特許第6579345号(P6579345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6579345α−グルコシダーゼを抑制するための組成物
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  • 特許6579345-α−グルコシダーゼを抑制するための組成物 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579345
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】α−グルコシダーゼを抑制するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/52 20060101AFI20190912BHJP
   A61K 31/401 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20190912BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190912BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190912BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   A61K31/52
   A61K31/401
   A61K31/455
   A61K31/495
   A61K31/22
   A61K35/74 G
   A61P3/10
   A61P43/00 111
   A61P43/00 121
   C12N9/99
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-39962(P2018-39962)
(22)【出願日】2018年3月6日
(65)【公開番号】特開2018-177770(P2018-177770A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2018年6月21日
(31)【優先権主張番号】106112723
(32)【優先日】2017年4月17日
(33)【優先権主張国】TW
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM 32521
(73)【特許権者】
【識別番号】517222856
【氏名又は名称】淡江大學
【氏名又は名称原語表記】Tamkang University
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】王三郎
(72)【発明者】
【氏名】グェン,ヴァン−ボン
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 International Journal of Molecular Sciences ,2017年 3月25日,Vol.18,pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 35/00−35/768
A61P 3/10
A61P 43/00
C12N 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1%のイカ軟骨のパウダーと、0.1%のKHPOと、0.05%のMgSO・7HOを含有する培養体で25℃〜37℃で3日間培養されたパエニバシラス属菌DSM 32521の上澄み液から得られる、α−グルコシダーゼを抑制するための組成物であって、前記組成物は、アデニン(Adenine)と、3−ヒトロキシ−DL−プロリン(3−hydroxy−dl−proline)と、ニコチン酸(Nicotinic acid)と、(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸アミド((3,6−dioxo−piperazin−2−yl)−acetic acid amide)と、2−エチルヘキシルヘプタン(2−ethylhexyl heptanoate)、およびその他薬学的に使用可能な塩類を含有する組成物。
【請求項2】
前記組成物は、腸中のα−グルコシダーゼを抑制することができ、糖分の消化速度を遅延させることができることを特徴とする請求項1に記載の、α−グルコシダーゼを抑制するための組成物。
【請求項3】
アデニン(Adenine)と、3−ヒトロキシ−DL−プロリン(3−hydroxy−dl−proline)と、ニコチン酸(Nicotinic acid)と、(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸アミド((3,6−dioxo−piperazin−2−yl)−acetic acid amide)と、2−エチルヘキシルヘプタン(2−ethylhexyl heptanoate)、およびその他薬学的に使用可能な塩類を含有する、α−グルコシダーゼを抑制するための組成物の製造方法であって、パエニバシラス属菌DSM 32521を、1%のイカ軟骨のパウダーと、0.1%のKHPOと、0.05%のMgSO・7HOを含有する培養体で25℃〜37℃で3日間培養し、上澄み液を得ることを特徴とする、α−グルコシダーゼを抑制するための組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第2型の糖尿病患者に応用可能する、α−グルコシダーゼを抑制するための組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、現代人によく発生する文明病であり、且つ患者の年齢は小さくなる傾向を有する。糖尿病は、一般に二種類に分けている。第1型の糖尿病は、生まれから自体の免疫性病症であり、第2型の糖尿病は、自身の飲食や生活の不正常によって発生される病症である。第2型の糖尿病の高リスク患者に対して、糖分の吸収を抑制するためにグルコシダーゼ阻害剤がよく使用されている。
