(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579440
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】サージ防護素子
(51)【国際特許分類】
H01T 2/02 20060101AFI20190912BHJP
H01T 4/12 20060101ALI20190912BHJP
H01T 1/20 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
H01T2/02 F
H01T4/12 G
H01T1/20 F
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-239109(P2015-239109)
(22)【出願日】2015年12月8日
(65)【公開番号】特開2017-107680(P2017-107680A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】黛 良享
(72)【発明者】
【氏名】酒井 信智
(72)【発明者】
【氏名】杉本 良市
【審査官】
内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−029667(JP,A)
【文献】
特開2006−024422(JP,A)
【文献】
特開平03−257779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 1/00 〜 4/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性管と、
前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、
前記絶縁性管の内周面に炭素材で形成された放電補助部とを備え、
一対の前記封止電極が、内方に突出し互いに対向した一対の突出電極部を有し、
前記絶縁性管の内周面に、炭素に比べて酸素と結合し易い元素を含有するCO生成阻害部が形成され、
前記CO生成阻害部が、酸素と結合し易い前記元素で構成された核部と、絶縁性材料で形成され前記核部を被覆する被覆膜とで構成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記CO生成阻害部が、前記放電補助部の近傍に形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記CO生成阻害部が、前記絶縁性管の内周面の全周にわたって延在する環状に形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージ防護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線との接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT、液晶テレビおよびプラズマテレビ等の画像表示駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子が接続されている。
【0003】
従来、例えば特許文献1に示すように、一対の封止電極から対向状態に突出した一対の突出電極部を備え、絶縁性管の内面に放電補助部が形成されたアレスタ型のサージ防護素子が記載されている。通常、このようなサージ防護素子では、炭素材で形成された放電補助部が、一対の突出電極部の間にある中間領域に対向する絶縁性管の内面に形成されている。このような放電補助部は、一般的にはグラファイト等の導電性のイオン源材料で形成され、初期放電を助長するためのイオン源となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3151069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
従来の構造では、放電補助部が、一対の突出電極部間で生じるアーク放電時の熱及び膨張エネルギーにより損傷、昇華消失してしまい、繰り返し放電時の放電電圧が不安定(放電電圧が上昇する)になるという問題があった。さらに、放電補助部から昇華消失した炭素(C)は絶縁性管から溶融昇華したシリカ等の中の酸素(O)と結合し、CO及びCO
2ガスを発生させ、これらが放電開始電圧を大幅に上昇させる原因となる。
特に、大電流の放電では、放電補助部の昇華消失が顕著になる傾向がある。また、放電電流が保証範囲を大幅に超えてしまうと、電極の設計を変更することが要求されると共に、安定した動作のために、サイズを大型化する、又は並列に接続するなどの対応が必要になる不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、放電によるCO及びCO
2ガスの発生を抑制し、動作の不安定化を抑制することが可能なサージ防護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るサージ防護素子は、絶縁性管と、前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、前記絶縁性管の内周面に炭素材で形成された放電補助部とを備え、一対の前記封止電極が、内方に突出し互いに対向した一対の突出電極部を有し、前記絶縁性管の内周面に、炭素に比べて酸素と結合し易い元素を含有するCO生成阻害部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のサージ防護素子では、絶縁性管の内周面に、炭素に比べて酸素と結合し易い元素を含有するCO生成阻害部が形成されているので、CO生成阻害部に含まれる前記元素が絶縁性管から昇華した酸素(O)と結合して酸素を吸収し、CO及びCO
