(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カソードと、前記カソードに対向しない周縁部を備える、前記カソードより外径の大きなアノードと、前記カソードおよび前記アノードの間に介在するとともに、前記カソードに対向しない周縁部を備え、かつ、固体酸化物を含む電解質層と、を備える、平板状のセル構造体と、
前記カソードの周囲を囲むように配置された、前記カソードより外径の大きな枠状のシール部材と、
前記シール部材を挟持する第1押さえ部材および第2押さえ部材と、
前記カソードに隣接し、三次元網目状の骨格を有する金属多孔体からなる、平板状のカソード集電体と、を備え、
前記カソード集電体の周縁部は、前記アノードに接触せず、
前記シール部材の前記アノード側の主面の外縁部は、前記第1押さえ部材に接触し、
前記シール部材の前記アノード側の主面の内縁部は、前記電解質層の前記周縁部に接触し、
前記シール部材の前記アノード側の主面とは反対側の主面の外縁部は、前記カソード集電体の前記周縁部に接触するとともに、前記第2押さえ部材に対向し、
前記シール部材の前記アノード側の主面とは反対側の主面の内縁部は、前記カソード集電体の前記周縁部以外の胴体部に接触する、固体酸化物型燃料電池。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本発明の固体酸化物型燃料電池は、カソードと、前記カソードに対向しない周縁部を備える、前記カソードより外径の大きなアノードと、前記カソードおよび前記アノードの間に介在するとともに、前記カソードに対向しない周縁部を備え、かつ、固体酸化物を含む電解質層と、を備える、平板状のセル構造体と、前記カソードの周囲を囲むように配置された、前記カソードより外径の大きな枠状のシール部材と、前記シール部材を挟持する第1押さえ部材および第2押さえ部材と、前記カソードに隣接し、三次元網目状の骨格を有する金属多孔体からなる、平板状のカソード集電体と、を備える。前記カソード集電体の周縁部は、前記アノードに
接触せず、前記シール部材の前記アノード側の主面の外縁部は、前記第1押さえ部材に
接触し、前記シール部材の前記アノード側の主面の内縁部は、前記電解質層の前記周縁部に
接触し、前記シール部材の前記アノード側の主面とは反対側の主面の外縁部は、前記カソード集電体の前記周縁部
に接触するとともに、前記第2押さえ部材に対向し、前記シール部材の前記アノード側の主面とは反対側の主面の内縁部は、前記カソード集電体の前記周縁部以外の胴体部に
接触する。
【0014】
カソード集電体である金属多孔体は、塑性変形または弾性変形(以下、単に変形と称する)し易い。そのため、カソード集電体は、押さえ部材を介して外部から押圧されることにより、セル構造体の形状に追随して変形する。よって、セル構造体に反りがある場合であっても、セル構造体に負荷をかけることなく、セル構造体とカソード集電体とが密着される。さらに、シール部材は、変形し易いカソード集電体とともに、押さえ部材により挟持されている。そのため、セル構造体の反り量にかかわらず、シール部材は、アノード側の押さえ部材とカソード集電体とで、確実に押圧され、両者に密着する。これにより、集電性およびシール性が向上する。
【0015】
(2)前記カソード集電体を構成する前記金属多孔体の気孔率は、90%以上99%以下であることが好ましい。金属多孔体が、さらに変形し易くなるためである。
【0016】
(3)前記シール部材の外寸は、前記カソード集電体の外寸以上であることが好ましい。燃料または酸化剤が、電解質層を経由して他方の電極にリークする現象(クロスリーク現象)が抑制され易くなるためである。
【0017】
(4)前記固体酸化物は、プロトン伝導性を有することが好ましい。プロトン伝導性酸化物型燃料電池(Protonic Ceramic Fuel Cells、PCFC)は、例えば400〜600℃の中温域で稼働できる。そのため、金属多孔体の材料として、変形し易い金属種を用いることが可能となる。
【0018】
(5)前記固体酸化物は、ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
A
aB
bM
cO
3−δ
(ただし、元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、およびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、0.85≦a≦1、0.5≦b<1、c=1−b、δは酸素欠損量である)で表される金属酸化物を含んでいても良い。このような固体酸化物は、比較的強度の低い焼結体を形成するが、上記構造によれば、セル構造体を損傷することなく、シール性を向上させることができる。
【0019】
(6)前記金属多孔体は、変形しやすい点で、ニッケルと錫との合金を含むことが好ましい。(7)なかでも、変形のし易さおよび強度の観点から、合金に占める錫の割合は5〜30質量%であることが好ましい。
(8)前記シール部材の材料は、ステンレス鋼を含むことが好ましい。
【0020】
[発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態を具体的に以下に説明する。なお、本発明は、以下の内容に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
本実施形態に係る固体酸化物型燃料電池(以下、単に燃料電池と称する)を、
図1および2を参照しながら説明する。
図1は、燃料電池の一実施態様の要部を模式的に示す断面図である。
図2は、
図1における要部の構造を、拡大して示す断面図である。なお、燃料電池を構成するセル構造体、インターコネクタ、シール部材および集電体を、セル構造体の厚さ方向から見たときの外形(平面視したときの外形)は特に限定されず、円形、楕円形、矩形、多角形等であっても良い。
【0022】
(燃料電池)
燃料電池100は、セル構造体4と、燃料を通過させる燃料流路6と、酸化剤を通過させる酸化剤流路7と、燃料流路6と酸化剤流路7とを分離する枠状のシール部材8と、シール部材8を、直接的または間接的に挟持する一対の押さえ部材(第1押さえ部材20および第2押さえ部材30)と、を備える。酸化剤流路7には、マニホールド11から酸化剤が供給される。燃料流路6には、図示しないマニホールドから燃料が供給される。なお、
図1および2では、それぞれの流路の一部のみを図示している。
【0023】
