(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、前記通気部材は、前記通気膜を前記嵌合方向と交差する方向に向けた状態で保持する保持部と、前記保持部から延出して前記封止空間と連通し、延出方向と交差する断面積が前記通気膜より小さい筒状通気部とを備えていてもよい。この構成によれば、通気膜が封止空間から離れた位置に配置されていても、筒状通気部を通すことにより、封止空間内と雌側ハウジングの外部との間で空気を流動させることができる。また、筒状通気部の断面積は通気膜より小さいので、狭い部位に筒状通気部を配置することができる。
【0010】
本発明は、前記筒状通気部が、前記嵌合方向と略平行に延出した形態であり、前記通気膜の中心から偏心した位置に配されていてもよい。この構成によれば、両ハウジングの嵌合方向と直交する仮想投影面において、筒状通気部をフード部の内側に配置することができる。
【0011】
本発明は、前記雌側ハウジングには、前記封止空間と前記筒状通気部を連通させる通気孔が形成されていてもよい。この構成によれば、筒状通気部の長さを短くして通気部材の小型化を図ることができる。
【0012】
本発明は、前記雌側ハウジングには、前記複数のキャビティと対応する複数のシール孔が貫通して形成された一括ゴム栓が設けられており、前記筒状通気部が、前記一括ゴム栓を気密状に貫通した状態で設けられていてもよい。この構成によれば、筒状通気部を一括ゴム栓の弾力によって取付け状態に保持することができる。
【0013】
本発明は、前記通気部材が、前記雌側ハウジングの背面において露出する形態で設けられており、前記雌側ハウジングには、前記背面を覆う電線カバーが取り付けられていてもよい。この構成によれば、電線カバーにより、通気部材に異物が干渉することを電線カバーによって防止できる。
【0014】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を
図1〜
図6を参照して説明する。尚、以下の説明において、前後の方向については、
図1〜3における左方を前方と定義する。上下の方向については、
図1〜3にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。
【0015】
本実施例1の防水コネクタAは、雄側コネクタ10と雌側コネクタ20とを備えている。雄側コネクタ10は、合成樹脂製の雄側ハウジング11と、雄側ハウジング11に取り付けた複数の雄端子金具(図示省略)とを備えている。雄側ハウジング11と雌側ハウジング21を嵌合した状態では、後述するシールリング31と一括ゴム栓28により、両ハウジング11,21の隙間及び雌側ハウジング21の内部に、防水コネクタAの外部から気密状に隔絶された封止空間Sが構成される。雄側ハウジング11は、
図1,3に示すように、端子保持部12と、端子保持部12の正面外周縁から角筒状に延出した形態のフード部13とを備えている。
【0016】
<雌側コネクタ20>
雌側コネクタ20は、雌側ハウジング21と、複数の雌端子金具27と、一括ゴム栓28と、シールリング31と、一対のスライダ42と、レバー46と、電線カバー53と、通気部材60とを備えて構成されている。
【0017】
<雌側ハウジング21>
雌側ハウジング21は、合成樹脂製のインナハウジング22(請求項に記載の端子収容部)と、インナハウジング22の前端部に組み付けられた合成樹脂製のフロント部材32と、合成樹脂製のアウタハウジング33とを組み付けて構成されている。
【0018】
<インナハウジング22>
インナハウジング22の内部には複数のキャビティ23が形成され、各キャビティ23には、後方から雌端子金具27が挿入されている。インナハウジング22の上面及び下面の後端部には、左右方向に間隔を空けた摺動ピン25が3つずつ形成されている。インナハウジング22の後端部には、その後面を凹ませた形態の収容凹部24が形成されている。全てのキャビティ23の後端は、収容凹部24に開口している。
【0019】
ここで、雌側ハウジング21を前方又は後方(つまり、両ハウジング11,21の嵌合方向と平行に方向)から見たときの仮想投影面を想定する。仮想投影面は、図示及び符号は省略するが、
図1〜3の紙面と直交する二次元平面である。
