特許第6579308号(P6579308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579308
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】燃料電池スタックのシール構造
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0271 20160101AFI20190912BHJP
   H01M 8/0202 20160101ALI20190912BHJP
   H01M 8/247 20160101ALI20190912BHJP
【FI】
   H01M8/0271
   H01M8/0202
   H01M8/247
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-72250(P2015-72250)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-192339(P2016-192339A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228383
【氏名又は名称】日本ガスケット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082108
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】福田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】北村 友二
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−063295(JP,A)
【文献】 特開2006−244765(JP,A)
【文献】 特開2005−116404(JP,A)
【文献】 特開2006−024404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0271
H01M 8/0202
H01M 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のアノード側ターミナル電極及びカソード側ターミナル電極と、それらの間に積層状態で設けられる複数のセルと、隣り合うセルの間のシールを維持するシール部材とを備え、上記セルは、板状をした一対のセパレータと、それらの間に挟持される電解質膜、空気極及び燃料極とを備え、
上記両ターミナル電極及び複数のセルが締結ボルトによって締結された際に、上記シール部材によって隣り合うセルの間のシールを維持するようにした燃料電池スタックにおいて、
各セルにおける一方のセパレータに該セパレータの輪郭に沿った無端状の溝を設けて、この溝内にシール部材を充填するとともに、各セルにおける他方のセパレータに、上記溝とシール部材の位置に合わせて、隣接するセルに向けて膨出するフルビードを形成し、
締結ボルトにより両ターミナル電極と複数のセルが締結された際に、隣り合う一方のセルにおけるセパレータのフルビードが、他方のセルにおけるセパレータのシール部材に密着するようになっており
また、上記溝の裏面とフルビードとの間には絶縁用ゴムが設けられていることを特徴とする燃料電池スタックのシール構造。
【請求項2】
上記溝は断面が台形状となっており、該溝内にシール部材が充填されており、上記フルビードは断面が半円形となっていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池スタックのシール構造。
【請求項3】
上記シール部材はゴムからなり、スクリーン印刷によって上記溝に充填されており、上記シール部材の表面は、その隣接位置のセパレータの表面と同一平面となっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池スタックのシール構造。
【請求項4】
上記溝の深さ及び上記シール部材の厚さは50μmに設定されており、上記フルビードの膨出量は50μmに設定されていることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池スタックのシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池スタックのシール構造に関し、より詳しくは、隣り合うセルの間のシールを維持するシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のセルを積層して構成された燃料電池スタックは公知である(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
図3図4に示すように、従来の一般的な燃料電池スタック1は、アノード側ターミナル電極2及びカソード側ターミナル電極3と、それらの間に積層状態で設けられる多数のセル4とを備えている。各セル4は、金属板からなる一対のセパレータ5A、5Bと、それらの間に挟持される図示しない電解質膜、空気極及び燃料極を備えている。また、各セル4のセパレータ5A、5Bの間には、所要箇所に絶縁用ゴム6が設けられている。そして、隣り合うセル4、4における隣り合うセパレータ5Aと5Bとの間には、それらの輪郭に沿って無端状をしたゴムのシール材7が設けられている。
そして、図示しない複数の締結ボルトとそれらに螺合されるナットとにより両ターミナル電極2、3と全てのセル4が締結されると、ゴムからなる各シール部材7の弾性によって隣り合うセル4、4の隣り合うセパレータ5A、5B間のシールが維持されるようになっている(図4参照)。このように、従来の燃料電池スタック1においては、隣り合うセル4、4の隣り合うセパレータ5A、5Bの間にゴムのシール部材7が配置されることにより、各セル4の内方側で流通する流体(水素、空気及び水)がセル4の外部へ漏れないようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−210707号公報
【特許文献2】特開2009−140755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図4に示した従来のシール構造においては次のような問題があった。すなわち、前述したように、燃料電池スタック1は多数のセル4を積層して構成されているので、全体としては数百枚のセパレータ5A、5Bを複数の締結ボルトとナットで締結する必要がある。そのため、従来では、締結ボルトの軸力が弱くなるために、上記シール部材7として十分な厚さと比較的高い寸法精度が要求されるという問題があった。一例として従来品のシール部材7は、厚さtが100μm±10μmのものが用いられている。