燃料流路6は、燃料をアノード1に供給し、または、アノード1から未使用の燃料や反応により生成するN
2またはCO
2等を排出する。酸化剤流路7は、酸化剤をカソード3に供給し、または、反応で生成した水や未使用の酸化剤等をカソード3から排出する。また、燃料流路6は、アノード1と第1押さえ部材20との隙間6aと連通しており、酸化剤流路7は、カソード集電体5とスペーサ9との隙間7aと連通している。
【0024】
セル構造体4は、アノード1と、カソード3と、アノード1およびカソード3の間に介在し、固体酸化物を含む電解質層2と、を備える。アノード1およびカソード3の形状は、それぞれ平板状であり、セル構造体4も平板状の形状を有する。
【0025】
図1および
図2に示すセル構造体4は、いわゆるアノードサポート型である。そのため、
図2に示すように、アノード1の周縁部は、カソード3に対向しない第1張出部1aを形成している。なお、
図1および
図2において、アノード1の第1張出部1aと他の部分との境界を、破線L1で示す。
【0026】
電解質層2は、アノード1のカソード3に対向する主面のほぼ全面に配置されている。そのため、電解質層2の周縁部は、第1張出部1aに対向するが、カソード3に対向しない第2張出部2aを形成している。電解質層2の第2張出部2aと他の部分との境界は、アノード1の第1張出部1aと他の部分との境界と同様に、破線L1で示される。
【0027】
さらに、カソード3に隣接して、平板状のカソード集電体5が配置される。カソード集電体5には、三次元網目状の骨格を有する金属多孔体が用いられる。カソード集電体5は、セル構造体4に対して、セル構造体4の面方向に張り出す様に配置される。すなわち、カソード集電体5の主面の大きさを、アノード1の主面の大きさよりも十分に大きくする。これにより、カソード集電体5の周縁部は、アノード1に対向しない第3張出部5aを形成し、カソード集電体5の中央部は、アノード1に対向する胴体部5bを形成する。なお、
図2において、カソード集電体5の第3張出部5aと胴体部5bとの境界を、破線L2で示す。
【0028】
アノード1に隣接するように、アノード集電体12を配置しても良い。アノード集電体12の主面方向における大きさは、特に限定されない。例えば、アノード集電体12は、アノード1の主面と同じ大きさであっても良いし(平面視したとき、アノード1とアノード集電体12とがほぼ重なる)、アノード1の主面より小さくても良いし(平面視したとき、アノード1の周縁がアノード集電体12の周縁よりも外側に張り出している)、アノード1の主面より大きくても良い(平面視したとき、アノード集電体12の周縁がアノード1の周縁よりも外側に張り出している)。
【0029】
従来技術に係る燃料電池では、通常、集電体の主面方向の大きさは、電極(アノードおよびカソード)の主面方向の大きさより小さく設定される。集電体が主面方向において電極よりも大きい場合、燃料または酸化剤の流路の総距離が過剰に長くなり、圧力損失が大きくなるためである。
【0030】
一方、本実施形態では、アノードサポート型のセル構造体4において、カソード3に隣接するカソード集電体5の主面方向の大きさを、敢えてアノード1および電解質層2の主面方向の大きさより大きくすることにより、シール性を担保しようとするものである。なお、本実施形態では、カソード集電体5として、三次元網目状の骨格を有する金属多孔体を用いる。このような金属多孔体は、高い気孔率(例えば、90%以上99%以下)を有するため、カソード集電体5における圧力損失の増加を、燃料電池100の性能が著しく低下しない程度に抑えることができる。
【0031】
燃料流路6と酸化剤流路7とを分離するシール部材8は、アノード1に対向する主面が、第2張出部2aおよび第1押さえ部材20に対向するように配置される。つまり、シール部材8は、第2張出部2aおよびアノード1側の第1押さえ部材20の端面Sに跨って配置される。さらに、カソード集電体5は、シール部材8を覆うように配置される。
【0032】
これにより、シール部材8の外縁部8aの少なくとも一部は、第3張出部5aの少なくとも一部とともに、第1押さえ部材20および第2押さえ部材30により挟持される。この状態で、第1押さえ部材20および第2押さえ部材30が外部からセル構造体4の厚み方向に押圧されるため、シール性が向上する。よって、隙間6aあるいは隙間7aにおける、燃料と酸化剤との接触が防止される。なお、第3張出部5aは、第2押さえ部材30に直接、接触していても良いし、他の部材を介して、第2押さえ部材30に接触していても良い。
【0033】
一方、シール部材8の内縁部8bは、アノード側の主面が第2張出部2aに対向し、アノード側の主面とは反対側の主面がカソード集電体5における胴体部5bに対向する。この状態で、第1押さえ部材20および第2押さえ部材30が、外部からセル構造体4の厚み方向に押圧されると、第2張出部2aと胴体部5bとが、シール部材8の内縁部8bを介して密着される。これにより、クロスリーク現象が抑制される。なお、シール部材8の外縁部8aと内縁部8bとの境界は、破線L2である。
【0034】
図3に示すように、セル構造体4が反っている場合であっても、シール部材8は、第1押さえ部材20の端面Sと密着することができる。カソード集電体5は、三次元網目状の骨格を有する金属多孔体により形成されており、反ったセル構造体4の形状に追随して変形するためである。これにより、シール性が確保される。さらに、カソード3とカソード集電体5との導通も向上する。このとき、アノード集電体12を、カソード集電体5と同様に三次元網目状の骨格を有する金属多孔体により形成することにより、アノード1の形状に沿ってアノード集電体12が変形し、アノード1とアノード集電体12とが大きい面積で接触した状態が保持される。よって、アノード1とアノード集電体12との導通も向上する。
【0035】
(集電体)
本実施形態に係るカソード集電体5は、三次元網目状の骨格を有する金属多孔体である。アノード集電体12も、カソード集電体5と同様に、三次元網目状の骨格を有する金属多孔体であることが好ましい。このような金属多孔体は、例えば、不織布状の構造や、スポンジ状の構造を有する。このような構造は、空孔および金属製の骨格を有する。例えば、スポンジ状の構造を有する金属多孔体は、空孔および金属製の骨格を有する複数のセルにより構成される。
【0036】
上記セルの1つは、