図7に示すように、仮想投影面において、全てのキャビティ23の形成範囲を含む最小の略方形の領域を、雌側ハウジング21におけるキャビティ形成領域Haと定義する。また、仮想投影面において、雌側ハウジング21のうちキャビティ形成領域Haを包囲する枠状の領域を、雌側ハウジング21における外周側領域Hbと定義する。インナハウジング22のうち仮想投影面において外周側領域Hbと対応する位置には、収容凹部24をインナハウジング22内における封止空間Sに連通させる通気孔26が形成されている。
【0020】
<一括ゴム栓28>
収容凹部24には、一括ゴム栓28が収容されている。一括ゴム栓28の外周は収容凹部24の内周に対し気密状に密着している。一括ゴム栓28には、前後方向に貫通した形態の複数のシール孔29が、各キャビティ23と個別に対応して形成されている。各シール孔29は、雌端子金具27をキャビティ23に挿入する際の通過経路となっている。各シール孔29には、電線が気密状に挿通されている。
【0021】
仮想投影面において、一括ゴム栓28は、キャビティ形成領域Haの全体を含んでおり、全てのシール孔29はキャビティ形成領域Haの範囲内に配置されている。一括ゴム栓28の外周縁部は、キャビティ形成領域Haの範囲外(つまり、外周側領域Hbの範囲内)に位置している。
図5に示すように、一括ゴム栓28のうち外周側領域Hbと対応する位置には、前後方向に貫通した形態の取付孔30が形成されている。取付孔30の内周には、リップ部(図示省略)が形成されている。
図2に示すように、取付孔30の前端は、通気孔26の後端と連通している。
【0022】
<シールリング31>
インナハウジング22の外周には、インナハウジング22(雌側ハウジング21)の外周とフード部13の内周との間を気密状に封止するためのシールリング31が取り付けられている。シールリング31は、インナハウジング22の前方から組み付けられ、インナハウジング22の前端部に取り付けたフロント部材32により組付け状態に保持されている。
【0023】
<アウタハウジング33>
アウタハウジング33は、インナハウジング22に対し後方から組み付けられている。
図1に示すように、アウタハウジング33は、一括ゴム栓28の後面に当接する背壁部34と、背壁部34の外周縁から前方へ延出する筒状嵌合部35とを備えている。
図3に示すように、背壁部34には、前後方向に貫通する複数の挿通孔36が、夫々、複数のキャビティ23及び複数のシール孔29と個別に対応して形成されている。各挿通孔36は、雌端子金具27をキャビティ23に挿入する際の通過経路となっている。各挿通孔36には、雌端子金具27の後端部に固着された電線37が挿通されている。
【0024】
挿通孔36は、仮想投影面においてキャビティ形成領域Haの範囲内に位置する。背壁部34のうち外周側領域Hbと対応する位置には、
図2に示すように、背壁部34の後面を凹ませた形態の取付部38が形成されている。取付部38には、一括ゴム栓28の取付孔30の後端が開口している。取付部38には、後述する通気部材60の保持部63が収容されている。
【0025】
筒状嵌合部35は、インナハウジング22の外周を全周に亘って包囲した形態である。インナハウジング22の外周と筒状嵌合部35との内周との間の空間は、フード部13を収容するための嵌合空間39となっている。雄側コネクタ10(雄側ハウジング11)と雌側コネクタ20(雌側ハウジング21)を嵌合した状態では、フード部13がインナハウジング22を包囲し、筒状嵌合部35がフード部13を包囲する。仮想投影面において、嵌合空間39(フード部13)と筒状嵌合部35の全体は、外周側領域Hbの範囲内に位置している。筒状嵌合部35は上下一対のガイド壁部40を有している。
図1,3に示すように、ガイド壁部40の内面における前端縁部には、左右方向のガイド溝41が形成されている。
【0026】
<スライダ42>
一対のスライダ42は、
図5に示すように左右方向に細長い板状をなし、
図1〜3に示すように、板厚方向を上下方向に向けた状態で上下一対のガイド壁部40の内面に沿うように設けられている。スライダ42の内面には左右方向に並ぶ3つのカム溝43が形成されている。スライダ42の左右方向における一方の端部の外面には、従動孔44が形成されている。スライダ42の内面には摺動溝45が形成されている。スライダ42は、摺動溝45を摺動ピン25に嵌合させるとともに、前端縁部をガイド溝41に嵌合させることにより、筒状嵌合部35の内面とインナハウジング22の外面との間で左右方向に移動し得るようになっている。
