特許第6579318号(P6579318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6579318イオン伝導性セラミックス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579318
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】イオン伝導性セラミックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20190912BHJP
   C04B 35/462 20060101ALI20190912BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20190912BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20190912BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20190912BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   C04B35/01
   C04B35/462
   C04B35/50
   H01B13/00 Z
   H01B1/08
   H01B1/06 A
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-186557(P2015-186557)
(22)【出願日】2015年9月24日
(65)【公開番号】特開2017-61390(P2017-61390A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2018年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 一雅
(72)【発明者】
【氏名】谷 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 秀仁
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−140762(JP,A)
【文献】 特開2013−105646(JP,A)
【文献】 特開平10−330184(JP,A)
【文献】 特開平10−139552(JP,A)
【文献】 特開2009−114037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01B 1/06−1/08
H01B 13/00−13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:ABO(式中、A及びBはそれぞれペロブスカイト構造のAサイト及びBサイトを示し、Aサイトには空格子が含まれていてもよい。)で表わされるぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含むぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体を含むイオン伝導性セラミックスの製造方法であって、
前記ぺロブスカイト構造のLiを除くAサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とBサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とを含む結晶性酸化物からなる単結晶粒子であって、寸法異方性を有しており、厚みと長さとの比(長さ/厚み)の平均値(平均アスペクト比)が3以上でかつ長さの平均値(平均長さ)が1〜50μmである板状の単結晶粒子を、熱処理により前記イオン伝導性セラミックスとなる原料化合物からなる反応性混合物中に分散せしめて分散体を得る混合工程と、
前記分散体の成形体を得る成形工程と、
前記成形体を熱処理して前記単結晶粒子をテンプレートとして前記反応性混合物を結晶化せしめて前記イオン伝導性セラミックスを得る焼結工程と、
を含むことを特徴とするイオン伝導性セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記ぺロブスカイト型化合物のLiの含有量が、前記ぺロブスカイト型化合物のAサイト(空格子も含む)に対して9〜30at%であることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記単結晶粒子の配合量が、Liを除くAサイトの元素の全量(空格子は除く)に対する単結晶粒子に起因する当該元素が占める割合が1〜100at%となる量であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン伝導性セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記Liを除くAサイトの元素がLaであることを特徴とする請求項3に記載のイオン伝導性セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記ペロブスカイト型化合物が、組成式:La(2/3)−xLi3xTiO(式中、xは0.03以上0.17以下の数を示す。)で表わされる結晶性化合物であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のイオン伝導性セラミックスの製造方法。
【請求項6】
一般式:ABO(式中、A及びBはそれぞれぺロブスカイト構造のAサイト及びBサイトを示し、Aサイトには空格子が含まれていてもよい。)で表わされるぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含むぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体を含むイオン伝導性セラミックスであって、
前記ぺロブスカイト構造のLiを除くAサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とBサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とを含む結晶性酸化物からなる単結晶粒子であって、寸法異方性を有しており、厚みと長さとの比(長さ/厚み)の平均値(平均アスペクト比)が3以上でかつ長さの平均値(平均長さ)が1〜50μmである板状の単結晶粒子をテンプレートとして、熱処理により前記イオン伝導性セラミックスとなる原料化合物からなる反応性混合物を結晶化せしめてなるものであることを特徴とするイオン伝導性セラミックス。
