(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルカリ金属元素を含む第1コア部と、前記第1コア部を取り囲む第2コア部と、前記第2コア部を取り囲む第3コア部と、前記第3コア部を取り囲むとともに前記第1〜第3コア部の各屈折率より低い屈折率を有するクラッド部と、を備える光ファイバ母材を製造する方法であって、
塩素濃度の平均値が10原子ppm以上600原子ppm以下である第1ガラスパイプの内表面にアルカリ金属元素を添加する第1添加工程と、
加熱により前記第1添加工程後の前記第1ガラスパイプを中実化し、前記第1ガラスパイプから第1中間ロッドを作製する第1コラプス工程と、
前記第1中間ロッドの外周部分を除去することにより前記第1中間ロッドを小径化し、前記第1中間ロッドから前記第1コア部の一部を構成する第1コアロッドを作製する第1小径化工程と、
塩素濃度の平均値が10原子ppm以上600原子ppm以下である第2ガラスパイプの内表面にアルカリ金属元素を添加する第2添加工程と、
前記第1コアロッドを前記第2添加工程後の前記第2ガラスパイプの中に挿入した状態で、加熱により前記第1コアロッドと前記第2ガラスパイプとを一体化し、前記第1コア部となるべき第1ガラス領域と前記第2コア部となるべき第2ガラス領域とを含むロッドであって、前記第1ガラス領域は100原子ppm以上のアルカリ金属元素濃度を有し、前記第2ガラス領域は10原子ppm以下のアルカリ金属元素濃度を有する第2中間ロッドを作製する第2コラプス工程と、
前記第2中間ロッドの全部または一部により構成された第2コアロッドの外周上に、前記第3コア部となるべき領域であって、10原子ppm以下のアルカリ金属元素濃度と2,000原子ppm以上15,000原子ppm以下の塩素濃度を有する第3ガラス領域を付加し、前記第2コアロッドを含む第3中間ロッドを得る第1付加工程と、
前記第3中間ロッドの全部または一部により構成された第3コアロッドの外周上に、前記クラッド部となるべき第4ガラス領域を付加し、前記第3コアロッドを含む前記光ファイバ母材を得る第2付加工程と、
を備える光ファイバ母材製造方法。
前記第1コラプス工程において、前記第1ガラスパイプの中実化は、減圧状態に設定された、前記第1ガラスパイプの内部に酸素ガスを導入しながら行われる、請求項1に記載の光ファイバ母材製造方法。
前記第2コラプス工程において、前記第1コアロッドと前記第2ガラスパイプの一体化は、減圧状態に設定された、前記第2ガラスパイプの内部に酸素ガスを導入しながら行われる、請求項1または2に記載の光ファイバ母材製造方法。
前記第2コラプス工程後に行われる第2小径化工程をさらに含み、前記第2小径化工程は、前記第2中間ロッドの外周部分を除去することにより前記第2中間ロッドを小径化し、前記第2中間ロッドから前記第2コアロッドを作製する、請求項1〜3の何れか一項に記載の光ファイバ母材製造方法。
前記第1付加工程後に行われる第3小径化工程をさらに含み、前記第3小径化工程は、前記第3中間ロッドの外周部分を除去することにより前記第3中間ロッドを小径化し、前記第3中間ロッドから前記第3コアロッドを作製する、請求項1〜4の何れか一項に記載の光ファイバ母材製造方法。
前記第3コアロッドのうちアルカリ金属元素濃度が100原子ppm以上である領域の一部又は全部において、酸素分子濃度は、30mol・ppb以上200mol・ppb以下である、請求項1〜7の何れか一項に記載の光ファイバ母材製造方法。
前記コア母材のうちアルカリ金属元素濃度が100原子ppm以上である領域の一部又は全部において、酸素分子濃度は、30mol・ppb以上200mol・ppb以下である、請求項9〜11の何れか一項に記載の光ファイバ母材。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本実施形態に係る光ファイバ母材製造方法は、アルカリ金属元素を含む第1コア部と、第1コア部を取り囲む第2コア部と、第2コア部を取り囲む第3コア部と、第3コア部を取り囲むとともに第1〜第3コア部の各屈折率より低い屈折率を有するクラッド部と、を備える光ファイバ母材を製造する方法であり、第1〜第3コア部によりコア母材が構成される。当該光ファイバ母材製造方法は、第1添加工程と、第1コラプス工程と、第1小径化工程と、第2添加工程と、第2コラプス工程と、第1付加工程と、第2付加工程と、を少なくとも備える。上記第1添加工程では、塩素濃度の平均値が10原子ppm以上600原子ppm以下である第1ガラスパイプの内表面に、アルカリ金属元素が添加される。上記第1コラプス工程では、加熱により第1添加工程後の第1ガラスパイプが中実化される。この第1コラプス工程により、第1ガラスパイプから第1中間ロッドが作製される。上記第1小径化工程では、第1中間ロッドの外周部分を除去することにより第1中間ロッドが小径化される。