図4に示すように、例えば、正十二面体として表わすことができる。空孔51は、繊維状または棒状の金属部分(繊維部52)により区画されており、複数が三次元的に連なっている。セルの骨格は、繊維部52が連結することにより形成される。セルには、繊維部52により囲まれた略五角形の開口(または窓)53が形成されている。隣接するセル同士は、1つの開口53を共有することにより、互いに連通している。すなわち、金属多孔体の骨格は、連続する複数の空孔51を区画しながら、網目状のネットワークを形成する繊維部52により形成される。このような構造を有する骨格を、三次元網目状の骨格という。なお、
図4は、金属多孔体の骨格の一部の構造の一例を示す模式図である。
【0037】
図5に示すように、繊維部52は、内部に空洞52aを有していても良く、つまり、中空であっても良い。中空の骨格を有する金属多孔体は、嵩高い三次元構造を有しながらも、極めて軽量である。
図5は、
図4における骨格の一部の断面を模式的に示す断面図である。
【0038】
このような金属多孔体は、例えば、連通孔を有する樹脂製の多孔体を、金属で被覆することにより形成できる。金属による被覆は、例えば、メッキ処理、気相法(蒸着、プラズマ化学気相蒸着、スパッタリング等)、金属ペーストの塗布等により行うことができる。金属による被覆処理により、三次元網目状の骨格が形成される。これらの被覆方法のうち、メッキ処理が好ましい。
【0039】
メッキ処理としては、樹脂製多孔体の表面(内部の空隙の表面も含む)に、金属層を形成できればよく、公知のメッキ処理方法、例えば、電解メッキ法、溶融塩メッキ法等が採用できる。メッキ処理により、樹脂製多孔体の形状に応じた、三次元網目状の金属多孔体が形成される。合金の被膜を形成する場合、それぞれの金属を個別にメッキ処理した後、還元性雰囲気中で熱処理することにより、各メッキ層の金属を拡散させて、合金層を形成しても良い。
【0040】
なお、電解メッキ法によりメッキ処理を行う場合、電解メッキに先立って、導電性層を形成することが望ましい。導電性層は、樹脂製多孔体の表面に、無電解メッキ、蒸着、スパッタリング等の他、導電剤の塗布等により形成してもよく、導電剤を含む分散液に樹脂製多孔体を浸漬することにより形成してもよい。
【0041】
樹脂製の多孔体としては、連通孔を有する限り特に制限されず、樹脂発泡体、樹脂製の不織布等が使用できる。なかでも、得られる金属多孔体に連通孔が形成され易い点で、樹脂発泡体が好ましい。これらの多孔体を構成する樹脂としては、金属被覆処理後に、金属の三次元網目状骨格の形状を維持した状態で、分解または溶解等により骨格の内部を中空にすることができるものが好ましい。例えば、熱硬化性ポリウレタン、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂;オレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂等が例示できる。なかでも、サイズや形状がより均一な空孔が形成されやすい観点から、熱硬化性ポリウレタン等を用いることが好ましい。
【0042】
骨格内の樹脂は、加熱処理等により、分解または溶解された後、洗浄等により除去されることが好ましい。樹脂は、必要に応じて、適宜電圧を印加しながら加熱処理を行うことにより除去してもよい。また、この加熱処理は、溶融塩メッキ浴に、メッキ処理した多孔体を浸漬した状態で、電圧を印加しながら行ってもよい。このようにして得られる金属多孔体は、樹脂製発泡体の形状に対応する三次元網目構造の骨格を有する。
【0043】
各集電体を構成する金属は、特に制限されない。このような金属としては、例えば、銅、銅合金(銅と、例えば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)等との合金)、NiまたはNi合金(Niと、例えば、錫(Sn)、クロム(Cr)、タングステン(W)等との合金)、アルミニウム(Al)またはAl合金(Alと、例えばFe、Ni、Si、Mn等との合金)、ステンレス鋼等が挙げられる。なお、市販の金属多孔体としては、住友電気工業株式会社製の銅またはニッケルの「セルメット」(登録商標)や「アルミセルメット」(登録商標)を用いることができる。
【0044】
なかでも、カソード集電体5は、変形し易い点で、NiとSnとの合金(Ni−Sn合金)を含むことが好ましい。合金に占めるSnの割合は特に限定されない。なかでも、変形性および強度保持の観点から、合金に占めるSnの割合は、5〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。Ni−Sn合金には、NiおよびSn以外の元素が含まれていても良いが、その含有量はできるだけ少ない(例えば、3質量%以下)ことが好ましい。Snが上記割合で含まれるNi−Sn合金は、耐食性の観点から、中温域で稼働されるPCFCに用いられることが好ましい。アノード集電体12としては、例えば、Niにより形成される金属多孔体を用いても良い。
【0045】
金属多孔体の比表面積(BET比表面積)は、例えば、100〜9000m
2/m
3であり、200〜6000m
2/m
3であることが好ましい。開口53の密度(セル密度)は、例えば、10〜100個/2.54cmであり、30〜80個/2.54cmであることが好ましい。なお、セル密度とは、金属多孔体の表面に長さ1インチ(=2.54cm)の直線を引いたとき、この直線上に存在する開口53の数である。繊維部52の幅Wfは特に限定されない。幅Wfは、例えば、3〜500μmであり、10〜500μmであることが好ましい。
【0046】
金属多孔体の気孔率は特に限定されない。なかでも、カソード集電体5として用いられる金属多孔体の気孔率は、圧力損失が小さく、変形しやすい点で、80体積%以上であることが好ましく、85体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることが特に好ましい。カソード集電体5の気孔率は、100体積%未満であり、99.5体積%以下であっても良く、99体積%以下であっても良い。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。なかでも、金属多孔体の気孔率は、90体積%以上99体積%以下であることが好ましい。気孔率(体積%)は、{1−(金属多孔体の見掛けの比重/金属の真の比重)}×100で求められる。
【0047】
カソード集電体5の厚みは、特に限定されない。なかでも、セル構造体の反りが吸収され易い点、および、圧力損失の観点から、カソード集電体5の厚みTは、0.1〜5mmであることが好ましく、1〜3mmであることがより好ましい。厚みTは、カソード集電体5の主面の法線方向の厚みを、任意の10箇所で測定したときの平均値である。アノード集電体12の厚みは特に限定されず、例えば、0.1〜5mmであれば良い。
