(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578989
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】光半導体電極
(51)【国際特許分類】
C25B 11/06 20060101AFI20190912BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20190912BHJP
C01G 33/00 20060101ALI20190912BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20190912BHJP
C04B 35/46 20060101ALI20190912BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20190912BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20190912BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20190912BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20190912BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20190912BHJP
C25B 11/04 20060101ALI20190912BHJP
C25B 1/04 20060101ALI20190912BHJP
C25B 9/00 20060101ALI20190912BHJP
H01G 9/20 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
C25B11/06 B
C01B3/04 A
C01G33/00 A
C01B3/02 H
C04B35/46
C04B35/495
C23C14/06 K
B01J35/02 J
B01J27/24 M
B01J37/02 301P
C25B11/04 A
C25B1/04
C25B9/00 A
H01G9/20 101
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-33893(P2016-33893)
(22)【出願日】2016年2月25日
(65)【公開番号】特開2017-201045(P2017-201045A)
(43)【公開日】2017年11月9日
【審査請求日】2018年8月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度〜平成27年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー・環境新技術先導プログラム/Nb窒化物系光触媒材料を用いた高効率太陽光水素生成デバイスの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116078
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 浩希
(72)【発明者】
【氏名】中村 透
(72)【発明者】
【氏名】菊地 諒介
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 英昭
(72)【発明者】
【氏名】田村 聡
(72)【発明者】
【氏名】羽藤 一仁
【審査官】
▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−204667(JP,A)
【文献】
特開2015−227503(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/090390(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/018366(WO,A1)
【文献】
Characterization of Baddeleyite-structure NbON Films Deposited by RF Reactive Sputtering for Solar Hydrogen Production Devices,Electrochemistry,2015年,Vol.83, No.9,,p.711-714
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/06
C25B 11/04
C25B 1/04
C25B 9/00
B01J 35/02
C01B 3/04
C23C 14/06
B01J 27/24
B01J 37/02
C01B 3/02
C01G 33/00
C04B 35/46
C04B 35/495
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性酸化チタン層、および
前記導電性酸化チタン層上に形成された結晶性ニオブ酸窒化物膜
を具備し、
前記結晶性ニオブ酸窒化物膜は前記導電性酸化チタン層に接しており、かつ
前記導電性酸化チタン層は、(101)面の配向面を有している、
光半導体電極。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体電極であって、
前記導電性酸化チタン層は、Nb、Ta、W、Al、I、Y、Ag、Cd、およびMoからなる群から選択される少なくとも1種によりドープされている。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体電極であって、
前記導電性酸化チタン層は、10(Ω・cm)未満の抵抗率ρを有する。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体電極であって、
前記導電性酸化チタン層は、ルチル構造を有する。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体電極であって、
前記導電性酸化チタン層は、化学式TiOX(1.5<X<2)により表される酸化チタンから形成されている。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体電極であって、
前記結晶性ニオブ酸窒化物膜は、(100)面の配向面を有している。
【請求項7】
光半導体電極を製造する方法であって、以下の工程を具備する:
導電性酸化チタン層上に、スパッタリング法により結晶性ニオブ酸窒化物膜を成長する工程(a)
