(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やプリンタ等の定着ローラ等の測定対象物から輻射により放射される赤外線を非接触で検出して測定対象物の温度を測定する温度センサとして、サーミスタが使用されている。このようなサーミスタで定着ローラ等の温度を測定する場合、定着ローラ等が加熱して異常温度に達した際に装置を停止させる必要があるため、サーミスタで検知した温度から定着ローラ等の高温異常を検出する異常温度検出回路が装置に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、非接触温度センサにおいて温度検出回路と比較演算回路とを用いた技術が記載されている。すなわち、これらの回路では、温度補償用感熱素子と赤外線検知用感熱素子との差動出力に基づいて周囲の温度の影響を相殺した定着ローラの表面温度の出力信号ΔTを得ると共に、出力信号ΔTと温度設定回路のしきい値とを比較演算することで、定着装置の温度制御を行っている。また、特許文献1では、他の方法として、マイクロコンピュータを用いたデジタル方式の温度制御回路を用いて定着ローラの表面温度を検出し、定着温度制御を行う技術も記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
従来、温度設定回路で固定された一定のしきい値を設定して高温異常を判定しているが、この場合、サーミスタの抵抗−温度特性が非線形であるため、異常温度を判定して定着ローラ等を停止することができる温度範囲が狭いという不都合があった。例えば、
図7に示すように、抵抗R15と抵抗R16とによって一定のしきい値電圧V
THRを設定した異常温度検出回路の場合について説明する。この回路は、検知用サーミスタR7の出力電圧V
DET(検出温度T
DETに対応)と補償用サーミスタR2の出力電圧V
REF(補償温度T
REFに対応)とから算出される差動電圧V
DIFを出力する温度検出回路と、差動電圧V
DIFと一定のしきい値電圧V
THRとを比較して定着ローラの加熱又は加熱停止を指示する信号出力V
COMを出力する比較演算回路とから構成されている。
この回路例では、
図8に示すように、検知用サーミスタR7の出力電圧V
DETと補償用サーミスタR2の出力電圧V
REFとから算出される差動電圧V
DIFの補償温度−出力電圧特性(対象物温度T
BB(黒体温度):260℃)に対して、「V
DIF−V
THR<0」のときに定着ローラの加熱をOFFにするように設定すると、補償用サーミスタR2による補償温度40℃以下の領域では、差動電圧V
DIFがしきい値電圧V
THRを上回ってしまうために、異常温度を判定できず、定着ローラの加熱をOFFにできない問題があった。すなわち、従来の回路では、周囲温度(補償温度)がまだ高くない状態で定着ローラが異常高温になった場合、高温異常を検出することができなかった。
なお、マイコン制御を使用する場合は各補償温度でしきい値を細かく設定できるが、高コストになってしまう不都合があった。また、マイコン制御による異常温度検出は、熱暴走により動作しない場合があるため避けることが望ましい。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、マイコン制御を使用せずに、より広い温度範囲で定着ローラ等の高温異常を精度良く検出する異常温度検出回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る異常温度検出回路は、検知用サーミスタと補償用サーミスタとを有して前記検知用サーミスタの出力と前記補償用サーミスタの出力との差動出力を検出する差動出力検出回路部と、前記検知用サーミスタが検知した温度が異常温度であると判定する判定用しきい値を前記補償用サーミスタの出力に基づいて変えて出力するアナログ回路であるしきい値設定回路部と、前記差動出力が、出力された前記判定用しきい値より低い場合に、異常温度検出信号を出力する異常温度判定回路部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明の異常温度検出回路では、検知用サーミスタが検知した温度が異常温度であると判定する判定用しきい値を補償用サーミスタの出力に基づいて変えて出力するアナログ回路であるしきい値設定回路部と、差動出力が、出力された判定用しきい値より低い場合に、異常温度検出信号を出力する異常温度判定回路部とを備えているので、判定用しきい値の設定に補償温度出力を用いることで、サーミスタの抵抗−温度特性の非線形性に対応して判定用しきい値が変化し、従来よりも広い温度範囲で異常温度を簡易な回路により高精度に検出することができる。
