特許第6578986号(P6578986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578986
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】試験片の保持装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/04 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
   G01N3/04 A
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-28763(P2016-28763)
(22)【出願日】2016年2月18日
(65)【公開番号】特開2017-146223(P2017-146223A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】早川 守
(72)【発明者】
【氏名】中山 英介
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恭平
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−057837(JP,U)
【文献】 実開昭56−167238(JP,U)
【文献】 特開平10−073521(JP,A)
【文献】 実開昭61−091149(JP,U)
【文献】 米国特許第5193396(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第104931342(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 − 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延びる試験部と、該試験部に対して該試験部の延伸方向と直交するせん断方向に突出するように、該試験部の前記延伸方向における両端にそれぞれ設けられた一対の保持部とを有する試験片を保持するための装置であって、
前記一対の保持部のうち一方を保持する第1固定部と、
前記せん断方向に移動可能に設けられた第1アームと、
前記第1固定部と前記第1アームとを接続する接続部と、
前記一対の保持部のうち他方を保持する第2固定部と、
前記第2固定部と一体に前記延伸方向に移動可能に設けられた第2アームと、を備え、
前記第1固定部は、
前記一方の保持部を前記延伸方向の両側から保持する第1延伸方向固定部と、
前記一方の保持部を前記せん断方向の両側から保持する第1せん断方向固定部とを有し、
前記第2固定部は、
前記他方の保持部を前記延伸方向の両側から保持する第2延伸方向固定部と、
前記他方の保持部を前記せん断方向の両側から保持する第2せん断方向固定部とを有し、
前記第1アームは、前記延伸方向において前記第1固定部から見て前記第2固定部とは反対側に設けられた支持部を有し、
前記支持部は、前記第1固定部に向かって開口しかつ前記延伸方向に延びるように形成された支持孔を有し、
前記接続部は、前記第1固定部に固定されかつ該第1固定部側から前記支持部側に向かって前記延伸方向に延びる軸部材と、前記延伸方向に延びるように前記支持孔に設けられた筒状の直動軸受とを有し、
前記軸部材が、外周面を前記直動軸受に覆われるように前記直動軸受に挿入されている、試験片の保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試験片の保持装置において、
前記接続部は、前記支持部と前記第1固定部との間に設けられ、かつ前記延伸方向において前記支持部および前記第1固定部に作用する荷重を検知するロードセルを更に備え、
前記支持部は、前記せん断方向における前記ロードセルの一方側および他方側にそれぞれ形成された少なくとも2つの支持孔を有し、
前記接続部は、少なくとも2つの前記直動軸受および少なくとも2つの前記軸部材を有し、
各支持孔に前記直動軸受が設けられており、前記直動軸受に前記軸部材が挿入されている、試験片の保持装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の保持装置において、
前記直動軸受に、固体潤滑材が詰めらている、試験片の保持装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の試験片の保持装置において、
前記第1延伸方向固定部および前記第2延伸方向固定部は、それぞれ、前記延伸方向における前記試験片の端部に接触する圧縮方向固定部と、前記延伸方向において前記圧縮方向固定部とは反対側から前記保持部に接触する引張方向固定部とを有する、試験片の保持装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の試験片の保持装置において、
前記第1固定部および前記第2固定部の少なくとも一方が、該第1固定部および該第2固定部を前記延伸方向に相対的に変位させる延伸方向駆動部に接続され、
前記第1固定部および前記第2固定部の少なくとも一方が、該第1固定部および該第2固定部を前記せん断方向に相対的に変位させるせん断方向駆動部に接続されている、試験片の保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験片の保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の構造物は、使用条件に応じたせん断負荷を受ける。この構造物が想定よりも大きなせん断負荷を受けた場合、例えば想定よりも大きな地震が発生した場合には、橋台等の構造物の構成部材には、せん断割れが生じ、橋面の傾斜や落橋に至るおそれがある。このような事故の発生を防止するため、構造物の構成部材の機械的性質を評価することが必要である。
【0003】
しかし、構造物の構成部材の機械的性質の評価は、構造物の実物に対して行うことは不可能である。そのため、実際の構成部材を模擬した試験片に対して引張負荷やねじり負荷等を付与することで、構造物における負荷形態を模擬することが行われている。この小型の模擬試験片を用いて構造物の部分的な機械的性質を評価し、その評価結果を基に構造物全体の機械的性質を推定する。
【0004】
せん断特性の評価方法としては、特許文献1および2ならびに非特許文献1〜3に記載の方法が挙げられる。
【0005】
特許文献1に記載の方法は、円柱状の試験片の軸線に対して直交する方向に移動する治具によって、試験片のせん断面に平行な方向の力(いわゆる目違い負荷)を付与することにより、せん断応力を付与する方法である。特許文献2に記載の方法は、試験装置の2個の保持手段でシート状の試験片を挟み、2個の保持手段を相対的にずらすことにより試験片に圧縮応力およびせん断応力を付与する方法である。
【0006】
非特許文献1に記載の方法は4点曲げ試験、非特許文献2に記載の方法は3点曲げ試験による方法である。非特許文献3に記載の方法は、試験片に目違い切欠きを設け、試験片を圧縮することにより、これらの切欠きの間でせん断破壊させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭62−176741号公報
【特許文献2】特開2010−71774号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】鈴木竜生、磯野吉正、小河真人、「非対称四点曲げ試験法によるSi構造体のせん断強度評価」、日本機械学会2007年度年次大会講演論文集、社団法人日本機械学会、2007年9月7日、p.719−720
【非特許文献2】JIS K 7057、「繊維強化プラスチック−ショートビーム法による見掛けの層間せん断強さの求め方」、1987年3月1日制定
【非特許文献3】JIS K 7092、「炭素繊維強化プラスチックの目違い切欠き圧縮による層間せん断強さ試験方法」、2005年12月20日制定
