示しており、このエンジンEは、上部位置のシリンダブロック2のシリンダボアの内部にピストン3を収容し、このピストン3とクランクシャフト1とをコネクティングロッド4で連結した4サイクル型に構成されている。エンジンEの上部には、吸気バルブ5Vを開閉作動させる吸気カムシャフト5と、図示されない排気カムシャフトとを備えている。
【0026】
吸気カムシャフト5を回転自在に支持するエンジン構成部材10には、エンジンEで駆動される油圧ポンプP(流体圧ポンプの一例)からの作動油を供給する供給流路8が形成されている。油圧ポンプPは、エンジンEのオイルパンに貯留される潤滑油を、供給流路8を介して作動油(作動流体の一例)として電磁制御弁40に供給する。
【0027】
エンジンEのクランクシャフト1に形成した出力スプロケット6と、外部ロータ20のタイミングスプロケット22Sとに亘ってタイミングチェーン7が巻回されている。これにより外部ロータ20は、クランクシャフト1と同期回転する。尚、排気側の排気カムシャフトの前端にもスプロケットが備えられ、このスプロケットにもタイミングチェーン7が巻回されている。
【0028】
図2に示すように、クランクシャフト1からの駆動力により外部ロータ20が駆動回転方向Sに向けて回転する。内部ロータ30が外部ロータ20に対して駆動回転方向Sと同方向に相対回転する方向を進角方向Saと称し、この逆方向を遅角方向Sbと称する。この弁開閉時期制御装置Aでは、相対回転位相が進角方向Saに変位する際に変位量の増大に伴い吸気圧縮比を高め、相対回転位相が遅角方向Sbに変位する際に変位量の増大に伴い吸気圧縮比を低減するようにクランクシャフト1と吸気カムシャフト5との関係が設定されている。
【0029】
尚、この実施形態では、吸気カムシャフト5に弁開閉時期制御装置Aを備えているが、弁開閉時期制御装置Aを排気カムシャフトに備えることや、吸気カムシャフト5と排気カムシャフトとの双方に備えても良い。
【0030】
外部ロータ20は、外部ロータ本体21と、フロントプレート22と、リヤプレート23とを有しており、これらが複数の締結ボルト24の締結により一体化されている。フロントプレート22の外周にはタイミングスプロケット22Sが形成されている。また、フロントプレート22の内周には、環状部材9を配置しており、この環状部材9に対して連結ボルト50のボルト頭部52が圧着することにより、この環状部材9と、内部ロータ本体31と吸気バルブ5Vとが一体化する。
【0031】
〔ロータの構成〕
外部ロータ本体21には、径方向で内側に突出する複数の突出部21Tが一体的に形成されている。内部ロータ30は、外部ロータ本体21の突出部21Tに密接する円柱状の内部ロータ本体31と、外部ロータ本体21の内周面に接触するように内部ロータ本体31の外周から径方向の外方に突出する4つのベーン部32とを有している。
【0032】
これにより、外部ロータ20が内部ロータ30を内包し、回転方向で隣接する突出部21Tの中間位置で、内部ロータ本体31の外周側に複数の流体圧室Cが形成される。これらの流体圧室Cがベーン部32で仕切られ、進角室Caと遅角室Cbとが区画形成される。進角室Caに連通する進角流路33が内部ロータ30に形成され、遅角室Cbに連通する遅角流路34が内部ロータ30に形成されている。
【0033】
図1に示すように、外部ロータ20と内部ロータ30との相対回転位相(以下、相対回転位相と称する)を最遅角位相から進角方向Saに付勢力を作用させて進角方向Saへの変位をアシストするトーションスプリング28が、外部ロータ20と環状部材9とに亘って備えられている。
【0034】
また、外部ロータ20と内部ロータ30との相対回転位相を最遅角位相にロック(固定)するロック機構Lを備えている。このロック機構Lは、1つのベーン部32に対し回転軸芯Xに沿う方向に出退自在に支持されるロック部材26と、このロック部材26を突出付勢するロックスプリング(図示せず)と、リヤプレート23に形成したロック凹部(図示せず)とを備えて構成されている。尚、ロック機構Lは、径方向に沿って移動するようにガイドされるロック部材26を備えて構成しても良い。
【0035】
このロック機構Lは、相対回転位相が最遅角位相に達することにより、ロック部材26がロックスプリングの付勢力によりロック凹部に係合し、相対回転位相を最遅角位相に保持するように機能する。また、ロック凹部に進角流路33が連通しており、進角流路33に作動油が供給された場合に、作動油圧によりロック部材26をロック凹部から離脱させロック解除を行えるようにも構成されている。