【0009】
第2の発明に係る異常温度検出回路は、第1の発明において、前記しきい値設定回路部が、前記補償用サーミスタの出力で得られる補償温度が所定の温度より低い際に、前記補償用サーミスタの出力に伴って前記判定用しきい値を変動させ、前記補償用サーミスタの出力で得られる補償温度が所定の温度より高い際に、前記判定用しきい値を一定の固定値に設定することを特徴とする。
すなわち、この異常温度検出回路では、しきい値設定回路部が、補償用サーミスタの出力で得られる補償温度が所定の温度より低い際に、補償用サーミスタの出力に伴って判定用しきい値を変動させ、補償用サーミスタの出力で得られる補償温度が所定の温度より高い際に、判定用しきい値を一定の固定値に設定するので、サーミスタの抵抗−温度特性の非線形性に合わせて判定用しきい値を変動領域と一定領域とに分けて、簡易な回路構成により高精度な高温異常検出が可能になる。
【0010】
第3の発明に係る異常温度検出回路は、第1又は第2の発明において、前記しきい値設定回路部が、2つの抵抗で構成される分圧回路によって前記補償用サーミスタの出力の入力レベルを調整可能であることを特徴とする。
すなわち、この異常温度検出回路では、しきい値設定回路部が、2つの抵抗で構成される分圧回路によって補償用サーミスタの出力の入力レベルを調整可能であるので、2つの抵抗の抵抗比に基づいて、補償用サーミスタ電圧の依存部分のしきい値電圧を簡易に変更可能である。
【0011】
第4の発明に係る異常温度検出回路は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記検知用サーミスタが、画像形成装置の定着ローラの温度を測定する温度センサであることを特徴とする。
すなわち、この異常温度検出回路では、検知用サーミスタが、画像形成装置の定着ローラの温度を測定する温度センサであるので、広い温度範囲で定着ローラの高温異常を検知して加熱を停止させることが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る異常温度検出回路によれば、検知用サーミスタが検知した温度が異常温度であると判定する判定用しきい値を補償用サーミスタの出力に基づいて変えて出力するアナログ回路であるしきい値設定回路部と、出力された差動電圧が、出力された判定用しきい値より低い場合に、異常温度検出信号を出力する異常温度判定回路部とを備えているので、サーミスタの抵抗−温度特性の非線形性に対応して判定用しきい値が変化し、従来よりも広い温度範囲で異常温度を高精度に検出することができる。
特に、検知用サーミスタを、画像形成装置の定着ローラの温度を測定する温度センサとすることで、広い温度範囲で定着ローラの高温異常を検知して加熱を停止させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る異常温度検出回路の一実施形態を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態において、異常温度検出回路を示す回路図である。
【
図3】本実施形態において、補償温度に対するしきい値電圧と差動電圧との関係を示すグラフである。
【
図4】本実施形態において、抵抗R15と抵抗R16との抵抗比を変えた場合の補償温度に対するしきい値電圧を示すグラフである。
【
図5】本実施形態において、抵抗R10と抵抗R13との抵抗比を変えた場合の補償温度に対するしきい値電圧を示すグラフである。
【
図6】本実施形態において、複数の対象物温度T
BBについて補償温度に対する差動電圧及びしきい値電圧を示すグラフである。
【
図7】本発明に係る異常温度検出回路の参考例を示す回路図である。
【
図8】本発明に係る参考例において、補償温度に対するしきい値電圧と差動電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る異常温度検出回路の一実施形態を、
図1から
図5を参照しながら説明する。
【0015】
本実施形態の異常温度検出回路1は、画像形成装置の定着ローラの高温異常を検出する回路であって、
図1及び
図2に示すように、検知用サーミスタR7と補償用サーミスタR2とを有し検知用サーミスタR7の出力と補償用サーミスタR2の出力との差動出力(差動電圧V
DIF)を検出する差動出力検出回路部C1と、検知用サーミスタR7が検知した温度が異常温度であると判定する判定用しきい値V
