(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータ基材を備え、前記無機粒子は、前記正極活物質層、前記負極活物質層、及び前記セパレータ基材の少なくともいずれかに含有されている、請求項1に記載の蓄電素子。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る蓄電素子の一実施形態について、
図1〜
図7を参照しつつ説明する。蓄電素子には、一次電池、二次電池、キャパシタ等がある。本実施形態では、蓄電素子の一例として、充放電可能な二次電池について説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0017】
本実施形態の蓄電素子1は、非水電解質二次電池である。より詳しくは、蓄電素子1は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用したリチウムイオン二次電池である。この種の蓄電素子1は、電気エネルギーを供給する。蓄電素子1は、単一又は複数で使用される。具体的に、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他の蓄電素子1と組み合わされて蓄電装置100に用いられる。前記蓄電装置100では、該蓄電装置100に用いられる蓄電素子1が電気エネルギーを供給する。
【0018】
蓄電素子1は、
図1〜
図7に示すように、正極11と負極12とセパレータ基材4とを含む電極体2と、電極体2を収容するケース3と、ケース3の外側に配置される外部端子7であって電極体2と導通する外部端子7と、を備える。また、蓄電素子1は、電極体2、ケース3、及び外部端子7の他に、電極体2と外部端子7とを導通させる集電体5等を有する。
【0019】
電極体2は、正極11と負極12とがセパレータ基材4によって互いに絶縁された状態で積層された積層体22が巻回されることによって形成される。これにより、電極体2では、正極11と、正極11と対向する負極12との間に、セパレータ基材4が配置される。
【0020】
正極11は、正極基材としての金属箔111と、金属箔111の上に形成された正極活物質層112と、を有する。金属箔111は帯状である。本実施形態の正極の金属箔111は、例えば、アルミニウム箔である。正極11は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、金属箔111が正極活物質層112で覆われず露出した露出部105(正極活物質層112が形成されていない部位)を有する。
【0021】
正極活物質層112は、正極活物質と、バインダーと、を有する。
【0022】
正極活物質は、例えば、リチウム金属酸化物である。具体的に、正極活物質は、例えば、Li
aMe
bO
c(Meは、1又は2以上の遷移金属を表す)によって表される複合酸化物(Li
aCo
yO
2、Li
aNi
xO
2、Li
aMn
zO
4、Li
aNi
xCo
yMn
zO
2等)、Li
aMe
b(XO
c)
d(Meは、1又は2以上の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、Vを表す)によって表されるポリアニオン化合物(Li
aFe
bPO
4、Li
aMn
bPO
4、Li
aMn
bSiO
4、Li
aCo
bPO
4F等)である。本実施形態の正極活物質は、LiCoO
2である。
【0023】
正極活物質層112に用いられるバインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)である。本実施形態のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0024】
正極活物質層112は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態の正極活物質層112は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。
【0025】
負極12は、負極基材としての金属箔121と、金属箔121の上に形成された負極活物質層122と、を有する。金属箔121は帯状である。本実施形態の負極の金属箔121は、例えば、銅箔である。負極12は、帯形状の短手方向である幅方向の他方(正極11の露出部105と反対側)の端縁部に、金属箔121が負極活物質層122で覆われず露出した露出部105(負極活物質層122が形成されていない部位)を有する。
【0026】
負極活物質層122は、負極活物質と、バインダーと、を有する。
【0027】
負極活物質は、例えば、グラファイト、難黒鉛化炭素、及び易黒鉛化炭素などの炭素材、又は、ケイ素(Si)及び錫(Sn)などのリチウムイオンと合金化反応を生じる材料である。本実施形態の負極活物質は、グラファイト(黒鉛)である。
【0028】