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
構造物の構成部材には、溶接部の残留応力のように、せん断応力だけでなく、引張応力または圧縮応力も加わっている部分が存在する。そのため、せん断応力とともに引張応力または圧縮応力を付与することができれば、実際の構造物における負荷形態を模擬した試験を行うことができ、より精度の高い材料評価を行うことができる。
【0010】
例えば小型の試験片に対し、せん断応力とともに引張応力または圧縮応力を付与することができれば次のような利点がある。構造物の微小な領域からその構造物の性能を損なうことのないように採取した小型の試験片に対して、実際の負荷形態を模擬した試験を行うことができる。これにより、構造物そのものの残存強度を評価することが可能となる。この場合、構造物の構成部材を模擬した模擬試験片を用いて行う試験よりも高い精度で評価することができる。
【0011】
従来、試験片にせん断応力、引張応力または圧縮応力を付与する際には、例えばチャックを用いて試験片を保持していた。しかし、チャックによって試験片を保持すると試験片が変形する可能性がある。このように試験片が変形した状態で応力を付与すると、変形の影響により材料評価の精度が低下する可能性がある。特に試験片が小型である場合には試験片が変形する可能性が高く、材料評価の精度が大きく低下しやすい。これに対し、小型の試験片をつかむ方法としてピンチャックを用いる方法がある。しかし、小型のピンチャックは、高い寸法精度が得られにくいため、材料評価の精度が低下する可能性がある。
【0012】
一方、特許文献1に記載の方法に用いる治具は、試験片の軸方向には移動不可能である。そのため、試験片に引張応力および圧縮応力のいずれも付与することができない。また、特許文献2に記載の方法では、2個の保持手段でシート状の試験片の全面を両側から挟むだけであり、試験片に引張応力を付与することができない。
【0013】
非特許文献1に記載の方法は、4点曲げ試験による方法であり、非特許文献2に記載の方法は3点曲げ試験による方法であるため、引張応力および圧縮応力のいずれも付与することができない。また、非特許文献3に記載の方法も、せん断破壊する部分に引張応力および圧縮応力のいずれも付与することができない。
【0014】
本発明は、試験片を変形させることなく安定して保持することができ、試験片にいわゆる目違い負荷によるせん断応力(以下、単に「せん断応力」という場合、「目違い負荷によるせん断応力」を意味する。)とともに引張応力または圧縮応力を付与することができる試験片の保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施形態に係る試験片の保持装置は、一方向に延びる試験部と、該試験部に対して該試験部の延伸方向と直交するせん断方向に突出するように、該試験部の前記延伸方向における両端にそれぞれ設けられた一対の保持部とを有する試験片を保持するための装置であって、前記一対の保持部のうち一方を保持する第1固定部と、前記せん断方向に移動可能に設けられた第1アームと、前記第1固定部と前記第1アームとを接続する接続部と、前記一対の保持部のうち他方を保持する第2固定部と、前記第2固定部と一体に前記延伸方向に移動可能に設けられた第2アームと、を備える。前記第1固定部は、前記一方の保持部を前記延伸方向の両側から保持する第1延伸方向固定部と、前記一方の保持部を前記せん断方向の両側から保持する第1せん断方向固定部とを有し、前記第2固定部は、前記他方の保持部を前記延伸方向の両側から保持する第2延伸方向固定部と、前記他方の保持部を前記せん断方向の両側から保持する第2せん断方向固定部とを有し、前記第1アームは、前記延伸方向において前記第1固定部から見て前記第2固定部とは反対側に設けられた支持部を有する。前記支持部は、前記第1固定部に向かって開口しかつ前記延伸方向に延びるように形成された支持孔を有する。前記接続部は、前記第1固定部に固定されかつ該第1固定部側から前記支持部側に向かって前記延伸方向に延びる軸部材と、前記延伸方向に延びるように前記支持孔に設けられた筒状の直動軸受とを有する。前記軸部材は、外周面を前記直動軸受に覆われるように前記直動軸受に挿入されている。
【0016】
保持装置が上述のような構成を有するため、試験片の一対の保持部をそれぞれ保持する第1固定部および第2固定部を試験片の試験部のせん断方向に相対的に変位させることにより、試験部にせん断応力を付与することができる。また、第1固定部および第2固定部を試験部の延伸方向に相対的に変位させることにより、試験部に引張応力または圧縮応力を付与することができる。
【0017】
第1固定部および第2固定部は、せん断方向固定部および延伸方向固定部によって試験片の保持部を4方向から保持する。このように試験片の保持部を4方向から保持することにより、試験片の保持部を回転させることなく、試験片の試験部にせん断応力、および引張応力またはせん断応力のうち少なくとも一つを付与することができる。そのため、試験部をより確実に所望の応力成分によって変形させることができ、様々な負荷形態について精度の高い試験を行うことが可能となる。
【0018】
また、試験片の保持部を4方向から保持することにより、試験片の大きさによらず、試験片を変形させずに保持することができる。例えば、一辺の長さが数ミリメートルの小型の試験片を用いた場合には、サブミリメートルオーダーの微小領域についても精度の高い評価を行うことが可能である。
【0019】
また、第1アームの支持孔には、上記延伸方向に延びるように筒状の直動軸受が設けられる。該直動軸受は、第1固定部に固定された軸部材の外周面を覆うように、該軸部材を支持する。このような構成により、直動軸受は、軸部材の上記延伸方向への移動は規制せず、上記せん断方向への移動および該延伸方向と該せん断方向とに直交する方向への移動を規制するように、軸部材を支持することができる。これにより、第1固定部に固定された軸部材が、第1アームの支持部に対して上記延伸方向以外の方向へ相対的に移動することを防止することができる。したがって、例えば、第1アームおよび第2アームをせん断方向に相対的に往復移動させて試験部にせん断荷重を付与する際に、第1固定部が第1アームの支持部に対して、上記延伸方向以外の方向へ相対的に移動することを防止することができる。このため、接続部(直動軸受および軸部材)を介して第1アーム(支持部)と第1固定部との間でせん断方向の荷重が伝達される際に、第1アームおよび第1固定部に振動が発生することを防止することができる。その結果、せん断荷重の入力波形(第1アームまたは第2アームに入力される荷重の波形)に対して、試験部に実際に付与されるせん断荷重の波形に乱れが生じることを抑制できる。これにより、試験部に、所望のせん断応力を生じさせることができ、適切な試験を行うことができる。
【0020】
前記接続部は、前記支持部と前記第1固定部との間に設けられ、かつ前記延伸方向において前記支持部および前記第1固定部に作用する荷重を検知するロードセルを更に備え、前記支持部は、前記せん断方向における前記ロードセルの一方側および他方側にそれぞれ形成された少なくとも2つの支持孔を有し、前記接続部は、少なくとも2つの前記直動軸受および少なくとも2つの前記軸部材を有し、各支持孔に前記直動軸受が設けられており、前記直動軸受に前記軸部材が挿入されていてもよい。
【0021】
この構成では、せん断方向におけるロードセルの一方側および他方側にそれぞれ設けられた直動軸受および軸部材によって、支持部に対する第1固定部の上記延伸方向以外の方向への移動が規制される。これにより、試験部にせん断荷重を付与する際に、支持部と第1固定部とが、上記延伸方向以外の方向へ相対的に変位することを十分に抑制できる。しがたって、ロードセルに上記せん断方向の荷重が付与されることを十分に抑制できる。また、上述のように、直動軸受は、軸部材の上記延伸方向への移動は規制していない。これにより、試験部に引張荷重または圧縮荷重を付与する際に、軸部材に上記延伸方向の荷重が付与されることを防止することができる。これらの結果、ロードセルによって、試験部に付与される上記延伸方向の荷重を高精度で検知することができる。
