(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態である電力増幅モジュールを含む送信ユニットの構成例を示す図である。送信ユニット100は、例えば、携帯電話等の移動体通信機において、音声やデータなどの各種信号を基地局へ送信するために用いられる。なお、移動体通信機は、基地局から信号を受信するための受信ユニットも備えるが、ここでは説明を省略する。
【0011】
図1に示すように、送信ユニット100は、ベースバンド部110、RF部111、電力増幅モジュール112、フロントエンド部113、及びアンテナ114を備える。
【0012】
ベースバンド部110は、HSUPAやLTE等の変調方式に基づいて、音声やデータなどの入力信号を変調し、変調信号を出力する。本実施形態では、ベースバンド部110から出力される変調信号は、振幅および位相をIQ平面上で表したIQ信号(I信号及びQ信号)として出力される。IQ信号の周波数は、例えば、数MHzから数10MHz程度である。
【0013】
RF部111は、ベースバンド部110から出力されるIQ信号から、無線送信を行うためのRF信号(RF
IN)を生成する。RF信号は、例えば、数百MHzから数GHz程度である。
【0014】
電力増幅モジュール112は、RF部111から出力されるRF信号(RF
IN)の電力を、基地局に送信するために必要なレベルまで増幅し、増幅信号(RF
OUT)を出力する。
【0015】
フロントエンド部113は、増幅信号(RF
OUT)に対するフィルタリングや、基地局から受信する受信信号とのスイッチングなどを行う。フロントエンド部113から出力される増幅信号は、アンテナ114を介して基地局に送信される。
【0016】
図2は、電力増幅モジュール112の一例である電力増幅モジュール112Aを示す図である。
図2に示すように、電力増幅モジュール112Aは、GaAs等により形成される化合物半導体集積回路200、及びシリコンにより形成されるシリコン半導体集積回路210を含む。
【0017】
化合物半導体集積回路200は、トランジスタTR0,TR1,TR2、キャパシタC0、抵抗器R1,R2,R3、及びインダクタL0を含む。
【0018】
シリコン半導体集積回路210は、オペアンプOP、電解効果トランジスタ(FET)F1,F2、及び抵抗器R4を含む。
【0019】
電力増幅モジュール112Aでは、トランジスタTR1,TR2、FET(F1,F2)、オペアンプOP、及び抵抗器R1,R2,R3により、バイアス回路220Aが構成される。
【0020】
トランジスタTR0(増幅トランジスタ)は、例えば、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)等のバイポーラトランジスタである。トランジスタTR0のコレクタには、インダクタL0を介して電源電圧V
CCが供給される。トランジスタTR0のベースには、キャパシタC0を通じてRF信号(RF
IN)が入力される。トランジスタTR0のエミッタは、接地される。トランジスタTR0は、RF信号(RF
IN)を増幅した増幅信号(RF
OUT)をコレクタから出力する。
【0021】
バイアス回路220Aは、トランジスタTR0のベースにバイアス電流を供給する。バイアス回路220Aの構成の詳細について説明する。前提条件として、抵抗器の抵抗値のばらつきを補償するため、抵抗器R1と抵抗器R2は、同一の集積回路上に形成されており、抵抗器R1の抵抗値のばらつきと、抵抗器R2の抵抗値のばらつきは、同様である。例えば、ある集積回路に形成された抵抗器R1の抵抗値(R1−1)及び抵抗器R2の抵抗値(R2−1)と、別の集積回路に形成された抵抗器R1の抵抗値(R1−2)及び抵抗器R2の抵抗値(R2−2)とを比較した場合、R1−1<R1−2であれば、R2−1<R2−2である。
【0022】
オペアンプOPは、非反転入力端子にバイアス制御電圧V
CONTが供給され、反転入力端子が抵抗器R1の第1の端子に接続され、出力端子が抵抗器R4の第1の端子に接続される。
【0023】
抵抗器R4は、第1の端子がオペアンプOPの出力端子と接続され、第2の端子がトランジスタTR2のベースと接続される。
【0024】
抵抗器R1(第1の抵抗器)は、第1の端子がオペアンプOPの反転入力端子と接続され、第2の端子が接地される。
【0025】
FET(F1)(第1のFET)は、ソースに電源電圧V
CCが供給され、ドレインが抵抗器R1の第1の端子と接続される。FET(F1)のゲートは、FET(F2)のゲートと接続される。FET(F2)(第2のFET)は、ソースに電源電圧V