【0027】
<レバー46>
図6に示すように、レバー46は、左右方向に長い上下一対の板状のアーム部47と、両アーム部47の基端部同士を連結する連結部48と、両アーム部47の先端部同士を連結部48する操作部49とを備えた略方形の枠状をなす。両アーム部47の内面における基端部には、一対の回動軸50が形成されている。両アーム部47の内面のうち基端部より少し先端側の位置には、一対の駆動ピン51が形成されている。レバー46は、その回動軸50をアウタハウジング33の軸受部52に係止させることにより、初期位置と嵌合位置との間で回動し得るようにアウタハウジング33に取り付けられている。
【0028】
レバー46を取り付けた状態では、駆動ピン51がスライダ42の従動孔44に嵌合される。駆動ピン51と従動孔44の嵌合により、レバー46を初期位置から嵌合位置へ回動させると、テコの原理による倍力作用により、スライダ42が初期位置から嵌合位置へスライドする。カム溝43に雄側コネクタ10のカムフォロア(図示省略)を嵌合した状態で、スライダ42が初期位置から嵌合位置へスライドすると、カム溝43とカムフォロアによる倍力作用により、雄側コネクタ10と雌側ハウジング21が嵌合するようになっている。
【0029】
<電線カバー53>
図3に示すように、電線カバー53は、雌側ハウジング21の背面21R(アウタハウジング33の背面)から導出された複数本の電線を側方へ転向させるものである。電線カバー53は、アウタハウジング33に対し、背壁部34の全領域(雌側ハウジング21における電線の導出面)を覆うように取り付けられている。電線カバー53の前面はアウタハウジング33の背面(背壁部34の後面)に当接している。
図1に示すように、電線カバー53の前面の一部は、背壁部34の後面における取付部38の開口領域の一部を塞ぐ閉塞部54として機能する。
【0030】
<通気部材60>
通気部材60は、
図4に示すように、円板状をなす通気膜61と、通気膜61を保持した状態で雌側コネクタ20に取り付けられるホルダ62とを備えている。通気膜61は、空気が通過することは許容するが、液体(水分)を通過させない材料からなる。具体例としては、多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜が用いられる。通気膜61の直径は、フード部13を構成する壁部の厚さ寸法よりも大きい。
【0031】
ホルダ62は、合成樹脂製であり、保持部63と、筒状通気部70と、蓋部72とを備えた単一部品である。保持部63は、壁厚方向を前後方向に向けた略円形の支持壁部64と、支持壁部64の外周縁から後方へ突出した円環形の環状部65とを有する。支持壁部64の後面(保持部63の内面)には、同心円状に突出する突起状支持部66が形成されている。環状部65の外周面には係止突起67が形成されている。環状部65の後端縁部には、周方向に間隔を空けた複数の切欠部68が形成されている。
【0032】
図2に示すように、通気膜61は、保持部63内に収容された状態で保持されている。通気膜61の外周縁部は、環状部65の内周に嵌合されている。通気膜61の前面は、突起状支持部66に対し気密状に当接している。保持部63の内部空間のうち、支持壁部64と突起状支持部66と通気膜61とによって囲まれた空間は、通気空間69となっている。
【0033】
筒状通気部70は、軸線を前後方向(通気膜61の膜厚方向と略平行な方向)に向けた管状をなし、支持壁部64(保持部63)の前面から前方へ片持ち状に直線状に突出した形態である。筒状通気部70の外径は通気膜61の外径よりも小さく設定されており、筒状通気部70は、支持壁部64の中心から外周側へ偏心した位置に配置されている。筒状通気部70の内部は通気路71となっている。通気路71の前端は、筒状通気部70の前端面において外部に開口し、通気路71の後端は通気空間69に連通している。
【0034】
蓋部72は円板状をなし、ヒンジ部73を介して環状部65の外周面に連なっている。ヒンジ部73は、保持部63の中心に関して係止突起67とは反対側の位置に配されている。蓋部72の外周のうち蓋部72の中心に関してヒンジ部73と反対側の位置には、前方へ突出した形態の係止爪74が形成されている。係止爪74には、係止孔75が形成されている。
