特許第6578911号(P6578911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578911
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】イオン導電性固体電解質
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20190912BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20190912BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20190912BHJP
   C07F 9/40 20060101ALI20190912BHJP
   C07F 9/655 20060101ALI20190912BHJP
   H01G 11/56 20130101ALN20190912BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20190912BHJP
   H01M 8/1034 20160101ALN20190912BHJP
【FI】
   H01B1/06 A
   H01M10/0565
   H01M8/02
   C07F9/40 Z
   C07F9/655
   !H01G11/56
   !H01M8/10
   !H01M8/1034
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-234409(P2015-234409)
(22)【出願日】2015年12月1日
(65)【公開番号】特開2017-103071(P2017-103071A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】門田 敦志
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−276823(JP,A)
【文献】 特開2003−336069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
C07F 9/40
C07F 9/655
H01M 8/02
H01M 10/0565
H01G 11/56
H01M 8/10
H01M 8/1034
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)で示される化合物を含有することを特徴とするイオン導電性固体電解質。
【化1】
〔化学式(1)において、R1は、炭素数6〜20のアルキル基、アルコキシ基、CH−(C−O)−(式中、lは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基を示す。R2は、炭素数1〜20のアルキル基、−(O−C−CH(式中、mは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基を示す。Bは−O−(CH−又は−(CH−(式中、nは1〜20の整数を示す。)から選ばれる基を示す。Aは化学式(2)〜(5)から選ばれる基を示す。化学式(3)中のtは1または2の整数を示す。〕
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【請求項2】
前記R2が、−(O−C−CH(式中、mは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基であることを特徴とする請求項1に記載のイオン導電性固体電解質。
【請求項3】
さらにLi塩を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載のイオン導電性固体電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン導電性固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られているイオン導電性材料としては、無機材料を用いた無機固体電解質、有機高分子を用いた高分子固体電解質、水または非水溶媒を用いた液状電解質が挙げられる。
【0003】
また、固体と液体の中間的性質を有する液晶材料を用い、液晶材料が有する配向性等の特性を利用した固体電解質が提案されている(特許文献1参照)。固体電解質は形状が液体ではないので、部外への漏れがなく、耐熱性、信頼性、デバイスの小型化に対して液状電解質に比べ有利である。
【0004】
この液晶材料を用いた固体電解質は、電池などの蓄電デバイスへの応用が期待されているものの、現状ではまだ高温下においてイオン導電性が得られているにすぎない。実際の使用を考慮した場合には、より低温でイオン導電性を示す固体電解質が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−116770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、良好なイオン導電性を有するイオン導電性固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるイオン導電性固体電解質は、化学式(1)で示される化合物を含有することを特徴とする。
【化1】
〔化学式(1)において、R1は、炭素数6〜20のアルキル基、アルコキシ基、CH−(C−O)−(式中、lは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基を示す。R2は、炭素数1〜20のアルキル基、−(O−C−CH(式中、mは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基を示す。Bは−O−(CH−又は−(CH−(式中、nは1〜20の整数を示す。)から選ばれる基を示す。Aは化学式(2)〜(5)から選ばれる基を示す。化学式(3)中のtは1または2の整数を示す。〕
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【0008】