【0048】
(シール部材)
シール部材8は、カソード3を取り囲み、所定の幅および厚みを有する枠状体である。シール部材8の材質は特に限定されないが、燃料電池の動作温度で耐熱性を有し、ガスバリア性に優れる点、および、適度に変形可能(ある程度、弾性変形あるいは塑性変形できる)である点から、ステンレス鋼が好ましい。
【0049】
シール部材8の大きさは、カソード3、第1押さえ部材20および第2押さえ部材30の大きさに応じて適宜設定すれば良い。シール部材8の内寸(内側の開口の大きさ)は、カソード3の全体がシール部材8の内側の開口に収まる程度の大きさであれば良い。なかでも、クロスリーク現象を抑制する観点から、シール部材8の内寸は、シール部材8が第2張出部2aの大部分(例えば、80%以上)に対向できるような大きさであることが好ましい。特に、第2張出部2a全体と、シール部材8とが対向することが好ましい。また、シール部材8の外寸は、シール部材8をカソード3を囲むように配置したとき、シール部材8の外縁部8aが、第1押さえ部材20の端面Sに対向できる程度の大きさであれば良い。シール性がさらに向上する点で、シール部材8の外寸は、カソード集電体5と同じか、これよりも大きいことが好ましい。シール部材8の厚みは、カソード3の厚みとほぼ同じになるように適宜設定すれば良い。
【0050】
(押さえ部材)
第1押さえ部材20および第2押さえ部材30は、少なくともシール部材8の一部を挟持できるものであれば、特に限定されない。第1押さえ部材20および第2押さえ部材30は、外部からセル構造体4の厚み方向に押圧されて、シール部材8と強く密着する。これにより、燃料流路6と酸化剤流路7とが分離される。
【0051】
第1押さえ部材20および第2押さえ部材30は、例えば、一対のインターコネクタであっても良いし、
図1に示すように、スペーサ21、絶縁部材22およびインターコネクタ23を備える第1押さえ部材20と、インターコネクタ31である第2押さえ部材30と、により構成されていても良い。絶縁部材22は、シール部材8とインターコネクタ23またはインターコネクタ31との間に介在させれば良く、
図1に示す位置に限定されるものではない。
図1の場合、インターコネクタ23およびインターコネクタ31を、外部からセル構造体4の厚み方向に押圧することにより、スペーサ21およびカソード集電体5がシール部材8に密着して、シール性が確保される。
【0052】
(スペーサ)
スペーサ(21、9)は、必要に応じて、インターコネクタ23とシール部材8との間や、カソード集電体5の周囲に配置される、枠状体である。その材質は特に限定されず、例えば、鉄−クロム(FeCr)合金等が挙げられる。スペーサは、シール部材8を挟持する押さえ部材の構成要素の一つとして使用されても良い。
【0053】
(絶縁部材)
絶縁部材22は、短絡を防止するために、インターコネクタ同士(23、31)の間に介在される、枠状体である。その材質は、絶縁性である限り特に限定されず、例えば、マイカ、酸化アルミニウム等が挙げられる。絶縁部材22として、枠状に成形された絶縁性材料を用いても良いし、絶縁性材料を含むコーティング材を、図示例の場合、スペーサ21あるいはインターコネクタ23の端面に塗布することにより形成されても良い。絶縁部材は、シール部材8を挟持する押さえ部材の構成要素の一つとして使用されても良い。
【0054】
(インターコネクタ)
インターコネクタ(23、31)は、セル構造体4の両側に配置され、集電体としての機能を備える。インターコネクタは、シール部材8を挟持する押さえ部材の構成要素の一つとして使用されても良い。
【0055】
図1に示すように、インターコネクタ(23、31)には、それぞれ燃料流路6および酸化剤流路7が形成されていても良い。この場合、両面にそれぞれ燃料流路6および酸化剤流路7が形成されたインターコネクタを用いて、積層された複数のセル構造体4同士を直列に接続させてもよい。また、インターコネクタ31に酸化剤流路7を形成せず、マニホールド11から直接、カソード集電体5に酸化剤を供給しても良い。カソード集電体5は、高い気孔率を有し、ガス拡散性に優れるため、ガス流路として機能する。同様に、インターコネクタ23に燃料流路6を形成せず、図示しないマニホールドから直接、アノード集電体12に燃料を供給しても良い。この場合、ガス拡散性の観点から、アノード集電体12として、カソード集電体5と同様の三次元網目状の骨格を有する金属多孔体を用いることが好ましい。
【0056】
インターコネクタ(23、31)の材料としては、導電性および耐熱性の点で、ステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金等の耐熱合金が例示できる。PCFCの場合、動作温度が400〜600℃程度であるため、安価なステンレス鋼をインターコネクタ(23、31)の材料として用いることができる。
【0057】
(セル構造体)
セル構造体4は、アノード1と、カソード3と、アノード1およびカソード3の間に介在し、固体酸化物を含む電解質層2と、を備える。アノード1とカソード3と電解質層2とは、例えば、焼結により一体化されている。
【0058】
(電解質層)
電解質層2は、イオン伝導性を有する固体酸化物を含む。電解質層2を移動するイオンとしては特に限定されず、酸化物イオンであっても良いし、水素イオン(プロトン)であっても良い。なかでも、電解質層2は、プロトン伝導性を有することが好ましい。プロトン伝導性の燃料電池(PCFC)は、例えば400〜600℃の中温域で稼働できる。そのため、PCFCは、多様な用途に使用可能である。
【0059】
酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物としては、例えば、カルシウム、スカンジウムおよびイットリウムよりなる群から選択される少なくとも1種がドープされた二酸化ジルコニウム(安定化ジルコニア)が挙げられる。なかでも、酸化物イオン伝導性とコストの点で、イットリア安定化ジルコニア(ZrO
2−Y
2O
3、YSZ)が好ましい。
【0060】
プロトン伝導性を有する固体酸化物としては、例えば、ABO
3で表わされるペロブスカイト型の結晶構造を有し、かつ、下記式(1):
A
aB
bM
cO
3−δ