CCが供給され、ドレインがトランジスタTR1のコレクタと接続される。FET(F2)のゲートは、自身のドレインと、FET(F1)のゲートと接続される。即ち、FET(F1,F2)は電流ミラー接続されている。
【0026】
トランジスタTR1(第1のトランジスタ)は、コレクタがFET(F2)のドレインと接続され、エミッタが接地される。トランジスタTR1のベースは、抵抗器R2の第1の端子に接続される。
【0027】
抵抗器R2(第2の抵抗器)は、第1の端子がトランジスタTR1のベースと接続され、第2の端子が抵抗器R3の第1の端子及びトランジスタTR2のエミッタと接続される。
【0028】
トランジスタTR2(第2のトランジスタ)は、コレクタに電源電圧V
CCが供給され、エミッタが抵抗器R2の第2の端子及び抵抗器R3の第1の端子と接続される。トランジスタTR2のベースは、抵抗器R4の第2の端子と接続される。
【0029】
抵抗器R3(第3の抵抗器)は、第1の端子が抵抗器R2の第2の端子及びトランジスタTR2のエミッタと接続される。抵抗器R3の第2の端子は、トランジスタTR0のベースと接続される。
【0030】
電力増幅モジュール112Aにおけるバイアス回路220Aの動作について説明する。
【0031】
オペアンプOPは、反転入力端子の電圧が非反転入力端子の電圧と等しくなるように動作する。従って、抵抗器R1の第1の端子の電圧は、バイアス制御電圧V
CONTとなる。抵抗器R1の抵抗値をR1とすると、抵抗器R1に流れる電流I1(第1の電流)は、次式(1)となる。
I1=V
CONT/R1 ・・・(1)
【0032】
FET(F1,F2)は電流ミラー接続されているため、FET(F1,F2)のサイズ比を1:Aとすると、FET(F2)に流れる電流I2(第2の電流)は、次式(2)となる。
I2=(A×V
CONT)/R1 ・・・(2)
【0033】
トランジスタTR1の電流増幅率をhFEとすると、トランジスタTR1のベース電流I3は、次式(3)となる。
I3=I2/hFE=(A×V
CONT)/(R1×hFE) ・・・(3)
【0034】
飽和電流をI
S、熱電圧をV
T、ボルツマン係数をk、絶対温度をT、トランジスタTR1のベース・エミッタ間電圧をV
BEとすると、トランジスタTR1のコレクタ電流I2は、次式(4)で表すことができる。
I2=I
Sexp(q(V
BE−V
T)/kT) ・・・(4)
【0035】
抵抗器R2の抵抗値をR2とすると、抵抗器R2の第2の端子に生成される電圧V1(第1の電圧)は、次式(5)となる。
V1=V
BE+R2×I3=V
BE+(R2×A×V
CONT)/(R1×hFE) ・・・(5)
【0036】
式(3)、(4)及び(5)より、電圧V1は、次式(6)で表すことができる。
V1=V
T+(kT/q)×ln{(A×V
CONT)/(R1×I
S)}+(R2×A×V
CONT)/(R1×hFE) ・・・(6)
【0037】
式(6)において、右辺第1項V
Tは一定である。
【0038】
また、式(6)において、右辺第2項(kT/q)×ln{(A×V
CONT)/(R1×I
S)}は対数であるため、製造時におけるR1の数値変動の影響は無視できる。
【0039】
また、式(6)において、右辺第3項(R2×A×V
CONT)/(R1×hFE)は、分母にR1、分子にR2を含む。従って、製造ばらつきによるR1,R2の変動は打ち消される。
【0040】
よって、バイアス回路220Aでは、抵抗値の変動の影響を受けない安定した電圧V1を生成することができる。これにより、トランジスタTR0に供給されるバイアス電流の変動を抑制することができる。また、抵抗値の変動を抑制するためにチップ抵抗器を用いる場合と比較して、実装面積の増大を抑制することができる。
【0041】
図3は、電力増幅モジュール112の比較例である電力増幅モジュール300の構成を示す図である。なお、電力増幅モジュール112Aと同等の要素には同等の符号を付して説明を省略する。
【0042】
電力増幅モジュール300は、バイアス回路310を備える。バイアス回路310は、トランジスタTR11,TR12,TR13及び抵抗器R11,R12を含む。
【0043】
抵抗器R11は、第1の端子にバイアス制御電圧V
CONTが供給される。抵抗器R11の第2の端子は、トランジスタTR11のコレクタ及びトランジスタTR13のベースに接続される。
【0044】
