特許第6579253号(P6579253)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6579253ハンダボール、ハンダ継手および接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6579253
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】ハンダボール、ハンダ継手および接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20190912BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20190912BHJP
   B23K 3/06 20060101ALI20190912BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20190912BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20190912BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20190912BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   B23K35/26 310A
   B23K1/00 330E
   B23K3/06 H
   C22C13/00
   C22C13/02
   H05K3/34 512C
   H01L21/92 604H
   H01L21/92 603B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-211535(P2018-211535)
(22)【出願日】2018年11月9日
【審査請求日】2018年11月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 浩由
(72)【発明者】
【氏名】中村 優里
(72)【発明者】
【氏名】宗形 修
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 加一
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−226481(JP,A)
【文献】 特開2018−034162(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/089999(WO,A1)
【文献】 特開2004−261863(JP,A)
【文献】 特開2013−252548(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/071971(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/26
C22C 13/00−13/02
B23K 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Inが0.1質量%以上10質量%以下、残部がSnであり、
***表色系における黄色度(b*)が2.8以上15.0以下であり、
***表色系における明度(L*)が60以上100以下である、
ハンダボール。
【請求項2】
前記Inが0.1質量%以上7質量%以下である、
請求項1に記載のハンダボール。
【請求項3】
球径が0.1μm以上120μm以下である、
請求項1または2に記載のハンダボール。
【請求項4】
Ag:0以上4質量%以下、
Cu:0以上1.0質量%以下、
Bi、Sbの群から合計で0〜3質量%、
Ni、Co、Fe、Ge、Pの群から合計で0〜0.1質量%のうち少なくとも1種以上の元素を添加した、
請求項1からの何れか一項に記載のハンダボール(ただし、Ag:3質量%、Cu:0.5質量%、In:0.2質量%、残部がSnからなるハンダボールを除く)
【請求項5】
請求項1からの何れか一項に記載のハンダボールを用いたハンダ継手。
【請求項6】
請求項1からの何れか一項に記載の複数のハンダボールを電極上に配置する工程と、
前記電極上に配置した前記複数のハンダボールを有機酸ガスを用いて溶融する工程と、
を有する、接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンダボール、ハンダ継手および接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の電子部品の小型化、高密度実装化に伴い、プリント配線基板等に電子部品を実装する際に、BGA(ボールグリッドアレイ)、CSP(チップサイズパッケージ)技術が用いられている。電子部品のハンダ付けに使用されるハンダ合金の組成としては、Sn−In系の鉛フリーハンダが挙げられる。Sn−In系の鉛フリーハンダでは、Sn中にInが所定量添加されることで、各種効果を奏することが知られている。
【0003】
例えば、Ni、Auの処理が順に施されたCu電極の表面に対してはんだ付けする場合、Sn中へのAuの拡散速度が極めて速く、Sn中へのAuの拡散によりAuめっきが電極上から無くなることで、Auの下地層のNi、Cuと鉛フリーハンダのSnとのIMCの成長が進みやすいという問題がある。また、鉛フリーハンダの濡れ性が低下してしまうという問題もある。そこで、例えば、非特許文献1には、Inの含有量を増加させたSn−In系の鉛フリーハンダを用いることで、InのSn中への拡散速度を遅らせる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】宗司郁夫著「AuとIn−Sn系ハンダの界面における金属間化合物成長過程」エレクトロニクス実装学会誌、1999年、p.121−126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Sn−In系の鉛フリーハンダにおいて、Inの添加量を増加させることは、レアメタルであるIn量の増加によるコストが上昇すると共に、低温ハンダであるSn−Inのハンダではハンダ融点が劇的に低下するという問題がある。