(ただし、元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、およびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、0.85≦a≦1、0.5≦b<1、c=1−b、δは酸素欠損量である)で表される金属酸化物が挙げられる。
【0061】
このような金属酸化物としては、例えば、イットリウムがドープされたジルコン酸バリウム(BZY、BaZr
1−eY
eO
3−δ、0.05≦e≦0.25、δは酸素欠損量である)、イットリウムがドープされたセリウム酸バリウム(BCY、BaCe
1−fY
fO
3−δ、0.05≦f≦0.25、δは酸素欠損量である)、イットリウムがドープされたジルコン酸バリウム/セリウム酸バリウムの混合酸化物(BZCY、BaZr
1−g―hCe
gY
hO
3−δ、0<g<1、0.05≦h≦0.25、δは酸素欠損量である)等の金属酸化物が挙げられる。
【0062】
電解質層2として、比較的強度の低い焼結体が形成されるBZY、BCY、BZCYを含む場合であっても、カソード集電体5を用いることにより、セル構造体4を損傷することなく、シール性を向上させることができる。電解質層2の厚みは、特に限定されないが、5μm〜100μm程度であることが、抵抗が低く抑えられる点で好ましい。
【0063】
(カソード)
カソード3は、酸素分子を吸着し、解離させてイオン化することができる多孔質の構造を有している。カソード3の材料としては、例えば、燃料電池のカソードとして用いられる公知の材料を用いることができる。カソード3の材料は、例えば、ランタンを含み、ペロブスカイト構造を有する化合物である。具体的には、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF、La
1aS
aFe
1−bCo
bO
3−δ、0.2≦a≦0.8、0.1≦b≦0.9、δは酸素欠損量である)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM、La
1−cS
cMnO
3−δ、0.2≦c≦0.8、δは酸素欠損量である)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC、La
1−HRS
HRCoO
3−δ、0.2≦HR≦0.8、δは酸素欠損量である)等が挙げられる。
【0064】
カソード3は、ニッケル、鉄、コバルト等の触媒を含んでいても良い。触媒を含む場合、カソードは、触媒と上記材料とを混合して、焼結することにより形成することができる。また、カソード3の厚みは、特に限定されないが、5μm〜100μm程度であれば良い。
【0065】
(アノード)
アノード1は、イオン伝導性の多孔質構造を有している。例えば、プロトン伝導性を有するアノード1では、燃料流路6から導入される水素等の燃料を酸化して、プロトンと電子とを放出する反応(燃料の酸化反応)が行われる。アノード1の厚みは、例えば、10μm〜1000μm程度であれば良い。
【0066】
アノード1の材料としては、例えば、燃料電池のアノードとして用いられる公知の材料を用いることができる。具体的には、電解質層2に用いられる固体酸化物として例示した金属酸化物と、触媒成分である酸化ニッケル(NiO)と、の複合酸化物等が挙げられる。このような複合酸化物を含むアノード1は、例えば、NiO粉末と粉末状の上記金属酸化物等とを混合し、焼結することにより形成することができる。
【0067】
(セル構造体の製造方法)
セル構造体4の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、アノード用材料をプレス成形する工程と、得られたアノード成形体の片面に、固体酸化物を含む電解質用材料を積層し、焼結する工程と、焼結された電解質用材料の表面に、カソード用材料を積層し、焼結する工程と、を備える方法により、製造することができる。このようにして製造されたセル構造体4は、アノード1と電解質層2とカソード3とが一体化されている。
【0068】
電解質用材料を積層する工程は、例えば、電解質用材料の粉末と水溶性のバインダ樹脂とを混合したペーストを、アノード成形体の片面にスクリーン印刷、スプレー塗布、スピンコート、ディップコート等により付与することにより行われる。カソード用材料も同様にして、電解質の表面に積層することができる。
【0069】
電解質用材料の焼結は、アノード成形体と電解質用材料との積層体を、酸素雰囲気下で、例えば1300〜1500℃に加熱することにより行われる。焼結の雰囲気中の酸素含有量は、特に限定されず、50体積%以上であっても良いし、60体積%以上であっても良い。加熱温度は、1350〜1450℃であることが好ましい。焼結は、常圧下または加圧下で行うことができる。
【0070】
電解質用材料を積層する前に、アノード用材料を仮焼結しても良い。仮焼結は、アノード用材料が焼結される温度よりも低い温度(例えば、900〜1100℃)で行えばよい。仮焼結を行うことにより、電解質用材料が積層され易くなる。
【0071】
電解質用材料を焼結する前に、各材料に含まれるバインダ等の樹脂成分を除去しても良い。すなわち、カソード用材料を積層した後、大気中で500〜800℃程度の比較的低い温度に加熱して、各材料に含まれる樹脂成分を除去する。その後、酸素雰囲気下で、積層体を1300〜1500℃に加熱して、各材料を焼結させてもよい。
【0072】
カソード用材料の焼結は、電解質層が形成されたアノード成形体とカソード用材料との積層体を、酸素雰囲気下で、例えば800〜1100℃で焼結することにより行われる。焼結の雰囲気中の酸素含有量は、特に限定されず、例えば、上記範囲であれば良い。焼結は、常圧下または加圧下で行うことができる。
【0073】
ここで、上記のような三次元網目状の骨格を有する金属多孔体は、燃料電池以外に、水の電気分解(電解)による水素の製造にも好適に使用できる。水素の製造方式には、大きく分けて(1)アルカリ性水溶液を用いるアルカリ水電解方式、(2)PEM方式(polymer electrolyte membrane:高分子電解質膜方式)、(3)SOEC方式(Solid Oxide Electrolysis Cell:固体酸化物形電解セル方式)があり、いずれの方式にも、上記金属多孔体を用いることができる。
【0074】