この第1小径化工程により、第1中間ロッドから第1コア部の一部を構成する第1コアロッドが作製される。上記第2添加工程では、塩素濃度の平均値が10原子ppm以上600原子ppm以下である第2ガラスパイプの内表面に、アルカリ金属元素が添加される。上記第2コラプス工程では、第1コアロッドを第2添加工程後の前記第2ガラスパイプの中に挿入した状態で、加熱により第1コアロッドと第2ガラスパイプとが一体化される。この第2コラプス工程により、第1コア部となるべき第1ガラス領域と第2コア部となるべき第2ガラス領域とを含む第2中間ロッドが作製される。なお、この第2中間ロッドにおいて、第1ガラス領域は100原子ppm以上のアルカリ金属元素濃度を有する。また、第2ガラス領域は10原子ppm以下のアルカリ金属元素濃度を有する。上記第1付加工程では、第2中間ロッドの全部または一部により構成された第2コアロッドの外周上に、第3コア部となるべき第3ガラス領域が付加される。この第3ガラス領域は、10原子ppm以下のアルカリ金属元素濃度と、2,000原子ppm以上15,000原子ppm以下の塩素濃度を有する。この第1付加工程により、第2コアロッドを含む第3中間ロッドが得られる。また、上記第2付加工程では、第3中間ロッドの全部または一部により構成された第3コアロッドの外周上に、クラッド部となるべき第4ガラス領域が付加される。この第2付加工程により、第3コアロッドを含む光ファイバ母材が得られる。ここで、「原子ppm」とは、アルカリ金属や塩素、フッ素などの添加物のガラス中の濃度を示す単位の一つであり、100万個のSiO
2中に含まれる、原子の個数を意味する。
【0013】
上記の構成(1)には、以下の全ての構成およびこれら構成の全ての組み合わせが適用可能である。すなわち、第1コラプス工程において、第1ガラスパイプの中実化は、減圧状態に設定された、第1ガラスパイプの内部に酸素ガスを導入しながら行われるのが好適である。また、第2コラプス工程において、第1コアロッドと第2ガラスパイプの一体化は、減圧状態に設定された、第2ガラスパイプの内部に酸素ガスを導入しながら行われるのが好適である。当該光ファイバ母材製造方法は、第2コラプス工程後に行われる第2小径化工程をさらに備えてもよい。この第2小径化工程では、第2中間ロッドの外周部分を除去することにより第2中間ロッドが小径化される。その結果、第2中間ロッドから第2コアロッドが作製される。また、当該光ファイバ母材製造方法は、第1付加工程後に行われる第3小径化工程をさらに備えてもよい。この第3小径化工程では、第3中間ロッドの外周部分を除去することにより第3中間ロッドが小径化される。その結果、第3中間ロッドから第3コアロッドが作製される。さらに、第3コアロッドに含まれるOH基の平均濃度は、0.01wt・ppm以下であるのが好適である。さらに、アルカリ金属元素は、カリウムであるのが好適である。第3コアロッドのうちアルカリ金属元素濃度が100原子ppm以上である領域の一部又は全部において、酸素分子濃度は、30mol・ppb以上200mol・ppb以下であるのが好適である。ここで、「wt・ppm」とは、OH基などの添加物のガラス中の濃度を示す単位の一つであり、100万gのSiO
2中に含まれる、添加物の重量[g]を意味する。
【0014】
(2)また、本実施形態に係る光ファイバ母材は、例えば、上述のような本実施形態に係る光ファイバ母材製造方法(上述の全ての構成およびこれらの構成の全ての組み合わせにより規定される光ファイバ母材製造方法)により得られる。当該光ファイバ母材は、コア母材と、コア母材を取り囲むクラッド部を備える。コア母材は、少なくとも、当該コア母材の中心軸を含む第1コア部と、第1コア部を取り囲む第2コア部と、第2コア部を取り囲む第3コア部から構成されている。第1コア部は、最大値が500原子ppm以上5,000原子ppm以下のアルカリ金属元素濃度を有する。また、第1コア部において、当該第1コア部の半径方向に沿った、アルカリ金属元素の濃度分布は、少なくとも当該第1コア部の断面中心(第1コア部の断面と中心軸との交点)から所定距離だけ離間した2か所において極大となる形状(例えば、
図2や
図8)を有する。第2コア部は、10原子ppm以下のアルカリ金属元素濃度と10ppm以上600原子ppm以下の塩素濃度を有する。第3コア部は、10原子ppm以下のアルカリ金属元素濃度と2,000原子ppm以上15,000原子ppm以下の塩素濃度を有する。なお、コア母材全体において、アルカリ金属元素濃度の平均値は、7原子ppm以上70原子ppm以下であるのが好ましい。また、クラッド部の屈折率は、第1〜第3コア部の各屈折率よりも低い。
【0015】