【請求項7】
前記ぺロブスカイト型化合物のLiの含有量が、前記ぺロブスカイト型化合物のAサイト(空格子も含む)に対して9〜30at%であることを特徴とする請求項6に記載のイオン伝導性セラミックス。
【請求項8】
前記単結晶粒子の配合量が、Liを除くAサイトの元素の全量(空格子は除く)に対する単結晶粒子に起因する当該元素が占める割合が1〜100at%となる量であることを特徴とする請求項6又は7に記載のイオン伝導性セラミックス。
【請求項9】
前記Liを除くAサイトの元素がLaであることを特徴とする請求項8に記載のイオン伝導性セラミックス。
【請求項10】
前記ぺロブスカイト型化合物が、組成式:La(2/3)−xLi3xTiO(式中、xは0.03以上0.17以下の数を示す。)で表わされる結晶性化合物であることを特徴とする請求項6〜9のうちのいずれか一項に記載のイオン伝導性セラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたイオン伝導性を有するセラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、イオン伝導性を有するセラミックスを製造する方法として、最終組成物の粉末を焼結する方法が知られていたが、近年、昇温時或いは焼結時における拡散反応を用いてイオン伝導性セラミックスを得る方法が開発されている。
【0003】
例えば、特開2013−105646号公報(特許文献1)においては、チタン酸ランタンで構成された第1の粒子と、チタン酸リチウムで構成された第2の粒子とを含む固体電解質層形成用組成物を焼結することによりリチウムイオン二次電池の固体電解質層を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のような従来公知の方法で得られたセラミックスにおいては、イオン伝導性が未だ十分なものではなかった。
【0004】
また、特許3666179号公報(特許文献2)においては、ペロブスカイト構造を有するゲスト材料Bを少なくとも一部分に含み、上記ゲスト材料Bが擬立方晶表示で表したペロブスカイト構造の(110)面に配向した状態にあり、その配向度はLotgering法において30%以上である結晶配向セラミックスを製造するに当たり、SrNb構造を有し、かつその(010)面より形成された広がり面を有する形状異方性粒子よりなる粉末であるホスト材料Aと、該ホスト材料Aをゲスト材料Bに転換させるための添加物Rとを少なくとも含有する混合物を得る混合工程と、次いで、上記混合物を上記ホスト材料Aの少なくとも一部が(010)面配向した成形体となす成形・配向工程と、次いで、上記ゲスト材料Bの少なくとも一部を結晶面配向又は結晶軸配向させる熱処理工程とを行うことにより結晶配向セラミックスを製造する方法が開示されている。しかしながら、イオン伝導性セラミックスに要求されるイオン伝導性が益々高まっている昨今においては、特許文献2に記載のような従来公知の方法で得られたセラミックスよりも更にイオン伝導性に優れたものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−105646号公報
【特許文献2】特許3666179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れたイオン伝導性を有するセラミックス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、一般式:ABO(式中、A及びBはそれぞれペロブスカイト構造のAサイト及びBサイトを示し、Aサイトには空格子が含まれていてもよい。)で表わされるぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含むぺロブスカイト型及び歪んだぺロブスカイト型の化合物(以下、「ペロブスカイト型化合物」と総称する。)よりなるバルク体を含むセラミックスを、寸法異方性を有する特定の単結晶粒子をテンプレートとして製造することによって、優れたイオン伝導性を有するセラミックスを得ることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のイオン伝導性セラミックスの製造方法は、一般式:ABO(式中、A及びBはそれぞれペロブスカイト構造のAサイト及びBサイトを示し、Aサイトには空格子が含まれていてもよい。)で表わされるぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含むぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体を含むイオン伝導性セラミックスの製造方法であって、
前記ぺロブスカイト構造のLiを除くAサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とBサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とを含む結晶性酸化物からなる単結晶粒子であって、寸法異方性を有しており、厚みと長さとの比(長さ/厚み)の平均値(平均アスペクト比)が3以上でかつ長さの平均値(平均長さ)が1〜50μmである板状の単結晶粒子を、熱処理により前記イオン伝導性セラミックスとなる原料化合物からなる反応性混合物中に分散せしめて分散体を得る混合工程と、
前記分散体の成形体を得る成形工程と、
前記成形体を熱処理して前記単結晶粒子をテンプレートとして前記反応性混合物を結晶化せしめて前記イオン伝導性セラミックスを得る焼結工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0009】
また、本発明のイオン伝導性セラミックスは、一般式:ABO(式中、A及びBはそれぞれぺロブスカイト構造のAサイト及びBサイトを示し、Aサイトには空格子が含まれていてもよい。)で表わされるぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含むぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体を含むイオン伝導性セラミックスであって、
