特許第6579192号(P6579192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579192
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】皮膚貼着用不織布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/64 20120101AFI20190912BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20190912BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20190912BHJP
   A45D 37/00 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   D04H1/64
   D04H1/425
   D04H1/4374
   A45D37/00
   A61K9/70 401
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-509304(P2017-509304)
(86)(22)【出願日】2016年4月1日
(86)【国際出願番号】JP2016001886
(87)【国際公開番号】WO2016157915
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年8月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-77253(P2015-77253)
(32)【優先日】2015年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石澤 明秀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真希
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−505496(JP,A)
【文献】 特開昭59−062050(JP,A)
【文献】 特開昭51−099172(JP,A)
【文献】 特開2007−007062(JP,A)
【文献】 特開2014−205924(JP,A)
【文献】 特開2001−261527(JP,A)
【文献】 特開2005−304877(JP,A)
【文献】 実公平07−054314(JP,Y2)
【文献】 特開2013−95721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
A45D 37/00
A61K 9/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を含ませて使用に供される皮膚貼着用不織布であって、ガラス転移点が10℃以下の水性バインダーを含み、坪量が20g/m2以上80g/m2以下であり、液体を含ませる前の厚さが1mm以下であり、
前記皮膚貼着用不織布は、繊維シートを圧縮して得られた不織布であることを特徴とする皮膚貼着用不織布。
【請求項2】
前記水性バインダーは、エチレン酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚貼着用不織布。
【請求項3】
前記不織布は、エアレイド法によって形成された複数の繊維シートを水性バインダーで接合し、次いで圧縮して得られた乾式不織布であることを特徴とする請求項1または2に記載の皮膚貼着用不織布。
【請求項4】
前記皮膚貼着用不織布は、セルロース系繊維を主成分とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の皮膚貼着用不織布。
【請求項5】
前記皮膚貼着用不織布は、セルロース系繊維を、皮膚貼着用不織布の全質量を基準として50質量%以上の量で含有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の皮膚貼着用不織布。
【請求項6】
前記皮膚貼着用不織布は、前記水性バインダーを、5質量%以上30質量%以下の量で含有していることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に載の皮膚貼着用不織布。
【請求項7】