【0035】
蓋部72は、ヒンジ部73を折り返すように変形させた状態で、保持部63に対し略同心状に組み付けられている。蓋部72は、係止孔75を係止突起67に係止させることで、保持部63に取り付けられた状態に保持されている。取り付けられた蓋部72は、環状部65の後端縁に当接することで、保持部63の後面の開口を塞いでいる。保持部63の開口を蓋部72で塞ぐことにより、通気膜61に対する異物(水も含む)の干渉が防止される。
【0036】
保持部63の内部空間のうち、環状部65と通気膜61と蓋部72とで囲まれた空間は、連通空間76となっている。連通空間76と通気空間69は、通気膜61によって液密状に仕切られている。また、連通空間76は、切欠部68を介すことにより、保持部63(通気部材60)の外部と連通している。
【0037】
<実施例1の作用>
通気部材60は、アウタハウジング33の後方から雌側ハウジング21と一括ゴム栓28に取り付けられている。取り付ける際には、筒状通気部70を取付部38内に進入させて一括ゴム栓28の取付孔30に嵌入するとともに、保持部63を取付部38内に収容する。取付孔30の内周と筒状通気部70の外周との隙間は、取付孔30の内周のリップ部(図示省略)により気密状にシールされている。また、筒状通気部70(通気路71)の前端は、通気孔26と連通している。
【0038】
両コネクタ10,20の嵌合によって形成される封止空間Sは、通気孔26、通気路71(筒状通気部70)及び通気空間69と連通している。封止空間S内の圧力が防水コネクタAの外部空間より高くなると、封止空間S内の空気が、通気膜61を通って連通空間76及び外部空間へ流出し、これにより、封止空間Sの圧力上昇が抑制される。封止空間S内の圧力が防水コネクタAの外部空間より低くなると、外部空間の空気が通気膜61を通って封止空間S内に流入するので、封止空間Sの圧力低下が抑制される。このような機能により、防水コネクタAの内部の圧力が一定に保たれる。
【0039】
本実施例1の防水コネクタAは、雄側ハウジング11と嵌合することで封止空間Sを構成する雌側ハウジング21を有する。雌側ハウジング21は、インナハウジング22(端子収容部)と筒状嵌合部35を備えて構成されている。インナハウジング22は、複数の雌端子金具27が挿入される複数のキャビティ23を有していて、雄側ハウジング11のフード部13の内部に嵌合される。筒状嵌合部35は、インナハウジング22を包囲するように配され、フード部13の外周に嵌合される。
【0040】
防水コネクタAは、更に、通気部材60を備えている。通気部材60は、封止空間Sと雌側ハウジング21の外部との間の通気を可能とする通気膜61を有している。通気部材60は、一括ゴム栓28を介して雌側ハウジング21に取り付けられており、両ハウジング11,21の嵌合方向と直交する仮想投影面において、通気膜61の全体が外周側領域Hb内に位置している。そして、仮想投影面において、通気膜61の一部はフード部13(嵌合空間39)と重なっている。尚、
図1では、通気膜61の上下方向における一部がフード部13と重なっているが、左右方向(
図1の紙面と直交する方向)においても、通気膜61の一部がフード部13と重なっている。
【0041】
尚、
図1では、通気部材60の一部(上端部)がキャビティ成形領域Haの範囲内に含まれるように描かれているが、
図5に図示されているように通気部材60の筒状通気部70が嵌入される取付孔30は、左右方向(
図1における紙面と直交する方向)においてシール孔29の形成範囲(つまり、キャビティ成形領域Ha)から外れた位置に配置されている。したがって、仮想投影面において、通気部材60は、その全体がキャビティ形成領域Ha内に配されている。
【0042】
この構成によれば、雌端子金具27を挿入しない空いたキャビティ23が存在していなくても、通気部材60を雌側ハウジング21に取り付けることができる。また、通気部材60は、両ハウジング11,21の嵌合方向において通気膜61の少なくとも一部とフード部13とが重なるように配されているので、両ハウジング11,21の嵌合方向と直交する仮想投影面において通気部材60の配置のみに必要な専用スペースが、小さく抑えられる。これにより、雌側ハウジング21の大型化を回避することができる。
【0043】