上記の構成(2)には、以下の全ての構成およびこれら構成の全ての組み合わせが適用可能である。すなわち、アルカリ金属元素は、カリウムであるのが好適である。また、第1コア部および第2コア部の塩素濃度は、10原子ppm以上600原子ppm以下であるのが好適である。コア母材のうちアルカリ金属元素濃度が100原子ppm以上である領域の一部又は全部において、酸素分子濃度は、30mol・ppb以上200mol・ppb以下であるのが好適である。ここで、「mol・ppb」とは、酸素分子などの添加物のガラス中の濃度を示す単位の一つであり、100万molのSiO
2中に含まれる、添加物の分子量[mol]を意味する。コア母材におけるOH基の平均濃度は、0.01wt・ppm以下であるのが好適である。
【0016】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本実施形態に係る光ファイバ母材製造方法および光ファイバ母材の具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0017】
図1は、本実施形態に係る光ファイバ母材および光ファイバを製造する方法を説明するフローチャートである。本実施形態に係る光ファイバ母材製造方法は、準備工程S1、第1添加工程S2、第1縮径工程S3、第1エッチング工程S4、第1コラプス工程S5、第1小径化工程S6、第2添加工程S7、第2縮径工程S8、第2エッチング工程S9、第2コラプス工程S10、第2小径化工程S11、第3コラプス工程S12、コア延伸工程S13、第3小径化工程S14、第4コラプス工程S15、延伸工程S16および第2クラッド部付与工程S17を備え、これら工程を順に行うことで、光ファイバ母材を製造する。本実施形態に係る光ファイバ製造方法は、更に線引き工程S18を行うことで、光ファイバを製造することができる。以下では、具体的な製造条件の一例とともに光ファイバ母材製造方法および光ファイバ製造方法を説明する。
【0018】
準備工程S1では、第1ガラスパイプが用意される。第1ガラスパイプは、石英系ガラスからなる。また、この第1ガラスパイプにおいて、塩素(Cl)濃度は150原子ppmであり、フッ素(F)濃度は6,000原子ppmであり、その他のドーパント及び不純物の濃度は10mol・ppm以下である。また、この第1ガラスパイプは、35mmの外径と、20mmの内径を有する。
【0019】
第1添加工程S2では、第1ガラスパイプの内表面にアルカリ金属元素が添加される。具体的には、アルカリ金属原料として臭化カリウム(KBr)を用い、該臭化カリウムを熱源により温度840℃に加熱することでKBr蒸気を発生させる。そして、キャリアガスとして導入する1slm(標準状態にして1リットル/分)の酸素と共にKBr蒸気を第1ガラスパイプの中に導入しながら、外部から酸水素バーナによって第1ガラスパイプの表面が2150℃となるように該第1ガラスパイプが加熱される。この第1添加工程S2における加熱は、酸水素バーナを速さ40m/minでトラバースさせながら、合計15ターン行われ、この加熱によりカリウム元素が第1ガラスパイプの内表面に拡散していくことになる。
【0020】
第1縮径工程S3では、加熱により第1ガラスパイプが縮径される。具体的には、カリウム元素が添加された第1ガラスパイプの中に酸素(0.5slm)を流しながら、酸水素バーナによって第1ガラスパイプの外表面が2250℃となるように該第1ガラスパイプが加熱される。この第1縮径工程S3における加熱は、酸水素バーナを複数回トラバースさせながら行われ、その内径が5mmになるまで第1ガラスパイプが縮径される。
【0021】
第1エッチング工程S4では、第1添加工程S2においてアルカリ金属元素の添加の際に同時に添加されてしまうNiやFeなどの遷移金属元素やOH基を除去するため、第1ガラスパイプの内面がエッチングされる。具体的には、第1ガラスパイプの内面へのエッチングは、気相エッチングであり、この気相エッチングは、カリウム元素が添加された第1ガラスパイプの中にSF
6(0.2slm)および酸素(0.5slm)の混合ガスを導入しながら、酸水素バーナで第1ガラスパイプを加熱することで行われる。
【0022】
第1コラプス工程S5では、第1ガラスパイプが中実化され、これにより第1中間ロッド(第1コラプス工程S5で作製されるガラスロッド)が作製される。具体的には、第1エッチング工程S4後の第1ガラスパイプの中が絶対圧97kPa以下に減圧された状態で、酸素(2slm)が第1ガラスパイプの中に導入される。このような減圧状態での酸素導入と並行して、酸水素バーナにより第1ガラスパイプの表面温度を2150℃まで加熱することで、第1ガラスパイプが中実化される。これにより、25mmの直径を有する、カリウム元素が添加された第1中間ロッドが作製される。
【0023】
第1小径化工程S6では、第1コラプス工程S5で作製された第1中間ロッドの外周部分を除去することにより、小径化された第1コアロッド(第1小径化工程S6で製造される第1ガラスロッド)が作製される。具体的には、第1コラプス工程S5で作製された第1中間ロッドのうち直径5mmの中心部分が、穿孔によって刳り貫かれることにより第1コアロッドとなる。また、第1コアロッドは、第1コラプス工程S5で作製された第1中間ロッドの中心部分を残してその外周部分を研削によって除去することでも得られる。ここで作製される第1コアロッドの表層部のカリウム濃度は100原子ppmである。