【0003】
α−グルコシダーゼは、人体の小腸における上皮細胞に存在し、小腸によるブドウ糖の吸収に役に立つ。α−グルコシダーゼの異常であれば、2型糖尿病や、ポンペ病や、無精子症の発生を招いてしまう可能性がある。
【0004】
α−グルコシダーゼ阻害剤(α−glucosidase inhibitors, α−GI)は、人体の腸において炭水化物の吸収を低下することができ、α−グルコシダーゼの活性を抑えると、食事中の炭水化物の吸収を減少することにより、食事後の血糖値が降下されることを達成でき、ひいては2型の糖尿病患者の治療に対する血糖降下の薬となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、α−グルコシダーゼ阻害剤の投与後、副作用が発生してしまうことがあり、例えば、食物の消化や吸収が遅延されることにより、未消化の食物の一部が結腸にそのまま進入し、そして腸内の菌によって発酵させ、ひいてはむかつき、下痢などの胃腸不適症状が発生してしまう。
【0006】
上述の課題を解決するために、本案の発明者は、副作用の低い且つα−グルコシダーゼを抑制できる組成物が提供されることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、α−グルコシダーゼを抑制するだけではなく、使用者に対する副作用も降下できる組成物を提供することにより、糖分の消化速度を遅延させると共に、食事後の血糖値を降下し、ひいては2型の糖尿病患者の治療に対する血糖降下の薬とすることができるものである。
【0008】
上述の目的を果たすために、本発明の技術手段では、下記の成分によってα−グルコシダーゼを抑制するための組成物を製造し、その成分は、アデニン(Adenine)と、3−ヒトロキシ−DL−プロリン(3−hydroxy−dl−proline)と、ニコチン酸(Nicotinic acid)と、(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸アミド((3,6−dioxo−piperazin−2−yl)−acetic acid amide)と、2−エチルヘキシルヘプタン(2−ethylhexyl heptanoate)と、薬学的に使用可能な塩類とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係わるα−グルコシダーゼを抑制するための組成物による血糖の抑制結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の技術特徴とメリットを更に明白するために、具体的な実施例と合わせて添付図面によって詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限られていない。
【実施例1】
【0011】
本実施例は、組成物を提供し、前記組成物は、アデニン(Adenine)と、3−ヒトロキシ−DL−プロリン(3−hydroxy−dl−proline)と、ニコチン酸(Nicotinic acid)と、(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸アミド((3,6−dioxo−piperazin−2−yl)−acetic acid amide)と、2−エチルヘキシルヘプタン(2−ethylhexyl heptanoate)と、薬学的に使用可能な塩類とから構成される。前記組成物により、α−グルコシダーゼを抑制できるか否かについて実験を行う。
【0012】
その中、前記薬学的に使用可能な塩類とは、本発明の組成物に含有する有機の塩類と無機の塩類と指し、例えば、リン酸塩や、ナトリウム塩や、カリウム塩や、アンモニウム塩や、カルシウム塩や、マグネシウム塩が含まれるが、これには限らない。また、前記薬学的に使用可能な塩類とは、さらに、無毒のアンモニウムや、第四級アンモニウム塩や、イオン形成の抑制可能のアンモニウムカチオンを含み、例えば、ハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸化物、リン酸化物、硝酸化物、C 1−8スルホン酸塩、及び芳香族スルホネートが挙げられる。
【0013】
アデニン(Adenine)は、下記の化学式である。
【0014】
【化1】
【0015】
3−ヒトロキシ−DL−プロリン(3−hydroxy−dl−proline)は、下記の化学式である。
【0016】
【化2】
【0017】
ニコチン酸(Nicotinic acid)は、下記の化学式である。
【0018】
【化3】
【0019】
(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸アミド((3,6−dioxo−piperazin−2−yl)−acetic acid amide)は、下記の化学式である。
【0020】
【化4】
【0021】
2−エチルヘキシルヘプタン(2−ethylhexyl heptanoate)は、下記の化学式である。