負極活物質層122に用いられるバインダーは、正極活物質層112に用いられたバインダーと同様のものである。本実施形態のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0029】
負極活物質層122は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態の負極活物質層122は、導電助剤を有していない。
【0030】
電極体2は、正極の金属箔111(正極基材)と、負極の金属箔121(負極基材)との間に、無機粒子を含む。詳しくは、電極体2は、正極の金属箔111(正極基材)と、負極の金属箔121(負極基材)との間に、無機粒子を含む無機層8を備える。
【0031】
無機粒子を含む無機層8は、セパレータ基材4の一方の面に重なるように配置される。無機層8は、セパレータ基材4と、正極活物質層112との間に配置される。無機層8の厚みは、通常、1μm以上10μm以下である。無機層8は、通常、無機粒子を80質量%以上99質量%以下含む。
【0032】
無機粒子は、金属イオンを吸着する金属イオン吸着基を表面に有する。無機粒子は、アルミナ粒子、カオリン粒子、シリカ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、酸化タングステン粒子、及び、炭素質粒子からなる群より選択された少なくとも1種の表面に金属イオン吸着基を有するものである。炭素質粒子としては、カーボンブラックやグラファイトなどの粒子が挙げられる。
【0033】
無機粒子の平均粒子径は、0.1μm以上5μm以下である。無機粒子の平均粒子径は、粒度分布測定装置を用いたレーザー回折法によって測定して求める。
【0034】
無機粒子の表面の金属イオン吸着基は、カルボキシ基、スルホン酸基、及び、ヒドロキシ基(水酸基)からなる群より選択された少なくとも1種である。金属イオン吸着基の量は、無機粒子1gあたり、通常、0.01〜1meq/gである。無機粒子は、シランカップリング剤で表面処理したのちのグラフト化やスルホン化などにより、無機化合物の粒子の表面に金属イオン吸着基を結合させることによって調製できる。
【0035】
無機層8は、結着剤、増粘剤、及び界面活性剤をさらに含む。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素含有樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR);アクリル樹脂(分子中にエステル結合を有する);ポリオレフィン樹脂;ポリビニルアルコール;ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの窒素含有樹脂;セルロースとアクリルアミドとの架橋重合体、セルロースとキトサンピロリドンカルボン酸塩との架橋重合体;及び、多糖類高分子ポリマーであるキトサン、キチン等を架橋剤で架橋したもの等が挙げられる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0036】
セパレータ基材4は、絶縁性を有する部材である。セパレータ基材4は、帯状である。セパレータ基材4は、正極11と負極12との間に配置される。これにより、電極体2(詳しくは、積層体22)において、正極11と負極12とが互いに絶縁される。また、セパレータ基材4は、ケース3内において、電解液を保持する。これにより、蓄電素子1の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータ基材4を挟んで交互に積層される正極11と負極12との間を移動する。
【0037】
セパレータ基材4は、例えば、織物、不織布、又は多孔膜によって多孔質に構成される。セパレータ基材4の透気度は、通常、50以上1000以下である。透気度は、JIS P8117「ガーレー試験機法」に従って測定される。
【0038】
セパレータ基材4の材質としては、高分子化合物、ガラス、セラミックなどが挙げられる。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン(PO)、又は、セルロースが挙げられる。本実施形態では、セパレータ基材4の材質は、高分子化合物としてのポリエチレンである。
【0039】
セパレータ基材4は、無機層8を正極11との間で挟み込むように、配置される。
【0040】
セパレータ基材4の幅(帯形状の短手方向の寸法)は、負極活物質層122の幅より僅かに大きい。セパレータ基材4は、正極活物質層112及び負極活物質層122が重なるように幅方向に位置ずれした状態で重ね合わされた正極11と負極12との間に配置される。
【0041】
本実施形態の電極体2では、以上のように構成される正極11と負極12とがセパレータ基材4によって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体2では、正極11、負極12、及びセパレータ基材4の積層体22が巻回される。
