(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る冷却液通路の概略構成図である。
図2は
図1の冷却液通路を回路図で示したものである。
図3は、一つの気筒の断面図である。なお、
図2、3においては、後述する燃料噴射装置を省略している。
【0011】
内燃機関1は、コモンレール4に高圧状態で蓄えられた燃料をインジェクタ5から噴射する、いわゆるコモンレール式の燃料噴射装置を備える。燃料噴射タイミングや燃料噴射量といったインジェクタ5の制御はコントローラ100により行われる。コントローラ100は、上記の他に、点火プラグ9の点火タイミングの制御も行う。
【0012】
また、インジェクタ5は燃料としてのガソリンを筒内に直接的に噴射し、点化プラグ21による火花点火によって混合気を燃焼させる、筒内直噴式内燃機関である。
【0013】
内燃機関1の冷却液通路は、シリンダブロック2に気筒列に沿うように設けられたブロック側通路WBと、シリンダヘッド3に気筒列に沿うように設けられたヘッド側通路3と、を含んで構成される。ブロック側通路WBとヘッド側通路WHは互いに独立している。
【0014】
ブロック側通路WBは、
図3に示すように吸気側通路WBinと排気側通路WBexとで構成されている。吸気側通路WBinと排気側通路WBexは、冷却液流れ方向の下流側で合流してブロック出口通路W2になる。ブロック出口通路W2は第2流路コントロールバルブ(MCV:Multifflow Control Valve)8に接続される。
【0015】
ヘッド側通路WHは、
図3に示すように、吸気ポート22とシリンダヘッド側壁との間に設けられた吸気側通路WHinと、排気ポート23とシリンダヘッド側壁との間に設けられた排気側通路WHexと、吸気ポート22と排気ポート23との間に設けられた中央通路WHcと、で構成される。吸気側通路WHinと排気側通路WHexと中央通路WHcとは、冷却液流れ方向の下流側で合流してヘッド出口通路W3になる。ヘッド出口通路W3は再び分岐して、一方は第1流路コントロールバルブ(MCV)7に接続され、他方は後述するスロットルバルブ11に接続される。
【0016】
第1MCV7には、第2MCV8への通路と、ラジエータ16への通路と、ヒータコア10への通路と、が接続されている。第1MCV7は、これらの通路のいずれに冷却液を流すのかを切り替える機能を有する。また、冷却液の流れを遮断することもできる。
【0017】
第2MCV8には、第1MCV7への通路と、オイルクーラ14及びオイルウォーマ15への通路と、が接続されている。第2MCV8も第1MCV7と同様の機能を有する。
【0018】
第1MCV7からヒータコア10へ向かう冷却液通路は、
図2に示すように、ヒータコア10からEGRクーラ(EGR/C)13を経由して、ウォータポンプ6に接続される。第1MCV7からラジエータ16へ向かう冷却液通路は、
図2に示すように、ラジエータ16を経由してウォータポンプ6に接続される。
【0019】
第2MCV8からオイルクーラ14及びオイルウォーマ15へ向かう冷却液通路は、内燃機関1に設けられたオイルクーラ14に向かう通路と、変速機(図中のCVT)に向かう通路とに分岐する。そして、オイルクーラ14とオイルウォーマ15とを通過後に合流して、ウォータポンプ6に接続される。
【0020】
また、ヘッド出口側通路W3から分岐してスロットルバルブ11に向かう冷却液通路は、スロットルバルブ11及びEGRバルブ(EGR/V)12を経由して、ヒータコア10とEGRクーラ13とを接続する通路に合流する。
【0021】
上述した冷却回路は、内燃機関1の内部にブロック側通路WBとヘッド側通路WHという独立した冷却液通路を備えるので、シリンダブロック2の温度とシリンダヘッド3の温度を独立して制御することが可能となる。
【0022】
次に、本実施形態において解決しようとする課題である、インジェクタ5の先端に付着した燃料に起因するPNの増大について説明する。
【0023】
図4はインジェクタ5の先端付近の拡大図である。ここでは、簡単のため、噴孔5Aが一つの場合を示している。
【0024】