エアレイド法によって複数の繊維シートを形成する工程と、形成された複数の繊維シートをガラス転移点が10℃以下の水性バインダーで相互に接合して、坪量が20g/m2以上80g/m2以下の乾式不織布を得る工程と、得られた乾式不織布を紙厚が1mm以下となるように圧縮する工程と、を含むことを特徴とする、皮膚貼着用不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚貼着用不織布に関し、特に、薬液や化粧水などの液体を吸収させて顔、体、手、足などの皮膚に貼着して用いる皮膚貼着用不織布およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬液や化粧水などの液体を吸収させて皮膚に貼着して用いる皮膚貼着用不織布は、医用目的や美容目的などの用途に使用されている。医用目的の皮膚貼着用不織布には、例えば、創傷被覆材や薬剤徐放性の貼付材などがある。また、美容目的の皮膚貼着用不織布には、例えば、フェイスマスクなどがある。これらの皮膚貼着用不織布には、適当な量の液体を吸収し保持する性質(保液性)、貼着部位の起伏に追従して皮膚に密着する性質およびその持続性(貼り付き性)など、種々の品質が要求される。
【0003】
良好な保液性を得るために、近年、皮膚貼着用不織布の主成分として、合成繊維よりも親水性が大きいセルロース系繊維等の親水性繊維が好ましく用いられている。
【0004】
特許文献1は、保液性に加えて良好な貼り付き性を得るための構成として、セルロース系繊維を含む不織布層の一方の表面または両方の表面に、特定の微細セルロース繊維からなる微細セルロース繊維不織布層が積層されて一体化された不織布構造体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−205924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、特定の微細セルロースからなる微細セルロース繊維を製造する必要があり、コストが高くなる。そのため、特許文献1の構成は、高級品を対象とするものであり、汎用品には不適であった。
【0007】
本発明は、特許文献1とは異なる構成でありながら、保液性および貼り付き性が共に良好な皮膚貼着用不織布およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の皮膚貼着用不織布およびその製造方法は、以下の態様を有する。
【0009】
[1] 液体を含ませて使用に供される皮膚貼着用不織布であって、ガラス転移点が10℃以下の水性バインダーを含み、坪量が20g/m2以上80g/m2以下であり、液体を含ませる前の厚さが1mm以下であることを特徴とする皮膚貼着用不織布。
【0010】
[2] 前記水性バインダーは、エチレン酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする、[1]に記載の皮膚貼着用不織布。
【0011】
[3] 前記皮膚貼着用不織布は、エアレイド法によって形成された複数の繊維シートを水性バインダーで接合し、次いで圧縮して得られた乾式不織布であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の皮膚貼着用不織布。
【0012】
[4] 前記皮膚貼着用不織布は、セルロース系繊維を主成分とすることを特徴とする、[1]から[3]のいずれか1つに記載の皮膚貼着用不織布。
【0013】
[5] 前記皮膚貼着用不織布は、セルロース系繊維を、皮膚貼着用不織布の全質量を基準として50質量%以上の量で含有していることを特徴とする、[1]から[4]のいずれか1つに記載の皮膚貼着用不織布。
【0014】
[6] 前記皮膚貼着用不織布は、前記水性バインダーを、5質量%以上30質量%以下の量で含有していることを特徴とする、[1]から[5]のいずれか1つに記載の皮膚貼着用不織布。
【0015】
[7] エアレイド法によって複数の繊維シートを形成する工程と、形成された複数の繊維シートをガラス転移点が10℃以下の水性バインダーで相互に接合して、坪量が20g/m2以上80g/m2以下の乾式不織布を得る工程と、得られた乾式不織布を紙厚が1mm以下となるように圧縮する工程と、を含むことを特徴とする、皮膚貼着用不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保液性および貼り付き性が共に良好な皮膚貼着用不織布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例に係る皮膚貼着用不織布の構成および試験結果を示す表である。
図2】比較例に係る皮膚貼着用不織布の構成および試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の態様を詳細に説明する。なお、本発明の実施の形態は以下に示す実施の形態に限定されない。
【0019】
<皮膚貼着用不織布>