【0022】
前記直動軸受に、固体潤滑材を詰めてもよい。この場合、第1アーム(支持部)から接続部(直動軸受および軸部材)を介して第1固定部にせん断方向の荷重が伝達される際に、第1アームおよび第1固定部に振動が発生することを十分に防止することができる。その結果、試験部に付与されるせん断荷重に乱れが生じることを十分に抑制できる。
【0023】
前記第1延伸方向固定部および前記第2延伸方向固定部は、それぞれ、前記延伸方向における前記試験片の端部に接触する圧縮方向固定部と、前記延伸方向において前記圧縮方向固定部とは反対側から前記保持部に接触する引張方向固定部とを有していてもよい。
【0024】
この構成により、試験片の試験部にせん断応力と引張応力または圧縮応力とを付与する際に、試験片の保持部が回転するのをより確実に防止できる。
【0025】
前記第1固定部および前記第2固定部の少なくとも一方が、該第1固定部および該第2固定部を前記延伸方向に相対的に変位させる延伸方向駆動部に接続され、前記第1固定部および前記第2固定部の少なくとも一方が、該第1固定部および該第2固定部を前記せん断方向に相対的に変位させるせん断方向駆動部に接続されていてもよい。
【0026】
延伸方向駆動部およびせん断方向駆動部によって、第1固定部および第2固定部を相対的に変位させることで、試験片の試験部にせん断応力を付与しつつ、引張応力または圧縮応力も付与する構成を実現できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の実施形態に係る試験片の保持装置によれば、試験片の大きさによらず、試験片を安定して保持した状態で、試験片にせん断応力とともに引張応力または圧縮応力を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の試験片の保持装置の模式図であり、図1(a)は保持装置全体の平面図を示し、図1(b)は図1(a)の試験片周辺の部分拡大図を示す。
図2図2は、本発明の試験片の保持装置の具体的な構成の一例を示す構成図であり、図2(a)は保持装置全体の平面図を示し、図2(b)は図2(a)の第1固定部および第2固定部の部分拡大図を示す。
図3図3は、図2(a)の第1アームのIII-III線概略断面図である。
図4図4は、図2に示す保持装置の第1固定部の斜視図である。
図5図5は、第1ベース部材の平面図である。
図6図6は、図2のVI−VI線断面図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る試験方法に適した試験片の平面図である。
図8図8は、本発明の実施形態に係る試験方法のうち、疲労試験により適した試験片の構成図であり、図8(a)は平面図を示し、図8(b)は側面図を示す。
図9図9は、図8に示す試験片に応力を付与した場合についてFEMで解析した結果を応力分布で示す図であり、図9(a)はせん断応力を付与した場合を示し、図9(b)は引張応力を付与した場合を示す。
図10図10は、比較例のせん断試験で用いた保持装置の構成を示す図である。
図11図11は、実施例のせん断試験において、第2アームに入力された荷重の波形と、第2ロードセルによって検知された荷重の波形とを示すグラフである。
図12図12は、比較例のせん断試験において、第2アームに入力された荷重の波形と、第2ロードセルによって検知された荷重の波形とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る試験片の保持装置およびこの保持装置を用いた試験方法の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0030】
1.試験片の保持装置の概略構成
図1は、本発明の試験片の保持装置の模式図であり、図1(a)は保持装置全体の平面図を示し、図1(b)は図1(a)の試験片周辺の部分拡大図を示す。まず、図1の模式図を参照して、本発明の保持装置の構成について簡単に説明する。
【0031】
図1(a)に示すように、保持装置10は、定盤11と第1移動体12と第2移動体13とを備える。第1移動体12および第2移動体13は、定盤11上に配置される。保持装置10は、第1移動体12と第2移動体13とによって、試験片60を保持する。
【0032】
ここで、図1(b)に示すように、試験片60は、試験部61と一対の保持部62、63とを有する。試験部61は、試験片60の中央部において一方向(図中矢印Aで示す方向。)に延びるように形成される。以下、試験部61の延伸方向Aを、試験部61の基準方向Aという。本実施形態では、試験部61の基準方向Aは、試験片60の長手方向に一致する。基準方向Aにおいて、試験部61の一端に保持部62が設けられ、試験部61の他端に保持部63が設けられる。保持部62、63は、試験部61に対して基準方向Aと直交する方向(図中矢印Bで示す方向。以下、「せん断方向B」ともいう。)に突出している。
【0033】
保持部62は、第1移動体12によって保持される。保持部63は、第2移動体13によって保持される。第1移動体12は、基準方向Aに移動可能に構成されている。第2移動体13は、せん断方向Bに移動可能に構成されている。保持装置10においては、第1移動体12を基準方向Aに移動させることによって、試験部61に引張応力または圧縮応力を作用させることができる。また、第2移動体13をせん断方向Bに移動させることによって、試験部61にせん断応力を作用させることができる。図1(a)は、試験部61にせん断応力が作用するように、第2移動体13を第1移動体12に対してせん断方向Bに変位させた状態を示す。
【0034】
図1(a)に示すように、第1移動体12は、第1固定部20、第1アーム41、第1ロードセル42、および第2ロードセル43を備える。第1固定部20は、、接続部44によって第1アーム41に接続されている。本実施形態では、第1ロードセル42、後述する直動軸受44aおよび後述する軸部材44bによって接続部44が構成される。
【0035】
第1固定部20は、上方から見てC字形状を有する。図1(b)に示すように、第1固定部20は、圧縮方向固定部21(以下、単に固定部21という。)と、一対の引張方向固定部22(以下、単に固定部22という。)と、一対のせん断方向固定部23(以下、単に固定部23という。)とを備える。なお、図1(a)では、第1固定部20を簡略化して示しており、固定部21と、一対の固定部22と、一対の固定部23との境界線は示していない。本実施形態では、固定部21および一対の固定部22が第1延伸方向固定部として機能し、後述する固定部31および一対の固定部32が第2延伸方向固定部として機能する。また、一対の固定部23が第1せん断方向固定部として機能し、後述する一対の固定部33が第2せん断方向固定部として機能する。
【0036】
図1(b)に示すように、固定部21は、基準方向Aにおける試験片60の両端部のうち、保持部62側の端部に接触するように配置される。一対の固定部22は、基準方向Aにおいて、固定部21とは反対側から保持部62に接触するように配置される。また、一対の固定部22は、せん断方向Bにおいて、試験部61を両側から挟むように配置される。一対の固定部23は、せん断方向Bにおける保持部62の一方の端部および他方の端部にそれぞれ接触するように配置される。
【0037】
すなわち、固定部21、一対の固定部22、および一対の固定部23は、試験片60の一方の保持部62を4方向から囲むように配置される。したがって、試験片60の保持部62は、第1固定部20によって4方向から保持される。具体的には、固定部21と一対の固定部22とが、保持部62を基準方向Aにおける両側から保持し、一対の固定部23が、保持部62をせん断方向Bにおける両側から保持する。