【0042】
正極11と負極12とが積層された状態で、
図1に示すように、正極11の露出部105と負極12の露出部105とは重なっていない。即ち、正極11の露出部105が、正極11と負極12との重なる領域から幅方向に突出し、且つ、負極12の露出部105が、正極11と負極12との重なる領域から幅方向(正極11の露出部105の突出方向と反対の方向)に突出する。積層された状態の正極11、負極12、及びセパレータ基材4、即ち、積層体22が巻回されることによって、電極体2が形成される。正極11の露出部105又は負極12の露出部105のみが積層された部位によって、電極体2における露出積層部26が構成される。
【0043】
露出積層部26は、電極体2における集電体5と導通される部位である。露出積層部26は、巻回された正極11、負極12、及びセパレータ基材4の巻回中心方向視において、中空部27(
図1参照)を挟んで二つの部位(二分された露出積層部)261に区分けされる。
【0044】
以上のように構成される露出積層部26は、電極体2の各極に設けられる。即ち、正極11の露出部105のみが積層された露出積層部26が電極体2における正極11の露出積層部を構成し、負極12の露出部105のみが積層された露出積層部26が電極体2における負極12の露出積層部を構成する。
【0045】
ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板32と、を有する。ケース3は、電極体2及び集電体5等と共に、電解液を内部空間に収容する。ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。ケース3は、例えば、アルミニウム、又は、アルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料によって形成される。ケース3は、ステンレス鋼及びニッケル等の金属材料、又は、アルミニウムにナイロン等の樹脂を接着した複合材料等によって形成されてもよい。
【0046】
電解液は、非水溶液系電解液である。電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO
4、LiBF
4、及びLiPF
6等である。電解液は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを、プロピレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:2:5の割合で調整した混合溶媒に、1mol/LのLiPF
6を溶解させたものである。
【0047】
ケース3は、ケース本体31の開口周縁部と、長方形状の蓋板32の周縁部とを重ね合わせた状態で接合することによって形成される。また、ケース3は、ケース本体31と蓋板32とによって画定される内部空間を有する。本実施形態では、ケース本体31の開口周縁部と蓋板32の周縁部とは、溶接によって接合される。
【0048】
以下では、
図3に示すように、蓋板32の長辺方向をX軸方向とし、蓋板32の短辺方向をY軸方向とし、蓋板32の法線方向をZ軸方向とする。
【0049】
ケース本体31は、開口方向(Z軸方向)における一方の端部が塞がれた角筒形状(即ち、有底角筒形状)を有する。
【0050】
蓋板32は、ケース本体31の開口を塞ぐ板状の部材である。具体的に、蓋板32は、ケース本体31の開口を塞ぐようにケース本体31に当接する。より具体的には、蓋板32が開口を塞ぐように、蓋板32の周縁部がケース本体31の開口周縁部に重ねられる。開口周縁部と蓋板32とが重ねられた状態で、蓋板32とケース本体31との境界部が溶接される。これにより、ケース3が構成される。
【0051】
蓋板32は、Z軸方向視において、ケース本体31の開口周縁部に対応した輪郭形状を有する。即ち、蓋板32は、Z軸方向視において、X軸方向に長い矩形状の板材である。また、蓋板32の四隅は、円弧状である。
【0052】
蓋板32は、ケース3内のガスを外部に排出可能なガス排出弁321を有する。ガス排出弁321は、ケース3の内部圧力が所定の圧力まで上昇したときに、該ケース3内から外部にガスを排出する。ガス排出弁321は、X軸方向における蓋板32の中央部に設けられる。
【0053】
ケース3には、電解液を注入するための注液孔が設けられる。注液孔は、ケース3の内部と外部とを連通する。注液孔は、蓋板32に設けられる。
【0054】
注液孔は、注液栓326によって密閉される(塞がれる)。注液栓326は、溶接によってケース3(本実施形態の例では蓋板32)に固定される。
【0055】