トランジスタTR11は、コレクタとベースが接続され、ダイオードを構成している。以後、この構成をダイオード接続と呼ぶ。トランジスタTR11は、コレクタが、抵抗器R11の第2の端子と接続され、エミッタがトランジスタTR12のコレクタと接続される。
【0045】
トランジスタTR12は、ダイオード接続されている。トランジスタTR12は、コレクタが、トランジスタTR11のエミッタと接続され、エミッタが接地される。
【0046】
トランジスタTR13は、コレクタに電源電圧V
CCが供給され、エミッタが抵抗器R12の第1の端子と接続される。トランジスタTR13のベースは、抵抗器R11の第2の端子と接続される。
【0047】
抵抗器R12は、第1の端子がトランジスタTR13のエミッタと接続され、第2の端子がトランジスタTR0のベースと接続される。
【0048】
バイアス回路310は、バイアス制御電圧V
CONTに応じたバイアス電流をトランジスタTR0のベースに供給する。なお、バイアス回路310では、製造ばらつきにより抵抗器R11の抵抗値が変動すると、トランジスタTR13のベース電圧が変動する。そして、トランジスタTR13のベース電圧の変動により、トランジスタTR0に供給されるバイアス電流が変動する。
【0049】
図4は、電力増幅モジュール112A及び電力増幅モジュール300における、バイアス電流のばらつきを示すシミュレーション結果である。
図4において、横軸は、トランジスタTR0のコレクタ電流を示す。また、縦軸は、バイアス電流の設計値を1.0とし、製造ばらつきによる抵抗値の変動を±10%とした場合のバイアス電流の変動を示す。
【0050】
図4に示すように、コレクタ電流0.4A以上の領域において、電力増幅モジュール112Aにおけるバイアス電流の変動は、電力増幅モジュール300におけるバイアス電流の変動よりも小さくなっている。従って、このシミュレーション結果からも、電力増幅モジュール112Aでは、トランジスタTR0に供給されるバイアス電流の変動を抑制可能であることがわかる。
【0051】
図5は、電力増幅モジュール112の一例である電力増幅モジュール112Bの構成を示す図である。なお、電力増幅モジュール112Aと同等の要素には同等の符号を付して説明を省略する。
【0052】
電力増幅モジュール112Bは、電力増幅モジュール112Aのバイアス回路220Aの代わりにバイアス回路220Bを備える。
【0053】
バイアス回路220Bでは、抵抗器R2の第1の端子がトランジスタTR1のエミッタと接続され、抵抗器R2の第2の端子が接地されている。バイアス回路220Bの他の構成は、バイアス回路220Aと同一である。
【0054】
バイアス回路220Bにおいて、トランジスタTR1のベースに生成される電圧V1は、次式(7)となる。
V1=V
BE+I2×R2=V
BE+(R2×A×V
CONT)/R1 ・・・(7)
【0055】
式(4)及び(7)より、電圧V1は、次式(8)で表すことができる。
V1=V
T+(kT/q)×ln{(A×V
CONT)/(R1×I
S)}+(R2×A×V
CONT)/R1 ・・・(8)
【0056】
式(8)によれば、電力増幅モジュール112Bでは、電力増幅モジュール112Aの場合と同様に、製造ばらつきによる抵抗値の変動によらず安定した電圧V1を生成することができる。これにより、トランジスタTR0に供給されるバイアス電流の変動を抑制することができる。
【0057】
図6は、電力増幅モジュール112の一例である電力増幅モジュール112Cの構成を示す図である。なお、電力増幅モジュール112Aと同等の要素には同等の符号を付して説明を省略する。
【0058】
電力増幅モジュール112Cは、電力増幅モジュール112Aのバイアス回路220Aの代わりにバイアス回路220Cを備える。
【0059】
バイアス回路220Cは、バイアス回路220Aの構成に加えて、トランジスタTR3を備える。トランジスタTR3は、例えば、HBT等のバイポーラトランジスタである。
【0060】
トランジスタTR2は、コレクタに電源電圧V
CCが供給され、エミッタがトランジスタTR1のベースと接続される。トランジスタTR2のベースは、抵抗器R2の第1の端子と接続される。
【0061】
抵抗器R2は、第1の端子がトランジスタTR2のベースと接続され、第2の端子が抵抗器R4の第2の端子及びトランジスタTR3のベースと接続される。
【0062】
トランジスタTR3(第3のトランジスタ)は、コレクタに電源電圧V
CCが供給され、エミッタが抵抗器R3の第1の端子と接続される。トランジスタTR3のベースは、抵抗器R2の第2の端子及び抵抗器R4の第2の端子と接続される。