【0038】
図1(a)に示すように、第1アーム41は、上方から見て略L字形状に屈曲した形状を有する。具体的には、第1アーム41は、基準方向Aに延びる第1延伸部41aと、せん断方向Bに延びる第2延伸部41bとを有する。詳細は後述するが、基準方向Aにおける第1延伸部41aの一端部は、第2ロードセル43を介して第1駆動部40(延伸方向駆動部)に接続される。また、詳細は後述するが、第2延伸部41bには、接続部44を介して第1固定部20が接続される。本実施形態では、第2延伸部41bが支持部に相当する。
【0039】
第2延伸部41bは、基準方向Aにおいて、第1固定部20から見て後述する第2固定部30とは反対側に設けられる。本実施形態では、第2延伸部41bは、基準方向Aにおける第1延伸部41aの他端部からせん断方向Bに延びるように設けられる。第2延伸部41bは、第1固定部20に向かって開口しかつ基準方向Aに延びるように形成された断面円形の支持孔41cを有する。本実施形態では、第2延伸部41bは、複数(例えば、2つ)の支持孔41cを有する。また、本実施形態では、各支持孔41cは、第2延伸部41bを基準方向Aに貫通するように形成される。
【0040】
第1ロードセル42は、柱部42aを有する。第1固定部20と第1アーム41の第2延伸部41bとは、第1ロードセル42の柱部42aを介して接続される。すなわち、第1ロードセル42は、第1固定部20および第1アーム41に接続されている。第1ロードセル42は、基準方向Aにおいて該第1固定部20および第1アーム41に作用する荷重、つまり試験片60の試験部61に対して基準方向A方向に作用する荷重の大きさを検知する。より具体的には、第1ロードセル42は、試験部61に作用する引張荷重および圧縮荷重の大きさを検知する。
【0041】
第2ロードセル43は、柱部43aを有する。第1アーム41の第1延伸部41aと第1駆動部40とは、第2ロードセル43の柱部43aを介して接続される。すなわち、第2ロードセル43は、第1アーム41および第1駆動部40に接続されている。第2ロードセル43は、せん断方向Bにおいて第1固定部20および第1アーム41に作用する荷重、つまり試験片60の試験部61に対してせん断方向Bに作用する荷重の大きさを検知する。より具体的には、第2ロードセル43は、試験部61に作用するせん断荷重の大きさを検知する。
【0042】
接続部44は、上記第1ロードセル42に加えて、1または複数の筒状(例えば、円筒状)の直動軸受44aと、1または複数の柱状(例えば、円柱状)の軸部材44bとを有する。本実施形態では、接続部44は、一対の直動軸受44aと一対の軸部材44bとを有する。また、本実施形態では、せん断方向Bにおいて、一方の直動軸受44aおよび軸部材44bと他方の直動軸受44aおよび軸部材44bとの間に第1ロードセル42が位置付けられるように、接続部44が設けられる。なお、柱状の軸部材には、中実の軸部材だけではなく、中空(例えば、円筒状)の軸部材も含まれる。
【0043】
直動軸受44aは、例えば、ボールガイドを含む。直動軸受44aは、基準方向Aに延びるように第2延伸部41bの支持孔41cに挿入されている。本実施形態では、直動軸受44aは、例えば、支持孔41cに圧入される。これにより、直動軸受44aが第2延伸部41bに固定される。本実施形態では、直動軸受44aの基準方向Aにおける一端部が支持孔41c内に圧入され、かつ他端部は支持孔41cから突出している。本実施形態では、直動軸受44aには、固体潤滑剤が詰められている。
【0044】
軸部材44bの基準方向Aにおける一端部は、第1固定部20に固定されている。本実施形態では、軸部材44bは、第1固定部20側から第2延伸部41b側に向かって基準方向Aに延びている。軸部材44bの基準方向Aにおける他端側は、直動軸受44aに挿入されている。すなわち、本実施形態では、直動軸受44aは、軸部材44bの上記他端側の外周面を覆うように、該軸部材44bを支持している。具体的には、直動軸受44aは、軸部材44bの基準方向Aへの移動は規制せず、せん断方向Bへの移動および該基準方向Aと該せん断方向Bとに直交する方向(本実施形態では、上下方向)への移動を規制するように、軸部材44bを支持している。
【0045】
第2移動体13は、第2固定部30、および第2アーム51を備える。第2固定部30は、第2アーム51を介して第2駆動部50(せん断方向駆動部)に接続される。第2アーム51は、一方の端部が第2固定部30に接続され、他方の端部が第2駆動部50に接続される。
【0046】
第2固定部30は、上方から見てC字形状を有する。図1(b)に示すように、第2固定部30は、圧縮方向固定部31(以下、単に固定部21という。)と、一対の引張方向固定部32(以下、単に固定部32という。)と、一対のせん断方向固定部33(以下、単に固定部33という。)とを備える。固定部31、固定部32、および固定部33は、保持部63に対して、保持部62に対する固定部21、固定部22、および固定部23と同様に配置される。したがって、試験片60の保持部63は、第2固定部30によって4方向から保持される。具体的には、固定部31と一対の固定部32とが保持部63を基準方向Aにおける両側から保持し、一対の固定部33が保持部63をせん断方向Bにおける両側から保持する。
【0047】
第1駆動部40は、第1移動体12を基準方向Aに変位させる。これにより、第1固定部20と第2固定部30とが基準方向Aに相対的に変位する。第2駆動部50は、第2移動体13をせん断方向Bに変位させる。これにより、第1固定部20と第2固定部30とがせん断方向Bに相対的に変位する。
【0048】
特に図示しないが、第1駆動部40および第2駆動部50は、いずれもモーター等によって、スライダが定盤11上に設けられた直線状のガイドに沿って往復移動可能に構成されている。
【0049】
なお、本実施形態では、図1(b)に示すように、第1固定部20は、固定部21と、一対の固定部22と、一対の固定部23とが、上方から見て保持部62の試験部61との接続部分C以外の部分全体に接触している。すなわち、固定部21と、一対の固定部22と、一対の固定部23とが、上方から見て保持部62の全ての側面の全体を覆うように保持部62に接触している。しかし、固定部21は、保持部62の長手方向における一端部の少なくとも一部に接触するように配置されていてもよい。また、一対の固定部22はそれぞれ、保持部62の長手方向における他端部の少なくとも一部に接触するように配置されていてもよい。さらに、一方の固定部23が保持部62のせん断方向Bにおける一方の端部の少なくとも一部に接触し、かつ他方の固定部23が保持部62のせん断方向Bにおける他方の端部の少なくとも一部に接触するように配置されていてもよい。詳細な説明は省略するが、第2固定部30についても同様である。
【0050】
ただし、本実施形態のように、第1固定部20の固定部21と、一対の固定部22と、一対の固定部23とが、上方から見て保持部62の全ての側面の全体を覆うように保持部62に接触し、第2固定部30の固定部31と、一対の固定部32と、一対の固定部33とが、上方から見て保持部63の全ての側面の全体を覆うように保持部63に接触することが好ましい。これにより、保持部62、63をより安定して保持することができ、保持装置10を用いてより精度の高い材料評価が可能となるからである。
【0051】
本実施形態では、図1(a)に示すように、第1固定部20を、試験部61の基準方向Aに変位させる。一方、第2固定部30を、基準方向Aに直交するせん断方向Bに変位させる。しかし、第1固定部20をせん断方向Bに変位させてもよいし、第2固定部30を基準方向Aに変位させてもよい。また、第1固定部20および第2固定部30の両方を、基準方向Aおよびせん断方向Bに変位させてもよい。
【0052】
2.試験片の保持装置の具体的な構成例
図1では、保持装置の機能を説明するために、各構成要素を簡略化して示した。以下では、図2から図6までを用いて、保持装置の具体的な構成を説明する。
