特許第6579055号(P6579055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579055
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 7/06 20060101AFI20190912BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20190912BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   B65H7/06
   B41J29/38 Z
   G03G15/00 420
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-147498(P2016-147498)
(22)【出願日】2016年7月27日
(65)【公開番号】特開2018-16445(P2018-16445A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2018年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋
【審査官】 冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−11737(JP,A)
【文献】 特開2003−206039(JP,A)
【文献】 特開2011−68065(JP,A)
【文献】 特開2009−139725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H1/00−3/68、5/02、5/06、5/22、7/00−7/20、29/12−29/24、29/32、43/00−43/08
B41J11/00−13/32、29/00−29/70
G03G13/00、13/34、15/00、15/36、21/00−21/02、21/14−21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙が収容される収容部と、
前記収容部から印刷位置に用紙を搬送するための用紙搬送路と、
前記収容部から前記用紙搬送路に用紙を給紙するためのローラー部材を含み、画像形成処理を所定時点で開始するとともに、前記用紙搬送路に用紙を給紙して前記用紙搬送路に沿って用紙を搬送し、前記印刷位置を通過する用紙に対して、前記画像形成処理によって得られた画像を用紙に印刷する印刷部と、
前記用紙搬送路の前記印刷位置よりも用紙搬送方向上流側の位置を検知位置とし、前記用紙搬送路に給紙された用紙の前記検知位置への到達を検知するための検知部と、
情報を記憶する記憶部と、
前記用紙搬送路に用紙が給紙される毎に、前記用紙搬送路への用紙の給紙開始から前記検知位置への用紙の到達までにかかった時間を計測するとともに、当該計測した計測値を前記記憶部に記憶させ、前記計測値の累積個数が所定数になったとき、前記所定数の前記計測値に基づき、前記ローラー部材が劣化しているか否かを判定する処理である判定処理に用いる判定対象値を求め、前記判定対象値が予め定められた閾値を超えていた場合に前記ローラー部材が劣化していると判定し、前記画像形成処理の開始時点が前記所定時点よりも遅くなるよう設定する制御部と、を備え、
前記判定処理を行うとき、前記制御部は、前記所定数の前記計測値の推移を示す波形データに対してフーリエ変換を行うことによって周波数特性を示す周波数特性データを生成した後、前記周波数特データから最も低い周波数成分よりも高い周波数成分を除去したデータを生成し、当該生成したデータに対して逆フーリエ変換を行うことによって得られる判定用データに基づき前記判定対象値を求め
前記制御部は、前記判定対象値を求めるとき、前記判定用データで示される各サンプルの振幅を平均し、当該平均した平均値を前記判定対象値として求める、または、前記判定用データで示される波形を1次関数で近似して近似式を求め、前記近似式に基づき、直近に取得したサンプルである最終サンプルに対応する振幅を求め、当該求めた値を前記判定対象値とすることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記計測値の累積個数が2の累乗になる毎に前記判定処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記画像形成処理の開始時点が前記所定時点よりも遅くなるよう設定された状態で、前記判定処理を行った結果、前記判定対象値が前記閾値以下になっていた場合、前記画像形成処理の開始時点を前記所定時点に戻すことを特徴とする請求項1または2に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙に画像を印刷する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