前記ぺロブスカイト構造のLiを除くAサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とBサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とを含む結晶性酸化物からなる単結晶粒子であって、寸法異方性を有しており、厚みと長さとの比(長さ/厚み)の平均値(平均アスペクト比)が3以上でかつ長さの平均値(平均長さ)が1〜50μmである板状の単結晶粒子をテンプレートとして、熱処理により前記イオン伝導性セラミックスとなる原料化合物からなる反応性混合物を結晶化せしめてなるものであることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のイオン伝導性セラミックス及びその製造方法においては、前記ぺロブスカイト型化合物のLiの含有量が、前記ぺロブスカイト型化合物のAサイト(空格子も含む)に対して9〜30at%であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のイオン伝導性セラミックス及びその製造方法においては、前記単結晶粒子の配合量が、Liを除くAサイトの元素の全量(空格子は除く)に対する単結晶粒子に起因する当該元素が占める割合が1〜100at%となる量であることが好ましい。
【0012】
更に、本発明のイオン伝導性セラミックス及びその製造方法においては、前記Liを除くAサイトの元素がLaであることが好ましい。
【0013】
また、本発明のイオン伝導性セラミックス及びその製造方法においては、前記ペロブスカイト型化合物が、組成式:La(2/3)−xLi3xTiO(式中、xは0.03以上0.17以下の数を示す。)で表わされる結晶性化合物であることが好ましい。
【0014】
本発明のイオン伝導性セラミックス及びその製造方法によって優れたイオン伝導性を有するセラミックスが得られるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0015】
すなわち、先ず、本発明のイオン伝導性セラミックスにおいては、一般式:ABO(式中、A及びBはそれぞれぺロブスカイト構造のAサイト及びBサイトを示し、Aサイトには空格子が含まれていてもよい。)で表わされるペロブスカイト構造のAサイトにLiを含むぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体が含まれている。このようにLiが含有されていることにより、イオン伝導性を発現することが可能となる。一方、Liを含む焼結体であるセラミックスにおけるイオン伝導度は、複素インピーダンス測定によって示されるように、結晶格子由来のイオン伝導度と界面由来のイオン伝導度に分けられ、一般に界面由来のイオン伝導度は結晶格子由来のイオン伝導度と比べて1/10以下である。本発明のセラミックスにおいては、前記ぺロブスカイト構造のLiを除くAサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とBサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とを含む結晶性酸化物からなりかつ特定の寸法異方性を有する単結晶粒子をテンプレートとして用いることによって、得られるセラミックスにおけるドメイン(分域)が大きくなってドメイン壁が主体である界面が減少することにより、イオン伝導経路におけるLiのホッピングの抵抗成分が減少して優れたイオン伝導性が発揮されるようになるものと本発明者らは推察する。
【0016】
なお、本発明のイオン伝導性セラミックスに係る請求項においては、その一部に製造方法が記載されている。しかしながら、本発明のイオン伝導性セラミックスの構造や特性を特定する作業を行うことは著しく困難であるという事情があることから、同請求項の記載は特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するものである。すなわち、本発明のイオン伝導性セラミックスは、前述の通り特定の単結晶粒子を種結晶として合成することにより、合成後のセラミックスにおけるドメイン壁の存在確率が低下しており、それによって抵抗成分が減少して優れたイオン伝導性が発揮されるようになっているものと本発明者らは推察している。しかしながら、このようなドメインの大きさは多岐に亘っており、その存在確率や面積を定量的に測定することが著しく困難であることは当業者によって技術常識である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れたイオン伝導性を有するイオン伝導性セラミックス及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】調製例1で得られたLaTi粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2】市販のLaTi粉末(原料粉末a−4)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】調製例1で得られたLaTi粉末のXRDスペクトルを示すグラフである。
図4】市販のLaTi粉末(原料粉末a−4)のXRDスペクトルを示すグラフである。
図5】本発明の実施例1におけるイオン伝導性セラミックスの製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のイオン伝導性セラミックスの製造方法と、その製造方法によって得られる本発明のイオン伝導性セラミックスについて、それらの好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
本発明のイオン伝導性セラミックスの製造方法は、一般式:ABO(式中、A及びBはそれぞれペロブスカイト構造のAサイト及びBサイトを示し、Aサイトには空格子が含まれていてもよい。)で表わされるぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含むぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体を含むイオン伝導性セラミックスの製造方法であって、
前記ぺロブスカイト構造のLiを除くAサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とBサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とを含む結晶性酸化物からなる単結晶粒子であって、寸法異方性を有しており、厚みと長さとの比(長さ/厚み)の平均値(平均アスペクト比)が3以上でかつ長さの平均値(平均長さ)が1〜50μmである板状の単結晶粒子を、熱処理により前記イオン伝導性セラミックスとなる原料化合物からなる反応性混合物中に分散せしめて分散体を得る混合工程と、