【0053】
図2は、本発明の試験片の保持装置の具体的な構成の一例を示す構成図であり、図2(a)は保持装置全体の平面図を示し、図2(b)は図2(a)の第1固定部および第2固定部の部分拡大図を示す。図2において、図1に示す部材と同一のものには図1と同一の符号を付した。図2は、保持装置15が試験片60を保持した状態を示す。図2においても、図1と同様に、基準方向Aおよびせん断方向Bを示した。
【0054】
図2(a)に示す試験片の保持装置15は、定盤11と第1移動体16と第2移動体17とを備える。第1移動体16は、第1固定部80、第1アーム46、第1ロードセル47、および第2ロードセル43を備え、第2移動体17は、第2固定部90および第2アーム56を備える。本実施形態では、第1固定部80は、接続部45によって第1アーム46に固定されている。また、本実施形態では、第1ロードセル47、複数(本実施形態では4つ)の直動軸受44a、複数(本実施形態では4つ)の軸部材44bおよび後述するケース49によって接続部45が構成される。
【0055】
第1移動体16および第2移動体17は、それぞれ図1における第1移動体12または第2移動体13の構成の具体例である。第1固定部80および第1ロードセル47は、それぞれ図1における第1固定部20または第1ロードセル42の構成の具体例である。第2固定部90は、図1における第2固定部30の具体例である。第1アーム46および第2アーム56は、それぞれ、図1における第1アーム41および第2アーム51の具体例である。
【0056】
保持装置15では、試験部61の基準方向Aにおいて、第1固定部80と第1アーム46との間にケース49が取り付けられている。
【0057】
第1アーム46は、基準方向Aに延びる第1延伸部46aと、せん断方向Bに延びる第2延伸部46bとを備える。第1アーム46の第1延伸部46aと第2延伸部46bとは一体に形成されている。本実施形態では、第2延伸部46bが支持部に相当する。
【0058】
基準方向Aにおける第1延伸部46aの一端部は、第2ロードセル43の柱部43aに接続される。第2延伸部46bは、基準方向Aにおいて、第1固定部80から見て第2固定部90とは反対側に設けられる。本実施形態では、第2延伸部46bは、基準方向Aにおける第1延伸部46aの他端部からせん断方向Bに延びるように設けられる。
【0059】
図3は、図2(a)の第1アーム46のIII-III線概略断面図である。図2(a)および図3を参照して、第2延伸部46bは、第1固定部80側に向かって開口する凹部46cおよび複数(本実施形態では4つ)の支持孔46dを有する。本実施形態では、各支持孔46dは、断面円形状を有し、かつ第2延伸部46bを基準方向Aに貫通するように形成される。また、本実施形態では、せん断方向Bにおいて、凹部46cの一方側に2つの支持孔46dが形成され、凹部46cの他方側に2つの支持孔46dが形成されている。
【0060】
図2(a)を参照して、ケース49は、直方体状に形成された収容部49aと、基準方向Aにおける該収容部49aの一端部からせん断方向Bに延びるフランジ部49bとを有する。収容部49aは、第2延伸部46b側に向かって開口する凹部49cを有する。第2延伸部46bの凹部46cと収容部49aの凹部49cとは、基準方向Aにおいて対向するように設けられる。ケース49は、図示しないボルトによって、第1固定部80に固定される。本実施形態では、例えば、フランジ部49bが第1固定部80に固定される。
【0061】
第1ロードセル47は、凹部46cと凹部49cとに収容される。本実施形態では、第1ロードセル47は、ボルト47aによって第2延伸部46bに固定される。また、図示は省略するが、第1ロードセル47は、例えば、ボルトによってケース49に固定される。
【0062】
本実施形態では、接続部45は、4つの直動軸受44aと、4つの軸部材44bとを有する。各直動軸受44aは、基準方向Aに延びるように第2延伸部46bの支持孔46dに挿入されている。本実施形態では、直動軸受44aは、例えば、支持孔46dに圧入される。これにより、直動軸受44aが第2延伸部46bに固定されている。本実施形態では、直動軸受44aの基準方向Aにおける一端部が支持孔46d内に圧入され、かつ他端部は支持孔46dから突出している。本実施形態においても、直動軸受44aには、固体潤滑剤が詰められている。
【0063】
各軸部材44bの基準方向Aにおける一端部は、ボルト48によってケース49のフランジ部49bに固定されている。本実施形態では、各軸部材44bは、フランジ部49bを介して第1固定部80に固定されている。本実施形態では、各軸部材44bは、第1固定部80側から第2延伸部46b側に向かって基準方向Aに延びている。各軸部材44bの基準方向Aにおける他端側は、直動軸受44aに挿入されている。すなわち、本実施形態においても、直動軸受44aは、軸部材44bの上記他端側の外周面を覆うように、該軸部材44bを支持している。具体的には、直動軸受44aは、軸部材44bの基準方向Aへの移動は規制せず、せん断方向Bへの移動および該基準方向Aと該せん断方向Bとに直交する方向(本実施形態では、上下方向)への移動を規制するように、軸部材44bを支持している。なお、軸部材44bは、上記のようにフランジ部49bを介して間接的に第1固定部80に固定されてもよく、図1の保持装置10と同様に第1固定部80に直接固定されてもよい。
【0064】
ケース49は、図示しないボルトによって、第1固定部80に固定される。本実施形態では、例えば、フランジ部49bが第1固定部80に固定される。また、ケース49は、複数の直動軸受44aおよび複数の軸部材44bによって第2延伸部46bに接続される。したがって、ケース49は、せん断方向Bおよび上下方向において、第2延伸部46bに対して変位しない。これにより、試験片60(試験部61)にせん断方向Bの応力が付与されても、凹部46cおよび凹部49cに収納された第1ロードセル47には曲げ荷重が発生せず、第1ロードセル47の耐久性を向上させることができる。
【0065】
第2アーム56は、試験部61の基準方向Aに延びるとともに、基準方向Aにおける一方側が第2駆動部50に接続される第1延伸部56aと、基準方向Aにおける第1延伸部56aの他方側に接続され、せん断方向Bに延びる第2延伸部56bとを備える。第1延伸部56aと第2延伸部56bとは一体に形成されている。基準方向Aにおける第2延伸部56bの一端側には、第2固定部90が固定されている。
【0066】
第1移動体16の第1固定部80と第2移動体17の第2固定部90とは、第1駆動部40により基準方向Aに相対的に変位し、第2駆動部50によりせん断方向Bに相対的に変位する。
【0067】
次に、第1移動体16の第1固定部80の構成を、図2および図4から図6までを用いて説明する。図4は、図2に示す保持装置の第1固定部の斜視図である。図5は、第1ベース部材の平面図である。図6は、図2のVI−VI線断面図である。なお、以下においては、第1固定部80および第2固定部90によって試験片60を保持した状態を基準として、試験片60の長手方向(矢印A方向)および試験片60のせん断方向(矢印B方向)に言及しつつ、第1固定部80の各構成要素について説明する。
【0068】
第1固定部80は、第1ベース部材25と、第1挿入部材27と、一対の第1スライド部材28とを備える。
【0069】
第1ベース部材25は、図4から図6に示すように、全体として直方体状の部材の上面に断面V字状の凹部が形成されたような形状を有する。具体的には、第1ベース部材25は、上方から見て略矩形状の基部25aと、試験片60の長手方向における基部25aの一端側に位置する一対の板状の前壁25cと、試験片60の長手方向における基部25aの他端側に位置する板状の後壁25eとを備える。基部25aと前壁25cと後壁25eとは、一体形成されている。
【0070】
