(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ガスバリア性フィルム]
本発明者らは、透明性および水蒸気遮断性が高い良好なガスバリア性フィルムを得ることを目的として鋭意検討を重ね、高分子フィルム基材の少なくとも片側に、亜鉛化合物とケイ素化合物とを含有するガスバリア層を有するガスバリア性フィルムであって、該ガスバリア層の亜鉛(Zn)原子およびケイ素(Si)原子の含有比率(Zn/Si)が、前記高分子フィルム基材との界面側から前記ガスバリア層の表面にかけて増大する特定の傾斜構造を有する構成にしたところ、前記課題を一挙に解決することを見出したものである。
【0012】
この様な傾斜構造を有することにより、やわらかい亜鉛原子が界面側から表層側にかけて、相対的に徐々に増加することになるため、割れにくく屈曲性に優れたガスバリア性フィルムとなり、かつ、このような傾斜構造を有することにより、界面側と表層側とでガスバリア層の組成が異なるにもかかわらず、急峻な膜質の変化がないことから欠陥の少ないガスバリア性フィルムが得られる。
【0013】
ここでいう傾斜構造とは、該ガスバリア層において、X線光電子分光法(XPS)により亜鉛(Zn)原子およびケイ素(Si)原子の含有比率(Zn/Si)を深さ方向に15nm間隔で求めた値を、a0,a1,a2,a3・・・an(a0はガスバリア層の最表面側の測定点での値、anはガスバリア層の最も高分子フィルム基材との界面に近い側の測定点での値)としたとき、すべての点が、下記式を満たすことをいう。
【0014】
0.8≧ai−a(i+1)>0
(式中iは、0以上n−1以下の整数を表す)
なお、X線光電子分光法(XPS)により亜鉛(Zn)原子およびケイ素(Si)原子の含有比率(Zn/Si)を深さ方向に15nm間隔で求める方法については、後述の「X線光電子分光法(XPS)による深さ方向分析」に詳細を説明する。
図1は、本発明のガスバリア性フィルムの一例を示す断面図である。本発明のガスバリア性フィルムは、
図1に示すように、高分子フィルム基材1の表面に、亜鉛化合物とケイ素化合物とを含有するガスバリア層が配置されている。このガスバリア層は高分子フィルム基材1の両面に配置されていてもよい。
【0015】
前記ガスバリア層の亜鉛(Zn)原子およびケイ素(Si)原子の含有比率(Zn/Si)が、前記高分子フィルム基材との界面側から前記ガスバリア層の表面にかけて増大する傾斜構造を有するガスバリア層を配置したところ、傾斜構造を有さない構造では達成できない密着性および柔軟性を有するガスバリア性フィルムが得られることを見出した。
【0016】
前記ガスバリア層は、高分子フィルム基材との界面側にケイ素(Si)原子が多く、前記ガスバリア層の表面側に亜鉛(Zn)原子が多いような組成傾斜を有する構造にした場合、前記ガスバリア層の表層側にやわらかい亜鉛(Zn)原子が相対的に多く存在することで、屈曲性に優れたガスバリア性フィルムとなる。また、高分子フィルム基材との界面側にケイ素(Si)原子が相対的に多く存在することで、高分子フィルム基材と前記ガスバリア層との間の密着性が向上する。
【0017】
前記高分子フィルム基材との界面側では、ガスバリア層の亜鉛(Zn)原子およびケイ素(Si)原子の含有比率(Zn/Si)が0.5〜4であることが好ましい。含有比率(Zn/Si)が0.5未満であった場合、層内部の二酸化ケイ素のガラス質部分が多くなり、ガスバリア性フィルムの柔軟性が低下する場合がある。一方、含有比率(Zn/Si)が4より大きい場合、界面付近にケイ素(Si)原子が不足することで、密着性が低下する場合がある。
【0018】
一方、ガスバリア層の表面では、ガスバリア層の亜鉛(Zn)原子およびケイ素(Si)原子の含有比率(Zn/Si)が1.5〜11であることが好ましい。含有比率(Zn/Si)が1.5未満であった場合、ガスバリア層表面付近にはやわらかい亜鉛(Zn)原子が不足しているために、ガスバリア性フィルムの柔軟性に乏しくなる場合がある。含有比率(Zn/Si)が11より大きい場合、亜鉛(Zn)原子がクラスターを形成しやすくなり、酸化物が不足することから、欠陥・空隙部分が増加する場合がある。さらに、所望の水蒸気遮断性を有することから、ガスバリア層の含有比率(Zn/Si)は、前記高分子フィルム基材との界面側では0.65以上、ガスバリア層の表面では4以下であることがより好ましい。
【0019】
ガスバリア層の傾斜構造に関して、高分子フィルム基材との界面側からガスバリア層の表面側にかけて、亜鉛(Zn)原子濃度が2〜15atom%増加することが好ましい。この際、亜鉛(Zn)原子濃度の差が2atom%未満であると、高分子フィルム基材との界面側とガスバリア層の表面側の層の質が一定となり、本発明の効果が得られない場合がある。一方、亜鉛(Zn)原子濃度の差が15atom%より大きいと、ガスバリア層中において層の質が急激に変わることにより、欠陥ができやすくなる場合がある。
【0020】
本発明において、形成されたガスバリア層の亜鉛(Zn)原子およびケイ素(Si)原子の含有比率(Zn/Si)はX線光電子分光法(XPS)を用いて、以下に説明する深さ方向分析を行うことにより求めた値である。
[X線光電子分光法(XPS)による深さ方向分析]