【0063】
バイアス回路220Cの他の構成は、バイアス回路220Aと同一である。
【0064】
トランジスタTR1,TR2のベース・エミッタ間電圧をV
BE、トランジスタTR1,TR2の電流増幅率をhFEとすると、抵抗器R2の第2の端子に生成される電圧V1は、次式(9)となる。
V1=2×V
BE+(I3×R2)/hFE ・・・(9)
【0065】
式(3)、(4)及び(9)より、電圧V1は、次式(10)で表すことができる。
V1=2×V
T+(kT/q)×[2×ln{(A×V
CONT)/(R1×I
S)}+ln(1/hFE)]+(R2×A×V
CONT)/(R1×hFE
2) ・・・(10)
【0066】
式(10)によれば、電力増幅モジュール112Cでは、電力増幅モジュール112Aの場合と同様に、製造ばらつきによる抵抗値の変動によらず安定した電圧V1を生成することができる。これにより、トランジスタTR0に供給されるバイアス電流の変動を抑制することができる。
【0067】
図7は、電力増幅モジュール112C及び電力増幅モジュール300における、バイアス電流のばらつきを示すシミュレーション結果である。
図7において、横軸は、トランジスタTR0のコレクタ電流を示す。また、縦軸は、バイアス電流の設計値を1.0とし、製造ばらつきによる抵抗値の変動を±10%とした場合のバイアス電流の変動を示す。
【0068】
図7に示すように、コレクタ電流0.2A以上の領域において、電力増幅モジュール112Cにおけるバイアス電流の変動は、電力増幅モジュール300におけるバイアス電流の変動よりも小さくなっている。従って、このシミュレーション結果からも、電力増幅モジュール112Cでは、トランジスタTR0に供給されるバイアス電流の変動を抑制可能であることがわかる。
【0069】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。本実施形態の電力増幅モジュール112Aによれば、バイアス回路220Aは、バイアス制御電圧V
CONTに応じた電流I1を生成する抵抗器R1と、電流I1に応じた電流I2がコレクタに供給されるトランジスタTR1と、トランジスタTR1のベース電流に応じた電圧V1を生成する抵抗器R2と、電圧V1に応じたバイアス電流を出力する出力回路とを備え、電圧V1は、抵抗器R1の抵抗値の増大に伴って下降し、抵抗器R2の抵抗値の増大に伴って上昇する。
【0070】
具体的には、例えば、製造ばらつきにより抵抗器R1の抵抗値が大きくなると、電流I1が小さくなる。電流I1が小さくなると、電流I2も小さくなる。電流I2が小さくなると、トランジスタTR1のベース電流も小さくなる。抵抗器R2の抵抗値が固定であれば、ベース電流が小さくなると電圧V1も小さくなるが、抵抗器R1と同様の製造ばらつきにより抵抗器R2の抵抗値も大きくなるため、電圧V1の変動が抑制される。
【0071】
特に、トランジスタTR0のコレクタ電流が大きくなればなるほど、製造ばらつきによる電流変動が小さくなる。そのため、複数段の増幅器を有する構成では、出力段の増幅器において、電力増幅モジュール112の構成を採用することが効果的である。
【0072】
これにより、製造ばらつきによる電力増幅モジュールの特性変動を抑制することが可能となる。電力増幅モジュール112B,112Cにおいても、同様である。
【0073】
また、電力増幅モジュール112Bでは、抵抗器R2がトランジスタTR1のエミッタに接続されている。トランジスタTR1のエミッタ電流は、トランジスタTR1のベース電流のhFE倍である。そのため、電力増幅モジュール112AのようにトランジスタTR1のベースに抵抗器R2を接続する場合と比較して、抵抗器R2の抵抗値を小さくすることが可能となる。
【0074】
また、電力増幅モジュール112Cでは、式(10)において、抵抗値R1,R2の変動の影響を受ける右辺第2項に1/hFEが含まれているため、電力増幅モジュール112A,112Bと比較して、抵抗器R1,R2の抵抗値の変動の影響が小さい。従って、電力増幅モジュール112A,112Bよりも、製造ばらつきによる電力増幅モジュールの特性変動をさらに抑制することが可能となる。
【0075】
以上説明した各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るととともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。