(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
メインフィーダと、前記メインフィーダの下流側に取り付けられたサイドフィーダとを備える混練機で、ポリアミド樹脂、フィラーおよびカルボジイミド結合を有する化合物を含有する原料樹脂を混練する工程と、
前記混練によって得られた前記原料樹脂を用いて、スリーブ部および歯形成部を含むギヤを、前記スリーブ部および前記歯形成部が一体的に成形されるように成形する工程とを含み、
前記ポリアミド樹脂が前記メインフィーダから前記混練機内に投入され、
前記カルボジイミド結合を有する化合物が前記サイドフィーダから前記混練機内に投入され、かつ前記フィラーと同時または前記フィラーの供給箇所よりも下流側で投入される、ギヤの製造方法。
【背景技術】
【0002】
たとえば、電動パワーステアリング装置は、操舵補助用の電動モータの回転を、減速機を介して減速すると共に出力を増幅して転舵機構に伝える。これにより、運転者の操作による転舵機構の動作をトルクアシストする。その減速機は、通常、互いに噛み合う小歯車としての金属製ウォームと、大歯車としての樹脂製ウォームホイールとを備えている。
ウォームホイールは、たとえば、金属製の芯金(スリーブ)の外周に、射出成形(インサート成形)等によって円環状の樹脂部材を形成後、樹脂部材の外周に切削加工等によって歯を形成することによって製造される。樹脂部材は、例えば、ポリアミド(PA6、PA66、PA46等)、ポリフェニレンサルファイト(PPS)等の樹脂を用いて形成される。
【0003】
たとえば、特許文献1は、ポリアミド66と、銅熱安定剤と、芳香族ポリカルボジイミドと、無水マレイン酸でグラフトされたEPDMゴムからなる衝撃改質剤とを含有する樹脂組成物を用いて作製された電気パワーステアリング装置用のギヤを開示している。
金属製のスリーブ部には、歯部の回り止めのためにインボリュートスプライン加工が必要であるが、これがコスト増大の要因となっている。また、近年、環境負荷軽減の要求に基づいて自動車用部品の軽量化が求められており、電動パワーステアリング装置の減速機もその例外ではない。ウォームホイールのスリーブ部は金属製であり、電動パワーステアリング装置の全重量に占める比率が高い。そのため、必要な機械的強度および剛性を保持した上で、より軽量な材料の使用が必要である。
【0004】
これに対し、近年、スリーブ部を樹脂で形成して軽量化を図る試みがなされている(たとえば、特許文献2参照)。ここで、スリーブ部には、機械的強度、剛性および寸法安定性を付与するため、ガラス繊維を充填したポリアミドが使用されている。一方、歯部には、耐摩耗性および耐クリープ性を付与するため、靭性に優れた非強化高分子量ポリアミド(ガラス繊維不含有)が使用されている。樹脂製のスリーブ部を成形機の金型にインサートし、その後、当該スリーブ部の外周に樹脂を射出することによって歯部が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スリーブ部を構成する樹脂と歯部を構成する樹脂は、互いに線膨張率が異なるため、高温または低温下での膨張・収縮率の差によって、製品としての耐衝撃性に劣り、ヒートショック割れ等が発生するおそれがある。また、膨張によってスリーブ部と歯部との間に隙間が生じ、耐久寿命が低下するおそれもある。さらに、スリーブ部および歯部を別々の射出成形工程で形成しなければならないため、製造コストが増大するという課題もある。
【0007】
これらの対策として、歯部にもスリーブ部と同じガラス繊維強化樹脂を用いることによって、歯部およびスリーブ部を一体的に成形することが考えられる。しかしながら、この場合には、歯部の摩耗が大きくなり、結果として、耐久寿命が低下することが予想される。これは、歯部中のガラス繊維が接触摺動に伴い脱落し、硬質な研磨剤のように作用し、歯部を構成する樹脂を摩耗・剥離させるためである。
【0008】
これに対し、樹脂の分子量を高くすることによって、ガラス繊維による樹脂の摩耗・剥離を抑制する手法を提案できるが、モノマーを重合して分子量を高くするには限界がある。また、予め高分子量化された樹脂にガラス繊維を混練することは、生産性の面から困難である。
そこで、本発明の目的は、スリーブ部に要求される機械的強度・剛性および寸法安定性と、歯形成部に要求される耐摩耗性とを両立できる、スリーブ部および歯形成部が同一の樹脂で形成されたギヤ