本発明の皮膚貼着用不織布は、液体を含ませて使用に供される皮膚貼着用不織布であって、ガラス転移点が10℃以下の水性バインダーを含み、坪量が20g/m2以上80g/m2以下であり、液体を含ませる前の厚さが1mm以下であることを特徴とする。
本発明の皮膚貼着用不織布は、主成分として親水性繊維を含む。親水性繊維は、好ましくは、セルロース系繊維である。本発明の皮膚貼着用不織布は、好ましくは、エアレイド法において形成される複数の繊維シートを水性バインダーにより相互に接合し、これを圧縮することにより得ることができる。
【0020】
本発明の皮膚貼着用不織布は、積層される複数の繊維シートと、前記積層される複数の繊維シートの全体に分布する水性バインダーと、を備える積層構造を有する。水性バインダーは、前記積層構造の厚さ方向においてほぼ均一に分布し、隣接する繊維シートを相互に接合すると共に、内部の繊維同士を固着する役割を果たす。
【0021】
本発明の皮膚貼着用不織布は、上述のように、繊維シートを水性バインダーにより相互に接合し、これを圧縮することにより得ることができる。そのため、本発明の皮膚貼着用不織布は、使用に供される前の段階においては、その内部では繊維同士は圧縮により間隔が狭まった状態となっており、圧縮工程を経ずに同様に製造された皮膚貼着用不織布と比べて、厚さが薄い。一方で、本発明の皮膚貼着用不織布は、液体を含ませて使用に供される際に、その内部の空隙に水が入り込み、また、繊維自体が膨潤して、厚さが復元されていくことができる。
【0022】
(皮膚貼着用不織布の製造方法)
本発明の皮膚貼着用不織布は、乾式法により製造される乾式不織布を圧縮することにより得ることができる。乾式法の中でも、原料繊維を乾式離解して繊維ウェブを形成する工程(フォーメーション工程)と、前記繊維ウェブに対してバインダーとなる水性エマルジョン(水性バインダー)を繊維ウェブにスプレー散布する工程(バインダースプレー工程)と、前記繊維ウェブの繊維相互間を前記水性バインダーによって結合する乾燥加熱工程(乾燥工程)とからなる、いわゆるエアレイド法(エアレイ法と呼ばれることもある)が用いられる。エアレイド法には、本州製紙法、カールクロイヤー法、ダンウェブ法、J&J法、KC法、スコット法等が存在するが、この中でも本州製紙法が最も好適に用いられる。製造された乾式不織布は、液体を含ませる前の厚さが1mm以下となるような条件で圧縮される。圧縮には、例えば、スリットやカレンダーニップに通すなど、知られている任意の手段を用いることができる。
【0023】
(皮膚貼着用不織布の厚さ)
本発明の皮膚貼着用不織布は、貼着部位の起伏に追従して皮膚に密着する性質およびその持続性(貼り付き性)を向上させるために、使用される前の段階において厚さが薄い状態であるように圧縮されて形成されている。使用の際には、液体を含ませることによって、皮膚貼着用不織布の厚さは、元の厚さに徐々に復元されていく。
【0024】
本発明の乾式不織布は、良好な貼り付き性を得るために、液体を含ませる前の厚さは、1mm以下であり、好ましくは0.8mm以下であり、より好ましくは0.4mm以下であり、さらに好ましくは0.3mm以下である。液体を含ませる前の厚さの下限値については、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、坪量あるいは密度に応じた厚さ(薄さ)の限界があり、また、皮膚貼着用不織布として使用する場合の使い勝手の観点から、通常は0.05mm以上である。
【0025】
(皮膚貼着用不織布に使用される繊維)
本発明の皮膚貼着用不織布は、原料繊維として親水性繊維を含む。親水性繊維は、好ましくは、セルロース系繊維である。
【0026】
セルロース系繊維の原料としては、木材パルプ(針葉樹、広葉樹)、ラグパルプ、リンターパルプ、リネンパルプ、楮・三椏・雁皮パルプ等の非木材パルプ、古紙パルプ等が使用可能である。とりわけ、工業的には木材パルプ繊維が有用であり、好ましい。このような木材パルプ繊維としては、機械パルプである砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)や、化学パルプである亜硫酸パルプ、クラフトパルプ等が使用可能である。また、レーヨン(ビスコース法で製造されたセルロース繊維)やテンセル(登録商標)(溶剤紡糸による精製セルロース繊維)などの再生繊維も使用可能である。上述のセルロース系繊維は、一種を使用してもよく、また二種以上を使用してもよい。
【0027】
本発明で使用するセルロース系繊維の原料としては、供給量、品質の安定性、コスト等の面から、針葉樹クラフトパルプ(NKP)が特に好適である。
【0028】