したがって、一定量のInの添加で、よりInの添加による効果を発揮することができるSn−In系の鉛フリーハンダ材料が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、Sn−In系ハンダにおいて、Inの添加量を増やすことなく、ハンダ接合時におけるハンダの濡れ性を確保することが可能なハンダボール、ハンダ継手および接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは、既存のSn−In系の鉛フリーハンダ合金を改良し、Sn−In系の鉛フリーハンダ合金をボール状に加工したハンダボールについて、ハンダボールを接合する前の段階で、ハンダボール自体に加熱等のエージング処理を施し、ハンダボール表面にInが濃化した酸化膜を形成することにより、ハンダ接合時におけるAuのハンダ中への拡散を抑制することができることを見出した。
【0008】
本発明は、次の通りである。
(1)Inが0.1質量%以上10質量%以下、残部がSnであり、L***表色系における黄色度(b*)が2.8以上15.0以下であ***表色系における明度(L*)が60以上100以下である、ハンダボール。
【0009】
(2)Inが0.1質量%以上7質量%以下である、上記(1)に記載のハンダボール。
【0011】
)球径が0.1μm以上120μm以下である、上記(1)または2)に記載のハンダボール。
【0012】
)Ag:0以上4質量%以下、Cu:0以上1.0質量%以下、Bi、Sbの群から合計で0〜3質量%、Ni、Co、Fe、Ge、Pの群から合計で0〜0.1質量%のうち少なくとも1種以上の元素を添加した、上記(1)から()の何れか一項に記載のハンダボール(ただし、Ag:3質量%、Cu:0.5質量%、In:0.2質量%、残部がSnからなるハンダボールを除く)
【0013】
)上記(1)から()の何れか一項に記載のハンダボールを用いたハンダ継手。
【0014】
)上記(1)から()の何れか一つに記載の複数のハンダボールを電極上に配置する工程と、前記電極上に配置した前記複数のハンダボールを有機酸ガスを用いて溶融する工程と、を有する、接合方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Sn−In系の鉛フリーハンダを用いた際に発生する問題に対しても、Inの添加量が増えることを防止しつつ、ハンダ接合時におけるAuのハンダ中への拡散を抑制することによりハンダの濡れ性を損なうことなくIMCの成長を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係るハンダボールは、Snを主成分とし、Inを0質量%超10質量%以下含み、L***表色系における黄色度(b*)が2.8以上15.0以下である。ハンダボールのL***表色系における明度(L*)は60以上100以下であり、ハンダボールの球径は0.1μm以上120μm以下である。また、本実施の形態に係るハンダボールは、その表面に所定の厚みからなる酸化膜を有する。酸化膜は、エージング処理を施すことにより形成される。エージング処理としては、例えば、大気暴露(放置)や加熱処理が挙げられる。
【0017】
(1)In:0質量%超10.0質量%以下
ハンダボールにおけるInの含有量は、0質量%超10.0質量%以下である。Inの含有量を0質量%超とすることによりInを一定量確保できるので、Auのハンダ中への拡散を防止することができる。また、Inの含有量を10.0質量%以下とすることにより、酸化膜の成長を一定の範囲に抑制できるので、ハンダの濡れ性を低下させずに、Auのハンダ中への拡散を防止することができる。さらに、Inの含有量を上記範囲とすることにより、Inの含有量を少なくすることができるので、低コスト化を図ることができる。また、Inの含有量の好ましい範囲としては0.1質量%超7.0質量%以下であり、より好ましい範囲としては3.0質量%以上7.0質量%以下である。なお、Inの上記含有量は、エージング処理によるInの濃化によって実現される。
【0018】
(2)ハンダボールの球径:0.1μm以上120μm以下
ハンダボールの球径は、0.1μm以上120μm以下である。ハンダボールの球径が120μmを超える場合には、ファインピッチでのハンダ付けをすることが困難となり、基板の微小化や電子部品の電極の狭ピッチ化の要求に対応することができないからである。下限値については、技術的にハンダバンプ形成用に用いることができる球径の限界として0.1μm以上とした。このように、ハンダボール10の球径を0.1μm以上120μm以下の範囲とすることで、電子部品の小型化や高集積化に対応することが可能となる。さらに、上述したAuのハンダ中への拡散防止効果はハンダボールの粒径が縮小する程に発揮される。そのため、ハンダボールの球径は120μm以下が好ましく、より好ましくは80μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下であり、もっとも好ましくは30μm以下である。
【0019】
(3)L***表色系における黄色度(b*):2.8以上15.0以下