2ガスの発生を抑制することができる。
【0009】
第2の発明に係るサージ防護素子は、第1の発明において、前記CO生成阻害部が、前記放電補助部の近傍に形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、CO生成阻害部が、放電補助部の近傍に形成されているので、CO生成阻害部が放電補助部の近くで絶縁性管から昇華した酸素(O)を吸収して、CO及びCO
2ガスの発生をさらに抑制することができる。
【0010】
第3の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記CO生成阻害部が、前記絶縁性管の内周面の全周にわたって延在する環状に形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、CO生成阻害部が、絶縁性管の内周面の全周にわたって延在する環状に形成されているので、絶縁性管の内周面の全周にわたって酸素を吸収することができる。
【0011】
第4の発明に係るサージ防護素子は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記CO生成阻害部が、酸素と結合し易い前記元素で構成された核部と、絶縁性材料で形成され前記核部を被覆する被覆膜とで構成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、CO生成阻害部が、酸素と結合し易い前記元素で構成された核部と、絶縁性材料で形成され核部を被覆する被覆膜とで構成されているので、被覆膜によって核部が保護されていることで、放電による核部の昇華消失を抑制することができ、CO生成阻害機構を維持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子によれば、絶縁性管の内周面に、炭素に比べて酸素と結合し易い元素を含有するCO生成阻害部が形成されているので、CO生成阻害部に含まれる前記元素が放電補助部から昇華した炭素(C)と結合して炭素を吸収し、CO及びCO
2ガスの発生を抑制することができる。これにより繰り返し放電時の放電開始電圧の大幅な上昇を防ぐことができる。
したがって、サージ電流や放電回数が増えてもサージ防護素子性能を良好に維持することが可能になる。特に、本発明に係るサージ防護素子は、大電流サージ耐性が要求されるインフラ用(鉄道関連、再生エネルギー関連(太陽電池、風力発電等))の電源及び通信設備に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態を示す軸方向の断面図である。
【
図3】本発明に係るサージ防護素子の第2実施形態を示す要部の断面図である。
【
図5】本発明に係るサージ防護素子の第3実施形態を示す要部の断面図である。
【
図6】本発明に係るサージ防護素子の第4実施形態を示す要部の断面図である。
【
図7】第2実施形態の他の例を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0015】
本実施形態のサージ防護素子1は、
図1及び
図2に示すように、絶縁性管2と、絶縁性管2の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、絶縁性管2の内周面に炭素材で形成された放電補助部4とを備えている。
一対の封止電極3は、内方に突出し互いに対向した一対の突出電極部5を有している。
また、絶縁性管2の内周面には、炭素(C)に比べて酸素(O)と結合し易い元素を含有するCO生成阻害部6A,6Bが形成されている。
【0016】
上記CO生成阻害部6Aは、放電補助部4の近傍に形成されている。
すなわち、放電補助部4は、一対の突出電極部5の軸線Cに沿って直線状に形成されており、CO生成阻害部6Aは、この放電補助部4の近傍であって放電補助部4に沿って直線状に形成されている。
また、CO生成阻害部6Bは、球状、多角形状等に形成されており、絶縁性管2の内周面に分散して付着されている。
【0017】
CO生成阻害部6A,6Bに含有される元素は、温度と標準生成ギブズエネルギーとの関係を示すエリンガム図に基づいて、2C+O
2=2COの生成より安定な元素が選択される。炭素に比べて最も酸素と結合し易く安定な酸化物となる元素は、Caである。他にMg,Li,Al,Ti,Si,V,Mn,Cr(約1300℃以上)等の金属元素が採用可能である。これらの元素は、金属単体又は他の金属元素との混合物としてCO生成阻害部6A,6Bを構成する。
CO生成阻害部6A,6Bの形成方法としては、絶縁性管2の内周面に、例えば前記元素の金属粉末(Ti粉末等)を付着させたり、前記元素で形成された部材を嵌め込むなどすることでCO生成阻害部6A,6Bとしても良い。
【0018】
上記放電補助部4は、導電性材料であって、例えば炭素材で形成されている。
上記絶縁性管2は、例えばアルミナなどの結晶性セラミックス材で形成された円筒状部材である。なお、絶縁性管2は、鉛ガラス等のガラス管を採用しても構わない。
【0019】
上記封止電極3は、例えば42アロイ(Fe:58wt%、Ni:42wt%)やCu等で構成されている。
封止電極3は、絶縁性管2の両端開口部に導電性融着材(図示略)により加熱処理によって密着状態に固定されている円板状のフランジ部7を有している。このフランジ部7の内側に、内方に突出していると共に絶縁性管2の内径よりも外径の小さな円柱状の突出電極部5が一体に設けられている。
