(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579342
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】2ピース構造ピストンリング
(51)【国際特許分類】
F16J 9/06 20060101AFI20190912BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
F16J9/06 Z
F02F5/00 C
F02F5/00 301E
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-522382(P2017-522382)
(86)(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公表番号】特表2017-536514(P2017-536514A)
(43)【公表日】2017年12月7日
(86)【国際出願番号】EP2015071006
(87)【国際公開番号】WO2016082955
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2018年6月5日
(31)【優先権主張番号】102014223989.3
(32)【優先日】2014年11月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509340078
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル ブルシェイド ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL BURSCHEID GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】イェルン プレパー
(72)【発明者】
【氏名】フェビアン ルーシュ
【審査官】
山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−019127(JP,A)
【文献】
実開昭51−110154(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/06
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッション型のピストンリング(1)であって、
・当接部がU字状断面により開放されると共に、前記U字状断面の開放側が半径方向内方を指向する環状本体(2)と、
・前記環状本体(2)を半径方向外方に向けて付勢すると共に、軸線方向に蛇行状に延びるリング状ばね(4)とを備え、
前記環状本体(2)内に配置されたリング状ばね(4)の部分においては、内側の蛇行状ループ(5)が、前記U字状断面における上側及び下側の肢部(3)の各内面に交互に当接することにより、肢部(3)が圧力負荷に対して軸線方向に支持され、
前記環状本体(2)から突出したリング状ばね(4)の部分においては、外側の蛇行状ループ(6)が、前記U字状断面における前記肢部(3)の半径方向内方を指向するエッジに交互に当接しており、
前記リング状ばね(4)は、波形状の蛇行形状を有し、前記内側の蛇行状ループ(5)を前記外側の蛇行状ループ(6)から分離するスロットが、蛇行状ループのそれぞれに配置されており、そして、前記リング状ばね(4)はまた、前記環状本体(2)の内側に配置されたリング状ばね(4)の部分において、スロットによって分離された追加の蛇行状ループを有している、ピストンリング。
【請求項2】
請求項1に記載のピストンリング(1)であって、前記環状本体(2)及び/又は前記U字状断面の内側が、矩形状に形成されているピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2ピース構造を備える改良型のピストンリング、特にコンプレッションリングに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンリングの機能の1つは、クランクシャフトハウジングに対して燃焼室をシールすることである。従って、このタイプのリングは、コンプレッションリング又はトップリングとも称される。トップリングを通過する燃焼ガス量とは、基本的に、いわゆるブローバイとしてエンジンから外部に流出する燃焼ガス量のことである。この場合に重要なことは、可能な限り効果的なシール性により、エンジンの圧縮比を可及的に高めてエンジンの効率化を図ることである。また、ブローバイ損失を低減すれば、ブローバイに由来する潤滑油の希釈化が最小化される。このように、ブローバイ損失を可及的に回避することが基本的に望まれる。
【0003】
ブローバイ損失の低減化を図るためには、シリンダ壁又はシリンダライナ及びピストン間におけるシール性が最適化されていなければならないが、実際には、ピストンリング及びシリンダ内側間における摩擦の可及的な低減化も併せて達成されなければならないという対照的な課題がある。従って、シリンダ摺動面に対するピストンリングの押圧力には上限がある。即ち、押圧力を高め過ぎれば過度な摩擦が生じる。ピストンリングは、リング肢部及びシリンダ摺動面の両方において、シール性を発揮するものでなければならない。