ここで、
前記導電性酸化チタン層は、(101)面の配向面を有している。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記スパッタリング法において、化学式Nb2O5により表される酸化ニオブを含有するスパッタリングターゲットが用いられ、
前記結晶性ニオブ酸窒化物膜は、酸素および窒素の混合雰囲気下で成長される。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、
前記結晶性ニオブ酸窒化物膜は、(100)面の配向面を有している。
【請求項10】
請求項7に記載の方法であって、
前記導電性酸化チタン層は、10(Ω・cm)未満の抵抗率ρを有する。
【請求項11】
請求項7に記載の方法であって、
前記導電性酸化チタン層は、ルチル構造を有する。
【請求項12】
請求項7に記載の方法であって、
前記導電性酸化チタン層は、化学式TiOX(1.5<X<2)により表される酸化チタンから形成されている。
【請求項13】
水素生成デバイスであって、以下を具備する:
請求項1に記載の光半導体電極、
前記光半導体電極と電気的に接続された対極、
前記結晶性ニオブ酸窒化物膜および前記対極に接する液体、および
前記光半導体電極、前記対極、および前記液体を収容する容器、ここで、
前記液体は水または電解質水溶液であり、かつ
前記結晶性ニオブ酸窒化物膜に光が照射されることによって、水素が前記対極の表面上で生成する。
【請求項14】
水素を生成する方法であって、以下の工程を具備する:
(a) 以下を具備する水素生成デバイスを用意する工程、
請求項1に記載の光半導体電極、
前記光半導体電極と電気的に接続された対極、
前記結晶性ニオブ酸窒化物膜および前記対極に接する液体、および
前記光半導体電極、前記対極、および前記液体を収容する容器、ここで、
前記液体は水または電解質水溶液であり、および
(b) 前記結晶性ニオブ酸窒化物膜に光を照射させ、前記対極の表面上で水素を生成させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体電極、その製法、それを用いた水素生成デバイス、およびそれを用いた水素生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、水を分解することによって水素を生成させる方法を開示している。特許文献1では、化学式NbONにより表される半導体層、およびインジウム錫酸化物から形成された透光性導電体層を具備する積層体が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−227503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、水を分解することによって水素を生成させる方法に適した新規な光半導体電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る光半導体電極は、導電性酸化チタン基板、および前記導電性酸化チタン基板上に形成された結晶性ニオブ酸窒化物膜を具備し、前記結晶性ニオブ酸窒化物膜は前記導電性酸化チタン基板に接している。
上記光半導体電極を製造する方法は、導電性酸化チタン基板上に、スパッタリング法により結晶性ニオブ酸窒化物膜を成長する工程(a)を具備する。
上記光半導体電極を用いた水素生成デバイスおよび方法もまた、本発明の趣旨に包含される。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、水を分解することによって水素を生成させる方法に適した新規な光半導体電極を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態による光半導体電極100の断面図を示す。
【
図2】
図2は、第1実施形態による光半導体電極100を用いた水素生成デバイスの断面図を示す。
【
図3】
図3は、実施例1による光半導体電極100のX線回折分析の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1による光半導体電極100を用いて作製された水素生成デバイスの光電気化学測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態が、図面を参照しながら詳細に説明される。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による光半導体電極100の断面図を示す。光半導体電極100は、導電性酸化チタン基板110(以下、単に「基板110」という)、および結晶性ニオブ酸窒化物膜120を具備している。結晶性ニオブ酸窒化物膜120は基板110上に接している。
【0010】
一般的に、酸化チタンは半導体である。しかし、本実施形態では、酸化チタン基板は導電性を有する。導電性を有する酸化チタン基板の例が、以下に列挙される。
(I) Nb、Ta、W、Al、I、Y、Ag、Cd、およびMoからなる群から選択される少なくとも1種がドープされた酸化チタン基板。
(II)化学式TiO
X(1.5<X<2)で表される酸化チタンから形成される基板
【0011】
導電性酸化チタン基板110は、10(Ω・cm)未満の抵抗率ρを有し得る。一方、酸化チタン半導体は、一般的に10
7(Ω・cm)以上の抵抗率ρを有する。基板110は、ルチル型酸化チタンから形成されることが望ましい。
【0012】
基板110は、(101)面の配向面を有していることが望ましい。言い換えれば、基板110は、(101)面の主面を有することが望ましい。
【0013】
基板110は、他の基板を具備し得る。言い換えれば、用語「基板110」は、他の基板(図示せず)上に導電性酸化チタン層が形成された基板を含む。
【0014】
基板110は、100マイクロメートル以上1000マイクロメートル以下の厚みを有し得る。
【0015】
化学式NbONにより表されるニオブ酸窒化物膜120は、基板110の表面に形成されている。ニオブ酸窒化物膜は、n型の半導体である。
【0016】
ニオブ酸窒化物膜120は、(100)面の配向面を有していることが望ましい。本実施形態においては、ニオブ酸窒化物膜120が一方向に配向しているので、高い水素生成効率が期待できる。ニオブ酸窒化膜120は、10ナノメートル以上200ナノメートルの厚みを有し得る。なお、ニオブ酸窒化物膜120は、若干のオフ角を有し得る。オフ角とは、膜の表面および配向面(すなわち、主面)の間に形成される角度を意味する。
【0017】
(製法)
以下、光半導体電極100を製造する方法が説明される。
【0018】