また、通気部材60は、保持部63と筒状通気部70とを備えている。保持部63は、通気膜61を両ハウジング11,21の嵌合方向と交差する方向に向けた状態で保持する。筒状通気部70は、保持部63から延出して封止空間Sと連通している。筒状通気部70の延出方向と交差する断面積は、通気膜61の外径よりも小さい。この構成によれば、通気膜61が封止空間Sから離れた位置に配置されていても、筒状通気部70を通すことにより、封止空間S内と雌側ハウジング21の外部との間で空気を流動させることができる。また、筒状通気部70の断面積は通気膜61より小さいので、狭い部位に筒状通気部70を配置することができる。
【0044】
また、筒状通気部70は、両ハウジング11,21の嵌合方向と略平行に延出した形態であり、通気膜61の中心から偏心した位置に配されている。この構成により、仮想投影面において、筒状通気部70をフード部13の内側に配置することができる。また、雌側ハウジング21には、封止空間Sと筒状通気部70を連通させる通気孔26が形成されているので、筒状通気部70の長さを短くして通気部材60の小型化を図ることができる。
【0045】
また、雌側ハウジング21には、複数のキャビティ23と対応する複数のシール孔29が貫通して形成された一括ゴム栓28が設けられており、筒状通気部70は、一括ゴム栓28を気密状に貫通した状態で設けられている。この構成によれば、筒状通気部70を一括ゴム栓28(取付孔30の内周のリップ部)の弾力によって取付け状態に保持することができる。
【0046】
また、通気部材60は、アウタハウジング33の背壁部34の背面に形成した取付部38内に収容されるため、雌側ハウジング21の背面21Rにおいて露出する。しかし、雌側ハウジング21には、その背面21Rを覆う電線カバー53が取り付けられているので、電線カバー53により、通気部材60に異物が干渉することを防止できる。また、電線カバー53の閉塞部54が蓋部72の外面を押さえ付けているので、取付部38に収容した通気部材60が後方へ位置ずれしたり離脱したりすることが防止されている。
【0047】
<実施例2>
次に、本発明を具体化した実施例2を
図7〜
図12を参照して説明する。尚、以下の説明において、前後の方向については、
図7〜9における右方を前方と定義する。上下の方向については、
図7〜9にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。
【0048】
本実施例2の防水コネクタBは、雄側コネクタ10と雌側コネクタ80とを備えている。雄側コネクタ10は、実施例1と同じ構造のものである。雄側ハウジング11と雌側ハウジング81を嵌合した状態では、後述するシールリング91と一括ゴム栓86と個別ゴム栓(図示省略)により、両ハウジング11,81の隙間及び雌側ハウジング81の内部に、防水コネクタBの外部から気密状に隔絶された封止空間Sが構成される。
【0049】
<雌側コネクタ80>
雌側コネクタ80は、雌側ハウジング81と、複数の第1雌端子金具84と、複数の第2端子金具(図示省略)と、一括ゴム栓86と、シールリング91と、一対のスライダ103と、電線カバー107と、レバー109と、通気モジュールMとを備えて構成されている。
【0050】
<雌側ハウジング81>
雌側ハウジング81は、合成樹脂製のインナハウジング82(請求項に記載の端子収容部)と、インナハウジング82の前端部に組み付けられた合成樹脂製のフロント部材92と、合成樹脂製のアウタハウジング93とを組み付けて構成されている。
【0051】
<インナハウジング82>
図11に示すように、インナハウジング82の内部には複数の第1キャビティ83と複数の第2キャビティ89が形成されている。各第1キャビティ83には、後方から第1雌端子金具84が挿入されている。インナハウジング82の上面及び下面の後端部には、左右方向に間隔を空けた摺動ピン85が2つずつ形成されている。インナハウジング82の後端部には、その後面のうち第1キャビティ83の形成範囲を凹ませた形態の収容凹部114が形成されている。全ての第1キャビティ83の後端は、収容凹部114に開口している。
【0052】
収容凹部114には、一括ゴム栓86が収容されている。一括ゴム栓86の外周は収容凹部114の内周に対し気密状に密着している。一括ゴム栓86には、前後方向に貫通した形態の複数のシール孔87が、各第1キャビティ83と個別に対応して形成されている。各シール孔87は、第1雌端子金具84を第1キャビティ83に挿入する際の通過経路となっている。各シール孔87には、第1雌端子金具84と第2雌端子金具の後端に圧着した電線88が気密状に挿通されている。