【0036】
〔連結ボルト〕
図1図6に示すように、連結ボルト50は、一部が筒状となるボルト本体51と、このボルト本体51の筒状部に外嵌する円筒状のスリーブ55と、これらを位置決めする係合部材としての係合ピン57を有する規制機構Fとを備えている。
【0037】
吸気カムシャフト5には回転軸芯Xを中心にして雌ネジ部5Sが形成されると共に、スリーブ55が密嵌合するように雌ネジ部5Sより大径となるシャフト内空間5Tが形成されている。シャフト内空間5Tには、前述した供給流路8と連通しており、油圧ポンプPから作動油が供給される。
【0038】
ボルト本体51の外端部にはボルト頭部52が形成され、内端部に雄ネジ部53が形成されている。この構成から、ボルト本体51の雄ネジ部53を吸気カムシャフト5の雌ネジ部5Sに螺合させ、ボルト頭部52の回転操作により内部ロータ30が吸気カムシャフト5に締結される。この締結状態ではボルト本体51に外嵌するスリーブ55の外周の内端側(雄ネジ側)がシャフト内空間5Tの内周面に密接すると共に、スリーブ55の外端側(ボルト頭側)の外周面が内部ロータ本体31の内周面に密接する。
【0039】
ボルト本体51の内部には、ボルト頭部52から雄ネジ部53の方向に向けて孔状の内部空間が形成され、この内部空間にリテーナ54が圧入固定されることにより、内部空間がリテーナ54により分割され、スプール室51Sと、流体室としての作動油室51Tとが非連通状態で形成される。
【0040】
スプール室51Sは、シリンダ内面状に形成され、回転軸芯Xに沿って往復移動自在に前述したスプール41が収容され、このスプール41の内端とリテーナ54との間にスプールスプリング42が配置されている。これにより、スプール41は外端側(ボルト頭部52の方向)の方向に突出するように付勢される。
【0041】
ボルト本体51には、作動油室51T(流体室の一例)とシャフト内空間5Tとを連通させる複数の取得流路51mが形成されると共に、作動油室51Tとボルト本体51の外周面との間に複数の中間流路51nが形成されている。
【0042】
作動油室51Tのうち、取得流路51mから中間流路51nに作動油を送る流路にチェックバルブCVが備えられている。このチェックバルブCVは、ボールホルダ61と、チェックスプリング62と、チェックボール63とで構成されている。
【0043】
このチェックバルブCVでは、チェックスプリング62がリテーナ54とチェックボール63との間に配置され、チェックスプリング62の付勢力でチェックボール63をボールホルダ61の開口に圧接して流路を閉塞する。ボールホルダ61にはチェックボール63に向けて流れる作動油から塵埃を除去するオイルフィルタ64が設けられている。
【0044】
チェックバルブCVは、作動油室51Tに供給される作動油の圧力が所定値を超える場合にはチェックスプリング62の付勢力に抗して流路を開放し、圧力が所定値未満まで低下した場合にチェックスプリング62の付勢力により流路を閉塞する。この作動により、作動油の圧力低下時に進角室Ca又は遅角室Cbから作動油の逆流を阻止し、弁開閉時期制御装置Aの位相の変動が抑制される。また、チェックバルブCVは、このチェックバルブCVの下流側の圧力が所定値を超える場合にも閉塞する作動を行う。
【0045】
〔電磁制御弁〕
前述したように、電磁制御弁40は、スプール41とスプールスプリング42と電磁ソレノイド44とを備えている。
【0046】
ボルト本体51には、スプール室51Sとボルト本体51の外周面とを連通させる複数のポンプポート50Pが貫通孔として形成されている。また、連結ボルト50には、スプール室51Sとスリーブ55の外周面とを連通させる複数の進角ポート50Aと、複数の遅角ポート50Bとがボルト本体51とスリーブ55とに亘る貫通孔として形成されている。
【0047】
進角ポート50Aと、ポンプポート50Pと、遅角ポート50Bとは、この順序で連結ボルト50の外端側から内端側に配置されている。また、回転軸芯Xに沿う方向視において進角ポート50Aと、遅角ポート50Bとが互いに重複する位置に形成され、これらとは重複しない位置にポンプポート50Pが形成されている。
【0048】
スリーブ55の外周には、複数の進角ポート50Aが連通する環状溝が形成され、これに対して複数の進角流路33に連通している。これと同様に、スリーブ55の外周には、複数の遅角ポート50Bが連通する環状溝が形成され、これに対して複数の遅角流路34が連通している。更に、スリーブ55の内周面には、中間流路51nとポンプポート50Pとを連通させる導入流路56が溝状に形成されている。