【0020】
上記導電性融着材は、例えばAgを含むろう材としてAg−Cuろう材で形成されている。
上記絶縁性管2内に封入される放電制御ガスは、不活性ガス等であって、例えばHe,Ar,Ne,Xe,Kr,SF
6,CO
2,C
3F
8,C
2F
6,CF
4,H
2,大気等及び これらの混合ガスが採用される。
【0021】
このサージ防護素子1では、過電圧又は過電流が侵入すると、まず放電補助部4と突出電極部5との間で初期放電が行われ、この初期放電をきっかけに、さらに放電が進展して一対のフランジ部7間又は突出電極部5間で放電が行われる。
【0022】
このように本実施形態のサージ防護素子1では、絶縁性管2の内周面に、炭素に比べて酸素と結合し易い元素を含有するCO生成阻害部6A,6Bが形成されているので、CO生成阻害部6A,6Bに含まれる前記元素が絶縁性管2から昇華した酸素(O)と結合して酸素を吸収し、CO及びCO
2ガスの発生を抑制することができる。
また、CO生成阻害部6A,6Bが、放電補助部4の近傍に形成されているので、CO生成阻害部6A,6Bが放電補助部4の近くで絶縁性管2から昇華した酸素(O)を吸収して、CO及びCO
2ガスの発生をさらに抑制することができる。
【0023】
次に、本発明に係るサージ防護素子の第2から第5実施形態について、
図2から
図6を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0024】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、CO生成阻害部6A,6Bが直線状、球状又は多角形状に形成されているのに対し、第2実施形態のサージ防護素子21では、
図3及び
図4に示すように、CO生成阻害部26が、絶縁性管2の内周面の全周にわたって延在する環状に形成されている点である。
なお、このCO生成阻害部26の軸線(中心線)は、絶縁性管2の軸線Cと同じである。
【0025】
CO生成阻害部26は、一対の突出電極部5の外周面に対向する一対の電極対向領域A1の両方に形成され、絶縁性管2の内面のうち一対の電極対向領域A2の間にある領域A2が、CO生成阻害部26が存在しない領域とされている。この領域A2にCO生成阻害部26を形成しないことにより、CO生成阻害部26がアーク放電の影響を直接受けて昇華消失することを抑制可能である。
【0026】
このように第2実施形態のサージ防護素子21では、CO生成阻害部26が、絶縁性管2の内周面の全周にわたって延在する環状に形成されているので、絶縁性管2の内周面の全周にわたって酸素を吸収することができる。
【0027】
次に、第3実施形態と第2実施形態との異なる点は、第2実施形態では、1つの電極対向領域A1内にCO生成阻害部26が1つ形成されているのに対し、第3実施形態のサージ防護素子31では、
図5に示すように、1つの電極対向領域A1内にCO生成阻害部36が3つ互いに軸方向に沿った方向に間隔を空けて形成されている点である。
したがって、第3実施形態のサージ防護素子31では、CO生成阻害部36が、絶縁性管2の軸方向に沿った方向に複数形成されているので、絶縁性管2の軸方向に沿った方向において1つのCO生成阻害部36が損傷しても、他のCO生成阻害部36がCO生成阻害機能を良好に維持しており、繰り返し放電時でも安定した動作を得ることができる。
【0028】
次に、第4実施形態と第1実施形態との異なる点は、CO生成阻害部6Bが、炭素に比べて酸素と結合し易い元素だけで形成されているのに対し、第4実施形態のサージ防護素子41では、
図6に示すように、CO生成阻害部46が、酸素と結合し易い前記元素で構成された核部46aと、絶縁性材料で形成され核部46aを被覆する被覆膜46bとで構成されている点である。
【0029】
すなわち、第4実施形態のCO生成阻害部46は、Ca,Mg,Li,Al,Ti,Si,V,Mn,Cr等の金属元素で形成された球状又は多角形状等の核部46aと、核部46aを被覆するセラミックス等の絶縁性材料で形成された被覆膜46bとで形成された複合体となっている。例えば、TiO
2,SiO
2,Al
2O
3等の被覆膜46bでTi等の核部46aが被覆されている。
なお、CO生成阻害部として、上記複合体に、被覆膜46bで覆われていない核部46aを混合したものを採用しても構わない。
【0030】
したがって、第4実施形態のサージ防護素子41では、CO生成阻害部46が、酸素と結合し易い前記元素で構成された核部46aと、絶縁性材料で形成され核部46aを被覆する被覆膜46bとで構成されているので、被覆膜46bによって核部46aが保護されていることで、放電による核部46aの昇華消失を抑制することができ、CO生成阻害機構を維持することができる。なお、アーク放電によって被覆膜46bの少なくとも一部が消失することで、核部46aが露出し、酸素を吸収することができる。
【0031】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0032】
例えば、第2実施形態のように、一対の電極対向領域A1内にそれぞれCO生成阻害部26を形成することが好ましいが、他の例として、
図7に示すように、一対の電極対向領域A1のうち一方のみにCO生成阻害部26を形成したサージ防護素子51としても構わない。
【符号の説明】
【0033】
1,21,31,41,51…サージ防護素子、2…絶縁性管、3…封止電極、4…放電補助部、5…突出電極部、6A,6B,26,36,46…CO生成阻害部、46a…核部、46b…被覆膜