【0053】
複数の第2キャビティ89は、インナハウジング82のうち左右方向における一方の端部に配されている。各第2キャビティ89には、第2雌端子金具(図示省略)が挿入されている。第2キャビティ89は、収容凹部114には開口していない。第2雌端子金具の後端部には、個別ゴム栓(図示省略)が外嵌され、電線(図示省略)と一緒に固定されている。第2キャビティ89に第2雌端子金具を挿入した状態では、個別ゴム栓が第2端子金具と第2キャビティ89の内周との隙間を気密状にシールする。
【0054】
雌側ハウジング81を前方又は後方から見たときの仮想投影面(図示省略)を想定したときに、その仮想投影面において、全ての第1キャビティ83の形成範囲と全ての第2キャビティ89の形成領域とを含む最小の略方形の領域を、雌側ハウジング81におけるキャビティ形成領域Haと定義する。また、仮想投影面において、雌側ハウジング81のうちキャビティ形成領域Haを包囲する枠状の領域を、雌側ハウジング81における外周側領域Hbと定義する。インナハウジング82のうち仮想投影面において外周側領域Hbと対応し且つ後述する嵌合空間100よりも内側の位置には、後述する取付部97をインナハウジング82内における封止空間Sに連通させる通気孔90が形成されている。
【0055】
<シールリング91>
インナハウジング82の外周には、インナハウジング82(雌側ハウジング81)の外周とフード部13の内周との間を気密状に封止するためのシールリング91が取り付けられている。シールリング91は、インナハウジング82の前方から組み付けられ、インナハウジング82の前端部に取り付けたフロント部材92により組付け状態に保持されている。
【0056】
<アウタハウジング93>
アウタハウジング93は、インナハウジング82に対し後方から組み付けられている。アウタハウジング93は、一括ゴム栓86の後面に当接する背壁部94と、背壁部94の外周縁から前方へ延出する筒状嵌合部95とを備えている。背壁部94には、前後方向に貫通する複数の第1挿通孔96が、夫々、複数の第1キャビティ83及び複数のシール孔87と個別に対応して形成されている。各第1挿通孔96は、第1雌端子金具84を第1キャビティ83に挿入する際の通過経路となっている。各第1挿通孔96には、電線が挿通されている。
【0057】
同じく背壁部94には、前後方向に貫通する複数の第2挿通孔(図示省略)が、夫々、複数の第2キャビティ89と個別に対応して形成されている。各第2挿通孔は、第2雌端子金具を第2キャビティ89に挿入する際の通過経路となっている。各第2挿通孔には、電線(図示省略)が挿通されている。第1挿通孔96と第2挿通孔は、仮想投影面においてキャビティ形成領域Haの範囲内に位置する。
【0058】
雌側ハウジング81のうち外周側領域Hbと対応する位置には、インナハウジング82とアウタハウジング93の後端部の一部を凹ませた形態の取付部97が形成されている。
図8に示すように、取付部97は、背壁部94の後面(雌側ハウジング81の背面81R)に開口する円形の第1収容部98と、インナハウジング82の後面を凹ませた形態の円形断面の第2収容部99とから構成されている。第2収容部99の後端は第1収容部98の奥端面に開口している。第2収容部99の前端は通気孔90の後端と連通している。
【0059】
筒状嵌合部95は、インナハウジング82の外周を全周に亘って包囲した形態である。インナハウジング82の外周と筒状嵌合部95との内周との間の空間は、フード部13を収容するための嵌合空間100となっている。雄側コネクタ10(雄側ハウジング11)と雌側コネクタ80(雌側ハウジング81)を嵌合した状態では、フード部13がインナハウジング82を包囲し、筒状嵌合部95がフード部13を包囲する。仮想投影面において、嵌合空間100(フード部13)と筒状嵌合部95の全体は、外周側領域Hbの範囲内に位置している。筒状嵌合部95は上下一対のガイド壁部101を有している。ガイド壁部101の内面には、左右方向のガイド溝102が形成されている。
【0060】
<スライダ103>