【0004】
最上側のピストンリング溝には、主として矩形状又は台形状のピストンリンが使用される。これらピストンリングにおいて、シリンダ摺動面に対する押圧力は、ピストンリングの本体が有する付勢力によって付与されるものである。しかしながら、材料厚さを増加させて付勢力を保証した場合、シリンダ摺動面における歪みに対するリングの追従性が低下する。
【0005】
材料厚さがより小さなピストンリングであれば、シリンダ摺動面における歪みに対するリングの追従性が向上するが、この場合リングの付勢力が低下するのみならず、材料厚さも低下するため、より大きな材料厚さを有するリングに比べて破損が生じ易い。破損の問題は、ほぼU字状断面を有するコンプレッションリングにおいて特に顕著であり、その理由は、厚さが比較的小さな肢部が形成されているからである。即ちこれら肢部は、一方では、溝の内面に当接し、他方では、エンジンの作動サイクル時に燃焼圧力に晒されている。これら負荷によって生じる曲げモーメントにより破損が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の課題は、2パーツ構造ピストンリングにおいて、潤滑油消費量を低減すること、即ち潤滑油掻き落とし効果を従来既知のピストンリングに比べて高めることのみならず、損傷を生じさせる負荷に対する耐性及び摩擦損失を従来既知のピストンリングに比べて少なくとも等しい値以下に維持することである。即ち、本発明の課題は、形状適合能力(半径方向におけるより大きな弾性)を有する改良型のピストンリング、特にコンプレッションリングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、ピストンリング、特にコンプレッションリングが提供される。本発明に係るピストンリングは、
・当接部がU字状断面により開放されると共に、U字状断面の開放側が半径方向内方を指向する環状本体と、
・本体を半径方向外方に向けて付勢すると共に、軸線方向に蛇行状に延びるリング状ばねとを備え、
本体内に配置されたリング状ばねの部分においては、蛇行状ループが、U字状断面の肢部に交互に当接し、
本体から突出したリング状ばねの部分においては、蛇行状ループが、U字状断面における肢部の半径方向内方を指向するエッジに交互に当接している。
【0008】
本発明の課題は、特に、中実のリングに比べて、リング内の材料が除去されることにより解決される。摺動面及び肢部又はその各表面は必要なものであるため、材料除去によりU字状断面が形成される。リング本体にU字状断面を形成すれば、リングの半径方向における可撓性が増加するが、要求される接線方向力が低下し、大きな圧力負荷に晒される上側肢部が弱体化する。また、U字状断面によってリングの剛性が低下するため、リング形状に起因する半径方向圧力も、同一寸法を有するリングにおいては低下する。これら欠点は、本発明が提供するばねの使用によって補償される。
【0009】
本発明に係るピストンリングであれば、接線方向力の低下が回避されると共に形状適合能力が高まるため、シリンダにおけるより顕著な歪みに対する追従性が向上するのみならず、摺動面におけるシール性がより効果的に保証される。リングにおける2つの肢部の壁厚又は当接面は不変であるため、依然として肢部におけるシール性が発揮される。本発明に係るリングと同様の形状適合能力を従来技術における中実のリングにおいて実現しようと思えば、接線方向力を高めるしかないが、この場合、大きな摩擦損失が生じる。
【0010】
ピストンリングの肢部と、溝の内面及びピストンリングの外側領域の接点に対しては、エンジン作動時に大きな圧力が作用するため、大きな曲げモーメントが生じる可能性がある。このような曲げモーメントは、本発明に係るピストンリングにおいて、蛇行リング状ばねを使用することによって回避される。この場合、U字状断面を有する本体内における蛇行リング状ばねの高さ、又はU字状断面を有する本体の肢部間に配置される蛇行リング状ばねの軸線方向高さにより、肢部における薄肉部分の曲げが回避される。即ち、蛇行リング状ばねにより、U字状断面を有する本体の肢部が軸線方向における負荷に対して支持される。
【0011】
以上述べた点により、本発明に係るピストンリングにおいては、従来既知のピストンリングに比べて潤滑油消費量が低減、即ち潤滑油掻き落とし効果が向上するだけでなく、摩擦損失が従来既知のピストンリングに比べて少なくとも等しい値以下に維持され、更にはリング損傷が生じ難い。
【0012】
一実施形態によれば、本体及び/又はU字状断面の内側は、矩形状に形成される。従って、ピストンリングに関して既知の製造方法が適用され得る。ただし代替的に、打ち抜き加工や曲げ加工などの新規な製造方法を適用することもできる。
【0013】
一実施形態によれば、リング状ばねは、矩形状、台形状、又は波形状に蛇行する形状を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】U字状断面を有する従来の1ピース構造ピストンリングを示す断面図である。
【
図2】本発明に係る2ピース構造ピストンリングの実施形態を示す斜視図である。
【