の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のギヤ(20)の製造方法は、メインフィーダ(32)と、前記メインフィーダ(32)の下流側に取り付けられたサイドフィーダ(36)とを備える混練機(27)で、ポリアミド樹脂(39)、フィラー(40)およびカルボジイミド結合を有する化合物(41)を含有する原料樹脂(26)を混練する工程と、前記混練によって得られた前記原料樹脂(26)を用いて、スリーブ部(22)および歯形成部(23)を含むギヤ(20)を、前記スリーブ部(22)および前記歯形成部(23)が一体的に成形されるように成形する工程とを含み、前記ポリアミド樹脂(39)が前記メインフィーダ(32)から前記混練機(27)内に投入され、前記カルボジイミド結合を有する化合物(41)が前記サイドフィーダ(36)から前記混練機(27)内に投入され
、かつ前記フィラー(40)と同時または前記フィラー(40)の供給箇所よりも下流側で投入される(請求項1)。
この構成によれば、ポリアミド樹脂とフィラーとの混練時および射出成形時に、カルボジイミド結合を有する化合物の作用によって、ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基(−COOH)と末端アミノ基(−NH
2)との脱水縮合反応が進行する。これにより、予め重合によって形成された複数のポリアミド樹脂の高分子鎖が連鎖的につながり、原料樹脂の分子量が高められる。そのため、フィラーによる樹脂の摩耗・剥離を抑制できるので、歯形成部に要求される耐摩耗性を達成することができる。また、原料樹脂がフィラーを含有しているので、スリーブ部に要求される機械的強度・剛性および寸法安定性を達成することもできる。これにより、割れや耐久寿命不足等の懸念が少なく、コストも低減でき、さらに金属製のスリーブ部を使用した場合に比べて軽量化を図ることもできる。
【0010】
本発明のギヤ(20)
の製造方法では、
前記原料樹脂(26)は、潤滑剤をさらに含有していてもよい(請求項2)。
潤滑剤によって、原料樹脂の分子間の滑り効果を得ることができるので、ギヤの成形時の粘度を低減することができる。そのため、原料樹脂の分子量が高くても比較的低い温度で成形できるので、成形時の樹脂の熱分解を抑制することができる。その結果、原料樹脂の分子量を高く維持したまま成形できるので、原料樹脂の機械的強度や耐摩耗性を良好に維持することができる。
【0011】
本発明のギヤ(20)
の製造方法では、前記潤滑剤が、金属石鹸であってもよい(請求項3)。
本発明のギヤ(20)
の製造方法では、
前記原料樹脂(26)は、その総量に対して15質量%〜50質量%のガラス繊維を前記フィラー(40)として含有していてもよい(請求項4)。
この範囲でガラス繊維が配合されていることによって、歯形成部の摩耗の発生因子であるガラス繊維の量を抑えながら、スリーブ部には十分な機械的強度・剛性を確保することができる。
【0012】
本発明のギヤ(20)
の製造方法では、
前記原料樹脂(26)は、6μm〜15μmの径を有するガラス繊維を前記フィラー(40)として含有していてもよい(請求項5)。
この範囲の径を有するガラス繊維を配合することによって、ガラス繊維とポリアミド樹脂との接触面積を比較的大きくできるので、スリーブ部の機械的強度および剛性を良好に向上させることができる。すなわち、より少ないガラス繊維の量でスリーブ部の機械的強度等を確保できるため、歯形成部の摩耗の発生因子であるガラス繊維の量を抑え、歯形成部の耐摩耗性を向上させることができる。また、ガラス繊維の径が小さいほど相手攻撃性が低いため、樹脂を摩耗・剥離させる影響が小さく、この点においても歯形成部の耐摩耗性を向上させることができる。
【0013】
本発明のギヤ(20)
の製造方法では、前記原料樹脂(26)の総量に対して0.5質量%〜4質量%のカルボジイミド結合を有する化合物(41)が配合されていてもよい(請求項6)。
この範囲でカルボジイミド結合を有する化合物が配合されていることによって、数平均分子量Mnが30,000以上の原料樹脂を良好に得ることができる。一方、カルボジイミド結合を有する化合物が過量でないので、混練中の樹脂圧力(粘度)の増大、発熱および当該発熱に伴う、ポリアミド樹脂およびカルボジイミドの熱分解、フィラーの集束劣化による樹脂との密着強度の低下等のリスクを軽減することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインターミディエイトシャフト5が組み込まれた電動パワーステアリング装置1の概略図である。