図9,11に示すように、一対のスライダ103は、左右方向に細長い板状をなし、板厚方向を上下方向に向けた状態で上下一対のガイド壁部101の内面に沿い且つガイド溝102に嵌合した状態で設けられている。スライダ103の内面には左右方向に並ぶ2つのカム溝104が形成されている。スライダ103の左右方向における一方の端部の後端縁部には、ラック105が形成されている。スライダ103の内面には、その後端縁部に沿って摺動リブ106が形成されている。スライダ103は、ガイド溝102に嵌合され、摺動リブ106を摺動ピン85に摺接させることにより、筒状嵌合部95の内面とインナハウジング82の外面との間で左右方向に移動し得るようになっている。
【0061】
<電線カバー107>
電線カバー107は、雌側ハウジング81の背面81Rから導出された複数本の電線を側方へ転向させるものである。電線カバー107は、アウタハウジング93に対し、背壁部94の全領域(雌側ハウジング81における電線の導出面)を覆うように取り付けられている。つまり、電線カバー107は、雌側ハウジング81の後面に開口する取付部97の開口領域を覆っている。電線カバー107の上下両外面には、一対の支持軸108が形成されている。
【0062】
<レバー109>
レバー109は、左右方向に長い上下一対の板状のアーム部110と、両アーム部110の先端部同士を連結部する操作部111とを備えた形状である。両アーム部110の内面における基端部には、一対の軸受孔112が形成されているとともに、軸受孔112を同心状に包囲するように配されたピニオン113が形成されている。レバー109は、その軸受孔112を電線カバー107の支持軸108に嵌合することにより、初期位置と嵌合位置との間で回動し得るように電線カバー107に取り付けられている。
【0063】
レバー109を取り付けた状態では、レバー109のピニオン113がスライダ103のラック105に嵌合される。ピニオン113とラック105の嵌合により、レバー109を初期位置から嵌合位置へ回動させると、テコの原理による倍力作用により、スライダ103が初期位置から嵌合位置へスライドする。カム溝104に雄側コネクタ10のカムフォロア(図示省略)を嵌合した状態で、スライダ103が初期位置から嵌合位置へスライドすると、カム溝104とカムフォロアによる倍力作用により、雄側コネクタ10と雌側ハウジング81が嵌合するようになっている。
【0064】
<通気モジュールM>
通気モジュールMは、
図10に示すように、実施例1と同じ構造の通気部材60と、円筒状をなす防水栓77とを組み付けて構成されている。通気部材60については、実施例1と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0065】
防水栓77はゴム製である。通気部材60に取り付けられていない状態の防水栓77の内径は、筒状通気部70の外径よりも小さい寸法に設定されている。雌側ハウジング81に取り付けられていない状態の防水栓77の外径は、第2収容部99の内径よりも大きい寸法に設定されている。防水栓77は、筒状通気部70に外嵌するようにして通気部材60に取り付けられている。
【0066】
<実施例2の作用>
通気モジュールMは、アウタハウジング93の後方から雌側ハウジング81に取り付けられている。取り付ける際には、防水栓77と筒状通気部70を第2収容部99内に挿入するとともに、保持部63を第1収容部98内に収容する。第2収容部99の内周と筒状通気部70の外周との間は、防水栓77が弾性変形することにより気密状にシールされている。筒状通気部70(通気路71)の前端は、通気孔90と連通している。
【0067】
両コネクタ10,80の嵌合によって形成される封止空間Sは、通気孔90、通気路71(筒状通気部70)及び通気空間69と連通している。封止空間S内の圧力が防水コネクタBの外部空間より高くなると、封止空間S内の空気が、通気膜61を通って連通空間76及び外部空間へ流出し、これにより、封止空間Sの圧力上昇が抑制される。封止空間S内の圧力が防水コネクタBの外部空間より低くなると、外部空間の空気が通気膜61を通って封止空間S内に流入するので、封止空間Sの圧力低下が抑制される。
【0068】