ハンダボールのL***表色系における黄色度(b*)は、2.8以上15.0以下である。黄色度(b*)が2.8以上15.0以下の範囲であれば、ハンダ接合時におけるAuのハンダ中への拡散を効果的に抑制することが可能となる。ハンダボールを所定温度で所定時間、エージング処理すると、ハンダボールの表面に酸化In(InO)を多く含有する酸化膜が形成され、ハンダボールの表面のInの濃度が高くなる濃化現象が起こる。本実施の形態のようにInの含有量を0質量%超10.0質量%の低濃度とした場合でも、ハンダボール表面を意図的に酸化させることで、ハンダボール表面のInを高濃度化できるので、Auのハンダ中への拡散を抑制する効果を得ることができる。ここで、ハンダボールを過度に酸化させてハンダボール表面のInの濃度を高くした場合には、Auのハンダ中への拡散抑制効果をさらに高めることができると考えらえる。しかし、球径が120μm以下のハンダボールでは、酸化膜の影響が特に大きくなることから、ハンダ接合時の信頼性を低下させてしまうという問題がある。そのため、ハンダ付け性を考慮した酸化膜厚と、In濃化によるAuのハンダ中への拡散抑制効果を考慮した酸化膜厚との両方の条件を満たす酸化膜厚の管理が必要となってくる。そこで、本実施の形態では、ハンダボールの表面に形成される酸化膜厚を簡易かつ迅速に管理するために、L***表色系における黄色度(b*)を採用し、L***表色系における黄色度(b*)が2.8以上15.0以下となるハンダボールを作製することにより、所定の酸化膜厚のハンダボールを実現している。黄色度(b*)が2.8未満の場合には、Inが濃化されておらず、ハンダバンプ形成時に効果的にAuのハンダ中への拡散を抑制することができない場合がある。これに対し、黄色度(b*)が15.0を超える場合には、ハンダボール接合時のハンダの濡れ性が損なわれ得ると共に、ハンダ材のコストが上昇するからである。なお、黄色度(b*)は、より好ましくは、7以下である。
【0020】
(4)L***表色系における明度(L*):60以上100以下
ハンダボールは、エージング処理により酸化膜が厚くなってくると、L***表色系における黄色度(b*)が上昇する一方で、L***表色系における明度(L*)が下降するという相関関係を有する。そのため、ハンダボールのエージング処理による酸化膜厚の管理方法として、上述したL***表色系における黄色度(b*)に加えて、L***表色系における明度(L*)も酸化膜を管理する指標の一つとして用いることができる。ハンダボールのL***表色系における明度(L*)は、60以上100以下である。明度(L*)が60未満の場合には、Inが濃化されておらず、ハンダバンプ形成時に効果的にAuのハンダ中への拡散を抑制することができない場合がある。これに対し、明度(L*)が100を超える場合には、ハンダボール接合時のハンダの濡れ性が損なわれ得る場合がある。なお、明度(L*)の上限値は、より好ましくは80以下である。
【0021】
(5)Ag:0以上4質量%以下、Cu:0以上1.0質量%以下、Bi、Sbの群から合計で0以上3質量%以下、Ni、Co、Fe、Ge、Pの群から合計で0以上0.1質量%以下のうち少なくとも1種以上の元素を添加
本発明を構成するハンダボールは、Ag、Cu、Bi、In、Sb、Ni、Co、Fe、Ge、Pを上記範囲にて含有している。これにより、接合信頼性の向上を図ることができる。Ag、Cu、Bi、In、Ni、Sb、Co、Fe、Ge,Pの含有量は、Inと接合部材との反応を妨げてはいけないため、Ag:0以上4質量%以下、Cu:0以上1.0質量%以下、Bi、In、Sbの群から合計で0以上3質量%以下、Ni、Co、Fe、Ge、Pの群から合計で0以上0.1質量%以下にするのが好ましい。
【0022】
(6)残部:Sn
本発明に係るハンダボールの残部はSnである。つまり、ハンダボールの主成分はSnであり、ハンダボール中の金属元素の中では常に一番含有量が多くなる。前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。不可避的不純物を含有する場合であっても、前述の効果に影響することはない。また、本発明では含有しない元素が不可避的不純物として含有されても前述の効果に影響することはない。
【0023】
(7)α線量:0.0200cph/cm2以下
本発明に係るハンダボールのα線量は、ソフトエラーを抑制する観点から、0.0200cph/cm2以下である。これは、電子部品の高密度実装においてソフトエラーが問題にならない程度のα線量である。α線量は、更なる高密度実装でのソフトエラーを抑制する観点から、より好ましくは0.0010cph/cm2以下である。
【0024】
(8)ハンダボールの製造方法
まず、球径が0.1μm以上120μm以下であって、Inを0超10.0質量%以下含有するハンダボールを作製する。ハンダボールの作製方法としては、溶融したハンダを滴下して球状に加工する滴下法や、ガスアトマイズ法等の公知の方法を採用できる。ハンダボールには、Ag、Cu、Bi、Ni、Sb、Co、Fe、Ge,Pの群からなる1種または2種以上の元素を添加することができる。
【0025】
次に、作製したハンダボールをエージング処理してハンダボール表面に酸化膜を形成することで、ハンダボールの表面のInの濃度を高くなるように制御する。エージング処理では、ハンダボールの黄色度(b*)が2.8以上15.0以下となる酸化膜厚が形成されるような加熱温度および加熱時間に設定される。また、Inの濃度を高くなるように制御する他の方法としては、室温下に大気暴露で長時間保管する、造球時の酸素濃度増大によるエージング、造球時または造球後の少なくともどちらか一方に酸素プラズマ照射を施すなどがある。このようにして、表面に一定の厚さからなる酸化膜が形成されたハンダボールを製造することができる。
【0026】
本実施の形態に係るハンダボールによれば、例えばAuを含む電極にハンダボールを使用する場合でも、Inの添加量を増やすことなく、はんだボール表面に形成された酸化膜によりAuのハンダ中への拡散を抑制することができ、ハンダ接合時におけるハンダの濡れ性の低下を防止することができる。また、Sn中におけるInの添加量を抑えることができるので、ハンダ融点が劇的に低下してしまうことを防止できる。
【0027】
なお、本発明に係るハンダボールは、電極間を接合するハンダ継手の形成に使用することもできる。本発明では、例えば、ハンダバンプをプリント基板の電極上に実装した構造をハンダ継手という。ハンダバンプとは、例えば、半導体チップの電極上にハンダボールを実装した構造をいう。
【0028】