電動パワーステアリング装置1は、ハンドル2と一体回転可能に連結されたステアリングシャフト3、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結されたインターミディエイトシャフト5、インターミディエイトシャフト5に自在継手6を介して連結されたピニオンシャフト7、およびピニオンシャフト7のピニオン歯7aに噛み合うラック歯8aを有して、自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラックバー8を備えている。
【0016】
ピニオンシャフト7およびラックバー8によって、ラックアンドピニオン機構からなる操舵機構9が構成されている。
ラックバー8は、車体に固定されるラックハウジング10内に、図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラックバー8の両端部はラックハウジング10の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド11が結合されている。
【0017】
各タイロッド11は、図示しないナックルアームを介して対応する操向輪12に連結されている。
ハンドル2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、その回転が、ピニオン歯7aおよびラック歯8aによって自動車の左右方向に沿うラックバー8の直線運動に変換されて操向輪12の転舵が達成される。
【0018】
ステアリングシャフト3は、ハンドル2に連なる入力軸3aと、ピニオンシャフト7に連なる出力軸3bとに分割されており、両軸3a、3bはトーションバー13を介して同一の軸線上で相対回転可能に互いに連結されている。
トーションバー13には、両軸3a、3b間の相対回転変位量から操舵トルクを検出するためのトルクセンサ14が設けられており、トルクセンサ14のトルク検出結果がECU(Electric Control Unit:電子制御ユニット)15に与えられる。
【0019】
ECU15では、トルク検出結果や、図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、駆動回路16を介して操舵補助用の電動モータ17を駆動制御する。そして、電動モータ17の出力回転が、減速機18を介して減速されてピニオンシャフト7に伝達され、ラックバー8の直線運動に変換されて操舵が補助される。
減速機18は、電動モータ17により回転駆動される入力軸としてのウォームシャフト19(小歯車)と、ウォームシャフト19に噛み合うとともにステアリングシャフト3の出力軸3bに一体回転可能に連結される本発明のギヤの一例としてのウォームホイール20(大歯車)とを備えている。
【0020】
図2は、ウォームホイール20の模式的な斜視図である。
ウォームホイール20は、中心に貫通孔21を有する円環状に形成されている。貫通孔21には、ステアリングシャフト3の出力軸3b(
図1参照)が挿入される。
ウォームホイール20は、一体物の樹脂成形品で構成されており、貫通孔21から同心円状にスリーブ部22および歯形成部23を含む。スリーブ部22および歯形成部23は、互いに樹脂の連続層として形成されている。この実施形態では、スリーブ部22は、円環状の領域として定義され、歯形成部23は、スリーブ部22の周囲領域である円環状の領域として定義される。歯形成部23の外周には、周方向に沿って複数の歯24が刻まれている。ここで、2つの領域(この実施形態では、スリーブ部22と歯形成部23)が連続層を形成している構成とは、2つの領域の間に物理的な境界面がないことを意味する。たとえば、樹脂材料の相違による材料相の結晶粒界等の境界は、スリーブ部22と歯形成部23との間に存在していてもよい。一方、物理的な境界面は、たとえば、金属製または樹脂製のスリーブ部の外周に歯形成部を別途射出成形したときに、当該スリーブ部と歯形成部との間に現れることがある。なお、
図2では、明瞭化のため、スリーブ部22と歯形成部23との間に架空の境界25を示している。
【0021】
次に、ウォームホイール20の製造方法を説明する。