燃料は高圧のコモンレール4から筒内に噴射されるので、燃料温度が高温の場合には減圧沸騰(Flash boiling)が生じ易い。減圧沸騰が生じると、噴孔5Aから噴射される燃料噴霧の噴霧角は増大する。例えば、噴孔5Aを通過する際の燃料温度が常温(25℃程度)の場合の噴霧角をθ1とし、燃料温度が高温(90℃程度)の場合の噴霧角をθ2とすると、θ1<θ2となる。そして、噴霧角が大きくなるほど、噴孔5Aの周辺に燃料が付着し易くなる。すなわち、燃料温度が高いほど噴孔5Aの周辺(つまりインジェクタ5の先端)に燃料が付着し易くなる。
【0025】
なお、燃料が常温の場合でも噴孔5Aの周辺に燃料が付着することはあるが、ごく微量であり、PNに影響を与えることはない。そこで本実施形態では、PNの増大を招く程度にインジェクタ5の先端に燃料が付着することを「先端濡れ」(チップウェット)と称する。また、付着する燃料量が増加することを、「濡れ量が増大する」と称する。
【0026】
図5は、濡れ量が増大することによるPN増大のメカニズムについて説明するための図である。
図5は、噴孔5Aが2つの場合について示している。
【0027】
燃料が高温になり減圧沸騰が生じると、先端濡れが生じる。特に、噴孔5Aが複数ある場合には、燃料温度の上昇により噴霧角が増大することで、隣り合う噴孔5Aから噴射される燃料噴霧が一体化し、濡れ量がより増大することになる。
【0028】
インジェクタ5の先端に付着した液状の燃料が燃焼ガスと反応することで、いわゆるデポジットが生成される。そして、先端濡れが生じる状況が繰り返されると、デポジットに燃料が吸収される。このようにデポジットに吸収された燃料が、インジェクタ先端温度の上昇や燃焼火炎の伝播等により着火すると、輝炎を発生して燃焼し、PNの増大を招くこととなる。
【0029】
そこで本実施形態では、先端濡れの発生を抑制するために、以下に説明する制御を実行する。
【0030】
図6は、本実施形態の制御の前提となる、エンジン運転モードの遷移を説明するための図である。
【0031】
運転を開始する際には、まずIGN off controlモードからStandbyモードへと移行し、そこから冷却液温や外気温等に応じて、ゼロフローモード(図中のZero−Flow mode)またはラジエータ流路制御(図中のRAD流路制御)モードへと移行する。
【0032】
ゼロフローモードとは、冷機始動時に内燃機関1の油水温の上昇を促進するためのモードである。具体的には、第1MCV7および第2MCV8を閉じることによって冷却液の流通を遮断し、内燃機関1の内部に冷却液を停滞させて冷却液の昇温を促進する。また、冷却液の流通を遮断することで、オイルクーラ14においても冷却液が停滞するので、エンジンオイルの昇温も促進される。なお、第1MCV7および第2MCV8は冷却液が沸騰する前に開かれる。
【0033】
ゼロフローモードは、ヒータスイッチがONになった場合や暖機状態になった場合または、これらの条件を満たしていない場合でも、ゼロフローモード開始から所定時間(例えば数分)が経過した場合に終了する。ゼロフローモードが終了したら、ラジエータ流路制御モードに移行する。
【0034】
ラジエータ流路制御モードは、一般的に行われている流路制御と同様に、冷却液温が所定温度以下であればラジエータ16を迂回する経路で冷却液を循環させ、所定温度を超えたらラジエータ16を通過する経路で冷却液を循環させるものである。ただし、本実施形態の内燃機関1は、上述したようにシリンダブロック2の温度とシリンダヘッド3の温度をそれぞれ独立して制御可能である。そして、ラジエータ流路制御モードは、さらに2つのモードに分割される。その一方(第1モード)は、シリンダブロック及びシリンダヘッドを同じ温度に制御するモードであり、他方(第2モード)はシリンダヘッドをシリンダブロックより低温に制御するモードである。負荷が所定負荷より高くなった場合、またはエンジン回転速度が所定回転速度より高くなった場合に、第2モードを実行し、その他の場合に第1モードを実行する。なお、制御が煩雑になることを抑制するため、第1モードから第2モードへ移行するか否かを判定するための所定負荷及び所定回転速度と、第2モードから第1モードへ移行するか否かを判定するための所定負荷及び所定回転速度とにヒステリシスを設けてもよい。第1モード及び第2モードにおける、ヘッド側通路WH内の冷却液温及びブロック側通路WB内の冷却液温については後述する。
