【実施例】
【0029】
まず、球径が120μmであり、各実施例で示す合金組成のSn−Inのハンダボールを作成した。次に、作成した各ハンダボールのそれぞれに異なる条件で予めエージング処理を施し、ハンダボールの表面をあえて酸化させてその表面のInの濃度を高めることで高濃度の酸化In、例えばIn
2O
3等を含有する酸化膜を形成させたハンダボールを作成した。続けて、各ハンダボールにおける、黄色度(b
*)、明度(L
*)およびハンダボール表面のInの濃度をそれぞれ測定した。
【0030】
(1)ハンダボールの黄色度(b
*)および明度(L
*)の測定
ハンダボールの黄色度(b
*)および明度(L
*)は、コニカミノルタ製CM−2600d型分光測色計を使用して測定した。
【0031】
(2)ハンダボール表面のInの濃度の測定
ハンダボールの表面のInの濃度は、電界放出型電子線マイクロアナライザ(Field Emission Electron Probe MicroAnalyser:FE−EPMA)にて定性分析を行い、半定量分析値を引用した。なお、ハンダボール表面のInの濃度は濃度変化を比較するため、半定量分析値を算出した。
【0032】
(3)ハンダボール表面のInの濃度の評価
エージング処理を行っていないSn−Inのハンダボールを用意し、このハンダボールの半定量分析値を基準としてエージング処理を行った各ハンダボール中のInの半定量分析値を比較することによりInの濃化の評価を行った。
(a)実施例または比較例のハンダボールの半定量分析値が基準のハンダボールの半定量分析値を超える場合:〇(濃化大)
(b)実施例または比較例のハンダボールの半定量分析値が基準のハンダボールの半定量分析値以下である場合:×(濃化不十分)
【0033】
(4)ハンダの濡れ性の評価
NiおよびAuめっき処理が順に施されたCu板を使用し、そのCu板上にフラックスWF−6400(千住金属工業社製)を印刷し、その上に各ハンダボールをマウントした。ハンダボールをマウントした電極パッドを、昇温速度5℃/secにてN
2雰囲気下で25℃から250℃まで昇温し、その後1分間リフローした。このような処理を100個のハンダボールにおいて実施した。
(a)100個のハンダボールの全てが電極パッド全体に濡れ広がっている場合:〇(良好)
(b)1個以上のハンダボールが電極パッド全体に濡れ広がっていない場合:×(不可)
【0034】
表1に、合金組成がSn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuの各測定結果および評価結果を示す。なお、表1中のInの濃化の評価は、エージング処理を施さないハンダボールの濃度を基準とした。また、表1においてInの単位は質量%である。
【0035】
【表1】
【0036】
実施例1では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して20℃〜30℃の常温で90日間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例1によれば、黄色度(b
*)が2.83、明度(L
*)が67.04のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が7.9質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0037】
実施例2では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して200℃で60分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例2によれば、黄色度(b
*)が8.33、明度(L
*)が63.08のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの
半定量分析値が10.8質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの
濃化が
促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0038】
比較例1では、エージング処理を行わない状態のSn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールを使用した。比較例1では、黄色度(b
*)が2.75、明度(L
*)が69.11のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が7.2質量%となった。なお、表1において、比較例1の接合時におけるInが濃化したか否かの評価は、エージング処理を実施していない比較例1が基準になるので「×」ではなく「−」で表記した。ハンダボールの濡れ性の評価は、「〇」となった。
【0039】
比較例2では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して200℃で120分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。比較例2によれば、黄色度(b
*)が15.59、明度(L
*)が48.00のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が13.1質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。しかし、エージング処理のInの濃化に応じて酸化Inが厚くなるため、ハンダの濡れ性は低下することが確認された。
【0040】
比較例3では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して200℃で180分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。比較例3によれば、黄色度(b
*)が24.40、明度(L
*)が32.19のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が14.9質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。しかし、エージング処理のInの濃化に応じて酸化Inが厚くなるため、ハンダの濡れ性は低下することが確認された。
【0041】
比較例4では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して200℃で240分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。比較例4によれば、黄色度(b
*)が24.45、明度(L
*)が33.45のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が15.4質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。しかし、エージング処理のInの濃化に応じて酸化Inが厚くなるため、ハンダの濡れ性は低下することが確認された。
【0042】
比較例5では、Sn−7質量%In−3質量%Ag−0.5質量%Cuのハンダボールに対して200℃で300分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。比較例5によれば、黄色度(b
*)が22.77、明度(L
*)が36.90のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が18.3質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。しかし、エージング処理のInの濃化に応じて酸化Inが厚くなるため、ハンダの濡れ性は低下することが確認された。
【0043】
表2に、合金組成がSn−1質量%In−0.7質量%Cuの各測定結果および評価結果を示す。なお、表2中のInの濃化の評価は、エージング処理を施さないハンダボールの濃度を基準とした。また、表2においてInの単位は質量%である。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例3では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して20℃〜30℃の常温で90日間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例3によれば、黄色度(b