用紙に画像を印刷する画像形成装置は、用紙搬送路に用紙を給紙し、用紙搬送路に沿って用紙を搬送する。また、画像形成装置は、印刷すべき画像(トナー像)を形成し、中間転写体に画像を1次転写する。そして、画像形成装置は、搬送中の用紙が印刷位置を通過するタイミングで、中間転写体に転写された画像を搬送中の用紙に2次転写する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−13039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
用紙搬送路に用紙を給紙するためのローラー部材は、経時的に劣化していく(累積印刷枚数が多いほど、ローラー部材の劣化が大きくなる)。ローラー部材の劣化が大きくなると、ローラー部材が用紙に対して滑り易くなり、用紙の給紙開始から印刷位置への用紙の到達までにかかる時間が長くなるので、中間転写体に転写された画像が印刷位置に到達するタイミングに対して用紙が印刷位置に到達するタイミングが遅れてしまう。このため、ローラー部材が劣化した場合には、画像の形成開始タイミングを現在設定されているタイミングよりも遅いタイミングに設定することにより、画像の印刷位置への到達タイミングに対して用紙の印刷位置への到達タイミングが遅れるのを抑制する必要がある(生産性を低下させる必要がある)。
【0005】
画像形成装置によっては、ローラー部材が劣化したか否か(生産性を低下させる必要があるか否か)の判定が行われるものがある。このような画像形成装置には、たとえば、用紙搬送路の印刷位置よりも用紙搬送方向上流側の予め定められた検知位置に用紙検知センサーが設けられる。そして、画像形成装置は、用紙の給紙開始から検知位置への用紙の到達までに要した時間(到達所要時間)を計測し、印刷枚数が所定枚数に達したとき、所定枚数分の計測値を平均した平均値を求め、当該求めた平均値が予め定められた閾値よりも大きければ、ローラー部材が劣化していると判定する(画像の形成開始タイミングを現在設定されているタイミングよりも遅いタイミングに設定することによって生産性を低下させる)。
【0006】
ここで、ローラー部材に対する用紙の滑り易さは、用紙の種類によって変わる。たとえば、ローラー部材に対して滑り易い用紙(使用頻度が低い特殊な用紙)が給紙対象となっている場合には、ローラー部材に対して滑り難い用紙(一般的に使用される通常の用紙)が給紙対象となっている場合に比べて、到達所要時間が長くなる。すなわち、ローラー部材に対して滑り易い特殊な用紙が給紙対象となっている場合には、ローラー部材が劣化している場合と同様、印刷位置への用紙の到達に遅延が発生する。
【0007】
ただし、ローラー部材に対して滑り易い特殊な用紙が給紙対象となっていることによって用紙の到達遅延が発生しても、以降に給紙対象がローラー部材に対して滑り難い通常の用紙に変更されると、用紙の到達遅延が解消される。すなわち、この場合に発生する用紙の到達遅延は、ローラー部材の劣化によるものではない。
【0008】
しかし、ローラー部材が劣化したか否かの判定を行うのに際して所定枚数分の計測値(到達所要時間)を平均した平均値を求めるとき、所定枚数分の計測値の中に特殊な用紙を給紙したときの計測値が含まれていれば、求めた平均値が用紙の種類による影響を反映した値となってしまう。このため、印刷位置への用紙の到達に遅延が発生するほどの劣化がローラー部材に生じていなくても、ローラー部材が劣化していると誤判定されることがある。このような誤判定が発生した場合には、必要ないにもかかわらず、画像の形成開始タイミングが現在設定されているタイミングよりも遅いタイミングに設定されるという不都合が生じる。