前記分散体の成形体を得る成形工程と、
前記成形体を熱処理して前記単結晶粒子をテンプレートとして前記反応性混合物を結晶化せしめて前記イオン伝導性セラミックスを得る焼結工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0021】
また、本発明のイオン伝導性セラミックスは、一般式:ABO(式中、A及びBはそれぞれぺロブスカイト構造のAサイト及びBサイトを示し、Aサイトには空格子が含まれていてもよい。)で表わされるぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含むぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体を含むイオン伝導性セラミックスであって、
前記ぺロブスカイト構造のLiを除くAサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とBサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とを含む結晶性酸化物からなる単結晶粒子であって、寸法異方性を有しており、厚みと長さとの比(長さ/厚み)の平均値(平均アスペクト比)が3以上でかつ長さの平均値(平均長さ)が1〜50μmである板状の単結晶粒子をテンプレートとして、熱処理により前記イオン伝導性セラミックスとなる原料化合物からなる反応性混合物を結晶化せしめてなるものであることを特徴とするものである。
【0022】
(ぺロブスカイト型化合物)
本発明に係るぺロブスカイト型化合物は、一般式:ABO(式中、A及びBはそれぞれぺロブスカイト構造のAサイト及びBサイトを示し、Aサイトには空格子が含まれていてもよい。)で表わされるぺロブスカイト構造のAサイトの元素としてLiを含んでいることが必要である。このように、ペロブスカイト構造のAサイトにLiを含むペロブスカイト型化合物とすることにより、高いイオン伝導率を発現することが可能となる。
【0023】
Aサイトの元素としては、Li以外の元素は特に制限されないが、更に、La、Pb、Ba、Sr、Bi、Na、Ca、Cd、Ag、Mg、K及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。なお、このようなAサイトのLi以外の元素としては、化合物の化学的・熱的安定性の観点から、La、Ba、Sr、Ag及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることがより好ましく、Laであることが特に好ましい。また、Bサイトの元素としては、特に制限されないが、具体的には、Ti、Al、Ta、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Mn、Mg、Ge、Ru、Sc、Co、Cu、In、Sn、Ga、Zn、Cd、Fe及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。なお、このようなBサイトの元素としては、化合物の化学的・熱的安定性の観点から、Ti、Nb、Ta、W、Al、Mn、Mg、Ge及びRuからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることがより好ましく、資源量が豊富なTiであることが特に好ましい。
【0024】
また、本発明に係るペロブスカイト型化合物におけるLiの含有量が、前記ペロブスカイト型化合物のAサイト(空格子も含む)に対して9〜30at%であることが好ましい。このようなペロブスカイト型化合物のLiの含有量が前記下限未満になると、得られるイオン伝導性セラミックスのイオン伝導率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、正方晶に相転移して結晶の異方性を利用した材料改質の利得が低下する傾向にある。
【0025】
更に、本発明に係るペロブスカイト型化合物としては、具体的には、高いLiイオン伝導率発現の観点から、組成式:La(2/3)−xLi3xTiO(式中、xは0.03以上0.17以下の数を示す。)で表わされる結晶性化合物が好ましいものとして挙げられる。なお、このような結晶性化合物は、結晶構造を変えない範囲で少量の元素置換があってもよい。このような結晶性化合物の前記組成式におけるxが0.03未満になると、得られるイオン伝導性セラミックスのイオン伝導率が低下する傾向にあり、他方、0.17を超えると、ペロブスカイト相単相として不安定となり、イオン伝導率が低下する傾向にある。更に、前記組成式におけるxが0.03以上0.10未満の範囲内であると、本発明により得られるイオン伝導性セラミックスのイオン伝導性がより優れたものとなる傾向にあることから、前記組成式におけるxは0.03以上0.10未満の数であることがより好ましい。
【0026】
なお、Aサイト元素のモル数と酸素原子とのモル比、及び、Bサイト元素のモル数と酸素原子とのモル比は、それぞれ1:3である場合が一般的であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1:3からずれていてもよい。
【0027】
また、本発明に係るぺロブスカイト型化合物としては、ペロブスカイト(灰チタン石)と同じ結晶構造を有するいわゆるぺロブスカイト型の化合物のみならず、構造が歪んだぺロブスカイト型の化合物をも包含するものである。
【0028】
(イオン伝導性セラミックス)
本発明のイオン伝導性セラミックスは、前記ぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体を含んでいることが必要である。前記ペロブスカイト型化合物よりなるバルク体の含有量は、イオン伝導性セラミックスの全質量100質量%に対して90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。このようなペロブスカイト型化合物よりなるバルク体の含有量が前記下限未満では、第二相の存在によりイオン伝導率が低下する傾向にある。なお、本発明のイオン伝導性セラミックスは、このようなペロブスカイト型化合物よりなるバルク体の集合体を含むものであることが好ましいが、より優れたイオン伝導性を実現する観点から、このようなペロブスカイト型化合物よりなるバルク体の集合体のみでイオン伝導性セラミックスが形成されていることがより好ましい。