THRを補償用サーミスタR2の出力(補償用サーミスタ電圧V
REF)に基づいて変えて出力するアナログ回路であるしきい値設定回路部C2と、差動出力が、出力された判定用しきい値V
THRより低い場合に、異常温度検出信号(信号出力V
COM)を出力する異常温度判定回路部C3とを備えている。
【0016】
また、しきい値設定回路部C2は、補償用サーミスタR2の出力で得られる補償温度が所定の温度より低い際に、補償用サーミスタR2の出力に伴って判定用しきい値V
THRを変動させ、補償用サーミスタR2の出力で得られる補償温度が所定の温度より高い際に、判定用しきい値V
THRを一定の固定値に設定する演算機能を有している。
【0017】
上記検知用サーミスタR7は、赤外線を受光して温度を検出可能な非接触温度センサであり、測定対象物の定着ローラに対向配置され、定着ローラからの赤外線を受光して定着ローラの温度を測定可能になっている。また、補償用サーミスタR2は、検知用サーミスタR7と同構造であるが、定着ローラからの赤外線を遮断して周囲温度(補償温度)の検出が可能になっている。
なお、検知用サーミスタR7及び補償用サーミスタR2は、NTCサーミスタ素子である。
【0018】
上記差動出力検出回路部C1は、検知用サーミスタR7と補償用サーミスタR2と抵抗R1と抵抗R6と抵抗R12とにより構成されたブリッジ回路部B1と、ブリッジ回路部B1による補償用サーミスタ電圧V
REFが入力され増幅率が1で補償用サーミスタ電圧V
REFを出力するバッファ部B2と、バッファ部B2を経由した補償用サーミスタ電圧V
REFが入力されると共に検知用サーミスタ電圧V
DETが直接入力されこれらの差分(V
DET−V
REF)を増幅し差動出力として差動電圧V
DIFを出力する差動増幅部B3とを備えている。
【0019】
上記バッファ部B2は、補償用サーミスタ電圧V
REFの出力抵抗を小さくするためのインピーダンス変換回路である。
上記差動電圧V
DIFの増幅率は、抵抗R3/抵抗R5に依存する。
【0020】
上記しきい値設定回路部C2は、バッファ部B2から出力された補償用サーミスタ電圧V
REFが入力され判定用しきい値V
THRを演算する回路であり、補償用サーミスタ電圧V
REFを分圧して判定用しきい値V
THRのうち補償用サーミスタ電圧V
REFの依存部分(
図3の左側の曲線部分)を決める第1演算部E1と、入力側が低いときに電流を流さず判定用しきい値V
THR=一定値(
図3の右側の水平部分)とし、入力側が高ければ補償用サーミスタ電圧V
REFの依存部分(
図3の左側の曲線部分)の電圧を出力するダイオードD3である第3演算部E3と、第1演算部E1と第3演算部E3との間に設けられダイオードD3の温度依存性を補償する第2演算部E2と、判定用しきい値V
THRを抵抗R15/抵抗R16で分圧して判定用しきい値V
THRの一定部分(
図3の右側の水平部分)を求める第4演算部E4とを備えている。
【0021】
上記第2演算部E2は、ダイオードD3の順方向電圧降下に温度依存性があるためダイオードD3と温度結合された同一パッケージ内のダイオードD2を用いてダイオードD3の温度依存性を補償する回路である。
なお、上記第3演算部E3では、ダイオードであるため差分が0Vから電流が流れるわけではなく、入力側が電圧降下分(例えば、0.7V程度)高くないと電流が流れない。この電圧降下分(例えば、0.7V程度)は温度依存性があり、温度によって例えば0.6Vなどしきい値が異なってしまう。そのため、第2演算部E2で補正を行っている。
【0022】
第3演算部E3のダイオードD3では、補償用サーミスタ電圧V
REFに依存してON又はOFF状態となる。すなわち、ダイオードD3がONの場合は、補償用サーミスタ電圧V
REFに依存した電圧値が判定用しきい値V
THRとして出力され、ダイオードD3がオフの場合は、抵抗R15/抵抗R16に依存した一定の電圧値が判定用しきい値V
THRとして出力される。
【0023】
上記第1演算部E1では、抵抗R10/抵抗R13により、第2演算部E2への補償用サーミスタ電圧V
REFの入力レベルが調整可能になっている。すなわち、しきい値設定回路部C2は、2つの抵抗R10,R13で構成される分圧回路によって補償用サーミスタR2の出力の第2演算部E2に対する入力レベルを調整可能である。
【0024】
上記異常温度判定回路部C3は、差動電圧V
DIFと判定用しきい値V
THRとの大小に応じた加熱を制御する信号出力V
COMを出力する機能を有している。
すなわち、この異常温度判定回路部C3では、V