本発明の皮膚貼着用不織布は、親水性繊維を主成分とするものであり、皮膚貼着用不織布の全質量を基準として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特段好ましくは75質量%以上の量で親水性繊維を含む。親水性繊維の配合量が多いと、皮膚貼着用不織布の吸水量が増え、保液性が良好となる。親水性繊維の配合量の上限値については、後述する水性バインダーの配合量の下限値とそれにより得られる強度との観点から、好ましくは95質量%以下である。
【0029】
本発明の皮膚貼着用不織布は、状況に応じて任意の素材の疎水性繊維を含んでいてもよい。疎水性繊維を使用する場合、その配合量は、皮膚貼着用不織布の原料繊維の全質量を基準として、0.01質量%以上30質量%以下であることが好ましい。この範囲の量で疎水性繊維を含むことによって、皮膚貼着用不織布は、適度な保液性を確保できると共に、保液された液体を皮膚の貼着部位に対して適切に移行させることができる。
【0030】
疎水性繊維としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル(PET)繊維、ナイロン繊維等が挙げられる。また、融点の異なる合成樹脂を組み合わせてなる複合繊維を使用することができる。複合繊維の樹脂の組合せとしては、PE/PP、PE/PET、PP/PET、低融点PET/PET、低融点PP/PP、ナイロン6/ナイロン66等が存在し、その種類は任意に選択可能である。また、複合繊維には異なる樹脂を並列に紡糸したサイドバイサイド型複合繊維、低融点樹脂を外側とし高融点樹脂を内側として紡糸した芯鞘型複合繊維等が存在し、そのいずれも使用可能である。
【0031】
皮膚貼着用不織布の原料繊維の平均繊維長は、好ましくは1〜10mmであり、より好ましくは1〜6mmである。繊維長の異なる繊維を混合して使用することも可能である。原料繊維の平均繊維長がこの範囲であると、エアレイド法によってウェブを形成しやすく、繊維の均一な分散状態を得やすい。
【0032】
また、皮膚貼着用不織布の原料繊維の平均繊維径は、好ましくは3μm以上であり、より好ましくは3〜100μmであり、さらに好ましくは5〜80μmであり、特段好ましくは10〜60μmである。なお、平均繊維長および平均繊維径は、それぞれ、光学顕微鏡で5点測定し、その平均値として算出した。
【0033】
(水性バインダー)
本発明の皮膚貼着用不織布は、ガラス転移点(Tg)が10℃以下である水性バインダーを含む。本発明において、水性バインダーは、繊維同士を固着させるために用いられる。
【0034】
水性バインダーとしては、例えば、それぞれガラス転移転(Tg)が10℃以下である、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸ソーダ等の水溶液タイプのバインダーや、ポリアクリル酸エステル、アクリル・スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリルニトリル・ブタジエン共重合体、メチルメタアクリレート・ブタジエン共重合体等の各エマルジョン、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(SBR)等のエマルジョンタイプのバインダー等が使用可能である。中でも、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)やスチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(SBR)のエマルジョンタイプのバインダーを好適に用いることができる。
【0035】
本発明の皮膚貼着用不織布は、後述するように、適当な量の液体を吸収し保持する性質(保液性)を確保するために、坪量が所定の範囲に設定される。またその一方で、本発明の皮膚貼着用不織布は、貼着部位の起伏に追従して皮膚に密着する性質およびその持続性(貼り付き性)を向上させるために、使用される前の段階において厚さが薄い状態であるように圧縮されて形成されている。そして、使用の際に液体を含ませることによって、皮膚貼着用不織布の厚さは、元の厚さに徐々に復元されていく。このように圧縮により厚みを低減させていることによって、貼着直後の段階において皮膚貼着用不織布はやや固い感じやフィルムのような感触がする傾向がある。本発明においては、水性バインダーにガラス転移点(Tg)が10℃以下のものを採用することにより、厚さ低減に伴う固さやフィルム感を低減させることができる。
【0036】
このような効果を得る観点から、本発明の水性バインダーのガラス転移点(Tg)は10℃以下であり、好ましくは5℃以下である。ガラス転移点(Tg)の下限値については、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、ガラス転移点(Tg)は、例えば、好ましくは−100℃以上であり、より好ましくは−50℃以上であり、さらに好ましくは−30℃以上である。