【0049】
つまり、スリーブ55は、ボルト本体51のボルト頭部52から中間流路51nを覆う位置に達する寸法に成形され、導入流路56は、進角ポート50Aと遅角ポート50Bとを避ける領域に形成されている。
【0050】
また、ボルト本体51には回転軸芯Xに沿う方向でリテーナ54の圧入固定位置から外れた位置に袋状の孔として第1係合部51fが形成され、スリーブ55には、径方向に貫通する孔状の第2係合部55fが形成され、これらに係合する係合ピン57(係合部材の一例)を備えることにより規制機構Fが構成されている。尚、係合ピン57は第1係合部51fに圧入固定されている。
【0051】
特に、この規制機構Fでは、第2係合部55fが、回転軸芯Xに沿う方向を、これに直交する方向より大きくした長孔状に形成している。この構成からボルト本体51とスリーブ55との回転軸芯Xに沿う方向での相対移動を許容するための間隙が、第2係合部55fと係合ピン57との間に形成されている。
【0052】
つまり、ボルト本体51とスリーブ55との回転軸芯Xを中心とした相対回転姿勢を維持しつつ、ボルト本体51に対してスリーブ55が回転軸芯Xに沿う方向で、第2係合部55fと係合ピン57との間隙に対応した量だけ各々の移動可能に構成されている。これにより、作動油室51Tからスリーブ55の端部に作用する作動油の圧力により、スリーブ55の全体が外端側の方向に移動し、このスリーブ55の外端側の端部がボルト本体51のボルト頭部52(従動側回転体の一部)の裏面に当接するまで移動して密着し、この部位での作動油のリークを抑制できる。
【0053】
この規制機構Fを備えることにより、ボルト本体51とスリーブ55との回転軸芯Xを中心とした相対回転姿勢と、これらの回転軸芯Xに沿う方向での相対位置が決まる。従って、作動油室51Tの作動油を、取得流路51mと、チェックバルブCVと、中間流路51nと、導入流路56とを介してポンプポート50Pに供給する。
【0054】
規制機構Fは、この構成に限るものではなく、例えば、第1係合部51fを回転軸芯Xに沿う方向が長い長孔状に形成することや、係合ピン57のうち第2係合部55fに当接する領域だけ小径にすることにより、ボルト本体51に対してスリーブ55が回転軸芯Xに沿う方向で僅かに移動できるように構成しても良い。
【0055】
スプール41は、プランジャ44aが当接する当接面を外端側に形成し、回転軸芯Xに沿う方向での2箇所にランド部41Aを形成し、これらのランド部41Aの中間位置にグルーブ部41Bを形成している。このスプール41は中空に形成され、スプール41の突出端にはドレン孔41Dが形成されている。また、連結ボルト50の外端側の開口内周に備えたストッパー43に当接することにより、突出側の位置が決まる。
【0056】
電磁制御弁40は、プランジャ44aをスプール41の当接面に当接させ、突出量を制御することにより、図3図4図5に示すように、スプール41を中立ポジションと、遅角ポジションと、進角ポジションとに設定できるように構成されている。
【0057】
スプール41を図3に示す中立ポジションに設定することにより、スプール41の一対のランド部41Aにより進角ポート50Aと遅角ポート50Bとが同時に閉塞される。その結果、進角室Caと遅角室Cbとに対する作動油の給排は行われず、弁開閉時期制御装置Aの位相が維持される。
【0058】
また、電磁ソレノイド44の制御により、中立ポジションを基準にプランジャ44aを引退させ(外方に作動させ)ることによりスプール41が図4に示す進角ポジションに設定される。この進角ポジションでは、グルーブ部41Bを介してポンプポート50Pが進角ポート50Aに連通する。これと同時に遅角ポート50Bをスプール41の内端からスプール室51Sに連通させる。これにより、進角室Caに作動油が供給されると共に、遅角室Cbの作動油がスプール41の内部を流れ、ドレン孔41Dから排出される(同図には作動油の流れを矢印で示している)。その結果、吸気カムシャフト5の回転位相を進角方向Saに変位させる。尚、この進角ポジションは、スプール41がスプールスプリング42の付勢力によりストッパー43に当接する位置と一致する。
【0059】