外部端子7は、他の蓄電素子1の外部端子7又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子7は、導電性を有する部材によって形成される。例えば、外部端子7は、アルミニウム又はアルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料、銅又は銅合金等の銅系金属材料等の溶接性の高い金属材料によって形成される。
【0056】
外部端子7は、バスバ等が溶接可能な面71を有する。面71は、平面である。外部端子7は、蓋板32に沿って拡がる板状である。詳しくは、外部端子7は、Z軸方向視において矩形状の板状である。
【0057】
集電体5は、ケース3内に配置され、電極体2と通電可能に直接又は間接に接続される。本実施形態の集電体5は、クリップ部材50を介して電極体2と通電可能に接続される。即ち、蓄電素子1は、電極体2と集電体5とを通電可能に接続するクリップ部材50を備える。
【0058】
集電体5は、導電性を有する部材によって形成される。
図5に示すように、集電体5は、ケース3の内面に沿って配置される。
【0059】
集電体5は、蓄電素子1の正極11と負極12とにそれぞれ配置される。本実施形態の蓄電素子1では、ケース3内において、電極体2の正極11の露出積層部26と、負極12の露出積層部26とにそれぞれ配置される。
【0060】
正極11の集電体5と負極12の集電体5とは、異なる材料によって形成される。具体的に、正極11の集電体5は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金によって形成され、負極12の集電体5は、例えば、銅又は銅合金によって形成される。
【0061】
本実施形態の蓄電素子1では、袋状の絶縁カバー6に収容された状態の電極体2(詳しくは、電極体2及び集電体5)がケース3内に収容される。
【0062】
上記実施形態の蓄電素子1は、以下のようにして製造できる。
【0063】
まず、セパレータ基材4、無機層8、正極11、及び負極12をそれぞれ作製する。次に、セパレータ基材4の片面に重なるように無機層8を形成する。さらに、正極11と負極12との間に無機層8及びセパレータ基材4を挟み込んだ積層体22を巻回することにより、電極体2を形成する。続いて、ケース3のケース本体31に電極体2を入れ、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐ。最後に、電解液をケース3内に注入する。
【0064】
セパレータ基材4の作製では、例えば、先端にT−ダイを装着した押出機中で、低密度ポリエチレン及び可塑剤を溶融混練し、混練物を押し出すことによって、セパレータ基材用のシートを作製する。セパレータ基材用のシートをジエチルエーテル等の溶媒に浸漬し、可塑剤を抽出除去する。さらに乾燥させて延伸前の多孔膜を得る。多孔膜を二軸方向に延伸し、その後熱処理を行うことによって、セパレータ基材を作製する。
【0065】
無機層8の形成では、まず、アルミナ粉体等の無機粉体の表面に金属イオン吸着基を結合させる。具体的には、例えば、不飽和炭化水素基を有するシランカップリング剤を含む水溶液中で無機粉体を撹拌した後に乾燥させる。その後、アクリル酸グラフト重合をおこなって、無機紛体の表面にアクリル酸の官能基を付与することによって、金属イオン吸着基を結合させる。次に、表面に金属イオン吸着基を有する無機粒子、結着剤、及び、CMC等の増粘剤をイオン交換水等の溶剤と混合し、さらに界面活性剤を混合し、無機層用のコート剤を調製する。続いて、例えばグラビア法によって、コート剤をセパレータ基材4の片面の上に塗布し、乾燥する。
【0066】
正極11の作製では、正極用の金属箔111の両方の面に、活物質とバインダーと溶媒とを含む合剤をそれぞれ塗布することによって活物質層を形成する。活物質層を形成するための塗布方法としては、一般的な方法が採用される。負極12も同様にして作製する。
【0067】
電極体2の形成では、正極活物質層112と負極活物質層122とがセパレータ基材4及び無機層8を介して互いに向き合うように、正極11と無機層8とセパレータ基材4と負極12とを重ね合わせ、積層体22を作る。次に、積層体22を巻回して、電極体2を形成する。
【0068】
ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐときには、ケース本体31の内部に電極体2を入れ、正極11と一方の外部端子7とを導通させ、且つ、負極12と他方の外部端子7とを導通させた状態で、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐ。電解液をケース3内へ注入するときには、ケース3の蓋板32の注入孔から電解液をケース3内に注入する。
【0069】