【0037】
本発明の皮膚貼着用不織布における水性バインダーの付与量としては、皮膚貼着用不織布の強度と保液性とのバランスの観点から、皮膚貼着用不織布の全質量を基準にして、5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。
【0038】
水性バインダー中には、必要に応じて、吸水を促進させるための親水化剤や、着色のための顔料を分散させることもできる。
【0039】
親水化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤、アルキルアミドベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩、ジオクチルスルホサクシネートNa塩等のアニオン性界面活性剤が挙げられる。本発明では、一種類に限らず、二種類あるいは三種類以上のものを混合して用いることもできる。
【0040】
親水化剤の添加量は特に限定されないが、添加量が多くなればなるほど、皮膚貼着用不織布から溶出する量も増加するため、注意を要する。好ましくは、皮膚貼着用不織布の全質量を基準にして、0.01〜3%である。
【0041】
本発明の皮膚貼着用不織布の坪量は、20〜80g/m2の範囲であり、好ましくは30〜50g/m2の範囲である。坪量が20g/m2未満の場合は、単位面積あたりに含まれる親水性繊維の量が少ないことにより、薬液や化粧水等の液体の吸水量が不十分となる。また剛性が低く、皮膚貼着用不織布として使用する場合の使い勝手が悪くなる傾向がある。坪量が80g/m2を越える場合は、単位面積あたりの吸水量が多く保液性も良好であるが、貼り付き性が悪くなる。
【0042】
(表面繊維層)
本発明の皮膚貼着用不織布は、その片面もしくは両面に、柔らかさ(肌触り)や風合いを変更するなど表面を改質する目的で、表面繊維層を含んでいてもよい。
【0043】
前記表面繊維層は、皮膚貼着用不織布としての剛性および積層による表面改質効果の観点から、片面あたり0.5〜20g/m2の範囲が好ましく、0.5〜10g/m2がより好ましく、さらに好ましくは、1.0〜3.0g/m2である。
【0044】
表面繊維層に用いられる繊維としては、レーヨン、コットン等のセルロース系繊維が、吸水性や柔らかさという観点から望ましいが、その他の天然繊維、合成繊維(例えば、ポリエステル等)などの任意の繊維を混合して使用することも可能である。
【実施例】
【0045】
<実施例1>
本州製紙法のエアレイ法不織布マシンにより以下の通り乾式不織布を製造した。
【0046】
走行するメッシュ状コンベア上に、レーヨン繊維(ダイワボウレーヨン株式会社製、1.7dtex(繊維径12μm×繊維長29mm)[表面繊維層1用の繊維]、市販の針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)であるパルプを乾式解繊装置で解繊して得たパルプ繊維[中間繊維層1用の繊維]、および表面繊維層1で使用したものと同じレーヨン繊維[表面繊維層2用の繊維]をこの順で空気流と共に落下堆積させて、表面繊維層1(目標坪量2.0g/m2)、中間繊維層1(目標坪量28.6g/m2)、および表面繊維層2(目標坪量2.0g/m2)をこの順に含む繊維ウェブを形成した。
【0047】
該繊維ウェブ上に、水性バインダーと親水化剤との混合液である水性バインダー液をスプレー散布した。次いで、該繊維ウェブを熱風乾燥機(雰囲気温度170℃)の中を通過させて、繊維相互間を結合させた。次いで、該繊維ウェブを反転させ、最初にバインダー液を散布した面の反対面から、水性バインダー液を散布した。このとき、両面それぞれに対して等量の水性バインダー液を散布し、両面合計のバインダー固形分が9.8g/m2となるようにした。次いで、該ウェブを再度熱風乾燥機(雰囲気温度170℃)を通過させることによって、坪量42.5g/m2(目標坪量43.0g/m2)の乾式不織布を得た。次いで、得られた乾式不織布に対して、最終的に得られる皮膚貼着用不織布の厚さが0.23mmとなるように圧縮処理を行うことにより、1mm以下(0.23mm)の厚さを有する皮膚貼着用不織布を得た。
【0048】
ここで、水性バインダー液において、水性バインダーとしては、販売品Aのエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)(ガラス転移点(Tg)−17℃)を使用し、親水化剤としては、ジオクチルスルホサクシネートNa塩を、得られた皮膚貼着用不織布に対して0.12質量%となる量で使用した。