【0024】
第2添加工程S7では、第2ガラスパイプの内表面にカリウム元素が添加される。第2ガラスパイプは、第1ガラスパイプの同様の石英系ガラスからなる(第1および第2ガラスパイプの屈折率はほぼ一致している)。第2ガラスパイプへのカリウム元素の添加は、第1添加工程S2と同様にして行われる。
【0025】
第2縮径工程S8では、第2ガラスパイプが加熱により縮径される。具体的には、カリウム元素が添加された第2ガラスパイプの中に酸素(0.5slm)を流しながら、酸水素バーナによって第2ガラスパイプの外表面が2250℃となるように該第2ガラスパイプが加熱される。この第2縮径工程S8における加熱は、酸水素バーナを6回トラバースさせながら行われる。縮径後の第2ガラスパイプの内径は、第1小径化工程S6で製造された第1コアロッドの外径より0.1mm〜1mm程度大きい。
【0026】
第2エッチング工程S9では、第2添加工程S7においてアルカリ金属元素の添加の際に同時に添加されてしまうNiやFeなどの遷移金属元素やOH基を除去するため、第2ガラスパイプの内面がエッチングされる。具体的には、第2ガラスパイプの内面へのエッチングは、気相エッチングであり、この気相エッチングは、カリウム元素が添加された第2ガラスパイプの中にSF
6(0.2slm)および酸素(0.5slm)の混合ガスが導入しながら、酸水素バーナにより第2ガラスパイプを加熱することにより行われる。
【0027】
第2コラプス工程S10では、第1小径化工程S6で製造された第1コアロッドが第2エッチング工程S9後の第2ガラスパイプの中に挿入される。その後、第1コアロッドと第2ガラスパイプとを加熱により一体化するロッドインコラプス法により、第2中間ロッド(第2コラプス工程S10で作製されるガラスロッド)が作製される。具体的には、第2コラプス工程S10では、第1コラプス工程S5と同様に、第2ガラスパイプの中が絶対圧97kPa以下に減圧された状態で、酸素(2slm)が第2ガラスパイプの中に導入される。このような減圧状態での酸素導入と並行して、酸水素バーナにより第2ガラスパイプの表面温度を2150℃まで加熱することによりロッドインコラプス(第1コアロッドと第2ガラスパイプの一体化)が行われる。
【0028】
第2小径化工程S11では、第2コラプス工程S10で作製された第2中間ロッドの外周部分が除去され、それにより、第2コアロッド(第2小径化工程S11で作製される第2ガラスロッド)が作製される。なお、第2中間ロッドの外周部分は、当該外周部分に対する機械的または化学的な研削により除去可能である。また、係る外周部分は、穿孔によって刳り貫かれた第2中間ロッドの中心部分(第2コアロッドとなる部分)から物理的に切り離されることによっても除去可能である。ここで作製される第2コアロッドの直径は16mmである。また、第2コアロッドは、全体的にカリウム元素が添加された状態とはなっておらず、少なくとも第2コアロッドの外周領域において、カリウム元素は意図的には添加されていない。すなわち、この第2コアロッドは、第1コア部(ロッド内側に位置する第1ガラス領域)と、第1コア部を取り囲む第2コア部(ロッド外側に位置する第2ガラス領域)と、を有し、第1コア部は、150原子ppmの塩素濃度と6,000原子ppmのフッ素濃度を有するとともに、カリウム元素を含む。一方、第2コア部は、150原子ppmの塩素濃度と6,000原子ppmのフッ素濃度を有するが、当該第2コア部におけるカリウム元素濃度は10原子ppm以下であり、第2コア部は実質的にカリウム元素を含まない。したがって、第1コア部の屈折率と第2コア部の屈折率はほぼ一致している。なお、第1コア部におけるカリウム元素の濃度分布は、第1添加工程に起因する第1の濃度ピーク(極大値)を中心軸付近に有するとともに、第2添加工程に起因する第2の濃度ピークを第1のピークを取り囲む円周上に有する。
【0029】
第3コラプス工程S12では、第2コアロッドの外周上に第3コア部(第3ガラス領域)が付加される。具体的には、この工程では、塩素濃度が12,000原子ppmであり塩素以外の添加物を実質的に含まない石英系ガラスからなる第3ガラスパイプ(第1および第2ガラスパイプの屈折率よりも高い屈折率を有する)が準備される。準備された第3ガラスパイプの中に第2コアロッドが挿入された状態で、加熱によりこれら第3ガラスパイプおよび第2コアロッドが一体化される。このようなロッドインコラプス法により、第2コアロッドの外周上に第3コア部が付加され、これにより第3中間ロッド(第3コラプス工程S12で作製される第3ガラスロッド)が作製される。この第3中間ロッドは、光ファイバのコアとなる部分である。
【0030】