【0035】
ラジエータ流路制御モードの実行中に燃料温度が上昇した場合には、先端濡れの発生を抑制するために、後述する燃料温度コントロールモードに移行する。
【0036】
図7は、燃料温度コントロールモードを実行するか否かを判定する制御ルーチンのフローチャートである。
【0037】
ステップS100で、コントローラ100はインジェクタ先端温度Ttip及び冷却液温Twを取得する。インジェクタ5の先端温度を検出する温度センサが取り付けられている場合には、コントローラ100はこの温度センサの検出値を読み込む。インジェクタ5に温度センサが取り付けられていない場合には、コントローラ100は後述する演算によりインジェクタ先端温度Ttipを推定する。また、コントローラ100は、冷却液温として一般的な内燃機関にも取り付けられている水温センサの検出値を読み込む。
【0038】
ここで、インジェクタ先端温度Ttipの推定方法について説明する。
【0039】
図8はエンジン負荷及びエンジン回転速度とインジェクタ先端温度Ttipとの関係を示すマップである。コントローラ100は、アクセルペダル開度センサ(図示せず)の検出値に基づいてエンジン負荷を算出し、クランク角センサの検出値に基づいてエンジン回転速度を算出する。そして、コントローラ100は
図8のマップを参照することによって、インジェクタ先端温度Ttipを算出する。より高精度にインジェクタ先端温度Ttipを算出するために、
図8のマップから算出したインジェクタ先端温度Ttipを、コモンレール温度に基づく補正係数及び冷却液温に基づく補正係数を用いて補正してもよい。コモンレール温度に基づく補正係数は、例えば
図9に示すような、コモンレール温度のインジェクタ先端温度との関係に基づいて予め設定しておく。冷却液温に基づく補正係数も同様に、例えば
図10に示すような、冷却液温のインジェクタ先端温度との関係に基づいて予め設定しておく。
【0040】
コントローラ100は、上記のようにインジェクタ先端温度Ttip及び冷却液温Twを取得したら、ステップS102で冷却液温Twは所定温度T1より高いか否かを判定する。コントローラ100は、判定結果が肯定的であればステップS104の処理を実行し、否定的であれば今回のルーチンを終了する。
【0041】
所定温度T1は、内燃機関1が暖機状態か否かを判定するための閾値である。すなわち、本ステップの判定結果が否定的な場合は、内燃機関1は冷機状態であり、コントローラ100は本ルーチンとは別の、ゼロフローモード用の制御を実行することになる。
【0042】
ステップS104で、コントローラ100はインジェクタ先端温度Ttipが所定温度T2より高いか否かを判定する。コントローラ100は、判定結果が肯定的であればステップS106の処理を実行し、否定的であれば今回のルーチンを終了する。
【0043】
本ステップは、燃料温度の上昇を抑制する必要があるか否かを決定するためのものである。このため、所定温度T2として、燃料の減圧沸騰が生じる温度よりも数℃低い温度を予め設定しておく。この「数℃低い温度」は、後述する先端温度コントロールモードを開始すれば減圧沸騰が生じる温度まで燃料温度が上昇することを防止できる温度であればよい。具体的には、適合により設定する。
【0044】
ステップS106で、コントローラ100は燃料温度コントロールモードを実行する。本実施形態では後述するようにインジェクタ5を冷却することによって燃料温度を制御するので、以下の説明では燃料温度コントロールモードのことを「先端温度コントロール」と称する。
【0045】
先端温度コントロールとは、減圧沸騰が生じないように燃料温度の上昇を抑制する制御である。先端濡れが生じるのは、上述したように燃料温度が上昇して減圧沸騰が生じるためであるが、燃料温度が上昇する要因として、燃焼火炎や燃焼ガスに晒されることで温度上昇したインジェクタ5を燃料が通過することが挙げられる。したがって、インジェクタ5の、特に噴孔5Aのある先端部分の温度を低下させれば、燃料温度を低下させることができる。そこで本実施形態では、インジェクタ5の温度を制御することによって、減圧沸騰が生じないように燃料温度を制御する。具体的には、シリンダヘッド3の冷却液流量を、燃料温度の上昇を抑制する場合には多くし、燃料温度の低下を抑制する場合には少なくするように、第2MCV8を用いて制御する。インジェクタ5はシリンダヘッド3に取り付けられているので、シリンダヘッド3の温度を低下させればインジェクタ5の温度も低下するからである。冷却液流量は、次の条件を満足するように制御する。