すなわち、生産性が不必要に低下するという不都合が生じる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、生産性が不必要に低下するのを抑制することが可能な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の画像形成装置は、用紙が収容される収容部と、収容部から印刷位置に用紙を搬送するための用紙搬送路と、収容部から用紙搬送路に用紙を給紙するためのローラー部材を含み、画像形成処理を所定時点で開始するとともに、用紙搬送路に用紙を給紙して用紙搬送路に沿って用紙を搬送し、印刷位置を通過する用紙に対して、画像形成処理によって得られた画像を用紙に印刷する印刷部と、用紙搬送路の印刷位置よりも用紙搬送方向上流側の位置を検知位置とし、用紙搬送路に給紙された用紙の検知位置への到達を検知するための検知部と、情報を記憶する記憶部と、用紙搬送路に用紙が給紙される毎に、用紙搬送路への用紙の給紙開始から検知位置への用紙の到達までにかかった時間を計測するとともに、当該計測した計測値を記憶部に記憶させ、計測値の累積個数が所定数になったとき、所定数の計測値に基づき、ローラー部材が劣化しているか否かを判定する処理である判定処理に用いる判定対象値を求め、判定対象値が予め定められた閾値を超えていた場合にローラーが劣化していると判定し、画像形成処理の開始時点が所定時点よりも遅くなるよう設定する制御部と、を備える。そして、判定処理を行うとき、制御部は、所定数の計測値の推移を示す波形データに対してフーリエ変換を行うことによって周波数特性を示す周波数特性データを生成した後、周波数特定データから最も低い周波数成分よりも高い周波成分を除去したデータを生成し、当該生成したデータに対して逆フーリエ変換を行うことによって得られる判定用データに基づき判定対象値を求める。
【0011】
本実施形態の構成では、制御部は、判定処理を行うとき、所定数の計測値の推移を示す波形データに対してフーリエ変換を行うことによって周波数特性を示す周波数特性データを生成した後、周波数特定データから最も低い周波数成分よりも高い周波数成分を除去したデータを生成し、当該生成したデータに対して逆フーリエ変換を行うことによって得られる判定用データを生成する。ここで、特殊な用紙(ローラー部材に対して滑り易い用紙)が給紙対象であっても、特殊な用紙は使用頻度が低いので、給紙対象は直ぐに通常の用紙(特殊な用紙よりもローラー部材に対して滑り難い用紙)に変更される。すなわち、特殊な用紙が給紙対象であることに起因して到達所要時間(用紙の給紙開始から検知位置への用紙の到達までに要した時間)が長くなるのは一時的なものである。このため、ローラー部材の劣化による影響は低周波成分(最も低い周波数成分)として現れ、用紙の種類による影響は低周波成分よりも高い周波数成分として現れる。これにより、制御部によって生成される判定用データは、用紙の種類による影響が除去されたデータとなる。したがって、判定用データに基づき判定対象値を求め、当該求めた判定対象値を用いて判定処理を行うことにより、印刷位置への用紙の到達に遅延が発生するほどの劣化がローラー部材に生じていないにもかかわらず、ローラー部材が劣化していると誤判定されるのを抑制することができる。すなわち、必要ないにもかかわらず、画像形成処理の開始時点が所定時点よりも遅くなるよう設定されるのを抑制することができる。その結果、生産性が不必要に低下するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成では、画像形成装置の生産性が不必要に低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態による画像形成装置の構成を示す概略図
図2】本発明の一実施形態による画像形成装置の構成を示すブロック図
図3】本発明の一実施形態による画像形成装置にて行われる画像形成処理および給紙処理の各開始タイミングを示す図
図4】本発明の一実施形態による画像形成装置にて行われる画像形成処理および給紙処理の各開始タイミングを示す図
図5】本発明の一実施形態による画像形成装置にて行われる判定処理の流れを示すフローチャート
図6】本発明の一実施形態による画像形成装置にて行われる判定処理に用いる判定対象値の求め方について説明するための図
図7】本発明の一実施形態による画像形成装置にて行われる判定処理に用いる判定対象値の求め方について説明するための図
図8】本発明の一実施形態による画像形成装置にて行われる判定処理に用いる判定対象値の求め方について説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<画像形成装置の全体構成>