【0049】
<実施例2>
各繊維層の目標坪量を、表面繊維層1(2.0g/m2)、中間繊維層1(29.7g/m2)、および表面繊維層2(2.0g/m2)とし、 水性バインダーとして、販売品Bのエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)(ガラス転移点(Tg)−19℃)を使用し、水性バインダーの両面合計のバインダー固形分が10.1g/m2となるようにした以外は実施例1と同様にして、坪量43.9/m2の乾式不織布を得た。次いで、得られた乾式不織布に対して、最終的に得られる皮膚貼着用不織布の厚さが0.74mmとなるように圧縮処理を行うことにより、1mm以下(0.74mm)の厚さを有する皮膚貼着用不織布を得た。
【0050】
<実施例3>
各繊維層の目標坪量を、表面繊維層1(2.0g/m2)、中間繊維層1(27.9g/m2)、および表面繊維層2(2.0g/m2)とし、水性バインダーとして、販売品Cのエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)(ガラス転移点(Tg)4℃)を使用し、親水化剤としては、ショ糖脂肪酸エステルを、得られた皮膚貼着用不織布に対して0.44質量%となる量で使用し、水性バインダーの両面合計の固形分が7.7g/m2となるようにした以外は、実施例1と同様にして、坪量40.1g/m2の乾式不織布を得た。次いで、得られた乾式不織布に対して、最終的に得られる皮膚貼着用不織布の厚さが0.34mmとなるように圧縮処理を行うことにより、1mm以下(0.34mm)の厚さを有する皮膚貼着用不織布を得た。
【0051】
<実施例4>
各繊維層の目標坪量を、表面繊維層1(2.0g/m2)、中間繊維層1(27.6g/m2)、および表面繊維層2(2.0g/m2)とし、水性バインダーとして、販売品Dのスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)(ガラス転移点(Tg)−19℃)を使用し、親水化剤としては、ショ糖脂肪酸エステルを、得られた皮膚貼着用不織布に対して0.56質量%となる量で使用し、水性バインダーの両面合計の固形分が10.5g/m2となるようにした以外は、実施例3と同様にして、坪量42.7/m2の乾式不織布を得た。次いで、得られた乾式不織布に対して、最終的に得られる皮膚貼着用不織布の厚さが0.35mmとなるように圧縮処理を行うことにより、1mm以下(0.35mm)の厚さを有する皮膚貼着用不織布を得た。
【0052】
<比較例1>
各繊維層の目標坪量を、表面繊維層1(2.0g/m2)、中間繊維層1(27.2g/m2)、および表面繊維層2(2.0g/m2)とし、水性バインダーとして、販売品Eのエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)(ガラス転移点(Tg)14℃)を使用し、親水化剤としては、ショ糖脂肪酸エステルを、得られた皮膚貼着用不織布に対して0.40質量%となる量で使用し、水性バインダーの両面合計の固形分が11.1g/m2となるようにした以外は実施例3と同様にして、坪量42.7/m2の乾式不織布を得た。次いで、得られた乾式不織布に対して、最終的に得られる皮膚貼着用不織布の厚さが0.78mmとなるように圧縮処理を行うことにより、1mm以下(0.78mm)の厚さを有する皮膚貼着用不織布を得た。
【0053】
<比較例2>
各繊維層の目標坪量を、表面繊維層1(2.0g/m2)、中間繊維層1(27.6g/m2)、および表面繊維層2(2.0g/m2)とし、水性バインダーとして、販売品Fのエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)(ガラス転移点(Tg)20℃)を使用し、親水化剤としては、ショ糖脂肪酸エステルを、得られた皮膚貼着用不織布に対して0.43質量%となる量で使用し、水性バインダーの両面合計の固形分が7.5g/m2となるようにした以外は実施例3と同様にして、坪量39.5/m2の乾式不織布を得た。次いで、得られた乾式不織布に対して、最終的に得られる皮膚貼着用不織布の厚さが0.33mmとなるように圧縮処理を行うことにより、1mm以下(0.33mm)の厚さを有する皮膚貼着用不織布を得た。
【0054】
<比較例3>
まず、実施例1に記載された方法と同様の方法により、坪量44.2g/m2の乾式不織布を得た。次いで、得られた乾式不織布に対して、最終的に得られる皮膚貼着用不織布の厚さが1.02mmとなるように圧縮処理を行うことにより、1mm超え(1.02mm)の厚さを有する皮膚貼着用不織布を得た。
【0055】