【0046】
第1に、噴孔5Aを通過する際の燃料温度が減圧沸騰の生じる温度以下であること。第2に、冷却液温が、PNの増大や燃料によるオイル希釈の増加が生じない下限温度以上であること。第3に、冷却液温が、冷却液が沸騰しない上限温度以下であること。
【0047】
上記の条件を満たす温度範囲の下限値をT3とし、上限値をT4とすると、T3<T2<T4という関係が成立する。
【0048】
図11は、排ガス試験用モードでの運転中に
図7の制御ルーチンを実行した場合のタイミングチャートである。なお、図中に破線で示したインジェクタ先端温度Ttip2は比較例である。この比較例は、シリンダブロック及びシリンダヘッドの冷却回路が独立しておらず、かつ
図7の制御ルーチンを実行しない場合のインジェクタ先端温度の推移を示している。
【0049】
運転開始に伴い冷却液温TWが徐々に上昇し、タイミングTM1で所定温度T1を超える。そして、タイミングTM2でインジェクタ先端温度Ttip1が所定温度T2を超えると、コントローラ100は先端温度コントロールを開始する。これにより、インジェクタ先端温度Ttip1は、噴孔5Aを通過する燃料が減圧沸騰する温度を超えることがない。これに対して比較例では、インジェクタ先端温度Ttip2が運転時間の経過及び車速の増大に伴って上昇し、噴孔5Aを通過する燃料が減圧沸騰する温度を超えている。
【0050】
このように、本実施形態によれば、先端温度コントロールによって噴射された燃料の減圧沸騰を抑制することができる。
【0051】
図12は、排ガス試験用モードでの運転中におけるPNの推移を示している。図中の実線が本実施形態のPN排出量であり、破線は
図7と同様の比較例である。また、時間軸(横軸)は
図11と共通である。
【0052】
比較例では、運転時間の経過に伴いPNが増大している。これは、
図11におけるインジェクタ先端温度Ttip2の挙動と対応している。これに対して本実施形態を実行した場合のPNは、運転開始直後に増大した後はほぼ一定に保たれている。つまり、先端濡れに起因するPNの増大が抑制されている。
【0053】
ここで、ラジエータ流路制御モード中の第1モード及び第2モードにおける、ブロック側通路WB内の冷却液温(以下、「ブロック液温」ともいう)と、ヘッド側通路WH内の冷却液温(以下、「ヘッド液温」ともいう)とについて説明する。
【0054】
図13は、暖機状態となった後のブロック液温とオイル希釈率との関係を示す図である。
【0055】
内燃機関1の運転中に、シリンダ壁等に付着した燃料がエンジンオイル(以下、単に「オイル」ともいう)に混入するオイル希釈が生じることがある。オイル希釈率が高くなるほどオイルの性能が劣化するので、希釈限界を設けて、これを超えないようにする必要がある。
【0056】
図13に示すように、オイル希釈率はブロック液温が低いほど高くなる。これは、フロック液温が低いほどシリンダブロックの壁温が低くなり、燃料が付着し易くなるためである。そこで、ブロック液温を、オイル希釈率が希釈限界を超えないような温度に制御する必要がある。なお、図中のブロック液温TWB1は、後述する
図14におけるブロック液温の基準値である。
【0057】
図14は、HC排出量のブロック液温及びヘッド液温に対する感度について説明するための図である。
【0058】
横軸はエンジン始動から15秒間のHC排出量であり、縦軸はエンジン始動から15秒後の排気温度である。後述する曲線A−Cの下側がHC排出量規制値をクリアできる領域(OK領域)であり、上側がHC排出量規制値をクリアできない領域(NG領域)である。
【0059】
曲線Aはブロック液温及びヘッド液温がそれぞれ所定の基準値(TWB1、TWH1)である場合のHC排出量と排気温度との関係を示している。なお、ブロック液温の基準値TWB1とヘッド液温の基準値TWH1は同じ温度である。