図1に示すように、本実施形態の画像形成装置100は、画像読取部1および印刷部2を備える。画像読取部1は、原稿を光学的に読み取って原稿の画像データを生成する。印刷部2は、印刷すべき画像(たとえば、原稿の画像データに基づく画像)を形成する。また、印刷部2は、印刷位置2A(転写ニップ)および定着位置2B(定着ニップ)を経由する用紙搬送路20に沿って用紙Pを搬送する。なお、用紙搬送路20は、印刷前の用紙Pが収容される用紙カセット21(「収容部」に相当)から印刷済みの用紙Pが排出される排出トレイ22に至る。そして、印刷部2は、印刷位置2Aを通過する用紙Pに対して画像を印刷する。
【0015】
印刷部2は、給紙部3、用紙搬送部4、画像形成部5および定着部6によって構成される。給紙部3は、ローラー部材30(ピックアップローラー31および給紙ローラー対32)を含む。そして、給紙部3は、用紙カセット21から用紙Pを引き出して用紙搬送路20に給紙する。用紙搬送部4は、用紙搬送路20に給紙された用紙Pを印刷位置2Aおよび定着位置2Bの順番で搬送する。この用紙搬送部4は、用紙搬送路20に沿って用紙Pを搬送するための搬送ローラー対41を複数含む。
【0016】
画像形成部5は、ブラック(Bk)、イエロー(Y)、シアン(C)およびマゼンタ(M)の各色にそれぞれ対応する機構部50Bk、50Y、50Cおよび50Mに分類される。機構部50Bk、50Y、50Cおよび50Mは、それぞれ、感光体ドラム51、帯電装置52、現像装置53および清掃装置54を1つずつ含む。また、画像形成部5は、各色共通で使用する露光装置55を含む。そして、画像形成部5は、各色のトナー像(印刷すべき画像)を形成する。
【0017】
また、画像形成部5は、中間転写ベルト56、1次転写ローラー57および2次転写ローラー58を含む。1次転写ローラー57は、感光体ドラム51との間で中間転写ベルト56を挟む。2次転写ローラー58は、中間転写ベルト56との間で転写ニップ(当該転写ニップの位置が印刷位置2Aとなる)を形成する。そして、画像形成部5は、まず、中間転写ベルト56にトナー像を1次転写する。その後、画像形成部5は、印刷位置2Aを通過する用紙Pにトナー像を2次転写する。
【0018】
定着部6は、加熱ローラー61および加圧ローラー62を含む。加熱ローラー61および加圧ローラー62は、互いに圧接することによって定着ニップ(当該定着ニップの位置が定着位置2Bとなる)を形成する。そして、定着部6は、定着位置2Bを通過する用紙Pを加熱および加圧することにより、用紙Pにトナー像を定着させる。
【0019】
なお、画像形成装置100には、操作パネル7が設けられる。操作パネル7は、各種設定をユーザーから受け付ける。
【0020】
また、図2に示すように、画像形成装置100は、制御部110、記憶部120および通信部130を備える。制御部110は、制御回路(CPUなど)やメモリーなどで構成され、画像形成装置100の全体制御を行う。また、制御部110は、画像読取部1の読取動作や印刷部2の印刷動作を制御する。
【0021】
さらに、制御部110は、操作パネル7の表示動作を制御するとともに、操作パネル7に対して行われた操作を検知する。たとえば、画像読取部1に原稿をセットし、操作パネル7のスタートキーに対して操作を行うと、コピージョブ(原稿を読み取って原稿の画像を用紙Pに印刷するジョブ)を実行することができる。
【0022】
記憶部120は、ROM(EEPROMなど)やHDDなどの不揮発性の記憶デバイスを含む。記憶部120には、種々の情報が記憶される。たとえば、制御部110により行われる判定処理に用いる情報が記憶部120に記憶される。なお、判定処理については、後に詳細に説明する。
【0023】
通信部130は、通信回路やメモリーを含む。たとえば、通信部130には、画像形成装置100のユーザーにより使用されるユーザー端末であるパーソナルコンピューター(PC)300が接続される。画像形成装置100(通信部130)にPC300を接続すると、PC300から画像形成装置100に対して、印刷すべき画像の画像データや印刷の実行指示などを含むジョブデータを送信することができる。すなわち、プリンタージョブ(PC300から送信した画像データに基づく画像を用紙Pに印刷するジョブ)を実行することができる。
【0024】
ここで、制御部110によって行われる印刷部2の印刷動作の制御としては、給紙部3による給紙処理(用紙搬送路20に用紙Pを給紙する処理)の制御や、画像形成部5による画像形成処理(印刷すべき画像を形成する処理)の制御などがある。
【0025】
給紙処理の制御として、制御部110は、給紙モーター201や給紙クラッチ202の駆動制御などを行う。なお、給紙モーター201は、ピックアップローラー31および給紙ローラー対32を回転させるためのモーターである。給紙クラッチ202は、ピックアップローラー31と給紙モーター201との間の接続および接続解除を切り替えるためのクラッチである。