図3は、ウォームホイール20の製造のフロー図である。
図4は、原料樹脂26の調製に関連する工程を説明するための図である。
図5は、カルボジイミド41による脱水縮合の反応機構を示す図である。
ウォームホイール20を製造するには、まず、ウォームホイール20を構成する原料樹脂26を調製する(S1)。原料樹脂26の調製には、たとえば、
図4に示す混練機27を使用する。
【0022】
混練機27は、たとえば、本体28、タンク29、冷却水槽30およびペレタイザ31を主に備えている。
本体28は、メインフィーダ32、シリンダ33、スクリュー34およびノズル35を備え、メインフィーダ32とノズル35との間(メインフィーダ32の下流側)には、サイドフィーダ36が取り付けられている。本体28としては、特に制限されず、たとえば、二軸(多軸)押出機、一軸押出機等の公知の混練機を使用できる。
【0023】
タンク29の上流側には、攪拌機37が備えられている。攪拌機37で混合された原料は、タンク29およびその下流側のベルト式重量計38を介して、本体28のメインフィーダ32に供給される。
そして、原料樹脂26を調製するには、まず、ポリアミド樹脂39および任意の添加剤を、共通の投入箇所としてのメインフィーダ32を介してシリンダ33に供給する。ポリアミド樹脂39および任意の添加剤は、それぞれ単体でタンク29に投入して供給してもよいし、攪拌機37で混合(ドライブレンド、マスターバッチ化)してから供給してもよい。
【0024】
ポリアミド樹脂39としては、たとえば、脂肪族ポリアミド(PA6、PA66、PA12、PA612、PA610、PA11等)、芳香族ポリアミド(PA6T、PA9T、PPA)等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、脂肪族ポリアミドを使用し、さらに好ましくは、ポリアミド66(PA66)を使用する。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。使用するポリアミド樹脂の数平均分子量Mnは、たとえば、15,000〜25,000であってもよい。また、メインフィーダ32に投入するベース樹脂は、ポリアミド樹脂39の他、たとえば、熱可塑性エラストマー(酸変性されたエチレン系エラストマー、EGMA、EPDM、ポリアミドエラストマー等)を含んでいてもよい。熱可塑性エラストマーを配合することで、耐衝撃性の向上を図ることができる。
【0025】
また、ポリアミド樹脂39の配合割合は、たとえば、原料樹脂26の調製に使用する材料の総量に対して45質量%〜90質量%であってもよい。
また、任意の添加剤としては、好ましくは、潤滑剤を配合する。潤滑剤によって、原料樹脂26の分子間の滑り効果を得ることができるので、ウォームホイール20の成形時の粘度を低減することができる。そのため、原料樹脂26の分子量が高くても比較的低い温度で成形できるので、成形時の樹脂の熱分解を抑制することができる。その結果、原料樹脂26の分子量を高く維持したまま成形できるので、原料樹脂26の機械的強度や耐摩耗性を良好に維持することができる。
【0026】
潤滑剤としては、ウォームホイール20を成形するときの原料樹脂26の粘度を低減できるものであれば特に制限されない。たとえば、ステアリン酸金属塩等の金属石鹸系、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックス等の炭化水素系、ステアリン酸等の脂肪酸系、ステアリルアルコール等の高級アルコール系、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の脂肪族アミド系、アルコールの脂肪酸エステル等のエステル系、シリコーン系化合物等、公知の潤滑剤を使用できる。これらのうち、好ましくは、金属石鹸系を使用し、さらに好ましくは、ステアリン酸金属塩を使用する。潤滑剤を配合する場合の配合割合は、たとえば、原料樹脂26の調製に使用する材料の総量に対して0.01質量%〜1質量%であってもよい。
【0027】
そして、シリンダ33に供給されたポリアミド樹脂39、および必要により加えた添加剤を、スクリュー34の回転によって混練する。混練条件は、たとえば、シリンダ33の温度が275℃〜325℃であり、スクリュー34の回転速度が100rpm〜500rpmであってもよい。