XPS分析に適用する測定装置は、例えば、アルバックファイ社製ESCA 5800が挙げられる。
【0021】
ガスバリア層の最表層は、一般に過剰に酸化されており、ガスバリア層内部の組成とは異なる含有比率となっているため、本発明においては、XPS分析の前処理としてアルゴンイオンを用いたスパッタエッチングにより、最表層を5nm、エッチングして除去するものとする。
【0022】
表面のXPS分析を行い、アルゴンイオンを用いて、15nmスパッタエッチングを行った後、新たな表面のXPS分析を行い、これを繰り返すことにより深さ方向の各位置における原子濃度および亜鉛(Zn)原子およびケイ素(Si)原子の含有比率を得る。この分析をZnおよびSiの元素が検出されなくなるまで繰り返し行う。XPS分析にはX線源としてAlKα(モノクロ化)を用いた。
【0023】
上記のように、XPSによる深さ方向分析を行った場合に、同時に得ることができる亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)の各原子の原子濃度は、ガスバリア層のどの部分においても、次の各範囲にあることが好ましい;亜鉛(Zn)原子濃度:12〜40atom%、ケイ素(Si)原子濃度:4〜24atom%、アルミニウム(Al)原子濃度:1〜4atom%、酸素(O)原子濃度:50〜65atom%。
【0024】
Zn原子濃度が40atom%よりも大きい部分またはSi原子濃度が4atom%よりも小さい部分があると、そのような部分では亜鉛原子がクラスターを形成し、酸化物が不足する場合があるため、空隙や欠陥が増加し、十分なガスバリア性が得られない場合がある。Zn原子濃度が12atom%よりも小さい部分またはSi原子濃度が24atom%よりも大きい部分があると、そのような部分では二酸化ケイ素のガラス質が増加することによりガスバリア層の柔軟性が低下する場合がある。また、Al原子濃度が4atom%よりも大きい部分があると、そのような部分では酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が過剰に高くなることで層の硬度が増加し、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。Al原子濃度が1atom%よりも小さい部分があると、そのような部分では酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が低下する場合があり、空隙や欠陥が生じる場合がある。O原子濃度が65atom%よりも大きい部分があると、そのような部分では酸素が過剰になり、層内の欠陥が増加する場合があるため、十分なガスバリア性が得られなくなる場合がある。一方、O原子濃度が50atom%よりも小さい部分があると、亜鉛、ケイ素、アルミニウムの酸化状態が低くなり、色差が増加したり光線透過率が低下する場合がある。これらの観点から、Zn原子濃度が25〜35atom%、Si原子濃度が10〜15atom%、Al原子濃度が1〜3atom%、O原子濃度が52.5〜62.5atom%であることがより好ましい。
【0025】
ガスバリア層を形成する方法は、特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等によって形成することができる。これらの方法の中でも簡便に緻密な層が得られる方法として、スパッタリング法が好ましい。
【0026】
ガスバリア層の厚みは、50nm〜300nmが好ましく、100nm〜200nmがより好ましい。ガスバリア層の厚みが50nmよりも薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が生じる場合がある。また、300nmよりも厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によってガスバリア層にクラックが発生しやすくなり、ガスバリア性が低下する場合がある。
【0027】
ガスバリア層に含まれる亜鉛化合物は、酸化亜鉛、硫化亜鉛、窒化亜鉛、それらの混合物等が挙げられるが、酸化亜鉛または硫化亜鉛が好ましい。ケイ素化合物としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素が好ましいが、それらの混合物を用いることもできる。水蒸気遮断性の観点から二酸化ケイ素、窒化ケイ素が好ましく、さらに、ガスバリア性フィルムの柔軟性の観点から、二酸化ケイ素がより好ましい。
【0028】
また、主成分として亜鉛化合物およびケイ素化合物を含んでいれば、Al、Ti、Zr、Sn、In、Nb、Mo、Ta等の元素の酸化物、窒化物、窒化酸化物、硫化物またはそれらの混合物を含んでいてもよい。例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化スズ、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム等である。これらの中でも、水蒸気透過性を低減する観点から、酸化アルミニウムが特に好ましい。
[高分子フィルム基材]