上記のように構成された本実施形態の蓄電素子1では、正極活物質層112に含まれる活物質の成分である金属が、充放電反応が繰り返されることによって、活物質から溶出する。或いは、正極の金属箔111に含まれる金属成分が、充放電の繰り返しや高温・高電圧下での放置により溶出する。溶出した金属は、負極12において析出し得る。金属が負極12で析出すると、蓄電素子1の高温耐久性が不十分になり得る。しかしながら、上記の蓄電素子1では、溶出した金属イオンが無機粒子の表面の金属イオン吸着基に吸着される。従って、負極12にて金属イオンが析出することを抑制でき、蓄電素子1の高温耐久性を十分なものとすることができる。
【0070】
上記の蓄電素子1は、無機粒子を含む無機層8と、正極11及び負極12の間に配置されたセパレータ基材4とを備え、無機層8は、正極11と、セパレータ基材4との間に配置される。斯かる構成により、正極及び負極間の充放電反応を十分に確保させつつ、高温耐久性を十分なものとすることができる。また、正極の近傍で金属成分を金属イオン吸着基に吸着させて除去できるため、金属イオンによってセパレータ基材4(樹脂製の多孔膜など)に目詰まりが生じることを防ぐことができる。
【0071】
上記の蓄電素子1では、無機粒子の平均粒子径は、0.1μm以上5μm以下であってもよい。斯かる構成により、無機粒子の十分な吸着(捕捉)能力と、電極の良好な生産性とを両立させることができる。また、無機粒子が比較的小さくなり無機粒子の表面積が比較的大きくなることから、無機粒子の表面で金属成分を効果的に吸着させることができる。
【0072】
上記の蓄電素子1では、金属イオン吸着基は、カルボキシ基、スルホン酸基、及び、ヒドロキシ基(水酸基)からなる群より選択された少なくとも1種であってもよい。斯かる構成により、金属イオン吸着基に金属イオンをより確実に吸着させることができる。
【0073】
上記の蓄電素子1では、無機粒子は、アルミナ粒子、カオリン粒子、シリカ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、酸化タングステン粒子、及び、炭素質粒子からなる群より選択された少なくとも1種の表面に金属イオン吸着基を有してもよい。これにより、無機粒子は、高温であってもより劣化しにくく、高温下における安定性の点で良好である。
【0074】
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0075】
上記の実施形態では、セパレータ基材4上に無機層8が形成され、セパレータ基材4上の無機層8が正極11と対向するように配置された蓄電素子1について詳しく説明したが、本発明では、
図8に示すように、無機層8は、正極活物質層112上に形成され、セパレータ基材4と正極活物質層112との間に配置されてもよい。
【0076】
上記の実施形態では、セパレータ基材4上の無機層8が正極11と対向するように配置された蓄電素子1について詳しく説明したが、本発明では、
図9に示すように、セパレータ基材4上に形成された無機層8は、負極12と対向してもよい。また、
図10に示すように、無機層8は、負極活物質層122上に形成され、セパレータ基材4と負極活物質層122との間に配置されてもよい。なお、無機層8は、セパレータ基材4の両面上にそれぞれ形成されてもよい。
【0077】
上記の実施形態では、無機粒子を含む無機層8を備えた蓄電素子1について詳しく説明したが、本発明では、
図11に示すように電極体2が無機層を含まず、正極活物質層112、負極活物質層122、及びセパレータ基材4の少なくともいずれかが無機粒子を含有してもよい。例えば、無機粒子は、セパレータ基材4上ではなくセパレータ基材4の内部に存在してもよい。例えば、無機粒子は、電極の活物質層に練り込まれて存在してもよい。斯かる構成により、蓄電素子の構造を簡素化でき、蓄電素子の生産性や信頼性の向上をはかることができる。本発明では、正極基材111と負極基材121との間に無機粒子が存在すればよい。
【0078】
また、上記実施形態では、活物質層が各電極の金属箔の両面側にそれぞれ配置された電極について説明したが、本発明の蓄電素子では、正極11又は負極12は、活物質層を金属箔の片面側にのみ備えてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、積層体22が巻回されてなる電極体2を備えた蓄電素子1について詳しく説明したが、本発明の蓄電素子は、巻回されない積層体22を備えていてもよい。詳しくは、それぞれ矩形状に形成された正極、セパレータ、負極、及びセパレータが、この順序で複数回積み重ねられてなる電極体を蓄電素子が備えてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、蓄電素子1が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子1の種類や大きさ(容量)は任意である。また、上記実施形態では、蓄電素子1の一例として、リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、種々の二次電池、その他、一次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタの蓄電素子にも適用可能である。