しかも、従来では、ゴムを所定厚さでインジェクション成形することでシール部材7を製造すると同時に該シール部材7をセパレータ5A又は5Bの一面に貼り付けていたものである。因みに、従来では、上記ゴムのインジェクション成形・貼り付け作業に約30分を要していた。そのため、従来の燃料電池スタック1のシール構造は、生産性が悪いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した事情に鑑み、本発明は、一対のアノード側ターミナル電極及びカソード側ターミナル電極と、それらの間に積層状態で設けられる複数のセルと、隣り合うセルの間のシールを維持するシール部材とを備え、上記セルは、板状をした一対のセパレータと、それらの間に挟持される電解質膜、空気極及び燃料極とを備え、
上記両ターミナル電極及び複数のセルが締結ボルトによって締結された際に、上記シール部材によって隣り合うセルの間のシールを維持するようにした燃料電池スタックにおいて、
各セルにおける一方のセパレータに該セパレータの輪郭に沿った無端状の溝を設けて、この溝内にシール部材を充填するとともに、各セルにおける他方のセパレータに、上記溝とシール部材の位置に合わせて、隣接するセルに向けて膨出するフルビードを形成し、
締結ボルトにより両ターミナル電極と複数のセルが締結された際に、隣り合う一方のセルにおけるセパレータのフルビードが、他方のセルにおけるセパレータのシール部材に密着するようになっており
また、上記溝の裏面とフルビードとの間には絶縁用ゴムが設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
このような構成によれば、フルビードがシール部材に密着することで、シールを確実に維持することができる。また、従来品と比較してシール部材の厚さを薄くすることが可能となり、それにより製造時におけるシール部材の厚さの管理が容易となる。したがって、生産性とシール性が良好な燃料電池スタックのシール構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施例を示す斜視図。
図2図1のII−II線に沿う要部の断面図であり、図2(a)は締結ボルトによりセルが締結される前の状態を示し、図2(b)は締結ボルトによりセルが締結された後の状態を示している。
図3】従来技術を示す斜視図。
図4図3のIV―IV線に沿う要部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について本発明を説明すると、図1ないし図2において、燃料電池スタック1は図3に示した従来技術と同様の基本構成を備えている。すなわち、本実施例の燃料電池スタック1は、一対のアノード側ターミナル電極2及びカソード側ターミナル電極3と、それらの間に積層状態で設けられる多数のセル4、4とを備えている。各セル4は、長方形をしたチタンの薄板からなる一対のセパレータ5A、5Bと、それらの間に挟持される図示しない電解質膜、空気極及び燃料極を備えている。また、一対のセパレータ5A、5Bの間の所要箇所に絶縁用ゴム6が設けられている。そして、上記両ターミナル電極2,3及び多数のセル4は、図示しない4本の締結ボルトとそれらの先端に螺合されるナットによって一体に締結されるようになっている。
【0009】
しかして、本実施例は、図2(a)、(b)に示したシール構造により、隣り合うセル4、4の間のシールを維持するようになっている。より詳細には、セル4の一方のセパレータ5Aには、その輪郭に沿って無端状の溝5Aaが形成されており、この無端状の溝5Aa内にスクリーン印刷によりゴムからなるシール部材7が充填されている。つまり、シール部材7もセパレータ5Aの輪郭に沿って無端状に設けられている。溝5Aaの深さdは50μmに設定してあり、シール部材7の厚さtは50μm±8μmとなっている。なお、ゴム塗料からなるシール部材7をセパレータ5Aの溝5Aaにスクリーン印刷で充填する際の所要時間は8秒程度である。図2に示すように、溝5Aa内のシール部材7の表面は、その隣接位置となるセパレータ5Aの表面と同一平面となっている。
また、セル4の他方のセパレータ5Bには、上記溝5Aa及びシール部材7の位置に対応させて、かつ、隣のセル4のシール部材7に向けて膨出するフルビード5Baが形成されている。このフルビード5Baも、セパレータ5Bの輪郭に沿って無端状に形成されており、フルビード5Baの断面は半円形となっている。フルビード5Baの最大膨出量hは約50μmに設定されており、フルビード5Baの基部の幅は、溝5Aaの底部の幅と実質的に同じ寸法となっている。さらに、溝5Aaの裏面と半円形のフルビード5Baとの間にも絶縁用ゴム6が設けられている。
以上の構成により、各セル4の内方側に配置された図示しない電解質膜、空気極及び燃料極は、無端状のシール部材7とフルビード5Baによって囲繞されている。
【0010】
そして、上記両ターミナル電極2,3及び全てのセル4が図示しない複数の締結ボルトとナットによって一体に締結されると、一方のセル4におけるセパレータ5Bのフルビード5Baが、隣接位置のセル4のセパレータ5Aのシール部材7に密着するようになっている(図2(b)参照)。
ここで、フルビード5Baはチタンの薄板からなり半円形に膨出しているので、それ自体で弾性を備えている。また、溝5Aa内のシール部材7はゴムからなり、弾性を備えている。そのため、フルビード5Baの頂部がシール部材7に強く密着して、その部分のシールが確実に維持されるようになっている。つまり、隣り合うセル4、4の間のシールが確実に維持されるので、セル4の内方側を流通する流体(水素、酸素、水)がセル4の外部に漏れるのを確実に阻止することができる。
また、本実施例においては、溝5Aa内に充填されるシール部材7の厚さは、前述した従来品のシール部材の厚さの半分となっている。そのため、本実施例においては、粘度の低いゴム塗料を用いることができ、それを溝5Aaに充填してシール部材7とすることができる。そして、このように粘度が低いゴム塗料を用いることができるので、シール部材7の表面が平滑となり、シール部材7の厚さの精度を向上させることができる。このように、本実施例によれば、従来と比較してシール部材7の厚さを薄くすることが可能となり、それにより製造時におけるシール部材7の厚さの管理が容易となる。したがって、本実施例によれば、生産性とシール性が良好な燃料電子スタック1のシール構造を提供することができる。
【0011】
なお、上記実施例においては、フルビード5Baの断面は半円形となっているが、フルビード5Baの断面は上記溝5Aaと同様に台形状であっても良い。また、上記溝5Aaの断面形状は台形状となっているが、フルビード5Aaと同様に半円形であっても良い。
【符号の説明】
【0012】
1‥燃料電池スタック 2‥アノード側ターミナル電極
3‥カソード側ターミナル電極 4‥セル
5A‥セパレータ 5Aa‥溝
5B‥セパレータ 5Ba‥フルビード
7‥シール部材
図1
図2
図3
図4