【0026】
制御部110は、コピージョブやプリンタージョブを実行するとき、給紙モーター201の駆動を開始するとともに、給紙クラッチ202をオンすることによってピックアップローラー31と給紙モーター201との間を接続する。これにより、ピックアップローラー31および給紙ローラー対32が回転するので、用紙カセット21から用紙搬送路20への用紙Pの給紙が開始される。
【0027】
なお、実行すべきジョブの印刷枚数が複数枚である場合、制御部110は、1枚目の用紙Pの給紙後、給紙クラッチ202をオフすることによってピックアップローラー31と給紙モーター201との間の接続を解除する。これにより、ピックアップローラー31の回転が停止するので、先行用紙Pと後行用紙Pとが連なって給紙されることはない。
【0028】
その後、制御部110は、タイミングを計って、給紙クラッチ202を再度オンする。これにより、ピックアップローラー31が回転を再開するので、用紙カセット21から用紙搬送路20への2枚目の用紙Pの給紙が開始される。3枚目以降の用紙Pについても、給紙クラッチ202のオフからオンへの切り替えによって給紙が開始される。
【0029】
画像形成処理の制御として、制御部110は、画像形成部5による1次転写の開始タイミングの制御を行う(画像形成部5による1次転写の開始タイミングを早めたり遅らせたりする)。この制御を行うことにより、制御部110は、中間転写ベルト56に転写されたトナー像が印刷位置2Aに到達するタイミングと用紙Pが印刷位置2Aに到達するタイミングとを合わせる。すなわち、制御部110は、用紙Pに対する2次転写が適切なタイミングで行われるように制御する(用紙Pに転写されるトナー像の位置がずれないように制御する)。
【0030】
また、制御部110は、印刷部2の印刷動作を制御するため、用紙搬送路20に沿って搬送される用紙Pの搬送状態(たとえば、ジャムが発生しているか否か)を認識する。たとえば、制御部110には、搬送センサー20S(「検知部」に相当)が接続される。搬送センサー20Sは、発光部と受光部とを有する透過型の光センサーであり、用紙搬送路20の印刷位置2Aよりも用紙搬送方向上流側の位置を検知位置DP(図1参照)とし、検知位置DPにおける用紙Pの有無に応じて出力値を変化させる。そして、制御部110は、搬送センサー20Sの出力値に基づき検知位置DPにおける用紙Pの有無(用紙Pの先端到達および用紙Pの後端通過)を検知し、用紙Pの搬送状態を認識する。
【0031】
<給紙処理および画像形成処理の各開始時点>
制御部110は、コピージョブやプリンタージョブなど印刷を伴うジョブを実行するとき、画像形成装置100に入力された画像データを露光用制御データ(露光装置55の発光素子を点消灯させるためのデータ)に変換する。コピージョブでは、画像読取部1による原稿の読み取りによって得られた原稿の画像データが露光用制御データに変換される。プリンタージョブでは、PC300から送信された画像データが露光用制御データに変換される。そして、デフォルトの設定では、所定時点(デフォルト時点)になったときに、制御部110から印刷部2に対して露光用制御データが出力され、印刷部2による画像形成処理が開始される。その後、印刷部2による給紙処理が開始される。
【0032】
具体的には、図3に示すように、制御部110は、所定時点(図3ではT1で示す)になったとき、印刷部2に対して露光用制御データを出力する。制御部110から露光用制御データを受けると、印刷部2(露光装置55)は、感光体ドラム51の周面を露光することによって感光体ドラム51の周面上に静電潜像を形成する。また、印刷部2(現像装置53)は、感光体ドラム51の周面上の静電潜像にトナーを供給することによって静電潜像をトナー像に現像する。
【0033】
また、制御部110は、印刷部2(画像形成部5)による画像形成処理を所定時点T1で開始させて以降、所定時点T1よりも後の予め定められた給紙開始時点T2になると、印刷部2(給紙部3)による給紙処理を開始させる。たとえば、所定時点T1から給紙開始時点T2に至るまでの時間的な間隔は、中間転写ベルト56に転写されたトナー像が印刷位置2Aに到達するタイミングと用紙Pが印刷位置2Aに到達するタイミングとが合うよう予め設定される。すなわち、理想的には、給紙開始時点T2で給紙処理が開始された場合、時点P3(印刷位置2Aにトナー像が到達する時点)になると、用紙Pが印刷位置2Aに到達することになる。
【0034】