【0060】
曲線Bは、曲線Aに対してヘッド液温だけを低下させてTWH2にした場合のHC排出量と排気温度との関係を示している。図示すように、曲線Bは曲線Aとほとんど変わらない。つまり、ヘッド液温だけを低下させてもOK領域はほぼ変化しない。
【0061】
曲線Cは、曲線Bに対してブロック液温を低下させてTWB2にした場合のHC排出量と排気温度との関係を示している。曲線Cのブロック液温はヘッド液温と同じである。換言すると、曲線Cは曲線Aからブロック液温及びヘッド液温を低下させた場合といえる。なお、曲線Cにおけるブロック液温TWB2とヘッド液温TWH2は同じ温度である。
【0062】
図示するように、曲線Cの場合には曲線A、Bに比べて、OK領域が狭くなっている。
【0063】
このことから、HC排出量はブロック液温に対する感度が高く、ヘッド液温に対する感度は低いことがわかる。そして、HC排出量を増加させないためには、ブロック液温を基準値に保つことが望ましい。
【0064】
内燃機関1の運転に際して要求される性能としては、上述したPN要求、HC排出量要求、及びオイル希釈要求の他に、燃焼安定度要求、燃費性能要求、及び出力性能要求がある。そして、これらの性能も冷却液温と関係がある。
【0065】
図15は、上述した各要求を満たすブロック液温についてまとめたものである。
【0066】
図示するように、HC排出量要求及びオイル希釈要求を満足するブロック液温に比べて、燃焼安定度、燃費性能、及び出力性能を満足するブロック液温は低い。そして、PN要求を満足するブロック液温は、燃焼安定度等を満足するブロック液温よりもさらに低い。
【0067】
そこで、第1モードでは、ブロック液温がHC排出量要求及びオイル希釈要求を満足する温度、例えば上述したTWB1を維持するように、冷却流路及び冷却流量を制御する。また、燃焼安定度要求、燃費性能要求及び出力性能要求に関しては、ヘッド液温はブロック液温と同じ温度でよく、PN要求、HC排出量要求及びオイル希釈要求に関してはヘッド液温に対する感度は小さい。このため、第1モードでは、ヘッド液温がブロック液温と同じ温度になるように制御する。
【0068】
一方、高負荷または高回転速度の場合に実行する第2モードでは、ノッキングの発生を回避する必要がある。そこで、ブロック液温は第1モードと同温に維持したまま、ヘッド液温を例えば上述したTWH2まで低下させる。ブロック液温だけを低下させるのは、ブロック液温を変化させなければPN要求、HC排出量要求及びオイル希釈要求を満足できるからである。
【0069】
なお、ブロック液温及びヘッド液温の制御にあたり、ブロック液温及びヘッド液温を直接的に検知するのではなく、ブロック壁温及びヘッド壁温に基づいて制御することもできる。この場合、
図16に示すテーブルを用いてブロック液温をブロック壁温に換算すればよい。例えば、ブロック液温がTWB1の場合にはブロック壁温はTB1となるので、ブロック壁温をモニタしながら、ブロック壁温をTB1するように冷却流路及び冷却流量を制御すればよい。ヘッド液温についても同様である。
【0070】
なお、
図3に示したように、本実施形態の内燃機関1は、ピストン冷却用のオイルジェット24を備える。
図17は、オイルジェット24を作動させた場合と作動させない場合とについてPN排出量を測定した結果である。横軸の「平均壁温」は、ブロック壁温とヘッド壁温とに所定の重み付けをして算出した平均温度である。また、図中の斜線を付した領域は、本実施形態に係る制御を実行した場合の温度領域である。図中の曲線は、測定結果に基づいて作成した平均壁温とPNとの関係を示す特性線である。また、図中の「target」は、PNの許容値である。図示するように、狙い壁温においては、オイルジェット24の作動・非作動はPNに対して影響が少ない。
【0071】
図18は、インジェクタ5の突き出し量について説明するための図である。インジェクタ5の先端が燃焼室壁面に一致する場合を突き出し量ゼロとし、インジェクタ5の先端が燃焼室側に突出する状態(図中の破線の状態)を突き出し量が正、その逆を突き出し量が負、とする。
【0072】