基部25aは、図6に示すように、試験片60の長手方向から見てV字状に凹む上面25bを有する。すなわち、基部25aは、高さ寸法が、試験片60のせん断方向の両端部で最も大きく、中央部で最も小さい。これにより、上述のように第1ベース部材25の上面25bに断面V字状の凹部が形成される。基部25aの上面25bには、一対の第1スライド部材28が載置される。基部25aの上面25bの水平面に対する傾斜角度は例えば45°とすることができる。一対の第1スライド部材28を上面25b上で試験片60のせん断方向に移動可能とするため、この傾斜角度は90°未満とする。この傾斜角度は、小さいほど好ましい。
【0071】
一対の前壁25cの間には鉛直方向に延びる間隙25dが設けられている。一対の前壁25cには、間隙25d側に位置する端部に一対の固定部22が形成されている。一対の固定部22は、一対の前壁25cにおける前記端部の基部25a側を切り欠くことにより形成される。一対の固定部22は、図2(b)に示すように試験片60を第1固定部80内に配置した状態で、間隙25d内に位置付けられる試験片60をせん断方向に挟むように位置付けられる。具体的には、一対の固定部22は、図2(b)に示すように試験片60を第1固定部80内に配置した状態で、固定部23および保持部62に接触するように位置付けられる。また、一対の前壁25cの間に位置する間隙25dには、ステージ29が配置される。ステージ29については後述する。
【0072】
後壁25eには、試験片60のせん断方向の中央部に間隙25fが形成されている。具体的には、間隙25fは、後壁25eの上端から、後壁25eの上下方向における略中央部まで延びるように形成されている。間隙25fには、次に説明する固定部21が挿入される。
【0073】
第1挿入部材27は、上方から見てT字形状を有する部材である。第1挿入部材27は、試験片60のせん断方向に延びる板状の安定部27aと、安定部27aの長手方向中央部から試験片60の長手方向に延びる固定部21とを備える。固定部21は、後壁25eに設けられた間隙25f内に挿入される。これにより、固定部21は、図2(b)に示すように試験片60を第1固定部80内に配置した状態で、試験片60の長手方向の端部に接触するように位置付けられる。安定部27aは、不図示のボルトによって後壁25eに固定される。これにより、固定部21も、試験片60の長手方向の端部に接触する位置に固定される。
【0074】
したがって、本実施形態の第1固定部80では、試験片60の大きさに応じて、固定部21を、試験片60の長手方向の端部に接触する位置に固定することができる。本実施形態では、固定部21と一対の固定部22とによって、試験片60の保持部62を変形させることなく試験片60の長手方向における両側から保持することができる。しかも、上述のように後壁25eに設けられた間隙25f内に固定部21を挿入する構成により、試験片60の大きさに関係なく、固定部21と一対の固定部22とによって試験片60の保持部62を保持することができる。
【0075】
一対の第1スライド部材28は、軸線に対して垂直な断面が台形状であり、軸線に沿って延びる角柱状の部材である。一対の第1スライド部材28は、それぞれ、軸線方向の端面の一方に、軸線方向に突出する固定部23を有する。一対の第1スライド部材28は、軸線方向が試験片60の長手方向となるように基部25aの上面25b上に載置される。これにより、一対の第1スライド部材28は、試験片60の長手方向における移動が前壁25cおよび後壁25eによって規制される。一対の第1スライド部材28は、固定部23が前壁25cの固定部22内に位置付けられることにより、試験片60のせん断方向における移動が規制される。一対の第1スライド部材28は、図2(b)に示すように試験片60を第1固定部80内に配置した状態で、固定部23が試験片60の保持部62を試験片60のせん断方向の両側から挟み込むとともに、固定部23が固定部22に接するように、配置される。一対の第1スライド部材28は、それぞれ、ボルト24によって第1ベース部材25の基部25aに固定される。
【0076】
したがって、本実施形態の第1固定部80では、試験片60の大きさに応じて、固定部23を、試験片60の保持部62に対して試験片60のせん断方向の両側から接する位置に固定することができる。すなわち、一対の固定部22によって、試験片60の保持部62を変形させることなく試験片60のせん断方向における両側から保持することができる。
【0077】
なお、第2固定部90も、第1固定部80と同様の構成を有する。具体的には、第2固定部90は、固定部31、一対の固定部32、一対の固定部33、ボルト34、第2ベース部材35、基部35a、基部上面35b、前壁35c、前壁の間隙35d、後壁35e、後壁の間隙35f、第2挿入部材37、安定部37a、および第2スライド部材38を有する。第2固定部90のこれらの部材は、それぞれ、第1固定部80の固定部21、固定部22、固定部23、ボルト24、第1ベース部材25、基部25a、基部上面25b、前壁25c、前壁の間隙25d、後壁25e、後壁の間隙25f、第1挿入部材27、安定部27a、および第1スライド部材28と同様の構成を有する。なお、第2ベース部材35は、第2アーム56と一体に形成されていてもよい。
【0078】
上述のように、一対の前壁25cの間隙25dには、ステージ29が配置される。ステージ29は、一対の前壁35cの間隙35d内にも位置付けられるように配置される。すなわち、ステージ29は、間隙25dおよび間隙35d内に位置付けられる。ステージ29上には、試験片60が載置される。
【0079】
以上のように、第1挿入部材27および一対の第1スライド部材28は、第1ベース部材25に対して移動可能である。そして、第1挿入部材27は、図示しないボルトによって第1ベース部材25に固定され、一対の第1スライド部材28は、ボルト24によって第1ベース部材25に固定される。また、第2挿入部材37および一対の第2スライド部材38は、第2ベース部材35に対して移動可能である。そして、第2挿入部材37は、図示しないボルトによって第2ベース部材35に固定され、一対の第2スライド部材38は、ボルト34によって第2ベース部材35に固定される。このため、固定部21、一対の固定部22および一対の固定部23を試験片60の保持部62に接触する位置に固定し、固定部31、一対の固定部32および一対の固定部33を試験片60の保持部63に接触する位置に固定することができる。したがって、一辺の長さが数ミリメートルの小型の試験片についても保持部を変形させることなく保持することが可能である。図2に示す保持装置に適用可能な大きさの試験片の一例として、後述する図7に示す形状を有する試験片の長手方向の長さを3mm、試験片のせん断方向の幅を2mm、厚さを0.3mmとしたものが挙げられる。
【0080】
3.試験片の保持装置を用いた試験方法
図2に示すように、第1固定部80は、試験片60の一対の保持部62、63のうち一方の保持部62を試験片60の長手方向の両側および試験片60のせん断方向の両側、すなわち4方向から保持する。同様に、第2固定部90は、他方の保持部63を4方向から保持する。このように、保持装置15は、第1固定部80および第2固定部90によって保持部62、63をいずれも4方向から保持する。そのため、保持装置15を用いて試験片60を保持した状態で、第1駆動部40によって、第1移動体16の第1固定部80と第2移動体17の第2固定部90とを試験片60の長手方向(基準方向A)に相対的に変位させることにより、試験片60の試験部61に引張応力または圧縮応力を付与することができる。なお、本実施形態の試験片の保持装置15では、試験片60の試験部61が露出した状態でせん断応力および引張応力または圧縮応力を付与することができるため、応力付与後の試験部61を容易に観察することができる。
【0081】