(1)アルカリ水電解方式では、アルカリ性水溶液(好ましくは強アルカリ性水溶液)に陽極および陰極を浸漬し、陽極と陰極との間に電圧を印加することにより、水を電気分解する方式である。この場合、少なくとも陽極として上記金属多孔体を使用する。すなわち、アルカリ水電解方式を用いる水素製造装置は、アルカリ性水溶液を収容する電解槽と、電解槽に浸漬される陽極および陰極と、陽極と陰極との間に電圧を印加する電源と、を備え、陽極および陰極の少なくとも一方が三次元網目状の骨格を有する金属多孔体を含む。この水素製造装置において、陽極では、水酸化イオンが酸化されて、酸素と水が生成される。陰極では、水素イオンが還元されて、水素が発生する。上記金属多孔体は表面積が大きいため、各イオンと金属多孔体との接触面積が大きく、水の電解効率が向上する。また、上記金属多孔体は良好な電気伝導性を備えているため、水の電気分解の効率はより向上する。さらに、上記金属多孔体は気孔率が高いため、発生した水素および酸素が速やかに脱離できる。この点においても、水の電解効率の向上が期待できる。
【0075】
上記金属多孔体を構成する金属は特に限定されず、上記の各集電体を構成する金属として例示したものと同じ金属を例示することができる。なかでも、安価であり、水素発生反応に対して良好な触媒能を有している点で、陰極に用いられる上記金属多孔体は、NiまたはNi合金を含むことが好ましい。触媒活性の点で、陽極に用いられる上記金属多孔体は、プラチナを含むことが好ましい。
【0076】
上記金属多孔体の孔径は、100μm以上、5000μm以下が好ましい。上記金属多孔体の孔径が上記範囲であれば、各電極で発生した水素または酸素が速やかに脱離できるため、電解効率がさらに向上するとともに、各電極と水素イオンまたは水酸化イオンとの十分な接触面積が確保できる。同様の観点から、上記金属多孔体の孔径は400μm以上、4000μm以下が好ましい。なお、気泡の脱離性と接触面積の確保とを両立するために、異なる孔径を持つ複数の上記金属多孔体を組み合わせて、各電極として使用してもよい。さらに、他の金属製の多孔体を上記金属多孔体と組み合わせて用いてもよい。上記金属多孔体の厚さおよび単位面積当たりの質量(金属量)は、製造装置の規模によって適宜設定すればよい。例えば、撓み等が生じないように、各電極の主面の面積に応じて、厚さや単位面積当たりの質量等を設定すればよい。
【0077】
発生した水素と酸素との混合を防止するために、陽極と陰極との間にセパレータを配置することが好ましい。セパレータの材質は特に限定されず、湿潤性、イオン透過性、耐アルカリ性、非導電性、非通気性、熱安定性等を有していればよい。このようなセパレータの材質としては、チタン酸カリウムが含浸されたフッ素樹脂、ポリアンチモン酸、ポリスルホン、親水化ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。陽極と陰極とセパレータとからなる複数のセルをスタックして用いる場合、短絡防止の観点から、セル同士の間にも上記したようなセパレータを配置することが好ましい。
【0078】
アルカリ性水溶液の溶質も特に限定されず、例えば、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム)あるいはアルカリ土類金属(カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)の水酸化物等が挙げられる。なかでも、強アルカリ性の水溶液が得られる点で、アルカリ金属の水酸化物(特に、NaOH、KOH)が好ましい。アルカリ性水溶液の濃度も特に限定されず、電解効率の観点から、20〜40質量%であればよい。動作温度は、例えば60〜90℃程度であり、電流密度は、例えば0.1〜0.3A/cm
2程度である。
【0079】
(2)PEM方式は、高分子電解質膜を用いて水を電気分解する方法である。具体的には、PEM方式では、高分子電解質膜の両面に陽極と陰極とをそれぞれ配置し、陽極に水を導入するとともに、陽極と陰極との間に電圧を印加することにより、水を電気分解する。この場合、少なくとも陽極として、上記金属多孔体を用いる。すなわち、PEM方式を用いる水素製造装置(PEM式水素製造装置)は、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に介在する高分子電解質膜と、陽極と陰極との間に電圧を印加する電源と、を備え、少なくとも陽極が三次元網目状の骨格を有する金属多孔体を含む。PEM方式では、高分子電解質膜によって陽極側と陰極側とが完全に分離されているため、(1)のアルカリ電解方式と比較して、純度の高い水素を取り出せる利点がある。また、上記金属多孔体は、表面積が大きく良好な電気伝導性を備えている。そのため、上記金属多孔体は、PEM式水素製造装置の陽極として、好適に使用できる。
【0080】
ここで、PEM式水素製造装置により発生したプロトンは、高分子電解質膜を通して陰極へと移動し、陰極側で水素として取り出される。つまり、PEM式水素製造装置は、水素および酸素を反応させて発電し、水を排出する固体高分子型燃料電池とは、全く反対の反応を利用するものでありながら、同様の構成を有している。PEM式水素製造装置の動作温度は100℃程度である。高分子電解質膜としては、体高分子型燃料電池あるいはPEM式水素製造装置に従来使用されている、パーフルオロスルホン酸ポリマー等のプロトン伝導性の高分子が使用できる。なお、発生した水素が速やかに脱離できる点で、陰極もまた、上記金属多孔体を含むことが好ましい。
【0081】
上記金属多孔体を構成する金属は特に限定されず、上記の各集電体を構成する金属として例示したものと同じ金属を例示することができる。なかでも、安価であり、水素発生反応に対して良好な触媒能を有している点で、陽極に用いられる上記金属多孔体は、NiまたはNi合金を含むことが好ましい。触媒活性の点で、陰極に用いられる上記金属多孔体は、ロジウムを含むことが好ましい。
【0082】
上記金属多孔体の孔径は、100μm以上、5000μm以下が好ましい。上記金属多孔体の孔径が上記範囲であれば、各電極で発生した水素または酸素が速やかに脱離できるため、電解効率がさらに向上するとともに、保水性が高まる。特に陽極の保水性が小さいと、水が陽極と十分に反応する前に通り抜けてしまうため、電解効率が低下し易くなる。同様の観点から、上記金属多孔体の孔径は400μm以上、4000μm以下が好ましい。なお、気泡の脱離性、保水性および電気的接続を考慮して、異なる孔径を持つ複数の上記金属多孔体を組み合わせて、各電極として使用してもよい。さらに、他の金属製の多孔体を上記金属多孔体と組み合わせて用いてもよい。
【0083】