<画像形成処理の開始時点の補正>
ピックアップローラー31や給紙ローラー対32など用紙Pを給紙するための給紙部3のローラー部材30は、経時的に劣化していく。すなわち、給紙ローラー30の累積使用時間が長くなるほど、ローラー部材30の劣化が大きくなる。たとえば、ローラー部材30の周面が摩耗していく。
【0035】
そして、ローラー部材30が劣化すると(ローラー部材30の周面が摩耗すると)、ローラー部材30が用紙Pに対して滑り易くなる。このため、ローラー部材30の累積使用時間が長くなるほど(ローラー部材30の劣化が大きくなるほど)、用紙Pの給紙開始から印刷位置2Aへの用紙Pの到達までにかかる時間(給紙時間)が長くなる。すなわち、印刷位置2Aへの用紙Pの到達に遅延が発生する。
【0036】
このように、ローラー部材30が劣化し、印刷位置2Aへの用紙Pの到達に遅延が発生すると、図4に示すように、印刷位置2Aへの用紙Pの実際の到達時点T4が理想的な時点T3に対して遅れる。この場合には、用紙Pが印刷位置2Aに到達する前に、中間転写ベルト56に転写されたトナー像が印刷位置2Aに到達することになる。仮に、用紙Pの印刷位置2Aへの到達が遅れた場合には、形成したトナー像を一旦破棄するとともに、破棄したトナー像と同じトナー像を再形成し、再形成したトナー像を用紙Pに転写する必要がある。その結果、トナー消費量(無駄に消費されるトナー量)が増加してしまう。
【0037】
このため、制御部110は、画像形成処理の開始時点を補正する処理である補正処理を行う。具体的には、制御部110は、用紙搬送路20に用紙Pが給紙される毎に、用紙搬送路20への用紙Pの給紙開始から検知位置DPへの用紙Pの先端到達までに要した時間(到達所要時間)を計測するとともに、当該計測した計測値(時間)を記憶部120に記憶させる。すなわち、印刷部2が用紙Pを1枚給紙するごとに、記憶部120に記憶される計測値が1個増える。
【0038】
そして、制御部110は、計測値の累積個数が所定数になったとき、所定数の計測値に基づき、印刷位置2Aへの用紙Pの到達に遅延が発生するほどの劣化がローラー部材30に生じているか否かを判定する処理である判定処理を行う。言い換えると、制御部110は、補正処理が必要であるか否かを判定する。
【0039】
なお、制御部110は、計測値の累積個数(累積印刷枚数)が2の累乗になる毎に判定処理を行う。たとえば、計測値の累積個数が1024(=210)になった時点で1回目の判定処理が行われる構成の場合には、計測値の累積個数が2048(=211)になった時点で2回目の判定処理が行われ、計測値の累積個数が4096(=212)になった時点で3回目の判定処理が行われる。そして、3回目の判定処理が行われて以降も、計測値の累積個数2の累乗になる毎に判定処理が行われる。すなわち、制御部110は、記憶部120に記憶させた計測値の個数(印刷枚数)をカウントし、カウント数が2の累乗になった時点で判定処理を行う。この構成では、所定数は2の累乗である。
【0040】
ただし、画像形成装置100に対してメンテナンスサービスを提供するサービススタッフによって画像形成装置100のメンテナンスが行われ、それによってローラー部材30が交換された場合(あるいは、ローラー部材30が清掃された場合)、計測値の累積個数のカウント数はリセットされる。たとえば、ローラー部材30のメンテナンス(ローラー部材30の交換や清掃など)が行われた場合、画像形成装置100にリセット命令が入力される。なお、このリセット命令の入力は、操作パネル7がサービススタッフから受け付ける。そして、制御部110は、リセット命令を受けて、計測値の累積個数のカウント数をリセットする。
【0041】
以下に、図5に示すフローチャートを参照し、制御部110により行われる判定処理の流れについて説明する。図5に示すフローチャートは、計測値の累積個数が2の累乗になるとスタートする。
【0042】
ステップS1において、制御部110は、所定数の計測値に基づき、判定処理に用いる判定対象値を求める。なお、判定対象値の求め方については、後に詳細に説明する。その後、ステップS2において、制御部110は、判定対象値が予め定められた閾値を超えているか否かを判断する。その結果、判定対象値が閾値を超えていると制御部110が判断した場合には、ステップS3に移行する。
【0043】
なお、判定対象値が閾値を超えているということは、検知位置DPへの用紙Pの到達に遅延が発生しているということであり、印刷位置2Aへの用紙Pの到達に遅延が発生するほどの劣化がローラー部材30に生じているということである。したがって、判定対象値が閾値を超えている場合には、中間転写ベルト56に転写されたトナー像の印刷位置2Aへの到達タイミングと用紙Pの印刷位置2Aへの到達タイミングとにズレが生じる。