図3】本発明に係る2ピース構造ピストンリングの更なる実施形態を示す断面図である。
【
図4】本発明に係る2ピース構造ピストンリングに適用可能な蛇行状断面の実施形態を示す説明図である。
【
図5】本発明に係る2ピース構造ピストンリングに適用可能な蛇行状断面の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、U字状断面を有する本体2を備える従来既知の1ピース構造コンプレッションリングの断面図を示す。このリングにおける下側の肢部3は、エンジンの作動サイクル時にリング溝(図示せず)に当接している。この場合、上側の肢部3には、矢印で示すように燃焼圧力が作用する。リングの肢部は、断面がU字状に形成されているため、例えば矩形状断面を有するリングに比べて壁厚が大幅に小さく、従って図示のように肢部が曲げを生じる可能性がある。
【0016】
リングは、大きなピーク負荷及び/又はエンジン作動時における不断の曲げモーメントに起因する疲労により、例えばU字状断面における肢部への移行領域にて最終的に破損を生じる可能性がある。
【0017】
U字状断面を有する図示の1ピース構造ピストンリングは更に、同一寸法を有する矩形状リングに比べて半径方向圧力が小さいため、シリンダ摺動面に対する押圧力もより小さい。
【0018】
このような問題を解決するため、本発明においては、2ピース構造ピストンリングが提供される。
図2は、このようなピストンリングの実施形態を示す。この場合、ピストンリング1は、U字状断面を有する本体2を備える。図示の実施形態において、U字状断面における肢部の半径方向内方を指向するエッジは傾斜付けされている。代替的に、直角のエッジ又は丸み付けされたエッジ又はこれらを組み合わせたエッジとしてもよい。
【0019】
図示の実施形態において、U字状断面内には、蛇行リング状ばね4が収容されている。本体2内、即ちU字状断面の肢部間に収容されたリング状ばね4部分においては、蛇行状ループ5が、U字状断面における上側及び下側の肢部の内面に交互に当接している。これに対して、本体2から突出したリング状ばね4部分においては、蛇行状ループ6が、U字状断面における肢部3の半径方向内向きのエッジに交互に当接している。
【0020】
これにより、本発明に係る2ピース構造ピストンリングは、1ピース構造ピストンリングに対して2つの有利な特性を有する。即ち、一方では、リング状ばね4が、肢部における半径方向内方を指向するエッジに当接することによって本体2が半径方向外方に向けて押圧されるため、ピストンリングにおける半径方向押圧力を高めることができる。他方では、U字状断面内に収容されたリング状ばね4部分により、圧力負荷に対して肢部3が軸線方向に支持されるため、リングの破損を回避することができる。
【0021】
各蛇行状ループには、内側蛇行状ループ5を外側蛇行状ループ6から分離するスロットが配置されている。これらスロットは、例えば、リング状ばね4の高さ方向における外側部の3分の1の領域に配置されている。これに対して、リング状ばね4は、その高さ方向における中央部の3分の1の領域では一体的に形成されている。ばねの安定性を保証するために中央部領域が十分な大きさで一体的に形成されていれば、スロットを他の割合で配置してもよい。
【0022】
同様に、内側領域にもスロットによって分離された蛇行状ループを有する対称的なリング状ばね4を図示の態様で使用することも、任意的な手段にすぎない。ただし、リング状ばね4をこのように構成すれば、エッジにおける内側ループが機能を有していなくとも、ばねの製造が簡略化されるため望ましい場合がある。
【0023】
図2の実施形態に係るピストンリングは、ばねの構造が比較的開放されているため、好適には、コンプレッションリング又はトップリングとして使用することもできる。燃焼圧力は、開放箇所から本体の底面に特に妨げられることなく到達可能であるため、ピストンリングがシリンダ摺動面に押圧される。2ピース構造ピストンリングにおけるより中実な要素においては、燃焼ガスのこのような通過は不可能であるため、燃焼ガスを通過可能とする開放箇所には利点がある。
【0024】
図3は、ピストンリングの代替的な実施形態の断面図を示す。この場合、蛇行状ループ5を含む(より大きな)内側領域と、蛇行状ループ6を含む(より小さな)外側領域のみを備える非対称的なリング状ばね4が使用されている。
図3の断面図において、下側の各ループは、U字状断面における下側肢部に当接しているのに対して、周方向における上側の各ループ(破線参照)は、上側肢部に当接している。
【0025】
図4及び
図5は、リング状ばねにおける蛇行状ループの他の実施形態を示す。この場合、
図4には、台形状ループ(実線)及び矩形状ループ(破線)が表されている。何れの形状においても、U字状断面における当接箇所が点状又は線状である波形状ループとは異なり、当接箇所がより平坦な接触面を有する。このことは、力をより均一に分布させるために有利であり得る。更に、図示の実施形態におけるばねのループは、より急峻な形状のみならず垂直な形状に形成することもできるため、ピストンリングが曲げモーメントに対してより効果的に補強される。
【0026】
図5には、波形状ループが表されている。この場合も、急峻さ及び/又はループ数を調整すれば、支持効果を調整することができる。