また、本発明に係るハンダボールは、フラックスを用いずに接合する接合方法にも適用することができる。例えば、エージング処理が行われた複数のハンダボールを基板の電極上に載置(配置)した後、載置した複数のハンダボールを有機酸ガスを用いて溶融することによりハンダバンプを形成する。なお、ハンダボールには、50個のハンダボールの直径の測定値の算術平均が120μmとなるものを使用した。この場合においても、Auのハンダ中への拡散を効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0029】
まず、球径が120μmであり、各実施例で示す合金組成のSn−Inのハンダボールを作成した。次に、作成した各ハンダボールのそれぞれに異なる条件で予めエージング処理を施し、ハンダボールの表面をあえて酸化させてその表面のInの濃度を高めることで高濃度の酸化In、例えばIn23等を含有する酸化膜を形成させたハンダボールを作成した。続けて、各ハンダボールにおける、黄色度(b*)、明度(L*)およびハンダボール表面のInの濃度をそれぞれ測定した。
【0030】
(1)ハンダボールの黄色度(b*)および明度(L*)の測定
ハンダボールの黄色度(b*)および明度(L*)は、コニカミノルタ製CM−2600d型分光測色計を使用して測定した。
【0031】
(2)ハンダボール表面のInの濃度の測定
ハンダボールの表面のInの濃度は、電界放出型電子線マイクロアナライザ(Field Emission Electron Probe MicroAnalyser:FE−EPMA)にて定性分析を行い、半定量分析値を引用した。なお、ハンダボール表面のInの濃度は濃度変化を比較するため、半定量分析値を算出した。
【0032】
(3)ハンダボール表面のInの濃度の評価
エージング処理を行っていないSn−Inのハンダボールを用意し、このハンダボールの半定量分析値を基準としてエージング処理を行った各ハンダボール中のInの半定量分析値を比較することによりInの濃化の評価を行った。
(a)実施例または比較例のハンダボールの半定量分析値が基準のハンダボールの半定量分析値を超える場合:〇(濃化大)
(b)実施例または比較例のハンダボールの半定量分析値が基準のハンダボールの半定量分析値以下である場合:×(濃化不十分)
【0033】
(4)ハンダの濡れ性の評価
NiおよびAuめっき処理が順に施されたCu板を使用し、そのCu板上にフラックスWF−6400(千住金属工業社製)を印刷し、その上に各ハンダボールをマウントした。ハンダボールをマウントした電極パッドを、昇温速度5℃/secにてN2雰囲気下で25℃から250℃まで昇温し、その後1分間リフローした。このような処理を100個のハンダボールにおいて実施した。
(a)100個のハンダボールの全てが電極パッド全体に濡れ広がっている場合:〇(良好)
(b)1個以上のハンダボールが電極パッド全体に濡れ広がっていない場合:×(不可)
【0034】
表1に、合金組成がSn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuの各測定結果および評価結果を示す。なお、表1中のInの濃化の評価は、エージング処理を施さないハンダボールの濃度を基準とした。また、表1においてInの単位は質量%である。
【0035】
【表1】
【0036】
実施例1では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して20℃〜30℃の常温で90日間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例1によれば、黄色度(b*)が2.83、明度(L*)が67.04のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が7.9質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0037】
実施例2では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して200℃で60分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例2によれば、黄色度(b*)が8.33、明度(L*)が63.08のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が10.8質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0038】
比較例1では、エージング処理を行わない状態のSn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールを使用した。比較例1では、黄色度(b*)が2.75、明度(L*)が69.11のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が7.2質量%となった。なお、表1において、比較例1の接合時におけるInが濃化したか否かの評価は、エージング処理を実施していない比較例1が基準になるので「×」ではなく「−」で表記した。ハンダボールの濡れ性の評価は、「〇」となった。
【0039】
比較例2では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して200℃で120分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。比較例2によれば、黄色度(b*)が15.59、明度(L*)が48.00のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が13.1質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。しかし、エージング処理のInの濃化に応じて酸化Inが厚くなるため、ハンダの濡れ性は低下することが確認された。
