特許第6579443号(P6579443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579443
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】サージ防護素子
(51)【国際特許分類】
   H01T 4/12 20060101AFI20190912BHJP
   H01T 1/20 20060101ALI20190912BHJP
   H01T 2/02 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   H01T4/12 F
   H01T4/12 G
   H01T1/20 F
   H01T2/02 F
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-52331(P2016-52331)
(22)【出願日】2016年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-168293(P2017-168293A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】尾木 剛
【審査官】 内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−256394(JP,A)
【文献】 特開昭63−013290(JP,A)
【文献】 特開2015−088295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 1/00 〜 4/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性管と、
前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極とを備え、
一対の前記封止電極が、前記絶縁性管の両端開口部に密着状態に固定されている一対のフランジ部と、
一対の前記フランジ部から内方に突出し互いに対向した一対の突出電極部とを有し、
一対の前記突出電極部の対向面が、互いに平行かつ前記絶縁性管の軸線に対して同じ方向に傾斜した平面であることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記突出電極部の先端部が面取りされていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
一対の前記突出電極部の対向面に、前記封止電極の材料よりも電子放出特性の高い材料で一対の放電活性層が形成されており、
一対の前記放電活性層が、一対の前記対向面の垂直方向で視た際に互いに重なる位置に同形状で形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のサージ防護素子において、
前記絶縁性管の内周面にイオン源材料で形成された放電補助部を備え、
前記放電補助部が、一対の前記突出電極部の先端部に対向し近接した領域以外に形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージ防護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線と接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT、液晶テレビおよびプラズマテレビ等の画像表示駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子が接続されている。
【0003】
従来、例えば特許文献1,2に示すように、一対の封止電極から対向状態に突出した一対の突出電極部を備え、絶縁性管の内周面に放電補助部が形成されたアレスタ型のサージ防護素子が記載されている。
これらのサージ防護素子では、一対の突出電極部の対向面が互いに平行かつ絶縁性管の軸線に対して直交するように配されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−354244号公報
【特許文献2】特開2001−102148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
通常、突出電極部の突出量は、精度内での寸法の変動(誤差)が存在する。そのため、一対の突出電極部の対向面が互いに平行かつ絶縁性管の軸線に対して直交するように配されている従来の構造では、上記突出量が変動すると、変動量がそのまま反映されて一対の突出電極部間のギャップ幅が変動し、放電開始電圧Vsのセンター値が変動してしまう問題があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、突出電極部の寸法が変動しても放電開始電圧Vsの変動を従来よりも抑制することができるサージ防護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るサージ防護素子は、絶縁性管と、前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極とを備え、一対の前記封止電極が、前記絶縁性管の両端開口部に密着状態に固定されている一対のフランジ部と、一対の前記フランジ部から内方に突出し互いに対向した一対の突出電極部とを有し、一対の前記突出電極部の対向面が、互いに平行かつ前記絶縁性管の軸線に対して傾斜していることを特徴とする。
【0008】
本発明のサージ防護素子では、一対の突出電極部の対向面が、互いに平行かつ絶縁性管の軸線に対して傾斜しているので、軸線と対向面との角度をθとすると、軸線方向の寸法の変位(誤差)がcosθ倍の変位に縮小されることで、放電開始電圧Vsの変位を従来よりも小さくすることができる。
【0009】
第2の発明に係るサージ防護素子は、第1の発明において、前記突出電極部の先端部が面取りされていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、突出電極部の先端部が面取りされているので、先端部の角部に電界が集中することを抑制可能である。
【0010】
第3の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第の発明において、一対の前記突出電極部の対向面に、前記封止電極の材料よりも電子放出特性の高い材料で一対の放電活性層が形成されており、一対の前記放電活性層が、一対の前記対向面の垂直方向で視た際に互いに重なる位置に同形状で形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、一対の放電活性層が、一対の対向面の垂直方向で視た際に互いに重なる位置に同形状で形成されているので、一対の放電活性層から対向方向に向けて互いに同様に電子放出を行うことが可能になる。
【0011】