次に、フィラー40およびカルボジイミド結合を有する化合物(以下、単に「カルボジイミド」という)41を、共通の投入箇所としてのサイドフィーダ36を介して、シリンダ33に同時に供給する。
【0028】
使用するフィラー40としては、たとえば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セルロース系繊維等の短繊維状のフィラーや、ガラスフレーク等の板状のフィラー、あるいはカーボンナノチューブやカーボンナノファイバ等の微細強化が可能なフィラー等の1種または2種以上が挙げられる。これらのうち、好ましくは、短繊維状のフィラーを使用し、さらに好ましくは、ガラス繊維を使用し、とりわけ好ましくは、扁平形状のガラス繊維を使用する。扁平形状のガラス繊維を使用することによって、歯形成部23の歯切り後の面粗さを低減することができる。
【0029】
ガラス繊維を使用する場合、当該ガラス繊維は、6μm〜15μmの径を有していることが好ましい。この範囲の径を有するガラス繊維を配合することによって、原料樹脂26においてガラス繊維とポリアミド樹脂との接触面積を比較的大きくできるので、ウォームホイール20を成形したときに、スリーブ部22の機械的強度および剛性を良好に向上させることができる。すなわち、より少ないガラス繊維の量でスリーブ部22の機械的強度等を確保できるため、歯形成部23の摩耗の発生因子であるガラス繊維の量を抑え、耐摩耗性を向上させることができる。また、ガラス繊維の径が小さいほど相手攻撃性が低いため、樹脂を摩耗・剥離させる影響が小さく、この点においても耐摩耗性を向上させることができる。さらに、ガラス繊維の相手攻撃性が低くなれば、ウォームホイール20に噛み合うウォームシャフト19への影響も小さくできるので、ウォームシャフト19に対する硬化処理(たとえば、焼き入れ等の熱処理)の時間を短縮することもできる。
【0030】
また、フィラー40(ガラス繊維)の配合割合は、たとえば、原料樹脂26の調製に使用する材料の総量に対して15質量%〜50質量%、好ましくは、25質量%〜50質量%であってもよい。この範囲でガラス繊維を配合することによって、歯形成部23の摩耗の発生因子であるガラス繊維の量を抑えながら、スリーブ部22には十分な機械的強度を確保することができる。
【0031】
使用するカルボジイミド41としては、カルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物であれば特に制限されず、カルボジイミド基を1つ有するモノカルボジイミドであってもよいし、カルボジイミド基を複数有するポリカルボジイミドであってもよい。また、脂肪族系カルボジイミド、芳香族系カルボジイミド、カルボジイミド変性体等のあらゆる種類のカルボジイミドを使用できる。これらのうち、好ましくは、脂肪族カルボジイミドが挙げられ、その具体的な市販品としては、たとえば、日清紡ケミカル社製(カルボジライト(登録商標)「HMV−15CA」)が挙げられる。
【0032】
また、カルボジイミド41の配合割合は、たとえば、原料樹脂26の調製に使用する材料の総量に対して0.5質量%〜4質量%であってもよい。この範囲でカルボジイミド41を配合することによって、数平均分子量Mnが30,000以上の原料樹脂26を良好に得ることができる。一方、カルボジイミド41が過量でないので、混練中の樹脂圧力(粘度)の増大、発熱および当該発熱に伴う、ポリアミド樹脂39およびカルボジイミド41の熱分解、フィラー40の集束劣化による樹脂との密着強度の低下等のリスクを軽減することもできる。
【0033】
また、カルボジイミド41は、カルボジイミド41が粉末の場合には、たとえば、サイドフィーダ36から単体で供給してもよいし、ポリアミド樹脂と混合(ドライブレンド、マスターバッチ化)してから供給してもよい。
そして、シリンダ33内を移送中のポリアミド樹脂39および必要により加えた添加剤からなる混練物に、フィラー40およびカルボジイミド41が加えられ、さらに混練する。カルボジイミド41の供給から当該混練物をノズル35から射出するまでの時間(カルボジイミド41の混練時間)は、たとえば、1秒間〜1分間であってもよい。したがって、サイドフィーダ36のノズル35からの距離は、当該混練時間を目安に設定すればよい。
【0034】
カルボジイミド41の供給後、混練物をストランド状の原料樹脂26としてノズル35から射出し、冷却水槽30で冷却固化した後、ペレタイザ31でペレット化する。以上の工程を経て、フィラー40が分散したポリアミド樹脂39からなる原料樹脂26が得られる。
