(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579220
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20190912BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20190912BHJP
H02P 6/10 20060101ALI20190912BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20190912BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20190912BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20190912BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20190912BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20190912BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P27/08
H02P6/10
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-90629(P2018-90629)
(22)【出願日】2018年5月9日
(62)【分割の表示】特願2017-562365(P2017-562365)の分割
【原出願日】2017年7月7日
(65)【公開番号】特開2018-153091(P2018-153091A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2018年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-142623(P2016-142623)
(32)【優先日】2016年7月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-179621(P2016-179621)
(32)【優先日】2016年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(74)【代理人】
【識別番号】100200333
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 真二
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 博明
(72)【発明者】
【氏名】皆木 亮
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝義
【審査官】
尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−011965(JP,A)
【文献】
特開2004−080954(JP,A)
【文献】
特開2012−231615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00− 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも操舵トルクに基づいて演算されたdq軸電流指令値を3相電圧指令値に変換し、前記3相電圧指令値に基づいてDuty指令値を演算し、PWM制御のインバータにより3相ブラシレスモータを駆動制御し、車両の操舵機構にアシストトルクを付与するベクトル制御方式の電動パワーステアリング装置において、
前記dq軸電流指令値を3相に変換して3次高調波を重畳するベクトル空間変調を行う空間ベクトル変調により前記3相電圧指令値を求め、前記dq軸電流指令値を3相電流指令値モデルで変換した3相電流モデル指令値の補償符号を、ヒステリシス特性で推定すると共に、インバータ印加電圧に基づいてデッドタイム補償量を演算し、前記デッドタイム補償量に前記補償符号を乗じた3相デッドタイム補償値を前記空間ベクトル変調後の前記3相電圧指令値に加算して前記インバータのデッドタイム補償を行い、
前記3相電流指令値モデルの変換に、前記3相ブラシレスモータのモータ回転角の位相調整後モータ回転角を用いており、
前記3相ブラシレスモータのモータ回転数と比例関係を有する位相調整角を算出し、
前記位相調整角と前記モータ回転角を加算して、前記位相調整後モータ回転角を算出し、
前記モータ回転角の位相を前記モータ回転数に応じて可変して位相調整することにより、前記デッドタイム補償のタイミングを制御することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記3相電流モデル指令値を、前記dq軸電流指令値及び演算若しくはテーブル等により算出するようになっている請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記インバータ印加電圧と前記デッドタイム補償量の関係が、