【0029】
更に、本発明のイオン伝導性セラミックスは、以下に説明する寸法異方性を有する特定の単結晶粒子をテンプレートとして、熱処理により前記イオン伝導性セラミックスとなる原料化合物からなる反応性混合物を結晶化せしめてなるものである。
【0030】
(単結晶粒子)
本発明において用いる単結晶粒子は、前記ペロブスカイト構造のLiを除くAサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とBサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とを含む結晶性酸化物からなる単結晶粒子であって、寸法異方性を有しており、厚みと長さとの比(長さ/厚み)の平均値(平均アスペクト比)が3以上でかつ長さの平均値(平均長さ)が1〜50μmである板状の単結晶粒子であり、以下に説明する結晶化の際にテンプレートとなるものである。
【0031】
このような単結晶粒子(テンプレート)は、前記ペロブスカイト構造のLiを除くAサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とBサイトの元素となる少なくとも一種の種元素とを含む結晶性酸化物からなり、目的物質であって最終生成物であるイオン伝導性セラミックスの組成のうちの少なくとも一部の組成からなるものである。このような単結晶粒子としては、具体的には、LaTi、NdTi、SrNb等のLiを除くAサイトの少なくとも一部の元素とBサイトの少なくとも一部の元素との結晶性酸化物からなるものが挙げられ、LaTi及びこれと同等の結晶構造の物質の結晶性酸化物からなるものであることが好ましく、その中でも、高いイオン伝導率を発現するペロブスカイト型化合物の構成元素を含有しているという観点から、LaTiからなるものであることがより好ましい。
【0032】
また、このような単結晶粒子としては、寸法異方性を有しており、厚みと長さとの比(長さ/厚み)の平均値(平均アスペクト比)が3以上である板状のテンプレートとなるものであることが必要であり、平均アスペクト比が5以上であることがより好ましい。単結晶粒子のアスペクト比が前記下限未満では、焼結時に単結晶粒子(テンプレート)が起点になった合成反応と粒成長が十分に進行しなくなるという問題が生じる。
【0033】
更に、このような単結晶粒子としては、寸法異方性を有しており、長さの平均値(平均長さ)が1〜50μmであることが必要であり、平均長さが2〜20μmであることがより好ましい。単結晶粒子の平均長さが前記下限未満では、成形時の粉末の取扱いの困難さが増大するという問題があり、他方、前記上限を超えると、板状単結晶粒子を作製する困難さが増大するという問題がある。なお、「長さ」とは、単結晶粒子の軸に沿った端から端までの隔たりの大きさのうち最大のもの(すなわち、長軸の大きさ)を言う。
【0034】
なお、このような単結晶粒子は、後述する反応性混合物を構成する粒子に比べて十分に大きいことが好ましく、単結晶粒子の平均長さが後述する粒状の反応性混合物の平均粒径の2倍以上であることが好ましい。単結晶粒子の平均長さが反応性混合物の平均粒径の2倍未満では、焼結時に単結晶粒子(テンプレート)が起点になった粒成長が進行しにくくなる傾向にある。
【0035】
また、このような単結晶粒子としては、寸法異方性を有しており、厚みの平均値(平均厚み)が0.05〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましい。単結晶粒子の平均厚みが前記下限未満では、成形時の粉末の取扱いの困難さが増大する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、板状単結晶粒子を作製する困難さが増大する傾向にある。なお、「厚み」とは、単結晶粒子の面的な広がりと垂直な方向の長さを言う。
【0036】
更に、このような単結晶粒子の平均厚みが、後述する粒状の反応性混合物の平均粒径と同等以上であることが好ましい。単結晶粒子の平均厚みが反応性混合物の平均粒径より小さいと、焼結時に単結晶粒子(テンプレート)が起点になった粒成長が進行しにくくなる傾向にある。
【0037】
なお、このような単結晶粒子において、長さや厚みが不明確な場合は、単結晶粒子の最小外接直方体を想定して、最大面の縦、横のうち、横(長い方)を「長さ」、前記以外の高さを「厚み」とする。
【0038】
また、このような単結晶粒子の結晶構造、大きさ等は、X線回折装置を用いた結晶相の同定、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた微構造観察等の公知の手法によって解析することが可能である。
【0039】
(反応性混合物)
本発明において用いる反応性混合物は、後述する熱処理により目的物質であって最終生成物であるイオン伝導性セラミックスとなる原料化合物からなるものであり、すなわち、熱処理により前記単結晶粒子と共に目的とするイオン伝導性セラミックスとなる原料化合物の集合体である。通常は、最終生成物であるイオン伝導性セラミックスを構成する元素から、結晶化においてテンプレートとなる前記単結晶粒子に含まれる元素を除いた元素からなる原料化合物の集合体である。
【0040】
このような反応性混合物を構成する物質としては、Aサイトの少なくとも一部の元素(前記単結晶粒子に含まれるAサイト元素以外のAサイト元素)の塩、酸化物等の物質、Bサイトの少なくとも一部の元素(前記単結晶粒子に含まれるBサイト元素以外のBサイト元素)の塩、酸化物等の物質、Aサイトの少なくとも一部の元素(前記単結晶粒子に含まれるAサイト元素以外のAサイト元素)とBサイトの少なくとも一部の元素(前記単結晶粒子に含まれるBサイト元素以外のBサイト元素)の塩、酸化物等の物質が挙げられ、具体的には、Li塩、Li酸化物等のLi源となる物質(例えば、LiCO3);La塩、La酸化物等のLa源となる物質(例えば、La(CO、La、La(OH));Ti塩、Ti酸化物等のTi源となる物質(例えば、TiO、TiO、Ti);Liを含むTi複合酸化物等のLi及びTi源となる物質(例えば、LiTi12、LiTiO、LiTiO);Laを含むTi複合酸化物等のLa及びTi源となる物質(例えば、LaTi、LaTi12、LaTi24、LaTiO);La及びLiを含むTi複合酸化物等のLa、Li及びTi源となる物質(例えば、(La、Li)TiO)が好ましいものとして挙げられる。これらの物質の中でも、化学的安定性の観点から、金属の酸化物又は金属の炭酸塩であることが好ましい。