【0022】
【化5】
【0023】
活性を抑制ための生体テスト
実験組:前記組成物を蒸留水に溶解し、小ネズミに投薬させ、その濃度は、200mg/kgであり、kgは、小ネズミの体重である。小ネズミに対する投薬の25分間後、3g/kgの蔗糖を投与し、蔗糖を投与した後の0.5時間、1時間及び2時間後に夫々採血して小ネズミの血糖値を確認する。
【0024】
制御組:実験組と等しい体積の蒸留水を投与した後の25分間後、3g/kgの蔗糖を投与し、蔗糖を投与した後の0.5時間、1時間及び2時間後に夫々採血して小ネズミの血糖値を確認する。
【0025】
図1に示すように、図面からわかるように、実験組は、蔗糖投与後の0.5時間からその血糖が抑制されることがあると共に、その抑制効果が続けて安定し、また、小ネズミに対する投与後、小ネズミは、下痢などの副作用が発生しない。
【0026】
IC50テスト
前記組成物と従来の糖尿病薬であるA(α−グルコシダーゼ阻害剤)により、大ネズミのα−グルコシダーゼ(rat α−glucosidase、Rat aGと称す)と酵母菌α−グルコシダーゼ(yeast α−glucosidase、Yeast aGと称す)に対して抑制活性Max%とIC50(50%の抑制率に所要の抑制剤濃度)の比較を行う。
【0027】
表1に示すように、前記組成物により、前記大ネズミのα−グルコシダーゼRat aGに対する最大抑制率は、89%であり、IC50は、101μg/mLであり、前記酵母菌α−グルコシダーゼYeast aGに対する最大抑制率は、98%であり、IC50は、81μg/mLであり、一方、前記糖尿病薬であるAにより、前記大ネズミのα−グルコシダーゼRat aGに対する最大抑制率は、88%であり、IC50は、107μg/mLであり、前記酵母菌α−グルコシダーゼYeast aGに対する最大抑制率は、70%であり、IC50は、1395μg/mLであり、前記組成物は、前記糖尿病薬であるAと同じような抑制活性を有し、且つ前記組成物はより低いIC50を有するので、使用上には、より低い濃度である前記組成物を使用することにより、α−グルコシダーゼの抑制効果を達成できる。
【0028】
【表1】
【実施例2】
【0029】
本実施例において、アデニン(Adenine)と、3−ヒトロキシ−DL−プロリン(3−hydroxy−dl−proline)と、ニコチン酸(Nicotinic acid)と、(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸アミド((3,6−dioxo−piperazin−2−yl)−acetic acid amide)と、2−エチルヘキシルヘプタン(2−ethylhexyl heptanoate)とから構成される組成物と、前記糖尿病薬であるAにより、大ネズミのα−グルコシダーゼRat aGと酵母菌α−グルコシダーゼYeast aGに対してそれぞれIC50の比較を行う。
【0030】
表2に示すように、前記糖尿病薬であるAにより、前記大ネズミのα−グルコシダーゼRat aGに対するIC50は、115μg/mLであり、前記酵母菌α−グルコシダーゼYeast aGに対するIC50は、1095μg/mLであり、一方、本発明の組成物におけるニコチン酸(Nicotinic acid)により、前記大ネズミのα−グルコシダーゼRat aGに対するIC50は、67μg/mLであり、(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸アミド((3,6−dioxo−piperazin−2−yl)−acetic acid amide)と2−エチルヘキシルヘプタン(2−ethylhexyl heptanoate)により、前記酵母菌α−グルコシダーゼYeast aGに対するIC50は、4.0μg/mLであり、これから分かるように、より低い濃度である前記組成物により、α−グルコシダーゼの抑制効果を達成できる。
【0031】
【表2】
【実施例3】
【0032】
本発明の前記組成物は、パエニバシラス属菌DSM 32521を25℃〜37℃で、培養体で三日間に培養した上澄み液から得られるものである。
【0033】
本実施例におけるパエニバシラス属菌DSM 32521の炭素/窒素ソースは、100mLに0.8%のNutrient brothを含有する培養体であってもよく、100mLに1%の海老頭のパウダーと、0.1%のKHPOと、0.05%のMgSO・7HOを含有する培養体であってもよく、100mLに1%のイカ軟骨のパウダーと、0.1%のKHPOと、0.05%のMgSO・7HOを含有する培養体であってもよい。
【0034】
上述のように、本発明の組成物により、腸中のα−グルコシダーゼを抑制することができ、糖分の消化速度を遅延させると共に、食事後の血糖値を降下することができる。
【0035】
上述の説明は、本発明の好適な実施例に対する具体的な説明であるが、これらの実施例は本発明における特許請求の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨に基づいてこれらの実施例の効果と等しい変形や変更して本発明を完成することができ、これらの変形や変更が本発明における特許請求の範囲に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0036】
A 糖尿病薬
Rat aG 大ネズミのグルコシダーゼ
Yeast aG 酵母菌のグルコシダーゼ
【受託番号】
【0037】
DSM 32521
図1