コア延伸工程S13では、第3コラプス工程S12で作製された第3中間ロッドが加熱されながら延伸される。その結果、第3中間ロッドの外径は27mmになる。
【0031】
第3小径化工程S14では、コア延伸工程S13で延伸された第3中間ロッドの外周部分が除去され、20mmの直径を有する第3コアロッド(第3小径化工程S14で作製されるコアロッド)、すなわちコア母材が作製される。なお、第3中間ロッドの外周部分は、当該外周部分に対する機械的または化学的な研削により除去可能である。また、係る外周部分は、穿孔によって刳り貫かれた第3中間ロッドの中心部分(第3コアロッドとなる部分)から物理的に切り離されることによっても除去可能である。
【0032】
このコア母材(第3小径化工程S14で作製されたコアロッド)は、第1コア部と、第1コア部を取り囲む第2コア部と、第2コア部を取り囲む第3コア部と、を有する。第1コア部はカリウム元素を含む。また、この第1コア部において、塩素濃度は150原子ppmであり、フッ素濃度は6,000原子ppmである。第2コア部において、塩素濃度は150原子ppmであり、フッ素濃度は6,000原子ppmであり、カリウム元素濃度は10原子ppm以下である。第3コア部において、塩素濃度は12,000原子ppmであり、カリウム濃度は10原子ppm以下である。第2コア部および第3コア部は実質的にカリウム元素を含まない。コア母材の一部を構成する第1コア部の径とコア母材の径(20mm)との比は5倍である。
【0033】
コア母材に含まれるOH基の濃度は平均0.01wt・ppm以下である。コア母材を含む光ファイバ母材を公知の方法で線引することで光ファイバを製造した場合、波長1.38μm帯におけるOH基の吸収による伝送損失の増加が、1dB/km未満となる。また、OH基の濃度は平均0.001wt・ppm以下が更に好ましい。このとき、製造された光ファイバにおいて、波長1.38μm帯におけるOH基の吸収による伝送損失の増加は、0.1dB/km未満となる。
【0034】
第4コラプス工程S15では、第3コア部(コア母材としての第3コアロッドに相当)の外周上に第1クラッド部が付加される。具体的には、この工程では、フッ素が添加された石英系ガラスからなる第4ガラスパイプ(第1〜第2ガラスパイプの屈折率よりも低い屈折率を有する)が準備される。この第4ガラスパイプの中にコア母材が挿入された状態で、これら第4ガラスパイプおよびコア母材が加熱により一体化される。このようなロッドインコラプス法により、第3コア部の外周上に第1クラッド部が付加される。第1〜第3コア部を含むコア母材と第1クラッド部との相対比屈折率差は最大で0.34%程度である。
【0035】
延伸工程S16では、第4コラプス工程S15においてコア母材および第4ガラスパイプが一体化された第4中間ロッド(第4コラプス工程S15で作製されたガラスロッド)が加熱されながら延伸される。なお、この第4中間ロッドの延伸は、線引き工程S18で製造される光ファイバのコアの径を所望値にするための、該第4中間ロッドの径調整が目的である。
【0036】
第2クラッド部付与工程S17では、第1クラッド部の外周上に第2クラッド部が付加される。具体的には、この工程では、延伸工程S16後の第4中間ロッドの外周上に、OVD法、VAD法、ロッドインコラプス法等により、フッ素が添加された石英系ガラスからなる第2クラッド部の合成が行われ、これにより光ファイバ母材が製造される。なお、以上の工程を経て製造された光ファイバ母材において、第1コア部の屈折率と第2コア部の屈折率はほぼ一致し、第3コア部の屈折率は第1および第2コア部の屈折率よりも高く、かつ、第1クラッド部および第2クラッド部の屈折率は、第1〜第3コア部の各屈折率よりも低い。
【0037】
線引き工程S18では、以上の工程を経て製造された光ファイバ母材を線引きすることで、所望の光ファイバが製造される。
【0038】
図2は、本実施形態に係る光ファイバ母材製造方法の第2コラプス工程S10で作製された第2中間ロッドのカリウム濃度分布の一例である。この一例において、ピークカリウム濃度は1,390原子ppmである。製造された光ファイバ母材の一部を構成するコア母材において、平均カリウム濃度は18原子ppmであり、ピークカリウム濃度は1,390原子ppmである。製造された光ファイバ(線引き後の光ファイバ)の、波長1550nmでの伝送損失は0.150dB/kmである。
【0039】
これまで説明してきた本実施形態に係る光ファイバ母材製造方法は、二重にカリウム元素を添加するので、以下、本実施形態に係る製造方法を「二重K添加法」と記す。これに対して、以下に説明する比較例の光ファイバ母材製造方法は、一回のみカリウムを添加するので、以下、比較例に係る製造方法を「一回K添加法」と記す。
【0040】
比較例の光ファイバ母材製造方法は、準備工程S21(
図1の準備工程S1に対応)、第1添加工程S22(
図1の第1添加工程S2に対応)、第1縮径工程S23(