【0041】
このような反応性混合物が粉末状である場合は、平均粒径が0.01〜5μmであることが好ましく、0.05〜0.5μmであることがより好ましい。反応性混合物の平均粒径が前記下限未満では、微細な反応性混合物を製造するための費用が高額になる傾向があり、他方、前記上限を超えると、前記単結晶粒子(テンプレート)と反応する際にテンプレートの成長を継承することが困難になる傾向にある。
【0042】
(混合工程)
本発明のイオン伝導性セラミックスの製造方法においては、先ず、結晶化の過程においてテンプレートとなる板状の前記単結晶粒子を、熱処理によりイオン伝導性セラミックスとなる原料化合物からなる前記反応性混合物中に分散せしめて分散体を得る(混合工程)。
【0043】
本発明に係る混合工程において採用される混合方法としては、特に制限されないが、具体的には、ボールミル混合、撹拌機による混合等が挙げられる。なお、乾式で行うこともできるが、水、アルコール等の分散媒を加えて湿式で行ってもよい。更に、必要に応じてバインダ及び/又は溶剤や可塑剤等を加えてスラリーとすることもできる。このようなスラリーとしては、具体的には、溶剤としてエタノール、トルエン等と、バインダとしてPVB(ポリビニルブチラール)等と、可塑剤としてDBP(フタル酸ジブチル)等とを混練することにより得ることができる。また、このようなスラリーにおける分散媒の配合量については、成形方法や分散体の粒径によって適切な量が決められ、特に制限されない。
【0044】
また、本発明に係る混合工程においては、前記単結晶粒子と前記反応性混合物との配合量については、特に制限されないが、前記単結晶粒子の配合量が、Liを除くAサイトの元素の全量(空格子は除く)に対する単結晶粒子に起因する当該元素が占める割合が1〜100at%となる量であることが好ましく、2〜50at%となる量であることがより好ましい。前記単結晶粒子の配合量が下限未満になると、テンプレートが反応性混合物と反応する際にテンプレートの成長を継承することが不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、焼結性が低下する傾向にある。このように、本発明のイオン伝導性セラミックスにおいては、Liを除くAサイトの元素の1〜100at%(より好ましくは2〜50at%)が単結晶粒子から供給されるようになっていることが好ましい。
【0045】
更に、本発明に係る混合工程においては、前記ぺロブスカイト型化合物が、Liを除くAサイトの元素としてLaを含んでいる場合は、前記単結晶粒子の配合量が、前記イオン伝導性セラミックス中のLaの全量に対する単結晶粒子に起因するLaが占める割合が1〜100at%となる量であることが好ましく、2〜50at%となる量であることがより好ましい。前記単結晶粒子の配合量が下限未満になると、テンプレートが反応性混合物と反応する際にテンプレートの成長を継承することが不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、焼結性が低下する傾向にある。
【0046】
(成形工程)
本発明のイオン伝導性セラミックスの製造方法においては、次に、前記混合工程において得られた前記分散体を成形して、前記反応性混合物中に前記単結晶粒子が分散している成形体を得る(成形工程)。
【0047】
このような成形工程において採用される成形方法としては、特に制限されないが、具体的には、ドクターブレード法、プレス成形法、押し出し成形法、塗布法、射出成形法、圧延法等が挙げられる。具体的には、前記分散体がスラリーの場合には、スプレーによる塗布、スピンコート法、ドクターブレード法等による方法が好適に採用される。更に、基体を用いる場合には、スラリーに基体を浸漬した後に静置して前記分散体を沈降させる方法や、前記分散体を液相界面に整列させ浸漬させた基体を引き上げるLB法、電気泳動法、ディップ法等により基体上に分散体の成形体を形成する方法が挙げられる。
【0048】
また、単結晶粒子(テンプレート)を含む成形体の厚さを増したり、更に積層圧着、プレス、圧延等の処理を行うことができる。
【0049】
更に、ブロック状成形体を成形する場合は、例えばドクターブレード装置等でテープ状に成形した一次成形体を積層し、ブロック状にして、ブロック状成形体とすることができる。本発明のイオン伝導性セラミックスの製造方法においては、例えばRTGG法(反応性テンプレート粒成長法)により、このようなブロック状成形体であってもバルク全体、ブロック状成形体全体を組成が均一な焼結体とすることができる。
【0050】
なお、このような成形工程における成形条件としては、特に制限されず、分散体の粒径と最終生成物の厚みから適切な条件が決定される。
【0051】
(焼結工程)
本発明のイオン伝導性セラミックスの製造方法においては、次いで、前記成形工程において得られた前記成形体を熱処理し、前記単結晶粒子をテンプレート(種結品)として前記反応性混合物を結晶化せしめることによって本発明のイオン伝導性セラミックスが得られる(焼結工程)。
【0052】
このような焼結工程において採用される加熱方法としては、特に制限されないが、電気炉、ガス炉、イメージ炉といった各種の炉等の加熱手段を使用して、常圧焼結法、或いは、ホットプレス、ホットフォージング、HIP等の加圧焼結法のいずれを用いてもよく、イオン伝導性セラミックスの組成や用途等に応じて、適切な方法を選択することができる。また、加熱温度の条件としては、特に制限されないが、単結晶粒子の成長及び/又は焼結が効率よく進行し、かつ、目的とする組成を有する化合物が生成するように、使用する単結晶粒子(テンプレート)、反応性混合物、作製しようとするイオン伝導性セラミックスの組成等に応じて適切な温度を選択すればよい。具体的には、900℃〜1500℃であることが好ましい。更に、加熱雰囲気の条件としては、特に制限されないが、大気中、酸素中、減圧下又は真空下のいずれの雰囲気下で行ってもよい。また、加熱時間の条件としては、特に制限されないが、具体的には、所定の焼結体密度が得られるように、加熱温度に応じて適切な時間を選択すればよい。
【0053】