【0040】
比較例3では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して200℃で180分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。比較例3によれば、黄色度(b*)が24.40、明度(L*)が32.19のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が14.9質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。しかし、エージング処理のInの濃化に応じて酸化Inが厚くなるため、ハンダの濡れ性は低下することが確認された。
【0041】
比較例4では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して200℃で240分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。比較例4によれば、黄色度(b*)が24.45、明度(L*)が33.45のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が15.4質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。しかし、エージング処理のInの濃化に応じて酸化Inが厚くなるため、ハンダの濡れ性は低下することが確認された。
【0042】
比較例5では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して200℃で300分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。比較例5によれば、黄色度(b*)が22.77、明度(L*)が36.90のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が18.3質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。しかし、エージング処理のInの濃化に応じて酸化Inが厚くなるため、ハンダの濡れ性は低下することが確認された。
【0043】
表2に、合金組成がSn−1質量%In−0.7質量%Cuの各測定結果および評価結果を示す。なお、表2中のInの濃化の評価は、エージング処理を施さないハンダボールの濃度を基準とした。また、表2においてInの単位は質量%である。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例3では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して20℃〜30℃の常温で90日間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例3によれば、黄色度(b*)が3.01、明度(L*)が67.37のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.1質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0046】
実施例4では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で60分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例4によれば、黄色度(b*)が4.47、明度(L*)が67.33のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.2質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0047】
実施例5では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で120分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例5によれば、黄色度(b*)が6.20、明度(L*)が67.16のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.5質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0048】
実施例6では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で180分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例6によれば、黄色度(b*)が10.23、明度(L*)が65.34のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.7質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInが濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0049】
実施例7では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で240分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例7によれば、黄色度(b*)が12.66、明度(L*)が62.15のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.8質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0050】