以上のようにして得られた実施例および比較例の皮膚貼着用不織布について、以下の測定および評価試験を行った。図1および図2に、実施例および比較例に係る皮膚貼着用不織布の構成および試験結果を示す。
【0056】
<測定および評価試験項目>
I.坪量
日本工業規格JIS P8124「紙及び板紙−坪量の測定方法」に準拠して坪量を測定した。
【0057】
II.厚さ
日本工業規格JIS P8118「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して厚さを測定した。
【0058】
III.湿潤引張強度
日本工業規格JIS P8135「紙及び板紙−湿潤引張強さ試験方法」に準拠して縦方向(MD)の湿潤引張強度を測定した。
【0059】
皮膚貼着用不織布は、薬液や化粧水などが付与されて使用されるため、用途に関連した要求品質の1つとして、湿潤引張強度がある。湿潤引張強度は、貼り付き性に悪影響が出ない範囲では、大きいほど好ましい。本実施例においては、湿潤引張強度のスペックを12.0N/100mm以上とし、これを満たす試料を評価試験に供した。なお、湿潤引張強度は、水性バインダーの散布量を調整することにより担保した。
【0060】
IV.剛度 (剛性)
日本工業規格JIS L1096「織物及び織物の生地試験方法」のハンドルオメーター法に準拠して剛度を測定した。剛度が大きいほど、剛性が高いことを示す。
【0061】
皮膚貼着用不織布は、薬液や化粧水などが付与されて使用され、また肌に貼り付けて使用されるため、用途に関連した要求品質の1つとして、適度な剛性がある。取り扱いが容易な範囲であることを前提として、剛度(剛性)は、貼着部位の起伏への追従性の観点から、小さいほど(低いほど)良好であると評価した。
【0062】
V.吸水時間(保液性)
厚生労働省「医療ガーゼ・医療脱脂綿基準」(平成17年6月30日付け薬食機発第0630001号の別紙参照)の項目6(1)カに示される沈降速度の測定法に準拠して、試料を入れたかごを水の中に落として水面下に沈むまでの時間を測定し、これを吸水時間とした。吸水時間5秒以下を、皮膚貼着用不織布の用途に関連した要求品質とした。吸水時間が短いほど、吸水性が高く、保液性が良好であると評価した。
【0063】
VI.貼り付き性
皮膚貼着用不織布の貼り付き性として、皮膚貼着用不織布を貼り付けた際の肌の感覚および外観(フィット感)を、5人のユーザーによる官能試験にて5段階評価した。
【0064】
具体的には、まず、100×100mmのサイズの試料を八つ折りにし、市販の美容液10gを添加して均一に浸透させた。次いで、浸透後に折を開いた試料を腕の付け根の肌に貼り付けて、肌の感覚および外観(フィット感)から、密着度合いを判断した。密着度合いが大きいほど、貼り付き性が良好であると評価した。最も優れているものを5とし、最も劣っているものを1として、5人のユーザーによる評価点の平均を計算して、評価を5から1の整数で示した。
【0065】
<評価>
実施例および比較例において、吸水時間はいずれも5秒以下で略横並びであり、設定した要求品質を満たしていた。一方、貼り付き性については、比較例が評価3または評価2であったのに対し、全ての実施例で、それよりも良好な評価4または評価5が得られた。
【0066】
水性バインダーのガラス転移温度(Tg)および坪量が同等であり、液体を含ませる前の厚さが異なる試料として、実施例1(0.23mm)、実施例2(0.74mm)、および比較例3(1.02mm)を比較した。厚さが1mmを超える比較例3は、剛度が高く貼り付き性は劣っていた。実施例1および実施例2では、液体を含ませる前の厚さが薄いほど、剛度は小さく、貼り付き性は良好であった。
【0067】
水性バインダーのガラス転移温度(Tg)が異なり、坪量および液体を含ませる前の厚さが同等である試料として、実施例3(Tg4℃)および比較例2(Tg20℃)を比較した。剛度は同程度であったが、官能評価による貼り付き性は、比較例2の評価3に対し、実施例3はそれよりも良好な評価4であった。
【0068】
同様に、水性バインダーのガラス転移温度(Tg)が異なり、坪量および液体を含ませる前の厚さが同等である試料として、実施例2(Tg−19℃)および比較例1(Tg14℃)を比較した。実施例2は、比較例1と比べて、剛度が小さく、官能評価による貼り付き性が良好であった(比較例1は評価3であったのに対し、実施例2はそれよりも良好な評価4であった)。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の皮膚貼着用不織布は、保液性および貼り付き性が共に良好であり、薬液や化粧水などの液体を吸収させて皮膚に貼着する医用目的や美容目的などの用途に好適に用いることができる。
図1
図2