前記インバータ印加電圧が所定電圧1までは一定のデッドタイム補償量1であり、前記インバータ印加電圧が前記所定電圧VR1より大きく所定電圧VR2(>VR1)までは増加するデッドタイム補償量2であり、前記インバータ印加電圧が前記所定電圧VR2より大きい領域で一定のデッドタイム補償量3である請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
少なくとも操舵トルクに基づいて演算されたdq軸電流指令値をdq軸電圧指令値に変換して後に3相電圧指令値に変換し、前記3相電圧指令値に基づいてDuty指令値を演算し、PWM制御のインバータにより3相ブラシレスモータを駆動制御し、車両の操舵機構にアシストトルクを付与するベクトル制御方式の電動パワーステアリング装置において、
インバータ印加電圧に基づいて各相デッドタイム補償量を演算するインバータ印加電圧感応補償量演算部と、
前記dq軸電流指令値及び位相調整後モータ回転角に基づいて3相電流モデル指令値を演算する3相電流指令値モデルと、
前記3相電流モデル指令値の補償符号を、ヒステリシス特性で推定する相電流補償符号推定部と、
前記各相デッドタイム補償量に前記補償符号を乗算した3相デッドタイム補償値を出力するデッドタイム補償値出力部と、
前記dq軸電圧指令値を3相に変換して3次高調波を重畳した変調後3相電圧指令値を出力する空間ベクトル変調部と、
前記3相ブラシレスモータのモータ回転数と比例関係を有する位相調整角を算出する位相調整部と、
前記位相調整角と前記3相ブラシレスモータのモータ回転角を加算して前記位相調整後モータ回転角を算出する第1の加算部と、
前記空間ベクトル変調部からの前記変調後3相電圧指令値に前記3相デッドタイム補償値を加算する第2の加算部と、
を具備し、
前記加算部で得られる補償後3相電圧指令値を前記3相Dutyに変換して前記インバータのデッドタイム補償を行うと共に、
前記モータ回転角の位相を前記モータ回転数に応じて可変して位相調整することにより、前記デッドタイム補償のタイミングを制御することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3相ブラシレスモータの駆動をdq軸回転座標系でベクトル制御すると共に、dq軸電流指令値を3相変換した電流指令値モデルに基づいて、インバータ印加電圧感応補償量演算部で演算されたデッドタイム補償量を、dq軸電流指令値に基づく補償符号で処理し、dq軸電圧指令値若しくは3相電圧指令値に加算してインバータのデッドタイム補償を行い、滑らかで操舵音のないアシスト制御を可能とした電動パワーステアリング装置に関に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)は、アクチュエータとしてのモータの駆動力を、減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のDutyの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を
図1に示して説明すると、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の舵角θを検出する舵角センサ14と、ハンドル1の操舵トルクThを検出するトルクセンサ10とが設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、演算された電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する。舵角センサ14は必須のものではなく、配設されていなくても良く、モータ20に連結されたレゾルバ等の回転センサから舵角(モータ回転角)θを得ることもできる。
【0004】
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40が接続されており、車速VsはCAN40から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
【0005】
このような電動パワーステアリング装置において、コントロールユニット30は主としてCPU(Central Processing Unit)(MPU(Micro Processor Unit)やMCU(Micro Controller Unit)等を含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと、例えば
図2に示されるような構成となっている。
【0006】
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10からの操舵トルクTh及び車速センサ12からの車速Vsは操舵補助指令値演算部31に入力され、操舵補助指令値演算部31は操舵トルクTh及び車速Vsに基づいてアシストマップ等を用いて操舵補助指令値Iref1を演算する。演算された操舵補助指令値Iref1は加算部32Aで、特性を改善するための補償部34からの補償信号CMと加算され、加算された操舵補助指令値Iref2が電流制限部33で最大値を制限され、最大値を制限された電流指令値Irefmが減算部32Bに入力され、モータ電流検出値Imと減算される。
【0007】
減算部32Bでの減算結果である偏差ΔI(=Irefm−Im)はPI制御部35でPI(比例積分)等の電流制御をされ、電流制御された電圧制御指令値Vrefが変調信号(三角波キャリア)CFと共にPWM制御部36に入力されてDuty指令値を演算され、Duty指令値を演算されたPWM信号でインバータ37を介してモータ20をPWM駆動する。モータ20のモータ電流値Imはモータ電流検出器38で検出され、減算部32Bに入力されてフィードバックされる。