第1固定部80と第2固定部90とを試験片60の長手方向(試験部61の基準方向A)に相対的かつ周期的に変位させ、試験部61に引張応力または圧縮応力を繰返し応力として繰り返し付与することにより、引張・圧縮応力による疲労試験を行うことができる。疲労試験で付与する繰返し応力として、例えば両振り応力が挙げられる。両振り応力とは、引張応力を正、圧縮応力を負とした場合、応力が同じ絶対値である正の最大値と負の最小値とに交互に変化する応力である。応力の最小値を応力の最大値で割った値を最小最大応力比Rといい、両振り応力ではR=−1である。なお、疲労試験で付与する繰返し応力は、両振り応力に限らず、部分両振り応力、片振り応力および部分片振り応力等であってもよい。
【0082】
また、第2駆動部50によって第2移動体17の第2固定部90と第1移動体16の第1固定部80とを基準方向Aに直交するせん断方向Bに相対的に変位させることにより、試験部61にせん断応力を付与することができる。保持装置15は、第1移動体16および第2移動体17によって保持部62、63を4方向から保持するため、試験部61にせん断応力を付与する際に、保持部62、63を回転させることなく移動させることができる。そのため、試験部61の変形に曲げ成分や引張成分等が含まれず、せん断特性について精度の高い評価が可能となる。
【0083】
第1固定部80と第2固定部90とをせん断方向Bに周期的に変位させ、試験部61にせん断応力を繰返し応力として付与することにより、せん断応力による疲労試験を行うことができる。せん断応力の繰返し応力も、応力の変化に応じて、両振り応力、部分両振り応力、片振り応力および部分片振り応力に分類される。せん断応力の一方向を正とし、当該一方向の逆方向を負とした場合の、繰返し応力の定義は引張・圧縮応力の場合と同様である。
【0084】
さらに、第1固定部80と第2固定部90を試験片60の長手方向(試験部61の基準方向A)に相対的に変位させ、試験部61に引張応力または圧縮応力を付与した状態で、第1固定部80および第2固定部90を基準方向Aに直交するせん断方向Bに相対的に変位させることにより、試験部61にせん断応力を付与することができる。このように引張応力または圧縮応力を付与しながら、せん断応力を付与することにより、実際の構造物における負荷形態を模擬した試験を行うことができる。
【0085】
また、第1固定部80と第2固定部90とを試験片60の長手方向に相対的に変位させて、試験部61に引張応力または圧縮応力を付与した状態で、第1固定部80と第2固定部90とをせん断方向Bに周期的に相対変位させることにより、試験部61にせん断応力を繰返し応力として付与することもできる。さらに、第1固定部80と第2固定部90とを、試験片60の長手方向(基準方向A)に相対的かつ周期的に変位させ且つせん断方向Bにも周期的に変位させることにより、試験部61に引張・圧縮応力およびせん断応力を繰返し応力として付与することもできる。そのため、上述の保持装置15を用いることにより、様々な繰返し応力が付与される負荷形態を模擬した疲労試験も行うことができる。
【0086】
なお、保持装置15では、第1アーム46の支持孔46dに、基準方向Aに延びるように筒状の直動軸受44aが設けられている。該直動軸受44aは、第1固定部80に固定された軸部材44bの外周面を覆うように、該軸部材44bを支持している。より具体的には、本実施形態では、軸部材44bの一端側がケース49を介して第1固定部80に固定され、軸部材44bの他端側の外周面が直動軸受44aによって覆われている。このような構成により、直動軸受44aは、軸部材44bの基準方向Aへの移動は規制せず、せん断方向Bへの移動および上下方向への移動を規制するように、軸部材44bを支持することができる。これにより、第1固定部80に固定された軸部材44bが、第1アーム46の第2延伸部46bに対して基準方向A以外の方向へ相対的に移動することを防止することができる。したがって、例えば、第1アーム46および第2アーム56をせん断方向Bに相対的に往復移動させて試験部61にせん断荷重を付与する際に、第1固定部80が第2延伸部46bに対して、基準方向A以外の方向へ相対的に移動することを防止することができる。このため、接続部45を介して第2延伸部46bと第1固定部80との間でせん断方向Bの荷重が伝達される際に、第1アーム46および第1固定部80に振動が発生することを防止することができる。その結果、せん断荷重の入力波形(第1アーム46または第2アーム56に入力される荷重の波形)に対して、試験部61に実際に付与されるせん断荷重の波形に乱れが生じることを抑制できる。これにより、試験部61に、所望のせん断応力を生じさせることができ、適切な試験を行うことができる。
【0087】
また、保持装置15では、せん断方向Bにおける第1ロードセル42の一方側および他方側にそれぞれ設けられた直動軸受44aおよび軸部材44bによって、第2延伸部46bに対する第1固定部80の基準方向A以外の方向への移動が規制される。これにより、試験部61にせん断荷重を付与する際に、第2延伸部46bと第1固定部80とが、基準方向A以外の方向へ相対的に変位することを十分に抑制できる。しがたって、第1ロードセル42にせん断方向Bの荷重が付与されることを十分に抑制できる。また、上述のように、直動軸受44aは、軸部材44bの基準方向Aへの移動は規制していない。これにより、試験部61に引張荷重または圧縮荷重を付与する際に、軸部材44bに基準方向Aの荷重が付与されることを防止することができる。これらの結果、第1ロードセル42によって、試験部61に付与される基準方向Aの荷重を高精度で検知することができる。
【0088】
また、保持装置15では、直動軸受44aに、固体潤滑材が詰められている。この場合、第2延伸部46bから接続部45を介して第1固定部80にせん断方向の荷重が伝達される際に、第2延伸部46bおよび第1固定部80に振動が発生することを十分に防止することができる。その結果、試験部61に付与されるせん断荷重に乱れが生じることを十分に抑制できる。
【0089】
4.本発明の試験方法に適した試験片の形状
図7は、本発明の実施形態に係る試験方法に適した試験片の平面図である。図7に示す試験片60は、図1(b)を用いて説明したように、長手方向の両端に配置された一対の保持部62、63と、保持部62、63の間に配置された試験部61とを有する。
【0090】
さらに、試験部61は、図7に示すように、保持部62、63と接続される両端にR部61aを有する。試験部61は、試験片60の長手方向の中央部分に円弧部61bが形成される。円弧部61bは、試験部61の幅寸法が、試験片60の長手方向の中央部分で最も小さくなるように形成される。円弧部61bの曲率半径は、R部61aの曲率半径よりも大きい。
【0091】
本発明の実施形態に係る試験方法には、上述のように、試験部61がR部61aと円弧部61bとを有する形状の試験片を用いることが好ましい。その理由は次の通りである。R部61aによって、試験片60に応力を付与した際に、試験部61と保持部62、63との接続部分における応力集中を抑制することができ、この接続部分で試験片が破断する失敗を少なくすることができる。円弧部61bによって、試験片60に応力を付与した際に、降伏による変形が試験部61の、試験片60の長手方向中央部分で生じる可能性が非常に高くなり、複数の試験片について同じ位置で変形の評価を行うことができる。したがって、歩留まり良く精度の高い評価を行うことが可能となる。
【0092】
図8は、本発明の実施形態に係る試験方法のうち、疲労試験により適した試験片の構成図であり、図8(a)は平面図を示し、図8(b)は側面図を示す。図8に示す試験片70は、長手方向の両端に位置する一対の保持部72、73と、保持部72、73の間に設けられた試験部71とを有する。保持部72、73は、試験片70のせん断方向に突出している。
【0093】