本発明に使用する高分子フィルム基材としては、有機高分子化合物からなるフィルムであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーからなるフィルムなどを使用することができる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムであることが好ましい。高分子フィルム基材を構成するポリマーは、ホモポリマー、コポリマーのいずれでもよいし、また、単独のポリマーであってもよいし複数のポリマーをブレンドして用いてもよい。
【0029】
また、高分子フィルム基材として、単層フィルム、あるいは、2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムや、一軸方向あるいは二軸方向に延伸されたフィルム等を使用してもよい。ガスバリア層を形成する側の基材表面には、密着性を良くするために、コロナ処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、粗面化処理、および、有機物または無機物あるいはそれらの混合物で構成されるアンカーコート層の形成処理、といった前処理が施されていても構わない。さらに、ガスバリア層を形成する側の反対面には、フィルムの巻き取り時の滑り性の向上および、ガスバリア層を形成した後にフィルムを巻き取る際にガスバリア層との摩擦を軽減することを目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が施されていても構わない。本発明に使用する高分子フィルム基材の厚さは特に限定されないが、柔軟性を確保する観点から500μm以下が好ましく、引っ張りや衝撃に対する強度を確保する観点から5μm以上が好ましい。また、フィルムの加工やハンドリングの容易性から10μm〜200μmがさらに好ましい。
[アンカーコート層]
本発明に係る高分子フィルム基材表面には、蒸着層との密着性の向上を目的として
図2に示すようにアンカーコート層を形成してもよい。このアンカーコート層の材料としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等が挙げられ、これらを1または2種以上併せて使用することもできる。本発明に用いるアンカーコート層の材料としては耐溶剤性の観点から主剤と硬化剤とからなる二液硬化型樹脂が好ましく、ガスバリア性、耐水性の観点からポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を主剤として使用することがより好ましい。硬化剤としてはガスバリア性、透明性などの特性を阻害しない範囲内であれば、特に限定されることはなく、イソシアネート系、エポキシ系などの一般的な硬化剤を使用することができる。これらのアンカーコート層には、既知の添加剤を含有させることもできる。
【0030】
本発明に用いるアンカーコート層の厚みは、0.5μm〜10μmが好ましい。層の厚みが0.5μmより薄くなると、高分子フィルム基材1の凹凸の影響を受けて、ガスバリア層の質が均一になり難いため、ガスバリア性が低下する場合がある。層の厚みが10μmより厚くなると、アンカーコート層の層内に残留する応力が大きくなることによって高分子フィルム基材1が反り、ガスバリア層にクラックが発生するため、ガスバリア性が低下する場合がある。従って、アンカーコート層の厚みは0.5μm〜10μmが好ましく、フレキシブル性を確保する観点から1μm〜5μmがより好ましい。
【0031】
上記のアンカーコート層の材料に溶剤、希釈剤等を加えて塗剤とした後、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により高分子フィルム基材上にコーティングして塗膜を形成し、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコート層を形成することができる。塗膜の乾燥方法は、熱ロール接触法、熱媒(空気、オイルなど)接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が利用できる。中でも、本発明品のアンカーコート層の厚みである0.5μm〜10μmの厚みの層を塗工するに好適な手法として、グラビアコート法が好ましい。
[ガスバリア層の形成方法]
本発明者らはガスバリア層の形成時に、(1)搬送方向に複数のスパッタリングターゲットをプラズマ電極上に配置してプラズマ電力をスパッタリングターゲット毎に調整する方法や(2)高分子フィルム基材に核付けを行った後に層を形成する方法等を用いることにより、ガスバリア層の亜鉛(Zn)原子およびケイ素(Si)原子の含有比率(Zn/Si)を傾斜的に増加させることが可能であることを見出した。以下、上記各方法について、説明する。
【0032】
(1)搬送方向に複数のスパッタリングターゲットをプラズマ電極上に配置してプラズマ電力をスパッタリングターゲット毎に調整する方法
ガスバリア層中の亜鉛(Zn)原子およびケイ素(Si)原子の含有比率(Zn/Si)が、前記基材界面側から層の表面にかけて増大する傾斜構造を形成せしめる方法として、複数のスパッタリングターゲットをプラズマ電極上に配置しスパッタリング時のスパッタリングターゲット毎に印加するプラズマ電力を搬送するに従い徐々に高くしていく方法である。ガスバリア層を形成する際に、スパッタ電力を徐々に大きくしていくと、ガスバリア層の界面側から表面側にかけて、段階的に亜鉛(Zn)原子濃度の増加したガスバリア層が得られる。これは、亜鉛(Zn)原子とケイ素(Si)原子のスパッタ率の違いや基材への付着性の違いによるものである。