【0008】
補償部34は、検出若しくは推定されたセルフアライニングトルク(SAT)を加算部344で慣性補償値342と加算し、その加算結果に更に加算部345で収れん性制御値341を加算し、その加算結果を補償信号CMとして加算部32Aに入力し、特性改善を実施する。
【0009】
近年、電動パワーステアリング装置のアクチュエータは3相ブラシレスモータが主流となっていると共に、電動パワーステアリング装置は車載製品であるため、稼動温度範囲が広く、フェールセーフの観点からモータを駆動するインバータは家電製品を代表とする一般産業用と比較して、デッドタイムを大きく(産業用機器<EPS)する必要がある。一般にスイッチング素子(例えばFET)にはOFFの際に遅れ時間があるため、上下アームのスイッチング素子のOFF/ON切り換えを同時に行うと、直流リンクを短絡する状況になり、これを防ぐため、上下アーム両方のスイッチング素子がOFFになる時間(デッドタイム)を設けている。
【0010】
その結果、電流波形が歪み、電流制御の応答性や操舵感が悪化する。例えばハンドルがオンセンター付近にある状態でゆっくり操舵すると、トルクリップル等による不連続な操舵感などが生じる。また、中・高速操舵時におけるモータの逆起電圧や、巻線間の干渉電圧が電流制御に対して外乱として作用するため、転追性や切り返し操舵時の操舵感を悪化させている。中・高速操舵時には、操舵音も悪化する。
【0011】
3相ブラシレスモータのロータの座標軸であるトルクを制御するq軸と、磁界の強さを制御するd軸とを独立に設定し、dq軸が90°の関係にあることから、そのベクトルで各軸に相当する電流(d軸電流指令値及びq軸電流指令値)を制御するベクトル制御方式が知られている。
【0012】
図3は、ベクトル制御方式で3相ブラシレスモータ100を駆動制御する場合の構成例を示しており、操舵トルクTh、車速Vs等に基づいて操舵補助指令値演算部(図示せず)で演算された2軸(dq軸座標系)の操舵補助指令値が演算され、最大値を制限された2軸のd軸電流指令値i
d*及びq軸電流指令値i
q*はそれぞれ減算部131d及び131qに入力され、減算部131d及び131qで求められた電流偏差Δi
d*及びΔi
q*はそれぞれPI制御部120d及び120qに入力される。PI制御部120d及び120qでPI制御された電圧指令値v
d及びv
qは、それぞれ減算部141d及び加算部1421qに入力され、減算部141d及び加算部141qで求められた指令電圧Δv
d及びΔv
qはdq軸/3相交流変換部150に入力される。dq軸/3相交流変換部150で3相に変換された電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*はPWM制御部160に入力され、演算された3相のDuty指令値(Duty
u,Duty
v,Duty
w)に基づくPWM信号により、
図4に示すような上下アームのブリッジ構成で成るインバータ(インバータ印加電圧VR)161を介してモータ100が駆動される。上側アームはスイッチング素子としてのFETQ1,Q3,Q5で構成され、下側アームはFETQ2,Q4,Q6で構成されている。
【0013】
モータ100の3相モータ電流i
u,i
v,i
wは電流検出器162で検出され、検出された3相モータ電流i
u,i
v,i
wは3相交流/dq軸変換部130に入力され、3相交流/dq軸変換部130で変換された2相のフィードバック電流i
d及びi
qはそれぞれ減算部131d及び131qに減算入力されると共に、d−q非干渉制御部140に入力される。また、モータ100には回転センサ等が取り付けられており、センサ信号を処理する角度検出部110からモータ回転角θ及びモータ回転数(回転速度)ωが出力される。モータ回転角θはdq軸/3相交流換部150及び3相交流/dq軸変換部130に入力され、モータ回転数ωはd−q非干渉制御部140に入力される。d−q非干渉制御部140からの2相の電圧v
d1*及びv
q*はそれぞれ減算部141d及び加算部141qに入力され、減算部141dで求められた電圧指令値Δv
d及び加算部141qで求められた電圧指令値Δv
qがdq軸/3相交流変換部150に入力される。
【0014】
このようなベクトル制御方式の電動パワーステアリング装置は、運転者の操舵をアシストする装置であると同時に、モータの音や振動、リップル等はハンドルを介して運転者へ力の感覚として伝達される。インバータを駆動するパワーデバイスは一般的にFETが用いられており、モータへ通電を行うが、3相モータの場合には、
図4に示されるように各相毎に上下アームの直列接続されたFETが用いられている。上下アームのFETは交互にON/OFFを繰り返すが、FETは理想スイッチではなく、ゲート信号の指令通りに瞬時にON/OFFせず、ターンオン時間やターンオフ時間を要する。このため、上側アームFETへのON指令と下側アームのOFF指令が同時になされると、上側アームFETと下側アームFETが同時にONになって、上下アームが短絡する問題がある。FETのターンオン時間とターンオフ時間には差があり、同時にFETに指令を出した場合、上側FETにON指令を出してターンオン時間が短い場合(例えば100ns)、直ぐにFETがONになり、下側FETにOFF指令を出してもターンオフ時間が長い場合(例えば400ns)、直ぐにFETがOFFにならず、瞬間的に上側FETがON、下側FETがONになる状態(例えば、400ns−100ns間、ON−ON)が発生することがある。