上記金属多孔体の厚さおよび単位面積当たりの質量は、製造装置の規模によって適宜設定すればよい。なかでも、上記金属多孔体の気孔率が30%以上となるように、厚さと単位面積当たりの質量とを調整することが好ましい。上記金属多孔体の気孔率が30%より小さくなると、上記金属多孔体の内部に水を流す際の圧力損失が大きくなるためである。また、本方式において、高分子電解質膜と各電極とは、圧着されることにより導通する。そのため、両者を圧着する際の各電極の変形およびクリープによる電気抵抗増加が実用上問題ない範囲になるように、単位面積当たりの質量を調節することが好ましい。上記金属多孔体の単位面積当たりの質量としては400g/m
2以上が好ましい。
【0084】
(3)SOEC方式(水蒸気電解方式ともいう)は、固体酸化物電解質膜を用いて水蒸気を電気分解する方法である。具体的には、SOEC方式では、固体酸化物電解質膜の両面に陽極と陰極とをそれぞれ配置し、いずれかの電極に水蒸気を導入しながら、陽極と陰極との間に電圧を印加することにより、水を電気分解する。
【0085】
SOEC方式では、固体酸化物電解質膜がプロトン伝導性であるか酸化物イオン伝導性であるかによって、水蒸気を導入する電極が異なる。固体酸化物電解質膜が酸化物イオン伝導性である場合、水蒸気は陰極に導入される。水蒸気は陰極で電気分解されて、プロトンおよび酸化物イオンを生成する。生成したプロトンは、そのまま陰極で還元されて水素として取り出される。酸化物イオンは固体酸化物電解質膜を通過して陽極へと移動した後、陽極で酸化されて、酸素として取り出される。一方、固体酸化物電解質膜がプロトン伝導性である場合、水蒸気は陽極に導入される。水蒸気は陽極で電気分解されて、プロトンおよび酸化物イオンが生成される。生成したプロトンは固体酸化物電解質膜を通って陰極へと移動した後、陰極で還元されて水素として取り出される。酸化物イオンは、そのまま陽極で酸化されて、酸素として取り出される。
【0086】
SOEC方式では、水蒸気が導入される電極として、上記金属多孔体を用いる。すなわち、SOEC方式を用いる水電解装置(SOEC式水素製造装置)は、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に介在する固体酸化物電解質膜と、陽極と陰極との間に電圧を印加する電源と、を備え、少なくとも水蒸気が導入される電極が三次元網目状の骨格を有する金属多孔体を含む。上記金属多孔体は表面積が大きいため、水蒸気と電極との接触面積も大きくなり、水の電解効率が向上する。さらに、上記金属多孔体は良好な電気伝導性を備えているため、水蒸気の電解効率はより向上する。
【0087】
高純度の水素が得られ易い点で、固体酸化物電解質膜はプロトン伝導性であることが好ましい。固体酸化物電解質膜がプロトン伝導性である場合、水蒸気が導入される電極と水素が取り出される電極とが異なるためである。この場合、上記金属多孔体は、陽極に用いられる。なお、発生した水素が速やかに脱離できる点で、上記の場合、陰極もまた上記金属多孔体を含むことが好ましい。
【0088】
SOEC式水素製造装置と、水素および酸素を反応させて発電し、水を排出する固体酸化物型燃料電池とは、全く反対の反応を利用するものでありながら、同様の構成を有している。SOEC式水素製造装置の動作温度は600℃〜800℃程度であり、陽極では酸素が発生する。そのため、陽極は高温の酸化雰囲気に置かれる。上記金属多孔体は、高い耐酸化性および耐熱性を備えているため、SOEC式水素製造装置の特に陽極として好適に使用できる。
【0089】
上記金属多孔体を構成する金属は特に限定されず、上記の各集電体を構成する金属として例示したものと同じ金属を例示することができる。なかでも、酸化雰囲気となる陽極は、クロム(Cr)などの高い耐酸化性を有する金属を、3〜30質量%含有するNi合金を含む上記金属多孔体を用いることが好ましい。電気抵抗の点で、陰極に用いられる上記金属多孔体は、Snを含むことが好ましい。
【0090】
上記金属多孔体の孔径は、100μm以上、5000μm以下が好ましい。上記金属多孔体の孔径が上記範囲であれば、水蒸気の圧力損失が適切な範囲になって、電解効率が高まる。また、上記金属多孔体を陰極に用いた場合、発生した水素も速やかに脱離することができる。同様の観点から、上記金属多孔体の孔径は400μm以上、4000μm以下が好ましい。なお、気泡の脱離性、水蒸気の通気性および電気的接続を考慮して、異なる孔径を持つ複数の上記金属多孔体を組み合わせて、各電極として使用してもよい。さらに、他の金属製の多孔体を上記金属多孔体と組み合わせて用いてもよい。
【0091】
上記金属多孔体の厚さおよび単位面積当たりの質量は、水素製造装置の規模によって適宜設定すればよい。なかでも、上記金属多孔体の気孔率が30%以上となるように、厚さと単位面積当たりの質量とを調整することが好ましい。上記金属多孔体の気孔率が30%より小さくなると、上記金属多孔体の内部に水を流す際の圧力損失が大きくなるためである。また、本方式において、固体酸化物電解質膜と各電極とは、圧着されることにより導通する。そのため、両者を圧着する際の各電極の変形およびクリープによる電気抵抗増加が実用上問題ない範囲になるように、単位面積当たりの質量を調節することが好ましい。上記金属多孔体の単位面積当たりの質量としては400g/m
2以上が好ましい。
【0092】
図6に、プロトン伝導性の固体酸化物電解質膜を用いたSOEC式水素製造装置200の要部の断面図を模式的に示す。なお、
図6では、電源を省略している。水素製造装置200は、固体酸化物電解質膜202を含む構造体204と、構造体204の各主面にそれぞれ対向する電極205および212と、電極205および212の構造体204とは反対側の主面にそれぞれ対向する板状部材231および223と、図示しない電源とを備える。
【0093】
電極205および212はいずれも、上記したような三次元網目状の骨格を有する金属多孔体である。板状部材231および223は、水蒸気および酸素と水素とが混合しないように配置されたインターコネクタであり、それぞれガス流路207および206を備えている。水蒸気Vは、板状部材223のガス流路206から電極212に導入される。発生した水素はガス流路207から排出される。すなわち、電極212は陽極であり、電極205は陰極である。
【0094】
SOEC式水素製造装置200は、電源を備える以外、
図1に示す燃料電池100と同様の構成を有している。すなわち、構造体204は、プロトン伝導性を有する固体酸化物を含む固体酸化物電解質膜202と、その各主面に対向するように配置された多孔質層201および203とを備える。固体酸化物電解質膜202は、電解質層2として例示したのと同じプロトン伝導性を有する固体酸化物を含む。多孔質層201および203は、固体酸化物電解質膜202をサポートしている。さらに、多孔質層201は多孔質層203よりも大きな外径を備えており、多孔質層201は構造体204全体をサポートする。