なお、前記成形工程において得られた成形体がバインダを含む場合、焼結工程の前に、成形体中の有機成分を燃焼除去する脱脂処理(熱処理)を行うことが好ましい。このような脱脂処理における加熱温度は、少なくともバインダを熱分解させるに十分な温度であればよく、具体的には、300℃〜650℃で行うことが好ましい。更に、脱脂処理の後に静水圧加圧処理等を行い、成形体の密度を高める処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、LaTi粉末等の粉末、焼結体等の各物性は、以下の方法により測定した。
【0055】
<XRD解析及びSEM観察>
LaTi粉末等の粉末及び焼結体は、X線回折装置を用いて結晶相の同定を行った。測定条件は、加速電圧40kV、電流40mAのCu−Kα線で2θ=10−90°、スキャンスピード毎分10°とした。また、LaTi粉末等の粉末及び焼結体の微構造観察は、走査型電子顕微鏡を用いて行った。
【0056】
[原料粉末]
原料粉末a−1:
炭酸ランタン(La(CO):(株)高純度化学研究所、「LAH13XB」、La(CO;99.9%
原料粉末a−2:
チタン酸リチウム(LiTi12):石原産業(株)、エマナイト(登録商標)「LT−106」、平均粒径;6.9μm、LiTi12;>95%
原料粉末a−3:
二酸化チタン(TiO):石原産業(株)、タイペーク「A−100」(anatase)、平均粒径;0.15μm、TiO;98%
原料粉末a−4:
二チタン酸ランタン(LaTi(La・2TiO)):三津和化学薬品(株)、LaTi;>99%
[フラックス]
フラックスb−l:
KCl:和光純薬工業(株)、電気伝導度測定用、KCl;≧99.9%。
【0057】
(調製例1)
<単結晶粒子(テンプレート)の調製>
先ず、ポットにφ3mmジルコニアボールとエタノール(和光純薬工業(株)製、特級、99.5%)を入れ、化学量論比でLaTi組成(La:Ti=1:1(モル))となるように、La(CO粉末(a−1)及びTiO粉末(平均粒径0.15μm、a−3)を加えて、ボールミリングを行い、混合スラリーを得た。
【0058】
次に、得られた混合スラリーを電気炉中で乾燥した。次いで、乾燥した混合粉末を解砕し、この混合粉末に対して、フラックスとして等量のKClを加えて白金るつぼに入れた。
【0059】
次に、白金るつぼを電気炉(粉体合成炉)で加熱し、LaTi粉末を合成した。加熱処理の条件は、1200℃で8時間保持して板状の粒子をフラックス合成した。冷却後の試料はKClを洗い流し、単結晶粒子(テンプレート)としてLaTi粉末を得た。
【0060】
得られたLaTi粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1に示す。なお、比較のために、市販のLaTi粉末(原料粉末a−4)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。
【0061】
図1に示した結果から明らかなとおり、本発明に係るLaTi粉末は、長辺の最大が10μm程度の板状の大小の粒子であることが確認された。なお、得られたLaTi粉末は、寸法異方性を有しており、平均アスペクト比が10、広がり面の平均長さが10μm、平均厚みが1μm、平均幅が5μmである板状のLaTi粉末であることが確認された。
【0062】
これに対し、市販のLaTi粉末(原料粉末a−4)は、図2に示した結果から明らかなとおり、粒径が1μm又はそれ以下の丸い粒子とその凝集体で構成されていることが確認された。なお、市販のLaTi粉末は、平均アスペクト比が1、広がり面の平均長さ、平均厚み及び平均幅がいずれも約1μmであることが確認された。
【0063】
また、得られたLaTi粉末の結品構造をX線回折(XRD:X−ray diffraction)の測定により確認した結果を図3に示す。なお、比較のために、市販のLaTi粉末(原料粉末a−4)の結晶構造をX線回折の測定により確認した結果を図4に示す。
【0064】
図4に示した結果から、市販のLaTi粉末(原料粉末a−4)の回折パターンは、公知の回折パターン(例えば、PDF#04−013−4300:Dititanate de lanthane. Gasperin、M.Acta Crystallogr.,Sec.B:Struct.Crystallogr.Cryst.Chem.31、2129(1975))とほぼ一致し、2θ≒30°の(−212)回折ピークが最強ピークである。
【0065】
これに対し、図3に示した結果から、本発明に係るLaTi粉末の回折パターンは、ピーク位置は図4に示した市販のLaTi粉末(原料粉末a−4)の結果と同じで、LaTi単相が合成されていることが確認された。
【0066】
(調製例2)
<原料粉末a−5の調製>
原料粉末a−5として、単結晶粒子(テンプレート)を含まないLa0.62Li0.16TiOを調製した。先ず、原料として、原料粉末a−2、a−3及びa−4を配合し、エタノールを用いた湿式ボールミルで均一混合した後、大気中で800℃、4時間(昇降温速度:毎時200℃)の条件下で仮焼して試料粉末a−5を得た。
【0067】
(実施例1)
原料化合物(反応性混合物)として原料粉末a−5、原料粉末a−2及び原料粉末a−3を、単結晶粒子(テンプレート)として調製例1で得られた板状のLaTi粉末をそれぞれ用いて以下のようにしてイオン伝導性セラミックスを得た。なお、得られたイオン伝導性セラミックスの配合組成及び単結晶粒子(テンプレート)の配合量を表1に示す。また、本実施例におけるイオン伝導性セラミックスの製造方法を説明するための模式図を図5に示す。
【0068】
先ず、原料化合物(反応性混合物)及び単結晶粒子(テンプレート)に、150mass%の有機溶媒予混合液(トルエン+エタノール+PVB)と可塑剤及び混合撹祥用ジルコニアボールを加え、ボールミル混合を行い、テープ成形用のスラリーを得た。
【0069】
次に、ドクターブレード装置を用いて、得られたスラリーを厚さ70〜100μmのテープ状に成形し(ドクターブレード成形)、乾燥させ、配向(テープ)成形体を得た。更に、得られたテープ成形体を切断して重ね(積層)、50〜100℃×5〜100kg/cm×約5分の条件下でヒータープレスを行って圧着し、これを更に繰り返して厚さ約10mm、長さと幅がそれぞれ5〜20mmのブロック状成形体を得た。
【0070】
次いで、得られたブロック状成形体を、電気炉中で加熱し、600℃で5時間保持して有機バインダー成分を除去した。次に、脱脂処理後のブロック状成形体を、アルミナるつぼ(ニッカトー製SSA−Sグレード)に入れて、焼結を行なった(トポタキシャル合成及び焼結・固相エピ成長)。昇降温速度は毎時200℃とし、1350℃で6時間の条件下で焼結し、本発明のイオン伝導性セラミックス(焼結体)を得た。