ウォームホイール20の製造に関して、次の工程は、スリーブ部22および歯形成部23の一体成形である(
図3のS2)。この工程では、図示しない金型を準備し、この金型内に、
図4の工程で得られた原料樹脂26(ペレット)を溶融させて射出する。金型は、複数のウォームホイール20が円筒状に連なった円筒構造物になるように成形する型を有していてもよい。その後、一定時間冷却して原料樹脂26を固化させた後、一体成形されたウォームホイール20の円筒構造物を金型から取り出す。そして、当該円筒構造物から円板状のウォームホイール20を一つずつ切り出す。
【0035】
最後に、ウォームホイール20の歯形成部23の歯切り(歯24を形成)を行って(S3)、
図2に示すウォームホイール20が得られる。
以上の方法によれば、ポリアミド樹脂39とフィラー40との混練途中(ポリアミド樹脂39とフィラー40との混練開始時)でカルボジイミド41を供給することによって、混練時および射出成形時に、カルボジイミド41の作用によって、
図5に示すように、ポリアミド樹脂39(
図5では、ポリアミド66)の末端カルボキシル基(−COOH)と末端アミノ基(−NH
2)との脱水縮合反応を進行させることができる。これにより、予め重合によって形成された複数のポリアミド樹脂39の高分子鎖を、連鎖的につなげることができ、樹脂の分子量を高めることができる。たとえば、当該反応後の原料樹脂26の数平均分子量Mnを、30,000以上にまで高めることができる。
【0036】
しかも、カルボジイミド41は混練の途中で供給されるので、脱水縮合反応が過大になることによるポリアミド樹脂39の分解を抑制することができる。そのため、ポリアミド樹脂39の分子量を、従来にはないレベルにまで高めることができる。
また、カルボジイミド41が供給されるまでは、ポリアミド樹脂39は連鎖反応しておらず分子量も高くない状態(たとえば、Mn=20,000程度)である。この状態ではポリアミド樹脂39の粘度も比較的低いので、このポリアミド樹脂39とフィラー40とを混練することによって、フィラー40をポリアミド樹脂39全体に良好に分散させることができる。
【0037】
その結果、スリーブ部22に要求される機械的強度・剛性および寸法安定性を確保することができる。また、樹脂の数平均分子量Mnが、30,000以上であって亀裂の進展抵抗力に優れるため、フィラー40による樹脂の摩耗・剥離によって亀裂が生じても、その亀裂が進展する速度を小さくできる。その結果、歯形成部23の摩耗量を低減できるので、歯形成部23に要求される耐摩耗性も達成することができる。これにより、割れや耐久寿命不足等の懸念が少なく、コストも低減でき、さらに金属製のスリーブ部を使用した場合に比べて軽量化を図ることもできる。
【0038】
また、ウォームホイール20の芯間距離の変化量の増大を抑制できるので、当該変化量増大によるラトル音の発生を防止でき、耐久寿命を向上させることができる。特に、ウォームホイール20に関しては、将来的に小型化が進められると、今まで以上に減速比が落ちてウォームホイール20の大きなトルクがかかることがある。そのような大きなトルクに対して耐摩耗性が低いとウォームホイール20の耐久寿命が短くなるが、この実施形態のように優れた耐摩耗性を達成できるウォームホイール20では、小型・高出力化を狙った将来の用途にも十分適応することができる。
【0039】
また、ポリアミド樹脂39、フィラー40およびカルボジイミド41を本体28に同時に供給して混練を開始する場合、あるいはポリアミド樹脂39およびカルボジイミド41を同時に、混練機27のメインフィーダ32(最初)から投入して混練を開始する場合に比べて、本体28のトルクオーバー、発熱、ストランドちぎれ等の発生を低減することができる。その結果、ウォームホイール20を安定的に生産することができる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は他の形態で実施することもできる。
たとえば、本発明は、前述のウォームホイール20以外の各種ギヤに適用することもできる。
また、本体28は、