【0044】
したがって、ステップS3に移行すると、制御部110は、中間転写ベルト56に転写されたトナー像の印刷位置2Aへの到達タイミングと用紙Pの印刷位置2Aへの到達タイミングとを合わせるため、画像形成処理の開始時点を所定時点に対して遅らせる処理を補正処理として行う。このような補正処理が制御部110によって行われることにより、画像形成処理の開始時点が所定時点よりも遅い時点に設定される。これにより、中間転写ベルト56に転写されたトナー像の印刷位置2Aへの到達タイミングと用紙Pの印刷位置2Aへの到達タイミングとを合わせることができる。
【0045】
ステップS2において、判定対象値が閾値を超えていないと制御部110が判断した場合には、ステップS4に移行する。ステップS4に移行すると、制御部110は、補正処理を行わない。すなわち、この場合には、画像形成処理の開始時点がデフォルト時点のまま保持される。
【0046】
ここで、画像形成処理の開始時点を所定時点(デフォルト時点)よりも遅らせるとき(判定対象値が閾値を超えているとき)、判定対象値が大きいほど、所定時点に対する画像形成処理の開始時点のズレ時間(補正時間)をより大きくしてもよい。すなわち、判定対象値が大きいほど、画像形成処理の開始時点を所定時点に対してより遅くしてもよい。
【0047】
このように構成する場合には、たとえば、判定処理の判定基準となる閾値が複数段階に分類される。また、各段階の閾値にそれぞれ対応する補正時間が予め定められ、補正情報として記憶部120に記憶される。そして、複数段階の閾値のうちから判定対象値よりも値が小さい閾値を抽出する抽出処理が制御部110によって行われる。
【0048】
抽出処理により抽出した閾値が1つである場合、制御部110は、抽出した閾値に対応する補正時間だけ画像形成処理の開始時点を所定時点に対して遅らせる。また、抽出処理によって2つ以上の閾値を抽出した場合、制御部110は、2つ以上の閾値のうち値が最も大きい閾値を特定し、当該特定した閾値に対応する補正時間だけ画像形成処理の開始時点を所定時点に対して遅らせる。一方で、判定対象値よりも値が小さい閾値が存在しない場合には、判定対象値が最小の閾値を超えていないということであり、補正処理を行う必要はない。
【0049】
たとえば、第1閾値および第2閾値の2段階(第1閾値<第2閾値とする)に閾値が分類されているとする。また、画像形成処理の開始時点が所定時点に対して遅延されていない(画像形成処理の開始時点が所定時点に設定されている)とする。この例において、判定対象値が第1閾値以下であった場合(判定対象値が第1閾値を超えていなかった場合)には、補正処理は行われない。判定対象値が第1閾値よりも大きく第2閾値以下であった場合には、第1閾値に対応する補正時間だけ画像形成処理の開始時点が所定時点に対して遅延され、判定対象値が第2閾値よりも大きかった場合には、第2閾値に対応する補正時間だけ画像形成処理の開始時点が所定時点に対して遅延される。
【0050】
<判定処理に用いる判定対象値>
用紙カセット21には、様々な種類の用紙Pが収容される。たとえば、ローラー部材30に対して滑り易い用紙Pが用紙カセット21に収容された場合には、給紙時間がより長くなり、印刷位置2Aへの用紙Pの到達に遅延が発生する。
【0051】
しかし、ローラー部材30に対して滑り易い用紙Pが用紙カセット21に収容されることによって用紙Pの到達遅延が発生しても、以降に用紙カセット21に現在収容されている用紙Pが別の用紙Pに変更されると、用紙Pの到達遅延が解消される。すなわち、この場合に発生する用紙Pの到達遅延は、ローラー部材30の劣化によるものではない。このため、制御部110は、判定処理に用いる判定対象値を求めるとき(補正処理を行うか否かを判定するとき)、用紙Pの種類による影響が反映されないようにする。
【0052】
具体的には、制御部110は、判定処理に用いる判定対象値を求めるとき、所定数の計測値(用紙Pの給紙開始から検知位置DPへの用紙Pの到達までにかかった時間に対応する値)の推移を示すデータを生成する。ここで生成されるデータ(計測値の累計個数が4096になったときに生成されるデータ)の一例をグラフ化して図6に示す。なお、各計測値に対応する値を理論的な到達時間が0となるよう変換したものである。
【0053】