【0033】
図3に示す構造の巻き取り式のスパッタリング装置を使用し、高分子フィルム基材4の面(フィルム基材が露出している面、または、アンカーコート層の形成された面)上に、亜鉛化合物とケイ素化合物からなる混合焼結材であるスパッタリングターゲットを用いて、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、ガスバリア層を設ける。
【0034】
具体的な操作は以下のとおりである。まず、全て組成比率が同じである亜鉛化合物とケイ素化合物からなるスパッタリングターゲットを、プラズマ電極12〜16上に設置した巻き取り式スパッタ装置5の巻き取り室6の中で、巻き出しロール7に前記高分子フィルム基材4をセットし、巻き出し、ガイドロール8、9、10を介して、クーリングドラム11に通す。次に、減圧度2×10
−1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、高周波電源により100〜2000Wの異なる投入電力をそれぞれプラズマ電極12、13、14、15、16上のスパッタリングターゲットに印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子フィルム基材4の表面上にガスバリア層を形成する。ガスバリア層に組成比率Zn/Siの正の傾斜を持たせるために印加するプラズマ電力は、プラズマ電極12に100〜500W、プラズマ電極13に300〜700W、プラズマ電極14に400〜1000W、プラズマ電極15に500〜1500W、プラズマ電極16に600〜2000Wであり、かつ、搬送するに従い、増加するように設定することが好ましい。厚みは、フィルム搬送速度により調整することが可能である。その後、ガイドロール17、18、19を介して巻き取りロール20に巻き取る。
【0035】
(2)高分子方法フィルム基材に核付けを行った後に層を形成する方法
本発明において、ガスバリア層中の亜鉛(Zn)およびケイ素(Si)の含有比率Zn/Siが、前記基材界面側から層の表面にかけて増大する組成傾斜構造を有する方法として、下地表面に核付け処理をする方法を見出した。
【0036】
ガスバリア層をスパッタリングする以前に、下地表面にケイ素または二酸化ケイ素、フッ素等のケイ素が結合しやすい原子を1〜10nmの厚みで核付けする。その後、ガスバリア層をスパッタリングすると、初期段階では、核付けされた表面と親和性のあるケイ素が優先的に付着していくが、ガスバリア層は徐々にスパッタリングターゲットの組成質量比に近づくため、段階的に亜鉛(Zn)原子濃度が増加していく。核付けを行う層の厚みは1〜8nmが好ましく、より理想的な核ができる層の厚みとして、2〜6nmがより好ましい。以下、詳細を記載する。
【0037】
図3に示す構造の巻き取り式のスパッタリング装置を使用し、高分子フィルム基材4の面(フィルム基材が露出している面、または、アンカーコート層の形成された面)上に、亜鉛化合物とケイ素化合物からなる混合焼結材であるスパッタリングターゲットを用いて、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、ガスバリア層を設ける。
【0038】
具体的な操作は以下のとおりである。まず、プラズマ電極21上に二酸化ケイ素のスパッタリングターゲットを設置し、また、全て組成比率が同じである亜鉛化合物とケイ素化合物からなるスパッタリングターゲットを、プラズマ電極12〜16上に設置した巻き取り式スパッタ装置5の巻き取り室6の中で、巻き出しロール7に前記高分子フィルム基材4をセットし、巻き出し、ガイドロール8、9、10を介して、クーリングドラム11に通す。次に、減圧度2×10
−1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、高周波電源により100〜1000Wの投入電力をプラズマ電極21に印加して、スパッタリングにより、前記高分子フィルム4の表面上に層の厚みが数nmとなるように核付けを行う。続いて、高周波電源により100〜2000Wの同一の投入電力をプラズマ電極12、13、14、15、16上のスパッタリングターゲットに印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子フィルム基材4の表面上にガスバリア層を形成する。2000Wより大きな電力を投入すると、ガスバリア層が過剰に緻密化するためにクラックが生じやすくなる場合がある。一方、100W未満であると、ガスバリア層に欠陥や空隙が生じやすくなる場合がある。そのため、100〜2000Wであることが好ましい。より好ましくは、水蒸気遮断性の観点から、500〜1500Wである。厚みは、フィルム搬送速度により調整できる。その後、ガイドロール17、18、19を介して巻き取りロール20に巻き取る。
【0039】
本発明のガスバリア性フィルムは、水蒸気等に対する高いガスバリア性、透明性、耐熱性に優れているので、例えば、食品、医薬品などの包装材および薄型テレビ、有機ELディスプレイ、大型液晶ディスプレイ、高精細ディスプレイ、太陽電池などの電子デバイス部材として有用に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、実施例1、2および4は参考例である。