図1の第1縮径工程S3に対応)、第1エッチング工程S24(
図1の第1エッチング工程S4に対応)、第1コラプス工程S25(
図1の第1コラプス工程S5に対応)、第1研削工程S26(
図1の第2小径化工程S11に対応)、第2コラプス工程S27(
図1の第3コラプス工程S12に対応)、コア延伸工程S28(
図1のコア延伸工程S13に対応)、第2研削工程S29(
図1の第3小径化工程S14に対応)、第3コラプス工程S30(
図1の第4コラプス工程S15に対応)、延伸工程S31(
図1の延伸工程S16に対応)および第2クラッド部付与工程S32(
図1の第2クラッド部付与工程S17に対応)を備え、これら工程を順に行うことで、光ファイバ母材を製造する。比較例の光ファイバ製造方法は、更に線引き工程S33(
図1の線引工程S18に対応)を行うことで、光ファイバを製造することができる。以下でも、具体的な製造条件の一例とともに光ファイバ母材製造方法および光ファイバ製造方法を説明する。
【0041】
比較例における準備工程S21、第1添加工程S22、第1縮径工程S23、第1エッチング工程S24および第1コラプス工程S25は、それぞれ、本実施形態(
図1)における準備工程S1、第1添加工程S2、第1縮径工程S3、第1エッチング工程S4および第1コラプス工程S5と同様である。
【0042】
第1研削工程S26では、第1コラプス工程S25で作製された第1中間ロッド(ガラスロッド)の外周部分が研削され、これにより第1コアロッド(第1ガラスロッド)が作製される。ここで作製される第1コアロッドの直径は16mmである。また、第1コアロッドは、全体的にカリウム元素が添加された状態とはなっておらず、少なくとも第1コアロッドの外周領域において、カリウム元素は意図的には添加されていない。すなわち、この第1コアロッドは、第1コア部(ロッド内側の位置する第1ガラス領域)と、第1コア部を取り囲む第2コア部(ロッド外側に位置する第2ガラス領域)と、を有し、第1コア部は、150原子ppmの塩素濃度と6,000原子ppmのフッ素濃度を有するとともに、カリウム元素を含む。一方、第2コア部は、150原子ppmの塩素濃度と6,000原子ppmのフッ素濃度を有するが、当該第2コア部におけるカリウム元素濃度は10原子ppm以下であり、第2コア部は実質的にカリウム元素を含まない。
【0043】
第2コラプス工程S27では、第1コアロッドの外周上に第3コア部が付加される。具体的には、この工程では、塩素濃度が13,000原子ppmであり塩素以外の添加物を実質的に含まない石英系ガラスからなる第2ガラスパイプが準備される。この準備された第2ガラスパイプの中に第1コアロッドが挿入された状態で、これら第2ガラスパイプおよび第1コアロッドが加熱により一体化される。このようなロッドインコラプス法により、第1コアロッドの外周上に第3コア部が付加され、これにより第2中間ロッドが作製される。この第2中間ロッドは、光ファイバのコア母材となる部分である。
【0044】
コア延伸工程S28では、第2コラプス工程S27で作製された第2中間ロッドが加熱されながら延伸される。その結果、第2中間ロッドの外径は27mmになる。
【0045】
第2研削工程S29では、コア延伸工程S28で延伸された第2中間ロッドの外周部分が研削され、20mmの直径を有するコア母材が作製される。
【0046】
このコア母材は、カリウム元素を含む第1コア部と、第1コア部を取り囲む第2コア部と、第2コア部を取り囲む第3コア部と、を有する。カリウム元素を含む第1コア部において、塩素濃度は150原子ppmであり、フッ素濃度は6,000原子ppmである。第2コア部において、塩素濃度は150原子ppmであり、フッ素濃度は6,000原子ppmであり、カリウム元素濃度は10原子ppm以下である。第3コア部において、塩素濃度は12,000原子ppmであり、カリウム濃度は10原子ppm以下である。このように第2コア部および第3コア部は実質的にカリウム元素を含まない。コア母材の一部を構成する第1コア部の径とコア母材の径(20mm)との比は5倍である。
【0047】
第3コラプス工程S30では、第3コア部の外周上に第1クラッド部が付加される。具体的には、この工程では、フッ素が添加された石英系ガラスからなる第3ガラスパイプが準備される。この準備された第3ガラスパイプの中にコア母材を挿入した状態で、これら第3ガラスパイプおよびコア母材が加熱により一体化される。このようなロッドインコラプス法により、第3コア部の外周上に第1クラッド部が付加される。第1〜第3コア部を含むコア母材と第1クラッド部との相対比屈折率差は最大で0.34%程度である。
【0048】
延伸工程S31では、第3コラプス工程S30においてコア母材および第3ガラスパイプが一体化された第3中間ロッドが加熱されながら延伸される。なお、この第3中間ロッドの延伸は、線引き工程S33で製造される光ファイバのコアの径が所望値にするための、該第3中間ロッドの径調整が目的である。