Liイオンの近傍にアルキル基やエチレンオキシドを有する基が存在することでそれら置換基へのLiイオンの溶解性が向上し、効果的にホスホン酸基からLiイオンが引き離されることで解離度が向上するものと推測される。その結果、特許文献に示された化合物に比べ、より低い温度での導電性発現が実現できるものと推測される。
【0009】
本発明にかかるイオン導電性固体電解質は、化学式(1)中のR2が、−(O−C−CH(式中、mは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基であることを特徴とする。
【0010】
エチレンオキシドの酸素原子はLiイオンと配位しやすく、そのため、より効果的にホスホン酸基からLiイオンが引き離されることで解離度が向上するものと推測される。
【0011】
本発明にかかるイオン導電性固体電解質は、さらにLi塩を含有することを特徴とする。
【0012】
イオン導電性の向上を図るには、全体に占めるイオン量を増やすことも重要である。そのため、さらにLi塩を含有することでLiイオン量を増やすことが可能となり、導電性が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好なイオン導電性を有するイオン導電性固体電解質を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明にかかるイオン導電性固体電解質は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明にかかるイオン導電性固体電解質は、化学式(1)で示される化合物を含む。
【0016】
【化6】
【0017】
式中のR1は、炭素数6〜20のアルキル基、アルコキシ基、CH−(C−O)−(式中、lは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基を示す。分岐状であっても直鎖状であっても良い。また、炭素数が6以上であればLiイオンを輸送するために必要な適度な分子運動を得ることが出来て好ましく、炭素数が20以下であれば、分子全体に占めるLiイオンの濃度を過度に下げることがないためより好ましい。
【0018】
式中のR2は、炭素数1〜20のアルキル基、−(O−C−CH(式中、mは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基を示す。分岐状であっても直鎖状であっても良い。また、炭素数が1以上であればLiイオンをホスホン酸基から効果的に解離させることが出来て好ましく、炭素数が20以下であれば、分子全体に占めるLiイオンの濃度を過度に下げることがないためより好ましい。
【0019】
式中のR2が、−(O−C−CH(式中、mは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基であるとさらに好ましい。エチレンオキシドの酸素原子はLiイオンと配位しやすく、そのため、より効果的にホスホン酸基からLiイオンが引き離されることで解離度が向上するものと推測される。
【0020】
式中のBは、−O−(CH−又は−(CH−(式中、nは1〜20の整数を示す。)から選ばれる基を示す。(CH)ユニットが1以上であればLiイオンを輸送するために必要な適度な分子運動を得ることが出来て好ましく、(CH)ユニットが20以下であれば、分子全体に占めるLiイオンの濃度を過度に下げることがないためより好ましい。
【0021】
式中のAは化学式(2)〜(5)から選ばれる基を示す。化学式(3)中のtは1または2の整数を示す。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0022】
化学式(2)から化学式(5)で示される基はいずれも平面性が高く、ベンゼン環あるいはCH=CH基のπ電子系により強い分子間力が生じる。そのため、分子が配向し、−P(=O)(OR)(OLi)基も配向するものと推測される。
【0023】
特許文献に示された化合物に比べ、より低い温度での導電性発現を実現するためには、Liイオンの解離度をさらに高める必要がある。スルホン酸基やホスホン酸基はカルボン酸基に比べて解離度の点で有利であるが、更なる改善のため化学式(1)の化合物のように、ホスホン酸モノエステル基を導入したところ、より低い温度での導電性発現を実現した。恐らく、Liイオンの近傍にアルキル基やエチレンオキシドを有する基が存在することでそれら置換基へのLiイオンの溶解性が向上し、効果的にホスホン酸基からLiイオンが引き離されることで解離度が向上するものと推測される。その結果、特許文献に示された化合物に比べ、より低い温度での導電性発現が実現できるものと推測される。
【0024】
本発明にかかるイオン導電性固体電解質は、上述した化合物以外に、Li塩を含んでいてもよい。イオン導電性の向上を図るには、全体に占めるイオン量を増やすことも重要である。そのため、さらにLi塩を含有することでLiイオン量を増やすことが可能となり、導電性が向上する。
【0025】
Li塩としては従来のイオン導電性固体電解質に用いられているものが使用可能であり、Li塩のアニオンとしては、Br、I、SCN、BF、PF、AsF、ClO、CFSO、N(CFSO、N(FSOなどが挙げられる。イオン導電性を向上させるには、Liとアニオンの解離度が高い方がより好ましく、その観点から、アニオンとしてはN(CFSOやN(FSOが好ましい。
【0026】
前記Li塩と、前記化学式(1)で示される化合物との混合モル比は、〔Li塩〕/〔化学式(1)で示される化合物〕=0.01〜2.0の範囲にあればよい。0.01以上だと所望のイオン導電率を得ることが出来て好ましい。2.0以下だと、固体電解質中に解離しきれない金属塩が残留することがなく好ましい。
【0027】
本発明にかかるイオン導電性固体電解質は、上述した化合物、Li塩以外に、ゲル化剤、ポリエチレンオキサイドなどのその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の含有率は、0.2モル%以下とすることが好ましい。
【0028】
本発明にかかるイオン導電性固体電解質は、リチウムイオン電池、燃料電池などの各種デバイスへの適用が可能である。これらデバイスでは、不揮発性のイオン導電性固体電解質が求められているが、本発明にかかるイオン導電性固体電解質は十分に要求特性を満たすことができる。