図19は、インジェクタ先端温度と、先端濡れによるPNとの関係を示す図である。
【0073】
突き出し量が大きくなるほど、燃焼火炎や燃焼ガスからの受熱量が大きくなるため、インジェクタ5の温度は上昇する。その結果、噴孔5Aから噴射される際の燃料温度が高くなってPNが増大する。一方、突き出し量を小さくすれば、燃料温度の上昇が抑制され、その結果PNの増大を抑制することができる。
【0074】
すなわち、
図19に示すように、運転状態が同じであっても、突き出し量をゼロにすることで突き出し量が正の場合に比べてPNを抑制できる。そして、突き出し量をゼロにした状態で本実施形態の制御を実行すると、PN抑制効果がさらに大きくなる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態では、燃料噴射弁(インジェクタ5)の噴孔5Aを通過する際の燃料温度が、燃料噴射弁先端への燃料付着量が増大する温度に達する前に、燃料を冷却する。これにより、先端濡れの増大を抑制することができ、結果としてPNの増大を抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態では、内燃機関1はそれぞれ独立したシリンダヘッド冷却通路(ヘッド側通路WH)とシリンダブロック冷却通路(ブロック側通路WB)とを含む機関冷却通路を備え、シリンダヘッド冷却通路の冷却液流量を制御することによって燃料を冷却する。これにより、シリンダブロックへの燃料付着によるPNの増大や、HC排出量の増加や、オイル希釈率の増大等を招くことなく、先端濡れに起因するPNの増大を抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態においては、インジェクタ5の先端への燃料付着量が増大する温度を、燃料が減圧沸騰する温度とする。先端濡れの増大は燃料が減圧沸騰することが主な要因であるので、本実施形態によればインジェクタ5の先端濡れの増大を確実に抑制することができる。
【0078】
(第2実施形態)
図20は、第2実施形態に係る冷却液通路の概略構成図である。
図1の構成と異なるのは、コモンレール4を冷却するための冷却回路(コモンレール冷却回路)を有する点である。コモンレール冷却回路は、第1実施形態で説明した冷却回路とは別系統であり、当該回路専用のウォータポンプ(WP)、ラジエータ(RAD)、インタークーラ(I/C)、及び後述するコモンレール冷却液通路を備える。
【0079】
図21は、第2実施形態で使用するコモンレール4の構成図である。コモンレール4は、インジェクタホルダ30とボルト締結用のフランジ31とを備える。また、コモンレール4は、内部に燃料通路33とコモンレール冷却液通路32とを備える。コモンレール冷却液通路32は、燃料通路33に沿うように設けられている。なお、図中の矢印は、それぞれ燃料と冷却液との流れ方向を示している。
【0080】
燃料ポンプ(図示せず)によりコモンレール4の燃料通路33に送られた燃料は、インジェクタホルダ30に取り付けられたインジェクタ5から噴射される。コモンレール冷却通路32の内部には、コモンレール冷却回路専用のウォータポンプにより送られた冷却液が流れる。
【0081】
上記の構成によれば、燃料通路33内の燃料がコモンレール冷却液通路32を流れる冷却液によって冷却される。つまり、第1実施形態においてはインジェクタ5を冷却することによって燃料温度を制御したが、第2実施形態では燃料を冷却することによって燃料温度を制御する。このような構成でも、第1実施形態と同様に先端濡れによるPNの増大を抑制することができる。
【0082】
また、第2実施形態によれば、燃料温度をブロック液温およびヘッド液温とは独立して制御することができる。
【0083】
以上のように第2実施形態では、加圧燃料を蓄えるコモンレール4と、機関冷却通路とは別の循環回路を有するコモンレール冷却通路と、を備え、コモンレール冷却通路の冷却液流量を制御することによって燃料を冷却する。これにより、ブロック液温やヘッド液温に影響を与えることなく先端濡れによるPNの増大を抑制することができる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。