【0049】
第2クラッド部付与工程S32では、第1クラッド部の外周上に第2クラッド部が付加される。具体的には、この工程では、延伸工程S31後の第3中間ロッドの外周上に、OVD法、VAD法、ロッドインコラプス法等により、フッ素が添加された石英系ガラスからなる第2クラッド部が合成される。これにより光ファイバ母材が製造される。
【0050】
線引き工程S33では、以上の工程を経て製造された光ファイバ母材が線引きされることにより、光ファイバが製造される。
【0051】
図3は、比較例の光ファイバ母材製造方法の第1コラプス工程S25で作製された第1中間ロッドのカリウム濃度分布の一例である。
図3に示された例において、ピークカリウム濃度は1,250原子ppmである。製造された光ファイバ母材の一部を構成するコア母材において、平均カリウム濃度は8原子ppmであり、ピークカリウム濃度は830原子ppmである。製造された光ファイバの波長1550nmでの伝送損失は0.154dB/kmである。
【0052】
以上のような本実施形態に係る光ファイバ母材製造方法(二重K添加法)および比較例の光ファイバ母材製造方法(一回K添加法)それぞれにより、光ファイバ母材の一部を構成するコア母材における平均カリウム濃度を様々な値に設定して光ファイバ母材のサンプルが複数製造された。製造された複数サンプルの各コア母材におけるピークカリウム濃度、および、波長1550nmにおける光ファイバの伝送損失の測定結果が
図4〜
図6に示されている。
【0053】
図4は、二重K添加法(本実施形態)により製造された光ファイバ母材の複数サンプルと一回K添加法(比較例)により製造された光ファイバ母材の複数サンプルそれぞれについて、コア母材(光ファイバ母材の一部を構成)における平均カリウム濃度、当該コア母材におけるピークカリウム濃度、および、波長1550nmにおける光ファイバの伝送損失を纏めた表である。この表において、「*」印は、コア母材におけるガラスの結晶化が多発してファイバ化が困難であったことを示す。
【0054】
図5は、二重K添加法(本実施形態)により製造された光ファイバ母材の複数サンプルと一回K添加法(比較例)により製造された光ファイバ母材の複数サンプルそれぞれについて、コア母材におけるピークカリウム濃度と、波長1550nmにおける光ファイバの伝送損失との関係を示すグラフである。
図6は、二重K添加法(本実施形態)により製造された光ファイバ母材の複数サンプルと一回K添加法(比較例)により製造された光ファイバ母材の複数サンプルそれぞれについて、コア母材における平均カリウム濃度と、コア母材におけるピークカリウム濃度との関係を示すグラフである。なお、
図5および
図6それぞれにおいて、「●」印は、本実施形態の二重K添加法により製造された光ファイバ母材の例を示し、「◇」印は、比較例の一回K添加法により製造された光ファイバ母材の例を示している。
【0055】
これら
図4〜
図6から判るように、コア母材のピークカリウム濃度を大きくすることで、伝送損失が低減され得る。また、本実施形態に係る光ファイバ母材の複数サンプルと比較例に係る光ファイバ母材の複数サンプルとの対比から判るように、同一ピークカリウム濃度であっても、本実施形態の二重K添加法により光ファイバ母材を製造することで、線引きされた光ファイバの伝送損失は低減され得る。
【0056】
コア母材におけるピークカリウム濃度が5,000原子ppmを超えると、コア母材内で結晶が発生し易くなり、線引きが困難となる。本実施形態によれば、比較例と比べて、コア母材におけるピークカリウム濃度を5,000原子ppm以下に抑えつつ、コア母材全体における平均カリウム濃度を大きくすることができる。
【0057】
本実施形態の二重K添加法において使用される第1および第2ガラスパイプ(いずれもアルカリ金属元素が添加されている)、ならびに、比較例の一回K添加法)において使用される第1ガラスパイプ(アルカリ金属元素が添加されている)に関し、塩素濃度が10原子ppm未満である場合は、これらのガラスパイプを使用して製造される光ファイバの伝送損失は大きくなる。この理由は、光ファイバ母材を紡糸する工程においてガラス欠陥が多発するからであると考えられる。一方、これらのガラスパイプにおいて塩素濃度が600原子ppm以上である場合は、不良品の発生頻度が増える。この理由は、光ファイバ母材の製造の際にアルカリ金属元素と塩素元素とが反応して、結晶の原因となる塩化物が発生し易くなったからであると考えられる。よって、これらのガラスパイプにおける塩素濃度は、10原子ppm以上600原子ppm以下であるのが望ましく、より望ましくは30原子ppm以上400原子ppm以下が良い。なお、塩素濃度の平均値が上記の好適範囲に入っている第1ガラスパイプ、第2ガラスパイプであれば、本実施形態で利用可能である。
【0058】