【0029】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
【実施例】
【0030】
以下に示す手順により、実施例1〜100および比較例1〜5のイオン導電性測定用サンプルを作製し、イオン導電性評価を行った。
【0031】
なお、実施例に用いた化合物について、表1〜4に示した。具体的には、化合物No.と、化学式(1)のR1、A、BおよびR2にそれぞれ該当する構造式を記載した。
【0032】
【化11】
〔化学式(1)において、R1は、炭素数6〜20のアルキル基、アルコキシ基、CH−(C−O)−(式中、lは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基を示す。R2は、炭素数1〜20のアルキル基、−(O−C−CH(式中、mは1〜9の整数を示す。)から選ばれる基を示す。Bは−O−(CH−又は−(CH−(式中、nは1〜20の整数を示す。)から選ばれる基を示す。Aは化学式(2)〜(5)から選ばれる基を示す。化学式(3)中のtは1または2の整数を示す。〕
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
化合物No.1およびNo.16の合成方法を合成例1および合成例2に示す。その他の化合物も同様の方法で合成した。
(合成例1)
【化12】
【0038】
(合成例2)
【化13】
【0039】
なお、比較例に用いた化合物は、特許文献1に記載の方法に準じて合成した。
【0040】
(実施例1)
まず、グローブボックス内でイオン導電性固体電解質の溶液を作製した。化合物No.1の化合物0.05gを2mlのアセトニトリルに溶解させた。
【0041】
次に、イオン導電性測定用のサンプルを作製した。櫛形ITO電極を備えた基板(電極:縦1cm、横1cm、ランド:10μm、スペース:10μm、EHC社製)に、縦1cm、横1cmの四角穴を設けた厚さ70μmのマスキングテ−プを、電極部分以外がマスキングされるように貼り、当該四角穴に、前記溶液を100μL滴下した。自然乾燥させてアセトニトリルを揮発させた後、マスキングテ−プを剥がし、80℃で12時間真空乾燥した。
【0042】
このように準備したイオン導電性測定用セルに対して、昇温させながら交流電圧を印加し、その時の電流値をモニターした。直流電圧ではなく交流電圧を印加したのは、電極界面でのイオンの焼き付きを防ぐためである。具体的には、任意波形ファンクションジェネレータ(AFG−2000、GW INSTEK社製)により、電圧6Vpp、方形波duty50、周波数1KHzの条件で交流電圧を印加し電流測定を行った。電流値が0.1mAを示した時の温度を「電流の立ち上がり温度(℃)」とし、最大到達電流値を「到達電流値(mA)」とした。その結果を表5に示す。
【0043】
(実施例2〜23)
化合物No.1の化合物をNo.2〜23の化合物にそれぞれ変更する以外は、実施例1と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表5に示す。
【0044】
(実施例24〜46)
化合物No.1の化合物をNo.24〜46の化合物にそれぞれ変更する以外は、実施例1と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表6に示す。
【0045】
(実施例47〜69)
化合物No.1の化合物をNo.47〜69の化合物にそれぞれ変更する以外は、実施例1と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表7に示す。
【0046】
(実施例70〜92)
化合物No.1の化合物をNo.70〜92の化合物にそれぞれ変更する以外は、実施例1と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表8に示す。
【0047】
(実施例93)
化合物No.1の化合物0.05gと等モルのLiN(CFSOを3mlのアセトニトリルに溶解させること以外は、実施例1と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表9に示す。
【0048】
(実施例94〜100)
化合物No.1の化合物をNo.24、47、70、23、46、69、92の化合物にそれぞれ変更する以外は、実施例93と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表9に示す。
【0049】
(比較例1)
化合物No.1の化合物を化学式(6)の化合物に変更する以外は、実施例1と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表10に示す。
【化14】
【0050】
(比較例2)
化合物No.1の化合物を化学式(7)の化合物に変更する以外は、実施例1と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表10に示す。
【化15】
【0051】
(比較例3)
化合物No.1の化合物を化学式(8)の化合物に変更する以外は、実施例1と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表10に示す。
【化16】
【0052】
(比較例4)
化合物No.1の化合物を化学式(9)の化合物に変更する以外は、実施例1と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表10に示す。
【化17】
【0053】
(比較例5)
化合物No.1の化合物を化学式(10)の化合物に変更する以外は、実施例1と同様にしてイオン導電性測定を行った。結果を表10に示す。
【化18】
【0054】
実施例1〜100と比較例1〜5との比較より、イオン導電性固体電解質が化学式(1)で示される化合物を含むことで、より低温でのイオン導電性と優れた電流値が確認された。
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
【表8】
【0059】
【表9】
【0060】
【表10】