比較例6では、エージング処理を行わない状態のSn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールを使用した。比較例6では、黄色度(b*)が2.79、明度(L*)が69.30のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が1.2質量%となった。なお、表2において、比較例6の接合時におけるInが濃化したか否かの評価は、エージング処理を実施していない比較例6が基準になるので「×」ではなく「−」で表記した。ハンダボールの濡れ性の評価は、「〇」となった。
【0051】
比較例7では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で300分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。比較例7によれば、黄色度(b*)が15.30、明度(L*)が59.89のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が3.0質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。しかし、エージング処理のInの濃化に応じて酸化Inが厚くなるため、ハンダの濡れ性は低下することが確認された。
【0052】
表3に、合金組成がSn−1質量%In−0.1質量%Bi−0.001質量%Ni−0.7質量%Cuの各測定結果および評価結果を示す。なお、表3中のInの濃化の評価は、エージング処理を施さないハンダボールの濃度を基準とした。また、表3においてInの単位は質量%である。
【0053】
【表3】
【0054】
実施例8では、Sn−1質量%In−0.1質量%Bi−0.001質量%Ni−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で60分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例8によれば、黄色度(b*)が4.61、明度(L*)が64.22のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.0質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0055】
比較例8では、エージング処理を行わない状態のSn−1質量%In−0.1質量%Bi−0.001質量%Ni−0.7質量%Cuのハンダボールを使用した。比較例8では、黄色度(b*)が2.79、明度(L*)が68.76のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が0.9質量%となった。なお、表3において、比較例1の接合時におけるInが濃化したか否かの評価は、エージング処理を実施していない比較例1が基準になるので「×」ではなく「−」で表記した。ハンダボールの濡れ性の評価は、「〇」となった。
【0056】
表4に、合金組成がSn−1質量%In−0.1質量%Sb−0.001質量%Co−0.7質量%Cuの各測定結果および評価結果を示す。なお、表4中のInの濃化の評価は、エージング処理を施さないハンダボールの濃度を基準とした。また、表4においてInの単位は質量%である。
【0057】
【表4】
【0058】
実施例9では、Sn−1質量%In−0.1質量%Sb−0.001質量%Co−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で60分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例9によれば、黄色度(b*)が4.55、明度(L*)が63.81のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.5質量%となり、エージング処理を施さない比較例9のハンダボールよりもInの濃化促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。

【0059】
比較例9では、エージング処理を行わない状態のSn−1質量%In−0.1質量%Sb−0.001質量%Co−0.7質量%Cuのハンダボールを使用した。比較例9では、黄色度(b*)が2.76、明度(L*)が67.21のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が1.5質量%となった。なお、表4において、比較例9の接合時におけるInが濃化したか否かの評価は、エージング処理を実施していない比較例9が基準になるので「×」ではなく「−」で表記した。ハンダボールの濡れ性の評価は、「〇」となった。
【0060】
以上の結果から、In含有量が0超10質量%以下で、球径が120μm以下であるハンダボールの場合において、エージング処理により黄色度(b*)が2.8以上15.0以下のハンダボールを作製することで、ハンダボールの表面にInが顕著に濃化していることが確認された。これにより、ハンダボールの表面に形成される酸化In(InO)を含有する酸化膜が保護膜として機能することで、エージング処理を行わない一般的なハンダボールや、エージング処理が一定条件を超えるハンダボールと比べて、ハンダ接合時におけるハンダの濡れ性を確保することができることも確認された。
【0061】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【要約】
【課題】Sn−In系ハンダにおいて、Inの添加量を増やすことなく、ハンダ接合時におけるハンダの濡れ性を確保する。
【解決手段】ハンダボールは、Inが0質量%超10質量%以下、残部がSnであり、L***表色系における黄色度(b*)が2.8以上15.0以下である。ハンダボールの球径は、0.1μm以上120μm以下である。黄色度(b*)が2.8以上15.0以下のハンダボールを作製することにより、例えばAuを含む電極にハンダボールを使用する場合に、Auのハンダ中への拡散を防止することができる。
【選択図】なし