【0015】
そこで、上側アームFETと下側アームFETが同時にONすることの無い様に、ゲート駆動回路にデッドタイムという所定時間をおいてON信号を与えることが行われる。このデッドタイムは非線形であるため電流波形は歪み、制御の応答性能が悪化し、音や振動、リップルが発生する。コラム式電動パワーステアリング装置の場合、ハンドルと鋼製のコラム軸で接続されるギアボックスに直結されるモータの配置が、その構造上運転者に極めて近い位置となっているため、モータに起因する音、振動、リップル等には、下流アシスト方式の電動パワーステアリング装置に比べて、特に配慮する必要がある。
【0016】
インバータのデッドタイムを補償する手法として、従来はデッドタイムが発生するタイミングを検出して補償値を足し込んだり、電流制御におけるdq軸上の外乱オブザーバによってデッドタイムを補償している。
【0017】
インバータのデッドタイムを補償する電動パワーステアリング装置は、例えば特許第4681453号公報(特許文献1)、特開2015−171251号公報(特許文献2)に開示されている。特許文献1では、モータ、インバータを含む電流制御ループのリファレンスモデル回路に電流指令値を入力して電流指令値を基にモデル電流を作成し、モデル電流を基にインバータのデッドタイムの影響を補償するデッドバンド補償回路を備えている。また、特許文献2では、Duty指令値に対してデッドタイム補償値に基づく補正を行うデッドタイム補償部を備え、電流指令値に基づいてデッドタイム補償値の基礎値である基本補償値を演算する基本補償値演算部と、基本補償値に対してLPFに対応するフィルタリング処理を施すフィルタ部とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第4681453号公報
【特許文献2】特開2015−171251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1の装置は、q軸電流指令値の大きさによるデッドタイム補償量の計算と3相電流リファレンスモデルとを使用して、補償符号を推定する方式である。補償回路の出力値が、所定の固定値以下ではモデル電流に比例する変化値であり、所定の固定値以上では、固定値とモデル電流に比例する変化値の加算値であり、電流指令から電圧指令へと出力されるが、所定の固定値を出力するヒステリシス特性を決めるためのチューニング作業が必要である。
【0020】
また、特許文献2の装置は、デッドタイム補償値を決定する際、q軸電流指令値とそれをLPF処理した補償値とでデッドタイム補償を行っており、遅れが生じ、モータへの最終的な電圧指令に対して、デッドタイム補償値を操作するものではないという問題がある。
【0021】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、ベクトル制御方式の電動パワーステアリング装置において、チューニング作業もなく、インバータのデッドタイムを補償し、電流波形の歪み改善と電流制御の応答性の向上を図り、音や振動、リップルを抑制した電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、少なくとも操舵トルクに基づいて演算されたdq軸電流指令値を3相電圧指令値に変換し、前記3相電圧指令値に基づいてDuty指令値を演算し、PWM制御のインバータにより3相ブラシレスモータを駆動制御し、車両の操舵機構にアシストトルクを付与するベクトル制御方式の電動パワーステアリング装置において、前記dq軸電流指令値を3相に変換して3次高調波を重畳するベクトル空間変調を行
う空間ベクトル変調
により前記3相電圧指令値を求め、前記dq軸電流指令値を3相電流指令値モデル
で変換した3相電流モデル指令値の補償符号を、ヒステリシス特性で推定すると共に、インバータ印加電圧に基づいてデッドタイム補償量を演算し、前記デッドタイム補償量に前記補償符号を乗じた
3相デッドタイム補償値を前記空間ベクトル変調後
の前記3相電圧指令値に加算して前記インバータのデッドタイム補償を行
い、前記3相電流指令値モデルの変換に、前記3相ブラシレスモータのモータ回転角の位相調整後モータ回転角を用いており、前記3相ブラシレスモータのモータ回転数と比例関係を有する位相調整角を算出し、前記位相調整角と前記モータ回転角を加算して、前記位相調整後モータ回転角を算出し、前記モータ回転角の位相を前記モータ回転数に応じて可変して位相調整することにより、前記デッドタイム補償のタイミングを制御することにより達成される。
【0023】
また、本発明は、少なくとも操舵トルクに基づいて演算されたdq軸電流指令値を
dq軸電圧指令値に変換して後に3相電圧指令値に変換し、前記3相電圧指令値に基づいてDuty指令値を演算し、PWM制御のインバータにより3相ブラシレスモータを駆動制御し、車両の操舵機構にアシストトルクを付与するベクトル制御方式の電動パワーステアリング装置において、インバータ印加電圧に基づいて各相デッドタイム補償量を演算するインバータ印加電圧感応補償量演算部と、前記dq軸電流指令値