本実施例2の防水コネクタBは、雄側ハウジング11と嵌合することで封止空間Sを構成する雌側ハウジング81を有する。雌側ハウジング81は、インナハウジング82(端子収容部)と筒状嵌合部95を備えて構成されている。インナハウジング82は、複数の第1雌端子金具84が挿入される複数の第1キャビティ83と、複数の第2雌端子金具(図示省略)が挿入される複数の第2キャビティ89とを有しており、雄側ハウジング11のフード部13の内部に嵌合される。筒状嵌合部95は、インナハウジング82を包囲するように配され、フード部13の外周に嵌合される。
【0069】
防水コネクタBは、更に、通気部材60を備えている。通気部材60は、封止空間Sと雌側ハウジング81の外部との間の通気を可能とする通気膜61を有している。通気部材60は雌側ハウジング81に取り付けられており、両ハウジング11,81の嵌合方向と直交する仮想投影面において、通気膜61の全体が外周側領域Hb内に位置している。仮想投影面において、通気膜61の一部はフード部13(嵌合空間100)と重なっている。
【0070】
この構成によれば、第1雌端子金具84や第2雌端子金具を挿入しない空きキャビティが存在していなくても、通気部材60を雌側ハウジング81に取り付けることができる。また、通気部材60は、両ハウジング11,81の嵌合方向において通気膜61の少なくとも一部とフード部13とが重なるように配されているので、両ハウジング11,81の嵌合方向と直交する仮想投影面において通気部材60の配置のみに必要な専用スペースが、小さく抑えられる。これにより、雌側ハウジング81の大型化を回避することができる。
【0071】
また、通気部材60は、保持部63と筒状通気部70とを備えている。保持部63は、通気膜61を両ハウジング11,81の嵌合方向と交差する方向に向けた状態で保持する。筒状通気部70は、保持部63から延出して封止空間Sと連通している。筒状通気部70の延出方向と交差する断面積は、通気膜61の外径よりも小さい。この構成によれば、通気膜61が封止空間Sから離れた位置に配置されていても、筒状通気部70を通すことにより、封止空間S内と雌側ハウジング81の外部との間での通気が可能となる。また、筒状通気部70の断面積は通気膜61より小さいので、狭い部位に筒状通気部70を配置することができる。
【0072】
また、筒状通気部70は、両ハウジング11,81の嵌合方向と略平行に延出した形態であり、通気膜61の中心から偏心した位置に配されている。この構成により、仮想投影面において、筒状通気部70をフード部13の内側に配置することができた。また、雌側ハウジング81には、封止空間Sと筒状通気部70を連通させる通気孔90が形成されているので、筒状通気部70の長さを短くして通気部材60の小型化を図ることができた。
【0073】
また、通気部材60は、アウタハウジング93の背壁部94の背面に開口する取付部97内に収容されるため、雌側ハウジング81の背面81Rにおいて露出している。しかし、雌側ハウジング81の背面部には、その背面81Rを覆う電線カバー107が取り付けられているので、電線カバー107により、通気部材60に異物が干渉することを電線カバー107によって防止できる。
【0074】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例1,2では、筒状通気部が通気膜の中心から偏心した位置に配置されているが、筒状通気部は通気膜の中心部に配置してもよい。
(2)上記実施例1,2では、筒状通気部が嵌合方向と略平行に延出するが、筒状通気部の延出方向は、嵌合方向と交差する方向であってもよい。
(3)上記実施例1,2では、筒状通気部の断面積が通気膜より小さいが、筒状通気部の断面積は、通気膜と同じか、それより大きくてもよい。
(4)上記実施例1,2では、通気部材は保持部から延出する筒状通気部を有しているが、通気部材は筒状通気部を有しない形態であってもよい。
(5)上記実施例1,2では、雌側ハウジングに、封止空間と筒状通気部とを連通させる通気孔を形成したが、雌側ハウジングに通気孔を形成せず、筒状通気部を、封止空間に、直接、臨ませてもよい。
(6)上記実施例1,2では、雌側ハウジングの背面を覆う電線カバーを設けたが、雌側ハウジングに電線カバーを取り付けない形態としてもよい。
(7)上記実施例1,2では、通気膜の直径がフード部の肉厚寸法より大きいために、仮想投影面上において通気膜の一部のみがフード部と重なるが、通気膜の直径がフード部の肉厚寸法と同じ寸法か、それより小さい寸法である場合は、仮想投影面上で通気膜の全体がフード部と重なっていてもよい。