本実施形態による光半導体電極100を製造する方法は、導電性酸化チタン基板上に、スパッタリング法により結晶性ニオブ酸窒化物膜を成長する工程を具備する。
【0019】
スパッタリング法においては、化学式Nb
2O
5により表される酸化ニオブから形成されたターゲットが用いられる。酸素および窒素の混合雰囲気下でスパッタリングが行われる。
【0020】
望ましくは、(101)面の配向面を有している導電性酸化チタン基板110上に酸窒化ニオブ層がスパッタリング法により酸素および窒素の混合雰囲気下で成長される。このようにして成長されたニオブ酸窒化物膜は、(100)面の配向面を有している。このようにして、本実施形態においては一方向に配向したニオブ酸窒化物膜が得られるので、高い水素生成効率が期待できる。
【0021】
(水素生成デバイス)
図2は、本実施形態による光半導体電極100を用いた水素生成デバイスの断面図を示す。この水素生成デバイスは、光半導体電極100、オーミック電極200、対極300、液体400、および容器を具備する。基板110の表側の面にはニオブ酸窒化物膜120が設けられている。一方、オーミック電極200は基板110の裏側の面に設けられ、基板110とオーミック接合を形成している。
【0022】
対極300は、小さい過電圧を有する材料から形成されることが望ましい。具体的には、対極300の材料の例は、白金、金、銀、ニッケル、化学式RuO
2により表される酸化ルテニウム、または化学式IrO
2により表される酸化イリジウムである。対極300は、導線350を介してオーミック電極200に電気的に接続されている。
【0023】
液体400は、水または電解質溶液である。電解質溶液は酸性またはアルカリ性である。
【0024】
(水素生成方法)
次に、水素生成デバイスを用いて水素を生成する方法が説明される。水素生成デバイスのユーザは、当該水素生成デバイスを用意する。具体的には、ユーザは、
図2に示される水素生成デバイスを購入する。あるいは、ユーザは、光半導体電極100、対極300、および液体400を容器の内部に配置し、さらに導線350を用いて光半導体電極100を対極300に電気的に接続する。
【0025】
光半導体電極100に含まれるニオブ酸窒化物膜120に光が照射され、ニオブ酸窒化膜120内に電子およびホールが生成する。ホールはニオブ酸窒化物膜120の表側の面に移動する。これにより、水が分解され、酸素がニオブ酸窒化物膜120の表側の面上で生成する。一方、電子は導線350を介して対極300に移動する。これにより、水が分解され、水素が対極上で生成する。水素生成方法については、特許文献1も参照せよ。特許文献1の全体は、本明細書に参考として援用される。
【0026】
(実施例)
以下、本発明が以下の実施例を参照しながらより詳細に説明される。
【0027】
(実施例1)
実施例1では、
図1に示される光半導体電極100が以下のように製造された。
【0028】
(101)面の配向面を有する酸化チタン基板110(株式会社 信光社より入手、ルチル型、厚み500マイクロメートル)上に、反応性スパッタリング法により60ナノメートルの膜厚を有するニオブ酸窒化膜が成長された。酸化チタン基板110にはニオブが0.5質量パーセントドープされていた。そのため、酸化チタン基板110は、導電性を有していた。酸化チタン基板110は約3×10
-1Ω・cmの抵抗率を有していた。以下、反応性スパッタリング法の詳細が説明される。
【0029】
反応性スパッタリング法においては、酸化チタン基板110の温度が摂氏650度に維持された。化学式Nb
2O
5により表される酸化ニオブがターゲットとして用いられた。ターゲット電極へのRF供給電力は20Wに設定された。酸素および窒素の混合雰囲気下でスパッタリングは行われた。反応性スパッタリングのために用いられたチャンバー内の全圧は0.5Paであった。酸素分圧および窒素分圧はそれぞれ0.02Paおよび0.48Paであった。ターゲットおよび基板の間の距離は100ミリメートルであった。このようにして、酸化チタン基板110上に60ナノメートルの厚みを有するニオブ酸窒化膜120が成長され、実施例1による光半導体電極100を得た。
【0030】
実施例1による光半導体電極100は、X線回折分析に供された。
図3は、X線回折分析の結果を示す。
図3から明らかなように、主に6つのピークが観察された。その中でも、2つのピークは、TiO
2の(101)面および(202)面に由来する。4つのピークは、NbONの(100)面、(200)面、(300)面、および(400)面に由来する。このように、NbONの(h00)面のピークが観察された。これは、(101)面の配向面を有する結晶性酸化チタン基板110上に、(100)面の配向面を有するニオブ酸窒化物膜120が成長されたことを意味する。
【0031】
次に、実施例1による光半導体電極100を用いて、水素生成デバイス200が組み立てられた。具体的には、実施例1による光半導体電極100は、チタンから形成されたオーミック電極200の表側の面上に、Agペーストを用いて接合された。このようにして、オーミック接合が光半導体電極100およびオーミック電極200の間に形成された。
【0032】
対極300として白金板が用いられた。オーミック電極200は、対極300に導線350を介して電気的に接続された。
【0033】
オーミック電極200の側面および裏側の面は、エポキシ樹脂により封止された。光半導体電極100の表側の面に含まれる受光面以外の部分もまた、エポキシ樹脂により封止された。
【0034】
このように作製された水素生成デバイスを用いて、光電気化学測定が行なわれた。436ナノメートルの波長を有する可視光が光源から光半導体電極100の表側の面に放射された。光半導体電極100および対極300の間に、0.5Vの電圧が印加された。電解質水溶液はリン酸ナトリウム水溶液(濃度:0.1M)であった。正孔捕捉材として過酸化水素が電解質水溶液に添加された。
【0035】
図4は、光電気化学測定の結果を示す。
図4から明らかなように、実施例1による光半導体電極100の表側の面に可視光が照射されると、照射に応答して光電流が観測された。このように、光半導体電極100を用いた水素生成デバイスにおいては、水素が可視光の照射に応答して生成された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、燃料電池のような、動作時に水素を必要とするデバイスに水素を供給するために用いることが出来る。
【符号の説明】
【0037】
100 光半導体電極
110 導電性酸化チタン基板
120 結晶性ニオブ酸窒化物膜
200 オーミック電極
300 対極
350 導線
400 液体