第4の発明に係るサージ防護素子は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記絶縁性管の内周面にイオン源材料で形成された放電補助部を備え、前記放電補助部が、一対の前記突出電極部の先端部に対向し近接した領域以外に形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、放電補助部が、一対の突出電極部の先端部に対向し近接した領域以外に形成されているので、絶縁性管の内周面において、突出電極部の先端部で発生した放電の影響を最も受けやすい先端部に対向した領域を避けて放電補助部が配されることで、放電補助部の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子によれば、一対の突出電極部の対向面が、互いに平行かつ絶縁性管の軸線に対して傾斜しているので、突出電極部の突出量の変動による放電開始電圧Vsの変位を従来よりも小さくすることができる。
したがって、本発明に係るサージ防護素子では、突出電極の寸法精度(誤差)により一対の突出電極部間のギャップ幅が変動しても、放電開始電圧Vsのセンター値の変動が抑制されて精度の高い放電特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態を示す軸方向の断面図である。
図2図1のA−A線矢視断面図である。
図3】第1実施形態において、対向面に垂直な方向における対向面間の距離と、軸方向における対向面間の距離との関係を示す説明図である。
図4】本発明に係るサージ防護素子の第2実施形態を示す軸方向の断面図である。
図5図4のB−B線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0015】
本実施形態のサージ防護素子1は、図1及び図2に示すように、絶縁性管2と、絶縁性管2の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3とを備えている。
一対の封止電極3は、絶縁性管2の両端開口部に密着状態に固定されている一対のフランジ部4と、一対のフランジ部4から内方に突出し互いに対向した一対の突出電極部5とを有している。
また、一対の突出電極部5の対向面5aは、互いに平行かつ絶縁性管2の軸線Cに対して傾斜している。
【0016】
上記突出電極部5の先端部5bは、面取りされ、先端形状が丸められている。
一対の突出電極部5の対向面5aには、封止電極3の材料よりも電子放出特性の高い材料で一対の放電活性層6が形成されている。
上記一対の放電活性層6は、一対の対向面5aの垂直方向で視た際に互いに重なる位置に同形状で形成されている。
本実施形態では、円形状に放電活性層6が形成されている。
【0017】
また、本実施形態のサージ防護素子1は、絶縁性管2の内周面にイオン源材料で形成された放電補助部7を備えている。
上記放電補助部7は、一対の突出電極部5の先端部5bに対向し近接した領域以外に形成されている。すなわち、本実施形態では、図2に示すように、角筒状の絶縁性管2の4つの内面のうち、先端部5bに対向していない一対の内面にそれぞれ放電補助部7が形成されている。
【0018】
上記放電補助部7は、導電性材料であって、例えば炭素材で形成されている。
上記絶縁性管2は、例えばアルミナなどの結晶性セラミックス材で形成された角筒状部材である。なお、絶縁性管2は、鉛ガラス等の非晶質管を採用しても構わない。
【0019】
上記封止電極3は、例えば42アロイ(Fe:58wt%、Ni:42wt%)やCu等で構成されている。
封止電極3は、絶縁性管2の両端開口部に導電性融着材(図示略)により加熱処理によって密着状態に固定されている四角形板状のフランジ部4を有している。このフランジ部4と突出電極部5とは一体に形成されている。
【0020】
上記導電性融着材は、例えばAgを含むろう材としてAg−Cuろう材で形成されている。
上記絶縁性管2内に封入される放電制御ガスは、不活性ガス等であって、例えばHe,Ar,Ne,Xe,Kr,SF,CO,C,C,CF,H,大気等及びこれらの混合ガスが採用される。
【0021】
上記放電活性層6は、例えばSi,Oを主成分元素とし、Na,Cs,Cのうちの少なくとも一つを含んでいる。この放電活性層6は、例えばケイ酸ナトリウム溶液に炭酸セシウム粉末を加えて前駆体を作製し、この前駆体を封止電極3の表面に塗布した後、前駆体に対してケイ酸ナトリウムが軟化する温度以上かつ炭酸セシウムが融解及び分解する温度以上の温度で熱処理を行うことで作製される。
【0022】
本実施形態のサージ防護素子1では、図3に示すように、軸線Cと対向面5aとの角度をθとすると、対向面5aに垂直な方向における対向面間の距離L1は、軸線C方向における対向面間の距離L2のcosθ倍に短くなる。このため、軸線C方向における対向面間の距離L2が変動した場合、対向面5aに垂直な方向における対向面間の距離L1の変動もcosθ倍に縮小される。
【0023】
このサージ防護素子1では、過電圧又は過電流が侵入すると、まず放電補助部7と突出電極部5の先端部5bとの間で優先的に初期放電が行われ、この初期放電をきっかけに、さらに放電が進展して一対のフランジ部4間又は突出電極部5間で放電が行われる。
【0024】
このように本実施形態のサージ防護素子1では、一対の突出電極部5の対向面5aが、互いに平行かつ絶縁性管2の軸線Cに対して傾斜しているので、軸線Cと対向面5aとの角度をθとすると、軸線方向の寸法の変位(誤差)がcosθ倍の変位に縮小されることで、放電開始電圧Vsの変位を従来よりも小さくすることができる。
【0025】
また、突出電極部5の先端部5bが面取りされているので、先端部5bの角部に電界が集中することを抑制可能である。
また、一対の放電活性層6が、一対の対向面5aの垂直方向で視た際に互いに重なる位置に同形状で形成されているので、一対の放電活性層6から対向方向に向けて互いに同様に電子放出を行うことが可能になる。
【0026】
さらに、放電補助部7が、一対の突出電極部5の先端部5bに対向し近接した領域以外に形成されているので、絶縁性管2の内周面において、突出電極部5の先端部5bで発生した放電の影響を最も受けやすい先端部5bに対向した領域を避けて放電補助部7が配されることで、放電補助部7の劣化を抑制することができる。
【0027】
次に、本発明に係るサージ防護素子の第2実施形態について、図4及び図5を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0028】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、角筒状の絶縁性管2であるのに対し、第2実施形態のサージ防護素子21は、図4及び図5に示すように、絶縁性管22が丸筒状である点である。
すなわち、第2実施形態では、突出電極部5の軸線と絶縁性管22との軸線とが一致しており、絶縁性管22の内周面と突出電極部5の外周面との距離は周方向で一定とされている。
【0029】
第2実施形態においても、一対の突出電極部5の対向面5aは、互いに平行かつ絶縁性管2の軸線Cに対して傾斜している。
このように第2実施形態のサージ防御素子21でも、第1実施形態と同様に、一対の突出電極部5間のギャップ幅が変動しても、放電開始電圧Vsのセンター値の変動が抑制されて精度の高い放電特性を得ることができる。
【0030】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1,21…サージ防護素子、2,22…絶縁性管、3…封止電極、4…フランジ部、5…突出電極部、5a…突出電極部の対向面、5b…突出電極部の先端部、6…放電活性層、7…放電補助部、C…絶縁性管の軸線
図1
図2
図3
図4
図5