DIF−V
THRについてその大小に応じた固定値である信号出力V
COMを出力する比較演算部であり、V
DIF−V
THR>0の場合、加熱を指示する信号出力V
COM(例えば、3.3V)を出力し、V
DIF−V
THR<0の場合、加熱停止を指示する信号出力V
COM(例えば、−3.3V)を出力する。
【0025】
本実施形態の異常温度検出回路1では、例えば
図3に示すように、検知用サーミスタR7の検出温度T
DETと補償用サーミスタR2の検出温度T
REFとから算出される差動電圧V
DIFの補償温度−出力電圧特性(対象物(定着ローラ)温度T
BB(黒体温度):260℃)に対して、「V
DIF−V
THR<0」のときに定着ローラの加熱をOFFにするように設定する。この際、本実施形態の場合、従来の回路では対応できていなかった補償温度40℃から約20℃までの温度範囲で、定着ローラの加熱をOFFにすることができることがわかる。
【0026】
また、本実施形態では、第4演算部E4の抵抗R15と抵抗R16との定数を変えることで、しきい値レベルを調整することが可能である。例えば、
図4に示すように、抵抗値一定の抵抗R15に対して抵抗R16の抵抗値を変えることで、判定用しきい値V
THRの一定部分(
図4の右側の水平部分)のレベルを変更可能である。
【0027】
さらに、本実施形態では、第1演算部E1の抵抗R10と抵抗R13との定数を変えることで、第2演算部E2への補償用サーミスタ電圧V
REFの入力レベルが調整可能になっている。例えば、
図5に示すように、抵抗値一定の抵抗R13に対して抵抗R10の抵抗値を変えると、抵抗R10と抵抗R13との抵抗比による分圧によってダイオードD3の両端電圧が変化し、ダイオードD3がOFFとなる範囲が変化することで、補償用サーミスタ電圧V
REFの依存部分(
図5の左側の曲線部分)のしきい値電圧を変更可能である。すなわち、本実施形態の異常温度検出回路1では、上記依存部分から一定部分に切り替わる上記所定の温度となる補償温度を、約50℃〜約70℃の範囲に変更することができる。
【0028】
これらの調整によって、例えば、対象物(定着ローラ)温度T
BB(黒体温度)が200℃〜320℃までの差動電圧V
DIFの補償温度−出力電圧特性に対して、
図6に示すように判定用しきい値V
THR−補償温度特性を設定することで、補償温度約20℃〜130℃の広い範囲において、対象物温度T
BBが240℃では高温異常と判定せずに、260℃以上となった場合に高温異常と判定する高精度な判定を行うことができる。なお、
図6は、補償温度T
REFを変化させた場合の応答(検知用サーミスタ電圧V
DET−補償用サーミスタ電圧V
REF)から算出される差動電圧V
DIF値を、対象物温度T
BBを変えてプロットしたグラフであり、設定した判定しきい値V
THR の曲線も破線で示している。
【0029】
このように本実施形態の異常温度検出回路1では、検知用サーミスタR7が検知した温度が異常温度であると判定する判定用しきい値V
THRを補償用サーミスタR2の出力に基づいて出力するしきい値設定回路部C2と、差動出力V
DIFが、出力された判定用しきい値V
THRより低い場合に、異常温度検出の信号V
COMを出力する異常温度判定回路部C3とを備えているので、判定用しきい値V
THRの設定に補償温度出力V
REFを用いることで、サーミスタの抵抗−温度特性の非線形性に対応して判定用しきい値V
THRが変化し、従来よりも広い温度範囲で異常温度を高精度に検出することができる。
【0030】
また、しきい値設定回路部C2が、補償用サーミスタR2の出力で得られる補償温度が所定の温度より低い際に、補償用サーミスタR2の出力に伴って判定用しきい値V
THRを変動させ、補償用サーミスタR2の出力で得られる補償温度が所定の温度より高い際に、判定用しきい値V
THRを一定の固定値に設定する演算部を有しているので、サーミスタの抵抗−温度特性の非線形性に合わせて判定用しきい値V
THRを変動領域と一定領域とに分けて、簡易な回路構成で高精度な高温異常検出が可能になる。
【0031】
さらに、しきい値設定回路部C2が、2つの抵抗R10,R13で構成される分圧回路によって補償用サーミスタR2の出力の入力レベルを調整可能であるので、2つの抵抗R10,R13の抵抗比に基づいて、補償用サーミスタ電圧V
REFの依存部分のしきい値電圧V
THRを簡易に変更可能である。
【0032】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。