ここで、所定数の計測値の推移を示すデータをグラフ化すると複数の周波数成分が合成された波形データとなり、ローラー部材30の劣化による影響は低周波成分(最も低い周波数成分)として現れ、用紙Pの種類による影響は低周波成分よりも高い周波数成分として現れる。
【0054】
そこで、制御部110は、所定数の計測値の推移を示すデータに対してフーリエ変換を行う(複数の周波数成分に分解する)ことによって周波数特性を示す周波数特性データを生成する。フーリエ変換を行うことによって得られる周波数特性データの一例を図7に示す。その後、制御部110は、周波数特性データから最も低い周波数成分よりも高い周波数成分を除去したデータを生成し、当該生成したデータに対して逆フーリエ変換を行い、それによって得られる波形データを判定用データとして生成する。ここで生成される判定用データ(波形データ)の一例を図8に示す。
【0055】
判定用データを生成した後、制御部110は、判定用データに基づき判定対象値を求める。たとえば、制御部110は、判定用データで示される各サンプルの振幅を平均し、当該平均した平均値を判定対象値として求める。
【0056】
なお、判定用データで示される波形を所定の関数(たとえば、1次関数)で近似して近似式を求め、近似式に基づき判定対象値を求めてもよい。図8の図中に、1次関数で近似した近似式を示す。たとえば、制御部110は、近似式に基づき最終サンプル(直近に取得したサンプル)に対応する振幅を求め、当該求めた値を判定対象値とする。
【0057】
本実施形態では、上記のように、制御部110は、判定処理を行うとき、所定数の計測値の推移を示す波形データに対してフーリエ変換を行うことによって周波数特性を示す周波数特性データを生成した後、周波数特定データから最も低い周波数成分よりも高い周波数成分(たとえば、予め定められた周波数成分であってもよい)を除去したデータを生成し、当該生成したデータに対して逆フーリエ変換を行うことによって得られる判定用データを生成する。ここで、特殊な用紙P(ローラー部材30に対して滑り易い用紙P)が給紙対象となっていても、特殊な用紙Pは使用頻度が低いので、給紙対象は直ぐに通常の用紙P(特殊な用紙Pよりもローラー部材30に対して滑り難い用紙P)に変更される。すなわち、特殊な用紙Pが給紙対象となっていることに起因して到達所要時間(用紙Pの給紙開始から検知位置DPへの用紙Pの到達までに要した時間)が長くなるのは一時的なものである。したがって、ローラー部材30の劣化による影響は低周波成分(最も低い周波数成分)として現れ、用紙Pの種類による影響は低周波成分よりも高い周波数成分として現れる。このため、制御部110により生成される判定用データは、用紙Pの種類による影響が除去されたデータとなる。したがって、判定用データに基づき判定対象値を求め、当該求めた判定対象値を用いて判定処理を行うことにより、印刷位置2Aへの用紙Pの到達に遅延が発生するほどの劣化がローラー部材30に生じていないにもかかわらず、ローラー部材30が劣化していると誤判定されるのを抑制することができる。すなわち、必要ないにもかかわらず、画像形成処理の開始時点が所定時点よりも遅くなるよう設定されるのを抑制することができる。その結果、生産性が不必要に低下するのを抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、上記のように、制御部110は、計測値の累積個数が2の累乗になる毎に判定処理を行う。これにより、フーリエ変換を行うときの演算回数をNの2乗からN・Log2Nに削減することができる(「N」は計測値の個数である)。
【0059】
なお、画像形成処理の開始時点を所定時点(デフォルト時点)よりも遅くなるよう設定した状態で判定処理を行った結果、判定対象値が閾値以下になっていた場合、画像形成処理の開始時点を所定時点に戻す処理が補正処理として行われてもよい。このように構成すれば、たとえば、判定処理時に誤判定が発生し、それによって画像形成処理の開始時点が所定時点よりも遅くなるよう設定されたとしても(生産性が不必要に低下した状態になっても)、次回の判定処理時に画像形成処理の開始時点を所定時点に戻すことができる。
【0060】
今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0061】
2 印刷部
2A 印刷位置
20 用紙搬送路
20S 搬送センサー(検知部)
21 用紙カセット(収容部)
30 ローラー部材
110 制御部
120 記憶部
P 用紙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8