【0095】
陽極(電極212)側に配置された多孔質層201は、アノード1と同様、上記固体酸化物と触媒成分である酸化ニッケル(NiO)との複合酸化物により形成されている。そのため、電解効率がさらに高まる。多孔質層203は、例えば、カソード3で例示したのと同じ化合物により形成される。
【0096】
ガス流路206と207とは、シール部材208によって分離されている。シール部材208は、スペーサ221と絶縁部材222と板状部材223とを含む押さえ部材220と電極205とにより挟持されている。これにより、シール性が向上する。このとき、電極205は、カソード集電体5において例示したNi−Sn合金を含むことが好ましい。
【0097】
板状部材223および231の構成は、
図1に示すインターコネクタ23および31にそれぞれ対応しており、スペーサ209の構成は、
図1に示すスペーサ9に対応している。その他、
図6に示された構成部材の構成は、それぞれ
図1に対応する箇所の構成部材に対応している。
【0098】
次に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
[実施例1]
以下の手順で、燃料電池を作製した。
(1)セル構造体の作製
まず、下記の手順でセル構造体を作製した。
BCY(BaCe
0.8Y
0.2O
2.9)に、Ni(触媒成分)を70体積%含むようにNiOを混合し、ボールミルによって粉砕混練した。次いで、プレス成形により、アノードを構成する円形の成形体(厚さ約600μm)を形成し、1000℃で仮焼結した。続いて、上記成形体の一方の面に、BCYと水溶性バインダ樹脂(エチルセルロース)とを混合したペーストをスクリーン印刷によって塗布した後、750℃で水溶性バインダ樹脂を除去した。次いで、1400℃で加熱処理することにより共焼結し、円形のアノードと固体酸化物層(厚さ30μm、直径100mm)との積層体を形成した。
【0099】
続いて、固体酸化物層の表面に、カソードの材料であるLSCF(La
0.6HR
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3−δ)の粉末と上記有機溶媒とを混合したLSCFペーストをスクリーン印刷し、1000℃で2時間の焼成を行うことにより、セル構造体A(厚さ650μm)を作製した。カソードの厚みは50μmであり、直径は90mmであった。得られたセル構造体Aの反り量は、0.85mmであった。なお、反り量は、セル構造体を、水平面にセル構造体の凸部が上になるようにして載置し、水平面と凸部の最も高い地点との最短距離として求めた。
【0100】
(2)カソード集電体の準備
住友電気工業株式会社製のセルメット(登録商標)の品番#8(気孔率:95%)に相当し、Ni−Sn合金(Sn含有量:10質量%)により形成された、円形の金属多孔体(単位当たりの質量:700g/m
2、厚さ1.5mm、外寸127mm)を準備した。
【0101】
(3)シール部材の準備
外寸127mm、内寸96mm、厚さ50μmのフェライト系ステンレス鋼からなる円形リングを準備した。
【0102】
(4)燃料電池の作製
上記で得られたセル構造体A、カソード集電体およびシール部材と、アノード集電体(住友電気工業株式会社製のニッケルのセルメット(登録商標)、品番♯8、厚さ1.4mm、気孔率:95%)と、ガス流路を備えるステンレス鋼製の一対のインターコネクタと、スペーサ(材質:FeCr合金)と、絶縁部材(マイカ)とを用いて、
図1に示す燃料電池Aを製作した。このようにして得られた燃料電池Aをアノード側を下にして静置し、カソード側から40kPaの荷重をかけた状態で、開回路電圧(OCV)を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
[実施例2]
反り量が0.78mmであるセル構造体Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、燃料電池Bを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0104】
[実施例3]
反り量が0.83mmであるセル構造体Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、燃料電池Cを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0105】
[実施例4]
反り量が0.75mmであるセル構造体Dを用いたこと、および、Sn含有量が30質量%であるNi−Sn合金からなるカソード集電体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、燃料電池Dを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0106】
[比較例1]
反り量が0.88mmであるセル構造体aを用いたこと、カソード側のスペーサおよびカソード集電体を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、燃料電池aを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0107】
[比較例2]
反り量が0.75mmであるセル構造体bを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、燃料電池bを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0108】
[比較例3]
反り量が0.95mmであるセル構造体cを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、燃料電池cを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0110】
OCVは、ガスリークおよびセル構造体の損傷によって低下する。カソード集電体を用いなかった燃料電池a〜cは、OCVが小さく、ガスリークまたはセル構造体の損傷、あるいはその両方が疑われる。一方、燃料電池A〜Dは、いずれもOCVが大きく、ガスリークおよびセルの損傷がないことがわかる。