及び位相調整後モータ回転角に基づいて3相電流モデル指令値を演算する3相電流指令値モデルと、前記3相電流モデル指令値の補償符号を、ヒステリシス特性で推定する相電流補償符号推定部と、前記各相デッドタイム補償量に前記補償符号を乗算した3相デッドタイム補償値を出力するデッドタイム補償値出力部と、前記dq軸電圧指令値を3相に変換して3次高調波を重畳
した変調後3相電圧指令値を出力する空間ベクトル変調部と、
前記3相ブラシレスモータのモータ回転数と比例関係を有する位相調整角を算出する位相調整部と、前記位相調整角と前記3相ブラシレスモータのモータ回転角を加算して前記位相調整後モータ回転角を算出する第1の加算部と、前記空間ベクトル変調部から
の前記変調後3相電圧指令値に前記3相デッドタイム補償値を加算する
第2の加算部と、を具備し、前記加算部で得られる補償後3相電圧指令値を前記3相Dutyに変換して前記インバータのデッドタイム補償を行
うと共に、前記モータ回転角の位相を前記モータ回転数に応じて可変して位相調整することにより、前記デッドタイム補償のタイミングを制御することにより達成される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、dq軸電流指令値を3相の電流モデル指令値に変換すると共に、補償符号を推定し、インバータ印加電圧から演算されたインバータのデッドタイム補償量を演算し、デッドタイム補償量に基づき、推定された補償符号によるデッドタイム補償値を2相に変換してdq軸上の電圧指令値に加算(フィードフォワード)で、或いは推定された補償符号によるデッドタイム補償値を3相の電圧指令値に加算(フィードフォワード)で補償している。これにより、チューニング作業もなく、インバータのデッドタイムをdq軸或いは3相上で補償し、電流波形の歪み改善と電流制御の応答性の向上を図ることができる。
【0025】
dq軸電流指令値に基づくデッドタイムのフィードフォワード補償により制御が滑らかになるので、モータの音や振動、リップルを抑制することができる。また、本発明は、高速操舵の領域においても位相ズレが少なく、単純に補償を行うことができる利点がある。d軸制御になっても補償方法が変わらないため、単純に補償を行うことができる。
【0026】
d軸制御が入った場合、d軸電流指令値の有り無しの条件でロジックを切り換えてd軸専用のロジックで別途補償する場合もあるが、本発明では、電流指令値モデルの演算がd軸電流指令値を含むため、d軸電流指令値が無い場合、d軸電流指令値=0で演算した3相電流モデル指令値が出力される。d軸電流指令値≠0の場合、d軸電流指令値及びq軸電流指令値に応じた3相電流モデル指令値が出力されるので、別途d軸専用のロジックを必要としない。d軸電流指令値の有無で特に演算方法が変わらないので、切り換えや追加ロジックを必要とせずに補償が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】一般的な電動パワーステアリング装置の概要を示す構成図である。
【
図2】電動パワーステアリング装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【
図3】ベクトル制御方式の構成例を示すブロック図である。
【
図4】一般的なインバータの構成例を示す結線図である。
【
図5】本発明の構成例(第1実施形態)を示すブロック図である。
【
図6】位相調整部の特性の一例を示す特性図である。
【
図7】インバータ印加電圧感応補償量演算部の構成例を示すブロック図である。
【
図8】インバータ印加電圧感応補償量演算部の特性例を示す特性図である。
【
図9】3相電流指令値モデルの出力波形の一例を示す波形図である。
【
図10】相電流補償符号推定部の動作例を示す波形図である。
【
図11】空間ベクトル変調部の構成例を示すブロック図である。
【
図12】空間ベクトル変調部の動作例を示す線図である。
【
図13】空間ベクトル変調部の動作例を示す線図である。
【
図14】空間ベクトル変調部の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図15】空間ベクトル変調の効果を示す波形図である。
【
図16】本発明(第1実施形態)の効果を示す波形図である。
【
図17】本発明(第1実施形態)の効果を示す波形図である。
【
図18】本発明の構成例(第2実施形態)を示すブロック図である。
【
図19】本発明(第2実施形態)の効果を示す波形図である。
【
図20】本発明(第2実施形態)の効果を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、ECUのデッドタイムの影響により電流歪みが発生し、トルクリップルの発生や操舵音の悪化などの問題を解消するために、デッドタイム補償値をdq軸電流指令値に基づく3相電流モデル指令値に変換すると共に、補償符号を推定し、インバータ印加電圧から演算されたインバータのデッドタイム補償量を演算し、推定された補償符号によるデッドタイム補償値を2相に変換してdq軸上の電圧指令値に加算(フィードフォワード)することにより(第1実施形態)、或いは推定された補償符号によるデッドタイム補償値を3相の電圧指令値に加算(フィードフォワード)することにより(第2実施形態)、デッドタイム補償している。これにより、チューニング作業もなく、インバータのデッドタイムをdq軸若しくは3相交流上で補償し、電流波形の歪み改善と電流制御の応答性の向上を図ることができる。