本実施形態に係る光ファイバ母材製造方法(二重K添加法)における第3コラプス工程S12、および、比較例に係る光ファイバ母材製造方法(一回K添加法)における第2コラプス工程S27のように、アルカリ金属元素が添加された第1コア部の外側に、平均塩素濃度が2,000原子ppm以上15,000原子ppm以下である石英ガラスからなる第3コア部が付与されるのが好ましい。このような第3コア部の付与により、線引きされた光ファイバの伝送損失は低減され得る。この理由は、線引き中に発生するアルカリ金属添加ガラス領域で発生するガラス欠陥を塩素が修復するからであると考えられる。ただし、塩素濃度を高くし過ぎると、高濃度に塩素が添加されたガラス領域の付与後の光ファイバ母材製造過程中で、結晶化の原因となる塩化物が発生する。したがって、第3コア部の塩素濃度は、15,000原子ppm以下であるのが望ましく、より望ましくは5,000原子ppm以上14,000原子ppm以下が良い。
【0059】
本実施形態に係る光ファイバ母材の一部を構成するコア母材は、塩素濃度が10原子ppm以上600原子ppm以下であってアルカリ金属元素を含む第1コア部と、塩素濃度が2,000原子ppm以上15,000原子ppm以下でありアルカリ金属元素が10原子ppm以下である第3コア部との間に、塩素濃度が10原子ppm以上600原子ppm以下でありアルカリ金属濃度が10原子ppm以下である第2コア部が設けられるのが好ましい。第2コア部および第3コア部は実質的にアルカリ金属元素を含まない。これは、コア母材製造工程以降に行われる線引き工程等の加熱工程において、第1コア部に添加されたアルカリ金属元素が、塩素濃度の高い第3コア部まで拡散してしまうことで、結晶の核となる塩化物になることを防ぐためである。
【0060】
したがって、本実施形態に係る光ファイバ母材1は、
図7に断面図が示されるように、光ファイバのコア領域となるコア母材10と、光ファイバのクラッド領域となるクラッド部20とを備え、石英系ガラスからなる光ファイバ母材であって、以下のような特徴を有する。すなわち、コア母材10は、中心軸AXから半径方向rに沿って順に、該中心軸AXを含む第1コア部(コア母材10の中心領域)11と、第1コア部11に外接する第2コア部(コア母材10の中間領域)12と、第2コア部12に外接する第3コア部(コア母材10の外周領域)13とを少なくとも有する。第1コア部11において、ピークのアルカリ金属元素濃度は500原子ppm以上5,000原子ppm以下であり、塩素濃度は10原子ppm以上600原子ppm以下である。第2コア部12において、アルカリ金属元素濃度は10原子ppm以下であり、塩素濃度は10以上600原子ppm以下である。第3コア部13において、アルカリ金属元素濃度は10原子ppm以下であり、塩素濃度は2,000原子ppm以上である。すなわち、第1コア部11の屈折率と第2コア部12の屈折率はほぼ一致しており、第3コア部13の屈折率は第1および第2コア部11、12の屈折率よりも高い。また、クラッド部20の屈折率は、フッ素が添加されており、第1〜第3コア部11〜13の各屈折率よりも低く設定されている。
【0061】
なお、
図8には、
図7に示された光ファイバ母材1に含まれるコア母材10におけるアルカリ金属元素の濃度分布の例が示されている。具体的には、
図8の濃度分布は、当該コア母材10の半径方向r(当該コア母材10の断面において、中心軸AXから当該コア母材10の外周面に向かう方向)に沿ったK濃度の分布である。本実施形態では、
図1に示されたように、第1添加工程S2および第2添加工程S7においてカリウム元素の添加(K添加)が実施されるため、第1コア部11における濃度分布は、断面中心(第1コアの断面と中心軸AXとの交点)から距離aだけ離れた中心軸AXの近傍と、距離bだけ離れた第1コア部11の外周部分の2か所において極大となる形状を有する。
【0062】
本実施形態に係る光ファイバ母材製造方法における第1コラプス工程S5や第2コラプス工程S10において、アルカリ金属元素が内面に添加されたガラスパイプを中実化またはロッドインコラプスする際は、酸素雰囲気中で実施されるのが好ましい。これは、酸素が少ない雰囲気では、酸素欠乏型欠陥(oxygen deficient center: ODC, ≡Si−Si≡)に代表される点欠陥がガラス中に多く残留し、光ファイバの伝送損失の増加の原因となるからと推測される。よって、アルカリ金属元素が添加されたガラス部では特にガラス欠陥が発生し易いので、アルカリ金属濃度が100原子ppm以上であるガラス領域の一部又は全部で、ガラス中に含まれる酸素分子の濃度は30mol・ppb以上であることが好ましい。一方、酸素残留量が多すぎても、非架橋酸素欠乏欠陥(non-bridging oxygen hole center: NBOHC, ≡Si−O・)等のガラス欠陥が発生し易くなると推測されるので、ガラス中に含まれる酸素分子の濃度は200mol・ppb以下であることが好ましい。