図6に示すように、サイドフィーダ36を二つ備えていてもよい。たとえば、サイドフィーダ36は、第1サイドフィーダ36aと、第1サイドフィーダ36aよりも下流側の第2サイドフィーダ36bとを含んでいてもよい。この場合、メインフィーダ32からポリアミド樹脂39の単体を供給し、第1サイドフィーダ36aからフィラー40を供給し、第2サイドフィーダ36bからカルボジイミド41を供給してもよい。
【0041】
さらに、カルボジイミド41は、サイドフィーダ36から供給しなくてもよく、また、ポリアミド樹脂39とフィラー40との混練途中に供給しなくてよい。たとえば、ポリアミド樹脂39と混合してメインフィーダ32から供給してもよい。これによっても、本発明の作用効果を達成することはできる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例および参考例等に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
<実施例1>
図4で示した構成の混練機27において、旭化成ケミカルズ株式会社製のポリアミド66(「1402S」数平均分子量Mn=23,000)を64.7質量%、日東紡績株式会社製のガラス繊維(「CS3PE−455S」)を33.3質量%、および日清紡ケミカル株式会社製のカルボジイミド(カルボジライト(登録商標)「HMV−15CA」)を2質量%の割合で混練し、原料樹脂を得た。そして、その原料樹脂を用いて試験用サンプルを成形した。なお、ポリアミド66をメインフィーダ32に投入し、ガラス繊維およびカルボジイミドはサイドフィーダ36に投入した。
<参考例1>
数平均分子量Mn=27,000のポリアミド66を使用したこと、ガラス繊維を15質量%にしたこと、およびカルボジイミドを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で試験用サンプルを作製した。
<参考例2>
カルボジイミドを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で試験用サンプルを作製した。
<市販品1>
旭化成ケミカルズ社製のポリアミド66(レオナ(登録商標)非強化グレード「1502S」)を用いて試験用サンプルを成形した。ガラス繊維およびカルボジイミドは添加しなかった。
<市販品2>
デュポン社製のポリアミド66(ザイテル(登録商標)「E51HSB NC010」)を用いて試験用サンプルを成形した。ガラス繊維およびカルボジイミドは添加しなかった。
<市販品3>
市販品1に、ラインケミージャパン株式会社製の芳香族カルボジイミド(「スタバックゾール(登録商標)P400」)を1質量%添加して試験用サンプルを成形した。ガラス繊維は添加しなかった。
<評価試験>
(1)数平均分子量Mn
参考例2を除く試験用サンプルについて、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって数平均分子量Mnを測定した。結果を
図7に示す。
図7の実施例1と参考例1の比較から、ポリアミド66とカルボジイミドとを混練することによって、30,000以上の数平均分子量Mnを達成できることが分かった。さらに、実施例1と市販品1,2との比較から、カルボジイミドをサイドフィーダ36に投入することで、一般的な市販品1,2では達成し得ないレベルにまで分子量が高まっていることが分かった。
(2)引張強度
実施例1、参考例1および参考例2について、JIS K 7161に準拠して引張強度を測定した。結果を
図8に示す。
図8から、カルボジイミドを投入しても(実施例1)、カルボジイミドを添加しない場合(参考例2)と同等の優れた引張強度(機械的強度)を達成できることが分かった。
(3)摩擦摩耗試験
実施例1、参考例1,2および市販品1,3について、鈴木式摩擦摩耗試験を実施し、摩耗重量(g)を測定した。結果を
図9および
図10に示す。なお、試験の条件は、次の通りとした。
【0043】
・4点金属ころ−樹脂リングによる摺動
・グリース潤滑
・試験温度:RT
・駆動−停止による断続接触
図9から、カルボジイミドによって高分子量化された実施例1では、カルボジイミドを添加していない参考例1および2に比べて耐摩耗性に優れていることが分かった。
【0044】
また、
図10からは、非強化高分子量グレードのポリアミド66にカルボジイミドを添加しても、耐摩耗性の向上効果は得られないことが分かった。これは、グリース潤滑下の高面圧摺動下では、摩耗がほとんど発生せず、クリープ変形が主体であり、高分子量化による摩耗改善効果が発現しないためである。