【0029】
以下に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0030】
図5は、本発明の全体構成(第1実施形態)を
図3に対応させて示しており、dq軸上のデッドタイム補償値v
d*及びv
q*を演算するデッドタイム補償部200が設けられている。デッドタイム補償部200には、d軸電流指令値i
d*及びq軸電流指令値i
q*が入力されると共に、モータ回転角θ及びモータ回転数ωが入力されている。また、インバータ161に印加されているインバータ印加電圧VRが、デッドタイム補償部200に入力されている。
【0031】
操舵補助指令値演算部(図示せず)で演算された操舵補助指令値の最大値を制限されたd軸電流指令値i
d*及びq軸電流指令値i
q*はそれぞれ減算部131d及び131qに入力され、減算部131d及び131qでフィードバック電流i
d及びi
qとの電流偏差Δi
d*及びΔi
q*が演算される。演算された電流偏差Δi
d*はPI制御部120dに入力され、演算された電流偏差Δi
q*はPI制御部120qに入力される。PI制御されたd軸電圧指令値v
d及びq軸電圧指令値v
qはそれぞれ加算部121d及び121qに入力され、後述するデッドタイム補償部200からのデッドタイム補償値v
d*及びv
q*を加算されて補償され、その各補償された電圧値が減算部141d及び加算部141qに入力される。減算部141dにはd−q非干渉制御部140からの電圧v
d1*が入力され、その差である電圧指令値v
d**が得られ、加算部141qにはd−q非干渉制御部140からの電圧v
q1*が入力され、その加算結果で電圧指令値v
q**が得られる。デッドタイムを補償された電圧指令値v
d**及びv
q**は、dq軸の2相からU相,V相,W相の3相に変換し、3次高調波を重畳する空間ベクトル変調部300に入力される。空間ベクトル変調部300でベクトル変調された3相の電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*はPWM制御部160に入力され、モータ100は前述と同様にPWM制御部160及びインバータ161を介して駆動制御される。
【0032】
次に、デッドタイム補償部200について説明する。
【0033】
デッドタイム補償部200は、加算部201、乗算部202、インバータ印加電圧感応補償量演算部210、3相電流指令値モデル220、相電流補償符号推定部221、位相調整部230、3相交流/dq軸変換部240で構成されている。なお、乗算部202及び3相交流/dq軸変換部240でデッドタイム補償値出力部を構成している。モータ回転角θは加算部201に入力され、モータ回転数ωは位相調整部230に入力されている。また、インバータ印加電圧VRはインバータ印加電圧感応補償量演算部210に入力され、加算部201で算出された位相調整後のモータ回転角θ
mが3相電流指令値モデル220に入力されている。
【0034】
モータ回転数ωによりデッドタイム補償タイミングを早めたり、遅くしたい場合、モータ回転数ωに応じて調整角度を算出する機能のために位相調整部230を有している。位相調整部230は、進角制御の場合は
図6に示すような特性であり、算出された位相調整角Δθは加算部201に入力され、検出されたモータ回転角θと加算される。加算部201の加算結果である位相調整後のモータ回転角θ
m(=θ+Δθ)は、3相電流指令値モデル220に入力されると共に、3相交流/dq軸変換部240に入力される。
【0035】
モータ電気角を検出してDuty指令値を演算してから、実際にPWM信号に反映されるまで数十〜百[μs]の時間遅れがある。この間、モータが回転しているので、演算時のモータ電気角と反映時のモータ電気角とで位相ずれが発生する。この位相ずれを補償するため、モータ回転数ωに応じて進角を行い、位相を調整している。
【0036】
最適なデッドタイム補償量はインバータ印加電圧VRに応じて変化するので、本発明ではインバータ印加電圧VRに応じたデッドタイム補償量DTCを演算し、可変するようにしている。インバータ印加電圧VRを入力してデッドタイム補償量DTCを出力するインバータ印加電圧感応補償量演算部210は
図7に示す構成であり、インバータ印加電圧VRは入力制限部211で正負最大値を制限され、最大値を制限されたインバータ印加電圧VR
lはインバータ印加電圧/デッドタイム補償量変換テーブル212に入力される。
【0037】
インバータ印加電圧/デッドタイム補償量変換テーブル212の特性は、例えば
図8のようになっている。即ち、所定インバータ印加電圧VR1まで一定のデッドタイム補償量DTC1であり、所定インバータ印加電圧VR1から所定インバータ印加電圧VR2(>VR1)まで線形(若しくは非線形)に増加し、所定インバータ印加電圧VR2以上で一定のデッドタイム補償量DTC2を出力する特性である。
【0038】
d軸電流指令値i
d*及びq軸電流指令値i
q*はモータ回転角θ
mと共に、3相電流指令値モデル220に入力される。3相電流指令値モデル220は、dq軸電流指令値i
d*及びi
q*、モータ回転角θ
mから、
図9に示すような120[deg]ずつ位相のずれた正弦波の3相電流モデル指令値I
cmを演算若しくはテーブルにより算出する(下記数1〜数2参照)。3相電流モデル指令値I