[評価方法]
まず、各実施例および比較例における評価方法を説明する。評価n数は、特に断らない限り、n=5とし平均値を求めた。
(1)TEMによる断面観察
断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム(日立製作所製FB−2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118〜119に記載の方法に基づいて)作製した。透過型電子顕微鏡(日立製作所製H−9000UHRII)により、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、ガスバリア層の厚みを測定した。
(2)水蒸気透過率
温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cm
2の条件で、英国、テクノロックス(Technolox)社製の水蒸気透過率透過率測定装置(機種名:DELTAPERM(登録商標))を使用して測定した。サンプル数は水準当たり2検体とし、測定回数は同一サンプルについて各10回とし、その平均値を水蒸気透過率とした。
(3)ガスバリア層の組成
ガスバリア層の組成分析は、X線光電子分光法(XPS法)により行った。
【0041】
まず、アルゴンイオンを用いたスパッタエッチングにより、最表層を5nm、エッチングして除去した後、(i)各元素の含有比率を測定した。
【0042】
続いて、(ii)15nmスパッタエッチングを行った後、(iii)新たな表面の各元素の含有比率の測定を行い、以降、ガスバリア層がなくなるまで、(ii)及び(iii)を繰り返した。
X線光電子分光法(XPS法)の測定条件は下記の通りとした。
<組成分析>
・装置:ESCA 5800(アルバックファイ社製)
・励起X線:monochromatic AlKα
・X線出力:300W
・X線径:800μm
・光電子脱出角度:45°
・エッチングレート:1nm/分
<ガスバリア層のスパッタエッチング>
・X線加速電圧:2kV
・ラスター領域:3×3
・ガス圧:10mPa
(4)屈曲試験
縦10cm、横10cmの試験片を切り出し、曲げ半径5mm、曲げ角度130°にて100回屈曲を繰り返し行った。屈曲試験後の試験片の水蒸気透過率を測定した。試験回数は各水準について3枚ずつ行った。
(実施例1)
高分子フィルム基材として、厚み188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム4(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U35:一方の面に易接着層が形成され、もう一方の面はポリエチレンテレフタレートが露出している)を用い、該透明基材のポリエチレンテレフタレートが露出している面に、硫化亜鉛と二酸化ケイ素のモル分率が85/15であるスパッタリングターゲットを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、ガスバリア層を設けた(ガスバリア層の厚み:155nmとした)。
【0043】
具体的な操作は以下のとおりである。
図3に示す構造の巻き取り式のスパッタリング装置を使用し、まず、プラズマ電極12〜16上に硫化亜鉛と酸化ケイ素とを含有する混合物で、硫化亜鉛と二酸化ケイ素のモル分率が85/15であるスパッタリングターゲットを設置した巻き取り式スパッタ装置5の巻き取り室6の中で、巻き出しロール7に前記ポリエチレンレテフタレートフィルム4をセットし、巻き出し、ガイドロール8、9、10を介して、クーリングドラム11に通した。次に、減圧度2×10
−1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、高周波電源により200〜1800Wの異なる投入電力をそれぞれプラズマ電極12、13、14、15、16に印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記ポリエチレンレテフタレートフィルム4の表面上にガスバリア層を形成した。プラズマ電極12には200W、プラズマ電極13には600W、プラズマ電極14には1000W、プラズマ電極15には1400W、プラズマ電極16には1800Wの電力を印加した。その後、ガイドロール17、18、19を介して巻き取りロール20に巻き取った。
【0044】
次いで、得られたガスバリア性フィルムを縦100mm、横140mmの大きさに試験片を切り出し、TEM、XPSによるガスバリア層の厚み、含有比率の評価および水蒸気透過率の評価を実施した。結果は表1および
図4に示す。
(表および図中、膜厚とは高分子フィルム基材面からの距離を示す。)
(実施例2)
プラズマ電極12には400W、プラズマ電極13には500W、プラズマ電極14には600W、プラズマ電極15には700W、プラズマ電極16には800Wの電力を印加する以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1と
図5に示す。
(実施例3)
酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3であるスパッタリングターゲットを用いる以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1と
図6に示す。
(実施例4)
高分子フィルム基材上に以下に記すアンカーコート層を形成した後にガスバリア層を形成した以外は実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
<アンカーコート層の形成>
高分子フィルム基材に、アンカーコート層形成用の塗工液として、ウレタンアクリレート(中国塗料(株)製フォルシード420C)100質量部をトルエン70質量部で希釈した塗工液Aを調製した。次いで、塗工液Aを前記高分子フィルム基材の片面にマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を1.0J/cm
2の強度で照射して硬化させ、厚み1μmのアンカーコート層を設けた。結果は表1と
図11に示す。
(実施例5)
酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3であるスパッタリングターゲットを用いた以外は、実施例4と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1と
図12に示す。
(実施例6)
アンカーコート層形成用の塗工液として、ウレタンアクリレートに変えて、ポリエステルアクリレート(日本化薬(株)製FOP−1740)100質量部にシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング(株)製SH190)0.2質量部を添加し、トルエン50質量部、MEK50質量部で希釈した塗工液Bを調製し、塗工液Bをマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を1.0J/cm
2の強度で照射して硬化させ、厚み1μmのアンカーコート層を設けた以外は、実施例5と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1と
図13に示す。
(実施例7)
プラズマ電極12には400W、プラズマ電極13には500W、プラズマ電極14には600W、プラズマ電極15には700W、プラズマ電極16には800Wの電力を印加する以外は、実施例5と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1と
図14に示す。
(比較例1)
プラズマ電極12、13、14、15、16の投入電力をすべて1000Wとする以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1と
図7に示す。
(比較例2)
プラズマ電極12、13、14、15、16の投入電力を500Wとする以外は、実施例1と同様にして、スパッタリングを行い、層の厚さが100nmの層を形成して巻き取った。続いて、巻き取ったフィルムを再度巻き出しロール7にセットし、プラズマ電極12、13、14、15、16に印加するプラズマ電力を1500Wに変更する以外は、実施例1と同様にしてスパッタリングを行い、層の厚さが50nmの層を形成して、ガスバリア性フィルムを得た。結果は表1と
図8に示す。
(比較例3)
印加するプラズマ電力をプラズマ電極12には50W、プラズマ電極13には500W、プラズマ電極14には1500W、プラズマ電極15には3000W、プラズマ電極16には5000Wとする以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1と
図9に示す。
(比較例4)
印加するプラズマ電力をプラズマ電極12には3000W、プラズマ電極13には2000W、プラズマ電極14には1000W、プラズマ電極15には500W、プラズマ電極16には200Wとする以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1と
図10に示す。
(比較例5)
酸化亜鉛のみからなるスパッタリングターゲットを用いる以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1に示す。
(比較例6)
二酸化ケイ素のみからなるスパッタリングターゲットを用いる以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1に示す。
(比較例7)
該高分子フィルム基材に、アンカーコート層形成用の塗工液として、ウレタンアクリレート(中国塗料(株)製フォルシード420C)100質量部をトルエン70質量部で希釈した塗工液Aを調製した。次いで、塗工液Aを前記高分子フィルム基材の片面にマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を1.0J/cm
2照射、硬化させ、厚み1μmのアンカーコート層を設けた以外は、比較例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果は表1と
図15に示す。
【0045】
【表1-1】
【0046】
【表1-2】