さらに、試験部71は、図8に示すように、保持部72、73と接続される両端にR部71aを有し、R部71aの間に幅Wが均一な平行部71cを有する。平行部71cは、試験片70の長手方向中央部分にノッチ71bが形成される。ノッチ71bは試験片70のせん断方向に延びるように設けられていて、その断面は円弧状である。そのため、試験部71の厚さ寸法は、試験片70の長手方向の中央部分すなわちノッチ71bの底部で最も小さくなる。試験片70の厚み方向の他方の面は平らである。また、ノッチ71bの底部における試験片70の厚さtは試験部71の最大厚さ寸法hの1/2以下であり、ノッチ71bの断面を構成する円弧の曲率半径はR部71aの曲率半径よりも小さいため、試験片70に引張応力、圧縮応力またはせん断応力を付与した際にはノッチ71bの底部が応力集中部となる。このように、試験片70を用いてせん断疲労試験を行った際に、疲労き裂がノッチ71bの底部で生じるため、複数の試験片について同じ位置で疲労き裂の評価を行うことができる。したがって、歩留まり良く評価を行うことが可能となる。
【0094】
試験片70のノッチ71bの底部における断面積(W×t)は、0.05mm以上が好ましい。ノッチ71bの底部における断面積を0.05mm以上とすることにより、疲労試験時に十分に大きい応力を付与することができ、精度の高い測定を行うことができる。ノッチ71bの底部における断面積は、0.075mm以上がより好ましい。
【0095】
また、平行部71cは、幅Wと試験片70の長手方向の長さLとの関係がW>Lを満たすことが好ましい。この場合、せん断疲労試験時に、曲げ応力よりもせん断応力が大きく作用するため、ノッチ71bの底部の幅方向中央部分が応力集中部となる。疲労き裂はこの応力集中部で生じるため、より歩留まり良く評価を行うことが可能となる。W>Lであることが好ましい理由について以下で説明する。
【0096】
試験片70の保持部73に、試験片70のせん断方向のせん断力Pを付与した場合、ノッチ71bの底部を含む断面に生じる最大せん断応力τmaxは、下記(i)式で表される。
τmax=(3/2)×(P/tW) …(i)
また、この場合、保持部73側のR部71aと平行部71cとの境界面に生じる応力の最大値σmaxは、平行部71cの試験片70の長手方向の長さをLとし、この境界面の曲げ応力を仮定すると、下記(ii)式で表される。
σmax≒(PL×W/2)/(hW/12)=6PL/hW …(ii)
【0097】
ここで、試験片70の破壊則がmises応力に従うとすると、下記(iii)式が成り立つ場合に、ノッチ71bの底部を含む断面におけるmises応力が、保持部73側のR部71aと平行部71cとの境界面におけるmises応力以上となる。すなわち、曲げ応力よりもせん断応力の方が大きく作用する。この場合、試験片70はノッチ71bの底部で破断する。
τmax≧σmax/31/2 …(iii)
【0098】
ここで、上述のようにノッチ71bの底部における試験片70の厚さtは試験片70の最大厚さ寸法hの1/2以下、すなわちh/2≧tである。h/2≧tと、(i)〜(iii)式から、下記(iv)式が得られ、(iv)式からさらに(v)式が得られる。(v)式から、W>Lが好ましいことがわかる。
h/2≧(31/2/2)×(hW/L)≧t …(iv)
W/L≧2/31/2≒1 …(v)
【0099】
図9は、試験片70について有限要素法(Finite Element Method、FEM)で解析した結果を応力分布で示す図である。FEMによる解析の結果、試験片70では、図9に示すようにせん断応力を付与した場合、および引張・圧縮応力を付与した場合のいずれの場合もノッチ71bの底部で応力が集中し、最大応力が発生することを確認した。せん断応力を付与した場合には、特にノッチ71b底部の幅方向中央で最大応力が発生する。なお、ノッチ71bは、試験片70の厚み方向の面の一方だけに設けてもよく、両方に設けてもよい。
【0100】
試験片60および試験片70のいずれも、酸洗してから試験に供することが好ましい。これは、例えば放電加工により試験片を作製した場合に表面に形成される放電加工層または残留応力層のような表面層を除去するためである。
【実施例】
【0101】
上述の構成による効果を確認するため、実施例および比較例のせん断試験を行った。実施例のせん断試験は、図2に示した保持装置15を用いて行った。比較例のせん断試験は、図10に示した保持装置100を用いて行った。
【0102】
なお、図10の保持装置100が図2の保持装置15と異なるのは、第1アーム46の代わりに第1アーム101が設けられている点、ケース49の代わりにケース102が設けられている点、直動軸受44aおよび軸部材44bが設けられていない点である。第1アーム101は、ケース102のせん断方向Bにおける両側面102a,102bおよび基準方向Aにおける一方の側面102cを覆うように設けられている。ケース102は、第1固定部80に固定されている。なお、保持装置100では、第1ロードセル47によって試験片60の試験部61に作用する基準方向Aの荷重を正確に検知するために、ケース102の両側面102a,102bを第1アーム101に固定することはできない。したがって、両側面102a,102bと第1アーム101との間には、僅かではあるが隙間が形成されている。
【0103】
実施例および比較例ともに、第2アーム56に周期的に変化するせん断方向Bの荷重を付与し、試験片60に作用するせん断方向Bの荷重を第2ロードセル43によって検知した。図11は、実施例のせん断試験において、第2アーム56に入力された荷重の波形と、第2ロードセル43によって検知された荷重の波形とを示すグラフであり、図12は、実施例のせん断試験において、第2アーム56に入力された荷重の波形と、第2ロードセル43によって検知された荷重の波形とを示すグラフである。
【0104】
図11から分かるように、保持装置15を用いた実施例のせん断試験では、第2アーム56に入力された荷重の波形に対して、第2ロードセル43によって検知された荷重の波形がほとんど乱れていなかった。このことから、実施例のせん断試験では、試験片60の試験部61に、所望のせん断応力を生じさせることができたと考えられる。
【0105】
一方、図12から分かるように、保持装置100を用いた比較例のせん断試験では、第2アーム56に入力された荷重の波形に対して、第2ロードセル43によって検知された荷重の波形が乱れていた。このことから、比較例のせん断試験では、試験片60の試験部61に生じたせん断応力の波形も乱れていたと考えられる。すなわち、試験部61に所望のせん断応力を生じさせることができなかったと考えられる。
【0106】
なお、保持装置100では、上述のように、ケース102の両側面102a,102bと第1アーム101との間に隙間を形成する必要がある。このため、第2アーム56がせん断方向Bに周期的に移動する際に、第1アーム101とケース102の両側面102a,102bとが接触および離間を繰り返すことによって、第1アーム101および第1固定部80に振動が発生したと考えられる。このため、上記のように、第2ロードセル43によって検知された荷重の波形が乱れたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明による試験片の保持装置は、小型の試験片に変形を生じさせることなく、せん断応力を付与しつつ引張応力または圧縮応力を付与可能な試験装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
10、15 保持装置
20 第1固定部
30 第2固定部
40 第1駆動部(延伸方向駆動部)
50 第2駆動部(せん断方向駆動部)
60、70 試験片
61、71 試験部
61a、71a R部
61b 円弧部
71b ノッチ
71c 平行部
62、72 一方の保持部
63、73 他方の保持部
80 第1固定部
90 第2固定部
A 試験部の延伸方向(試験片の長手方向)
B 試験部の延伸方向と直交する方向(試験片のせん断方向)
C 保持部の試験部との接続部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12