cmは、モータタイプによって相違している。d軸電流指令値i
ref_dとq軸電流指令値i
ref_qをモータ電気角θ
eから3相の電流指令値(U・V・W相)に変換すると、下記数1となる。
【0039】
【数1】
上記数1から各相電流指令値を求めると、U相電流指令値モデルi
ref_u、V相電流指令値モデルi
ref_v及びW相電流指令値モデルi
ref_wは、それぞれ下記数2で表わされる。
【0040】
【数2】
テーブルは、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read-Only Memory)に格納されているタイプでも、RAM(Random Access Memory)上に展開されているタイプでも良い。数2の使用において、sinθのみをテーブル化しておき、入力θを90°オフセットさせて使用することによりcosθを演算したり、120°オフセットさせるなどして、その他のsin関数項を演算しても良い。ROM容量に問題がなかったり、複雑な指令値モデル(例えば擬似矩形波モータなど)の場合は、数式全体をテーブル化しておく。
【0041】
3相電流モデル指令値I
cmは相電流補償符号推定部221に入力される。相電流補償符号推定部221は入力される3相電流モデル指令値I
cmに対して、
図10(A)及び(B)に示すヒステリシス特性で正(+1)又は負(−1)の補償符号SNを出力する。3相電流モデル指令値I
cmがゼロクロスするポイントを基準として補償符号SNを推定するが、チャタリング抑制のためにヒステリシス特性となっている。推定された補償符号SNは乗算部202に入力される。なお、ヒステリシス特性の正負閾値は適宜変更可能である。
【0042】
単純に相電流指令値モデルの電流符号からデッドタイム補償値の符号を決めた場合、低負荷においてチャタリングが発生する。例えば、オンセンターで軽く左右にハンドルを切った時に、トルクリップルが発生する。この問題を改善するために符号判定にヒステリシスを設け(
図10では±0.25[A])、設定した電流値を超えて符号が変化した場合以外、現在の符号を保持してチャタリングを抑制する。
【0043】
インバータ印加電圧感応補償量演算部210からのデッドタイム補償量DTCは乗算部202に入力され、乗算部202は補償符号SNを乗算したデッドタイム補償値DTCa(=DTC×SN)を出力する。デッドタイム補償値DTCaは3相交流/dq軸変換部240に入力され、3相交流/dq軸変換部240は、モータ回転角θ
mに同期して2相のデッドタイム補償値v
d*及びv
q*を出力する。デッドタイム補償値v
d*及びv
q*は、それぞれ加算部121d及び121qにおいて電圧指令値v
d及びv
qと加算され、インバータ161のデッドタイム補償が実施される。
【0044】
このように本発明では、dq軸電流指令値を3相の電流モデル指令値に変換すると共に、補償符号を推定し、インバータ印加電圧から演算されたインバータのデッドタイム補償量を演算し、推定された補償符号によるデッドタイム補償値をdq軸上の電圧指令値にフィードフォワード補償している。デッドタイムの補償符号については3相電流モデル指令値を使用し、デッドタイム補償量はインバータ印加電圧VRから算出し、電流指令値(i
d*,i
q*)の大きさやインバータ印加電圧VRの大きさによって、補償値が最適な大きさと方向になるように可変となっている。
【0045】
次に、空間ベクトル変調について説明する。空間ベクトル変調部300は
図11に示すように、dq軸空間の2相電圧(v
d**、v
q**)を3相電圧(Vua,Vva,Vwa)に変換し、3相電圧(Vua,Vva,Vwa)に3次高調波を重畳して出力(V
u*,V
v*,V
w*)する機能を有していれば良く、例えば本出願人による特開2017−70066、特願2015−239898等で提案している空間ベクトル変調の手法を用いても良い。
【0046】
即ち、空間ベクトル変調は、dq軸空間の電圧指令値v
d**及びv
q**、モータ回転角θ及びセクター番号n(#1〜#6)に基づいて、以下に示すような座標変換を行い、ブリッジ構成のインバータのFET(上側アームQ1、Q3、Q5、下側アームQ2、Q4、Q6)のON/OFFを制御する、セクター#1〜#6に対応したスイッチングパターンS1〜S6をモータに供給することによって、モータの回転を制御する機能を有する。座標変換については、空間ベクトル変調において、電圧指令値v
d**及びv
q**は、数3に基づいて、α−β座標系における電圧ベクトルVα及びVβに座標変換が行われる。この座標変換に用いる座標軸及びモータ回転角θの関係については、
図12に示す。
【0047】
【数3】
そして、d−q座標系における目標電圧ベクトルとα−β座標系における目標電圧ベクトルとの間には、数4のような関係が存在し、目標電圧ベクトルVの絶対値は保存される。
【0048】
【数4】
空間ベクトル制御におけるスイッチングパターンでは、インバータの出力電圧をFET(Q1〜Q6)のスイッチングパターンS1〜S6に応じて、
図13の空間ベクトル図に示す8種類の離散的な基準電圧ベクトルV0〜V7(π/3[rad]ずつ位相の異なる非零電圧ベクトルV1〜V6と零電圧ベクトルV0,V7)で定義する。そして、それら基準出力電圧ベクトルV0〜V7の選択とその発生時間を制御するようにしている。また、隣接する基準出力電圧ベクトルによって挟まれた6つの領域を用いて、空間ベクトルを6つのセクター#1〜#6に分割することができ、目標電圧ベクトルVは、セクター#1〜#6のいずれか1つに属し、セクター番号を割り当てることができる。Vα及びVβの合成ベクトルである目標電圧ベクトルVが、α−β空間において正6角形に区切られた