【0071】
得られたセラミックス焼結体の構造をX線回折により確認したところ、ぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含む表1に示す配合組成を有するぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体からなるものであることが確認された。また、焼結条件と、得られたイオン伝導性セラミックス焼結体の密度を表1に示す。なお、焼結体の密度は、直方体形状の外形寸法から焼結体の見かけ体積を求め、重量を測定してその値を見かけ体積で除して求めた。
【0072】
【表1】
【0073】
(実施例2〜4)
表1に示す得られたイオン伝導性セラミックスの配合組成及び単結晶粒子(テンプレート)の配合量となるように原料化合物(反応性混合物)の構成及び量、単結晶粒子(テンプレート)の量をそれぞれ調製して得られたテープ成形用のスラリーを用い、更に焼結の条件(熱処理温度)を表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして本発明のイオン伝導性セラミックスを作製した。
【0074】
得られたセラミックス焼結体の構造をX線回折により確認したところ、ぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含む表1に示す配合組成を有するぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体からなるものであることが確認された。また、得られたイオン伝導性セラミックス焼結体の密度を表1に示す。
【0075】
(実施例5及び実施例6)
原料化合物(反応性混合物)として原料粉末a−5、原料粉末a−2及び原料粉末a−3を、単結晶粒子(テンプレート)として調製例1で得られた板状のLaTi粉末を用いた。表1に示す得られたイオン伝導性セラミックスの配合組成及び単結晶粒子(テンプレート)の配合量となるように原料化合物(反応性混合物)の構成及び量、単結晶粒子(テンプレート)の量をそれぞれ調製し、ボールミリングで均一に混合して乾燥して得られた粉末を用い、一軸加圧成形で直径15mm、厚さ4mmの成形体を作製し、焼結の条件(熱処理温度)を表1に示す条件で焼結して本発明のイオン伝導性セラミックスを作製した。
【0076】
得られたセラミックス焼結体の構造をX線回折により確認したところ、ぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含む表1に示す配合組成を有するぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体からなるものであることが確認された。また、得られたイオン伝導性セラミックス焼結体の密度を表1に示す。
【0077】
(比較例1〜2)
単結晶粒子は用いることなく、原料化合物(反応性混合物)として調製例2で得られた原料粉末a−5を用い、更に焼結の条件(熱処理温度)を表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして比較用のセラミックスを作製した。得られた比較用セラミックス焼結体の密度を表1に示す。
【0078】
<イオン伝導率の算出>
実施例1〜6及び比較例1〜2により得られた各セラミックス焼結体のイオン伝導率(S/m)を以下のようにして測定した。すなわち、直方体試料の対向面に金電極をコーティングし、室温でインピーダンスアナライザを用いて交流インピーダンスを測定した。得られた結果を表1に示す。
【0079】
(比較例3)
La(CO粉末及びTiO粉末に代えてSrCO粉末及びNb粉末を用いた以外は調整例1と同様にして単結晶粒子(テンプレート)として板状のSrNb粉末(以下、「SN」と称する。)を得た。なお、得られたSrNb粉末は、寸法異方性を有しており、平均アスペクト比が25、広がり面の平均長さが5μm、平均厚みが0.2μm、平均幅が0.6μmである板状のSrNb粉末であることが確認された。
【0080】
次に、板状のSrNb粉末に次式(1)に従う割合で、PbO、ZrO、TiO、NiOを加え、実施例1と同様にして混合溶媒、可塑剤、バインダーを加えて混合スラリーを調整し、得られた混合スラリーを用いてドクターブレード成形を行い成形体を得た。
0.lSN+0.8PbO+0.315ZrO+0.385TiO+0.lNiO→(Pb0.8Sr0.1)(Zr0.315Ti0.385Ni0.1Nb0.1)O2.7・・・(1)
次いで、得られた成形体を用い、更に焼結の条件(熱処理温度)を表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして比較用のセラミックスを作製した。また、得られた比較用セラミックス焼結体は、インピーダンス解析においてイオン伝導の兆候は見られなかった。
【0081】
<評価結果>
表1に示した実施例1〜6の結果と比較例1〜3の結果との比較から明らかなように、寸法異方性を有する特定の単結晶粒子をテンプレートとして用いて得られた本発明のイオン伝導性セラミックス焼結体(実施例1〜6)は、いずれも非常に優れたイオン伝導性を有することが確認された。すなわち、係る単結晶粒子(テンプレート)を用いなかった比較用のセラミックス焼結体(比較例1〜2)に比べて、本発明のイオン伝導性セラミックス焼結体(実施例1〜6)は約4倍〜約16倍のイオン伝導率を示すことが確認された。
【0082】
このように、本発明のイオン伝導性セラミックスにおいては、一般式:ABOで表わされるぺロブスカイト構造のAサイトにLiを含むぺロブスカイト型化合物よりなるバルク体を含み、かつ、前記ぺロブスカイト型化合物の構成成分となる寸法異方性を有する特定の単結晶粒子をテンプレートとして用いることにより、非常に優れたイオン伝導性が発揮されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明したように、本発明によれば、優れたイオン伝導性を有するイオン伝導性セラミックスを得ることが可能となる。したがって、本発明のイオン伝導性セラミックスは、各種のイオン伝導性素子、二次電池や燃料電池等の各種電池用の固体電解質、ガスセンサ等の各種センサ等の優れたイオン伝導性が要求される固体電解質用の材料として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5