尚、ロック機構Lがロック状態にある状況では、スプール41が進角ポジションに設定され、進角流路33に作動油が供給された場合には、作動油が進角流路33からロック機構Lのロック凹部に供給され、このロック凹部からロック部材26を離脱させロック機構Lのロック状態が解除される。
【0060】
また、電磁ソレノイド44の制御により、中立ポジションを基準にプランジャ44aを突出させ(内方に作動させ)ることによりスプール41が図5に示す遅角ポジションに設定される。この遅角ポジションでは、グルーブ部41Bを介してポンプポート50Pが遅角ポート50Bと連通する。これと同時に進角ポート50Aをドレン空間(スプール室51Sから外端側に連なる空間)に連通させる。これにより、遅角室Cbに作動油を供給すると同時に進角室Caから作動油を排出する(同図には作動油の流れを矢印で示している)。その結果、吸気カムシャフト5の回転位相を遅角方向Sbに変位させる。
【0061】
〔実施形態の作用・効果〕
このように弁開閉時期制御装置Aの電磁制御弁40が、連結ボルト50の内部にスプール41を備えているため、弁開閉時期制御装置Aの進角室Caと遅角室Cbに対する作動油の給排を、これら進角室Caと遅角室Cbとに近い位置から制御する形態となり、迅速な開閉時期の制御を迅速に行える。
【0062】
この構成では、スリーブ55の内周面に導入流路56を形成しているため、例えば、ボルト本体51にドリル加工により供給流路を形成する等の複雑で精度を要求される加工を行う必要がなく、組み立ても容易である。
【0063】
また、スリーブ55の内端がシャフト内空間5Tに露出する構成であるため、シャフト内空間5Tの作動油の圧力が、スリーブ55をボルト頭部52の方向に変位させる力として作用する。また、規制機構Fは、ボルト本体51に対して、スリーブ55が回転軸芯Xに沿う方向に僅かに相対移動できるように構成されている。これにより、作動油の圧力によりスリーブ55の突出側の端部をボルト頭部52の裏面に密着させることが可能となり、オイルシール等を用いなくともこの密着面のシール性を向上させる。
【0064】
特に、スリーブ55において導入流路56が外端側に達する構成であっても、作動油の圧力によりスリーブ55の端部をボルト頭部52の裏面に密着させることが可能であるため、スリーブ55の端部から作動油が漏れ出す不都合を抑制できる。
【0065】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0066】
(a)導入流路56を、ボルト本体51の外周面に形成する。または、導入流路56をスリーブ55の内周面とボルト本体51の外周面との双方に形成する。特に、導入流路56をスリーブ55の内周面とボルト本体51の外周面との双方に形成する構成では、充分な作動油の油量を得ることが可能となる。
【0067】
(b)図7に示すように、規制機構Fを、スリーブ55の内面に形成した突出片58と、この突出片58が係合するようにボルト本体51の外面に溝状に形成した係合溝51gとで構成する。この構成では、ボルト本体51に対してスリーブ55が回転軸芯Xを中心にして相対回転不能であるが、各々が回転軸芯Xに沿う方向に相対移動自在となる。
【0068】
この構成より、シャフト内空間5Tの作動油の圧力が、スリーブ55の内端側に作用するため、ボルト頭部52の方向に変位させ、スリーブ55の突出側の端部がボルト頭部52の裏面に密着させる。これにより、オイルシール等を用いなくともこの密着面のシール性を向上させる。
【0069】
(c)規制機構Fとして、スリーブ55に対し径方向に貫通する孔部に対してボルトを挿通し、ボルト本体51に螺合する構成を採用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、流体圧により弁開閉タイミングを設定する弁開閉時期制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 クランクシャフト
5 カムシャフト(吸気カムシャフト)
5T シャフト内空間
20 駆動側回転体(外部ロータ)
41 スプール
42 スプリング(スプールスプリング)
50 連結ボルト
50A 進角ポート
50B 遅角ポート
51 ボルト本体
51f 第1係合部
54 リテーナ
55 スリーブ
55f 第2係合部
56 導入流路
57 係合部材(係合ピン)
Ca 進角室
Cb 遅角室
E 内燃機関(エンジン)
F 規制機構
P 流体圧ポンプ(油圧ポンプ)
X 回転軸芯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7