図13に示されたようなセクター内のいずれに存在するかは、目標電圧ベクトルVのα−β座標系における回転角γに基づいて求めることができる。また、回転角γはモータの回転角θとd−q座標系における電圧指令値v
d**及びv
q**の関係から得られる位相δの和として、γ=θ+δで決定される。
【0049】
図14は、空間ベクトル制御におけるインバータのスイッチングパターンS1、S3,S5によるディジタル制御で、インバータから目標電圧ベクトルVを出力させるために、FETに対するON/OFF信号S1〜S6(スイッチングパターン)におけるスイッチングパルス幅とそのタイミングを決定する基本的なタイミングチャートを示す。空間ベクトル変調は、規定されたサンプリング期間Ts毎に演算などをサンプリング期間Ts内で行い、その演算結果を次のサンプリング期間Tsにて、スイッチングパターンS1〜S6における各スイッチングパルス幅とそのタイミングに変換して出力する。
【0050】
空間ベクトル変調は、目標電圧ベクトルVに基づいて求められたセクター番号に応じたスイッチングパターンS1〜S6を生成する。
図14には、セクター番号#1(n=1)の場合における、インバータのFETのスイッチングパターンS1〜S6の一例が示されている。信号S1、S3及びS5は、上側アームに対応するFETQ1、Q3、Q5のゲート信号を示している。横軸は時間を示しており、Tsはスイッチング周期に対応し、8期間に分割され、T0/4、T1/2、T2/2、T0/4、T0/4、T2/2、T1/2及びT0/4で構成される期間である。また、期間T1及びT2は、それぞれセクター番号n及び回転角γに依存する時間である。
【0051】
空間ベクトル変調がない場合、本発明のデッドタイム補償をdq軸上に適用し、デッドタイム補償値のみdq軸/3相変換したデッドタイム補償値波形(U相波形)は、
図15の破線のような3次成分が除去された波形となってしまう。V相及びW相についても同様である。dq軸/3相変換の代わりに空間ベクトル変調を適用することにより、3相信号に3次高調波を重畳させることが可能となり、3相変換によって欠損してしまう3次成分を補うことができ、
図15の実線のような理想的なデッドタイム補償波形を生成することが可能となる。
【0052】
図16及び
図17は本発明(第1実施形態)の効果を示すシミュレーション結果であり、
図16はデッドタイムの補償がない場合のU相電流、d軸電流及びq軸電流を示している。本発明のデッドタイム補償を適用することにより、高速操舵でのステアリング操舵状態において、
図17のように相電流及びdq軸電流の波形歪みの改善(dq軸電流波形にリップルが少な、正弦波に近い相電流波形)が確認でき、操舵時のトルクリップルの改善と操舵音の改善がみられた。
【0053】
なお、
図16及び
図17では、代表してU相電流を示している。
【0054】
次に、推定された補償符号によるデッドタイム補償値を、3相の電圧指令値に加算(フィードフォワード)することにより補償する第2実施形態を、
図5に対応させた
図18に示して説明する。
【0055】
図18に示す第2実施形態では、デッドタイム補償部200Aは3相交流/dq軸変換部240を具備しておらず、従ってdq軸上の加算部121d及び121qを具備していない。第2実施形態では、推定された補償符号によるデッドタイム補償値を3相の電圧指令値に加算(フィードフォワード)するために、空間ベクトル変調部300とPWM制御部160の間に加算部163U,163V,163Wを設けている。そして、乗算部202でデッドタイム補償量DTCに補償符号SNを乗算された3相のデッドタイム補償値DTC
a(DTC
au,DTC
av,DTC
aw)は、それぞれ加算部163U,163V,163Wに入力され、加算されデッドタイム補償された電圧指令値Vu
**,Vv
**,Vw
**がPWM制御部160に入力される。以降の制御動作は上述と同様である。
【0056】
また、インバータ印加電圧感応補償量演算部210、3相電流指令値モデル220、相電流補償符号推定部221、位相調整部230は第1実施形態と同様な特性、動作であり、第2実施形態の効果は
図19及び
図20に示される。なお、
図19及び
図20でも、代表してU相電流を示している。
【符号の説明】
【0057】
1 ハンドル
2 コラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)
10 トルクセンサ
12 車速センサ
13 バッテリ
20、100 モータ
30 コントロールユニット(ECU)
31 電流指令値演算部
35、203、204 PI制御部
36、160 PWM制御部
37,161 インバータ
110 角度検出部
130 3相/2相変換部
140 d−q非干渉制御部
200、200A デッドタイム補償部
210 インバータ印加電圧感応補償量演算部
220 3相電流指令値モデル
221 相電流補償符号推定部
230 位相調整部
240 3相交流/dq軸変換部
300 空間ベクトル変調部
301 2相/3相変換部
302 3次高調波重畳部