【0081】
蓄電素子1(例えば電池)は、
図12に示すような蓄電装置100(蓄電素子が電池の場合は電池モジュール)に用いられてもよい。蓄電装置100は、少なくとも二つの蓄電素子1と、二つの(異なる)蓄電素子1同士を電気的に接続するバスバ部材91と、を有する。この場合、本発明の技術が少なくとも一つの蓄電素子に適用されていればよい。
【実施例】
【0082】
以下に示すようにして、非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)を製造した。
【0083】
(実施例1)
(1)正極の作製
溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と、4.5重量%となるように導電助剤(アセチレンブラック)と、4.5重量%となるようにバインダー(PVdF)と、91重量%となるように正極活物質(LiCoO
2)とを、混合、混練することで、正極用の合剤を調製した。調製した正極用の合剤を、厚み15μmのアルミ箔の両方の面上に、乾燥後に25mg/cm
2の量となるようにそれぞれ塗布した。乾燥後、正極活物質層中の活物質充填密度が2.5g/mLになるようにロールプレスを行った。ロールプレスの条件は、プレス線圧50kgf/mm、プレス温度150 ℃とした。その後、真空乾燥して、水分を除去した。
【0084】
(2)負極の作製
負極活物質としては、平均粒径D50が3.3μmのグラファイトを用いた。また、バインダーとしては、PVdFを用いた。負極用の合剤は、溶剤としてNMPと、7重量%となるようにバインダーと、93重量%となるように負極活物質とを混合、混練することで作製した。また、作製した負極用の合剤を、乾燥後に12mg/cm
2の量となるように厚み15μmの銅箔上に塗布した。乾燥後、負極合剤中の活物質充填密度が1.4g/mLになるようにロールプレスを行い、真空乾燥して、水分を除去した。
【0085】
(3)セパレータ基材
セパレータ基材として幅9.35cm、厚み21μmのポリエチレン製微多孔膜を準備した。
【0086】
(4)無機層
無機粒子(アルミナ粒子)、結着剤(PVdF)、界面活性剤、及び、有機溶媒(NMP)を混合し、スラリー状の無機層用のコート剤を調製した。無機層用のコート剤中のアルミナ粒子及び結着剤の質量比率は、アルミナ粒子:結着剤=97:3とした。無機粒子の表面には、シランカップリング剤で表面処理したのちのグラフト化によって予め金属イオン吸着基が化学的に結合されている。無機粒子における金属イオン吸着基の量(イオン交換容量)は、0.01 meq/gであった。さらに、無機層用のコート剤を上記のセパレータ上(片面側のみ)にグラビア法によって塗工し、塗工後、乾燥を実施した。このようにして、厚み5μmの無機層を作製した。
【0087】
(5)電解液の調製
電解液としては、以下の方法で調製したものを用いた。即ち、非水溶媒として、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、それぞれ30体積%、40体積%、30体積%となるように混合した溶媒を用い、この非水溶媒に、塩濃度が1.2mol/LとなるようにLiPF
6を溶解させ、電解液を調製した。
【0088】
(6)ケース内への電極体の配置
上記の正極、上記の負極、上記の電解液、セパレータ、及びケースを用いて、一般的な方法によって電池を製造した。
即ち、まず、セパレータが上記の正極および負極の間に配されて積層されてなるシート状物を巻回した。尚、無機層が正極と対向するように、無機層をセパレータ基材と正極との間に配置した。その後、巻回されてなる電極体を、ケースとしてのアルミニウム製の角形電槽缶のケース本体内に配置した。さらに、正極及び負極を2つの外部端子それぞれに電気的に接続させた。続いて、ケース本体に蓋板を取り付けた。そして、上記の電解液を、ケースの蓋板に形成された注液口からケース内に注入した。
最後に、ケースの注液口を封止することにより、ケースを密閉した。
【0089】
(実施例2〜4)
上記のグラフト化における紫外線の照射時間を変えることにより、イオン交換容量がそれぞれ0.1meq/g、0.5meq/g、1.0meq/gとなるように作製した無機粒子を用いた点以外は、実施例1と同様である。
【0090】
(比較例1)
金属イオン吸着基を表面に有さない無機紛体を用いた点以外は、実施例1と同様である。
【0091】
<評価方法>
無機粒子のイオン交換容量の違いによる効果を確認すべく、各電池に対して高温(45℃)にて繰り返し充放電を行った。充放電サイクル数に対する電池の容量保持率により電池性能評価を行った。横軸に充放電サイクル数、縦軸に容量保持率をプロットしたグラフを
図13に示す。グラフの右上に示す数値は、金属イオン吸着基の量(イオン交換容量)を表す。
図13から、イオン交換容量の増加で容量保持率が向上していることがわかる。