*)が3.01、明度(L
*)が67.37のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.1質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0046】
実施例4では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で60分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例4によれば、黄色度(b
*)が4.47、明度(L
*)が67.33のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.2質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0047】
実施例5では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で120分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例5によれば、黄色度(b
*)が6.20、明度(L
*)が67.16のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.5質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0048】
実施例6では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で180分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例6によれば、黄色度(b
*)が10.23、明度(L
*)が65.34のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.7質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInが濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0049】
実施例7では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で240分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例7によれば、黄色度(b
*)が12.66、明度(L
*)が62.15のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が2.8質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0050】
比較例6では、エージング処理を行わない状態のSn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールを使用した。比較例6では、黄色度(b
*)が2.79、明度(L
*)が69.30のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が1.2質量%となった。なお、表2において、比較例6の接合時におけるInが濃化したか否かの評価は、エージング処理を実施していない比較例6が基準になるので「×」ではなく「−」で表記した。ハンダボールの濡れ性の評価は、「〇」となった。
【0051】
比較例7では、Sn−1質量%In−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で300分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。比較例7によれば、黄色度(b
*)が15.30、明度(L
*)が59.89のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が3.0質量%となり、エージング処理を施さない比較例6のハンダボールよりもInの濃化が促進されることが確認された。しかし、エージング処理のInの濃化に応じて酸化Inが厚くなるため、ハンダの濡れ性は低下することが確認された。
【0052】
表3に、合金組成がSn−1質量%In−0.1質量%Bi−0.001質量%Ni−0.7質量%Cuの各測定結果および評価結果を示す。なお、表3中のInの濃化の評価は、エージング処理を施さないハンダボールの濃度を基準とした。また、表3においてInの単位は質量%である。
【0053】
【表3】
【0054】
実施例8では、Sn−1質量%In−0.1質量%Bi−0.001質量%Ni−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で60分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例8によれば、黄色度(b
*)が4.61、明度(L
*)が64.22のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの
半定量分析値が2.0質量%となり、エージング処理を施さない比較例1のハンダボールよりもInの
濃化が
促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0055】
比較例8では、エージング処理を行わない状態のSn−1質量%In−0.1質量%Bi−0.001質量%Ni−0.7質量%Cuのハンダボールを使用した。比較例8では、黄色度(b
*)が2.79、明度(L
*)が68.76のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が0.9質量%となった。なお、表3において、比較例1の接合時におけるInが濃化したか否かの評価は、エージング処理を実施していない比較例1が基準になるので「×」ではなく「−」で表記した。ハンダボールの濡れ性の評価は、「〇」となった。
【0056】
表4に、合金組成がSn−1質量%In−0.1質量%Sb−0.001質量%Co−0.7質量%Cuの各測定結果および評価結果を示す。なお、表4中のInの濃化の評価は、エージング処理を施さないハンダボールの濃度を基準とした。また、表4においてInの単位は質量%である。
【0057】
【表4】
【0058】
実施例9では、Sn−1質量%In−0.1質量%Sb−0.001質量%Co−0.7質量%Cuのハンダボールに対して200℃で60分間、大気中に曝し続けるエージング処理をした。実施例9によれば、黄色度(b
*)が4.55、明度(L
*)が63.81のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの
半定量分析値が2.5質量%となり、エージング処理を施さない比較例9のハンダボールよりもInの
濃化が
促進されることが確認された。また、ハンダボール表面でのInの濃化(酸化膜厚)が一定範囲内であれば、ハンダの濡れ性を良好に維持できると共に、IMCの成長も抑制できることが確認された。
【0059】
比較例9では、エージング処理を行わない状態のSn−1質量%In−0.1質量%Sb−0.001質量%Co−0.7質量%Cuのハンダボールを使用した。比較例9では、黄色度(b
*)が2.76、明度(L
*)が67.21のハンダボールを選定した場合、ハンダボールの表面のInの半定量分析値が1.5質量%となった。なお、表4において、比較例9の接合時におけるInが濃化したか否かの評価は、エージング処理を実施していない比較例9が基準になるので「×」ではなく「−」で表記した。ハンダボールの濡れ性の評価は、「〇」となった。
【0060】
以上の結果から、In含有量が0超10質量%以下で、球径が120μm以下であるハンダボールの場合において、エージング処理により黄色度(b
*)が2.8以上15.0以下のハンダボールを作製することで、ハンダボールの表面にInが顕著に濃化していることが確認された。これにより、ハンダボールの表面に形成される酸化In(InO)を含有する酸化膜が保護膜として機能することで、エージング処理を行わない一般的なハンダボールや、エージング処理が一定条件を超えるハンダボールと比べて、ハンダ接合時におけるハンダの濡れ性を確保することができることも確認された。
【0061】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。